やりやがった。
島さんめ、思いっきり人前で空飛びやがった。
っていうか、お前、飛ぶのか……いや、やれそうだとは思ってたけど本当にやるとは読めなかった。このチート転生者の目をもってしても。
まあ飛べるの自体は別にいいんだよ。なんか放出してるんだから出力次第じゃそりゃ飛べるよ。どっちかっていうと空中で跳ね続ける感じだったけど、逆に機動力は出せそうだし使い勝手も悪くはないだろうし。
でもお前他の人の目線とかお気になさらない? 賀藤艦隊と五十嵐艦隊の一部の人達完全に動揺してたよ? あっほんとに飛ぶんだ……って感じの顔してたよ?
私も私でどう言い訳したもんだと頭の中がぐるんぐるんした結果夕立に背中取られるし、まったくもって散々だった。自分の鳩尾ぶん殴って弾き飛ばせたから良かったものの、夕立の一撃なんて喰らったら私はともかく艤装が持ったかはかなり怪しい。威力がやたら高そうだったから当たれば一撃だった可能性が普通にある。怖いぽいぬである。
その後高速で逃げ撃ちを始めた島風を、丁度こっちにやって来た二式大艇ちゃんを投げつけて黙らせたわけなんだが、その時ばっちりと側面に描かれた大艇ちゃんの目と目が合ったんだよね。おかげで罪悪感が凄い凄い。演習の後に工廠で本人……本機? ともかく大艇ちゃんに謝りに行ったら、いいのよ……と言わんばかりに優しく頭を撫でられた。二式大艇ちゃんに。何その包容力、姉度高過ぎない?
今回の演習、私は負ける訳にはいかなかった。っていうのも、完全な有効活用をしてもらうために大淀司令官に自分の強さをアピールしなくちゃいけなかったからだ。
勿論司令官はデータから見える私の強さは理解しているだろうし、今までの戦歴からどれくらいの戦いで無傷で帰って来たかも知っているだろう。でも、私ってそこから読み取れる虚像ほど弱くないんだよね。
嘘みたいだろ? カタログスペックの方が弱いんだぜ私。だから実像をちゃんと見てもらう必要があったんですね。
実の所、私は実戦で全ての力を出し切らないといけない程に追い込まれた事は無い。一番苦戦した北方棲姫も時間こそかかるが殴ってれば撃破可能な範囲でしかなかった。なのにあの一戦、公式記録では私は轟沈なのである。本体無傷でピンピンしてたし、そのまま継戦可能だったにも拘らずだ。だから残念ながら、私が全力を出した時どうなるのか書類からはまともに読み取れなくなってしまっているんだとか。
最近浸透勁も習得したのでその傾向はさらに増し、チート能力さんが絶好調なため最大出力もたぶん過去より上がっている。全能力を発揮した場合、もう自分でもどこまでできるのか完全に把握できてなかったりするんだよなぁ。感覚的にこれはできるこれは無理ってのはあるんだけど、なんか全容がよく分からん事になっちゃってるわ。
そういう理由で皆の精神力を生贄に私の強さをアッピルするための場を用意してもらった訳なのだ。元々は戦う予定なんて無かったのだけれど、誘われたら参加するよね。仕方ないよね。
縛りプレイに関しては渡りに船ではあったのだけれど、私の全力に多少なりとも近い姿を皆に見せつけて大丈夫なのかはちょっと不安だった。そしたら当日の夜に暁型が六人で遊びに来てすごく凄かったって褒められ……褒められてたよなあれ? とにかくドン引きとかではなかったみたいなので良かったと思います(小学生並みの感想)
ちなみに、カタログスペック云々は宮里提督の受け売りである。報告書には全部書いてるけど、自分でいくら読み返しても本人を直接見て感じられる程の強さを表現できてはいなかったとの事。大淀司令官も二面三面どころか四面作戦も行けそうですねって眼鏡を拭きながら呟いてたのでちゃんと理解して貰えたんだろうと思われる。やったぜ。
それで問題の島風なんだが……なんかあんまり問題になってないっぽい? いや、気にはされてるしお前それどうなってんのって聞かれたりはしたんだけど、おかしいですよって言い出す人は特に居ないんだよね不思議な事に。
暁型はむしろ憧れの目線を送ってたし、曙や叢雲は直接的にやり方に関して質問してきた。長門さんは許可出せるくらい安定してから使えと釘は刺していたが練習する事を止めなかったし、大淀さんは使い道を真剣に検討している。夕立は左右に安定しない飛び方を披露する島風を見て興奮したのか跳び付いた挙句墜落させていて、初春に至ってはお主等も使えたんじゃのうとなんとなく嬉しそうだった。なんか同種の力だって理解が及んだらしい。霊視的なのの応用なんだろうか。
でもまあ考えてみたら当たり前の話で、これって私もそうだけど島風も阿呆みたいに強い頼られる側の艦娘だからなんだよね。艤装って召集された艦娘達からしたら限界も分からなければどこに変な機能が付いてるかも分からない、新開発されて使用を強制されてるオカルト装備な訳で。適性値が明らかに高い島風が普通は使えない機構を稼働させたって考えると別におかしな話でも何でもなかった訳だ。
艤装……というか、艦娘が普通どこまでできるのかっていう基準が、転生者で艦これの知識を持つ私とこの世界で今見えてる物から判断するしかない彼女達では全く違う。私から見たら島風は、艦娘が飛ぶか馬鹿! って感じなんだけど、みんなから見たら、へー艦娘って適性次第じゃ飛べるんだへー、って感じであるらしい。物凄い誤解を生んでいるが才能次第で他の人も飛べるらしいからそこは許せ。
つまり、島風が艤装とか関係なく飛んでるってバレるとちょっと不味いかもしれないんだが、そこもこの世界がオカルティックである事を理解している面々ならたぶん受け容れてもらえると思うんだよね。妖精さんや集合無意識の中の艦娘やらが居るんだから魔法や霊能力があったっておかしくない。そう思ってる人達は結構居るらしいし。
