私の目の前で吹雪さんと吹雪さんが見つめ合っている。いや、見つめ合ってるっていうか、片方がめっちゃ睨んでて、もう片方はその視線を前に居心地悪そうにもじもじしていらっしゃる。
いつも通りの朝焼けの空、青い海にはオレンジ色の光が混ざり込み、私達の乗った艦はその中をぷかぷか浮かんでいた。ここは集合無意識の中、吹雪さんの領域内の、駆逐艦吹雪の甲板である。
まあつまり、私の艤装が完成したため吹雪さんがここに来れるか試してみたら見事に成功した上、深海風の吹雪さんが中で待ち構えていらっしゃったという訳なのだが……わあ、深海似さんから滅茶苦茶不機嫌な感情が流れ込んでくるぞぉ。
――事の次第の詳細を。全部、話して。
静かだが、隠し事したらぶっ転がすぞ☆くらいの圧力を伴ったお言葉である。その深海棲艦に似た姿だと洒落にならないんですが……
打ち合った叢雲さんと叢雲がお互いを認め合って、改二にもそのうちなれるでしょと色々察されそうな話をし始めるのを他所に、私は猫吊るしと一緒に工廠の手伝いに戻る事にした。まあ、もうその時には建造を始められるくらいには場の環境は整っていて、猫吊るしを明石さん達に渡したらそのまま作業が始まったので私は要らなくなってしまったのだが。
猫吊るしは基本的に私の体を使うつもりはないらしく、はっきりと緊急時以外は絶対やだと言われてしまった。私は別に構わないのだが、それで癖になって他人の体を使うのに躊躇が無くなったら寄生生物みたいなサムシングになるから嫌なんだそうで。まあ本人的にゲームするくらいならセーフみたいで対戦はしてくれるっぽいからいいんだけど。
でもあれ見た目は悪いんだよね、足でコントローラー持つから。宮里艦隊に帰って来てからもやったんだけど割とみんなに見られてて、秋雲先生とか深雪に見られた時は爆笑されたし、叢雲とか山雲、青葉さん達には心配されちゃったりもした。曙はまたなんか変な事してる……って視線が刺さって痛かったです。文月は猫吊るしが見えているので普通に一緒に遊びました。あの子そういう所柔軟というか、私の頭の上を見て妖精さんと遊んでたんだなって即納得してくれたんだよね。島風は真似しようとしてコントローラーと悪戦苦闘してたけどお前がやる意味は無いぞ。
それで、他のお手伝いを色々してるうちに艤装は完成し、無事起動。私は戦場へ出る権利を獲得した。試運転と称して辺りを回ってみたのだけれど、それを見ていた吹雪さんは何故だか最初にお会いした時のような目をしていらっしゃった。猫吊るし乗っけて走ったのが悪かったのかもしれない。
あれと比較されてるの? とかって叢雲ーズが会話してるのを尻目に、陸に上がった私は吹雪さんと合流し、そのまま宮里提督と共に打ち合わせに入った。私はこれでも第四艦隊の旗艦だからちゃんとそういう場には出なきゃならないのである。
と言っても指令自体には大した変更はなく、往復して輸送する任務に雪吹艦隊の護衛と道案内が追加されるくらいだった。向こうで指揮を執ってる九曽神艦隊の大淀さんに話を通したりもしなきゃいけないけれど、まあ顔見知りではあるので問題無いだろう。胃薬が増えるかもしれないのは申し訳ないけれど。
そんな訳で話し合いはすぐ終わった。時間も遅くないので吹雪さんたちの艤装のメンテナンスが終わり次第出発となる。ほとんど変色海域のダメージだけだったのと、駆逐艦が大半だったがためにそれもあと少しで終わるとの事だった。
じゃあ準備して待ちましょうかとなった訳なのだが、そもそも私も吹雪さん達も特筆して持って行くような荷物がある訳でなし、特にする事は無かったんだよね。なのでトイレとかそういうのを除いても、ちょっと時間が空いてしまったのだ。
