転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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カワイイってなんだ

 浮輪さんだなぁ。浮輪さんだよなあ。と思いつつ、とりあえずガンビア・ベイさんを抱き上げて、呼吸音など体の状態を確認しながら橈艇を猫吊るしに取り出してもらう事にした。

 私の艤装は色々載っているのだけれど、救助用の小舟だとかも大発と同じ要領で詰め込まれていて割と内部の容量を取っているのだという。整備はちゃんとされてるようで、初めて使うが特に問題は見られない。後ろからすっ飛んで来た島風の驚く声を背に、私はガンビア・ベイさんをその船上に横たえた。

 状況を確認するから発見報告しておいてと島風に頼み、船の外からガンビア・ベイさんに猫吊るしをポンと置く。私より正確にできるからお任せである。その間に私は浮輪さんをさっと取り上げて、橈艇の影で島風に届かないよう囁いた。

「浮輪さんは敵?」

 全身を横に震えさせる浮輪さん。

「仲間?」

 全身を縦に震えさせる浮輪さん。

「鎮守府の人達に会わせても大丈夫?」

 全身を横に震えさせる浮輪さん。

「私の事知ってる?」

 全身を縦に震えさせる浮輪さん。

 うーん……もしやと思ったが、この浮輪さんはやっぱり露骨な調整の一つ、なんだろうか。だとしたら転生者って可能性もあるなあ。どうしよう。仲間の命の恩人だしその辺りに投げ捨てるのは躊躇われるけど、かと言って持ち帰るのも問題がある。敵だったらって可能性を0にはできないからなあ。喋ってくれると助かるんだけど、そういう気配が無いので発声機能を持ってないのかもしれない。

 なんて迷ってたら島風が報告を終えこちらに寄ってくる気配がしたので、私は咄嗟に浮輪さんを自分の艤装に突っ込んだ。思ったよりすんなり中に入った浮輪さんは中でころんと転がって、壁に当たってその場に横たわったようだった。自分でやっといてなんだけどちょっとかわいそう。

 何やってるのと問いかけて来た島風に索敵してたと嘘ではない返答をして猫吊るしの方に声を掛ければ、ガンビア・ベイさんに異常無しとの報告が上がって来た。どうやらショックで気絶してるだけで外傷は見られず、服も裂けてはいるが原形を留める程度の被害しか受けていないとの事である。ただ海水に漬かっていたせいで体が冷えてるから早いとこ鎮守府に搬送した方がいいらしい。もう距離的にも遠くなかったので要救助者にはそのまま安静にしていて貰い、私が船を曳いてとっとと帰る事になった。

 えっちらおっちら時速百キロメートル以上で走っている間、艤装の中の深海浮輪さんの様子はそれはもう大人しいものだった。猫吊るし曰く壁のでっぱりにぶら下がってぶらんぶらん揺れていたらしい。新手の備品か何かかな?

 

 

 

 

 

 五十嵐艦隊の面々に感謝されつつ、まだ昼過ぎくらいだったので再出撃。その間に浮輪さんの事をどうにかしたかったのだけれど、周りに人が多すぎて駄目だった。いや出先で島風の目を盗んで外洋にぶん投げるくらいは可能だったんだけど、流石に良心が咎めちゃったのだ。

 結局、私が行動を起こしたのはその日の夜になった。消灯後、同室の島風、曙、文月が寝息を立てるのを確認してからチート肉体制御力で物音一つ立てずに部屋から脱出し、寝巻のまま工廠へと向かう。寒い。

 工廠ではガンビア・ベイさんが轟沈するくらいには激しい戦いがあったせいか未だ作業音がガンガン鳴り響いており、私の接近に気付く者は誰一人居ない。一応言い訳のために艤装の中にお財布置いて来たんだけど無意味だったようだ。

 できるだけ気配を消して自分の艤装へ忍び寄ると、中では念のために浮輪さんの見張りをしていたはずの猫吊るしがなんでか一緒に楽しそうに踊っていた。まあ警戒する相手じゃなかったのだろうと納得しつつ、二人を引っ掴んで外へ出る。今度は本当に財布を忘れてしまったが、どうせ明日も艤装使うし別に構いはしないだろう。

 ぴょんぴょん跳んで工廠の天井に上がり、海岸線の光の当たらない場所に目星を付ける。どこがいいかなーと結構いい眺めを若干楽しんでいると、遠くから、私の耳に聞き慣れない声が届き始めた。

 ずっと鎮守府の少なくない夜勤の人達の声は聞こえていたのだけれど、それとは別、小さいのにやたらとはっきりとした声が人目に付き辛そうな岩場の方から発されている。それは何か形容し難い、ベーイベーイの泣き声のように私には聞こえたのだった。

 もしやと思い足を動かし、声の主との距離を無かった事にしてやると、そこには真っ白な体に白黒混ざったツインテールを持ち、腰に付けた白い浮輪さんに差し出されたハンカチで涙を拭いながらひっくひっくとしゃくりあげる、どう見ても人間じゃない女の子が足を投げ出して座り込んでいたのだった。

 

「良かったよぉ……帰ってこないから、うっかり割られちゃったんじゃないかって……」

「いや、この子ビニール製じゃないし割れなくないです?」

 手渡した浮輪さんを抱きしめて、頬ずりしながら少女は涙目で鼻を啜った。まあ力入れたら割れるかもしれないけどさ。力加減完璧だから私。

 暫くそうして赤くて丸いナイスガイ……いやもしかしたら女の子か……? 分からんけどその子との再会を喜んでいた明らかに深海棲艦な白い娘はやがて落ち着いたのか私の方を上目づかいで見ると、涙ぐんで赤みの差していた頬をさらに恥ずかしそうに赤く染めた。

