転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

59 / 98
沖縄島より泳がず参った

「沖縄周辺ではあまり深海棲艦の動きは活発でなかった訳ですね」

「はい。海岸に近づくのは危険でしたけど、最初の時以外は陸にまで上がって来る事はなかったです。なのでその……人間同士の争いの方が深刻で……」

 あの日、本州がそうであったように、沖縄も突如として変色海域に取り囲まれて危機的な状況に陥っていたのだそうだ。沖縄へやって来た深海棲艦は、まず初めに米軍基地へと襲い掛かったらしい。軍施設なんかを破壊し尽くし、市街をついでのように蹂躙し、抵抗しようとする人々をもぐもぐしたりして、各方面に甚大な被害を生み出し海へと帰って行ったという。

 沢山の人が亡くなって、その埋葬も済まないまま、生き抜くためにみんな必死で頑張っていたのだそうだけど……やっぱり問題になったのは物資や住居の不足だったという。当然争いになり、心が荒むと暴力的にもなり、そして、そこにあったものが振るわれてしまったようで。

 まぁその、あれだ。崩壊した基地の中にあった、ちょっとした長さの筒から大した大きさでもない金属を凄い勢いで飛ばすアレが、火を噴いて暴れちゃったんだそうな。

「でも、それを諫める人達もちゃんと居たんです。だから今はそれなりに安定……とまでは言えないかもしれないですけど、日常的にそういう事が起きたりはしていないです」

 たぶん、言葉で言うほど簡単な事ではなかっただろう。みんなでどうにかしたらしいけど、その過程は想像し切れないほどの苦労で満ちていたに違いない。この今自分達の事を語ってくれている吹雪さんも諫めた側だったようで、言葉の端々からは苦労の影が見え隠れしている。

 でもね、私は、非常に申し訳ないんだけれども。おっしゃってるあなた自身と、その後ろでうんうん頷きながらあの時は大変だったよねぇーなんて面をしている左目の下辺りに黒子のある青っぽい髪の人の存在が気になって話に集中し切れないんだ……

 なぁんでそっち側にいらっしゃるんですかねぇ、ゴトランドさん。

 

 

 

 

 

 長門さんは勝って帰って来た。特殊変色海域が消失し普通の変色海域に戻って暫くしたら、倒した相手を背負って堂々と帰還なされたのである。

 死体は龍驤さんが用意していた布にさっと隠してしまったから顔は見れなかったのだけど、おそらくは私が会えなかった奴と同一個体だろうと長門さんは言っていた。ちょっと会話できたらしい。なんか猫吊るしはステインの方がマシだったって言ってたけどどういう事なのかはよく分からん。動きでも止めて来たの?

 ともかく長門さんは戻ったものの特殊変色海域を展開していた奴以外との決着はまだ付いていない訳で、宮里提督の指示のもと皆は改めて周囲の警戒態勢に入り、私と深雪は工廠の方へ戻る事に。そこでお前また生身でなんかやろうとしただろーって深雪に弄られていたら、今度は川内さんが帰って来た。知らない顔と知ってる顔、その両方を連れて。

 その人達を見て声を上げなかった私を褒めて欲しい。だってその中に、ここに居るはずのない存在がなんでか二人も居たんだから。

 

 川内さんが帰ってきた時、地上側も含め周囲から深海棲艦の気配は既に消えていた。どうやら特殊変色海域が展開された時に敵も逆方向に吹っ飛ばされてたようで、なんかそのまま沖へと帰って行ったっぽい。戦局はこっちに有利だったみたいだからついでに撤退したんだろう。

 索敵なんかは当然続けられるんだけど、警戒態勢は多少緩める事になり、私と深雪もとりあえず寝に戻るなりして次の命令を待つよう指示された。なので二人してもう別に眠くもなかったので工廠の設営なんかを手伝っていたのである。

 取り急ぎ長門さんの艤装を応急処置して、工廠の準備が整い次第私の艤装を建造する予定にしたと宮里提督は言っていた。ただそうする事により資材が心許なくなってくるため、私はまた本州の方へ戻って残っている輸送艦吹雪を使って往復する事になるという。ゲームみたいに30303030レシピとかって訳には行かないらしかった。

