転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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誰も知らない酷すぎた設定を紹介!

 体が特別製だと聞くと中身との釣り合いの取れなさに忸怩たるものを感じずにはいられない。とはいえ、私が主人公ぼでーだったとして誰が困るのかって言われると困らないので別にいいよね……と自分の中で決着を付けたい所さんなのだが、思考をぐるぐる回してるうちに、一つ疑問が湧いてきた。

「魂が宿らなかったってさ、転生者ぶち込まなかった場合って女主人公生まれなかったって事だよね? 伊吹の家ってどうなってたの?」

「ああ、どの世界でも選ばれなかった方のお家は子供が一人減りますわ。つまり、あのご両親は子供ができませんわね」

 おおう、やっぱそうなるのか。生まれたばっかりの頃二人ともすごい喜んでた覚えがあるからなんか悲しいな。そのおかげで転生者と言う気は全く無くなった訳なんだが……うん。今後も言わんようにしよう。孫は見せられないと思うからそこは申し訳ないけれど。

 あと、単純に減るって事は男主人公の方が生まれないとローザは一人っ子になるのか……絵にかいたようなブラコンなんだけどっつーかマジでゲームみたいな世界設定なせいで生まれたブラコンだったみたいだけど、兄が居ないとどうなるんだろあの子。今はろーちゃん寄りだけどゆーちゃん寄りに分岐したりとか……流石に無いか。

 

「なあ、さっき言ってた主人公の特権って体と魂、どっち依存なんだ?」

 私が両親や友人の妹の事を想っていると、眉を歪ませた猫吊るしが首を左右に軽く傾げながら少女に疑問を投げかけた。特権、というと適性値上昇ぢからの事か。なんかチートとか色々魂依存っぽいし魂じゃないの?

「体ですわ!」

 違ったわ。でもかなり意外……好感度とかそういうのだし精神的なものが強そうだから肉体依存ってのはなかなか意味不明じゃなかろうか。あれか、そもそも集合無意識に繋がるかどうかは体の方で決まるとかなんだろうか。

「と申しますのもね、この世界では主人公は主人公、転生者は転生者となっていますけれど、本来は主人公ポジションに転生者を据えるのがこの世界の楽しみ方だったのですわ」

 当初、少女はゲームの仕様を完全に楽しんでもらおうと考えて世界設定を組んだのだそうだ。そうなると自然、転生者はゲームで言う所のプレイヤーに相当し、プレイヤーが操作するのは当然主人公であると、そういう事だったらしい。つまりは主人公憑依型の転生かな? 雪ちゃんボディ使ってる人、実はいっぱい居たりする? ちょっとほっとした。

 でもそりゃそうだよね、毎回毎回転生者を主人公位置に設定するなら、一々魂を大きく弄るより体の方に機能を付けといた方が楽だろうし転生者側の負担も軽そうだもん。ちなみにだけど、全く弄らなくていいって訳ではなく世界に合わせた調整と接合くらいは必要らしい。私の魂の加工跡それかよ。

「ですが何度も見てるうちに他の立場で活動する転生者というのも見てみたくなりまして」

 主人公と転生者を別にしてみた、と。そうして出来上がった一発目がこの世界であるらしい。これあれだな、主人公以外の転生者入れたの自体もうバグの発生源になってるんじゃないだろうか。急に複数詰め込まれて世界設定くんきっと困ってるよ。

「という訳ですので、そういう事ですわ」

「そういう事かぁ」

「そういう事だよねえー」

 何がだよ。私にも分かるように言ってよ。いや分かるけどさ。大体分かるけどさ。そこまでは察し悪くないけどさ。

「なに? 私と仲良くなると適性値上がるの?」

「〝正解(エサクタ)〟!」

 やったーせいかいだー。じゃねえんだわ。

 えー。そーなのかー。何その……勿体ない設定。私が持ってても有効活用できないじゃん。絶対文月辺りの方が適性あるよ。

 いや、私が相手に好感持つだけでいいなら問題ないと思うんだ。別にあんまり人嫌いになる事とか無いし、恋愛感情は無くても尊敬とか友情とかは普通に感じてる……はずだし。でも私ただの性癖拗らせオタクで自分から絡みに行かないからなぁ。それこそ向こうから来る人でないとほとんど関わり合わないし好感抱いて貰うとか無理がある……って。

「……もしかして金剛さんが強いって言われるのって」

「主人公二人分の上昇効果受けたらああもなりますわよねえ」

 人類みんな大好きみたいな極陽っぷりだもんなあの人。方向性は違うにしても、提督も私も好きでいてくれたからヤバい事になってたのか。いや直接見た事は無いんだけど、小さい基地なら一撃でぶっ潰すらしいんだよなぁ金剛さん。

「ちなみに貴方たちの使ってる指輪と一緒で、双方向の好感度を比べて低い方の値が適用されますのでご注意を」

「その情報は知りたくなかったかなぁ」

 つまり、私も提督も金剛さん大好きって事だよね。っていうかさ、これあれだな。適性値の数値と主人公特権の事と両方知ってる人はさ、主人公と艦娘の間の好感度ある程度分っちゃうって事だよね。

 うーわめっっっっっっっちゃ嫌な予感してきた。え? 何? 提艦隊ってさ、金剛さん以外もだんだん強くなってたっていうじゃん。それってどう考えても提督の特権で適性値上がったって事な訳じゃん? で? 宮里艦隊あるじゃん? 私居るじゃん? 強いじゃん? でその中にもさ、特に強いって言われる人たち居る訳よ。技量じゃなくて艤装の出力とかがね? 技量は別問題だろうから置いといてさ。

 その中にさ、居る訳よ。秋雲先生と文月。秋雲先生さ、砲撃めっちゃ強いらしいのよ。下手すると戦艦よりヤベーらしいの。文月もガンガン強くなっててそりゃ最前線送られるよ適材適所もいいとこだよって評判な訳よ。

 うん、うん。うん。すごいね、間違いなく特権くん仕事してるよ。勿論本人の技量も高いんだと思うけど、ばっちり補助してくれてるよねこれ。誰がどう見てもってのが酷い。ゲーム的な数値上昇の快楽は現実と直結しても凄く分かりやすいのね。

「あの、ちょっとお聞きしたいのですがよろしいでしょうか」

「どうして急に敬語になりましたの? 構いませんけれど」

 少女は良い笑顔だった。いや仕方ないじゃん。すっごい羞恥の感情が腹の底から込み上げてくるんだから。

「私に関して勘付いてる人ってどれくらい居るの?」

「いっぱい」

 ですよね。

 つらい。

 

 

 

「そんな訳で、戦闘部隊の皆は吹雪さんに懐かれてるというのが定説なんだよぉー」

 文月曰く、そういう話題に対して敏感な人たちの間でだけではあるが、一部の提督がケッコンカッコカリ無しで適性値を上げられるというのはほぼ確定的であると語られているのだという。その該当の提督たちと仲のいい艦娘がどう見ても強い事から、条件に関してもほぼほぼ看破されてしまっているんだそうな。

「ちなみに決め手は初雪さんだよぉ」

 初雪ってば、訓練も人よりやらないのに強くなり続けるわ宮里艦隊に居た時はさらに成長速度上がってたわでもう何もかも露骨だったらしい。えー……

「初雪からどうかとかより自分がそんなに初雪の事好きだって事の方が衝撃なんだけど……」

「需要あったから作った最新の適性値一覧表ありますけど、見ます?」

「けっこうです」

 自覚無かったんかいという感情が少女のジトっとした視線とともに飛んで来た。そんなにかなぁ、いや嫌いじゃないのは確かなんだけど……まあオタク仲間で腐寄りの趣味じゃないから話も合うし、そんなもんなのかなあ。あとこの流れで適性値一覧はもう矢印の大きさ発表会でしかないから絶対止めろ。

「この話、吹雪が知るのって大丈夫なのか?」

 眉を顰めた猫吊るしが観覧席の事情通に問いかけた。確かに、私が知ると私からの好感度に問題が出そうだよね。あんまり良い影響が出る気はしないわ。

「うーん……これ言っていいのか分からないんだけど、吹雪の場合本人がどう思うかよりどう思われるかの方が問題みたいなんだ」

「基本吹雪側の好感度のがデカいから知らせて交流の時間増やした方が良いかもしれねェとか言ッてたな」

「私、流石に多聞丸の計画が詰んだりする情報は流しませんわよ。多聞丸が他の子にも話してない部分までは知りませんけれど大体予想付きますし」

 そういや心読んだりはしてないとかなんとか言ってたし、知らない……というかあえて知らないようにしてる事もあるのか。でも本当に大丈夫? つい言っちゃった☆とか言わない? ほんとに大丈夫?