だからかなり気になってた吹雪さんの艤装を見せてもらう事にしたのである。いやぁ、チート能力で生み出したって言われるとどこがどう違うのかとかすっごい興味出るじゃん? そう思って触らせてもらったのだけれど……そもそも吹雪さんの艤装、改二だったから何も分かんなかったんだよね。
この世界の改二の艤装は改二になったその人固有の物になり、他の適性者に動かす事はできなくなる。これはどうも吹雪さんの物も一緒であるらしく、私には吹雪さんの艤装を使う事は不可能だったのだ。
っていうか、聞けばなんかゴトランドさんの艤装も改二だったらしいし、練度結構高そうなんだよね雪吹艦隊。性能を聞くと吹雪さんの改二は普通の――艦これの吹雪改二とほぼ同じっぽかった。私と違って真っ当に駆逐艦として強化されているようで、使えるのなら違いを体感してみたかったけれど、これが触れてもうんともすんとも言わないのである。まあ仕様上当然なんだろうけども。
ゴトランドさんの方はどうやら艦種が変わるタイプの改二だったようで、航空巡洋艦から空母に変わっているらしかった。なのでどちらかと言えば私や川内さん、長門さんみたいなちょっと変則的な強化がされた側なのだと思う。いや、輸送艦になってる私やニンジャやナイトにクラスチェンジしてるお二人と比べれば至極真っ当な進化してるんだけどさ。
私が雪吹艦隊の艤装を眺めていると、吹雪さんの方も私達の使っている艤装が気になったらしく、触っていいかと尋ねられた。勿論断る理由もなかったので、一応まだ近くに居た宮里提督に許可を取ってから背負ってもらったのだけれど、こちらは特に問題なく起動された。むしろ動かせなかった方が言い訳に困ったかもしれないから万々歳である。
特に操作などにも違和感は無いようで、吹雪さんのチートで創られた艤装が失われても普通に造られた艤装で代用が可能だと分かったのは収穫だと思う。逆はどうなんだろ、叢雲に叢雲さんのを使ってもらうとかすれば分かると思うけど……やらせるための言い訳が思いつかなかったので実行はできなかった。
流石に海には出なかったがその場でできる一通りの操作を試した吹雪さんは艤装を置くと、私に向かって神妙な顔で、さらにもう一つの頼みを切り出した。曰く、この艤装を使って元の自分の古巣への接続を試してみてもいいだろうかと。
これも特に断る理由もなく、試してみる価値はありますぜとOKしたところ、吹雪さんは目を閉じ艤装に集中し始めた。すると数秒後にはその吹雪さんの気配が薄くなる。どうやら立ったまま意識が向こうに旅立ったご様子である。なので一応、あの二人が対面するなら立ち会った方がいいかなと思い、吹雪さんの横に並んで私も同じ場所へと飛び込んだのだ。
結果、深海風の吹雪さんと普通の吹雪さんが見つめ合ってる所に遭遇してしまったという訳である。最終的にはため息を吐きながらも吹雪さんの事を認めてくれたのでやった甲斐はあったと思うようん。
ただ私の力に関してはさっさと意思疎通するなりして被害者を出すのを止めろとのお言葉を頂いてしまった。本当に申し訳ない。
四国までの航路を島風が快調にブッ飛ばし、その後ろを荷物を背負った私と雪吹艦隊が追従して行く。と言っても見えなくなる所まで行くとかそういう事は無く、ちゃんと陣形を心なしか守ってはいるような気はする。雪吹艦隊の皆さんもその速さには感心した様子で、吹雪さんも流石島風ちゃんと呟いていた。でもあれ本気出してないんですよね……
かく言う吹雪さん達もおそらくだけど本州の平均的な艦娘達よりかは足が速く、やっぱり全体的にかなり強いんじゃないかなと感じさせられる。隊列なんかも見事なもので、ともすれば集中力が他所へと向いて速度を出し過ぎそうになる私なんかよりは余程練度が高いと思われた。
