転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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ちょっと待て何だそれは

 

 ――艤装を足の速さを競うのに使うのは構わない。ええ。構わないわ。けれど……

 

 集合無意識の片隅、駆逐艦吹雪の領域へと意識を滑り込ませた私は、夜明けの海に漂う巨体の内部へと招待されていた。ちかちかと誘導してくれる電灯の後ろを進み、以前も開いたドアをゆっくり引く。その先に待っていたのは暗く紅く明滅する不機嫌そうな光る壁と、中央に配された椅子で片足を抱いて気だるげに座っていらっしゃる深海棲艦似の吹雪さんである。

 明らかに不機嫌。怒りと悲しみと呆れとが混ざり合った複雑な感情で部屋そのものが蠢くように光を放っている。あんまりにも申し訳ないので、私は全力で頭を下げるしかないのであった。

 

 

 

 賀藤艦隊の面々が時雨に祝いの言葉を掛けつつ冷やかしているのを横目に、私は艤装から集合無意識に接続した。いや、私もおめでとうくらいは言ったけど、訓練所以来ほぼほぼ係わりの無かった時雨の事だったので混ざり辛かったんだよねえ。

 そうして逃げるように謝罪しにやって来た訳なんだけど、吹雪さんは私の艤装の扱い方が全く気に入らなかったようで、私の頭はヒレのようになっている左手でちょっと強めにぺしぺし叩かれたのであった。体は痛くないけど心が痛い。

 どうやら吹雪さんは艤装がパージされても少しの間なら私の事が把握できるらしく、肘でぶん投げて海上を生身で走った事などは完全にバレてドン引かれていた。本当に艤装要る? と問われてしまったが、有ると無いとじゃ大違いなので絶対要る。なのでそれをしっかり伝えたら、緊急時以外は絶対やらないようにと釘を何度か刺した後に使用の継続を許していただけたのだった。緊急時なら許してくれる辺りやっぱり見た目が深海棲艦なだけで良い人である。

 

 ――それで、その力との対話は進んでいる?

 

 吹雪さんの一部を転生させてしまった件で私は一度怒られて、二度と同じ事を繰り返さないよう力の制御を求められた。私もどうしてそんな事になったのかいまいち理解できていないのだけれど、やったのはチート能力さんなのは確定的に明らかである。だからちゃんと向き合って暴走しないようにしろと仰せつかったのだ。

 でもそれに関して進展してるかというとぜんぜんしてない。

 いやね、チート能力さんは最近私が存在を意識したせいか返事……のようなものを返してくれるようになったんだけど、単語っていうかネタみたいな返答をしてくるだけで基本的に会話にはならないのである。たぶん語彙の引き出しは私の脳からで、見知ったミームばっかりなのはそのせいだろう。あくまで私の持った私の力、という事なんだろうと思われる。

 そんなんでなんで例の魔法使いの所へ吹雪さんを飛ばせたのかと言えば、あの子と力の接続がされたままだったから、と考えるのが自然なのだろう。たぶんなんだけど、魔法使いのあの子は私に力を譲渡したつもりだったのに私はあくまで借りてるだけみたいな感覚だったせいで、ちゃんと受け取りの判子かなんかが押せてなかったんじゃないだろうか。

 ……そう考えると、もしかして私ってあの自称魔法使いになんらかの対価を捧げる代わりに力を与えられたみたいな話になるんだろうか。それだとこの世界に突っ込まれて観察されるのが対価で、私が勝手にちゃんと力を受け取らなかっただけって事で納得いくんだけど。なんか奪われたりはたぶんしてないし。

 あと、これもたぶんになっちゃうけど、チート能力さんの仕様にも問題があったのだと思う。私が勝手にそうだと思い込んでるだけだけど、『なんか』『つよい』はきっと判断力を能力自体が持っていないと成立しないはずだから、私の意図を超えた効果を発揮する権限が能力自体にあったのだと考えられるのである。