 つーかあれか。さては私あんまり他の艦娘から好かれてないな? 知ってたけど。戦闘部隊の人らは文月の話によるとそうでもないみたいだけど、自衛隊の人達で戦えるようになったの皐月さん入れても五人だもんなぁ。本当に私の影響なのかも定かじゃないし、私のコミュ力低すぎ問題。

「まァどの道吹雪の適性値上げにいつまでも依存する気はねェから安心しろ」

「あれ、結構あてにされてたんだ」

「成果次第じゃ攻略速度が変わる程度にはな」

 なんでも教官長や川内さんが戦えるようになるかって結構大きかったらしい。あの二人強いもんね。川内さんはカラテを鍛えてるし教官長は教官長だし。

 

「そういえば、吹雪さんの適性値って吹雪さんの影響はあるの?」

 ……言われてみれば、私自身の適性値ってどうなってんだろ。提提督とは普通に友人な訳で、適性値も好感度分だけ上がってるんだとは思うのだけれど。

「流石に自分自身には影響はありませんわ。あ、あとそうだ。これ実は意外な結果だったんですけれど、他提督からの影響は本来の適性艦に対してしか出ないみたいなんですわよね。体依存の五つは初期値から微動だにしておりませんわ」

「え、私本来吹雪適性じゃないの?」

 そっか。設定上の女主人公にある適性だから中身の私とは関係ないのか…………ん? その状態で吹雪さんの欠片預かって大丈夫なのか……? いや不調とかは無いし見かけた吹雪さんは浮いてるだけで害とか無さそうだったけど、相性とかありそうだしちょっと心配かも。

「転生者に対しては一人一つ、最も適性のある艦の資質を多少増して与えておりますの。例えば文月なら当然文月。ゴトランドならゴトランド。レ級ならタシュケントですわね」

「アア? タシュケント? 初めて聞いたぞンな事」

「今初めて言いましたもの。深海棲艦やってるならそっちの艤装使った方が強いから関係ありませんし」

「私は!?」

「北方棲姫は龍驤、ちなみに護衛棲水姫は……言わなくても分かりますわね」

「ガンビア・ベイですね、分かります」

 って事は猫吊るしの春雨もやっぱり適性あるからっぽいかな。レ級もそうだけど口調とかは関係ない感じか。いやベイさんは割とベイさんっぽいな。どういう基準で決まってるんだろ。ゴトランドさんも結構雰囲気感じるんだけど……もしかして、艤装使ってるから影響受けてそれっぽくなってるだけなのかな?

「そして吹雪は本来、朝潮適性ですわ……いや、なんで意外そうな雰囲気出してやがりますの? 貴方自分に適性あるの知ってましたわよね?」

 確かに知ってたけど、一番低いとか言われてなかったっけ。吹雪と百倍くらい違うって聞いたような……うん?

「私の朝潮適性って検査時点で幾つくらいだったの?」

「5120ですわね」

 たっか。召集の最低ラインが150だからその30倍以上あるじゃん。割と提督とは仲いいと思うから上がってるんだろうけど、元々結構ありそうだなぁ。

 うん。でも、今問題なのはそこじゃないわな。うん。私は朝潮適性について皐月さんから聞いて知ってた訳だけど、その時に確か、吹雪適性と100倍くらい違うって言ってた覚えがさ、あるんだよねえ。

「私の吹雪適性ってどれくらい?」

「530000ですわね」

 おばか!

 あのコピペ合ってたの!? 何ーザ様なんだよ私は!? っていうかなんで流出してんの!? 他も合ってるの!? まあ私より酷いのは居なかったけどね!?

 文月が顔を背けて笑っている。当然ながら知ってるよね。有名だもん。有名だもん。畜生、絶対与太話だと思ってたのに、ただの真実かよ。もうやだこの世界。

「ごめん、あれ貼ったの私なんだ」

「ゴトランドさん!?」

 他鎮守府のストレス調整とかに必要だった……らしい。それなら仕方ないか。仕方ないけど。

「くっそ恥ずかしいんですけど……!」

「能力が能力なので半端なのは良くないかなと思って強めに設定しておいたんですけれど、ご迷惑でした?」

 ご希望だったでしょう? と口元に上品に手を当て、不思議そうに少女は首を傾げた。ただ指の間から覗いてる口元がおもっくそ歪んでるから愉快犯なのは明らかである。君ほんとに色々酷いな?

「ちなみにゲーム的には99999でカンストしますので、本当にチート使ったみたいになっておりますのよねこれ」

「ネタ要素ぶち込むために世界歪めるの止めない?」

 それ絶対バグ出るよね? 限界以上の数値にしたチート動画見た事あるけど、たまに凄い挙動するのあるじゃん。あんな感じになっちゃわない?

 っていうかそうか。なってるのか。納得した。私の貫通弾とか魚雷バリアとか、さてはあれ挙動がバグってるせいだな? 仕様外の数値ぶち込んだせいなんだな? 艤装への負担とかは……あったら猫吊るしが気付いてるか。

「それを言うなら猫吊るしもやっておりますしー。それに今更ですわー。あの指輪もかなりヤバい代物でしてよ?」

「指輪って、ケッコン指輪?」

 そういや没アイテム出現させたんだっけ。言われてみればなんで没になったんだあれ。ケッコンカッコカリって原作にもあったんだから普通に仕様に入れそうだけど……っていうかさっき指輪作れれば男主人公はケッコンし放題みたいな事言ってたよね? あれ?

「あー……もしかせんでも限界突破するのか、アレ」

「ですわね。効果が高すぎるからフレーバー程度の物に差し替えましたのに、わざわざ掘り起こすんですもの。そりゃあバグも出ますわよ」

 面白そうだからそっちは修正しませんでしたけど。って言うけど私には意味が分からん。観覧席の皆々様方も良く分かってらっしゃらないご様子で、持ってる二人は自分の指を確認していた。

「つまりどういう事だってばよ?」

「ケッコン指輪って今使ってるの以外にもう一種類あるんだわ。デザインとかは同じで効果とコストが低い奴が」

 制作に必要な霊的資源が半分未満な代わりに効果は十分の一以下。そういう廉価版みたいな奴が、この世界における本来のケッコン指輪であると猫吊るしは言う。まあそれなら没版拾ってくるよね。十倍は違い過ぎるもん。

「ちゃんと設定する前に没にしましたから、限界突破抑制するシステムに組み込まれてませんでしたのよね。当然、本来存在しないものですから世界の方も未対応。まあ相応の好感度は要求されますけれど、きっと作れますわよ、バグ艦娘」

 少女は当初、ケッコンした艦には特別な相手としてかなりの強化を与えるつもりだったようだ。だが制作を進めて行くうちに、ケッコンが攻略に必須扱いになったらなんか嫌だという考えに至ってしまったらしい。

 なので、一人にだけ特別な指輪を渡せるようにとか、女主人公は一人にしか渡せない代わりに効果が高いのが贈れるようにとかそういう迷走を繰り返し、最終的にはケッコンはシステム的にはあるけどしなくても攻略に支障はない程度の効果に落ち着いたのだという。ケッコンしてると行けないルートとか隠されてそうだなぁ。