「あの……ご迷惑おかけしました……」

「いえこちらこそ。ガンビア・ベイさんを助けてくださったんですよね?」

「同郷って事でいいんだよな?」

 待ってる間にいつもの位置に移動した猫吊るしと私の続く問いかけに、その子は首肯で答えてはにかんだ。白い浮輪さんは保護者めいた雰囲気で見守っている。目は無いけど。赤い浮輪さんにもお礼を言ったらいいって事よって感じで口角を軽く上げてサムズアップした。

「えっと、ボクは護衛棲水姫、みんなはベイって呼びます……転生者です」

 よろしくお願いします、とお互い頭を下げ合った。立ち上がると私よりも背が高い。奇しくもガンビア・ベイさんと同じくらいに見える。偶然……かなあこれ。

 それにしてもボクっ子か。この世界には結構居るけれど、この場合は私と同じなんだろうか。つまり、TS転生者。なんとなく親近感がある。小鬼は性別を感じさせなかったからなあ。レ級もなんかそういうの無かったけど。

 私と猫吊るしも名乗ったが当然のように既に知っているような反応で、そもそも陣営の転生者に知らない人は居ないと思うとまで言われてしまった。なんでさ。

「この子達は深海浮輪さん……こっちで産まれた時からの付き合いです」

 三人……人? ともかく浮輪さん達が護衛棲水姫さんの足下に並び、ビシッと敬礼を決めてくれた。かわいい。

「この子達は転生者ではない?」

「うん。あ、でも普通の深海棲艦……でもないのかな? なんでか人間さんに敵意持ってないです」

「ああ、この世界の深海棲艦はあくまで人間の負の感情とか意思が具現化したモノだからな。別に人間を殺したり傷つけたがる奴ばっかじゃないんだ。こいつらは……まあ、直接害のある感情が核にはなってないんだと思うぞ」

 猫吊るしは言葉を濁したが、表情と口振りからしてたぶんそれがどういう物なのか見当は付いてるんだと思う。ただ、護衛棲水姫さん本人には言い辛い内容だったっぽいだけで。え、何それ超気になる。後で聞いてみようかな。

 護衛棲水姫さんは感心した様子で話を聞き、浮輪さん達にそうなの? と確認をするも、本人達は知らないらしく三人揃ってさあ? という感じで体を斜めに傾げさせた。かわいい。

「あっ、うん。でも、ゴトランドさんがここなら平気って……それに、ほっぽちゃんが迎えに来るから……」

 急に、護衛棲水姫さんがそんな事を言い出した。へえ、北方棲姫も仲間に居るんだ……四国で凄い蹴ったりしたからちょっと顔合わせ辛いかもしれん。いや別個体だろってのは分かるけどさ……別個体だよね?

「ここから自力で逃げるのは無理だよぉ……ボク戦えないし……」

 その言葉は明らかに浮輪さん達に向けられていた。でも、私の聴覚には何の声も聞こえていない。そもそも喋れるなら最初からやってるだろうしね。つまり何か別の方法で意思疎通を行っているのだと思われる。護衛棲水姫だもんなあ、深海棲艦としての能力なんだろうか。ちょっと羨ましいかもしれない。

「浮輪さん達はなんて言ってるんですか?」

「ああっ、ごめんなさい……えっと、見つかる前に撤収した方がいいんじゃないかって。でも、ボクだと海で艦娘に見つかったら普通に沈められちゃうので……」

 現在は日の出ている間の襲撃が多くて、今の時間夜戦部隊は海に出ていないはずだけど……まあ、その辺りは知らないのかもしれない。川内さんが勝手にふらふらしてる可能性も完全には否定できないしね。だいぶ不満そうだったし。

「戦うのは苦手なんですか?」

「苦手っていうか……無理です……」

 さてこの護衛棲水姫さん、本人曰く、全く戦う事に関して適性が無いらしいのである。撃てば外し艦載機はまともに扱えず殴りかかれば足がもつれ魚雷は手元で爆発する。そもそもの話戦う事に恐怖心があり過ぎてまともに立ち向かう事すらできそうにない。なんとも残念な転生者なのだという。

「吹雪さんは凄いですよね……強いですし、なによりちゃんと戦えてるし……」

「チート無かったらだいぶ怪しいので、私の功績とは言い辛い所があるんですが……」

 一応真面目にやってるつもりなのは私のおかげと言えるだろうけど戦果についてはなあ。チート能力さんが強すぎて敵が怖くないレベルってだけだから私自身を褒められるとちょっと困る。

「護衛棲水姫は戦える能力じゃないのか?」

「あっ、うん。ボクのは翻訳能力だから……それで浮輪さんともお話できるんです」

 だから気に入っている。気に入ってはいるけど、色々と役に立てなくて申し訳なく思っているらしい。成程。チート能力で会話してたのか。それじゃあ私には理解できない訳である。聞こえない辺り音以外で会話してたんだろうか。音以外の言語……プログラミング言語とかも行けそうだなあ。

 猫吊るしは直接は戦えない能力という繋がりからか護衛棲水姫さんの能力に興味を持ったようで、色々と、それこそ根掘り葉掘り彼女の情報を聞きに行った。結果、どうやら彼女が世界中に艤装を普及するため同時通訳として奮闘している事が判明した。うん……割と重要人物では……?