 私の認識と能力自身の判断、それが干渉した結果繋がりっぱなしになるわそこを辿って集合無意識の一部を謎空間にはじき出すわの大問題に発展したんだろうと私は結論付けている。だから、まあ……私が『なんか』『つよい』のが自分の力だと思えるようになればそれだけで解決するんじゃないかなあとは思うのだ。

 けどなあ。強すぎんのよこの力。私完全に前世覚えてるんだけど、普通の人間だったからね? 今の超人やってる私と差があり過ぎて認識を変えるのが一朝一夕には行かないような気しかしない。具体的には、最低でもこの状態で前世より生きないと無理じゃないだろうか。いや記憶が薄れない以上もっと長くなる可能性も高い。

 だから試せる事と言えば、結局話しかける事くらいなんだよね。それで飛ばさないように頼んでおくくらいしかないだろう。

 なのでまたこの場を借りて対話させてくれと頼んでみたら、暴発されると嫌だから甲板でやってと言われてしまったのであった。信用されてない。

 

 そんな訳で艦から出て魂に心を集中させる。そうしてちょっとお話良いですかとチート能力さんに語り掛ける。返事はない。まあ、割とそんなもんである。

 暫く手を変え品を変え、返事が来ないか試してみるも、一向に何かを言ってくれる様子はない。うーんやっぱり使う時じゃないと駄目なんだろうか。テンションが上がってるとネタにネタで返してくれたりもするんだけど、そういう時って質問とかしてる場合じゃないからなあ。

 でもそれじゃあ、仕方がない。状況を再現してみるしかないだろう。吹雪さんには悪いけれど荒らさない程度に力を使わせてもらおうか。

 私は甲板から跳んで海に降り立った。相変わらず不安定ながら普通に立つ事ができる不思議な水でできていて、足を動かす必要が無いから現実よりも体勢を保つのが遥かに楽ですごく良い。

 ここなら直接力をぶつけなければたぶん問題無いだろう。私は力を増すために、テンションを上げる作業に入る。思い出すのはさっきの事、超速進化で私の事を差し切った島風の走り。あれはなんか、とっても凄くて凄かった。たぶん天才が努力した結晶があの瞬間に形となって現れたのだと思うのだけど、私としては次やる時はそれに勝つつもりでいるのである。

 いや今も勝てる自信はあるけれども、もっと速くならないと競走中にさらなる高みへ駆け上がられそうな予感しかしないのだ。だから今のうちに私も走る方法を見つけないといけない。その練習のために、チート能力さんにも力を貸してほしいんだ。

 正直に言って、今日の敗北はかなり嫌だったと言わざるを得ない。別に負けて何が変わるでもないのだけれど、なんか、とってもやだったのだ。

 そりゃあ毎日毎日真剣に走ってる風香に負けるのは当然の節理ではあるのだけれど、それはそれとして、勝てるなら勝ってしまいたい気持ちがある。最初の頃なら考えられない話だなあ。勝ち続けて変なプライドでも芽生えちゃったんだろうか。

 ともかく、全力で足を動かして、その上で速く走る方法を探すためにチート能力さんにもご助力を願いたいという訳です。どうぞご協力オナシャス!!

 

 ――いやですとも!

 

 なんて、頭に何かしら涌いてそうな事を考えていたら、私の内側からどことなく不機嫌そうな声が返って来た。

 初めての反応にちょっと慌ててしまったのだけど、別に力が抜けるとかそういう事は無いっぽい。ただ、普段以上に力が増すような事もない。なんというか、普通の状態。これは……これは……?

「もしかして拗ねていらっしゃる?」

 

 ――違うよ。全然違うよ。

 

 いやその返答はだいぶ拗ねてるんじゃあないだろうか。え、何? 初敗北して拗ねたの? うせやん。君そんなしっかりした人格だったの? ってのもあるけど、その、力にプライドとかある感じなんだ……?

