「長門!」
提督に改装が終わった事を報告し、十分も経っていなかった事に驚愕されながらも急ぎ海へ出て幾らもしない頃。新しくなった動力に物を言わせ快調に滑り出した長門の下に、水上を這い寄るように忍び寄る影があった。全体に黒く夜に溶け込んだその姿は音を頼りに振り向いても一瞬その姿を認識させず、日の落ちた現在を支配するに相応しい隠密性を具えていた。
「艤装壊れたって通信入ってたけど、何それ、改二? あ、猫いるじゃん、ちょっと貸して。あと陸の方に敵行かなかった?」
目を合わせる間にそいつは長門に複数の質問を投げかけて来た。それに答えず、長門はため息交じりの厳しい視線を向けてやる。自分の立場の不味さに多少なりとも自覚があるのか、目の前の人物は気まずそうな表情で着けていた機械的なゴーグルを外し、少し身を引き締めると長門の言葉を待つ態勢に入った。
「川内、まず状況を報告しろ。お前が一人で会敵した後、相手はどうなった」
「はーい……えーと、先ず報告した通り、砲撃を行っていたのは姫級一人、名前までは分からなかったけど、砲塔いっぱいの大きめの奴でした。で、ある程度近づけたんですが、気が付いたら目の前から消えてて見失いました」
無彩色の制服を身に着けた艦娘、川内は集合無意識の影響を受けすぎて砕けてしまった口調であまり洒落にならない事を報告した。泊地近くで姫級が自由になっているというのは大問題である。本人の談によれば報告はしようとしていたのだが、変色海域に電波が妨げられ満足な通信ができなかったらしい。
「ただ、本当に大きい……艤装が今の長門のそれよりもかなり大きくて、大砲も沢山付いてたから、まだこの辺りに居るのならかなり分かり易いと思われます」
なので陸地には向かわず本隊と合流しに戻ったのではないかと川内も考えていたらしい。潜水艦の可能性も無くはないだろうが、少なくとも見失った瞬間の海中は全く以って静かで、見た目にも潜るタイプの服装はしていないようだったという。
「消えたというのは? どの方向へ移動しようとするのかも見えなかったという事か?」
「それがさ、瞬きもしてないのに突然視界から消えたんだよ。まさかステルス能力とかいう訳じゃないと思うんだけど」
そんな奴が居たらお手上げである。奇襲も輸送もやりたい放題だろう。そんなんあったら私も欲しい、と川内は呟いた。
「なので猫吊るしを貸してください」
「一応聞くが、どうするつもりだ?」
「そりゃあ、上に投げるんだよ」
吹雪式偵察法である。この妖精さんはそういう運用をするのが正しいのだろうと川内は認識していた。おそらく既に件の深海棲艦は周辺に居ないとは思うが、念のため猫吊るしにも確認してもらおうと考えたのだ。吹雪程上手く出来るかは怪しいが、川内だって身体能力はかなり強化されている。軽い妖精さんを投げ上げればかなりの高度まで届くだろう。それで見つからなければ居ないと思って間違いない。問題はキャッチだが、今の川内の視力と反応速度であれば多少変な位置に落ちてもカバー可能だ。
「横回転を加える感じで頼む」
長門の上に乗っかった猫吊るしもサムズアップを見せ、やる気満々の様子だった。投げられる事にももう慣れきっており、任せておけと余裕の笑みを浮かべている。長門は慣れていなかったので本当にそれでいいのかとちょっと得心が行かなかった。
念には念を入れ、長門が投げて川内が落下地点に向かう態勢で偵察は執り行われた。結果的に長門の手元へとそのまま落ちて来たため杞憂だったのだが、その力加減は微妙な所だった。
猫吊るしが甲高い可愛らしい悲鳴を響かせながら高速できりもみ回転している頃、前線では既に戦いが始まっていた。敵の数は分かっているだけで28、内12体が人型をしている。夜戦である事を踏まえれば、未発見の敵性艦も多く存在していると考えられた。対する宮里艦隊は吹雪と長門を欠き、夜戦の大好きな川内も合流していない。陸に数人を残し防衛に当てているのもあり、総力戦とは言い難い状況である。
とはいえ、絶望的な状況かと言われると決してそうではなかった。何故ならば、宮里艦隊において最も強いのは、夜戦に強い駆逐艦と軽巡洋艦の二種だったからである。
本人たちは与り知らぬ事ではあるが、現状宮里艦隊の駆逐と軽巡は既にその適性値が三桁に留まる者は存在しない程に高まっていた。詰め込まれた出撃回数による戦闘経験の多さにも支えられ、特に夜戦においては比肩する部隊は存在しないと言ってよい実力を誇っている。
無論、敵も夜に襲撃を掛けるだけあってそれ用の装備をしている。姫でも鬼でもない怪物の姿をした駆逐艦を多く揃え、人の姿を真似たモノ達も雷撃を意識した装備を多く積んで来ていた。その上で数も宮里艦隊を大きく上回り、通常の戦であれば耐久力の差も相まって負ける事は無いであろう布陣を整えていたのである。
