転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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真実、こっそり教えちゃいます!

 楠木 多聞丸がこの世に生を受けてしまった頃、世界は平和だった。無論、貧困や戦争に喘ぎ苦しむ人間は数多に存在していたのだが、それは全世界が滅亡するような規模の話ではない。彼の知る限り歴史は同じ道を辿っている様子だった。

 そもそも産まれたばかりの多聞丸には未来を読み解く能力などは発現していなかった。持たされた能力の恩恵は異様に視力が良くなり、壁の向こうが見えて、人の心根を透かせる程度の物だったのだ。

 制御は利かず、何か――霊魂やら妖異やらも時折見えてしまったものの、そのままでも様々に役立てられる能力ではある。実際、家人の体から病巣を探り出し医師の下へと通わせるなどは赤子の頃から行っていた。未成熟な体ゆえに迂遠な手段を取らされはしたが純粋に人助けであり、それだけで済んだのなら、気楽に有難いと感じていられたことだろう。

 それが本格的に暴走を始めたのは彼となった彼女が男児の体にも慣れ始めた頃だった。ある朝多聞丸が目を覚ますと、家の中であるにもかかわらず海の果てに浮かぶ大きな船の帆がゆらりゆらりと揺らめくさまが視界いっぱいに広がったのだ。その状態でも周囲がちゃんと見えているため生活が不可能とまではならなかったものの、ある程度効果を絞れるようになるまでは眠る事すら困難であった。

 多少なりとも範囲を限定できるようになると、次に襲い掛かって来たのは他人の心の声である。清濁入り混じる無秩序でまともな文章になっている事すら稀なそれらが、善意も悪意も無い情報の洪水となって無邪気に押し寄せてきたのだ。

 尤も、これに関しては実の所、利益の方が大きかった。多聞丸は人の心が視えたとして、それには反射で浮かんだだけのパターン化された無意味なものも多く含まれていると知っており、その人間の本音や顕在意識で思っている事とはまるで関係ない場合が大半であるとすぐに理解できたからだ。

 視え過ぎるが故に、逆にしっかりと情報を精査しなければ相手の真の心は分からなかったのである。ただし、必要のない時にも視え続けるため酷く邪魔ではあったのだが。

 それらに対処していた多聞丸はある時、雇われた家政婦が床に落ちた眼鏡を踏み壊して途方に暮れているのを目撃した。だが同時に、多聞丸の視界の中には棚の端に置かれ今にも落下しそうな、砕かれたものと全く同じ意匠の眼鏡も映り込んでいた。

 二つ? などと思う暇もなく、それは小さな音と共に床へと落ちた。向かいからは今目の前で呆然としていたはずの女性が荷物を手に廊下を渡ってくる。咄嗟に、多聞丸は眼鏡を拾い上げた。

 

 壮年の家政婦は多聞丸に軽い会釈をすると通り過ぎて行く。眼鏡は手の中で輝いている。

 地獄が始まった。

 

 

 

 それは一言で表すのならば死である。

 砲火に体を引き裂かれるのも、猛る炎に身を焼かれるのも、赤い海に魂ごと沈むのも、飢え渇き息絶えるのも、奪い合いの果ての空虚に心が先に亡くなるのも、全てを諦め身を投ずるのも、全ては一つの死である。

 そこに救いは無い。恐怖の果ての死、痛みの果ての死、終わりすら見えぬ混迷の先の死、苦しみの果ての死、無意味の果ての死、絶望の果ての死。死。死。死。死。死。死。

 それら数多の死を、刹那も止まることなく多聞丸の両の眼は観測した。

 最初は何が起きているのか分からなかったが、見続ければ死以外の情報も流れ込んでくる。周囲の情報と実際の状況、視えるものの意匠の未来性から、それが予知であると気付いた時。彼は考えない事を止めた。

 

 見定める。原因を。理由を。運命を。そこには深海棲艦という名の悪意があった。艦これかよォォォォォ!! などと驚愕しつつ、探る。探る。回避法を。討伐法を。生存法を。そしてそれを繰り返す。何日も。何週間も。何ヵ月も。死に往く人々を救う方法を。押し寄せる絶望を祓う方法を。沈む世界を食い止める方法を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなものはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多聞丸は庭へと飛び出した。膝を突き、地面に頭を擦り付ける。

 そのまま、多聞丸は身動きをしなくなった。

 

 家人がすわ何事かと駆けて来る。

 多聞丸は動かなかった。

 何があったと家政婦が詰問される。

 多聞丸は動かなかった。

 兎にも角にもとその体を起こそうと手が掛かる。

 多聞丸は動かなかった。

 力づくで起き上がらされる。

 多聞丸はすぐ元に戻った。

 激しい叱責が飛ぶ。

 多聞丸は動かなかった。

 優しく理由を問われる。

 多聞丸は動かなかった。

 やがて夜が来る。

 多聞丸は動かなかった。

 そして朝が来る。

 多聞丸は動かなかった。

 家族に囲まれる。

 多聞丸は動かなかった。

 誰もが心配している。

 多聞丸は動かなかった。

 とにかく食事や水だけでもと用意がなされる。

 多聞丸は動かなかった。

 そしてまた夜が来る。

 多聞丸は動かなかった。

 日が昇る。

 多聞丸は動かなかった。

 医者を呼ぶべきかとの声がする。

 多聞丸は動かなかった。

 本人の恥になるとの声がする。

 多聞丸は動かなかった。

 それでもこのままではと心底自分を想った声がする。

 多聞丸は動かなかった。

 日が沈み、また夜が明ける。

 多聞丸は動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ見よがしのため息が、多聞丸の耳に飛び込んだ。

 多聞丸は頭を上げた。

 そこでは一人の少女が、明らかに気分を害した様子で、薄汚れた自分の事を見下ろしていた。

『がっかりですわ』

 転生前には見せなかった機嫌の悪そうな声。終始楽しそうだったその時とはまるで色の違う視線が向かって来る。しかし、多聞丸はそれに怯む事はしなかった。

『私はね、圧倒的な絶望、覆しがたい状況で、足掻いて、足掻いて、足掻いて、しかしどうしようもなくて――でも、それでも、と。輝き煌めく魂や精神が見たかったんですわよ』