 なんて思ってたら、むううううううう! っとふくれるような声がして、チート能力さんは無事返事をしてくれなくなった。えー。困る。

 

 

 

 

 

「雪ー、雪ー?」

 ゆさゆさゆさゆさと高速で揺すられる感覚で私は目を覚ました。目の前には見慣れた島風が張り切った様子で眠たげな瞳を輝かせている。

「ん……なんかあった?」

 揺すられるとこっちに引き戻されるのは知ってたけど、実際やられるのは初めてだ。まあタイミング的には丁度良かった、チート能力さんがあの様子じゃあちょっと時間を置いて出直した方が確実だろう。機嫌が悪い時は待ちに徹するに限るのだ。本当に拗ねていたらの話だけども。

「島風改装するって! 行こう!!」

「早くない?」

 ええ? 島風さんから許可取ったの今さっきだよ? 私が吹雪さんの所に居たのなんて現実時間で数分とかだよ?? これもう大淀さんが連絡して二つ返事でOK出てるだろ。一瞬たりとも迷われなかっただろ。いや許可しない理由ってのも特に無かったんだろうけども。

 軽く辺りを見回すと周囲にはまだ賀藤艦隊の皆が残っていた。島風の声が聞こえたようで改装って改二かな? すごーいなどと騒めく声が耳に届いている。まだまだ例が少ないから精鋭の証みたいな捉え方をされているのだろう。実際には影響の深度と艦娘からの許可の問題であって能力自体は関係ないみたいなんだけどね。

「金奈枝と扶美先輩も許可申請してたから、ついでで私のも出たんだって!」

「金剛さんと扶桑さんが?」

 なんと。どっちもかなり優秀……というか、金剛さんは私が居なければ頂点獲ってたとか言われるレベルだから不思議はないけれど、また急な。扶桑さんも戦果はかなり挙げてるらしいと聞くし、艦娘の覚えも目出度かったんだろうか。

 っていうか、もしやこれも露骨な誘導されてたりとかするのかな。無くても定期的に確認はしてるだろうけど凄い被り方してるぞ……全員同校出身だし。

 島風はほらほらはやくーと私の手を引き、それに追随するように連装砲ちゃん達が私の後ろ、寄り掛かっていた艤装との隙間に入り込み背や尻をぐいぐいと押してくる。連携して立ち上がらせようとしているのだろうがそんな事せんでも自分で立つからちょっと待って欲しい。連装砲ちゃんの体は金属質なのでぶつかるとちょっと痛いのだ。かわいいけど。

 

 そのまま片手に自分の艤装を持った島風に手を引かれて連れられて行けば、奥では大淀さんが明石さん達に説明を行っていた。猫吊るしも他の妖精さん達と一緒におっしゃやったるぞおらっしゃーとやる気満々で拳を振り上げている。お前最近猫被んないよな。別に必要ないけどさ。

 その輪の中に進み出た島風が自分の艤装を差し出すと、そこに猫吊るしが飛び乗ってあっちあっちと作業場所を指差した。オッっと一鳴きした島風はそのままそこに自分の艤装を設置する。片手で。腕力も結構影響出てるなあ。

 ぼんやりその光景を眺めていたら大淀さんがこっちに来て、それじゃあ号令をお願いしますねと私に向かって言い出した。ん? と思ったがそういえば提督の指示が必要みたいな感じなのかこれ。別に誰でもいいんだろうけど、島風の担当は私だからって配慮してくれたのかもしれない。

 じゃあ、駆逐艦島風改二改装開始してくださーいと妖精さん達に向かって宣言すると、猫吊るしがいつも通り改二改装の時間だオラァと叫んで一番に艤装に飛び込んで行った。次々後を続く妖精さん達と、明石さん達。いや明石さん達は周囲で手伝ってるだけで中には入れないんだけどさ。