とはいえ、戦闘能力の方は見せてもらう機会が無かったんだけどね。二回ほど敵がやって来たけど、こっちに来る前に撃ち抜いて沈めておいたり爆雷遠投して爆☆殺したりしちゃったから。
そんな道中だったのだけれど、変色海域は変色海域だったので気は抜けず、いつの間にか居なくなってたけど出発前には合流してたゴトランドさんも含めみんな真剣そのものといった様子だったためそんなに会話とかは発生しなかったのだった。私は無用に話し掛けられるほどのコミュ力無いしね。気になる事は多いんだけどさ。
そんな訳で島風がもっと速く行きたそうだった以外は粛々と航海は進み、あっという間に陸地が目の前に迫って来た。吹雪さん達も一安心である。って言っても彼女達の目的地は本州で、ここはまだ四国なんだけども。
陸が見えてしまえば鎮守府まではあっという間で、建物群もすぐに目視できるようになった。私達も使っていた場所なのでだいぶ見知った景色である。まぁ、九州を狙ってくために急ごしらえで改装とか改造をされた所だからそんなに立派な物ではないのだけれども、機能としてはしっかりしているので安心して頂きたい。
なんて思いつつ上陸できる場所まで吹雪さん達を先導していると、その埠頭にこちらに向かって鷹揚に手を振る人影を発見した。クリーム色のへそ出し制服を着て長い三つ編みを垂らしたどこか掴み所のない印象の艦娘、そう、ハイパー北上さまである。
先触れは出していないのでおそらくたまたま外に居たのだと思うけど、艤装を付けていないためちょっと危ない。まぁちゃんと索敵とかは行われてるはずだから大丈夫だろうけども。北上さんはこっちこっちと上がりやすい場所まで誘導してくれて、頭を振るって水気を飛ばす連装砲ちゃんと戯れながら、お帰りーと私達を歓迎してくれたのだった。
私と島風が前に居たため最初は気付かなかったようなのだが、陸地を踏んだ雪吹艦隊の面々を見て北上さんは、はてどちら様? と首を傾げた。うわー美人さんばっかだねぇなどと笑っていたが、その辺りは北上さんも大概だったりする。
「沖縄からいらっしゃった雪吹艦隊の皆さんです」
「沖縄」
流石の北上さんも驚いた様子で、六人の方を改めて確認し始めた。艦種なんかも見定めて、その中の大井さんに気付くと知らない大井っちだーと笑いかける。大井さんは無反応だった。それを気にした素振りもなく、北上さんはちょっと大淀さん呼んでくるわと執務室のある建物へと走って行った。話が早くて助かりますわ。
勝手に入るのも何なのでちょっと待ちましょうかと私達は頷き合った。渡す紹介状なんかを取り出して円滑に話が進むように準備もしておく。その時に、ふと、北上さんの駆けて行った方を見つめ続けていた大井さんが呟いた。
「北上さんが……居るわよ?」
どうやら無反応だったんじゃなくて驚き過ぎてリアクションが出なかっただけっぽい。北上さんがそんなに好きか。好きなんだろうなぁ。
「いや、でも普通の適性者ですよあの北上さん」
私が吹雪さんに色々事情を聞かされたのを雪吹艦隊の皆さんは知っている。というか、相談の上で話す事に決めたらしい。なので私の方も大井さんが集合無意識の中から出て来た存在という前提で話ができるのだ。まあ島風は知らないからあんまり聞かれないように配慮せにゃならんのだけれども、五月雨さんと一緒に連装砲ちゃんと戯れてるからたぶん大丈夫だろう。
「それは分かってるわ、墨田さんからもそう聞いていたし……」