「ですので、提提督から貰っておけばいつかは吹雪よりも朝潮適性の方が高くなる事も有り得るかもしれませんわよ?」

「メス堕ちでも見たいの?」

 私そういう感情マジで無いからどうしても見たいなら他の人に期待してください。いや舌打ちされても無いもんは無いよ。つーかTS転生者作ってる時点で分かってた気もするけど君の性癖なかなかアレだよね。私も創作物として見るのは嫌いじゃないけどさぁ、自分がそうなるのはいやーきついでしょ。

 

 

 

「ではそろそろ本題に戻って、この世界が本来の形からどれくらい離れているのかお話ししていきましょうか」

 もう教えたいだけなの隠そうともしてないぞこの子。いいけどさ。

 しかし今までの話から考えるとむしろ同じな所の方が少なそうなんだけど、どうなんだろう。生き残ってる人数違い過ぎるし、そもそも時間軸も合ってないみたいだし。

「まずこの世界の現状が本来の形とまるで違っているのには、自衛隊や政治、一部は司法の世界にまで大きな影響力を獲得した転生者の働きが深く関わっております。そう、多聞丸ですわね」

 影響範囲広くない? え、司法も? 敵に回したら社会的に抹殺される奴だコレ。怖。

「あの子の働きぶりは本当に勤勉……むしろ強迫観念に突き動かされてるレベルというかそのまんまというか……まあ、ともかく、非常に大きかったのですわ」

 レ級の手元で観覧席の一部が軋む音がする。少女もあんまり刺激しない方がいいかなーみたいに表現を緩めた。害されるとか有り得ないんだろうけど、気になるものは気になるのだろうか。

「多聞丸は日本で要職についておりますし、活動も当然本国でのものが多かったのですけれど、その状態で諸外国の状況もかなり変えておりますの」

 楠木提督の行動で他の国の妖精さんの受け容れ態勢とか、深海棲艦襲来時の初期対応とか、転生者の暴れ具合とか、そんなのまで全く違う物になったらしい。だからもう海が赤く染まったあの日の時点で死者はだいぶ減っているのだそうだ。それでもやっぱりM単位で死んでるらしいけど。まぁ手が足りないよなあそりゃ。

「この辺りは乱数調整みたいなやり方でしたので、あらゆるものが視えるチート能力の面目躍如といったところですわね」

 電話一本で救える命が(タイミング次第では数千万単位で)ある。楠木提督はそんな状態だったらしい。あの……それ寝てる間もどんどん情報が送られてくるの辛いってレベルじゃないと思うんですが君本当に調整した? そりゃゴトランドさんここ目指すよ、下手したら自分が寝落ちした瞬間数億人死亡確定するとかそういう次元でしょ? 私どうこう置いといてもストレスで死ぬだろそれ……負担が凄すぎませんかねえ。

「アメリカで転生者の寄り合い所ができるのを支援してたりもしますので、貴方方も行けるようになったら顔を出しておくといいですわよ。将来的に、宮里艦隊の戦闘部隊は多くがお世話になるでしょうし」

 どういう事やねん。え、何? 私達外国に出動すんの? 日本で手一杯なのどうにかなるって事か? あれか、泊地とか手配してくれる感じ? 英語学んどいた方がいいんだろうか。

「とはいえそれは未来のお話。私の予想であって予測でも予言でもないので参考程度ですわ。ですから今の日本の話に戻しますけど……」

「自分で言ったのに……」

「思い付きで喋ってますのよ私。そこまでアドリブ力に期待しないでくださいまし」

 やっぱノリだけでやってたのか。分かってたけど、本当に問題ある事は喋ってないんだよね? つい言っちゃったとか止めてよ?

「さて、多聞丸が日本の防衛線を構築するためにまず一番最初に必要だった事、それが何だか分かります? 分かりますわよね。そう、権力の掌握です」

 誰も答えてないのに勝手に進めたぞこの子。問題にする程でもなかったのはそうだろうけど。

「これに関しては取っ掛かりを得るのは楽だったでしょうね。何しろ生まれは名家にしておきましたし、未来も心も壁の向こうも視える能力持ちな訳ですから」

 叩けば埃の出る人の多い事多い事、嘆かわしいですわーと少女はかぶりを振った。成程、そういう所を上手い事利用して昇りつめたのか。きっと普通よりは遥かに円滑にやれたんだろう。言うほど楽かは疑問だけれど。

「ところで、この能力で人を脅すのや利益で相手の目をくらますのはかなり有効な手ではあるのですが、一つ致命的な弱点があるのです。それが何か……まあ分かりますわよね。そう、物証です」

 楠木提督の能力だけだと物理的にどうこうはできないから、すっとぼけられたり証拠を隠滅されたら終わりって事か。そうならないように弁舌を活かしてどうにかするにも限界ありそうだもんね。ちなみに私は分かってなかったんだけどみんな分かってたのだろうか。

「だからニンジャを雇う必要があったんですわね」

「何時代の話だっけ?」

 え? 普通に居るの? あの人ニンジャに証拠取って来させてたの? いや確かにそういうの得意そう……っていうか、スパイ活動が本業なんだろうけども。

「ご存知かとは思いますが、この世界はかつてニンジャやサムライ、陰陽師が妖怪の軍勢と幕府や朝廷の存亡を賭けて裏で熾烈な争いを繰り広げておりましたの」

「知らないよぉ!?」

「嘘つけそこまで熾烈じゃなかったゾ」

「知ってるのぉ!?」

 まあそこは主観次第じゃなかろうか。泥臭いタイプのハイファンタジーと原子爆弾とかが飛び交うローファンタジーじゃ派手な戦いって表現しても差があるだろうし。つーか私も知らないんだけど。なんでその状態で陰陽術失伝したんだよ。あれか、大勝利しちゃったからどっちも現代に残らなかったとかか。

「ともかく、その時の生き残りが現代まで残っていたんですわね。幸いな事にお金と大義で動いてくれる集団だったので、違法賭博とかで巻き上げたあぶく銭を惜しみなく注ぎ込んで雇い入れたのです」

 お金と大義同列かぁ。いやまあ、生きるのにお金要るのは現代社会に飲み込まれてれば当然ではあるんだろうけど。

「私、しっかりフォーカスして見ていたのですけれど、彼らの働きぶりはそれはもう素晴らしいものでしたわ。火遁だの水遁だのを使うタイプではないですが、他人を欺き闇に忍ぶ手腕は現代においても超一流。設定通りに強力な一族に仕上がっておりましたわ」

「あのトンチキな連中設定に居ンのかよ……」

 レ級は見た事があるのかうんざりとした様子だった。いったいどんなだったんだろう。やっぱり覆面とかしてたんだろうか。いやしかし、証人が居るって事は楠木提督ってば本当にニンジャ雇ってるのね。もしかしたら影武者とかも立ててたりするんだろうか。

「まあそんな影から延びる腕々の力も借りまして、多聞丸は幕僚長にまで上り詰めた訳ですわね」

 証拠を押さえるニンジャ。風説を流布するニンジャ。腐敗を調査するニンジャ。刺客を撃退するニンジャ。そうして生まれたのが今の防衛体制であるらしい。いろんな人に支えられてるのは当然そうなんだろうけど支えてる人おかしくない?

