九州は変色海域から解放された。
あの後、練習も兼ねて谷に埋まった深海棲艦達も外から浸透勁で叩き潰した私達は多量の霊的資源を持って泊地まで帰還した。一部水流に乗ってどんぶらこと海へと消えて行っちゃったのはちょっと勿体なかったけれど、たぶん八割以上は回収できたと思うのでまあ及第点だろう。中にもちょっと残ってるっぽいけど掘り返すのは危ないし時間もかかるのでやめておいた。
戻って来てまず目に入ったのは私達と同じように帰還した他の艦娘達と、その彼女達に向かって涙を浮かべながら礼を言い続ける熊さんと向かい合ってた男性だった。聞けばこの人海が青色に戻る瞬間を目撃していたらしく、あまりの驚きに暫く腰を抜かしてしまっていたらしい。そして立ち直ったら今度はそれを成し遂げた艦娘達に対して感謝の気持ちが湧き上がりまくって来たそうで、最終的に実行犯だった私達地上探索班に対しては地に頭を付けんばかりの角度で礼を行っていた。片割れの女性の方は流石に引いてた。
宮里提督や大淀さんは繋がるようになった本州への通信で忙しそうで、漏れ聞こえた所によるならば、どうやら私達は体制が整い次第北海道へ殴り込みへ向かう事になりそうだった。燃料やらなんやらは今さっき回収したそれの元が私の背にたんまりと詰め込まれているし、もしかすると三期の適性検査を待たずに北海道も取り返せるかもしれない。
問題はやっぱり防衛の方で、どうしたって人数が要るからそこがどうにもならないようなら召集を優先する事になるだろうって話である。ただこれも、吹雪さん……じゃなかった吹雪が居るから割とどうにかなりそうなんだよね。数自体を増やせるのってやっぱり強い。普段使いするなら突出した戦力一人よりもそこそこ戦える人間を複数って方が利便性は遥かに高いのだ。代わりに一点突破が必要な場面では私みたいなのも役に立つだろう。っていうかこれに関しては立ってた自信がけっこうある。クジラとか自爆した北方棲姫とかの時に。
吹雪さ……吹雪がガンガン人数増やしたら沖縄がヤベー所扱いになるような気もするが、その辺りは楠木提督がたぶん何とかしてくれるだろう。これで転生者でもなんでもなかったら逆に笑えるけれど、ゴトランドさんと知り合いなのは確定だから何かしら事情を知ってはいると思う。ゴトランドさんが黒幕の可能性も否定できないけれど、ゴトランドさんも信用して大丈夫だと私は思い込んでいるので問題ない。
そういえばあの時ゴトランドさんと一緒に居たリベッチオは今どうしてるんだろう。あの子も推定転生者で、私の勘だと私と同じ超戦闘力なチート能力持ってると思うのだけれども、彼女もどこかで戦っているんだろうか。同じように強い変な奴にぶつけられたりしてるのかな? ちょっとお話してみたいけれど怯えられてたから応じてくれないかもしれない。今思えば私チート能力野放し状態なんだからそりゃ見る人が見たら怖いよねえ。それが分かったせいなのかは知らんけども。
その後、数日間深海棲艦の攻勢が無いか備えつつ九州内部の深海棲艦の討伐を――主に私が――行い、沖縄の各島までの航路が拓けているのも――九州で地上戦してた私と島風を除いたみんなが――確認し、宮里艦隊は北に向かう事になった。
九州は南側を八月朔日艦隊、北側を提艦隊が担当する事になり、提艦隊は対馬の奪還に向けて作戦を展開して行くとの事である。八月朔日艦隊は二期生が大半を占める艦隊だけど、九州沖縄間に敵があんまり確認されていないから任せても大丈夫だろうと判断されたんだと思う。知り合いは四国でご一緒した桃くらいしか居ないからよく分からんのだけれどもね。
沖縄はやっぱり雪吹艦隊の縄張りだからってそのまま託される事になった。今までと違ってちゃんと私達と同じ組織に組み込まれる事にはなり、そのため司令官が派遣される事になったらしいんだけど……吹、吹雪が言うには彼女が呼び出した大淀さんがその地位に就いたとの事だった。安心なんだか何なんだか。っていうか楠木提督戸籍とか経歴とか偽造してない? そういうのできるタイプの人だったのか……
北に向かっては久々にバスに乗っての大移動である。最初に比べると人数も増え、皆打ち解けているので車内はだいぶ騒がしい。宮里艦隊に所属していた戦闘部隊でない人達の一部が八月朔日艦隊に異動になったりして人数は減っているのだけれど、それでもバス三台に分乗する形になったのだから私が交流してない人達の数に今更ながらびっくりする。いや夜勤の人達とかぜんぜん生活時間重ならないから仕方ないんだけどさ。
私が乗ったバスには召集組の戦闘部隊の皆が揃っていた。一期二期それ以外と関係なくみんな居て、そうなると当然成人してる皆さんも揃っている訳である。でも流石に大っぴらに酒盛りを始めたりはしなかったから安心して欲しい。精々中身の見えない響さんの水筒をポーラさん隼鷹さん等が飲み回してただけである。中身は茶色っぽかったからきっと麦茶かなんかだろう。