 私が川内さんの帰還に気付いたのは残骸になったテントから回収された資材を工廠へ運ぼうとしていた時だ。いっぱい持ったら本当に持てるんだにゃ……って若干引かれてた所で丁度海岸線を歩いて来たのである。

 ただいまーとの元気な声と複数の足音がして、あれっと思った私が振り向くと、そこに居たのは元気そうな川内さんと、川内さん以外の六人の艦娘だった。一瞬警戒に当たっていた誰かしらと合流したのかと思ったのだけど、その六人をよく見てそうじゃないと気付いて、顔をしっかり認識して、私は持ってた資材入りの十段重ねの箱を潰しそうになった。

 川内さんは提督居る? って聞いて来てたけど、私の脳内はそれどころじゃあない。六人の内二人と見つめ合いになり、一人は意味深に笑いつつ人差し指を口元に当てるジェスチャーを、もう一人は私を見てびっくりした様子で慌てて目を逸らしていた。宮里提督はすぐそこに居て自分からこっちに向かってきたので川内さんの視線はすぐそちらに移り、私の動揺はそんなに目立ってはいなかったと思う。

 目を逸らした彼女は、宮里提督に吹雪と名乗っていた。

 

 川内さんの連れ帰ったその艦隊はそれ程規模は大きくなかった。駆逐艦4隻に巡洋艦1隻、空母が1隻の6人編成である。

 宮里提督に面会した彼女達は沖縄からやって来たと主張した。でもそう言われてもその真偽は提督にもさっぱり分からない訳で、とりあえず艤装は置いて貰ってから詳しく事情を聞くことに。わいのわいのと工廠へ行き、ついでにボディチェックなんかもして安全確認。信用してないムーブだけれど、こっちから見たら怪し過ぎるのは理解して貰えたらしく、特に文句は言われなかった。一部不満そうではあったけれども。

 工廠での身体検査中、私は隣の部屋に隔離されていたのだけれど、ドアの隙間から旗艦と名乗った吹雪さんと一人だけ海外艦なゴトランドさんをずっと注目し続けていた。いや邪な理由での覗きじゃないから許して。だって、二人とも見覚えあるんだもの。ゴトランドさんは四国近海と四国内部で会ったあの推定転生者のゴトランドさんと同一人物に見えるし、吹雪さんの方は……いやでも、他人の空似かなぁって思うんだけど、もろに吹雪さんである。

 つまりなんだ、私の記憶の中にある、集合無意識内にいらっしゃったオリジナル艦娘の吹雪さんと、彼女は全く同じ顔をしていた。年恰好も同じくらいだろう、私ともそう離れてないと思われる。本人とは一回しか会ってないけれど、その後に全く同じ顔で色違いな深海風吹雪さんとは割と話しているので間違いない。お芋育ててそうな可愛らしいご尊顔であらせられる。

 吹雪さんは私と深海っぽい吹雪さんから見て行方不明になっていたのだけれど……え、あれ本人? ゴトランドさんが居るのはなんか分身能力っぽいの持ってるみたいだから沖縄にも居たんじゃないかって推測できるんだけど、吹雪さんの方は全く意味が分からない。目を逸らしてたから少なくとも私を見てなにがしかの引っ掛かりを覚えたのだとは思うのだけれど……いや制服のせいかもしれんけどね、色違いの黒制服だし。っていうか、この吹雪さんたぶん服装からして改二なんだよなぁ、制服のラインの色が違うから分かり易い。もしかして真っ当な駆逐艦吹雪改二だろうか。あとで見せてもらいたいかもしれない。

 なんて事を考えつつ覗きを継続していたら、宮里提督がこちらへやって来て、ゴトランドさんに驚いて私の頭の上に避難して来てた猫吊るしを回収しに来た。どうやら一緒に話を聞いて知識とのすり合わせをして欲しかったらしい。