そう考えると私の身体能力も別に召集前からだって隠す必要もないのかなと思わなくもない。ぶっちゃけ扶桑さん辺りにはそれなりにバレていただろうし。オープンにはしてなかったけど使う機会はあったからなあ。何故か提ハーレム周りに関わった時はそういうのが必要になる漫画みたいなイベントが頻発してたもんだから。私は隠しはするけど必要なら使って行くスタイルだったから、結構怪力で瞬発力もあって対人戦できる方って思われてるはず。人外レベルとは思われてないはずだけど。たぶん。
両親にも伝えるべきなのかもしれんけど、実はそっちの方がハードル高いんだよねえ。なにせ発揮する機会が全然なかったから。たぶん、私が物凄い隠蔽下手だったとかそういうオチが付かない限り、二人は娘の運動神経はかなり良いみたいだくらいにしか思ってないはずなんだ。小学校卒業まで本当に平和だったからさ。
閑話休題、島風に関しては現状問題無し。ただ、私も私もってなられるとちょっと困るかなって感じである。一応猫吊るしなら検査できるけど、島風レベルに使えるようになる人ってまず居ないらしいから。っていうか、出力もだけど制御も問題だろうしね。あれたぶん島風――島さんが自前の運動神経でどうにかしちゃってるだけだろうから。
まあそんな訳で引いてる人も居るけど、概ねの反応としては実際飛んでんだから飛ぶもんなんだろうって感じである。なお吹雪の僚艦だしねとか言ってた声は聞こえなかった事にしておく物とする。
さて、演習を終えた私達は北海道を取り戻すべく活動を開始した。指揮を執るのは大淀司令官。艦娘の中では最年長の部類に入るらしいが、それを思わせないくらい若々しくキビキビとした動きをする人である。
そんな彼女の下で再編成された私達であるが、合同で作戦を進める関係で宮里第一だの賀藤第三だのと言ってると指示の取り違えが発生したりするかもしれないからと新しい番号が割り振られる事になった。
私達宮里第四艦隊の新しい数字は十、連合第十艦隊となった。なお十までしか部隊は無いためまたしても最後の数字である。
ちなみに最初はアルファ・ブラボー・チャーリーみたいなのにする案もあったらしいんだけど、短期間の間に私達全員が覚えられるかどうか怪しいという事で普通の数字になったとかいう経緯があったとかなかったとか。正直助かった。
余談だが、実は隠された第零艦隊が便宜上存在していたりする。所属者は皐月さんただ一人。本人はどうして……ってなってた。
新しい数字を戴いた私と島風は出撃命令に従って早速海へと突撃した。で、普通に二百体くらい屠って帰還した。なんだここ敵多過ぎィ!!
いやだってお前、私達が今日やったの迎撃だぞ。それも遠くの方を迂回して本州狙ってくる連中の。敵の面子は姫や鬼は全然居なかったけれど、普通の人型や魚型の奴らはそれはもうわんさか居やがった。どっから湧いてんだよマジで。
一部隊一部隊は大した数じゃあないんだ、他の艦隊でも苦労しないレベル(宮里艦隊基準)でしかない。でもね、そこから索敵のために耳を澄ますとちょっと遠くに居るんだよね、複数の部隊が。しかも戦ってる間にまたどっかから湧いてるみたいでそれが延々続くのである。
これを賀藤艦隊はずっと食い止めてたのかって戦慄したんだけど、よくよく話を聞いたらここまで酷くなったのはこの数日の事であるらしかった。前から他と比べて敵の数はかなりの多さだったのだけれど、流石に一日で数百とかそんな次元ではなかったという。明らかに敵が北に回すリソースそのものが激増しているようなのだ。
まあつまり、九州を放棄してやりたかった事がこれなのだろうなと、私達は初日で思いっきり理解らされた訳である。
ちなみに演習の日は敵が来たら私が出る予定だった。私が不参加予定だったのは実はそれもあったのである。まあ結局参加したし、島風はどっちも最初から参加予定で来たら演習から抜ける手筈だったんだけども。なお夜中に来たため暁型に見送られて出撃した模様。
ところでこれ、一見すると戦力の逐次投入に見えるんだよね。私は深海棲艦の性質を猫吊るしから聞いているのもあり、悪手というかほぼ嫌がらせだけでそんな事してるんだろうなって思ったんだ。実際宮里艦隊が即合流してなかったら効果的だったと思うし。
でも司令官の見立てだと、それはちょっと違うんじゃないかという話だった。曰く、こちらを攻め続ける事で圧力を掛け負担を強いる目的があるのは確かだろうが、実のところ、逐次投入ではないと思われる。らしい。
深海棲艦達の目的はこちらが守るしかない状況を作り、その間に本命の部隊を整える事。つまり、姫級鬼級を主とした部隊が北海道には控えていて、今現在、それらが着々と大侵攻の準備を整えているのではないかと言うのである。
根拠は幾つかある。まず私も証人なんだけど、姫や鬼が全然攻めて来ていない事。捨て駒というか、倒されても構わない奴等しか海に出してないっぽいんだよね。なんかこう……在庫処分セールみたいな印象を受ける。
次に、実は本州北部以外の地域ではここ数日、全体的に深海棲艦の発見数が極端に減っている事。統計で見るとしばらく前――長門さんが地中海弩級水姫を〆た辺りから減少傾向だったらしいのだけれど、九州を解放してから露骨に減ったのだそうだ。遅いのか早いのか分からない所業である。
そして最後、これがかなり大きいのだが、今日私達とは別方向に出撃した秋津洲さんが二式大艇ちゃんを飛ばして偵察を行った結果、北海道海岸沿いの崖上で大きなかがり火を焚きながら踊り狂うPT小鬼の群れの向こうに、大規模な建設中の基地と多数の人型深海棲艦の影を捉える事に成功したのである。
……………………どういう状況????????