私も結構会話に参加させられて、流れで文月とデュエットさせられたりもした。なんでカラオケ付いてんだこのバス。つーか文月歌も死ぬほど上手いんだけどさっさとデビューして欲しい。あと連装砲ちゃんにマイク持たせたらすっごいノリノリだったし音程も大体合ってた。三体でキャーキャー歌っててすごくかわいかったです。
我々は九州の向かいから北海道の向かいまで高速道路も使って乗ってバス一本で行く事になっている。これは警備上の問題とかが大きく、私達の世間からの注目度があんまり良くない形で発揮される恐れがあるからであるらしい。そうじゃなきゃ電車の方が早かったんだろうけどね。車の数自体が減っているため移動自体は結構スムーズで、渋滞なんかは余程酷い事故でもなければ大丈夫そうだ。
当然休憩は何度か挟む事になる訳なんだけれど、トイレに行くなら外に出ねばならず、場合によっては順番待ちになってしまう。その時にこっちを気にしない人ばかりならいいけど、どうやったって目に入っちゃうの自体は避けられず、困った事に無駄に知名度のある人間が我々の中に複数いる。だからと対策のために私達に渡されたものがサングラスとマスクである。
まあ確かに、これ付けてればじっと見られない限り正体を看破されないかもしれない。他の顔が割れてない人達もマスクは渡されて、島風や龍驤さん、暁教官長や飛鷹さんなどのメディア露出しちゃった組はやっぱりサングラス装備をさせられている。当然長門さんと宮里提督も……なんだが、長門さん長身で長髪で有名人だから普通にバレそうなんだよなぁ。っていうか時代的に全員マスクウーマンは普通に怪しいというか逆に目立つような気がしてならない。実際バスから皆で出たら何事かと見られてたし。
でもまあ、その場で騒がれなければ気付かれても大した問題じゃないんだよね。長くそこに留まる訳じゃないし、北へ注力して行く事は発表済みだから私達がそっちへ行く事も大方の予想通りだろう。よく見るスレでもどうせ九州もあいつらがやったんだろうし北もあいつら行くだろくらいの感じだったし。なんかリークマンが居るみたいで割と艦娘の情報漏れてんだよなぁ。信じられてるかは微妙だけど私から見たらそれなりに正しい奴がさ。
なんて思いつつ二回目の休憩である。特に混んでいるという事もなく、むしろ止まっていた車は二台だけと閑散としていたのが私達のせいでにわかに騒がしくなってしまったパーキングエリアで用を足し、開いていない売店を見て経済活動滞ってるんだなあと実感しつつマスク越しに外の空気を味わわせてもらう。
「こういうの見てると切なくなるねえ」
話し掛けて来たのはばっちりマスクを付けた秋雲先生だった。建物はゴミが散らかっていたりはしないため小汚い印象ではないが、人の出入りが殆ど無いせいか雑草なんかが生い茂っているので廃墟感が出てしまっている。むしろちゃんとトイレが整備されてるのが凄く有難い事なんだろう。
後ろの方から開いてない? マジかぁ、とか言葉を交わす男の人達の声が聞こえてくる。車で連れ立ってやって来たのだろうか、食料とかの当てにしてたのならちょっと可哀想。
「ここで働いていた人達は今どうしてるんでしょうね」
海に近い訳ではないし、あの日深海棲艦に襲われた可能性は低い。でもその後どうなったかは全然分からん。配給される紙製品とかを余裕ある人に売って糊口を凌いでる人だって居る世の中だしなあ。
「それは分かんないけど、とりあえずちょいとそのままね」
秋雲先生はそう言うと、取り出したスマホで私の横顔を撮影した。いやサングラスにマスクの中学生撮ってどうすんですかね。
「吹雪って表情変えずに雰囲気だけ変えるの得意だよねえ」
イラストにするの難しいんだよ、とか秋雲先生は笑っておっしゃった。え、だから撮ったの? 一体どんな感じだったんだ私。いや今じっくり描いてられるほど時間に余裕ないからってのもあるんだろうけども。
「この不審者スタイルでも分かるくらい雰囲気変わってます?」
「なーんかセンチメンタルな雰囲気だったねぇ」
いやまあ感傷的って意味では合ってるけども。撮られた瞬間にはもう霧散しちゃってそうだけどなあ。
「そういえば移動中の事も描かれるんですか?」
「連装砲ちゃんトリオのお歌は絶対描くよ~」
「楽しみにしてます」
秋雲先生の連装砲ちゃんすごいかわいいからね。SDキャラとかミニキャラとかがとてもお上手なお方なのだ。私の言葉に秋雲先生はクスリと笑うとスマホをスワイプしつつ思い出したように言葉を続けた。
「あと、川内さんがすごい自然に召集組に溶け込んでるのも描きたい」
「一人だけ賭けダウト参戦してましたもんね……」
お昼のおかずを賭けて開かれた問題の賭博であったが、川内さんは注意もせずにノリノリで参加していた。まあ宮里提督もレートをそれ以上にしないのならとやかくは言わないってスタンスだったんだけども、流石にプレイヤーまでやったのは川内さんだけである。長門さんもこれには苦笑い。ちなみに一位に最下位が一品譲渡するルールで、川内さんは四勝三敗で一品獲得である。極端な戦績だなあ。