 でも、そしたら猫吊るしの奴、吹雪も一緒でいいですかって私も巻き込みにかかりやがったのである。いやまぁ、ゴトランドさん警戒しての事だろうっていうのはなんとなく察せられたけども。あの人の能力全容が知れないし、猫吊るし的には純粋暴力装置の私を保険に連れて行きたかったのだろう。宮里提督はちょっと悩んだ末にOKを出した。曰く、たぶん一緒に本州に行って貰う事になると思うから、だそうである。頭に妖精さんを乗っけた私が奇異の目で見られるのは……もうしょうがないだろうこの際。

 ともかく凶器なんかは持っていないと確認ができて、工廠奥の一室――長門の改装を行ったところへ彼女達は移動して行った。こちらのメンバーは宮里提督と長門さんと猫吊るしとおまけの私。対する沖縄組は吹雪さんと叢雲、電、五月雨、それに大井さんとゴトランドさんである。なんか初期艦ばっかりだな?

 

 吹雪さんの話はまず彼女達の目的から始まった。現在地は沖縄どころか九州の、それもかなり四国よりの場所である。そんな所まで彼女等が何をしに来ていたのかというと、これはもう単純に、本州と連絡を取りに来たのだそうである。川内さんと出会わなければそのまま本州まで行ってしまうつもりだったらしい。本州に行こうと思った理由は幾つかあるのだそうだけど、一番大きな理由はやっぱり食糧問題なのだという。

 沖縄が深海棲艦の襲撃を受けた際、最も被害を受けたのは兵器を持って反攻した軍人達だった。どうも抵抗する人間を優先的に狙っていたらしく、特に何もせず逃げ惑っていた民間人はあまり襲われなかったのだとか。ただ、施設や建物は破壊されたためにそれが逆に争いに繋がったらしいけれども……ともかく、沖縄には結構な人数が生き残っていたと言う。

 一年目はなんとかなった。吹雪さんやゴトランドさん達の尽力もあり、それなりのまとまりを見せてどうにか乗り切れたらしいのだ。素直にすごいと思う。でも、二年目が続くかというと、それはちょっと難しかったようで。

「やっぱり機械の恩恵がないと農業も十分にはできなくってね、保存食とか合わせてかなり切り詰めても去年でもうギリギリだったんだ」

 生きるための障害になったのは食料不足で、その根本的な原因はエネルギー不足だった。ガソリンスタンドやら発電施設やらガスの貯蔵タンクやらが初日でやられていたらしく、どうやら深海棲艦は最初からそれ狙いで攻めて来ていたらしい。以降殆ど襲撃が無かったのはもう目的を達していたからだろうとゴトランドさんは言う。

 艦娘が居るなら給糧艦でどうにかできないかとも思ったのだけど、よく考えたらあれだって組織立った兵站の賜物だもんなぁ。マンパワーって偉大。って思ったらそもそも適性者が見つかっていないらしかった。それじゃどうしようもないですね……

「だから、私達は支援を求めに来たんです。本州にそれだけの余裕がある事を祈って」

 九州の南海岸近くでは人を確認できなかったようで、そこから無理に九州の内部を調査するより本州まで行ってしまった方が可能性があるだろうという事になり、吹雪さんたちが派遣されることになったらしい。いや、される事になったっていうか。

「私達の司令官は吹雪ちゃんなので、最終的に決めたのは吹雪ちゃんなのです」

 私どころか宮里艦隊最年少の文月よりもさらに年下に見える電によると、なんかこの吹雪さん、沖縄艦娘の最高司令官らしいんだよね……

 

 勿論そんな事になったのには理由がある。まず艦娘が生まれている以上、妖精さんと出会ってその言葉を信じた提督適性の持ち主が絶対に居る訳なのだが、沖縄の場合それはこの目の前の吹雪さん、雪吹 吹雪さんだった。これは特に不思議でもない。猫吊るしも沖縄に出現した妖精さんもそりゃ居るよって頷いていた。提督と艦娘の二重適性持ちだって宮里提督と私、それに文月と三人も前例があるし、確率的にはそこそこなのだろうと思われる。