二式大艇ちゃんには今、録画用のカメラが取り付けられている。これは秋津洲さんの目が捉えきれなかった情報を精査するための物で、変色海域内部の情報を艦娘以外が知れる数少ない手段である。なので前述の情報の信憑性に繋がった訳なんだけど……その内容に私は困惑するしかなかった。
いやだって、キャンプファイヤーかよってくらいの大きな焚火を数十体のPT小鬼群が囲んで全く同じ振り付けを完璧な同期で踊ってんだもん。真顔で。
で、その奥に建設中と思われる基地もしっかり映ってるんだけど、秋津洲さんの目線は小鬼達に釘付けだったそうです。そりゃそうだ。基地の規模は本当に大きく、何より作業をしている人型の数がかなり多い。多すぎるのかにらみ合いしてる奴とかもちらりと映っていた。
ただそっちに関しては大艇ちゃんもすぐ見つかって引き返す所だったんで時間としては長くないんだ。だから小鬼の方が動画内で死ぬほど目立ってる。意図も読めないし。火を焚く意味はどこにあったんだろう。
一緒に映像見てた猫吊るしは頭の上で完コピして踊り出したが、私達以外の反応は様々だった。気が抜けたような笑いを漏らす人、真面目に意図を考察し出す人、あっ意味とか無いなこれと察した表情の人、明らかに何も考えてない島風、真似して踊り出すも頭身の違いでどこかしっくり来てないっぽいぽいぬ、出撃の後にみっちり訓練やってそれどころじゃなくなってる暁型。そんな色々な顔が見える中で、一番眉を歪めて難しい表情をしているのは、どういう訳か文月だった。
すぐ横に居る文月は眉間に皺を寄せまくり、かわいいと言われる顔の造形をすっかり変えてしまっている。渋面と言うか、何かを物凄く悩んでいる様子だった。そのくせ目はループする映像をしっかり捉え、喉からはんむむと声になり損ねた吐息が漏れ出している。何かそんなに気になる部分があったんだろうか。
「文月」
私が小声で話しかけると、文月ははっとした様子でこちらを見た。その瞬間には顔は普段通りに戻っていた。もしかして普段から表情取り繕ってる? すげえ、声優デビューしてイベントとかに呼ばれても完璧なファンサできるじゃん。才能の塊かよ。
「気になる事があったら司令官に言った方がいいと思うよ」
「あっ、うん。そのね、気になるっていうか……」
私の言葉に文月はちょっと迷った様子を見せたが、やがてちょっと苦笑気味の表情になると、画面の中で踊り狂う小さな影を指して言ってきた。やたらめったらかわいい声で。
「このダンス、どういう意味があるのかなあ……って」
密かに静かに進めなければいけないであろう作戦を行っている場所のすぐ傍で明らかに目立つこの愚行である。そりゃみんな解釈に困るわ。
「私にも分からん。ここで火を点ける意味がある気がしないし……」
正直、テンション上がってついやっちゃったんDA☆って言われても納得する所業。だって利敵行為にしかなってないだろこれ。実際こっちは見つけてるし。
「えっと、それも分かんないけど、そっちじゃなくて……この振り付け、踊りに意味はあるのかなって」
「あー……」
「テンション上がってつい体が動いちゃったって感じじゃないよね。だってこれだけ揃ってるんだし。何か意図があるんじゃないかなぁ……って」
踊りというのは基本的に何かしらの目的がある。例えば神様への奉納であったり、感謝や感動を表すものだったり、高度な技術を競うためであったり、何かメッセージを伝えるための手段だったり、ただただ衝動から生まれた感情の発露だったりと様々に。文月が気にしていたのはどうして火を焚くだけではなく、それを囲んでみんなで踊っていたのかという事だったようだ。
「神様とか、崇めてたりするのかなあ。それとも節目に踊る文化があるとか……ねえ、吹雪さんと猫吊るしさんはどう思う?」
じっと文月はこちらを見つめて来る。私と同じく猫吊るしが見えているためか、その視線は上下に揺れていた。
しかし意味かぁ。まあその、思い付く事がないでもない。ただ、それが誰の何に対してなのかはさっぱり分からないのだけれど、どういう意味のある踊りなのかは私には伝わってくる……伝わってしまう物があるにはあるのである。
「えっと、そうだね。ただの印象だけの話になっちゃうけど……」
証拠もなんにもお出しできないので言葉を濁しながらにはなるが、一応の答えはないでもないのだ。猫吊るしも察してるみたいだけど……
「何かを促してるんじゃないかな……例えば、あれだ。反省とか」
音楽とか無いし手の短さで再現率低かったから最初はなんだか分かんなかったんだけど、猫吊るしが死んだ目で踊り始めた時点でようやく察せたんだよね。ああ、被り物繋がりかぁ……って。
っていうか、アレ転生者だよね? 本人なのか操作してるのかは分からんけど、明らかに転生者インストールされてるよね? え、どうすんのこれ。ちょっと小鬼撃ち辛いじゃん。味方っぽいの居るのにぶっ殺せるほど私図太くな……いや割と行けそうだわ。別に躊躇いとか生まれないって確信あるわ。何この心ブリザード様。チート能力さんなんかした? へんじがないただのほんしょうのようだ。やだ、私元々こんなん? いや、流石に確定なら撃てないけど、まだ確率が増しただけだからだろうけどさ。撃ちたくはないけど必要なら撃てるよたぶん。
そんな変な困惑を続けている私をよそに、回答を聞いた文月はなるほどねーと何か得心が行ったような顔で画面の方へと目を戻した。その表情に先ほどまでの深刻さは無い。どうやら反省を促すダンスと言われてある程度得心が行ったらしい。あれか、ガノタだからか。ガノタだから納得しちゃったのか。凄いなガノタ。
そんな事があった翌日である。私達は海に出て、今日も今日とて深海棲艦狩りである。いや基地の方の対処もしなきゃならないんだけど、相手の居城は北海道の陸地な訳で、そう易々と攻め込めるもんではなかったのだ。
勿論征伐に行くなら早いに越した事はないんだけど、流石に上からの許可としっかりとした作戦が要る訳で。昨日の今日で許可が下りるはずもなく、ともかく航路の確保と敵の削減に励む事になった。
私も深海棲艦の転生者がいるっぽいと分かった以上、多少見極めなんかも行いたい所ではあったのだけれど、それはそれとして敵はやって来る訳で。迎撃迎撃また迎撃と今日ももう既に二百体近くを葬り去っている。
幸いな事に押し寄せて来る深海棲艦の数には波があるようで、ピークを過ぎればどんどん部隊は減っていく。なので索敵範囲内の相手が居なくなったら帰投と決め、そして目の前に居るのがその最後の部隊最後の一匹である。
でもってPT小鬼である。
うん。小鬼なんだよなぁ。
捕まえちゃった。
とりあえず両手を掴みぶらんぶらん吊り下げて目線を合わせているんだが、こいつ、ていくおーふ☆とか言って緊張感無くきゃっきゃきゃっきゃ笑ってんだよなぁ。いやあその反応は転生者でしょ。抵抗する気もなさそうだし。