彼女達にとって不幸だったのは、前線指揮を務めていた重巡棲姫が開戦間もなく、魚雷の嵐を抜けて来た槍使いに胸を貫かれ、その背後から現れた剣士によって首を刎ねられた事だろう。近接戦も想定していなかったわけではないが、格闘戦の距離になるとは想定していなかったが故の悲劇である。これには欺瞞情報を流していたスパイもにっこり。してやったりだぜと笑ってそのまま天龍に斬り殺された。そろそろ総数三百万体を超える中の一体であるため特に問題は無い。
指揮艦が失われた事により、下位の深海棲艦達の命令が適切に更新されなくなる。勿論一時的な物であり、指揮権を継ぐ者も決まっていたのだが、そもそも轟沈したと発覚するのに多少時間を要してしまった。開幕の先制雷撃を突破され砲撃も受けずに斬撃で落とされたために失われた事に気付けなかったのである。
事態を理解した時には既に片手に余る数の駆逐艦が沈み、それ以上の数の小鬼が海の藻屑と化していた。しかしそれで大勢が決したわけではない。深海棲艦は未だ宮里艦隊の総数よりも多くが残っており、互いに空母や潜水艦の被害は無く、主力もその力を発揮し切っていない。こうしてどちらにとっても油断のできない戦いが幕を開けた。
宮里艦隊の駆逐艦の中で強者を挙げるとするなら、それは当然吹雪であり、その次に島風の名前を出す者が殆どである。明らかに突出した能力を持つ二人であり、特に吹雪などは艦娘なのかも怪しいと思われるほど能力の差は歴然としていた。
しかし三番手を決めろと言われると、途端に意見が分かれる事になる。候補者は概ね三人、増大した艤装の出力もさる事ながら本人の技量が全艦娘中でも飛び抜けて高い暁、着任当初はあまり目立たなかったが徐々に頭角を現し激励されるとやたら元気が出ると評判の文月、そして砲雷撃の威力が吹雪を除けば駆逐艦の中で最も高い秋雲である。
この海戦で、秋雲は通常通りに己の仕事を全うしていた。火力の高い彼女の役割は主に攻撃で、その一撃は下位の深海棲艦を容易に海の藻屑に変える事が可能である。戦いに先だっていつも通りに文月のらぶりーボイスで鼓舞された秋雲は士気も高く、吹雪の艤装が壊れて出れなくなったという悪い知らせも漫画のネタとして利用できると思えば苦にならなかった。会敵直後から快調に砲撃を飛ばし、敵が統制を取り戻し反撃が激しくなった頃には既に五隻に致命傷を負わせ、次の獲物にも狙いを定めているほどだった。
しかし暗く見え辛い夜中の海上では、敵の動く先を読み切り自分の弾速に合わせ予想位置に正確に砲雷撃を撃ち込むのには相応の集中を求められる。神経を研ぎ澄まし、絶好の瞬間を捉え弾を放つ。その瞬間に隙が生じてしまうのはどうしても避け難い事なのだ。
故に、秋雲の会心の一撃が放たれた直後、自身に迫る雷撃の影に気付けたのは完全に偶然だった。秋雲の装甲は並の駆逐艦程度、直撃すれば一撃で大破も有り得る。左前方より迫る魚雷は既に着弾まで一秒未満。秋雲の進行方向に完全に重なる軌道であった。
だがこの秋雲、既に基本性能が並のそれを凌駕している。他の艦娘に合わせ緩めていた速度を一瞬解放すると、魚雷の通過地点を通り抜け、それを避け切る事に成功した。妙に上がった適性値の恩恵である。
「うわあぁっ!?」
そしてその魚雷は、右斜め後方で陣形をしっかり守っていた深雪に直撃したのだった。
秋雲は衝撃で倒れ伏した深雪の下へ駆け寄ると、助け起こし声を掛けた。意識ははっきりしている様で大丈夫だと掠れた声で返って来る。海面に浮けているため間違いなく轟沈はしていないが、損傷は酷く、戦いを続けられそうにはとても見えない。大破の、それもかなり悪い状態であった。制服も端は焦げ、ブラウスは露出し、スカートなどは半ばまでスリットのように割かれてしまっている。
「ごめん深雪!」
肩を貸しながら秋雲は謝罪の言葉を掛けた。深雪の被弾は急な事とはいえ後続に警告を出さなかった、明確な秋雲のミスである。しかしそこに拘ってはいられない。魚雷が当たった事は認識されている可能性が高い、動かなければよい的になってしまう。深雪を牽引のために連結すると、秋雲はまた動き出そうとした。
「秋雲! 前!」
急に、深雪から警告が飛んだ。反射的にそちらを向いた秋雲は、艤装に上げられた動体視力により、はっきりと、まだ動き出していない自分達へと飛来する大きな砲弾を目撃した。
それは咄嗟の判断だった。適性値が高いだろうと言われていても、吹雪や島風のような瞬間移動染みた制動ができる訳ではない。跳び退こうにも深雪を半ば背負っている状態では難しく、撃ち落とすなんて離れ業が自分にできようはずもない。だから迫る凶弾を避ける事は不可能で、もし深雪の方があれを受けてしまえば間違いなく轟沈する。この状況での轟沈は、良くない。だから秋雲は、砲弾に背を向けて、深雪を自分の腕の中に抱え込んだ。
衝撃は来なかった。何かに衝突し、爆発する音が体を揺らしたが、秋雲も深雪も何の傷も負っていない。