「んー、しかし、やっぱサービスエリアの名物とかは全滅かもねえ。ちょっと楽しみにしてたんだけど……」
「交通量が多い所は残ってるかもしれませんけど…………? あ、秋雲先生ちょっと動かないでくださいね」
へ? と不意を衝かれて言葉通りに停止した秋雲先生の顔に、私は掛けていたサングラスを素早くかつ丁寧に押し付けた。ちゃんと外れないよう耳に掛け、痛くない程度にしっかりきっちり装着させる。
「え、何々!? 暗っ、じゃなくて、サングラス? 急に何!?」
どうやら動作が早すぎて何をされたか視えなかったみたいだけれど、状況はすぐに理解できたようだった。この辺りの判断力の高さが最前線でやって行ける事の証左なんだろうなあ。
「静かに……撮られてます」
秋雲先生の向こう側に焦点を合わせれば、さっき会話してた男性二人組の片割れがこちらに向かってスマホのカメラを向けている。角度的に閉店してる建物を映してるって感じでもない。景色を撮ってる可能性は無くもないけど、どっちにしろ私達が入っている事には変わりないだろう。指の動きから見て動画かな、一回だけ音がしていたし。
秋雲先生はあちゃあと肩を落とすと私の視線を追って後ろの男を睨みつけた。気付かれた事に気付いた男がスマホを仕舞うのを確認すると、まいったねぇーと言いながら、私の肩を優しく押してバスに向かって歩き出す。
「サングラスありがとね」
私がサングラスを着けていたのは私が吹雪であると気付かれないようにするためだ。既に面が割れてる以上気付かれた後には着けてても意味があんまり無い。だから秋雲先生の顔を撮られないようにするために渡したんだけど……その意図も理解してくれていたらしい。意味あるといいんですけどねぇと苦笑いで返すと秋雲先生もほんとにねえとため息混じりに深く息を吐いた。
いやしかし、しぶといというか図太いなあの男の人。秋雲先生の視線が外れたとたん撮影再開してらっしゃりやがるわ。どうやら本当に私達を撮っていたようで、カメラは完全に私と秋雲先生を追っている。ちょっと手振って脅かしとくか。ファンサにしかならん気がしなくもないけれども。
なんてやってた数時間後。次の休憩時間である。バスがパーキングエリアに入ると、そこにはそこそこ多くの車が止まっていた。さっき停まった所よりもだいぶ都会に出た関係で交通量自体が増えていたから、利用者が単純に多いんだろう。これなら売店も開いてんじゃね?
って呑気に思ってた私の耳に、外でされてる誰かの会話が飛び込んでくる。曰く、あれじゃね来たぞほんとだあれだ当たったバッテリー切れた。うーんこの。明らかにこっち向いて言ってる聞こえ方してるんだよなあ。なに、アイドルかなんかの出待ち?
宮里提督に報告すれば、じゃあ一旦ここはスルーして少し先の所に行きましょうという事になった。それで解決するんだろうかと思いつつ、ちょっとネットを調べてみれば、さっき撮られた私と秋雲先生の動画がおもっくそ投稿されてバズってた。なおファンサの効果は絶大だった。私ってば阿呆すぎない?
私達がこれかあと動画鑑賞会してる間に宮里提督は電話で何やら遣り取りをしていて、漏れ聞こえた感じだとどうもこの程度なら想定内の事だったようだ。暫くしたらバスは一旦高速道路を降り、そのまま行きついた先には複数の普通の車が待機していた。どうやら目立つバスから降りて三々五々に分乗して目的地に向かうらしい。
特に誰がどの車とかは決めていなかったらしく、宮里提督の配慮の足りない体育の授業みたいな台詞と共に私達は自由に組を編成する事になった。まあ、当然のように島風がこれにしよーって私を引っ張って行った上連装砲ちゃんで座席が埋まったから私は何も悩まなくて済んだんだが。
乗り込んだ車はそこそこ横に幅があり、私と連装砲ちゃん二体と島風が並んでちょっと余裕があるくらいだった。三体並べるとぎっちりしてしまうので島風の膝に浮輪を付けた子が座っている。狭くなるから外した方がいいんだろうけど、そうすると悲しそうな顔するのよねこの子。まあしょんぼりしてるのもそれはそれでかわいいけどかわいそうだからそのままでいいか。
私達が座るよう言われたのは後部座席で、運転席と助手席は自衛隊の人達が使用するとの事だった。後部側の左右の窓はブラインドが置かれ私達が見え辛いようにしてあるけれど、前の方はそうも行かないからだろう。
先に乗り込んだ私達が連装砲ちゃんのポジションを試行錯誤していると、バタバタとハンドル側の扉が開かれて、にゅっと多摩さんが入って来た。なんか全体的に動作が猫っぽいんだよなあ、以前よりさらに影響が進んでいるような気がする。次いで開いた逆側の扉からは皐月さんが顔を見せ、私を見るとげっと呻るように硬直して、直後には愛想笑いを浮かべていた。