質問……というかこの場合尋問になるのだろうか。そう言った事をやりたいのだけれど、出撃中だから後ろに島風が居るんだよね。普通の質問ならともかく転生周りの事聞かれるのはなぁ。問題があるかないかと言われるとそんなにないのだろうけれど、知られたいかというとそうではない訳で。他の人達にも関わる問題になっちゃうしね。
なんて思ってたら、小鬼の方がこっそりと、島風に聞こえない程度の……っていうか私達以外なら聞き逃しそうな小声で囁いてきた。
「オカシ好キカイ?」
「うん、大好きSA」
「オイラもだーい好きでゲス」
一瞬で分かり合う三人。間違いねぇ転生者だ。いやこの世界にもあるネタだけど、この場で言うのは転生者だろ。絶対。
「夜ニ寮ノ屋上デ待ッテテ」
「おk」
急に普通の言葉になったから逆にびっくりした。いやそりゃあ用件をネタ台詞で伝えようとはせんだろうけども、ちょっと昔の掲示板の返答みたいになってしまった。
あれでも、屋上で待ってても来れるのかこの子? 寮って思いっきり鎮守府の中なんだけど。そういう移動能力でも持ってるんだろうか。っていうか完全に私の顔知ってるって事だよねこれ。怖。
でもまあいいか。この子達がやってたのは明らかにこっちの利になる事だったし、たぶん味方なんだと思うから。敵だったら……まあその時はその時だろう。こっちの支配領域に罠仕掛けられるっていうならそれはもうどうしようもないだろうし。
それで、この子どうしたらいいんだろう。伝える事は伝えたって雰囲気になっちゃったんだけど、リリース? リリースしたらいいの? いや私が逃がすって不自然過ぎるんだけど。今までほぼほぼ敵取り逃した事とかないよ? 倒したふりでもしとくかね? 上に放り投げて無効貫通切った連装砲で撃てば遠くに飛んでくだろうし、それでいいか。なんか1キロくらい吹っ飛んだとか暁型の面々も言ってたし、倒したかどうかとか島風からはよく分からんはず。
それで行こうと腕を下げ、放り上げようとしたその時。PT小鬼がいきなり大きな声を一つ上げ、足を大きく振って暴れ出した。急な事に内心首を傾げつつ手を放し、海にぼちゃりと落としてやると、私の耳に飛び込んだのは時計の針が動くようなチッチチッチの機械音。
そうか、頭の中に爆弾が!
「オ許シクダサイ!!」
そしてそのままボンと大きな音を立て、私の目の前で爆散するPT小鬼。正直ほぼ確定転生者に突然凶行に走られて少しビビったんだけど、そういや複数で同期してたし人形か分身的な奴だったのだろう。そりゃ私に接触して伝言するなら離脱方法も考えてるわな。いやだからって頭の艤装っぽい奴の中に爆弾仕込むか普通。っていうか、さっきの前振りかよ!
急に爆発音がしてびっくりした島風に大丈夫かと心配されてから数時間後。すっかり空が暗くなってから、私は外壁を蹴って屋上へぴょんと降り立った。
いや最初は普通に階段で行こうと思ったんだよ。そしたら施錠されてて出られなかったんだ。自分の勝手で抉じ開ける訳にも行かないし、仕方ないから最寄りの窓から向かいの壁を蹴って屋上に三角飛びで到達したという訳である。ちなみに出る時にちゃんと窓は閉めておいた。鍵は掛かってないので帰りもそこから入るつもり。
さて屋上に来た私であるが、まず最初にやるべき事は周囲の環境の把握である。というのも、実はここに登るのは初めてで何があるのか知らないんだよね。例えば監視カメラがあった場合、それに密会現場が映っちゃうと不味い訳で。とりあえずは端にあった鉄柵の上に着地して、ぐるりと辺りを見回してみた。
一応上や下の明かりがここらも多少は照らしているから意外と目でも周りが見える。辺りにあるのは貯水タンクとなんか背の高い四角い機械。正体は分からんけど動いてる音はしないから、非常電源か何かかな? とりあえず放置でいいだろう。あとは入り口に一つの監視カメラ。角度的に私が映っているとは思えないし、場所を選べば無視しても大丈夫かもしれないけれど、相手がどうやって来るか分かんないから一応対処はしておいた方が良いだろう。
猫吊るし、君に決めた! とモンスターボールとかには入ってない生の猫吊るしを監視カメラに投げつける。勿論壊れないように軽く、ふんわり弧を描くように。狙い過たず、猫吊るしはカメラに命中して落ちないようにしっかりとしがみついた。
そのまま待つ事数秒程、猫吊るしはぴょんとそこから飛び降りると、私に向かって手招きした。どうやら処置は終わったらしい。
「できた?」
「でけたー。これで暫くは何も動いてない映像を録画し続けるはずだ」
猫吊るしのチート能力は機械類を自由自在に使いこなせる。らしい。しかも直接触りさえすれば、それが制御している本体でなくても操れてしまうのだそうで。監視カメラの映像改竄くらいは秒でできちゃうみたいなのだ。なんていうかあれだね、情報収集も好き放題やれそうだし基本的に人に見えないから、やろうと思えば核戦争とか自由自在に引き起こせるんだろうなあこの子。私より遥かにヤバい気がしてならない。
お疲れーと掌を差し出して頭の上まで運んでやると猫吊るしは定位置に収まった。そのままきょろきょろと周囲を警戒し始める。でもまあ、特に何も居ない訳で。そのまま十数分が経過した。
「……いつ来んのかね?」
「さぁ……時間も決めとくべきだったね」
何せ指定が夜である。一般的に今の時期だと9時間以上は幅がある。っていうか、下手するともう相手の思ってた時間を過ぎてる可能性も無くはないんだよね。自由になるまでにちょっと時間が掛かっちゃったから。報告とか確認とか、抜けられない用事が色々あったのである。
「よく考えたら今日かどうかもちゃんと確認してないね……」
「指定無かったしな。これで来なかったら寝不足狙う罠か何かだろきっと」
そんな軽口を叩くけど、語調的には全くそんな事は思っていなさそうだった。きっと来る。私は何となく確信しているのだけれど、どうやら猫吊るしも同じらしい。――索敵範囲内に何かが入り込んだ――同じネタを共有できる相手とは敵対したくないし本当に仲間だといいんだけどねぇ。――それは秒も経ずに私の後ろに着地する――まあこっちの立場に気を遣ってくれてるみたいだし心配は要らないと思うけれど。――その時には私の手刀が相手の首筋に迫っていた――こう急に来られるとびっくりするなぁ。
「ッブネェ……!」
そいつは不意打ち気味に叩き込まれようとした一撃を後ろに飛び退く事で逃れ、そのまま私に鋭い眼光を飛ばしてきた。勢いで被っていたフードが外れたそいつの目と目が合い、互いに顔を認識する。
戦艦レ級。だと思う。服も見た目もそうだし、なんだったら私の持ってる例のお面にそっくりである。成程、あれのモデルさんかな?