 出世しながら様々な状況を整えて深海棲艦襲来の時にはもう猫吊るしが来たらピタゴラスイッチ的に全部が推し進む様に調整が済まされていたらしいけど……もう何話されても端にニンジャの影がチラついてギャグみたいになっちゃうんだけど。強すぎるだろ存在感。

「さて、そんな忍びの一族の中に、稀代の天才と持てはやされる子がおりました」

 幼い頃から武術や忍術に対し歴史上類を見ない程の才を示し、十二を過ぎる頃には里で敵う大人が居なくなっていたというその少女は、多聞丸の依頼を受けて海上自衛隊で内部監査の任に当たっていたという。

 少女の同人活動を映して以来沈黙を保っていた3D映像投射機くんが起動する。宙に一人の女の子の姿が浮かび上がった。雇われた時の外見なのか少し幼いけれど、どう捉えても見覚えしかない顔……宮里艦隊の川内さんである。知ってたけど。知ってたけど。

「やっぱニンジャじゃんあの人」

「多聞丸の手の者だったのか……」

「まあ、本人は計画の事とかはぜんぜん知らないみたいですけれどね」

 どうも川内さんは自衛隊に潜入――普通に入隊したらしいけど――して内部調査をしている最中に深海棲艦が来て、川内適性があった為に任を解かれてそのまま艦娘をやっていたらしい。本人は喜んでたとか。能力はともかく性格的な適性なさそうだもんな川内さん……

「ちなみに未成年ですわ」

「年齢詐称してたの!?」

 道理で若く見える訳だよ! 年相応だっただけかよ!! そういやお酒飲んでるとことかも見た覚えないけどそういう理由? 法令守ってたりしたの?

「川内さんって天才なの……? 吹雪さんにぶっ飛ばされてる印象が強いんだけど……」

 ああ、確かにたまに飛んでるよね、水平に。下手人私だけど。

 いや違うんだよ。あれは組み手なんだよ。時間が合った時にやったりするんだけど、技のキレが向上してるかとか見てるだけなんだよ。結果的に川内さんが人間砲弾と化すだけで。だってあの人受けるんだもん。鋭すぎて避けられないだけ? そうかな……そうかも……

「チート転生者が比較対象として正しくないだけで世界水準で見ても超高レベルなんですわよ、あれでも。それこそ吹雪に一矢報いた暁や砲撃避けれてる夕立がおかしいだけですわ」

 あ、君から見てもその二人ヤバいんだ。夕立は名前的にそういう想定の通りだったんだろうけども。

「それでこの娘、実はゲームの設定上に存在する娘ですの。ですが貴方達も知っての通り、名前に艦名は入っておりませんわ」

 私の知ってる川内さんの名前は湯通堂 葉月。川内のせの字も入っていないんだけど……本名なんだ。ニンジャネームとか別に持ってたりしないのかな? つーかそれ、ニンジャが歴史上に生まれたの川内さん設定したせいでは……?

「そういうわけでクエスチョン!」

 

第6問

この世界では宮里艦隊で川内を務めている女性は、

元の二次創作ゲームにおいてどういう役回りだったでしょう?

 

「これ結構難しいと思いますので、一つヒントですわ。実はこの娘、私は名前を付けておりません」

 それは……設定上にしか存在しないキャラとかって事? 少なくともヒロインじゃあないだろうし、攻略不能なメインキャラとかでもなさそうだ。でも役回りはあるのか……なんだそりゃ。

 少女がシンキングタイムスタートですわーと号令を掛ける。一番最初に回答を書いたのは文月だ。ほぼノータイム。心当たりがあった感じかな。猫吊るしは私と同じでよく分かってなさそうだから、もしかしたらスマホコミュ側にヒントでもあったのかもしれない。そうなると他の艦娘と関係してる可能性が高いかな? まあでも文月の書いた内容を当てる意味は無いから、私は私なりに考えよう。

 少女の話を纏めると、川内さんは元のゲームでは自衛隊員ではないはずだ。楠木提督が雇わなければなってなかったと思われる。だからニンジャなのも含めてどこに居たっておかしくはないだろうとは思うんだが……そもそも名前を付けなくていいキャラってなんだ? それこそ謎の忍者としてだけ出演してるとか? いやそれでも裏設定的に決めてはおくような気がするんだよなぁ。だったら、うーん……そもそも本人は出て来ないとか?

 たとえばアイテムのフレーバーテキストにだけ存在するとか……いやでもそういうのなら同年代に生きてる人より昔の人の方がそれらしくなりそうな気がするなぁ。天才らしいけど、深海棲艦と戦えるわけじゃないだろうからその設定に何の意味のあるのかもよく分からんし。

 あ、それともあれかな。誰か別の人の設定に川内さんも含まれてるとかかな。忍としては落ちこぼれなキャラが居て、その人から同年代の天才と散々対比されてましたーみたいな言及があるだけで本人は全く出て来ないとか、そっち方面。それなら名前は設定する必要がないんじゃないだろうか。

 ……この場合、役回りってどう書けばいいんだ? コンプレックスの元? それ役って言うのだろうか。具体的に答えるよりは曖昧な方がいいのかなぁ。そうなると他キャラの設定になんか混ざってる人……いやこれも役回りって言わないよなぁ。うーん。どこからどこまでが許される範囲なのかが分からん。問題がアドリブだからかその辺り曖昧なの凄く困る。

 

 

 

「ほほう。だいたいみんな同じ答えですわね」

 回答に目を通した少女は意外そうな表情を見せた。まずはこれ、と言って表示されたのは私の回答。『ヒロインの身内』である。

「できるだけ範囲を広く取ろうって努力の跡が見える辺り、自信の無さが窺えますわね」

「割と私に辛辣だよね君」

 嫌悪感から言ってるような感じは受けないからいいけどさぁ。くすくす笑った少女ははい次ーとさっさと私の答えを片付けた。代わりに出てきたのは猫吊るしの回答で、そこには『攻略対象の姉妹』と書かれていた。

「吹雪のより範囲が狭まりましたけれど……どうしてこの答えに辿り着きましたの?」

「名字から。ゆづどうって、お湯の通るお堂って書くだろ? 妹に神の字が入った奴が居るんじゃないかと思ってな」

 ああ、成程。神通か。もしゲームに居た人と同じ苗字なら、艦の一部が姓に入っててもおかしくなさそうだもんね。榛名さんみたいに全要素が名前に反映されちゃってる人も居るけど。

 そういえば那珂ちゃんはたぶん生放送でご一緒した那珂川さんがその枠だったんだと思うけど、あの人ニンジャ一派と係わりあったんだろうか。そういう雰囲気全然なかったけど、そもそも疑ってなかったからさっぱり分からん。

 少女が成程成程と納得を見せつつ、お次はこちらと画面の表示を入れ替える。最後に映されたのは文月の回答。その答えは、『ヒロインのコンプレックスになってる亡くなったお姉さん』である。あれっ!? っと何故か文月が驚きの声を上げた。

 しかし、あるあるだな。確かにそういう設定割とあるわ。自分の方が死ぬべきだった的なやつ。あるけど……も。

「これもうそのヒロインが誰かまで特定してますわよね?」

「……だって神通さん隠せてないから。あの人明らかに川内さんの妹さんでしょぉ?」

 そうなの? そんなにあからさまな事言ってたんだろうか。交流の一切ない人だから全く分からん。というのもあるけどもっと気になる部分があってだな。

「亡くなったって部分どこから来たの?」

 いや、まあ、百万人しか生き残らないなら死んでる可能性の方が高いってのはそうなんだけど……わざわざ書いたのはなんでだろう。必要な一文とは思えないんだけど。私の質問に、文月はこちらを見ずに答えた。

「えっとね、それは生きてたら出て来なくても名前付けるかなって思ったから。名前を付けなかったのはそれ以上の意味のないキャラ……つまり本当に設定上存在はしてるけど、記号だけがあればよくって人格面とかは設定されてなかったか……もしくは、攻略キャラが多過ぎて一人一人の出て来ない身内にまでは名前付けなかったんじゃないかなぁって」

 言われてみれば、艦名の入った人って宮里艦隊だけ見ても結構多いもんなぁ。どれくらい実装したのかは知らないけれど、艦これってキャラ数200人超えてたと思うから細かいとこまで詰めてないってのは有りそうだ。制作者に割と適当なとこが垣間見えるし。

「っていうか、あたし消したんだよ!? ほらこれ!」

 文月が自分の手元のフリップボードを掲げた。そこには確かに何重にも線が引かれて塗りつぶされた文字がある。勢いで書いたけど後から配慮した感じかな?