皐月さん、医官だからか私の体が変な事がよく分かるらしくドン引き勢の一人なんだよね。嫌われてるって感じではなくて、なんかこう……人間かどうか疑われているような気がする。友好的ではあるから安心して頂きたい。DNA的にはたぶんホモサピエンスだし。
出発する他の車に続いて多摩さんもブレーキから足を離して発進した。どうやらオートマであるらしい。来た道とは違う通りを伝って再度高速道路に入り、並ばずそれぞれバラバラに目的地に向かって走って行く。ここからは休憩も任意で取る事になり、顔の割れてる私や島風以外はマスクも取ってしまうんだそうだ。ちょっと羨ましいかもしれない。私達は外せない……っていうか下手したらトイレ行くために高速降りなきゃいけないからなあ。
バスの時とは打って変わって粛々と車は進んで行く。私は基本話しかけるの苦手だし、島風はなんか連装砲ちゃんの可動部の汚れが気になったらしく早々に手入れを始めてしまった。連装砲ちゃんはそこに手を入れられるたびにくすぐったそうにキャーキャー鳴いている。かわいい。皐月さんはこっちを気にしているようだけど特に話す事は無いのか無言だし、多摩さんは運転にかなり集中していた。ここで事故ると責任がヤバいだろうからプレッシャー凄いんだろうなあ。面子が現状替えの利かない人員ばっかりですもんねこの車。
とはいえ暫くすると高速にも慣れ、ある程度多摩さんの筋肉から強張りが消えてくる。そうなると口を開く余裕も出て来たのか、多摩さんはまるで世間話でもするかのようにこちらに向かって話し掛けて来た。
「そういえばこの間検査したら基準値超えてて、明日から多摩も戦闘部隊入る事になったにゃ」
オウッと島風が鳴き声を上げた。連装砲ちゃん達も口々に鳴いた。たぶん祝福してるんだと思う。私の口からもおお、と感嘆のような声が漏れた。多摩さんは前々から戦闘部隊に入れないのを気にしていたし、きっとめでたい事だろう。実際大変なのはこれからだろうと思うけれどもとりあえず、おめでとうございますと口に出して伝えておいた。
「ありがとにゃ…………ただにゃ……」
ミラーに映る多摩さんの顔にはちょっと複雑そうな表情が浮かんでいる。そりゃあ急な話だし、何かしら不安はあるんだろうなと思ったのだけれど、実際にはそれとはちょっと違う問題が発生していたようだった。
「多摩の能力だと宮里艦隊に付いて行くのは厳しいから、賀藤艦隊に移籍する事になったんだにゃ……」
宮里艦隊はとても強い。私が居るせいで世間からの評判は取られがちなんだけど、元々訓練所での成績が優秀だった人達が最前線で経験を積みまくった結果磨き上げられた、精鋭揃いの部隊なのである。
割と初期に昇格した三人――飛鷹さん、川内さん、暁教官長はまだ大丈夫だった。空母の飛鷹さんは戦闘部隊水準の空母ってだけでも重宝されたし、川内さんもまだまだ研磨が不十分な面子に付いて行けたし、教官長はなんか能力バグってる。
二期生の合流組の三人――文月、響さん、那智さんも最初は苦労していたようだったけれど、そもそも三人とも訓練所で最上位の成績だったのだ。言っちゃえば才覚が違うし、加入した前後はそこまで激しい戦いはしてなかった(当社比)ので成長させられるくらいの余裕もあった。その少し後に加入したポーラさんも元々楠木提督指揮下で戦っていたため十分な経験値を獲得して……いやあの人飲みまくって他の人より訓練時間とか短いのに普通に強いらしいからやっぱり天才の領域だわ。一人だけ海外艦部隊から宮里艦隊に来るだけあるわ。
ともかく発足から半年以上が経過し成長を遂げた今の宮里艦隊戦闘部隊に、新人が生半可な才で編入する事はできないらしいのだ。させられた人間が死んでしまうから。
「そういう訳で吹雪と島風と連装砲ちゃん達とは今日でお別れなのにゃ……」
名残惜しそうに多摩さんは言う。思えば多摩さんには配属初期からお世話になり続けている。収集部隊の乗る船の操舵手であったり装甲車の運転手だったりしていたし、懐かしい所ではお風呂掃除もやっていた。普段は全然違う仕事をしているからあんまり顔を合わせないんだけど、要所要所で関わり合いになり、今もこうして目的地まで連れて行ってもらっている。私の世話になった人ランキングでも上位に入る一人なのだ。
「みんな元気でにゃ……」
うん。ありがとうございます…………いや、うーん。その。本当に有難いんだけれど、でも、多摩さん、お別れってそうは言いますけれども。
「賀藤艦隊ってこれから行く着任先で合流しますよね……?」
賀藤艦隊。生放送にも出た、夕立の所属する北部最強の防人である。鎮守府の位置は今向かっている場所と全く同じ。当然宮里艦隊とは合同作戦になるし、なんだったら私と島風はともかく他の部隊は連合を組んで一緒に行動する場合もあると布告されている。なので戦闘部隊入りで生活サイクルがそっち準拠になるならむしろ会う機会増えません? ミーティングとかで。あと、賀藤艦隊って北の精鋭って言われるところだから、多摩さん普通に期待されてる……っていうか人数バランスとかでそっちに回されただけじゃないですかね……?