 世界に対してどれくらいの規模で普及活動に勤しんでいるのかはよく知らないけれど、誤訳を起こさない上微妙なニュアンスも伝えられるチートっていうのはかなり有難いんじゃないだろうか。それに護衛棲水姫さんかなりの美人だと思われるし、顔色だけ何とかしたらきっと印象もかなり良い。声も美麗だし……あ、そういえばレ級達はちょっと籠ってるというかくぐもってるというか微妙な違和感があったんだけど、それが感じられないのもチートの恩恵なんだろうか。なんていうか、適材適所で普通にすごく役に立つ能力だと思われる。

「実は私より役に立ってたりしません?」

「いやっ……! それはぜんぜん、無いと思いますっ……!」

 うーん自己評価が低い。替えが利く程度ですって本人は言うけれど、私だってナンバーワンではあってもオンリーワンじゃないから替えようと思えば替えられると思うんだけど。たぶん小鬼とか猫吊るしの方が居ないと不味いと思うの。っていうか戦力だってもっと使いやすい転生者居てもおかしくないし。

 っていうか、他の転生者との交渉にも役立つよね。日本人ばっかならともかく外国語しか分からない人も居るかもしれないし。そう考えると間接的に物凄い数助けてる可能性もあるなぁ。浮輪さん行けるなら普通の動物とかも行けそうだし割と色々できそうな……

「あ、もしかしてその能力って連装砲ちゃんの言葉も分かったりするんですか?」

「あっ、そうですね! 連装砲ちゃん達のは分かります!」

 マジかよ羨ましい。ちょっとそのチートの使い方教えて……え? 習得難易度猫吊るしのと変わんないの? 万年単位か……厳しい。あれだ、聞き取る方だけならもっと短くなったりしない? いやそれでも千年単位行きそうか。なんか方法ない? 連装砲ちゃん喋れるように改造する方が早そうなんだけど。

 なんて遣り取りをしていたら、護衛棲水姫さんは私達を見ながらくすくすと笑い始めた。どうもつい漏れてしまったものであるらしく、慌てた様子でごめんなさいと俯いてしまったけれど。

「笑っていいんだぜ、この連装砲ちゃんとお話ししたいTS日本艦娘最強物理で殴ればいい系転生者様をよ!」

「もっと優しい言い方があろうもん……」

「くふっ……仲良いんですね……」

 なんか浮輪さんも優しい目をしている。目は無いけど。いやでも、言いたい事分かったら便利じゃん。結構あるんだよ何を伝えたいのか理解に苦しむ事。

 

 護衛棲水姫さんは一人じゃ帰れないからお迎えを待つと言う。なのでそれまではという事で少し突っ込んだ話をして海外の情報とかを教えて貰ったのだけど、艤装の普及はとりあえず進行してはいるらしかった。ただ、まだまだ配備まで行ける所は少ないようで日本のようにすんなりとは行っていないとか。まあ日本は楠木提督がこっちの関係者だろうから例外だろう。あと転生者企業が存在するとかいうアメリカも。

 会長以下幹部全員が転生者で構成された運営上手く行ってるのか疑問なその企業だが、どうもみんなチート能力と未来知識全開で仕事するもんだから成績は優秀通り越して世界一名乗って問題ないくらいになっているらしい。だがしかし、そうなると当然恨みとか妬みとか買いまくる訳で、あんまり平和ではないとかなんとか。まあサイバー関係糞強転生者とか空間支配系能力者とかそんな連中が居るみたいだから大丈夫ではあるみたいだけども。

 聞いた中だと一番ヤバいのが会長で、金稼ぎが滅茶苦茶上手い代わりにお嬢様口調で高笑いするらしい。普通に生まれ育ったTS転生者なのに。ロールプレイでもしてるんだろうか。転生者で姉妹やってるらしいけどみんなですわますわで会話するんだろうか。怖。

「みんな能力も凄くて、僕が一番微妙かな……って」

「いや、無生物と話せるって強くないですか……?」

「世界設定次第じゃ阿呆みたいに強かった可能性があるな。どこぞのおじさんとかみたいに」

 場合によっては魔法使い放題とかあったかもしれないとは猫吊るしの談である。この艦これっぽいけどかなり艦これじゃない世界では精霊とかそういうの希少らしく、その辺りに漂ってたりはしないから万能に使えたりはしないようだけど。いや居るのかよ精霊。それも集合無意識からの派生なんだろうか。

「この世界じゃあんまり使い道無いよね……」

「サイコメトラーもどきはできそうだけどなー」

「実体のない相手と話せるなら集合無意識と話とかできそうですけどね」

 まあ話せたからなんだって話ではあるんだけど、情報収集とかには使えそうな気がする。その辺の石ともお話できるとは言うけれど、実体のある意思のない物よりは実体のない意思のある物の方が会話はしやすいんじゃないだろうか。

 っていうか……実体がなくて意思があるっぽいものか。滅茶苦茶心当たりがあるっていうか、それならちょっと試してみてほしいかもしれない。ちょっと危険性がない訳じゃないんだけど、たぶん大丈夫なはず。

「あの、お願いしたい事があるんですけど、いいでしょうか?」

「あっはい! えっと、なんでしょう……?」

 急な私の言葉に護衛棲水姫さんは目を丸くしつつ人の良さそうな顔で少しだけ首を傾げた。自分が私に対してできそうな事に心当たりがなかったのだろう。まあそりゃあ、猫吊るしくらいしか今の私の現状知らない訳だからなあ。

「私のチート能力さんとお話できるか試してみてほしいんです」

 護衛棲水姫さんの首の角度は深くなった。

 

「わっ……あ、えっと、こんばんは……? ほ、ほんとに話せるんだ……!?」

 私の手を握り、護衛棲水姫さんが呟いた。説明を聞いても半信半疑のだいぶ疑寄りだったみたいだけれど、やってみたら普通に成功してしまって目に見えて困惑している。駄目だったら頭おかしいと思われてたかもしれない。拗ねちゃったと思われるチート能力さんに対話拒否されてるのはよろしくないから早めに解決できるならって思ったんだけど浅慮過ぎただろうか。いや成功してるから良いのかこの場合?

「あっはい。はい。よろしくお願いしますナイトハルトさん」

「ちょっと待って」

 チート能力さんてば殿下の名乗りかなんかやりやがったんだなそうなんだな?