 問題だったのは、彼女の言葉を信じる人間が殆ど居なかったという事だ。そりゃそうだ、吹雪さん以外には見えてないんだから。見えない物を信じる人はごく少数だし、何より、沖縄では積極的に生存者を襲わない深海棲艦を無理に攻撃する必要性を感じる人はあんまり居なかったらしいのだ。刺激してどうなるかなんて分かったもんじゃないだろうから仕方ないね。

 でもそうなるともう吹雪さんは勝手に事を進めるしか無かったそうで。霊脈の上で妖精さん達と何日も泊まり込んで自分の艤装を作り出し、適性者もどうにか少ない検査キットで見つけ出したのだという。何も強制できないため、見つかっても協力してくれるかは完全に本人たちの厚意次第だった訳で。よく口説き落とせたものだと関心する。私だったら勧誘の時点で詰んでたわ。

 そうしてなんとか艤装も必要な物を作り出し、吹雪さんたちは戦える事を証明してみせた。やっぱり余計な事をしない方がいいのではって声もあったようだけど、そこから要請を受けて他の島の様子を見に行ったりしてるうちにある程度の信頼は得られたらしい。そうしたら、今度は吹雪さん任せでなく大人がしっかり考えて運用した方が良いのではないかって話になって来たみたいなんだけども。

「まともに私達の支援も指揮のための勉強もして来なかった連中に命令権を預けられる訳ないでしょ? 短くても経験のある吹雪が続けた方がマシだったのよ」

 発言者の叢雲を筆頭に、所属艦娘の殆どがそれを拒否したらしかった。心情的に嫌で能力的にも不審じゃそりゃお断りだわ。って思ったんだけどそういう話ではなかった様子。

「叢雲は自分達がやられた時に命令した人の責任になっちゃうのが嫌だったんだよね~」

「黙ってなさいゴトランド」

 小中学生みたいな見た目の子供たちに指示出して死なれたら普通気に病むからって理由だったらしい。一応ね、軍人さんとか自衛隊員とかも生き残ってる人達は居たらしいんだけど、まぁ勢力図とか色々あってそっちに預けるのもちょっと無理だったそうな。なので生き残った人達のために最大限の働きをする事を約束した上で、吹雪さんが背負い込む事になったらしい。吹雪さんなら大丈夫って信頼感が凄い。

 勿論これは最終決定権の話であって、作戦に関する意見とか年の功から来る助言なんかはしっかり貰っていたと吹雪さんは言うけれど、それでも普通に考えたら有り得ない組織体系な訳で。宮里提督からはそれを続けるのは難しいかもしれないという言葉が出た。

「恐らくですが、自衛隊の方から指揮官が派遣されるか既存の組織に組み込まれるかのどちらかではないかと思います」

 当然ながら明らかに未成年な吹雪さんに指揮権を持たせっぱなしとはならないだろう。っていうか、道中が危な過ぎて沖縄に帰らせてもらえるかも怪しいような気がする。その場合私達と一緒に九州攻めをしてから沖縄に戻る事になるかもなぁ、戻れるの何時になるのか分からんけどさ。

「そもそも私達ってどういう扱いになるのよ。本州も碌な事になってなさそうだけど」

 叢雲の視線が私を貫く。現役中学生がこんなところに居るのは確かに碌でもない状況であるので反論のしようもない。これに対し宮里提督は現状の組織形態や召集の事などを軽く説明し、やはり確実な事は言えないものの、それに準じた扱いをされる可能性が高い事を告げた。

「一度適性検査を行って、戦闘部隊水準の適性値が確認されればそのまま戦闘部隊として配属されるか……既に連携等が確立しているでしょうから、もしかしたら一つの部隊として独立して運用される可能性もあります。ただ……」

 電に視線が送られる。どきりとしたのか胸の前で指を組み、電は不安げに宮里提督を見返した。

「召集は原則、十二歳からと決まっています……」

 宮里艦隊最年少の文月よりさらに幼く見える電。その体格は、大きめに見積もっても十歳かそこらにしか見えないものだったのである。普通に考えて適性値をクリアしていても実戦に出させては貰えないだろう。十二だって低すぎるって言われるくらいなんだから。