 島風の方にはメジャーを持った妖精さん達が群がって行って、採寸しながら生地やボタンを用意している。そういえば島風は身長とかどうなるんだろう。集合無意識の島風さんと会った事は無いからどれくらい差があるのかとかさっぱり分からない。個人的に風香は島風として特に違和感ないからあんまり変わらないような気はするけどね。

 いやしかし、待ってる側暇だなこれ。大勢の前で猫吊るしに体操作させる訳にも行かないから手伝えないし……せめて資材運びくらいやらせてもらっても……え、要らない? でも君らの体格で運ぶの大変じゃない? 提督は見てるのも仕事? ほら私本業艦娘の方だから……駄目? そっかー。

 

 

 

 

 

 目の前を島風が力強く滑走していく。その動きは、かつてのそれよりさらに速い。特に滞りなく改二改装は実行され、問題なく完遂された。出来上がった島風改二はまあ大方の予想通り、速度特化の劇物である。

 ゲームで言うなら高速だったのが高速+か最速になった感じだろうか。高速で行ったり来たりを繰り返す島風の様子を見ていると、一段どころか二段階くらい速度が上がっている印象を受ける。つまり、通常航行ではもう私は全く追いつけそうにない。

 前からその傾向はあったんだけど、改二になったらそれがさらに顕著になった。指輪効果で適性値が上がると共に速度も上がってたと思われるからなあ。適性値は据え置きだろう私が追いつこうと思ったら走るしかないからもう完全に猫吊るし必須である。

 島風は服装的には殆ど何も変わっていない。目立つ変化は頭のうさ耳リボンが白くなってるくらいだろう。そう、決戦modeである。通常時より露出が増えるとかでなくて良かったとは思うが地味と言えば地味な変化で、本人もちょっと残念そうだった。

 艤装の方は少しだけ外観が変わった。具体的には、後部と左右に連装砲ちゃん達を装着できる箇所が増設されたのである。試しにくっ付けてみたら駆逐艦としては大型の艤装になって驚いたが、連装砲ちゃん達は結構しっかり固定されている様子で動くのに支障はないとの事。着脱も早く、連装砲ちゃん達が飛び乗って自分で嵌ってくれるため急ぎの時も安心である。

 その連装砲ちゃん達であるが、別に数が増えたりはしなかった。天津風さんの改二が凄い事になっていたのでちょっと心配だったのだが、娘の島風はその特性は受け継がなかったらしい。

 っていうかね、島風の改二、装備スロット増えなかったんだよ。いや、正確に言えば増えてはいる。増えてはいるのだけれど、固有装備がそこに入って取り外せない状態であるらしいのだ。おかげで火力はほぼ据え置き、一応内部の最適化で発射レートがさらに上がったりはしてるそうだけど、他の改二と比較すると単純な攻撃能力で言うとかなり見劣りする。装備数だけはしっかり増えた私の改二と比べてもである。

「大淀指令! 一晩、一晩でいいので、あれを詳しく調べさせてください!!」

「駄目です」

「リバースエンジニアリングにご興味はありませんか!?」

「ちゃんと元に戻しますから!!」

「駄目です」

「メンテとか全部間に合わせますから!!!」

「そういうのは戦況が落ち着いてからです」

「落ち着いちゃったら私達絶対に呼ばれないじゃないですか……!!」

「そうですよ! どうせもっと上の権威の人達が独占するんです!」

「……貴女達が艦娘として残留するなら呼ばれそうな気はしますが……現状最も詳しいですし……」

 後方で大淀司令官とマッド明石さんとマッドじゃないと思ってた方の明石さん達の声がしている。いや、まあ。私も気持ちは分かるんだけど、一点モノだから壊されたら困るし……

「島風ー! 問題なさそうなら戻って来てー!」

 ともかく連装砲ちゃん達を担いで景気よくぶっ飛ばしている島風に声を掛ける。私の立った岸壁から見て水平線の方へと走っていた島風は、それに気付いてオウッっと鳴き、一切の減速をする事なく、その進行方向を180度転換した。