 

「ごめんなさい、ボクあんまり昔のゲームって詳しくなくて……」

 いや、まあ……古いゲームだしね。私も散々ネタにされてなかったら知らなかったと思うし。っていうか、チート能力さん、能力使って話しかけてもネタまみれになるのか……

「えっと……こう、上手い事翻訳して言いたい事に変換したりとかできませんかね?」

「なんか凄い高度な事要求されてる!?」

「チート能力にもできない事くらいはあるからな?」

 猫吊るしからもツッコミを入れられてしまった。そりゃそうか。

 でも私の無茶振りにも護衛棲水姫さんは真摯に対応してくれて、うんうん呻りながら試行錯誤を繰り返してくれた。何か本人的にも引っ掛かる部分があるようで、たまに、故事成語も翻訳できるのに定型文は……とか熟語や慣用句との境は……とか呟いている。

 そのまま暫くじっと私の手を握りながらチート能力さんとぼそぼそベイベイやっていたのだけれど、ある時何か天啓でも得たかのようにハッと空を仰ぎ見た。そしてその口元から、私の知っている言葉を紡ぎ出したのである。

「宇宙のすべてが、うん、わかって……きたぞ……」

「ちょっと待って!?」

「受信したらヤバい奴だそれ!?」

 ゲッター線は駄目だよ!? と焦る私と猫吊るし。対する護衛棲水姫さんは、その反応を見てふふっと笑いを漏らすと、ちょっとだけ得意げな笑みを浮かべたのだった。

「ちゃんと、知ってる言葉に聞こえました?」

 今度は私達が困惑する番だった。聞こえたも何も完全に空間と時間とおれとの関係がすごく簡単なことだって理解っちゃったような事言ってたじゃん。少なくとも私の聴覚には完璧にそう聞こえていたし、猫吊るしだってそうだろう。

 でも、護衛棲水姫さんによると違うらしいのだ。護衛棲水姫さんは、そういう事だったのか、程度の意味を込めて、『あああああ』と発しただけだった。だというのに、私達にはちゃんとパロネタに聞こえてしまったと言うのである。

 曰く、言語なんて理解できないはずの木や石に意味が伝わるんだからそもそも言葉である必要は無かったと今理解できた、そうで。応用すれば自分の意思をそのまま相手に理解しやすい形で翻訳して、さらに文体の方向性も変えられるっぽいんだとか。

「すなはちかくし古語にし話しもうなり」

「なんて?」

「分かり辛くもできるのか……」

 いや、流石に大体分かるけどね? 古語にしたりもできるんだから新語……いや新語か? まあ最近の言葉にもできるし知ってる人しか知らないネタにも変換できるって事なんだろう。つまり。

「これならきっと、カールさんの言葉も翻訳できるはずです……!」

「すみませんその名前一旦忘れてもらえますか?」

「もう何言ってもあの声に変換されそうなんだが?」

 止めてくれ猫吊るし、たぶんチート能力さんはそういう事する。私ってば前世の記憶はまったく褪せないもんだから殿下ボイスは完全収録なんだ。止めてくれ。

 

 気を取り直し、再度私の手を握る護衛棲水姫さん。そのままもう一回挨拶に入り、今度こそちゃんとそれを終えたようだった。

「よろしくお願いします。『なんか』『つよい』さん……えっと。同時通訳しますね?」

「お願いします」

 いや、私の発言は常時理解してるっぽいんだけどねチート能力さん。でも私の方はそうでもないというか、ちゃんと話せたことがないので若干緊張する。

 私はチート能力さんが本当に拗ねているのか、拗ねていたとして、どうしたら満足なのかが知りたい。あと、また誰かしらを謎空間へ送るような事になるのは困るから、ちゃんとお話しして色々決めておきたい。だからその事を、護衛棲水姫さんの口からチート能力さんに伝えてもらう。

 私が発した言葉がそのまま護衛棲水姫さんから返って来る。迂遠なそれを受けたチート能力さんがどういう反応をしたのか、正確には分からないけれど。護衛棲水姫さんは返答を聞いて、明らかに困惑している様子だった。

「えっと……そのまま伝えます……ね? 『勝てたもん!』……だそうです」

「はぇ?」

 予想外な答えだった。勝てた。勝てたっていうのは、あの島風とのレースにだろうか。いや私は普通に負けてたと思うのだけど。うーん感覚とかは私と同じものを使ってるはずだし、視間違いって事も無いはずだから……えっと、それはつまり……

「チート能力さん視点ではあそこから勝てたはずなのに私が負けたから、拗ねた?」

「『拗ねてないもん!』……だそうです」

 あ、やっぱ護衛棲水姫さんの復唱要らないんだ……じゃなくて。拗ねてはいるだろそれ。理由が想定とちょっと違っただけで。

 だそうです要らなくね、と私の頭上で猫吊るしが溢した。護衛棲水姫さんもそうですねと頷いた。私もそう思う。いやそうだけどそうじゃなくて。

 うん。うーん。まあ…………なぁ。勝てたか勝てなかったかと言えば、実の所は、勝つ方法が全く無かった、って訳じゃ確かにないんだけどね。

「『なんかつよいはね敗北なんてしないし後塵を拝さないしやる事全部がめちゃくちゃでなきゃいけないの』」

 つまるところ、チート能力『なんか』『つよい』としては、やれば勝てそうな選択肢を選ばなかったにも関わらず本気でやって負けた感じになってるのが辛い、という事であるらしかった。アイデンティティが名前通りだからとかなんだろうか……っていうか普通にパロ入れて来るんだ。いいけど。

「でもその方法はライン越えでしょ」

「『でも勝てたもん!!』」

 頑な。だけど、私の考えてる方法とチート能力さんが思ってるのは一緒っぽいな。だけどそれはなあ……

「それって『つよい』かなあ」

「『!?』」

 護衛棲水姫さんは結構表現力豊かだった。

「確かに、私が思い付く限りの手を使わなかったのは認めるよ。それが妨害行為とかでもなくて、なんなら艤装をパージした時点で色々投げ捨ててるから今更ってのも認める」

 まあ、私が悪いんだよなこれ。たぶん中途半端な事したのが良くなかった。結構足掻いちゃったから最後の最後でその選択肢だけは取らなかったのがストレスになっちゃったんだろう。最初から走るのだけで諦めて負けてたら拗ねなかったんだろうなあって確信がある。