「その通りにゃ。だから改めて、これからまた暫くよろしくにゃ!」
今後賀藤艦隊と別れたらその時こそ本当におさらばですってなるのだろうけども、それがいつになるかは分からない。北海道って広いし、敵の数次第じゃ第三第四の適性検査を待ってからというのも有り得る訳で。逆に一週間後に決戦しまーすって可能性もなくはないけれど、流石にそんな無茶は……九州のやり方見てると無いと言い切れないのが困るなあ。
島風はちょっとしんみりしてたのか、むぅーと頬を膨らませ、思わせぶりなのは良くないと思いまーすとぶーたれた。ごめんにゃと返す多摩さんは完全に緊張は抜けた様子で、私達はすいすい高速道路を進んで行く。その横で、今度は皐月さんが複雑そうな表情を浮かべていた。
「皐月は言わなくていいにゃ?」
「その振りしたら言わなくてもほとんど同じだと思うんだけど」
その様子に気付いた多摩さんは軽い調子で話を振った。渋い顔になってしまった皐月さんは私の方をちらりと見ると、悩ましい様子でゆっくりと喋り出す。
「ボクもね、一応戦闘部隊水準にまで適性値が上がったんだ」
語る皐月さんはどうにも嬉しそうな様子ではない。いや、本来はむしろ喜ぶ方が希少なんだろうけども。
「たださ、本当にギリギリなんだよね。多摩の1/5くらいしかなくって」
戦闘部隊の採用基準が150、ギリギリだというのなら160行かないくらいなんだろうか。とりあえずその5倍というのなら……多摩さん750前後? 実数でどれくらいの強さになるのかはよく分からんけれども、やっぱ多摩さん結構強いのでは? 2000ちょっとの那珂さんが凄い強いと評判になってたくらいだし、たぶん悪い数値じゃないだろう。逆に、皐月さんは宮里艦隊の戦闘部隊に入るには適性値が足りていないと思われる。
「ボクは元々医療関係の知識があるから宮里艦隊に配属されてるんだ。収集部隊に居たのも、吹雪に何かあった時にすぐ処置ができるようにだしね」
私は知らなかったのだけど、戦力として頭のおかしい私を損なわないようにするために、宮里提督たちは最大限の手を尽くしていたらしい。その実行された中の一つが皐月さんだったのだそうだ。言われてみれば、淡路島の時に皐月さんが探索メンバーに入っていたのも医師免許持ちだからなんでしたっけ。
「だから今回も戦闘部隊に直接は入らない事になったんだよ」
代わりにもし何かあったら前線まで自力で駆けつける事を期待されるようになったらしい。つまり、私と島風が同時に動けなくなったりしたら、皐月さんに救援任務が回ってくる可能性が生まれたという事である。勿論一人で行かされはしないだろうけれど、その場で処置できるかどうかで生存率が変わって来る事態なんていくらでも考えられるからね仕方ないね。
「まあそういう訳だから……あんまり無理しないでね?」
皐月さんも収集部隊で仕事をこなしていた以上海に出る覚悟が無い訳ではないんだろうけども、私達が負傷するような場所に出動して生きて帰れる気はしていないらしい。だいたい吹雪の年でっての自体……って口の中で呟いていたので、どうやら純粋に私達を心配する気持ちもあるらしい。本当に内心複雑だったんだろうなあ。
「今後ともよろしくお願いします」
「お願いしまーす!」
私と島風は軽く二人に頭を下げた。連装砲ちゃんも真似して鳴き声を上げつつ頭を下げた。かわいい。
その後暫く順調に進み、また休憩を挟もうかと車内の意見が一致した頃。多摩さんの持たされていた連絡用の携帯電話に大本営側から着信があった。多摩さんが出ればその相手は他の誰でもなく楠木提督である。流石に存在しない猫尻尾と猫耳がピンと伸びた多摩さんが緊張した声で応対すれば、最寄りの海岸に車を置いて海から北に向かってくれとの指令が電話の向こうから下された。
どうやら九州を解放して以降敵の襲撃頻度が増えてしまったとかで、発見された敵艦隊の迎撃に向かう人手が丁度欲しかったらしい。ついでに皐月さんと多摩さんもちょっと実戦してきなさいという話である。
当然従わない理由も無かったので、艤装を乗せたトラックと合流して回収しつつ、私達は青い海へと繰り出した。結果、やっぱり皐月さんはそのまま戦闘部隊入りは厳しそうだという事がよく分かった。技量云々は置いておいて、純粋に速度差が多摩さんと比べても結構あるから、足並みをそろえるのが難しいのである。
逆に多摩さんは問題なく前線を駆け抜けられそうだと思われた。私がフォローする前提で撃ち合いなどを試してみたのだけれど、多摩さんは敵軽巡に一人で勝って見せたのだ。初実戦でこれなら十分だろう。他の敵は予め私が沈めておいたから複数相手だとどうなるかは未知数だけど、きっと経験豊かな賀藤艦隊の人達が支えてくれるはずだ。皐月さんは相変わらず無茶苦茶だねと乾いた笑いを漏らしていた。
そうして私達が目的地の賀藤艦隊本拠地に辿り着いたのはもう夜も更けてからの事になった。時間に間に合わせるために皐月さんと多摩さんがそれぞれ私と島風に曳航されて海の上を引き回される事になったのはご愛敬である。
他の面々と海の側から合流し、なんで艤装を背負っているのか説明しながら、これから世話になる鎮守府の敷地内へとみんな揃って踏み入った。建物は今まで私達が回って来たところがそうだったように新築ではなく若干古めかしかったりしたが、しっかりと補強された跡があり拠点としては中々頑丈そうに見える。
規模としては過去最大で、昨日まで居た泊地と比べればずっと過ごしやすいだろう。工廠や食堂なんかも大規模で、もう遅い時間だというのに活気のある声がそこかしこから聞こえていた。それもそのはずこの鎮守府、三つの艦隊が合同で使う前提で整備されているからである。
まず車内でも話題に上がっていた最初期から北の防衛を預かっていた賀藤艦隊、ここが最初にこの地に着任した艦隊だ。そして今最後に到着したのが我々、南からの刺客、宮里艦隊。それともう一つ、私達より前から防衛に従事している艦娘達もこの中で暮らしているのである。その艦隊の名は五十嵐艦隊。淡路島の生存者と海外艦という極端な人員で構成された最も新しい艦隊である。
まあ、どの艦隊と組んだとしても私と島風が二人と三体でお使いなのに変わりはないんですけどね!!