「ごめん、急に後ろに立たれたからつい」
「ツイデ頸動脈モッテクノカオ前……」
いやあ、反射的にというか、状況判断が正しいか精査する前に手が出てしまった。それだけ相手が速かったという事なわけで、割と戦いたくない。っていうか、避け切られてるから持ってけてないよね? 大丈夫だよね?
「今ノハレ級ガ」「悪イヨーレ級ガー」
じっとりとした目で私を睨むどう見ても戦艦レ級なそいつの背から、二体のPT小鬼がひょっこりと顔を覗かせた。言われた本人は自覚があるのか言われてちょっと気まずそうだ。まあ正面から来てくれたら私も流石にやんなかったしね。
「我々ノ時モ一匹一匹」「暗ガリニ引キズリ込ンダシ」
「結局意味無カッタンダカライイダロアレハ」
「ホラー演出好きなの?」
今も背後に立って驚かせようとしてたんだろうか。だとしたら申し訳ない、音よりも遅い速度だと私は全方位視えちゃうんだ。でも、避けた瞬間のバックステップは背後を取ろうとして出してたのよりだいぶ速かったから、本気出したらどうだろう。捕捉し切れない可能性が否定できない。っていうかたぶん背中の子達に気を遣って緩い速度で来たんだよね? なんか全力でチートを使ってなかったんじゃないかってそんな気がする。もしかしていい奴なのでは?
「へいお三人さんいちゃついてないでこっちに構えよ。同郷でいいんだよなお前ら?」
私の頭をぺしぺしして音を立てて存在をアピールする猫吊るし。やるなら自分の手を叩きなさいよ。痛くないけどさぁ。
言われた三人は猫吊るしに視線を向け、そのうちの二人……レ級の左右の肩によじ登った小鬼二人は顔を見合わせ首を傾げた。かわいいかもしれない。
「三人?」「二人シカ」「居ナイヨネー?」
訂正、レ級の頭上の一人を入れた三人が顔を見合わせていた。いや、っていうか今スポーンした? 居なかったろ最初。何処から来たんだ移動してきた気配もなかったぞ。猫吊るしも訝し気に三体のPT小鬼を見つめている。
「コイツノ事ハ気ニスンナ。ソウイウ能力ダ。ツーカ増エンジャネーヨ、捨テテケネーンダゾココジャ」
私達の反応を見たレ級はため息交じりに教えてくれた。成程、増えるし増えたのは好きに操作できる感じかね。道理で完璧なシンクロ率で踊れるわけである。自爆したのも増えたうちの一体だからなのか。痛覚とかどうなんだろ。感じるなら割とガンギマってる気がしなくもない。
「ヨシ、トリアエズオレ等ハオ前等ヲ知ッテルケド、オ前等ハオレ等ヲ知ラネーハズダカラ自己紹介カラダナ」
動いてない謎の機械に腰かけて、レ級と呼ばれた深海棲艦の少女が話し出した。対する私は屋上入り口の屋根に腰かけている。それで概ね目線が合ったのである。ちょっと高い所にいるけれど、下からは見えないはず。たぶん。
「オレハ戦艦レ級……ニ転生シタ転生者ダ。元人間。能力名ハ『ちょう』『はやい』」
頭上の猫吊るしがなんでかオウッと鳴いた。いや、本人も聞いたら鳴きそうだけれども。
「マア、高速移動デキル能力ナンダガ……普通ニ気取ラレテタラ立ツ瀬ネーワナ」
「あれが全速力ならなー」
どうやら猫吊るしも本気出してないだろうと思ったらしい。レ級は肩を竦めるばかりで答えなかったけど、ほぼ肯定と一緒だろう。
「ンデ、コイツハPT小鬼群……間違ッテネーカラナ? マジデ群体ヤッテンダコイツ」
レ級が膝に乗っけたちっちゃいのを一人持ち上げた。足元では四人の小鬼がわちゃわちゃしている。すっごい増えるね君。
「我々ハ」「『いっぱい』」「『いる』」「ヨ」「!」「エネルギーガ」「溜マッテナクテモ」「無料デ」「増エチマウンダ」
言ってる間に私の周りにわらわら小鬼が湧いて来た。聴覚には何もない所に急に出現する様が克明に映っている。正直、この子が今までこの世界で見た中で一番理不尽な事してると思う。分かってたつもりだったけど、チート能力ってとんでもないのばっかなんだなあ……っていうかさ。
「小鬼って、たぶん今日が初対面じゃないよね?」
「ハイ」「ウン」「Yes」「セヤネ」「セヤナー」「正解!」「博士!」「ゴ立派!」
凄い肯定するやん。ただ一斉にこっち向くのはちょっと怖い。統率取れた赤子って割とホラーだよね。
「ちょっと聞きにくいんだけど、私どれくらい倒し……殺しちゃってる?」
『0』
即答だった。レ級も何か口を開こうとしていたけれど、それより早くその場の全ての小鬼から同時に返事が飛んで来た。
『私ハ全部デ一人。ダカラ、一人モ死ンデナイ』
ね? と全PT小鬼が全く同じ動きで小首を傾げた。気にするなって事だろう。
「補足シトクト、オ前ラハ転生者ハ一人モ殺シテナイゾ」
つーかお前等の前に撃たれて不味い奴は出さない。との事である。つまり君ら以外にも居るのね、転生者。でもまあそれはいいんだ。殺してないって言うなら良かった。手加減する理由にはならないけど、気にはなってたからなぁ。
「じゃあ、倒された君らは何体くらい?」
「エッ」「ドウダロ」「100匹クライ?」「200ハ行カナイト思ウ」「ソノ間クライ?」
「思ったより多いな……」
「なんかごめん」
「400万クライ居ルラシイカラ気ニシナクテイイトオモウゾ」
「ソレハソウ」
私の横に突然PT小鬼が一体出現し、肩を叩くとまあ気にすんなよと笑いかけてきた。出現位置とかも決められるんだその能力。
「それで、お前らなんで今更出てきたんだ?」