「でもね、チート能力さん。手に持ってた妖精さんぶん投げるのは『つよい』奴のやる事じゃないと思うんだ……」

 あのレース、私が最後に差し切られたのは私は加速ができなくて島風はそれができたからだ。でも実は、手に握っていた妖精さんを後ろに向かって全力で放り投げれば、ちょっとくらいの加速は可能だったのである。っていうか、そもそも妖精さんを艤装から取り出さなければ勝ってたかもしれないしね。手早くやったとはいえタイムロスで空気抵抗も増えてたからさ。

 私の発言に猫吊るしはえって顔になった。護衛棲水姫さんも微妙な顔である。

「『なんか』『つよい』チート能力さんとしてはさ、他のちっちゃい子を砲弾にして勝つ奴と、全力で挑んでくるライバルに潔く負ける奴。前者の方が強そうだとは思わないでしょ?」

「『ほんとだ!!』」

「だからあれはあれで良いと思うんだ。駄目?」

「『駄目じゃなかった!!』」

 なんか幼い子を口八丁で騙してる気分になって来たんだけど大丈夫かなこれ。でも、本音ではある。私一応人道的に生きてるからな! 艤装は投げたけどさ!!

「それじゃあ、またお話ししてくれるかなー?」

「『いいともー!』」

 護衛棲水姫さんは苦笑いだったが、ともかくチート能力さんの機嫌は直ってくれたっぽい。この子ってば、倫理観とか情緒とかが全く未成熟だったんだなぁ。これも私が能力に関して無頓着というか、全然分かってなかったせいだろうか。今後はちゃんと教育していくべきだろう。いやそんな事可能なのかはぜんぜん分かんないけども。ああ、でも、次話す時、ちゃんとこれは言っておこう。

 どんな選択肢を取ったとしても、風香はそれを超えて来たと思うよ。って。それだけは。

 

 

 

「本当にお世話になりました」

 あざまーと私の中から声がする。なんかいつもより自我がはっきりしてない? 気のせい? 護衛棲水姫さんは私達にどういたしましてと笑顔で答え、浮輪さん達は頑張れよ若人みたいな感じを醸し出す。浮輪さん達精神年齢幾つくらいなんだろ……?

「にしても来ないな迎え」

 私の依頼を終え、その背景であるチキチキぜかまし改二レースの説明まできっちりやり切ってしまったのだけど、護衛棲水姫さんの迎えは未だ現れる気配を感じられなかった。朝までまだ時間はあるし向こうは余裕を持った時間配分で動いているのかもしれない。

「そうそう見つかるような場所ではないけど……ん」

 スッと、空間そのものに滑り込む様に、私の索敵範囲内に突然人型のモノが生えて来た。それも三つ。一つはかなり小さく、一つは私とあまり変わらないくらい。最後の一つは私より大きく、そして何かを背負っているようだった。

「オマタセー」

 最初に声を上げたのは一番小さい人影だった。声質的に深海棲艦。とはいえ、敵意やなんかは感じない。転生者だろう。っていうか、視える姿形的に北方棲姫だな。

 ちょっとだけ離れた、私達の周りよりさらに影になっている場所に出現したその子はこちらに向かって駆けてきて、人影が二つある事に気付いて足を止める。目をしばたたかせてこちらを見やり、それが私であると気付くや、アレェー!? と驚きの声を上げて後ろの二人にその首だけを振り返らせた。

「吹雪居ルケド!?」

「ほんとですね!」

「そうだねー不思議だねー」

 え、私居ちゃ駄目だったの? 残して帰った方が良かった感じ? チート能力さん関係で時間食ってるのは予想外だったのかな?

「こんばんは吹雪、猫吊るし。私よ」

「それで分かるほど俺ら面識ないだろゴトランド」

「分かってるじゃない」

 一人一歩前に進み出た大きめの人――ゴトランドさんは笑顔で猫吊るしに答えると、困った顔をしている他の子達をそのままにこちらに向かって真剣な眼差しを向けて来た。何故か艤装を背負っているため臨戦態勢のようにも見える。それと、今まで会った時よりも遥かに強い圧力……おそらく魔力の物であろうものを感じる。たぶん本体で来てるのかな? 分身能力か何か持ってるみたいだし。

 お久しぶりですとゴトランドさんと挨拶を交わしている間、残りの二人はその背に隠れ隙間からこちらをちらちらと窺っていた。北方棲姫の方はおっかなびっくりといった様子で、もう片方はそれに釣られてついノリでといった表情だ。この子は服装的に……丹陽かな? 絶対幸運チートだな(偏見)

「大丈夫だよほっぽちゃん……怖くないよ」

 護衛棲水姫さんがフォローに向かい、二人もゴトランドさんの背から歩み出る。そのまま私の前まで来ると、人間の子の方が私の手を取り太陽のような明るい笑顔を撃ち上げた。眩しい。

「初めまして! 丹陽を名乗らせてもらってます! TS転生者です!! 『とっても』『ラッキー』です!!!」

 待ってくれたまえことばの洪水をワッといっきにあびせかけるのは。眼前の少女と女性の中間くらいの娘は目をシイタケのごとく輝かせ、ご高名かねがね伺ってますと詰め寄って来る。近い近い。この子近い。島風も近いし何なのレア駆逐艦はプライベートスペース狭めなの? っていうか私マジで有名なのかよ恥ずかしいんだけど。

「猫吊るしさん本当に猫吊るしなんですね! 猫土下座さんと猫パンチちゃんと猫垂らしさんもそうでしたけど!」

 あ、俺以外にも居るんだって反応の猫吊るしとも握手を交わして丹陽さんは下がって行った。流石に0距離がデフォではないらしい。挨拶のために連れて来てくれたんですねとゴトランドさんに笑顔で感謝していたけれど、言われた本人は何か言葉を濁しているような反応で、どうやら別の目的が有りそうだと察せられた。