出迎えてくださった司令官の大淀さんに案内され、まず私達は艤装を置きに、他の皆も自分の物の状態を確認するために工廠に向かう事になった。長距離の移動で不調が出てたら困るからね、襲撃が多いという北の地でいつ出撃になるか分からない以上当然最優先事項である。
明かりの点いた入り口から中に入ると外から見た印象通りに内部はかなり広々としていた。特に天井はかなり高く、鉄骨の梁が複数通っているのが見え、その上から様々な音が漏れている。設置されたクレーンも空間に余裕があって動きにかなり融通が利きそうだ。その下の作業場は絶賛稼働中のようで、知らない明石さんと完全に知らない工作艦の艦娘が忙しそうに艤装の修復を行っていた。
気になる事は幾つかあるが、とりあえず艤装の置き場を探さねばならない。私がどこだろうと周りを見回していると、島風がささっと走って行ってしまい、艦名もよく分からない工作艦の人にお願いしまーすと身に着けていたそれを受け渡し始めた。親切そうな笑顔で対応してもらっている。あれに続けば大丈夫だろうと私も自然とそちらへ吸い寄せられた。瞬間、頭上から感じる鈍い殺気と何かが風を切って落ちる音。
「お命頂戴っぽい!!」
「上から失礼いたします!」
魚雷を手に頭から突っ込んでくる夕立と、投擲した錨を操り鎖で私を絡め取ろうとしている浦波だった。梁の上からの奇襲である。浦波の鎖は一瞬で私の周囲を囲み、縛り上げようと収縮を始めた。上正面からは顔の描かれた夕立の魚雷が彼女の手により振り下ろされるように迫っている。
成程、横に逃げられない完璧な連携だ。どちらかだけを防げてももう片方が致命打になり得る。奇襲である事も手伝い咄嗟に対応するのは難しいだろう。私は自分の錨を夕立の方に投げつけた。
しかしこの夕立、並みの運動神経ではない。体を軽く捻ると軌道を変えずに錨だけを器用に避ける。私の錨は夕立の横を素通りした。でもごめん、軌道上に居ただけで夕立はそもそも狙ってないんだ。
夕立よりも一瞬早く、浦波の鎖が私に迫ってくる。だが、それが私の体に到達するよりも、私の錨とそれに繋がる鎖が、浦波の手元から延びた鎖の根本に絡まる方が早かった。浦波は表情を歪めている。途中からもう私の意図に気付いていたようだったが、艤装と繋がっている以上即パージとかはできないからね仕方ないね。
私は手元を軽く捻り、伸ばした鎖を引き戻した。浦波の体が宙に浮く。あっと短めな悲鳴を上げると、浦波は自然落下する夕立に、追いついて背中側から激突した。
軌道がずれ態勢も崩した二人が床に衝突し、一度跳ねるとごろんごろんと私の横を転がって行く。そのまま壁にぶつかって止まったが、まあ艤装を背負っているし怪我はあるまい。
「奇襲するなら声上げちゃ駄目じゃない?」
気になったのでアドバイスしておく。まあそれ以前に居るの視えてたから奇襲になってないんだけども。
二人は勢いが付き過ぎて目を回してしまったようなので、放っておいて梁を見上げる。するとさっと頭を引っ込める影が七つ。そして反応が遅れて丸見えになってる子も一人。服装と黒い帽子的に暁だろう。知らない顔だしたぶん二期生の子かな。私と目が合うとばつが悪そうにもじもじと顔を引っ込めて行った。
なんか可愛らしい反応だけど、あの子らも襲い掛かって来るつもりなんだろうか。流石に困るぞそれ。ちょっと見つめてみたけれど、八人とも息を潜めてこちらの様子を窺うばかりである。
なのでひょいっと跳び上がり、こんばんはーと梁の上に乗りご挨拶。蒼白になる暁と隠れてたその姉妹三人。そういや賀藤艦隊って六駆揃ってるんだっけ。まあ年齢はバラバラ……っていうか暁が一番年下みたいだけれども。
その奥に目をやれば時雨が引き攣った笑顔で挨拶を返してくれて、さらに奥には少し前に見た顔が三つあった。一日だけの付き合いだけれど、印象が強かったのでその顔はよく覚えている。噂には聞いていたけれど、本当に艦娘になってたんだなぁ。
「お久しぶりです五十嵐さん」
「あ、ああ、久しぶり……なんだ、相変わらずすげぇ身体能力してるな……」
出会った時に深海棲艦の武装を殴り壊しているせいか、どうしてもその印象が強いらしい。淡路島の生存者、五十嵐 陽さんは呆れたような感心したような半々の表情をしていた。横では五十嵐さんの姉妹二人も同じような色を浮かべていて、血の繋がりを感じさせる。