「だっ、大丈夫なのです! これでも電は二十歳なのです! お酒も飲めちゃうのです!!」

 明らかに焦りが見える言葉が返って来た。いやまぁ、そういう事も無い訳ではないから積極的な否定はできないですけどもね。

「それなら……大丈夫ですね?」

 宮里提督も微妙な表情である。まぁ、戸籍調べれば実年齢はたぶん分かるだろうし、本当なら問題無いだろう。どの道ここから本州に行くにしても沖縄に戻るにしても艤装を使わなきゃ話にならないので、深く突っ込む意味はなさそうである。

 

 吹雪さん達の目的が分かった所で、話題は沖縄周辺の海の状況へと移って行った。どうやら雪吹艦隊はそれなりに変色海域の核の破壊に成功しており、島々の行き来こそ危険でほぼ行われていないものの、海はそれなりに青さを取り戻している所が多いらしい。

 特に周辺のまとめ役だったらしい明らかに特別扱いをされていた個体を撃破した後は、元々それ程活発でなかったのがさらに鈍化したとの事で、九州まで来れたのはその影響が大きかったという。というか、むしろ吹雪さんたちは今回到達するのは無理だろうと思っていたらしい。余裕のあるうちに引き返す予定で前進して、殆ど戦いすら起きなかったためにここまで来てしまい、川内さんに遭遇してしまったんだとか。

「もしかしたら皆さんと戦うために南の方は手薄だったのかもしれないですね」

 今回の襲撃は結構数が居たらしいので、丁度隙を衝いた形になったのかもしれない。だとしたらかなり幸運だろう。川内さんと出会えたのとか偶然に偶然が重なった結果だった訳だ。ウンガイイナー。

 ただ長門さん曰く、先ほど戦った艦隊規模程度で周辺の敵が目に見えて減っているのだとしたら、配置されている元々の数が今までに比べて少な過ぎるという。やっぱりもう奪還される前提になってるのかなぁ、九州。

 吹雪さん達にも聞いたのだけれど、ここに来るまでに変色海域の核は見なかったという。積極的な探索はしていないだろうけど、やっぱり隠されているんだろうか。妖精さんが反応すらしなかったらしいので少なくとも彼女等の通って来た航路には無さそうだけど。

 本州の状況と現れる深海棲艦の数を話したところ、やはり沖縄とは量も質も段違いみたいでかなりの驚きがあったようだった。まぁ、宮里艦隊と比較したのが悪かった気がしないでもないけども。

 

「本州へと戻る予定の部隊がありますので、それに同行して本州へと渡ってもらおうと思います。こちらの準備が整うまで待ってもらう事になりますが、よろしいですか?」

 自分の一存でどうなるものではないけれど、一応紹介状的な物も用意すると宮里提督は約束した。ゴトランドさんが持って来ていたという沖縄の現状を記した資料も手渡されていたので、それと一緒に上層部に渡るようにするんだろう。その辺りについては私はどういう流れで進んで行く物なのか知らないので何も言えないのだけれど、とりあえず雪吹艦隊側は安堵した様子でよろしくお願いしますと頭を下げていた。

 っていうか、戻る予定の部隊って私と島風ですよね? 二人なんだけど部隊って言って大丈夫なんですかね……?

 

 

 

 雪吹艦隊の皆さんにはとりあえず休息を取って貰う事になり、私も吹雪さんとゴトランドさんの事に後ろ髪を引かれながら工廠の準備の手伝いに戻ろうとした。気にはなるけど吹雪さんにはどう話を振ったものか分からないし、ゴトランドさんに関しては知らない振りの方が良さそうな気がする。宮里提督は楠木提督の下にゴトランドっていう艦娘が居るのは知っているからね、下手な事をしたら同一人物ってバレるかもしれない。その辺りを理解されていいのかどうなのか私にはよく分かんないのだ。

 警戒が解けないのか私の頭から降りない猫吊るしを乗せたまま、私は鉄骨のようなものを担いで持って行く。猫吊るしの指示に従いボルトを締めて、そろそろ建造も出来るんじゃないかなと思い始めた頃に、その人はこっちに向かって躊躇いがちに、ゆっくりと歩いてやって来た。