状況を先に理解出来たのは深雪だった。庇われた側で、目が正面を向いたままだったのだ。だから彼女の優れた瞳には、その頼もしい背中がしっかりと映っていた。見慣れないシルエットをした、見慣れた背中。頑丈そうな装甲に覆われた艤装を掲げ、飛来した痛恨の一撃を完全に防ぎ切り、悠然と夜の海に佇んでいる。それは来ないはずだった、自分達の指揮官の姿だった。
「長門さん……!」
「長門さん!?」
秋雲も次いで何が起きたか把握した。自分達の知らない艤装に身を包んだ長門に庇われたのだ。何故、と少し混乱する。振り向いた長門と目が合った。その頭上には、何故か妖精さんが鎮座ましましていた。
「長門! お前来られんはずじゃ……いやその艤装、まさか改装したんか!?」
妙に高い機動力で深雪と秋雲を守りつつ、戦艦特有の大口径を深海棲艦に押し付けていた長門に向かって、慌てた様子の龍驤が走ってやって来た。ここに無いはずのその威容の正体に勘付くと、是と返してきた長門に向かい、それにしたって早すぎるだろうという疑問を今は重要でないと横へと投げ捨てながら相談に移る。
「指揮はうちが続ける。で、ええな?」
「ああ。今来た私では状況が分からないからな。その方が混乱も無いだろう」
今回、長門の不在により龍驤が前線での命令を下していた。責任を被る覚悟もあり、そこそこ判断力にも優れ、俯瞰視点で見渡せるため、実際の所長門が執るより適切な指示を行える可能性もあるが故の人選である。尤も通信が完全には機能しない以上、結局各部隊の判断に任される部分が大きく、初手突撃を敢行し成功させる連中が居たりもした訳なのだが。
「おし、深雪は退避、秋雲は隊列に戻れ。護衛は……」
自力航行も難しいであろう深雪を逃がすには誰かが付かねばならない。戦力的には大きい秋雲を抜けさせる訳には行かないため、龍驤としては他の誰かを指名したい所である。候補者は何人かいる。その中で今一番近くに居るのは誰だろうかと上空の視点から周囲に目を向けると、丁度、陣形を崩さない程度に高速で動き続けている少女がこちらの傍まで寄っているのが見つかった。
「島風ー!!」
一応通信も入れつつ、大声でその娘に向かって呼びかければ、オウッと急に呼ばれてびっくりした声を上げながら、そいつは超高速で龍驤の所まで跳んで来た。次いで三体の砲台も連れ立ってやってくる。四人とも傷の一つも無い。なんですか! ミューキューキャー! とみんなで元気に返事をした。
「島風……?」
飛来する弾の中で仲間に当たりそうな物だけを的確にバルジのようなもので逸らしつつ、不思議そうに呟いたのは長門である。島風は間違いなく強い。吹雪が異常過ぎて目立っていないだけで、採られているデータから見る攻撃性能は長門などは余裕で上回っているはずで、今外す理由が分からなかったのだ。反対意見や苦言のつもりのない、口から洩れてしまっただけの疑問である。
「あーそれがなぁ……こいつ、僚艦が僚艦なせいか変な癖が付いてるみたいでな」
上から航空機視点で俯瞰していた龍驤にはそれがよく見えた。明らかな異常、強い事は強いが、他と全く足並みの揃わないその所業が。
「島風、お前弾どれくらい残ってる?」
「砲弾六割、魚雷は今装填してるのでお終いです」
それは圧倒的な弾薬の消費速度である。航行速度も狙いを付けるのも弾速も、そして装填速度も島風はやたらと速かったのだ。命中率もそれなりに良く、DPSに換算すれば相応の超好成績を叩き出すのであろうが、消耗が島風に偏るのはあまり宜しい事だとは言えない。連装砲ちゃん達が物理的に頭を冷やしながら使う砲弾はともかく、特に島風が自身で扱う魚雷の消費は深刻だった。得意だからと多めに積んでいるというのにその状態なのである。
おそらくは基本的に第四艦隊は見敵必殺であり一度に長時間の戦闘を行わない事と、旗艦である吹雪が輸送艦で大量の弾薬を積んでいるのが原因の大本なのだろう。今まで島風には継戦を考える必要性が全く無かったのだ。瞬発火力が何より大事で、一戦終わったら吹雪に補給してもらう。その運用であれば間違いなく強い。強いのだろうが、今この場だと少し問題だった。補給のできる速吸は居るが、島風に全部を渡してしまうと他が困る。
「島風は深雪を連れて一時退避、補給して、そこから先は提督の指示を仰ぐように」
かなりの速さを誇る島風であれば、深雪を送り届けて補給を終えた後にこちらに戻って来ても、ロスは最小限に抑えられる。場合によっては泊地の警備に回してしまっても良いかもしれない。レーダーがかなり得意らしいので、意外と向いているのではないだろうか。本人の気質はともかくとして。
島風は了解と一声上げ、秋雲から深雪を引き取ると、曳航のため深雪にロープを巻きつけた。辛くない体勢になっているのを確認すると、勢い良く泊地に向かって走り出す。深雪の絶叫とも歓声ともつかない奇声が辺りに響き渡った。
何が起きてもいいように耳を澄ましつつ、近くの工作具を手に猫吊るしの動作を反芻していたら、外から騒がしい声が聞こえてきた。