ちなみにお兄さんの怜寛さんがこの三人を担当している提督だ。秋月と照月もそうだったけど兄弟姉妹は一緒にして行く方針なんだろうか。比叡さんだけ金剛さんから離されてるけど。
「本当に申し訳ない。こちらの管理不行き届きです」
二十代後半くらいの男性が私達に向かって丁寧に頭を下げている。駆けつけた時から生真面目な空気を身に纏い、顛末を聞くや夕立と浦波、それと上に登っていたみんなに謝罪するよう促して、自身も監督すべき大人の責任であると深く腰を折った。彼の名前は賀藤 信、賀藤艦隊の提督である。
「いえ、じゃれ合いみたいなものですのでお気になさらず……」
被害者の私――被害者かどうかは正直疑問だが、ともかく襲撃された私の超許す旨の言葉に夕立がぱあっと明るい笑顔を浮かべ、その感情に呼応するように犬耳のような跳ねた髪の毛がパタパタパタパタ上下に揺れた。えっそれ動くの? 神経通ってるの??
動揺したままとりあえず落ち着こうと艤装を預けている間に話は進み、気が付けば主犯の二人はトイレ掃除と艤装磨きの罰を受ける事に決まっていた。他の八人は一応止めようとしていたらしいので謹慎……というか暫く大人しくさせられるだけで済んだらしい。まあ、後々見かけたのだけれど一緒になって艤装をピカピカにしていたからそれぞれ反省する点はあったんだろう。たぶんノリで上ってノリで襲撃しただけなんだろうけどね。
そのまま講堂のような場所で賀藤艦隊、五十嵐艦隊の皆と顔合わせをする事になった。この建物も新築ではないのだけれど、元々何に使われる場所だったのかはよく分からん。広いからやっぱりなんらかの基地とか市場とかだったりしたんだろうか。
二つの艦隊には知ってる顔もあれば知らない顔もあり、交流はあるけど今日初めて会った人なんかもいる。ネット上での付き合いだから実際に顔を見ると結構印象が違う。なんか思ったよりギャルっぽいというか女子高生感強いな鈴谷さん。
私達が一通りの挨拶を終えると司令官である賀藤艦隊の大淀さんから今後の方針なんかの説明が始まった。それによると、五十嵐艦隊の司令官とうちの宮里提督も作戦に対して意見は出すものの、この鎮守府の最高決定権はこの大淀さんが持つ事になるんだそうだ。指揮系統の一本化は基本だからね仕方ないね。
出撃に関しては宮里艦隊が中心となり北海道への航路を拓いて行く形になるそうで、まあ私達からすると今までとあんまりやる事は変わらなそうだった。賀藤・五十嵐の二艦隊は本州へ襲撃を仕掛けて来る深海棲艦の迎撃をしたり、必要に応じて宮里艦隊に混ざって出撃する形になるという。
これはたぶん実力云々も勿論あるのだろうけども、それ以上にやり慣れた仕事をやらせた方が良いだろうって判断なんだと思われる。賀藤艦隊は設立からこっちずっと北で迎撃を続けていた訳だから、私達よりずっと防衛に慣れているだろう。逆に宮里艦隊は攻めの実績が大きいのでまた任されるという訳だ。
私はこれに凄く納得が行った。後ろを護ってくれる人たちが居るなら安心して遠征できるし、南の戦線より気持ちの上では楽かもしれないくらいだと思えたのだ。でもなんだろう、夕立達からちょっとだけ、ちょっとだけ不満そうな気配を感じる。
「大淀司令官、少しよろしいでしょうか」
声を上げたのは賀藤提督だった。どうぞと促され壇上に立った彼は、堂々と背筋のしゃんと伸びた姿勢で私達全員に向かって語り出した。
「提督を務めさせてもらっている賀藤です。私は、力の供給を行う事になった提督はその艦隊に対して、たとえ召集によりその立場に就かされた者だとしても、大人として責任を負うべきだと考えています」
急に何の話? と思ったのは私だけではあるまい。島風とか声に出さずにオウッ? っと鳴いている。
「私は最初に北の地を踏んだ時分、この子達が戦い生き残る事ができるのか、正直に言えば疑問でした。すぐにでも奴等に撃たれ、無惨な結果に終わるのではないかと恐れていたのです。だが……実際にはそうはならなかった。彼女達は不断の努力と、持ち前の負けん気で、敵を撃ち破って見せたのです」
普通の子供だったのに戦えるわけがない、というのは大多数の意見である。私だってそう思ってた。艤装の影響だって初期は今より少なかっただろうし、間違いなく本人の資質の問題はあるだろう。どの程度かは知らんけど。