「あのっ……今から少し話せますか?」

 周囲の目を気にしてか控えめの声で、私と上の猫吊るしくらいにしか聞こえないよう小さく小さくささやいた。

「雪さん」

 ああ、やっぱりそうなんだ。

 驚きとかそういうのを飛び越えて、私の胸には納得だけが浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練所で伊吹 雪と初めて対面した時、駆逐艦吹雪の艦娘は驚愕した。だってその娘が、明らかにおかしな程の強い力を持って自分の中に入って来たものだから。発揮し尽くせば艦娘の内部、ごく一部とはいえ人類の歴史そのものであるそこを大きく破壊してしまえそうな圧倒的なその力を見て、恐怖と無力感に同時に襲われてしまったのだ。

 きっと持てる力を全て使えば自分の助けなんて全く必要ない。よしんば使い道はあったとしても、無くても特に不自由なんてしないだろうという事は想像に難くなかった。

 だから艤装の使い方を学んで行った彼女を追い出すような形になったのは、どちらかと言えば艤装に過度な期待を持たせないためだった。吹雪に拘るくらいなら自分の力で全力を尽くしてもらった方が本人も安全だし絶対強いと思ったからなのだ。まぁ、ちょっと拗ね気味だったという事も無いとは言わないけれど。

 でも、その後の訓練の様子はちゃんと見守っていたのだ。自分から引き出した力を何かとんでもない大きさにまで増幅して使いこなしていて、思ったよりも役に立てそうだと安心したりもしていたりする。訓練自体は真面目に取り組んでいたし、周囲の子達の助けになれる場面ではちゃんと手助けしたりもしていて、強い力を見て投げ出しそうになった事を反省させられもしたのだった。

 

 適性者の事は好きになれた。そうなると、俄然気になってくるのが持っている力の事である。見るからに異常としか言いようのない強さのそれ。人一人が持つには過剰で、解放すれば周囲を破壊し尽くして余りあるだろうそれは、艤装を通して繋がっている吹雪から見て、普段はかなり出力を抑えているように感じられたのだ。

 それが意識的な物なら問題ない。必要な時には全力で振るってくれるのだろう事は見ていてなんとなく理解できた。でも、そもそもこの大きすぎる力は、ちゃんと制御出来ているのだろうか。それが吹雪は気になって仕方がなかったのだ。

 もしもちゃんと使えていなかったとしたら、暴走して大爆発なんてのも有り得ないと言い切れない。そうなったら本人すら無事で済むかは分からないし、近くに人が居れば確実に助からないだろう。物理攻撃じゃないから艤装の守りも貫通しそうだし。

 だから吹雪は確認のため、適性者が自分の中に意識を送り込んでくるように、自分の意識を伊吹 雪の中に接続したのである。

 伊吹 雪の中は端的に言って普通だった。特に激しい波がある訳でなく、極端に陰鬱という事も逆に眩しいばかりに光り輝いているという事もない。持っている力以外はごくごく普通の一般人。他人の魂や精神を垣間見る事は初めてだったので断言はできなかったけれど、おかしな部分があるようには感じなかった。圧倒的な存在感を持ち、入り込んだ直後から静かな暴威に潰されそうになるほどの強大なその力以外は。

 

 つよい。

 奥に進んだ吹雪がその力と向かい合って抱いた感想はその一言だった。他に何も言いようが無い。強いがために強いと感じさせられる、強い存在なのだという事だけが感覚全てで理解できた。

 普通の人間がこんな物を持っているというのは有り得る事なんだろうか、吹雪はかなり疑問に思ったが、少なくともそれは間違いなくここに存在している。そしてそれは、強い気配を漏らしてはいるが、吹雪の心配は杞憂でしかなかったと確信できるくらいに、完璧に安定しているように感じられた。

 強い強い何かの奔流。魂から湧き上がっているのか他から供給されているのか、その辺りはよく分からなかったが、ともかく消費されて終わりという類の物でなさそうだというのは理解できる。羨ましいとすら感じてしまう。だって自分がそれを持っていたら、適性者に頼らずとも自分で戦えそうな気すらしたから。

 もうちょっと詳しく知りたいと、吹雪はそれに触れてみた。その瞬間に、何かが、その力の中から、じろりと自分に強い視線を向けた事が理解できた。

 

 ――誰だお前は!!