声からしてどうも島風と深雪のようで、退避ついでに補給に戻って来たらしかった。なんか早くね? って思いつつ引き篭もってた部屋から隣を覗いてみると、深雪が外した艤装を明石さん達が検分して、秋津洲さんが島風に補給をしようとしている所だった。その秋津洲さんを艤装が無くて外での作業が行えない白雪さんが手伝っている。深雪の艤装は轟沈判定……なんでも引き返す道中で継続ダメージに止めを刺されたらしい。珍しい。
島風に引っ張られて帰って来たらしい深雪は全身ぼろぼろで、下着や素肌が見えてしまっていた。あの格好はあんまりだろうと思い辺りを見回せば、長門さんの制服の生地の余りが残っている。余り物なのでさほど大きくはないのだが、肩か腰かどっちか覆うくらいは行けるだろう。寝床なら肌掛けとかあったんだけど、今戻るのはちょっと危ないから仕方ない。布を手に持ち入って行けば、気付いた深雪がこちらに向かってふらふら~と寄って来た。
「やった?」
「やった~……」
消沈した消え入りそうな声で、深雪はこちらに寄り掛かって来る。顔色は若干悪く、かなり揺らされたであろう事は想像に難くなかった。島風が遠慮してゆっくり航行したとか無いだろうし。
とりあえず上の方が損傷が酷そうだったので、掛けてやろうと布を持った手を肩まで持ち上げると、その手をばっと掴まれて、跳び付いた深雪に私は床へと引き摺り倒された。深雪は私の腕を掴んだまま足でも挟みこみ、さらに私の体に引っかけると、私の肘を逆方向へと極めに掛かる。成程、どうやらこれは腕十字固め。何をする気かと思ったら関節技掛けに来やがった。
「お前~、艤装無しで出ようとしてたの聞こえてたからなー」
あの一連のやり取りはやっぱり聞こえていたらしい。出たばっかりか出る直前くらいだったのだろう、長門さんの通信機が高性能だったおかげでしっかり音を拾われて、きっちり耳にお届けされていたようだ。深雪に聞こえてたって事は他の皆にもバッチリ聞こえてたって事な訳で。やだもー恥ずかしいったりゃありゃしない。
深雪は私の腕を割と本気で締めに来る。だが甘い。私の無駄に高い筋力は素人の関節技など力任せで防いでしまえるのだ。深雪は全く動かない私の関節をどうにか極めようともがくが、残念ながら技量も筋力も足りていない。
「もうちょっと、あたしらを、信用、しろって、お、ま、え、の、腕どーなってんだ、これぇ……」
息を荒くしながら奮闘していたが、やがて力を使い果たしたのか、深雪は脱力して床に転がった。勝った。
「長門さんにも同じ事言われたわ」
「だろー?」
はぁーと長いため息を吐くと、体を起こし胡坐をかく。私も同じ体勢になると、持ち続けていた布を今度こそ深雪に掛けてやる。サンキュと複雑そうな顔でお礼を言われた。
「みんな強いからさ、別に吹雪が一日くらいサボったってどうにもなったりしないって。気持ちは分かるけど、艤装の都合が付いてなくて休んでいいみたいな時はちゃんと休んどけよ」
深雪は腕を組むと、自分の明らかに戦えない状態の艤装を見つめ、実感の籠った言葉を強く口に出した。
「でないとあたしの立場がない……!」
この深雪氏、現在召集組の艦娘内で轟沈数がぶっちぎりのトップである。
島風も混ざってそもそも艤装無しでどうやって出るんだよーなんて話を軽くしていたら、宮里提督が皐月さんを伴ってやって来て、深雪の様子を確かめると補給を終えた島風を連れて足早に去って行った。どうやら島風はこっちの守備に回されるらしい。なんでも偵察機みたいなのが発見されたとかで、航空機への対策を厚くしておきたいとの事。レーダー上手くて連装砲ちゃん達が撃ち落としてくれる島風が戻って来たのは渡りに船だったらしい。前線の方がちょっと心配になるけど、そもそも島風って殆ど私と一緒に出ててあっちの艦隊に居る前提で考えられてないと思うから大丈夫だろう。たぶん。
残された皐月さんは深雪に向かい、問診触診などを通して異常が無いかを確かめた。とはいえ受け答えははっきりしているし私に関節技仕掛けに来るくらいなので普通に元気である。皐月さんも特に問題無しと診断した。その皐月さんはこのままここに残るようで、明石さん達の診察も行う様子。炎に巻かれかけたし被弾してるもんなぁ。
「それで、本当に艤装無しで深海棲艦倒せるならさ、別に吹雪の艤装に拘らなくてもいいって事だよな」
診てもらうために外した布をまた被って戻って来た深雪はしばらく黙って明石さん達の診察を見つめていたが、やがて沈黙が気まずかったのか、白雪さんを見ながらさっきの話の続きを始めた。いろんな艤装を使える彼女のように私も他の物を扱えるのなら、確かにその通りかもしれない。私が生身で出れないのは艤装での肉体へのダメージ回避ができなくて危ないからっていうのが大きいのだろうし。
「まあ適性値関係なく殴り倒せると思うから、起動できるなら何でも行けるんじゃないかな」