「なんで元に戻ってるの!?」

「あら、だって折角の完璧な回答ですもの。勿体ないじゃありませんの」

 そういう問題じゃないと思うの。人の心とか……お持ちでない?

「という訳で、全員正解ですわー!」

 文月の席が眩しく輝き、猫吊るしの席は普通に煌めき、私の席もちょっとだけ光る。正解具合で変えてきやがった。

「宮里艦隊の川内、あの子はそう! ヒロインの一人である湯通堂 神無さんのお姉さんに当たりますわ!」

「あー、神無月と葉月なのか」

「そうみたいですわね。親戚に長月ちゃんとかも居るみたいですけれど」

 別に長月適性は無いらしい。そりゃそういう人も居るよね。

「役回り的には文月の答えがそのものズバリで、深海棲艦襲来直後にお亡くなりになって本編中には一切出て来ない、ヒロインのトラウマになるために設定されたキャラクターですわ」

「知り合いがそうですって言われた私達の気持ち慮ってくれたりしない?」

 楠木提督、本編で活躍しない優秀なキャラ救済して自陣営に組み込むオリ主みたいな事やってたのね。いや、みたいっていうか立場的にそのまんまか。有難すぎない?

「本来ならまったく自衛隊とは係わりが無い娘ですけれど、忍務にかこつけて適性検査を受けさせて、適性自体は低いので吹雪と関わらせて無理矢理引き上げた訳ですわね」

 ついでに体の動かし方を教えてくれるから私の格闘能力とか諸々も向上すると。今更だけどニンジャの技流出させちゃって良かったんですかね川内さん。柔軟というか、ニンジャの中でもかなり型破りな人なんじゃなかろうか。そういうとこも含めて神通さんの心に突き刺さる設定なのかなぁ。

 しかしそうなると適性あったの自体はたまたまなのだろうか……むしろ神通の姉で忍者なら川内適性無い方が驚きな気がするから、神無さんって人が設定通りの人格に育つためには川内適性のある人が必要だった、とかなのかもしれない。適性と人格が関係あるのかは知らんけど。

「ちなみに、吹雪のおかげで自己評価が下がりまくって自分って天才じゃなかったんだなぁ、みたいな認識になって喜んでたので神通が日々困惑しておりますわ」

「ただのチートだから申し訳なさしかないんだけどその情報」

「その感覚を川内も味わっていた、という事ですわ」

 もしかして実家に自分より強い人が居ないって事に思う所でもあったのか川内さん。あれか、才能が有り過ぎて悩んでた感じか。文月じゃなくて川内さんの方がそうだったのか……

 

「気になったんだけど、川内さん以外の人達はどうなの?」

「どうとは?」

「名前に入ってなくても設定に居るのかって事! ほら、教官長とかすっごく強いでしょお?」

 それは確かに気になる。あの人、本名は暁と何も関係なさそうな名前なんだけど、たぶん日本艦娘で技量最強なんだよね。ゲームでも教官役のキャラだったとか言われても驚かないわ。

「ああ、教官長。凄いですわよねあの方。多聞丸も見つけた時、びっくりし過ぎて声に出てましたわ」

 私もお気に入り。との事だが、この子に気に入られるのは正直悪い予感しかしない。

「教官長は、何一つも私が手を加えた存在ではありませんわ。完全な天然者ですのよ彼女」

 野生の天才、であるらしい。天が与えた訳じゃないのに。

「私も調べたんですけれどね、親兄弟親戚の情報を漁っても先祖を遡って調べても何も特別な所が見当たりませんのに、本人は超強いんですわよねえ。遺伝子的にも普通の人間ですし、身体能力も高いとはいえ常人の域……それでどうしてああなのか。私もさっぱり分かりませんわ!」

 生まれる時代が違えば歴史に名を遺す大英雄になってたんじゃないかと少女は言う。いや、今の活躍も後世に残りそうだけどね。私が目立ちすぎ? そこには目を瞑ってくれ。

「本来なら、凄く勿体ない事に、深海棲艦が襲来したその日に亡くなってしまいますのよね。っていうか今思いましたけれど他の世界だと普通に死んでますのよねえ。勿体な。今度から回収しよっと」

 なんか不穏な事言い出した。回収? え、何それは。

「あ、勿論貴方たちの教官長もちゃんと転生者になってもらいますからご安心くださいませ」

 来世保障ですわー、あの方ならチート要りませんわねーと少女が笑う。いや待て。ちょっと待て。

「え、この世界の人も転生者にするんだ……?」

「え、そりゃあ、貴方たちの生きていた世界と同じで私の運用する世界なのですから、そこに生きてる人達は当然選定の範囲ですわよ」

 きょとんと、心底不思議そうな表情だった。あー。あー。そうね。言われてみりゃそうだわ。私達の生まれ故郷はどこかの世界を少女がコピーした世界。教官長の生まれ故郷はそのコピー元の世界で少女が作った同人作品を元に少女が創った世界。そこになんの違いもありゃしないのか。

「……やべぇ、若干思い上がってた」

「わかるー」

 猫吊るしも文月も私もほっぽちゃんやベイさんも、ゴトランドさんやレ級ですらそれまでちゃんと理解し切れてなかったようだ。上位下位の関係でないならそりゃそうなんだけど、感覚的にまったく分かってなかった。そうだよね。ゲームを基にした世界であってゲームではないんだから。魂の価値は全く一緒……っていうか、私なんかと比べたら明らかに教官長の方が価値あるよね。

 っていうのはまあ、私達の認識の問題だし別に蔑視してたとかじゃないから置いといてだ。

「教官長、チート無しの転生者にされるの?」

「事前説明無しでゴッドイーター辺りにでも放り込んでみようかなと」

 なんだかんだで大活躍しそうだけど、ちゃんと説明はしてさし上げろ。オタクじゃないから前提知識何も持ってないんだぞあの人。

 

 

 

「教官長がそうであるように、自衛隊の皆さんは本来全滅しておりますわ。ですので設定上存在している方は……少なくとも宮里艦隊にはおりませんわね」

「宮里提督も?」

「ええ。そもそも彼女は本来なら自衛隊に入る事すらありませんもの。多聞丸に思いっきり人生を捻じ曲げられた被害者の一人ですわ」

 意外……だけどやっぱりそういう人も居るんだ。そりゃあまあ、そうだよね。人助けが捗るから仕方なくだろうけど、それでどれくらい生存者が増えたんだろう。いや、宮里提督滅茶苦茶重要位置だから下手しなくても十万百万一千万単位だよなぁ。補佐官とか居なくていいのかなぁとか思ってたんだが、さてはこれ居ない方が成果が挙がる奴だな?

「さて、今言った通り本来なら自衛隊は全滅いたします。初期に艦艇ごと沈んだ者たち、市民を守って殉職した者たち、武力を背景に我欲を満たそうとして似たような勢力と相打ちになった者たち、好機と見て軍勢を築いた妖怪軍団に背後から斬られた者たち、組織として瓦解した後も手の届く範囲の人々は護ろうと奮戦した人たち、様々おりますが、主人公が戦いを始める頃にはほぼほぼ皆亡くなってますわねえ」

「待って変なの混ざってたよ今」

「残ってたのか妖怪」

「どうしてもファンタジーが混入するんだねえ」

 どうして妖怪が大暴れしてるんですか? 一部の設定から派生して生えたんだろうけど、印象強過ぎて艦これ要素で打ち消せてないぞ。ニンジャとか初春みたいな霊能力者とか居るから普通に退治できるんだろうけどさぁ。つーか油断すると世界設定くんが後ろから刺してくるの凄い困る。

「この世界では既に首領格が調伏されて他所で提督やってるから大丈夫ですけれどね」

「提督!?」

「何やらせてんだ楠木提督!?」

「妖怪も提督できたりするんだぁ……」

 人手足りないから? 足りなさ過ぎて妖怪まで駆り出したの? まあ確かに提督少ないからやれるなら……っていうのは分かるけども。危なくない? それ以前にできるんだ? 人間由来の妖怪とかだったんだろうか。まあそれなら分からんでもいややっぱわかんないわ。

「ああ、まァ……もうケッコンまでいッてやがるし、人襲ったりはしねェだろ」

 どうやら調伏したのはレ級らしい。きっと圧倒的な速度でねじ伏せたんだろう。相手がそれで納得したのかは分からないけれど、ケッコンできるくらい仲のいい艦娘が居るなら大丈夫……なんだろうか。調伏したら邪気が払われて大人しくなったとかそういうノリ? しかしファンタジー要素積極的に使われてるの予想外過ぎるんだけど。艦これ、艦これってなんだ?