 

 それは吹雪に話し掛けて来た。目のようなものは辺りに見受けられないのに、視られていると分かる。その声が目の前のなんかつよい力のものであろうというのは、なんとなくだが判断できた。

 

 ――お、お邪魔してます!

 

 艦娘本体ではなく、その末端を伸ばして潜入しているような状態である。本体ですら揺るがされそうだったというのに、その一部では軽く消し飛ばされてもおかしくない。恐怖からちょっと声は震えていた。

 

 ――ラッシャーセー。

 

 いらっしゃいませと言いたかったのだろうか。舌足らずというか、気だるげに早口に言ったような響きだったが、どうにも排斥しようという気は感じられない。

 暫しの沈黙。吹雪は何を言っていいのか分からなかったし、相手も何も言ってこない。ただ、じぃっと吹雪を見つめているのはなんとなく理解させられた。

 

 ――あの、私、吹雪と申します。この度は雪さんの中にお邪魔させていただいて……力がちゃんと制御できているかどうか確認しに参りました。

 

 吹雪は正直に用件を話す事にした。交流を重ねた訳ではないけれど、なんとなく、雪さんならそれで許してくれそうだと思ったのだ。結果的に点検に来た整備士か何かのようになってしまったが。

 

 ――ゆっくりしていってね!

 

 その言葉と共に視線がかなり和らいだ。調べてもいい、という事か。

 既に吹雪は制御できているのだろうと納得していたのだが、口に出してしまったからにはもっとちゃんとやるべきだろうか、と持ち前の真面目さが囁いてくる。実際この強い力に対して恐怖はあるが、もっと知りたいと思う気持ちもある。少し迷った末に吹雪は手を伸ばし、もう一度それに触れてみた。

 それは言うなれば純粋な、方向性を持っていない力の塊だった。それが湧き出し吹き上がり、表面に出ている身体能力へと変換されて行く。

 

 ――凄い……

 

 純粋な驚嘆、何か凄い物に触れた感動や特に隠せてもいない羨望を乗せた言葉だった。ついつい口から出てしまったそれはその場によく響き、視線の主からもなんだか機嫌が良さそうな雰囲気が発された。

 それがきっと良くなかった。

 

 ――力が欲しいか?

 

 えっ、と吹雪は硬直した。急に悪寒が走り、目の前の存在から一歩だけ距離を取る。見つめ合いになったように吹雪には感じられた。

 

 ――欲しい、です。

 

 あくまで正直に向き合った。嘘を吐いても見抜かれるような気がしたのと、ほんの少しだけれど、本当に貰えるのならばという思いもあったからだ。

 でもきっとそれも良くなかった。

 

 ――力が欲しいのなら……

 

 声の主はそこで溜めた。何か意味があるのか分からない。ただ何故か、異様にその溜めは長く感じられた。

 

 ――もらってくるといいよ。

 

 誰から? などと思う間もなく、突然真横に扉のようなものが出現した。余り飾り気のない、乗り物の入り口のような形である。吹雪が何が起きているのか分からず困惑している間にその扉は音を立てて左右に開かれた。

 

 ――あなたはこのさきにいってもいいし、いかなくてもいい。

 

 自分で選べ、という事か。もし入ったら本当に力を貰えるのだろうか。相手の言葉からは悪意を感じはしなかったけれど、自分の領域でもない場所である。信憑性があるとは言えない。

 少しの間吹雪は迷った。扉の先は真っ暗で、何があるのかもよく分からない。でももし、本当に目の前のものと同質の力が得られるのであれば、それはきっと素晴らしい事だ。

 吹雪は根本的に人間ではない。人間のような姿形をしているが、擬人化された駆逐艦である。その構成を司るものの中には、かつて自分の妻や子供、親兄弟のために戦った人間達の遺志も含まれていた。

 だから、年端も行かない少女たちに戦ってもらうしかないという現状は、全く好きになれないものだったのである。直接自分で戦ったり、そうでなくてももっと強力な支援が行えるのであれば、それはきっと素晴らしい事なのだ。

 

 ――お邪魔しますっ……!