まぁ壊れかけとかは駄目だろうけども。適性値とかの問題じゃなく、倫理的な問題で。
「なんか他に使える艤装ありそうだけどなー、吹雪の適性値五十三万らしいし」
「いやあれはネタでしょ……」
そういう話が出回ってるのは知ってるけど、何をどうしたらフリーザ様になるというのか。もし真実ならお野菜ネームに気を付けなければいけないじゃないか。
「白雪……さんが使えるのってやっぱり吹雪型が多いんすか?」
深雪が側で資材を選り分けていた白雪さんに問いかける。急に話しかけられた白雪さんはちょっと数を数える様な動作をした。
「そうですね、吹雪型が一番多いです。私の場合、綾波や雷電なども使えるので、参考になるかは分かりませんけれど」
「やっぱ姉妹艦って使いやすいんすかねー」
「そういう傾向はあるように思います。たとえば皐月ちゃ……んも卯月を使えますから」
急に話が自分の方にやって来て、秋津洲さんの診断をしていた皐月さんは苦々しい顔になった。うーちゃん使えるって聞くと途端に愉快な人っぽく感じるのは何故だろう。皐月さんは二度とアレは使いたくないと呟いていた。何があったし。
「やっぱ吹雪もあたしの使えたりしない? 実際使うかはともかくさ、今度ちょっと試してみない?」
深雪様は興味津々の御様子である。この分だと自分で吹雪が起動できないかとかは既に試してそうだ。まあ、私としても今後何かあって出たくなった時に深雪の艤装でも最低限の防御能力を付加できるってなったら心強いのは確かなんだけど。
「無理だから変な事しないでよ」
私達に向かってビシッと言い放ったのは皐月さんである。眉を寄せ、大人しくしてなよと軽く嘆息した。
「艤装の影響が心や体に出るのは知ってるよね? 一つですら度合いが未知数なのに、複数のだなんてどうなるか知れたものじゃないよ。できないはずだけど、絶対にやめて」
白雪さんはその辺りのテストケースとしての役割も持っているらしい。見た感じ変な事にはなっていなさそうだけれど、確かにこれで改二の許可が二種から出たりしたらどうなるのかってさっぱり分からんな。両方の影響受けるんだろうか。髪の色凄い事になりそう。改二になっている艦娘がそれ以外の艤装を起動した場合にどうなるかも判明していないだろうから、やってみたら突然倒れましたとかも有り得なくもない訳で、そりゃあ止めて欲しいだろう。ここでやったら診断するの皐月さんになるし。
「あれ……皐月さん、吹雪の使える艦の事知ってたりします?」
「おっと」
深雪がはっと気づいたように問えば、口が滑った、という感じで皐月さんは目を逸らした。成程、知らなきゃ断言はできないだろう。医官だから知らされてるとかなんだろうか、関係なさそうな気もするけれど。
深雪は皐月さんの方へと擦り寄って行くと、教えてくださいおなしゃす!! とおねだりを始めた。折角なので私もそこに加えてもらい、二人で一緒に頭を下げる。皐月さんはなんだこれと困惑気味である。
私は艤装が無いから出られない事には納得した。納得したけど、それはそれとして、自分が採れる手段に関してはちゃんと把握しておきたいのだ。そりゃあ私が判断するの自体が間違ってると言われるとその通りなのだけど、後になって実は出来る事ありましたって言われたら絶対悲しくなるからね。
皐月さんはどうすりゃいいんだと白雪さんとアイコンタクトを取るが、白雪さんも困った笑みを浮かべるばかり。どうやら白雪さんの方は知らないようで、教えていいのか悪いのかも判断できない状態なのだと思われる。明石さん達も気になっている様子で、周囲から味方の居なくなった皐月さんはやがて纏わり付く私達の前に屈し、諦めたように口を開いた。
「とりあえず提督に言っていいか聞いてみるから、許可が出たらね?」
皐月さんはゆっくりと艤装の通信機に手を伸ばし、ため息交じりにコールする。内心、間違いなく却下されると踏んで通信を繋いだのだろうけど、その選択により皐月さんは見事に退路を塞がれたのだった。
「先に言っておくけど、ボクの知ってる話は噂話程度……ってほど信憑性が低くもないんだけど、正確な値まで知ってる訳じゃないんだ。だから、後でちゃんと提督に確認してね」
皐月さんはそんな前置きをした。皐月さんは自衛隊の精鋭部隊と行動を共にしていた非戦闘部隊の艦娘の一人で、知っているのはその時に漏れ聞こえてきたからなんだそうな。人の口に戸は立てられないというか、まあ控えめな声でも横で話してりゃ把握しちゃえるよねとの事。って事は長門さんや龍驤さんは知ってるって事かな……龍驤さんてば前その話した時は隠してたのね、いや当たり前なんだけど。
「まず、吹雪の使える艤装は六つ」
思ったより多い。え、そんなあったの私の適性。隣の深雪も多いっすねと驚いている。
「一つ目が知っての通り吹雪。数値は伏せるけど、これの適性値が一番高いよ」
なんで伏せる必要があるんです?