 見れば見るほど違和感が酷い。島風は弧を描いて逆側に進みだすとか、一旦速度を0にして再加速するとか、そういう通常の反転をしている訳ではない。完全に、一切の減速も余計な距離を移動する事もなく、その進む向きを操っているのである。

 この世界で改二に改装すると、初回に限りであるが、一緒に装備が生まれて来る。私の場合は戦闘糧食と秋刀魚の缶詰と洋上補給。これは二回目以降は生まれないため失うと二度と手に入らない可能性があるレアものだったりとかするし、実は私の秋刀魚の缶詰もその類だったりするのだが、島風のもその例に漏れなかった。

 と言うよりも、どうやら風香の改二はその産まれて来る装備品こそが真価であったようなのだ。ある意味では現状で最も特異な改二と言えるのかもしれない。猫吊るしが報告を上げた時、私は固まったし、大淀さんも固まった。島風自身は事の重大さを理解しておらず、明石さん達は大興奮だった。

 その問題の生まれてきた装備というのが、慣性制御装置である。

 慣性制御装置である。

 大事な事なので二回言いました。

 お前なんで時代置き去りにしてんだよ……速過ぎだろ……

 

「で、実際どうなの?」

「頭おかしい」

「おうっ!? 酷くない!?」

 酷くないと思う。だってお前、個人に搭載可能な小型慣性制御装置だよ? いや一応艤装の中は見た目より広いらしいから実際にはもっとでっかいんだろうけどそれにしたって最大の想定しても一駆逐艦に搭載できるサイズだよ? なんでWW2からSFに跳んでんだよ。科学の発展もはやーいとかもうそういうレベルじゃないんだよなあ。

「燃料消費多いくらいしか弱点ないぞこれ……たぶん衝撃吸収も行けるから防御力も上がるし滅茶苦茶だ。っつーか、完全にオーパーツ。艤装の事理解しないで発掘されたらタイムトラベラー疑われるレベル」

 直撃は無理にしてもカス当たりくらいなら被害を無くせてしまうらしい。何その……何? 逆に直撃は無理なのは何なの? バランス調整? いや、そんなもんあるのか知らんけど。

「一応、専用装備化してて他に搭載するのは無理だし一体化してるから取り外すのも無理っていうのが問題点だな。あと、たぶんもう一台改装しても付属しないから生産方法は確立しときたい」

 あっと思ったがもう遅い。猫吊るしの言葉にほらああ言ってますよと明石さん達がまた言い出した。確かに構造が分かったら文明の発展に寄与しそうではあるけども。

「じゃあ……走る?」

「!! うん!!」

 後ろの騒ぎを放置して、私は島風から猫吊るしを受け取った。島風改二の中には今、普通の妖精さんも入っている。だから運用には問題ない。私達は背負った艤装を起動すると水面に降りてやる気満々な島風に並んだ。

 これから行われるのは連続高速移動と慣性制御装置を併用した場合、通常の妖精さんが耐えられるのかどうかのテストである。なんか知らんが内部が滅茶苦茶快適になるらしいんだよね。揺れが全然無いとかなんとか。

 魔力をほとんど使いきっているため十数歩程度になるのだけれど、それでも隣の島風は嬉しそうにしている。これが上手く行ったら私達はもうほぼ常時走って移動する事になるだろうから楽しみで仕方ないのだろう。まあ無理だったとしても島風の速度が上がってる関係で、結局私は走る事になるんだけどね。

 

 

 

 

 

 二人で疾走して、妖精さん達がぴんぴんしてるのを確認して私達は帰路についた。大淀司令官と明石さん達はメンテナンスしてる時に装甲がちょっと外れるくらいは仕方ないだろうという事で決着したようで、目のギラついた宮里艦隊のダブル明石さんを呆れた目で眺める賀藤艦隊の明石さんが見られたりはしたが概ね平和に島風の艤装は回収されて行った。猫吊るしも笑顔でそれに付いて行った。たぶん徹夜コース。大淀さんは子細を上に報告しなければいけないようで頭が痛そうに執務室へと戻って行った。お疲れ様過ぎる……