「アノ……ヨ、ヨロシクオネガイシマス……!」

 護衛棲水姫さんにコワクナイヨーと背中を押された北方棲姫が手袋を外し、ちっちゃなおててで私に握手を求めてくる。それ外れるんだ……

 ちょっと力を入れたら潰れそうに見えて深海棲艦だからそうでもないであろうそれを軽く握ってシェイクハンド。北方棲姫の表情は解れる様にほにゃりと崩れ、安心した様な嬉しそうな笑顔になった。おいなんだこの生物可愛いぞ。でもどうせTS転生者なんだろ騙されんぞ。って思ってたら横から見てた護衛棲水姫さんめっちゃほっこりしてるんだけどお前……まさか……?

 

「吹雪、お願いがあるの」

 挨拶も済ませ、迎えに来ただけで用事とかないから撤収するかって空気に他の娘達がなった所で、ゴトランドさんが急に切り出した。一人だけ明らかに異質な空気だったので意外ではないけれど、なんだろう、以前の人助けの時とは少し違うトーンな気がする。

「……内容次第です」

 ゴトランドさんは何故だかクスリと笑った。察しがいいのねと小さく呟き、改めて私の目と目を合わせて来る。綺麗な瞳だ。たぶん美人さんだし、この人にガチ恋してる人は多そうだなって場違いな感想が浮かんだ。

「これは凄く個人的なお願いよ。世界的に見て誰が助かる訳でもないし、むしろ……下手をしたら死者が増える可能性もある、凄く個人的なお願い。だから断られても絶対に禍根にはしないって、先に言っておくね」

「正直ですね」

 なんかむしろガチっぽいんだが。え、何させる気なの? 私一応組織に所属する人間だからあんまり派手なのは断らなきゃいけないんだけど……いやそれ以前に犠牲者が出るような頼み普通に嫌なんですけど。

 ゴトランドさんは数拍置いた。私に咀嚼させる時間であると同時に、ゴトランドさん自身に迷い……じゃなさそうだな。可能かどうかに自信が無いような感じに見える。単純に暴力振るわせるとかじゃなさそう?

 周りのみんなは何も聞いていないらしく、突然の事に黙って行く末を見守る態勢になっている。猫吊るしも不審気な瞳を向けて私の頭に仁王立ちだ。ゴトランドさんはその視線を真っ向から受け止めると、そのまま口を開いた。

「私をあの子、神様ではない魔法使いを自称する子の所に飛ばしてください」

 お願いします。ゴトランドさんは頭を下げた。

 ちょっと事態を飲み込むまでに数瞬掛かった。え、正気です? あの子たぶんかなり愉快犯的な事してくるタイプですよ? 会ってどうする気なんだろう。っていうかそもそもの話。

「……それって実際可能なんですか?」

 警戒は確かにしていた。でも本当にできるのかは実は分かってないんだよね。まして任意でとなると私にはどうなるかまるで見当が付かない。ただ、ゴトランドさんは無理ではないと判断しているらしかった。

「沖縄の吹雪を飛ばしたでしょう? 彼女は集合無意識の一部で、艦娘の魂の一部でもあるの」

 だから魂が主幹となっている転生者も理論上飛ばせるはず……であるらしい。そういえば沖縄に出張してましたもんねゴトランドさん。当然そっちの事情にも明るいんだ。それにそうか、島さんが行ってるんだから他の人も行ける……のか?

「いや、でも吹雪さ……吹雪の場合、私の魂へ自分から入った結果らしいので、それができないと……」

「ううん、今回はもう一つの、島風のやり方を真似させてもらうつもり」

 島風の? って、あれは指輪のバグとの相乗効果だったと思うんだけど。自力で何かしたとかじゃなくないです?

「成程、夢経由か」

「ご明察」

 猫吊るしが正答したらしい。うん……? えっと、確かに風香は寝てる間に迷い込んだっぽかったけども。あれってケッコン指輪を通したから有り得ただけじゃないの? 私とゴトランドさんじゃ成立しなくない?

「えっと……ゴトランドさんとケッコンしろと?」

 周りの三人がどよめいた。私以上に状況を飲み込めてなさそうだから、ケッコンカッコカリの事だけ分かった結果だろう。

「それも考えたけど……たぶん、もうバグ修正されてるから無意味だし、私と吹雪ができるほど親しいかって言うと疑問で」

 それはそう。嫌いじゃないしむしろ好きだけど、ゴトランドさんから見たら戦闘力が頼りにはなってもそれ以上って事ないだろう。あまりにも交流が少ないですもんね。

「だからこの子に協力してもらう事にしたの」

 ゴトランドさんは自分の背負ったそれを指先で軽く叩いた。艤装……? いや、中に一つだけ気配を感じる。サイズ的には妖精さんか。

「ここには今、妖怪猫土下座……つまり、猫吊るしと同じ転生者の妖精さんが入っているわ」

 成程、と護衛棲水姫さん達が少し納得の色を見せた。どうやらそれができる子、というのは間違いないらしい。

「彼女の能力は『ゆめが』『いっぱい』、夢の世界を操れる夢魔みたいな子だよ……代わりに大体寝てるんだけどね」

「起キテテモ艤装カラ出テコナイケドネ……」

「よく連れ出せましたね!」

 引き篭もりかなんかなんだろうかその子。いや、まあ100人近い転生者の中にはそういう人も居るだろうけどもさ。

「普段はリベッチオの艤装に夢を見せて無限弾薬を実現してるんだけど、今回は私と吹雪を繋いでもらう手はずになってるわ。勿論、吹雪が承諾してくれたらだけど」

 夢の世界は精神と心の世界。その深くは魂と通じ、繋がり合い行き来できれば底に溜まった淀みを祓う事すら可能らしい。中々に強い、っていうかマジでどっかで聞いた能力なんですがそれは。やっぱ普通にチート能力に分類されるレベルだよなあアレ。