墨田 可奈、宮里艦隊の大井さんの本名である。どうやら名字で呼ぶ事になったらしい。ちなみに大井さんは大井さんと呼ばれていた。名字って事にしたんだろうか。
「でも、あれは北上さんなのよ。北上さんじゃないのに、北上さんなの」
なんか気配とか印象とか、そういうのが大井さんの北上さんセンサーにビンビンに引っ掛かるらしい。大井さんの場合だとそんな機能も無いと言い切れないから困る。
「それは改二になっているからではなくてですか?」
北上さん、いつの間にやら改二になってるっぽいんだよね。へそ出てるから分かり易い。昨日一昨日と会った時は普通の制服だったのでまだなり立てだと思うんだけども、ともかく、なったからには集合無意識の北上さんからその一部を与っているはずなのだ。だからそれを誤検知してるとかじゃあないだろうかと思ったのだけれども。
「そう、なのかしら。改二なら確かに納得が……そうよね。印象は北上さんそのものだけれど、別人というのは分かるし……いえ、待って。あの北上さんは北上さんから認められた一部に北上さんを含む北上さんという事なのだから実質北上さんなのでは……?」
「吹雪さん、食糧問題解決したらまず北上さんを呼んであげた方がいいと思います」
「北上さんの艤装まだ造れていないんですよね……」
誤検知っていうか禁断症状で過敏になってるだけかもしれない。北上さんがこっちに顕現したらえらい事になりそうだけど、まあ大丈夫だろう。北上さんだし。会った事無いけど。
大淀さんはわざわざこちらまで出向いて吹雪さん達を中へと案内してくれた。大きめの応接室とか設置されてないのでブリーフィングルームでの対応になったけれど、ちゃんと席などは用意されており、できる限り丁寧に扱おうという心遣いは感じられた。クッションとか敷かれてたんだけど誰かの私物なんだろうか。
紹介状に目を通した大淀さんは自分の手に余るとして、殆ど躊躇もなくホットラインを起動した。ただ私が魔力とか言い出した時よりは落ち着いた様子で、困ってというよりはこの件を楠木提督に直接伝えるべきだと判断したからっぽい印象である。変なとこを通したくなかったのかもしれない。
そうして吹雪さんと楠木提督は直接話をして、説明や質疑応答などをこなして行った結果、雪吹艦隊は陸路と海路を使って本州まで移動する事が決定された。とにかく一度大本営側で色々検査したり必要な情報を交換したりしたいという話で、吹雪さん達の目的にも合致していて特に反対意見も出なかったため、明日には出発になるらしい。
大本営側の準備なんかもあるために今日はこの鎮守府で一泊して行く事になるそうで、大淀さんは部屋を用意しますねと鎮守府の人達に指示を出しに行こうと席を立った。その指に、キラリと光る指輪が一つ。あれなるはどう見てもケッコン指輪、島風や長門さんが持っている物と同じ奴である。九曽神提督ってば大淀さんに送ってたのね。間違いなく霞にも送ってると思うけど。そのうち大淀さんも戦場に出れるようになるかもしれない、あれにどれくらいの効果があるのかはよく分からんけども。
大淀さんは私の視線には気付かずに外へ出ようと扉を開いた。その瞬間、開いた扉の向こうから倒れ込んでくる四つの影。卯月と照月と北上さん、それに九曽神提督である。聞き耳を立ててる事には気付いてたけど、相変わらずノリが良い人達だなぁ。後ろで秋月が愛想笑いを浮かべていた。
諸々の手配を手早く済ませた大淀さんに呼び出され、私は執務室で沖縄の事とは関係ない九州遠征部隊の現状を報告した。長門さんが改二になったとか特殊変色海域の主を討伐したとかその辺りの話はかなり食いつきが良く、隠し切れずに喜色が露わになっていた。やっぱり秋月の件は気にしてたんだなぁ。実は私が背負ってきてた荷物がそいつの入った死体袋だったのだが、それに関しては研究機関に送りますねと引きつった笑いで答えてくれた。