 しかし、本当にどうなるんだろう島風。実は現状チート能力の事が転生云々とバラしていない私より遥かに重大な位置に居るような気がするんだけど。

 だってこの子、謎のエネルギーを操る手段を習得して慣性制御装置を産んだとかいう訳の分からない存在になっちゃってるからね。もう世が世ならとか言ってる場合でなく本人も研究対象じゃなかろうか。私や初春みたいに生まれつき使えた訳じゃないのがレベル高い。後天的にできるようになる可能性を開拓したって事だもん。いや魔法使いのあの子に会っちゃったのも影響してるかもしれないけどさ。

 

 なんて考えながら酒保でお菓子を物色する。現実逃避半分に島風の改二祝いと競争の時に潰してしまった妖精さんへのお詫びの品を選んでいるのだ。

 ここは過去最大規模の鎮守府故か品揃えが他と比べてかなり良い。だから選択肢には困らないけど、逆に多くて悩まされる。別に金銭的には困ってないし候補の奴全部買っても問題ないけど、流石にそこまで金銭感覚崩壊してないしね。

「へえおめでとう……思ったより掛ったわね」

「ありがとー。走り方覚えるの大変だったんだよ! 雪にもちゃんと走ってもらわないとだったし!」

「あんた名前で呼んでたっけ?」

 レジ前に設置されたスペースでは曙と島風が揃って書類に筆を走らせている。出金するにも取り寄せるにも必要になるため二人とも慣れたものだ。使い放題よりは将来のためにいいだろうから仕方ないんだけど、正直ちょっとめんどくさい。

 私達が島風改二の検証を行っている間に曙は帰って来ていたようで、酒保に来た時には既に購入する品を吟味している最中だった。書き物があるという島風はささっとそっちに合流し、普通に買い物するだけの私は離れて店内を見て回る。そうしている間に目聡い曙に頭飾りの変化を見抜かれ、改装したと説明する事に相成ったようだ。

「それで、どんな改二になったの?」

「すっごく速くなったよ!!」

 やっぱりそうなんだと笑いをこぼす曙とすっごいよと笑顔で更に強調する島風。対して私の方は島風が慣性制御装置に関して話してしまわないかと気を揉んでいた。

 島風改二から生まれた特殊装備についてはとりあえずかん口令が敷かれている。あんなもんの存在を無駄に広める訳には行かないからある種当然の処置だろう。なので島風も言ったらいけないんだけど……とりあえずバラしそうな気配は無いので大丈夫そうかな? いや、実際にはその辺りしっかりしてる子なんだけどね。むしろ私より失言が少ない可能性もあったりするくらいには。

「あたしもそろそろ再挑戦するかな……」

「大丈夫そうなの?」

「影響はかなり出てきたわよ。まあ……あんた達程露骨じゃないけど」

 言いつつ私の方へと目を向ける曙。棚と向かい合ってて目は合わないが愁いを帯びた表情なのは分かる。一回倒れてるから不安なのだろう。なっても良いと認められてはいるのだろうけどねえ。

 などと思いっきり盗み聞きをしていたら、入り口からかなりの勢いで飛び込んで来た重巡洋艦が一人、瞳を輝かせながら島風に向かって突撃して行った。青葉さんである。どうやら島風の変化に外から気付いたらしい。結構目立つんだなあのウサ耳風髪留め。

 なおこの後、島風は青葉さんに根掘り葉掘り聞かれていたが言うべきでない事は全く言わなかった。逆に話の流れで青葉さん達の身体能力がどうなってるのかが知れたのだけど、曙共々そこそこ高い天井まで軽く飛んで手を触れるくらいは余裕なご様子。そろそろ改二になる人たちも増えて来るのかもしれない。拒否する人も……出るのかな?