「吹雪の適性値は吹雪のが強すぎて他のは不確定要素にしかならないんだけど……二つ目ね」
そんなに差があったのだろうか。那珂さんも那珂と他で結構差があったし、あんな感じかな。
「二つ目は潜水艦。伊号第二潜水艦……艦娘の言い方に合わせるなら、伊2だね」
「潜水艦!?」
「あ、伊って入ってるんですね」
潜水艦ってのも意外だけど、名前、そっちでも回収されるのか……
「……あれ、じゃあなんでクジラの時使わなかったんだろ」
私に潜水艦の適性があるのなら、そっちを使うなりしてどうにかできなかったんだろうか。吹雪程の適性値は無いって事かな?
「ああ、それは簡単だよ。単に艤装がこの世に存在してないからだね」
皐月さん曰く、適性者は発見されているものの艤装そのものは建造不能という事例は結構あるらしく、伊2もその中の一つであるという。その筆頭が海外艦だったんだけど、そっちは今はもう少数ながら建造が可能になっている。なら伊2も行けるようになってたりしないだろうかって思うけど、まあ、吹雪以外を使わせる意味自体薄いのだろう。
「で、次三つ目。三つ目は重巡洋艦、伊吹」
「本名じゃん!」
「あ、やっぱりあるんですね伊吹」
もう流れ的に絶対あると思ったけど、案の定である。でもって、使わせない理由も、たぶん前と同じだろう。
「未成艦でしたよね。ということはやっぱり……」
「そう。これも艤装の方が造れないんだってさ」
皐月さんも苦笑いである。まああったとしても駆逐艦の方がコスパいいし使われない気はするけれども。
「これに関してはなんで適性者が居るのかの方が気になるね。まあ、集合無意識の中でどうなってるかなんて知りようがないんだけど。それで、四つ目」
それは艦これっぽい世界だから、なのかなぁ。IFの奴も割とあるって事だろう。たぶん。
「四つ目は空母。空母伊吹」
「ん?」
「ええ?」
私と深雪は二人とも疑問の声を上げた。聞きながら作業を行っていた明石さん達もこちらを見て不思議そうにしている。皐月さんはわかるよーと言って微妙にしたり顔だった。
「艤装ってさ、改装後に名前が変わったりすると別のものとして扱われる場合があるんだ。春日丸と大鷹で別の適性が必要だったりする訳」
そういえば訓練所で一緒だった響はヴェールヌイの艤装も使えて、そっちの方が適性値が高かったって聞いている。成程、伊吹はその亜種になるのか。
「伊吹って建造中に巡洋艦から空母に変更されたらしいんだけど、適性値としてはどっちのも存在してるみたいなんだ。つまり、巡洋艦として完成した『重巡洋艦伊吹』と空母として完成した『空母伊吹』が集合無意識の中には別々に存在してるんだってさ」
完成自体がIFの話なのに、そのIFがさらに分岐した状態でちゃんと集合無意識内に成立しているらしい。それ以上の事は自衛隊でも分かってないんじゃないかと皐月さんは言う。この辺り、猫吊るしの方が詳細に知ってるかもしれない。
「分かると思うけど、こっちも艤装は未発見……まあ、未成艦だからね。ある方が不自然だよ」
こっちに関しては巡洋艦よりもかなり勿体ない。私が航空機も使えたらそれはそれは便利だろう、いや適性値次第ではあるんだけど。
「これってその適性のせいだったんですねぇ」
そう言って、私は自分の手を光らせた。物理無効化を圧縮した時とは違う、陰陽道系のなにがしかの光り方。よく見ると中に雑に勅とか令とか書いてあるのが見える。洗練されてない。
「……艤装無しでそんな事できる人知らないんだけど……」
皐月さんは呻いた。いやまあ、陰陽道ベースのあれやこれやであって陰陽術自体は艤装無しでも使える物だろうから、多少はね? 使い手居ないけど。でもそう考えると私のこれもしかしてなんかに使える? いや使い方分からんからどうしようもないんだけど。
「あー……まあいいや。それに関しては提督とちゃんと話し合ってね。ボクの手におえる話じゃないから」
体調に関わったりするなら話は聞くけど、と付け足して、皐月さんは次の艦の話へと移って行った。
「五つ目ー、五つ目は、巡洋戦艦伊吹」
「伊吹多くないすか!?」
「巡洋戦艦……って解体された方ですっけ」
第二次世界大戦前の話だったはずだけど……え、あるんだ。いや確かに人類が積み重ねて来た記録の一つだからおかしくはないんだろうけど。
「そうだね、巡洋艦と空母の伊吹とは別の艦で、古いせいかこっちも艤装は確認されてない」
でも適性値自体は存在しているとの事。理由はどうあれ使えないって事には変わりない訳ですね。