一応私達も名乗り能力も開示したのだが、どうやらしっかりこっちの事は把握している様子だった。怖……くはないか。いい人達っぽいし。閑話休題、猫吊るしが話を本題に進めると、レ級は眉間に皺を寄せて少し言い辛そうに言ってきた。
「ソノ前ニ一ツ謝ラセテクレ。オ前等ダケハブッテ戦ワセテ済マナカッタ」
レ級と小鬼達が揃って頭を下げて来る。いや、それはなんか違うと思う。確かに挨拶とかは無かったけどさ。
「たぶん、二人……二人? も戦ってたんでしょ? 直接交戦してたかは知らないけどさ」
じゃなきゃ100体以上も群体の一部を倒してたとか無いと思うの。絶対裏工作とか誘導とかしてたでしょ。だから謝るような事ないと思うんだよね。猫吊るしもうんうん頭上で頷いている。こっちも責める気は無いようだ。そもそも私達って特に周囲に被害とかも出てないもんねぇ。出てたら文句の一つも言いたくなったかもしれないけどさ。
レ級はそっかと言ってため息を吐いた。なんだかむしろやり辛そうだ。え、そんなに私達に負担強いてたの? 怒られるの覚悟してくるくらい? 自覚全く無いんだけど。猫吊るしは確かに大変そうだったけど、工廠の仕事は他の人達が居ても忙しさが変わるタイプの作業じゃないだろうし。
「ジャア、ソノ上デ悪インダガ、マダ暫クオ前等ダケデ頑張ッテモラウ予定デダナ……」
しかも説明できない事が多くてマジで自己紹介だけになりそうな勢いなのだという。何しに来たの君ら……謝罪?
小鬼達は私達の足元でわちゃわちゃしながらこちらの話に耳を傾けている。どうやら事情説明に関してはレ級に任せてしまうつもりらしい。なんだろう、レ級の方が事情に詳しいのかな? もし組織的に動いてるならそういう事もあるか。気安いから上下厳しいとかは無さそうだけど。
「じゃあなんで俺らの前に出てきたんだ? あんな事やったら俺らも見るの分かるだろ」
猫吊るしの言葉に私も頷いておく。あの反省を促すダンスとキャンプファイヤーはどう考えても悪目立ちしすぎである。っていうか、後者はともかく前者は転生者アピールにしかなってないし。
「コッチデモ色々アッテナ……端的ニ言ウト、一番人ヲ助ケラレルルートガコレダッタンダヨ」
「コレガ」「一番」「多イト」「思イマス」
「転生者の中にTASさんでもいらっしゃる?」
「ドッチカッテートスコアアタックダケドナ」
私達をこっちで戦わせて、自分達は他所で色々やってた方が人が救えるらしい。それはまあ、分からんでもない。私だけでも相手が一群になっててくれれば倒せるからね。散発的に来られたり囮使われたりするとキツいし、そっちの対処をしてくれた方が正直言って有難い。転生者を一纏めにして使う意味は確かにかなり薄いだろう。
「存在ヲ知ラセタノハ、情報ヲ自衛隊……ッツーカ大淀ニ流スノニ不自然ナ事スッカラ、オ前ラニ先ニオレ等ノ事知ラセテ捜索トカノ時間ヲ取ラセナイヨウニスルタメダ」
「ああ……確かに小鬼探しに行こうか考えてた。ロスになるから止めて欲しかったと」
「どういう青写真なのか分からんけど、不味い事があるなら先言っとけよー気を付けとくから」
猫吊るしも納得のご様子である。確かに、間違いの無いように言うべき事は言っておいて貰うべきだろう。私も頷いておいた。メモは……持って来てないわ。まあ書いたもの見られても困るし、猫吊るしならたぶん覚えておけるだろう。きっと。
「…………イヤ、有難インダガ……イイノカオ前等、ソレデ」
対するレ級はと言えば、私達の反応に驚いたような顔で瞼をしばたたかせていた。うん、やっぱ良い人っぽい気がする。
怒られるとか難色を示されるとか、そういう反応が少しはあると思ってたんだろう。だが残念だったな。我々は実の所、それ以前の問題なんだぞ。
「俺らはさ、世界を救えるビジョンとかそういうのが特に無いんだわ。だからお前等に計画があるなら全力でそれに乗っかるぞ」
「戦うのもほとんど命令された通りにやってるだけだからねえ。ぶっちゃけ、どうしたら大勢救えるかとか全く分かんないし」
猫吊るしは色々情報持ってるし頑張り屋さんで有能極まってるけど、それはそれとして戦略立てて何かやれるわけではない。立場的にもそうだけど、根本的に技術屋で現場が好きなタイプらしいのだ。マッド明石さん達と楽しそうに仕事してるのをよく見かける。連れ回すの本当は悪いんだよね。連れてくけど。
私に関してはもう、本当にただ強いだけである。今の状態から北海道に攻め込むのが正解なのかとか絶対判断が付かないし、誰が正しい事を言ってるのかも正直よく分かってない。でも、目の前のレ級はたぶん信用できると思う。勘だけど、私の勘はどうもチート能力で強化されてるっぽいからへーきへーき。
「アー……成程。成程。ソウイウ感ジナノカ……聞イチャイタガ……」
なんだか呆れたような感心したような目つきで見られてしまった。仕方ないじゃんマジで分かんないんだからさ。なんて思いつつ見つめていたら、レ級は頭を強めに掻きむしり、よし、と一息ついてまた口を開いた。
「ソレナラ、何モ考エズニ指示通リ戦ッテクレリャ問題無イハズダ。ナンカ問題アッタラウチノ大将達ニ軌道修正サセル」
なんか力関係が察せられるお言葉である。思ったより中心に居そうというか、もしかして能力的に向いてただけで連絡員するような立場じゃ無かったりしない? いや、まともに組織になってないだけかもしれんけど。
しかし大将、ねえ。所属グループの頭って意味で使われる言葉ではあるけれど……この場合ってそのまんまの意味だったりするのかな?