 

 

 

 

 

 翌日。予定の日まであと五日……くらいであるのだが、昨夜にちょっと動きがあった。上層部が急に、大規模な攻勢を決定したのである。

 通達では六日後……つまり今日から見て五日後に決行予定で、それに合わせて各鎮守府からそれぞれの最高戦力が送られてくるらしい。人数的には四国の時よりもさらに少数精鋭予定との事で、とにかく素早く事を進める方針のようだった。

 おかげで昨晩は金剛さんから改二になりました!! とそっち行きます!! のメールが連続で入って来るわ初雪から選出されちゃったヤダー!! の泣き言が入って来るわで大変だった。金剛さんはともかく初雪……今更だけどマジで精鋭扱いなんだなぁ。提艦隊その二人しか来ないらしいし。

 他には扶桑さん、北上さん、比叡さん、榛名さん、霧島さん、漣、吹雪(二期生の方)からも連絡が来ている。沖縄組は何やら台湾の方から敵が流入してるとかで不参加である。もしかしたらそっちの解放に動くかもしれないらしいが国際的には大丈夫なんだろうか。いやそんな事言ってる場合でもないだろうけどさ。

 

 ともかく全ては五日後である。なので今日は普通に迎撃や調査をして態勢を整える作業なのだ。つまり昨日と一緒だね。

 違うのは第十艦隊の機動力である。昨日島風改二は猫吊るしに頼らずとも高速移動が可能だと結論付けられたので、本日は現場で使ってみて実用に耐えるかの検証をしているのだ。

 結果は……目の前の真っ赤な海で背負った連装砲ちゃん達の連装砲と元々付いてる魚雷をガンガンぶっ放してる島風を見れば分かるだろう。大成功である。しかも戦闘中に弾が飛んで来たら横に跳んで避けるとかもできる。いやそもそも普通に滑走してるだけで速過ぎてまともに当たらないんだけども。

 この改二、火力は上がってないもののとにかく速さが並外れているため想像以上に強くて便利。何しろ未だ午前であるにもかかわらず、我々は既に二百を超える深海棲艦を海の底へと叩き込む事に成功している。移動時間が短縮されてロスが減った賜物である。

 燃費は悪化してるけど、私の方に燃料を多めに積んであるから問題ない。戦闘スタイル的に弾薬の消費も早いし、相性は悪くないと思う。むしろ他と組むのが難しい傾向にあると言われていたのがさらに極まってしまった感がある。もう他に島風が居たとしても隊を組むのは難しいだろう。

 走っては撃ち、走っては蹴り、走っては殴り倒す。島風の魔力もかなり増えているためなかなか底を突く事もない。なので昼休憩を挟みつつ、私達はスコアアタックのごとく延々敵を狩り続けたのであった。

 

 そろそろ帰るべきかな、と思ったのは積んでいた魚雷を島風に全部詰め込んだ時である。島風が高速移動後に戦えるのかを確認するために撃たせまくったせいで消費が非常に多かったのだ。

 とりあえず今海中に視えている潜水艦だけ始末したら一回変色海域から出て連絡を入れて帰投しよう。そう思って爆雷を水平線に向かって放り投げると、丁度そのタイミングで、鎮守府の方から通信機に着信が入ったのだった。

『第十艦隊、第十艦隊。応答願いますどうぞ』

「第十艦隊、吹雪です。何かありましたか? どうぞ」

 実は、どうぞ言わなくても良いらしいんだけどねこの通信機。ただ変色海域内だとノイズが走ったり全く繋がらなかったりするので片方ずつ喋るに越した事はないってだけの話なのだ。