「とまあ、これで分かったと思うけど、吹雪は適性自体は他にもあるんだけど、殆ど艤装自体が造れないんだよ」
その上、適性値の暴力と純粋な暴力が合わさって、あったとしても燃費のいい駆逐艦でいいじゃんとしかなりそうにない。潜水艦と空母は使い所ありそうだけど、巡洋艦と戦艦はなあ……三式弾使えるかも怪しいし。
「あれ、六つっすよね? 六つ目は?」
「その六つ目もあんまり意味が無くてね……駆逐艦なんだよ、それも吹雪に比べるとかなり適性値が低い。百倍くらい違うって話だったと思うよ」
百倍って。私の吹雪の適性値って最低一万のはずだから、100で起動ギリギリの可能性もある訳か。ちなみに仮に53万だとしたら5000前後である。那珂さんの適性値考えると有り得そうなのが困る。
「駆逐艦朝潮、それが吹雪の六つ目の艦で、一番適性値が低い艤装だね」
「あ、普通に建造できる艤装なんですね」
っていうか同期に居るわ朝潮。大破させて曳航のために触った事もあるわ。使えたのかあの艤装。しかしここに来て名前が全然関係無いの行ったな。だから適性低いんだろうか。全く分からん。
「そういえば宮里艦隊には居ないですよね、朝潮」
「うん。たぶん、間違って起動しないように吹雪の傍には置かないようにしたんじゃないかな」
さっきも言ってたけど、超適性の吹雪を持つ私が朝潮を起動した場合、吹雪の運用に支障が出る可能性が無いとは言い切れない。艤装っていうのはまだまだ未知の兵器であり、その実態を暴くために糞高適性値雪ちゃんを実験に使うとかは有り得ない事なのだろう。予備なら吹雪もう一隻置いておけばいいわけだしね。
「上は同時に起動した場合とかその辺りも色々知ってそうだけどね……隠蔽体質は今に始まった事じゃ……っとこれは関係無いな。とにかく、吹雪は他の吹雪型や宮里艦隊にある艤装は使えないんだ。メリットもあんまりないから、もし朝潮が近くにあっても使ったりはしないようにね」
「はい!」
朝潮風にまっすぐ元気よく返事してみたけど、よく考えたら猫吊るし居ないから細かくて伝わらないどころか誰にも伝わらないモノマネになってるなこれ。
ところで皐月さん、いくらなんでも詳し過ぎるし絶対又聞きとかじゃないですよね。見ちゃいけないのに見ちゃったとか、そんな感じ? 突っ込んでいいのか気になって仕方ないんですけど!
「実はあたし、吹雪の予備用に配属されたんじゃないかって噂あってさ。ちょっと気にしてた」
「深雪より強いの、たとえば九曽神艦隊だと北上さんくらいだったと思うよ?」
私が深雪を使えるのかどうなのか、深雪が知りたがってたのはそういう理由だったらしい。疑念が晴れたみたいでスッキリとした顔をしている。っていうか、被弾多めなだけで鬼級単騎で倒せる奴を一般的に弱いとは言わない。誰だ滅茶苦茶な事言った奴は。
被弾率に関しても改善してないという訳でもないらしいから、ほんとにエリート部隊の一角なんだよね深雪。まあ何かあったら言えって言われてるらしくて、大破したり轟沈したりするたびに連絡してるみたいだから、親御さんは気が気でないだろうけど。
そんな話をしつつ、私達は戦闘部隊の帰還を待っていた。時折外から島風の鳴き声とか連装砲ちゃんが撃ってる音とかが聞こえていたので航空機がこっちに攻めて来てるのは間違いなさそうだったけれど、誰かが被弾している感じではなく、迎撃は上手く行ってるのだろうと思われる。
そうして暫く、長門さんの改装の事とかについても話し込み、秋津洲さん達もとりあえず自分の艤装の処置を終えた頃、速吸さんが工廠の方へ戻ってきた。どうやら速吸さんは大破したとかではなく補給に戻ってきたようで、護衛してきた山雲と一緒に急いで荷物を積み込んでいる。速吸さんが全部積み荷を吐き出すくらいには時間が経っていたらしい。
暇過ぎた私と深雪も積み込みくらいならと張り切って手伝いつつ二人から話を聞いたのだけど、どうやら戦況は優勢で、敵の総数はまだ何とも言えないけれど、このまま行けばもうすぐ撤退に追い込めるんじゃないかとの事だった。なんか夜戦である事を加味してもだんだん敵の支援機が減って行ったらしく、全然合流してこない川内さんがまた敵後方で大暴れしてたんじゃないかという話も聞けた。
時計を見ればそろそろ日も出そうな時刻である。夜から朝、昼へと変われば航空機の有用性はぐんと上がる訳で、それまでに敵空母が殲滅されてたら滅茶苦茶有利ではあるんだろうけど……川内さん、厳罰物の事平気でやってない? 大丈夫?