 

 覚悟を決めて、おっかなびっくり中へと足を踏み入れる。慎重に、何かあったらすぐ逃げられるように、闇に目を凝らしながら吹雪はゆっくりと扉をくぐった。

 

 ――ダァシェリイェス。

 

 そんな吹雪の後ろで、無情に扉は閉められたのだった。

 

 

 

 先に進むしかなくなった吹雪は、仕方がないのでまっすぐ前へと歩いて行った。周囲には何の目印もなく、本当に進めているのかは分からない。けれどとにかく足は止めないようにと一生懸命動かし続けた。

 何も無い空間である。本当にまるで何もなく、この先があるのかすら不明確だ。暗闇ですらないのか、自分の姿だけは良く見える。距離感はなく、どれだけ歩いたかはもうよく分からなくなっていた。もしかして自分はここに閉じ込められたのではないだろうかと不安が頭をもたげて来る。そんな頃に。ふと、視界の隅に、何かが浮かんでいるのが映り込んだ。

 はっとしてそれを注視すれば、遠くの方にぽつんと何かが何もない空間に浮いているのがよく見えた。吹雪は見つけたそれを逃がすまいと、勢いよく走り出す。そしてすぐにその真下へと辿り付いた。

 それはぷかぷかと宙に浮かんでいたが、どうやらこちらには気付いていたようで、手を振ってふわふわゆっくりと降りてくる。それは日本人では有り得ない容姿をした、小さな女の子に見えた。何かに呆れたような表情で、降下しながらため息を吐いて何事かを呟いている。

『察してはいましたけれど、あの子ってば未だに自分の力だと納得できておりませんのね。十数年は使い続けているでしょうに、いまだにここに繋がっているだなんて。まあ、今後は振るう機会も増えるでしょうから、自覚に関してはそのうち進むかしら……ねえ、どう思います?』

 吹雪と目を合わせ、少女は返事を求めて来た。そんな事を言われても、この時の吹雪には全く意味が分からなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして魔法使いを名乗るあの子に人間として転生させてもらったのが私です」

「ちょっと待って濃すぎる」

「つまり転生者……ってコト!?」

 え、何? どっから突っ込めばいいのこれ。いやあの子何やってんの? 吹雪さんを集合無意識から切り離して転生させたの? だから行方不明になってたんだ? っていうか、私の中からあの自称魔法使いの所に繋がってんの?? そういや島風も会ってたな、指輪の不具合って言ってたけど、もしかして私の責任もあったりする? いやそれもあるけど、何? 私の中って誰か居るの?? いや、そう言えば以前、なんか返事されたような覚えがあったりなかったりするけれど、あんなん定型ネタ思い浮かべたら返しも自動的に浮かんできた程度の事だと思ってたんですけど!? あれガチで返事かよ!!

 あれだよね。なんとなく中の人の正体も察せれるよね。私は基本、チート能力は自分の力だけど自分の力じゃないって感覚なんだ。自分が好きに使っていい物だとは思っているけど、あくまであの子の物だとも思っている。だから頭の中じゃチート能力さんって呼んだりしてたんだけど……まさかそのせいで人格持っちゃった感じだったりとかする? 私の中で魔力を制御してくれて、使いやすいように必要な分だけ強化したりしてくれてたりとかしてた? だったらヤベーな私、マジで能力におんぶにだっこじゃん。恥ずかし過ぎる。

 私が私の魔力を満足に扱えないのって、もしかしなくても私が自分で自分の力を受け容れられてないから……だったりとかする訳なんですかね。うわぁ……

 

 

 




吹雪さんの正体が正体なので宮里提督への説明は欺瞞がいっぱいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。