「大将が誰かとか、そういうのは教えて貰えたりは……」
「悪イ、ソレ教エルト自分ガ死ヌッツッテ口止メサレテンダ」
どういう事だってばよ。知ると死ぬ? 私達がじゃなくて相手が?? まるで訳が分からんのだが???
「ストレス」「デ」「オ亡クナリ」「ニ」「ナル」「ラシイナ」「ナンデ?」「シラネ」
「ストレスで!?」
「なんやかんやあって殺されるとかじゃないのか……」
え、私と猫吊るしってそんなヤバいストレッサーなの? 確かに色々やらかしてるけどそんな酷かった? あれかなチート能力あんま隠してないのとか悪かったかな? でもやんないと勝てなさそうだし……仕方なくない? いや仕方ないから力振るうの自体は止めて来なかったのかな? っていうかレ級たちは大丈夫? 死なない?
「……なんか直した方がいいとことかある?」
「イヤ、コノ件ニ関シチャオ前等ニ非ハネェヨ。完全ニアノ馬鹿ガ悪イ」
だから、別にそのまんまでいいらしい。むしろチート能力に関してはひけらかしてって問題無いとまで言われてしまった。いや、制御し切れてないこれを見せつけて行くのは色々恥ずかしいからやりたくないんだけど。
「ドーセオカルトニ関シチャ全世界ニ存在大公開予定ダカラナ」
「集合無意識以外も公にする予定なのか? 陰陽術とか、ある程度なら復刻もできるだろうけど大体失伝してるだろ」
「他ノ転生者ガナ……言イ訳利カナイ連中ガ大暴レシテンダヨナァ、イギリストカ」
あとオーストラリアとかブラジルとかアフリカとかインドとか。アメリカとか中国とかロシアは大丈夫なのか……
「っていうか、転生者って何人くらい居るの?」
「アー、ソーダナ。ソノ辺リ話セルトコマデ教エトクワ。ゴトランドモマダ正体言ッテナカッタロ?」
あ、やっぱあの人も仲間か。じゃあ全然問題ないなこのグループ。勘だけど。
レ級の話を詳しく聞いた結果、現在ある程度以上の協力関係を結べている転生者は総勢87名に及ぶ事が判明した。
ちょっと待って想定の五倍は居るんだけど、転生者ってそんな多かったの?
「オ前等入レテナイカラ、総数ハ余裕デ90超エルナ。大将ハ100人以上居ルッツッテタガ」
「それ全員がチート能力持ってるの? 大丈夫? 地球滅びない?」
「酷イ」「レベルデ」「バランスガ」「取レテイル」
「世界中に散ってるならそれでも足りないんだろうけどさぁ……あの自称魔法使い加減とか知らないのか」
何せ猫吊るし一人だけでもネットワークを通じて色々酷い事できそうな力を有している。私だって大抵の護りを突破して要人暗殺とか可能だろうし、小鬼も400万だかなんだかの深海棲艦が一挙に押し寄せてきたりしたらそれだけで脅威だろう。思ってたよりヤベーぞこの世界。何度目だこの独白。
「マァ、戦闘向ケノ奴ハ意外ト少ネーケドナ」
金回りが異常に良くなるとか、異常に防御力が高いだけで攻撃全然できないとか、夢の中で他人に影響を与えられるだけの人とかも多いのだとレ級は言う。最後の奴際どい衣装着てそう。
「今ノ状況ガ一段落付イタラ引キ合ワセルシ、ソントキャ大将ニモ挨拶サセッカラ」
「大丈夫なの? 死なない?」
「死ンダラソノ時ハソノ時ダナ」
「雑だなおい」
どうもレ級は本当に死ぬとは思っていないっぽい。まあ即死したりはしないだろうけど……負担になるのは事実なんじゃないのかなぁ。
「それで、一段落ってのは具体的にいつ頃になるんだ? 北海道取り戻したらか?」
猫吊るしが腕組みをして、真剣な目で問いかけた。詳細な計画の事は言えないっぽいけれど、どれくらい先になるのかは私も知りたい。そもそも猫吊るしの話じゃ根絶は無理って話だから、どこかで妥協するんだとは思うけど……それとも誰か封印魔法でも使えるんだろうか。そうだったら凄く助かるんだけどなあ。
「一週間後ダ」
レ級は誤魔化しはしないとばかりにこちらをしっかりと見据えてそう答えた。思ったよりずっと近い。っていうか、それだと……
「私の誕生日くらいか……」
「エッ」
そうなのか? とレ級が最寄りの小鬼に目配せする。その子は首を振って知らなーいとアピールする。ただの偶然かな?