「こっちでは問題は起きていませんか?」
必要なら宮里提督に伝えなければいけないので聞いてみたけれど、特にこちらで何か考えなければならないような事は無いようだった。私達の使っていた施設をそのまま使っているので各所スムーズに動いているらしい。まあ九州まで持って行けない個人の所有物が残されてたりはするのでその辺りの取り扱いは注意してるみたいだけれども。
「まあなんというか……個人間の問題なら起きてるんですけどね……」
なんて事を、大淀さんは右手の人差し指に付けた指輪を見つめながら呟いていた。
大淀さんへの報告も済ませ、持って行くべき資材なんかは既に輸送艦吹雪に積み込まれているというので、私達はすぐに九州に戻る事になった。とりあえず吹雪さん達とはここでお別れである。話したい事とかはまだあるけど……まあ、個人の都合で作戦に支障を出す訳には行かないから仕方ないね。
艤装を受け取りに工廠まで行くとそこには既に島風が居て、卯月や照月と一緒に連装砲ちゃんと遊んでいる。秋月も浮輪を付けた子を撫でていて、その子は嬉しそうにミューと鳴いていた。
そろそろ出発する旨を伝えると、なんでか卯月が駆け寄って来て、目の前でくるりと回って何処か自信有り気な笑みを見せる。どうした急にと用件を問えば、卯月はふっふっふと笑い始めた。
「うーちゃんはこないだ会った時よりちょっと魅力的なれでぃになりました! さて問題だぴょん!! 一体どこが変わったでしょ~か!」
「指輪してる」
何か言い始めたので即答してやった。いやだって、なんか明らかに指輪付けてるんだもん、左手の薬指に。ケッコン指輪。
卯月は難しい顔で呻った後、正解っ! と破顔した。年齢的に元ネタ見た事あるか怪しい気がする。
「卯月ケッコンしたんだって。九曽神提督と」
「その言い方は物凄い誤解しか生まないと思うんだ」
籍入れたみたいに言うんじゃあないよ。大体あの人本命霞だろ。
「しかもうーちゃんだけじゃないぴょん! 重婚だぴょん! 酷い男も居たもんだぴょん!!」
「誤解の広がる表現をわざとするのは止めたげてよ」
なお言ってる卯月はニッコニコである。九曽神提督と普通に仲良かったみたいだからなぁ。恋愛感情かどうかは知らんけど。
「秋月姉も貰ったんだよ」
私の分はなかったけどね!! などと照月は元気よく言った。悲壮感とかは全く無く、むしろ笑っていた。たぶん本気で気にしてないと思われるが、私はその辺りの機微はそんなに鋭くないので真相は不明である。
暴露された秋月ははにかんだような表情で胸元から首に掛かった紐を取り出した。飾り気のない、どこにでもありそうな普通の紐だ。その先の方には、案の定指輪が付いている。こちらに軽く見せてくれたのだが、何やら恥ずかしくなったのか、すぐにまた仕舞い込んでしまった。
いやその……何? なんか卯月と違って反応がガチっぽいというか……卯月は明らかに冗談で薬指に付けてるんだけど、秋月はなんか……何? そういうのだったの? 涙を見せれる相手だってのは気付いてたけども。
「……ごケッコンおめでとうございます?」
何を言うべきか困った結果、そんな言葉が飛び出てしまった。照月と卯月は噴き出して、秋月は顔を真っ赤にした。
「それでさ、聞いてよ吹雪、島風! 提督ってば、変なとこヘタレなんだよ!」
照月が笑いに言葉をつっかえさせながら糾弾する。それはもう、大淀さんの言ってた本当の意味を凡そ察せてしまうような事実であった。
「絶対渡す気マンマンなのに、あの人、霞には指輪渡せてないんだよ!!」