 今回の手順を簡単に言うと、私とゴトランドさんが寝る→ゴトランドさんが猫土下座の能力で私の夢を通って魂まで入って来る→チート能力さんに魔法使いの子までの道を開いて貰う。って事になるらしい。まあ、信用云々は置いておいて、実現できるなら私のデメリットとかは特に無さそうだけども……

「あの、それって戻って来れるんですか……?」

「分からないわ」

 これまた正直な回答だった。一応、島風が無事に目覚めている事から戻るの自体は可能だろうという話だったが、魔法使いの子のサービスだった可能性もあり、確実に成功するとは全く言えないのだという。

「それでも行きたいってのか?」

「ええ。それに、正直に言っちゃうと、そこまで戻れなくなる可能性が高いとは思わないのよね」

 もし行ったら二度と戻れないような穴なのなら、それこそ例のあの子がきっちり塞いでいるんじゃないかとゴトランドさんは分析しているらしい。そうかなあ。なんか普通に忘れてるとか有りそうなんだけど。

「それに念のため丹陽も連れて来たし」

「私そのために呼ばれたんですか!?」

 丹陽さんは超幸運のチート転生者なのだそうだ。だから枕元に置いておけばその恩恵がある――かもしれないらしい。そこも不明確なのね。

「そんな何の保証も無い事をしてまであっちへ行って、いったい何をしたいんですか……?」

 私の言葉にゴトランドさんは少しだけ眉を歪めた。当然の質問で、される事は分かっていたのだろう。表情に反して答えはすぐに返って来た。

「ごめんなさい、それは言えないの。私の目的は、貴方が知らない方が良い方向へ進むような事情を含んでいるから……」

 なにそれ。そりゃそういうのもあるだろうけど……いや、なんかこの間同じような対応をされた覚えがあるな。あれはそう、あの日の夜のレ級からだ。ストレスがどうとか言われたような覚えがある。

「もしかして、大将さん関連だったりとかしますか?」

「……鋭いね」

 ゴトランドさんはちょっと驚いたようだった。内容は言えないみたいだけど、それで間違いないらしい。そういや私に知られると死ぬらしいですね大将さん。それを言えないって事は死んでほしいとか害したいとかじゃない訳で、むしろどう考えてもその逆だろう。そしてそれをするために私を利用したいという話なのかーそーなのかー。

 いや結局人のためじゃないのかそれ。何なんだこの人。つまり個人的に大将さん助けたいから力を貸してって事? 無限に良い人かよ。それなら最初からそう言ってくだち!!

「ちょっとチート能力さんに聞いてみます」

 まあどの道、私には可能かどうかすらよく分かんないから任せっきりになる訳なんだがな!! 何しろどこをどう切り取っても私のする事が存在しない。夢に入って来るのは猫土下座任せ、入ってから魔法使いのあの子の所に行くまではチート能力さん任せでその後はゴトランドさんがどうにかしなきゃいけないのである。私がする事なんて精々頑張って寝るくらいだろう。

「……なあ、それ今じゃなきゃ駄目なのか?」

 私が聞いてみるかと自分の内部に集中しだした瞬間、猫吊るしが突然疑問の声を上げた。どうやら私と同じく結局人助けなんじゃないかという結論に達したようで表情から険はとれているが、今度はどうにも得心が行かないという顔になっている。

 でも言われてみると確かにそうだ。もう数日で何か大きな動きのある日を迎える訳で、リスクがあるならそれが終わってからの方が良いに決まっている。それにレ級から説明の約束をされてるんだから、そこ以降なら事情だってちゃんと話して問題なくなるはずなのだ。

「あ、それなんだけど、どうも吹雪からの繋がりってもう数日くらいで閉じちゃうみたいなのよ」

「えっ」

「私も詳しい事情は分からないんだけど、そのー……大将はそう言ってたわ」

 何か変化でもあった? ってゴトランドさんはおっしゃった。いや、そんなもん……あったなぁついさっき。護衛棲水姫さんを通してちょっとお話ししたよなぁ。え、あれのせいなの? まあ確かに、もう魔法使いの子の手を離れた存在なんだなって感覚にはなった気はするけど。かなり人格がちゃんとあるっぽい感じなせいで。

「あれ、じゃあもしかしてもう繋がらないとかない?」

「あ、それは大丈夫です! さっきからアウグストちゃん『オッケーだもの!』って言ってます」

 護衛棲水姫さん!! もう殿下の事は脳から消去してくれませんかねえ!?

 

 

 

 

 

 そんな訳で私は寝た。

 ゴトランドさんの持って来てた毛布に包まって猫吊るしをカイロ代わりにしてたらあっという間に眠りについて、気が付いたらそこはふわふわしたお布団の中だった。いや夢の中だろここ。なんで初手で布団入ってんだよ。

 どうも猫土下座の能力は相手を明晰夢状態にするなんて事も可能らしく、姿こそ見せなかったものの、影響下に入った私をここが夢だと理解した上で目覚める事なく自由に動けるようにしてくれているようだった。結構ヤバい能力だな?

 周囲を見回せば、ここは見慣れた前世の自室。死んだらしいその日直前くらいの状態である。成程、すり減らないせいで前世の記憶が色濃く反映されてるっぽいかな?