「話を戻しますが――本来の世界ではそんな扱いだとはいえ、自衛隊がちゃんと指揮を執れば有効な働きをしてくれる組織なのは皆さん知っての通りですわ。ですから多聞丸も幕僚長にまでなった訳ですしね」

 実際、深海棲艦を倒しているのは私達だけど海辺の平和を護っているのは自衛隊員の皆さんである。なんだかんだ理由付けて侵入する人結構多いらしいんだよねぇ。こっち目線だと自殺志願にしか見えないんだけれど。

「さて、方々に手を尽くして艤装の建造に漕ぎつけた多聞丸が最初に作り上げた戦闘部隊。それがかつて精鋭部隊と呼ばれていた長門率いる十二名の艦娘達ですわね。ただあの方達――正直、滅茶苦茶弱かったんですわよねえ。よく生きて帰れたと私毎回感心しておりましたわ」

 適性値は対応する艦娘と外見年齢が離れるほど減っていくから、そのおかげで自衛隊にはあんまり高い人が居なかった……ってのは聞いた事があるけど、それはやっぱり事実だったらしい。外見年齢であって実年齢は関係無いため合法ロリ海防艦は有り得るそうな。この世界普通に居そうだから困る。

「この旧精鋭部隊の生存に寄与した前線指揮官がそう、長門ですわ。いいですわよね、長門。広告塔できる程度には外見が整っていて、性格も声もなんとなく可愛らしくて、どっちかっていうと受け体質で、適性値も自衛隊の中では最高で、そことは関係ない自力も高い……控えめに言ってこんなのよく見つけたなって人材な訳ですが」

 見慣れた長門さんの画像が投影機から映し出され、横に数値が表示される。それは468から始まって、だんだん上がり1758で止まった。もしかして適性値かこれ。他の人達が最低値の150に近い所だとしたら一人だけ凄い強かったっぽい? っていうかめっちゃ上がってるなこれ。宮里提督とケッコンしてるからかな? つーか長門さん受けなら宮里提督攻める方なんだ。知りたくなかった。

「見つけた……って事は宮里提督と同じタイプ?」

「いいえ。この子はもっと極端。ある意味では多聞丸による改変の極致。有り得る可能性を細部まで精査した果てに見えるひとかけら。つまりは、本来この世に存在しない人間、ですわ」

 それは、えーと。自然発生しないから、意図的に交配して作り出したとか……そういうお話? 別世界から来たとかそういう方向性じゃないよね? 生まれがどうだろうが長門さんは長門さんだけど……え、楠木提督凄い事してない? 誰と誰からどういう子供が生まれるかとか分かるの? 馬主やらせたら最強かも分からんね。

「この世界は私が作った世界。でも長門はその世界の中で、多聞丸が意図的に作り出した娘。つまり、二次創作の二次創作。三次創作と言っていい子。つまり――私から見ると孫に当たりますわ!」

 そのせいか、なんだか妙に可愛いんですわよねえ。などと少女はのたまった。やけに褒めると思ったら……

「知ってるかもしれませんが、多聞丸の義娘ですので今後も関わる事は多いと思いますわ。仲良くしてあげてくださいまし」

 マジで何目線なんだこの子。おばあちゃん? おばあちゃんなの? 息子や娘も助けてあげてよ。いや孫も愛でてるっぽいけど助けてはなかったわ。ただの後方祖母面か。

「それでええと、この長門や途中で回収されたレ級のサポートを受けて、召集の日まで旧精鋭部隊は戦い抜いたわけですわね」

 実はこの頃、レ級は縦横無尽に日本中を暴れ回っていたらしい。必要時に必要な相手をぶっ潰したり、時には轟沈した艦娘を他の艦娘の方へと放り投げたり、都合のいい場所を攻めるように誘導したり。今はPT小鬼群達と仕事を分け合ってるみたいだけど、私がこたつでみかん食べながら風香の関節をねじってる間もずっと戦いを続けていたようだ。頭下がるなぁ。

「さてこの時点で本州の生き残りはだいぶ増えている訳ですが、それ以外の島々はこのままだと遠くない未来に滅んでしまいます。それを防ぐために多聞丸が行った事の一つ……その中でも最も重要で、最も影響の大きいもの。それが召集ですわ」

 まあそりゃあ、いろんな意味で影響は大きいだろう。戦力の拡充もそうなのだけど、世間への波紋がデカいデカい。抗議活動とか現在進行形で起きてるからね。自分の子供戦争に取られるの嫌だろうから当然なんだけども。

「そして手が広がって戦力的にもおかしいのが加入した艦娘部隊は、本州の護りを固めるとともに九州四国方面の解放へと動き出した……と、この辺りは貴方達もよく知っていますわよね」

 おかしいのの代表で悪かったな。と目線で訴えかけてみれば、少女はぷーくすくすと言わんばかりのお上品な笑いを溢した。つよつよ雪ちゃんは役には立ってるはずだからいいんだうん。

「ところで、何故多聞丸は北ではなく南を優先したか、お分かりになりますか?」

 それは……難易度と生存数の問題とかじゃないの? 北海道って敵は滅茶苦茶多いけど内部が広いから他よりはなんとかなりそうに思えるんだよね。四国とか今冬超えられたか怪しいもん。食料焼き払われたって言ってたし。

「五十嵐提督が居たからだよねえ?」

「はい正解。それだけだと理由の1/4くらいですけれどね」

 え、五十嵐提督? 四国どころかその手前の淡路島でリーダーしてたはずだけど……提督として有能なの? 優先して狙いたくなるレベルで? そういや妹の嵐さんかなり強いって言われてるからやっぱり戦力確保って事?

「あー、成程。さっき言ってたチュートリアルキャラか。五十嵐提督がそうなのか」

 猫吊るしはそれで得心が行ったらしい。えっと、つまり……

「五十嵐提督も主人公特権持ちって事?」

「そうなりますわね。本来ならチュートリアルの最後で特殊個体に遭遇して全滅するのですけれど、この世界では艤装建造前に本州から助けが来たので生き延びる事になりましたわ」

「特殊個体?」

「ボスエネミーですわ。この世界だと……ふふ、未討伐ですわね。誰が倒す予定なのかは知りませんけれど、まあ、ネタバレは避けておきましょうか」

 今更。ネタバレ大会なのにそこは隠すんだ。

「ともかく、本来なら一人しかいないはずの超高性能提督と、その周囲に侍る高適性艦娘の確保が多聞丸の第一目標だったのですわ」

 なお、艦娘の方が高適性なのはゴトランドさんが間に入って煽りまくったのが主な理由らしい。流し目で指摘されて苦笑いしてた。本来ならボスに負ける程度なんだろうけど、今の嵐さんとかはかなり評価高いしそりゃ上げられるだけ上げるわな。

 ちなみに五十嵐提督の受け持ちは拠点と提督能力のチュートリアルであり、女主人公の戦闘方法は艤装を初めて装備した時に教えてもらえるんだそうな。そこは統一した方が良かったのでは……?