そんな事を考えていたら、妖精さん達がつみこみおわりましたーと敬礼をしてまた艤装へと乗り込んで行った。速吸さんと山雲もそれを確認するともう一度気を引き締め、じゃあまた行ってくるねと工廠を後にしようとして、私達も二人を見送ろうと出入り口で顔を外へと覗かせた。その時に。
私の目に、海の向こうから加賀さんが吹き飛ばされてくるのが映った。
日の上りかけた朱色の空。水平線の彼方まで雲一つもなく晴れ渡っている。太陽の光で煌めく水面には波も無く、海はとても穏やかな様子である。その上を、加賀さんが、天龍さんが、秋雲先生が、次々に、まるで水平に落ちて来るかのように飛ばされて来ていた。
陸地まで到達した皆はそこで勢いが緩み、全員浜に着地した。飛ばされた場所にはばらつきがあり、天龍さんなんかは結構遠くに足を着けている。人によってはかなりの速度で地面に転がったりもしていたけれど、艤装の効果でダメージは無いはずなので大丈夫だろう。
私はそれを見るや、勢いを付け、数歩で海に向かって突撃していた。だってその色が、いつか見た鮮血のようなそれに変わっていたものだから。
「点呼ー! 確認急げー!」
後ろで龍驤さんが慌てて人数の確認を行っている。元々陸に残っていた瑞鶴さんが加賀さんに駆け寄り無事を確認する声も聞こえた。どうやら全員突然陸まで戻されたらしく、通信機も使って連絡を取り合っているようだ。その間、私は特殊変色海域の境界面に苦戦を強いられていた。
たぶんこの赤い海は以前に、九曽神艦隊で見た特殊変色海域と同じものだと思われる。例の秋月が沈みかけたあの一件だ。ならば、その原因となったであろう深海棲艦がこの中には居るはずで、排除できればかなり艦娘達の精神的な負担の軽減になるはずだ。そして私は、一度無理矢理中へ押し通る事に成功しかけている。だから今回も頑張れば入れるはずだ。そう思ったのだけれど。
問題だったのは、私の現在地である。ここは波の寄せては返す砂浜で、どうにも足元が覚束ない。拳を前に付き出そうと思い切り地面を踏みしめれば、体の方がじりじり後ろへ沈み込んで行く。さらに悪い事に、この変色海域ときたら、境界面が波に合わせて動いていたのである。
おそらくは効果範囲が海の上限定という条件の副産物なのだと思うのだが、満ち引きする波が私の事を阻む。前回は壁のようにそそり立っていたから押しやすかったのだが、前後に行ったり来たりされると滅茶苦茶やり辛い。少し入ったと思ったら、その位置よりも後ろにまでスッと引いて行きやがる。ええ、どうすりゃいいんだこれ。
「下がれ吹雪!!」
そんな事を考えていたら、私の奇行に気付いた龍驤さんがこっちに向かって大声を上げた。そりゃそうだ。やっちゃ駄目な事だから、そりゃあね。
「やっぱりこれ、例の奴か。気持ちは分からんでもないけど、下がっといて」
龍驤さんはこちらに駆けて来ると私の腕を引っ張って海から引き離し、陸の方へと押しやった。そして自分も艦載機で突破を試みつつ、艦隊の皆と連絡を付け、無事な人間を数えて行く。
特殊変色海域は今までの事例から一人だけを除いて他の全員を外へと弾き出す性質があると知られている。つまり、誰かが内部に取り残されているはずなのだ。それが誰なのかは、陸地へ上がり通信が回復したおかげで、すぐに二人に絞られた。
その内の一人はそもそもどこで何をやっていたのか自体が不明であり、変な場所に居たためにどこかここから遠い場所へ弾き出されたものと考えられる。対してもう一人は当時、龍驤さんの確認できる位置に居たらしい。吹き飛ばされているのならば、普通に考えて近くに居るはずだろうと考えられた。
「取り残されたのは、長門か……!」
龍驤さんが真っ赤に揺らめく水面を睨む。その向こうからは、何の音も聞こえては来なかった。
実は指輪の効果を踏まえても、あの時点で海に居た中で一番適性値が低いのは長門です。
宮里提督は適性値上げる能力高くないっていうかワーストだからね仕方ないね。
教官長はもう収集部隊で深海棲艦弔ってた時点でオーバーキルなんだすまない……
今回なんと、BMM様からファンアートなるものを頂いてしまいました。
紹介の許可が頂けましたので、是非こちらからどうぞ。
デフォルメされたキャラや表情が大好きなので、北上さんの表情や猫吊るし、一番下の島風が大のお気に入りです。
膝枕してる吹雪の表情も薄めですがタワー的な物が建築されそうで……しゅき。まあ中身はTS転生者なんですけどね!!
書き始めた当初はまさかこういった物を描いていただける事があるとは全く思っていなかったので、本当に嬉しい限りです。
BMM様この度は本当にありがとうございました!
実は他の作者様に描いて頂いたものもいくつか目にする機会があったのですが、勝手に紹介するのはどうかと思い触れずにおりました。
もし作者様がここで紹介されてもいいと思ってくださるのでしたら、気が向いたら時にでも是非ご連絡ください。