大丈夫か照月、貴女のお姉さん、隣でちょっと曇ってますよ。
「雪さん、また元気でお会いしましょう」
これからまた戻るの大変だね、なんて九曽神艦隊の皆と話をしながら出航の準備を進めていたら、出歩くことを許可されたらしい吹雪さんがわざわざ見送りに来てくれた。戦いが続けばまた会う事もあるだろう……というか、改二だし強いだろうから吹雪さんも大規模作戦には呼ばれるんじゃなかろうか。
「はい。吹雪さんもこれから大変だと思いますけど、どうかお元気で」
私は元気が有り余ってるので問題ないけれど、吹雪さんは沖縄艦娘の代表者なのもあって色々とやる事が多くなるだろうから体には気を付けて欲しい。楠木提督は使える人なら使い倒すっぽいからなぁ。ある意味信頼の証なんだろうか。
まあそれはそれとして、なのだけれど。
「あの、吹雪さん。ちょっと気になってたんですけど、私に敬語を使わなくていいんですよ?」
実はこれ、ずっと気になっていたのである。艦時代を入れれば私の方が遥かに年下で、肉体年齢も同年代のはずだ。だから使われる理由が全く無い。存在の大きさ的にも吹雪さんの方がずっと上だし。使われる理由が本当に無い。
「ああ……その、雪さんはとっても強いので、自然とこうなってしまったんですよね……」
ああーと私の周りの駆逐艦共はみんなで納得の声を上げやがった。たぶんみんなが思ってるのとは違ってチート能力の強さの話なんだけど、実際に挙げてる戦果的にもまったく否定できないから困る。
「でもそうだね、私も雪さん……雪ちゃんとは仲良くしたいから、止めようかな」
吹雪さんはそう言ってこちらに歩み寄って来る。そして私の手を取ると、その顔に満面の笑みを浮かべた。
「ただし、お互いに。ねっ?」
ええ、なんだか畏れ多い。とは思うのだけれど、ここで断るのは悪いだろう。願望込みで好意でだと思うし、私も仲良くできるのなら仲良くさせて頂きたいのが本音である。
「うん、じゃあよろしく、雪吹さん」
周りの皆がん? って顔をした。皆は吹雪さんのフルネーム知らないから仕方ないね。なんせ私もいぶきで吹雪さんもいぶきである。字は違うみたいだけれど、読みは一緒なのだ。
「あれ、何かむしろ距離が遠くなったような……」
「いや私、女子の呼び方名字にさん付けがデフォだから……」
何せ島風すら本来島さん呼びである。雪吹さんの場合は吹雪が人間としての名前でもあるせいで名前で呼んでるみたいになってただけなのだ。
「……吹雪でいいよ?」
「はあ、じゃあ、まあ、よろしく。吹雪」
なんかすっっっっっっっっっっごく気後れしちゃうんだけども、なんかそういう事になった。横で島風がオウッと鳴いた。
「それじゃあ、みんなまたね」
「まったねー」
準備が終わり、私と島風は艤装を背負い海に出る。見送ってくれる皆に手を振ると、声を聞きつけて来たのか北上さんや一緒に居たらしい大井さんも姿を現した。そういえばお話できなかったなぁと思いつつ、一応お祝いの言葉を送っておく。
「北上さーん! 改二おめでとうございまーす!」
北上さんはにっと笑ってありがとーうと大声で返すと、制服のポケットをまさぐり何かを取り出した。それをこちらに向かって掲げると、自慢するように見せびらかした。
「提督からこんなんもらっちゃったわー!」
見ればそれはケッコン指輪である。北上さんも貰ってたんかい。っていうか、これもしかして特別感無くす事で霞に渡しやすくしようとしてたりする? どんだけ霞に素直になれないんだ九七。
などと思う私の視線の先では大井さんがゆっくりと卒倒していた。どっとはらい。
出会った時にはもう勝負ついてた秋月さん。