「そして第二目標ですが、これは沖縄の方……雪吹艦隊ですわね」

 やはりというか、駆逐艦吹雪の一部が転生したチートな吹雪さん達は戦力としてかなり大きかったらしい。艦娘を増やせる上一人一人も並みより強いってなったらそりゃあ目指したくもなるよね。あとあんまり派手に動かれると後々に問題になりそうってのもあるし。

 しかし、吹雪さ……吹雪の事って過去に干渉してるっぽいのに楠木提督の予知の範囲内ではあるの、どういう状態なのか全然理解できない。楠木提督が私を朝潮にしたりして未来変えたらどうなるんだろう。少女目線では既に行われた事だから変わらないとかそういうのあるんだろうか。

「つまるところ、戦力増強が南へと向かった一番の理由なのです。攻略難易度的にはそれほど変わらなかったと思いますわ」

 ぶっちゃけてしまえば、転生者が複数居る以上いきなり北海道解放というのも不可能ではなかったらしい。ただその場合、五十嵐さん達は死者が出る可能性が高まり、雪吹艦隊は任務攻略による報酬獲得が効率的に行かなくなる。それでいて北海道を護るために戦力が不足するなどあんまり得になる事は無いらしいので、結果的にかなり非効率なんだそうな。

「とまあ、それが理由の2/4になります」

「艦娘が転生してたりあたまが追いつかないよぉ……」

「残りの半分は南へ向かった理由ではなく、北へ向かわなかった理由ですわ」 

 沖縄勢の事をちゃんと知らなかった文月をスルーして、少女は言葉を続けた。ちゃんと後で纏めて説明し直した方がいいんだろうなぁ、これ。

 

「実は北海道は今、未曽有の大豊作ですの」

「えっ」

「えっ」

「なにそれこわい」

 採れてるの? 食料いっぱい採れてるの? 生活困ってない感じ? 四国九州沖縄とは違い過ぎる感じ?

「いや、食料が足りたとして、燃料とかは足りないだろ? 結局救援は要るんじゃないのか?」

「あら、その辺りどうにでもできるような連中に心当たりがあるでしょう?」

 ほらここにもいっぱいおりますし。少女はにんまり微笑んだ。えっああ、そういう事なの?

「転生者、北海道にも居るんだ?」

「はい。総勢十名もの転生者が在住だったり旅行に来てたりで、たまたま北海道に集結しておりましたわ!」

「ぜったいわざとだよねー?」

 まあ……確実に楠木提督が集めたんだろうなと思われるんだが、成程。それだけ居れば確かに色々できそうではある。一人居るだけで凄い事になる能力とかあるだろうし。

「ちなみに彼らは北海道で寄り集まった当初は、多聞丸の協力者ではありませんでした。自由にやってもらうのが一番だったみたいですわね」

「楠木提督と会談したのも割と最近だもんね」

 どうやらその人達の一部が偏屈だったり頼れる物があったらそっちに頼り切っちゃう性質だったりして、ラインを繋ぐと十全に力を発揮してくれない可能性が高かったらしい。私達と同じで元々は一般人だろうしなぁ。

「ちなみに全員日本人なのですが、なんやかんやあって寄り集まった彼らはその豊穣の力や創造の力、政治や運輸に通じる力を、インフラ整備や食料供給に堂々と、それはもう堂々と注ぎ込んだのです。このために与えられた能力なのだと確信して。ええ。それはもう、現行の法律を完璧に無視した形で堂々と」

「あー……それで北には行けなかったって事か。合流しちゃったら守らせなきゃならないから」

 猫吊るしの納得に少女はその通りですと頷いた。なおその行いは超法規的措置として無罪放免にされる予定らしい。人助けではあるし、緊急避難扱いなんだろう、たぶん。

「さてさて、そんな彼らの代表的な、そして今後おそらく数百年から数千年に及ぶまで人々を救い続ける成果物がここにございます」

 そう言って正面へと差し伸べられた少女の小さな掌に、ぽんっと音を立てて赤茶色い物体が出現した。それは丸々とした堂々たる風貌で、採れたばかりなのか各所には土のようなものがへばり付いている。しかしその表面は光を映し、見るからに艶めき輝いていた。

「芋?」

「芋だな」

「お芋だねえ」

 それは果たしてサツマイモだった。それも、かなり質の良さそうな。

「そう、実は彼らの最大の成果というのは、農作物の品種改良なのです。これが本当に洒落にならな……非常に素晴らしい出来栄えでして」

 北海道をこのまま取り戻せば日本中に行き渡るどころか一部輸出可能なレベルでわっさわっさ実っているらしい。ああうん。確かに洒落にならないわ。

「このお芋、生産性は勿論、場所は選ばず季節も選ばず、栄養は豊富でアレルギーも起こさない。まさに夢の食材となっております」

 ついでに美容にもいいし健康にもいいし害虫にも病気にも強いしいざって時は葉っぱも食えたりするらしい。だから今年は北海道でいっぱい作られたし、冬への蓄えもたっぷりあるのだとか。

 他転生者の働きで防寒対策とかもちゃんとやれてるらしく、問題は多々あれど、北海道は世界的に見ても有数の平和な土地と化しているのだそうな。勿論海岸線に出た場合は除くが。

「このお芋、最大効率で植えると一面が緑一色に染まりますの。それ故に、品種名は満場一致で決まりましたわ」

 しばふ芋。

 転生者たちはこの空前絶後の美味しいお芋にそう名を付けたのだそうな。

 いや絶対違う意味だろそれ!?

 

 

 

 あ、美味しい。

 少女が一瞬で蒸かしてくれたお芋をみんなで試食してみたのだけれど、これめっちゃ美味いですね……流石に娘のために用意された最高級品だったであろう二期生吹雪のくれた奴の方が美味しかったと思うけど、それに次ぐくらいのお味である。芋っぽくなったりする効果は無かったので安心して皆さんにも食して頂きたい。

 ほっぽちゃんやベイさんも初めて食べたようで、みんなほっこりとした表情になっている。自然な甘味に顔が緩むのは仕方ないよね。唯一ゴトランドさんだけはそれ美味しいよねぇと味を知っている風だった。たぶん北海道にも居るのだろう。むしろどこなら居ないんだろうこの人。

「さて皆様、ここまで話を聞いて、疑問に思った事はありませんでしたかしら?」

「多過ぎてどこから突っ込んでいいのか分からないレベルなんだけど」

「そう、明らかに多いですわよね、日本に居る転生者の数!」

 くそ、聞いてるようでこっちの言葉聞いてねぇ。

 でもまぁ、確かに言われてみれば異様に多いな。北海道に行ってるだけで十人? 私と文月と楠木提督を入れたら十三人にまでなってしまう。総数が百人を超えてるって言っても妖精さんや深海棲艦の人も居る訳だから、人口比で考えたら人間な転生者の占有率はかなり高いんじゃないだろうか。

「そういうわけで問題ですわ!」

 

第7問

どうして日本には転生者が多いのでしょう?