 手近にあったスマホを起動してみれば、懐かしい事に現世では未だ発売されてない、むしろ発売される未来が来るのかすら不明なアプリや電子書籍なんかで中は溢れ返っていた。どうも一緒に眠った猫吊るしすらいないようだし、人が来るか事が済むまで中身を堪能しても良いかもしれない。

 なんて思いつつPCはどうかと慣れた手つきで電源を入れれば、起動中のモニタに映る、最早見慣れた雪ちゃんの顔。そういえば、記憶にあるより部屋が少し広く感じるような気がしなくもない。座ってみれば椅子も全く高さが合わない。価値観とかそういうのはともかく、私は女の子の体をとっくに自分の物だと認識していたらしい。まあ性自認が男なのは変わんないんだけども。

 ただ、なんだろう。どういう訳だか髪が異様に伸びている。元々はショートで、吹雪になってからは肩まであったのだけれど、なんでか今は腰まである。順調に長くなってるんじゃないよ邪魔だよ流石に。服装は寝た時のままなのだけど、これはこっちでも布団に入ってたから仕方ないだろう。

 ちょっと今の自分の容姿が気になってしまい、私は起動しきったPCをとりあえずスリープさせて、部屋の外へと出る事にした。人と会うのに髪が跳ねてたりしたら恥ずかしいし、ちょっと洗面所の鏡を覗いてみようと思ったのである。

 部屋のドアを開けると、そこは伊吹の家の自室だった。

 いやどういう繋がり方だよ。部屋から部屋じゃ外出らんないじゃん。つーか流石私、インドア派。部屋から出ようって気が微塵も感じられない構造である。

 ただまあ、ここに繋がってるならそれはそれでやる事がある。それ即ち、着替えである。人と会うのにこの格好は無いだろう。幸いこっちなら体のサイズに合うのがある。向こうにあるのは成人男性用だから助かったかもしれない。

 適当にクローゼットをひっくり返し、艦娘になる前のいつもの服を身に着ける。スカート類なんて全く無いし穿く気もないのでジーンズもどきにその辺に掛かってたシャツを着て、上からコートを羽織って終わりである。いや寒くはないんだけど一応外は冬な訳で、コートは気分の問題である。

 ついでに靴下も履いてからもう一度ドアを開いてみるが、やっぱりその先は前世の私の部屋である。やだ出れない。仕方がないので掛かっていたカーテンを開き、窓から外へ出る事にした。

 果たしてその先は最初の鎮守府の自室であった。

 私どんだけ外出たくねーんだよ。

 最初は曙と、その後は島風と生活した部屋だが、実の所大した特徴は無い。精々二段ベッドがあるくらいである。私達そんな部屋のレイアウトとか拘らなかったからなあ。いやテーブルくらいはあるけどさ。

 ともかく窓と窓とが繋がっているようなので、鎮守府の部屋にお邪魔してみる。中には特に何もなく、連装砲ちゃん達が居たりもしなかった。仕方がないのでそのまま向かいのドアを開く。

 すると案の定、そこは次の鎮守府の部屋だった。

 中略するがその次の部屋もやっぱりその次の鎮守府の部屋で、その次の部屋もそうだった。だから最新の部屋まで行けば何かあるんじゃないかと進んでみたが、その先にあったのは、私が前世で一番最初に暮らしていた部屋である。

 もうオチを察していたけれど、さらに先へと進んでみたら、そこにあったのは最初に私が目覚めた前世の部屋でしたとさ。無限ループって怖くね?

 一応伊吹の部屋も覗いてみたが、私がさっき散らかした跡があり、普通にループしてると分かるだけだった。うーん、困った。これだとゴトランドさん入って来れなくね? いや夢だしどうにかなるのかな? チート能力を使うんだからどうにでもなりそうではあるし。

 とは思ったものの、よくよく考えたらこれは夢。別に、私の深層心理そのものとかそういう話じゃあない。たぶん。だったら、ちょっと無茶をしたって大丈夫だろう。私はそう思い込む事にした。

 

 川内さんから習った通りの型を取り、私は体に気合を込める。力は問題なくぐるぐる回り、ここでも普通に発揮できそうだと理解できた。

 なので思い切り跳び上がり、私は天井を強めに殴りつけた。

 ぼむんと拍子抜けな音を立てて、屋根が根こそぎ吹き飛んでいく。流石夢の世界、物理法則もおかしいらしい。

 天井だったものが空の果てまで飛んで行くのを眺めながら、私は開いた大穴から軽い跳躍で跳び出した。部屋の上には満点の星空が広がっていて、だというのに地平線の空は太陽に照らされて青々と輝いている。流石夢、よく分かんない光景だ。

 私が降り立った外の地面はなんだかもふっとした毛の生えた色とりどりの大きなクッションのようなもので埋め尽くされていて、正直かなり歩き辛そうだった。まあ跳ねてけばいいだけなんだけど、自分の夢だと思うとこう……感性アレだなと思わなくもなくてちょっともにょる。

 ただまあ、あの部屋の中で待ってるよりはここの方がマシだろう。視界は良好で遠くまで見渡せるから、誰かが来たら一発で分かる。ここからどうやって私の魂まで行くのか、それともここがもう魂の内部なのか。正直まったくよく分かんないんだけど、とりあえず誰か来てから相談しよう。

 そう思いつつふかふかなクッションの上に横たわる。あっこれ凄い現実にも欲しい。今度通販で似たようなの探してみよう。

 なんて、呑気な事を考えていたら、何かが綿を踏みしめてこちらへやってくる音が聞こえて来た。その人はどうやら進むのに全く苦労していないようで、軽快な足取りでこちらに向かって歩いてくる。

 凄い、体の使い方がとてつもなく上手。体がクッションに沈み込む前に足を上手い事滑らせて、しっかり上を歩いている。私もチート能力さんのおかげで似たような事はできるけど、結構力任せな所があるから見習いたい。感心しながら上体を起こし、もうかなり近くまでやって来ていたその人と向かい合う。

 そこに居たのは、全く見覚えのない、私と同じくらいの年で桃色の髪をサイドテールにして白い帽子を被った、紅い瞳の女の子だった。

 

 

 




書きたいものを書くと酷い物が出来るタイプの人間なのでここから先本当に酷いです。ご注意ください。





改三……改三…………?
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