 通信相手は大淀さん、少し声が歪んで聞こえるが変色海域内なら会話になるのは大分マシな方である。まともな音になってない場合も多々あるからなあ。

 大淀さんはまず私達の現在地の確認を取った。第十艦隊は猫吊るしが居るのでその辺りは抜かりない。正確な情報をお届けできる。通信機の向こうからは紙の擦れる音がして、海図と見比べているのだろうと思われた。たまにアナログになるんだよねこの組織。

『第十艦隊へ、救援要請です。第九艦隊、ガンビア・ベイが轟沈、戦闘は終了しましたが、適性者が行方不明になっています。合流し捜索に当たってください。どうぞ』

 オウッっと島風が声を上げた。私もちょっと動揺したが成程、海面海中なら私が一番広くを探せるもんな。そして今なら島風を抱える必要もなく合流可能。私達に話が来るのは道理と言えた。さらに言えば。

「了解。とりあえず現場に直進します」

 現在、私が提督として無効化貫通能力を付与している艦娘が十一個ある艦隊全部に最低一人は配されているのだ。おかげで結構頻繁に被弾情報が送られて来てたまに心臓に悪かったりもするのだけれど、こういう時は本当に役に立つ。

 第九であればそれはレーベレヒト・マース、レーベである。なので彼女を思い浮かべ、提督に担当艦娘への道を指し示す羅針盤妖精さんの能力をも併せ持った猫吊るしにお願いする。

「羅針盤は持ったな!! 行くぞォ!!」

 いやお願いじゃねぇなこれ。仕方ないじゃん艤装の中の渡そうと思ったら猫吊るしもう構えてたんだもん。結構焦ってて出ちゃったんだもん。

 ともかく私の号令と共に第十艦隊は動き出す。現場に向かって真っすぐに。本気の高速移動でもって。

 

 

 

 道のりの半分を過ぎたくらいか、青い海へと出てなお疾走を続ける私達は無人の海を一足数十メートルの歩幅で飛び跳ねていた。周囲の警戒は怠らず、視覚聴覚は常にフル稼働で私の脳に情報を送り続けている。

 ともかく合流したらすぐにソナーで周囲を探ってみなければいけない。幸い轟沈場所は変色海域ではなさそうなので波間に浮かんでいる可能性は十分ある。変色海域ではかなり難しいらしいが通常海域ならば浮くだけなら何とかなるはずだ。

 そう考えながら全力で走る私の目の端に、金色と赤色と青色が映り込んだ。

 まさか敵かとその異物の方を睨み付ければ、そこにあったのは探しに来たそれそのものである。つまり、なんとガンビア・ベイさんその人であった。

 マジかと思い進路を変え、一瞬で横へと降り立てば、艤装を失ったガンビーさんは下半身を水中へと沈めながらも赤い何かを腰に据え、目を閉じ口を半開きにしてぷかぷか呑気に浮かんでいた。うん。呼吸音もするし間違いなく生きてる。良かった。良かったけどこう、表情のせいで若干腹立つな?

 しかし目立つ色をしていてくれていて助かった。金色の髪が水上に映えて良い感じ。そうじゃなければ見逃してたかも。浮きにしているお腰の物も赤くてここでは分かり易い。良いチョイスだと言わざるを得ない。

 言わざるを得ないんだが……なんだろう。それは赤くて、ドーナツ状で、手足みたいなものと角みたいなのが生えていて、口っぽく見える裂け目がある。あ、私に気付いて手を振ってる。かわいい。っていうか君目とか無いけど私の事分かるんだ?

 温厚そうな動作に感じられない敵意。まあまず間違いなく普通に助けてくれてるだけだろう。ガンビア・ベイだから? そうだよね、ガンビア・ベイは放っておけないよね君等なら。

 そう思えて仕方がない真っ赤な体な彼の言い訳の利かない正体ですが、どう見ても深海浮輪さんです。本当にありがとうございました。

 

 

 




創造主のなんでもできる力を少量とはいえ取り込んだ奴が自身の個性を反映するモノを使った結果がこれだよ!!
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