「私は彼女達の強さを、命を賭し懸命に戦う姿をこの目で見続けて来ました。幸いにして誰一人欠ける事はありませんでしたが、しかし、そうなっておかしいと思える日は一日たりとも有りはしなかった……知っている方も居るかもしれませんが、私は以前は教師をやっておりました」
だからこそ、子供を預かる事には人一倍重さを感じてしまうのだと言う。そういや生放送でも言ってたなあそんな事。
「私は知っています。艦隊の全員が夜中に叩き起こされ、戦いを強制されてなお弱音を吐かなかった事を。それどころか、護るべきもののために死力を尽くし溺れて帰ってもまた闘志を燃やし戦いに戻って行く様も。ずっと見続けて来ました」
なんか思ったよりガンギマってない賀藤艦隊。っていうか、賀藤提督って厳しくてむしろ尻叩いてた側って聞いてるんだけど、もしかして合わせてただけなんだろうか。
「気付けば私も彼女達であればきっと生きて戻って来てくれるだろうと信頼を寄せるようになっておりました」
だが、と少し語調を強くして賀藤提督は続ける。
「ここに来て、知らぬ艦隊を中心にして作戦を組み直すと言われれば、どうして内心穏やかでいられましょうか」
私達で言うならば、突然雪吹艦隊を中心に作戦進めるからサポートに回ってねと言われるような物だろうか。いや私は雪吹艦隊の正体を知ってるから別に構わないだろうけれど……例えば宮里提督から見たらかなり疑問だろう。
「私は彼女達の命を半端な者に預け無惨に散らせるような事態を招くのだけは、絶対に許されないと思っています。多くは言うでしょう。宮里艦隊であれば、賀藤艦隊に任せるよりずっと安心であると。確実な戦果を持ち帰ると」
実際、評価で言えば私達の方が高い。っていうか、別に私達の実力を疑ってる訳ではないのだと思う。感情的な納得が付いて来ないのだ。たぶん、賀藤提督が、ではないだろうけれど。
「だが私は、いや我々は、実際の貴女達の強さを知らない。故に、見せて頂きたい! 貴女方が命を預けられるだけの力を持った艦娘であるのかを! 宮里艦隊がいったいどれ程の艦隊であるのかを!」
纏めるとつまり、こういう事である。
「宮里艦隊、先頭に立つのは天龍。気合十分、いい顔してますね」
「いい感じに気合が乗っていますね、好闘を期待したいです」
「賀藤五十嵐連合艦隊、先頭はおっと、夕立と嵐が突出しているようです。かかってしまっているのでしょうか」
「私一押しの艦娘。気合入れて欲しいですね」
「あの、吹雪、猫吊るし……二人ともどうしたんですか急に?」
私と頭上の猫吊るしの会話に、宮里提督からツッコミが入った。いや、猫吊るしが急にネタを振って来るから答えちゃっただけなんだけど、突っ込まれるとなんだかとっても答え辛い。
「いえその……実況と解説みたいな奴です。はい」
私の言葉に納得したのか、宮里提督はそれ以上は触れて来なかった。なんだろう、気を遣われた気がする。
「その子はなんだかよく喋るね。妖精さんだと珍しいなあ、動きはうるさい子が多いけど」
微笑ましげに笑うのは双眼鏡を片手に持った五十嵐提督である。割と穏やかな人だけど、淡路島の集落でリーダーをやっていたくらいなのできっとそれだけではないのだろう。なんか以前は引き篭もってたらしいんだけど、そこから代表者にまでなった、とても色々ありそうな人なのだ。
「しかし、大丈夫なのですか? 彼女が一番強いと聞いていますが……」
「いえ、むしろ吹雪を入れると演習が成立しませんので……」
私を見つめながらの賀藤提督の質問に、宮里提督は苦笑いで返した。情報は行っていると思うのだけど、実際紙に書いてある事を鵜呑みにできるかと言われると難しいのだろう。だって私の戦果意味不明な事しか書いてないだろうし。
それにしても、昨晩演習を行うと決まった時点でも思ったけど、やっぱり賀藤提督は別に私達の実力を疑ってなさそうである。たぶん納得行っていないのは賀藤艦隊で頑張って北の地を護ってきた艦娘達なんだろうなあ。
っていうか、提督の一存で決められる事ではないので、きっと最初からやる事は決まっていたのだと思う。演説内容が嘘だとは思わないけれど、わざわざしたのはどちらも全力でやってくれないと困るからだろう。私が居ない状態でも宮里艦隊は格上だと全員が心から納得してくれないと、どこかで不和が生まれるかもしれないしね。
そう、今の状況的に言うまでもないだろうけれども、私はこの演習、出禁である。知ってた。
なお演習描写はカットの模様。