 

「おいちょッと待て」

 少女が問題文を発表した瞬間、観覧席のレ級が立ち上がった。見れば眉を顰め、不審気に少女を睨みつけている。

「てめェ、それはどう考えても問題しか起きねェ奴だろ……!」

「いいえ、問題ありませんわ。なんならこうしましょうか?」

 

 この出題と回答は、楠木 多聞丸の計画及び健康状態に有害な影響を与える事はない。

 

 少女の周囲を赤い文字が飛び回る。うわ、こいつ赤で宣言しやがった。つーかそのネタ伝わるのか? いや伝わってないわ、レ級訝し気な顔してるわ。見た目があんまりオタクっぽい感じじゃないもんなぁ。

「そ・れ・と・もぉ。力づくで止めてみます?」

 ネタが通じなかったと見て、少女はあどけない笑みをレ級に向けた。まあ……無理よね。ノリが軽いからこっちもそういう応対で許されてるけど、本来どうしようもない相手だもの。懐が深いというよりは、私達のレベルが低すぎて礼とか無礼とかそういう以前の問題なだけなのだろうけど。

 レ級は一度舌打ちすると睨みを利かせたまま腰を下ろした。無体を働かれたら勝ち目が無くてもぶん殴りに行きそうだなぁ。うーん。たぶん本当に大丈夫なんだと思うけどな……ガバりさえしなければ。

「はい、それじゃあシンキングタイムスタートですわー」

 ぽむぽむと手を叩いて少女が回答を促した。いやそう言われてもな……これ普通に元のゲームの舞台が日本だからじゃないの? むしろなんで海外にも居るのかの方が分からないというか……

 あ、いやでもそっか。少女が作ったゲームの内容に関わらせたいのなら全員日本にぶち込むよな。あれ、なんで海外にも転生者が居るんだ? 実験? 歴史とか滅茶苦茶にしてくれそうではあるけれど。

 ああ、いや、歴史はむしろ変わってないなそういえば。結局ニンジャだ妖怪だドラゴンだ精霊だが居る世界みたいだけど、大筋の歴史は――少なくとも表向きは――一緒なんだよね。たぶん、歴史は私達の知ってるそれと同じって設定でゲームを作ったんだろう。

 そうすると、転生者って現れたのは全員そこそこ最近……っていうか、それこそ楠木提督が一番の古株なんじゃないだろうか。チート能力、どこもかしこも死ぬほど強力なのが揃ってるみたいだから、隠匿した人が多いって言わない限りどこかしらで歴史が変わってそうだもん。昔から居たら影響不可避だろうと思われる。

 でもそれって日本に比較的多い理由になるか? 関係なさそう。でもレ級の反応見るに絶対なんかあるのは間違いないよなぁ。楠木提督が何か関係ある……?

 そういやさっきちょっと気になる事言ってたんだよな。なんだっけ、主人公と転生者を別にしてみた。だったっけ。なんか、この世界が最初の一例みたいな話ぶりだったんだけど、それにしちゃ……

 それと関連してなんだけど、沖縄の吹雪は記憶を奪われて転生させられて後で思い出したって言ってたけど、それは他の転生者への影響を防ぐためって話だった。でも吹雪は私と同い年で、幼少期なんて記憶あっても何ができる訳じゃないんだから影響を齎せる時期って根本的に少なくないだろうか。 あれ、いや待てよ。そもそも……

「ねえ、北海道の人達って今何歳くらいなの?」

 あら、と少女が意外そうな声を上げた。そのままちょっと目を細めると、残念ですがと口を開く。

「問題の内容と関係のある質問にはお答えしかねますわ」

「つまり関係あるんだ?」

「あらあらまあまあ」

 わたくしとしたことがやってしまいましたわーなどと、少女は棒読みで言ってのけた。絶対わざとだが……たぶん想像通りだなこれ。

「自分が普段されてる事を私にぶつけてくるだなんて成長しましたわねえ」

「え、私普段やられてるの?」

 マジかよ情報漏洩してんじゃん。全然気づいてなかった。いつやられたんだろ……いや今は関係無いから後にしとこう。

 ともかく、ヒントは貰えた……やっぱヒントくれる辺り間違えさせたいとは思ってなさそうだけど……置いといて、ほぼ間違いないだろう。たぶん北海道の転生者は、全員若い。

 だったら、たぶんこれで合ってる……と思う。でもこれ正しかったら、その、なんていうか……もうちょっと相性とか組み合わせとか考えてやれよって話になっちゃいそうなんだけど、大丈夫ですかね?

 

「はいでは、あいしーこーるどりーでぃんぐですわー。文月から参りましょうか」

 解凍編ってやかましいわ。少女がどんと答えを映す。お出しされたのは、『ゲームの舞台が日本だから』である。

「これ、吹雪が分かってそうだからって自分は無難なの書きましたわね?」

「うん。でも広義の意味で合ってたりしない?」

「うーん……微妙ですわねえ。今回は無しで」

 つまり不正解と。匙加減過ぎて怖い。

「はい、お次は猫吊るし、どん。えーと、『転生前が日本人だった人が多いから』ですか」

 これは確かに。実はここにいる転生者、全員元日本人なんだよね。ゴトランドさんや丹陽さんも含めてだから、もしかしたら転生者みーんな元日本人とかも有り得るのかもしれない。

「一番相性のいい艦の適性与えてるって言ってたよな。元々日本人が多いせいで日本艦の適性者が多かったんじゃないかと思ってな」

「成程、そっちから来ましたか……でも残念。実は、ぶち込む先を決めてから魂の方を選定したんですわよね」

 なんでも体の方が先にあって、その体が産まれる国に見合った魂を後から突っ込んでいったらしい。分かるかそんなもん。猫吊るしもがっくりである。

「というわけでー、合否は吹雪の肩に委ねられたわけですが、自信のほどはいかが?」

「そんなものはない」

「そこは嘘でも自信を見せるとこですわよ」

 え? その方が間違ってた時に美味しい? いや私芸人じゃないからそこはどうでもいいわ。

「えー。結構大事な所ですのに……ま、いいですわ。それじゃあ行ってみましょうか。注目の吹雪の回答は、こちらです。どん!」

 私の答えが画面に映る。出た文章は簡潔だ。

 

 『楠木多聞丸が居たから』

 

 以上である。

「さてでは……解説して頂けます?」

 少女は楽しそうな笑顔だった。猫吊るしは瞠目の後理解の色を浮かべ、文月は頭にクエスチョンマークを浮かべた。いやこれ、説明するだけで気が滅入るんだけど……

「この世界さ、一番最初、本当に最初の予定ではさ」

 ゴトランドさんが目を閉じて深く息をするのが視える。これ合ってるとしたら、かなり酷い話になるんだけれど。

「転生者は楠木提督一人だけだったんじゃない?」

 レ級の方からぎりりと歯を噛み締める音が聞こえる。ああ、うん。やっぱ合ってるのか……

「何があったのかは知らないけど、たぶん私達他の転生者は後からの追加メンバーだから、そのせいで楠木提督だけ年が離れてるんじゃないかな」

 これが正しいのであれば、楠木提督は何十億と人々が亡くなる世界に、その様がまざまざと脳裏に映る能力を持たされて、一人で立ち向かわされた事になる。うん。馬鹿だろ君。

「何故そう思いましたの?」

「転生者と主人公分けた初回でいきなり転生者何人も放り込まないでしょ、普通」

 しかもバグったりする場合がある割と繊細な世界みたいだし、余計。そういうのはまず一人だけで試して大丈夫か確認すると思ったんだよね。まあ、この子の場合検証とかいいですわーバグったらバグったで面白いですわーとか言い出しそうではあるけれども。

「あと、私の配置が都合良すぎると思う。主人公ボディに戦闘力チートの人間突っ込んだの偶然じゃないでしょ」

 たぶんだけど、私って、意図的に楠木提督の手の届く範囲に置かれた救済ユニットなんじゃないのかなぁ。あと猫吊るしもそうか。有能で真面目過ぎる。北海道の人達にしたって、食糧問題や燃料問題の解決策を持ってるっぽい。ああ、思い付いた。纏めるなら、きっとこういう事だろう。

「この世界、要は楠木提督を主人公にした作者本人による三次創作なんじゃないの?」

 少女の笑みが深くなる。それは実際にそうなっている訳ではないのに、まるで口元が裂けたように見えるほど深く、幼げな外見とは不釣り合いな、絵に描いたような嗤いだった。

 私の回答席が強く光り輝きだす。今までのよりもかなり豪華で、電飾はそれぞれ別の色まで放っている。

「正解」

 それに反して少女の声はかなり静かなものだった。

「そう。私は本来……彼女一人のためにこの世界を創造したのですわ」

 先ほどまでの表情とは打って変わって目を伏せるように軽く下を向き、まるで何かを告白するかのように…………彼女?

 

 

 

 

 

 彼女??????????

 

 

 




この世界のチート転生者は全員TS転生者です(集合無意識出身は全員無性扱い)

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