「……ソレハタマタマダト思ウガ……トモカク、ソコデ色々ヤルカラ、ソレガ終ワッタラ一段落ダナ」
それ以上詳しい事は教えられないらしい。まあ、教えられてもできる事があるかと言うと無さそうな気もするのだけれど。覚悟しとくくらい? 一週間って短いよなあ……っていうか、演習とかやったのに有効期間そこまでの可能性出てきたなこれ。いいけどさ。楽しかったし。
誕生日云々はともかく、私達はとにかく命令に従って深海棲艦をぶっ倒しつつ、一週間後も頑張ればそれでいいらしい。なんだ、ほぼいつも通りじゃん。
「一週間だけなのに説明必要だったのか?」
「ソンダケ露骨ニヤルンダトヨ。予定ヨリ色々早メラレルッテ分カッチマッテナ……」
「大胆ナ」「チャート変更ハ」「転生者ノ」「特権」
どうも元々は説明無しでも違和感の無い程度の誘導しかしない予定だったらしいのだけれど、無理を通してでも強行する事でより多くを救えると判明してしまったのだとか。具体的には500万人くらい。そりゃしょうがないわ。説明に来るしかないわ。
「アル事ニ大成功シタ奴ガ居テナ、ソイツノ大手柄ダ。転生者ジャネーカラ本人ニハ知ラセネーケド、吹雪モ感謝シトクトイイゾ。青葉ニ」
「青葉さん!?」
青葉さん500万人助けたの!? いや将来的にって話なんだろうけど何したのあの人、転生者グループと繋がりとかあったの??
って思ったけれど、そういう話じゃないらしい。なんでもちょっとミスって青葉さんに情報流して色々やらせなきゃいけなくなったと思ったら、結果的にもっと生存者が増えるルートが見つかったのだという。うーんナイスリカバリー。RTAか何か?
なんて、そんな話も交えつつ、私達は話してもらえる限りの情報を遣り取りして行った。結果分かった事は少なかったのだけど、なんか楽しかったから話をして良かったのだと思う。教えられないってのがなんでなのかとか、不安要素も多いんだけどね。私は好きだよ、レ級も小鬼も。だからそれでいいのだ。きっと。
「ンジャ、時間モ遅クナッタシソロソロ引キ上ゲヨウカト思ウンダガ……」
言いながら、レ級は足元に目をやった。
「ドースッカナコレ」
そこにはPT小鬼が居た。いっぱい。
「減らしたりはできないの?」
「無理ー」「我々ハ増エルガ」「減ラヌ!!」「失セヌ!!」「省ミヌ!!」
「無暗ニ増エンノハ反省シロッテ言ワレテンダロ毎度毎度」
どうやらこの小鬼群、度々増えては海に不法投棄されているらしい。止めてよPT小鬼いっぱいの海域とかどんだけ運ゲー強いる気だよ。いやいつも通りな気もするけど。
「小分ケニシテ持ッテクシカネーカ……」
言うまでもなく、この屋上に放置して行く訳にはいかない。見つかったら事だし、今はまともに機能していないとはいえ監視カメラもあるのだ。ここに居させるのは大問題にしかならないだろう。
「つってもなー、何往復くらい必要なんだコレ?」
猫吊るしも私の頭頂部から屋上の床を見下ろした。そこはちっちゃな赤ん坊みたいな深海棲艦で埋め尽くされている。足の踏み場もない。見れば折り重なって遊んでる奴等も居る始末。自由だなあ。
「十往復ジャ利カネーダローナ。畜生メ」
レ級は片手で顔を覆い、大きくため息を吐いた。感じる圧倒的苦労人ポジの波動。頑張ってるんだろうなあきっと。
そんなレ級のためにちょっと頭を捻ったら、私の頭にいい考えが浮かんで来た。ちょっと見た目は悪いっていうか酷いけど、たぶんなんとかなるはずだ。時間もさほどかからない。そう、私ならね。
「それじゃあやりまーす」
ちょっと確認を取って、深海棲艦の転生者はちゃんと物理ダメージ無効化を持ってると分かったので、私は思い付いた策を実行する事にした。周囲にはわらわら集まったPT小鬼達、猫吊るしは端の手すりの上、レ級はその隣に並んで後ろに控えている。
「イイトモー!」
私の掌に乗っかった一人の小鬼が返事した。どうやら準備はいいらしい。むしろわくわくした表情になっている。あんたも好きねえ。
既に方向は合わせてある。距離も大して遠くない。故に失敗は絶対無い。チート能力さんもやる気のような気がする。
なのでスポーツ選手が砲丸に対してするように、海に向かってPT小鬼を放り投げた。イヤッッホォォォオオォオウ! と声を上げ、小さな影が真夜中の空を飛んで行く。おい馬鹿大声出すなバレたらどうすんだ。
大丈夫かなーと思いつつ待つ事数秒、私の隣で一人の小鬼がぴょんと跳ねた。その子は着弾確認! と伝えるとそのまま私の腕に飛び乗って、わくわくした表情でハリーハリーとせがんでくる。楽しかったらしい。
もしや分体ってかなり便利なのではと思いつつ、その子も軽く海まで投げてやると、次の子がひょいっと跳んでくる。よし来た喰らえとそいつもそのまま飛ばしてやった。すると次のも乗って来る。ならばと私も間髪入れずに腕を前へと突き出した。
そうやってどんどん小鬼を射出していると、なんだか楽しくなってくる。いっぱい居るから効率良く行かなきゃね。投げられる方も慣れてきたのか撃ち出した瞬間次の子が飛び乗ってくるようになり、サイクルはどんどん早くなって行った。
「アイツ普段カラアンナ感ジナノカ?」
「割と」
なんか後ろから聞こえて来るけど仕方ないじゃん。こちとら現役中学生やぞ、学校行ってないけども。たまにはこういうテンションの時もあるよ。たまには。
アニメ見ました。
ドシリアスの中から濃厚なやましぐ成分を接種できて大変満足させていただいております。
アニメだと思ってたより小鬼ちゃんたちの年齢が高そうだったのでちょっと印象違うかもしれませんが、うちの子はゲーム寄りという事で何卒。
P.S. 突然の一般通過島風であのカットだけ別作品になるの強すぎて大好き。