 仰々しく芝居がかった動作で、異常なまでに長い髪を振り乱しながら少女はかぶりを振る。それは多聞丸の頬を軽く打った。

『だというのに……何をするのかと思えば、祈りを捧げる? それが無意味だと貴女は知っているでしょうに』

 少女はもう一度、大きく大きくため息を吐いた。

 多聞丸は飲まず、食わず、他者の視線も厭わず、少女()に祈りを捧げていた。仏も菩薩も無力と知っていたために、縋れるものはそれしかなかったのだ。

 沈黙。何か言いたい事があるなら言え。心は読めなかったが、言外からそれが伝わって来た。

「お願いします。どうか……どうか、世界に、世界に慈悲をください」

 掠れた声だが、しっかりと音になっていただけマシだっただろう。乾き切った喉は引き攣り、肺は委縮し、舌は麻痺していたのだから。

「無理です。無理なんです。人が死にます。何十億人も。死に続けます。視えるのです。それが視えるのです」

『だから、貴女が救うのでしょう?』

 少女は盛大に顔を顰めた。そんな事は少女は分かっているのだ。そんな世界だからこそ、多聞丸をここに転生させたのだから。

「三千万です。それ以上を救える道は。見つかりませんでした。死ぬのです。世界で。地球上で。それ以外の全ての人が」

 まあ、と少女が驚きの声を上げた。

『本来の三十倍も生き残るではありませんの。それだけ救えれば大英雄ですわよ。それに、動いている間にもっと良い道が見つかるかもしれませんわよ?』

「お願いします。慈悲を。私などにはいいのです。人々に。どうか。どうか。ご慈悲を」

 多聞丸は頭を下げ地面へ額を突いた。それしかできなかった。神頼みだ。他にどうしろというか。多聞丸は神の実在を知っている。自分の思い付く限りの道を模索した結果、彼女に慈悲を乞う以上に人が救える可能性を、どこにも見出せなかった。

『ふぅん……へぇ…………そうですの。適役だと思ったのですけれどね』

 少女が多聞丸に小さな指を伸ばす。何をする気なのかは分からなかったが、頭に触れられるその感触を、多聞丸は静かに受け入れた。

『じゃあ、見せてもらいましょうか。貴女が精一杯模索したっていう、その最善を』

 痛みなどは無い。本当に触れられているだけのようだった。だが間違いなく、何かを読み取られているのは理解できた。

 少女はそのまま瞳を閉じる。まるで時間が止まったように世界から動く物は無くなった。いや、ように、ではない。実際に二人以外の時間は停まっていた。

 無言。無声。無音。

 暫くそれが続き。そして少女の瞳が開かれた。

『成程。確かに……ええ。確認致しましたわ。細かい修正可能な点は有りますが、貴女の言っていた事は概ね正しい』

 全てを上手く回し切ったとして、現在の条件で楠木 多聞丸に転生した彼女の能力と知識や認識範囲で最善を尽くした場合、生き残らせる事が可能なのは、三千二百十九万二千六百八十一人である。

 少女の計算でも、多聞丸の導き出した答えとは一割も差異が生まれなかったのだ。

『たった数か月でよくぞここまで。と、本来なら褒めるべきなのでしょうけれどね』

 少女は三度目のため息を吐いた。もし、最後までやり切った結果がそれであれば、多少理想値を下回っていたとしても、大いに賞賛しただろう事は疑いようがない。それくらいに、多聞丸の思考錯誤からは努力の跡が垣間見られたのだ。

 多聞丸は口を開かなかった。全てを視られた以上何を言う意味もなく、最早沙汰を待つ以外できる事は無い。対する少女は悩まし気に眉を寄せると、ぷくぅと頬を膨らませた。

『私がこの世界を永遠に平和な状態にする事はありません。絶対にやりません。深海棲艦の現出はこの世界の人間の性質そのもの、それを変える事は即ち、現在の人類全ての再構築……殺してその構成情報から新しい存在を生みだす事でしかないですもの』

「はいッ……」

 それではスワンプマン未満の問題なのだ。この世界における集合無意識と悪意の凝縮は、魂の設計レベルで定まった知性体の絶対法則である。そこを弄られればもう、元の存在と同一であると言い切るのは不可能だろう。この時点に至っては、そういった改変無しで深海棲艦の現出を防ぐのは不可能である。まあやろうと思えばできなくはないけど手順が複雑すぎて人類全員分とかやりたくないし特に少女の得にもならないから普通に嫌な程度には。

 ただしそれは根治の方法であり、対症療法の話ではない。

『貴女は諦めた訳ではありませんのね。単純に手が足りない。戦力が足りない。救いたい地球人類の総数に対して与えられる影響が小さすぎて満足のいく結果が遺せない。だから、何かしら手段を寄越せと。そういう訳ですわね?』

「……はいッ……!!」

 勿論、少女が何も起きない世界にしてくれるのであればそれが一番ではある。だがそもそもそれが通るのであれば、人類の99%以上が死滅する予定の世界など最初から創りはしないだろう。多聞丸が少女に望んだのは、その状況でもどうにか一人でも多く、できるならば全ての人々を救えるだけの手段であった。

 失礼な話ではあるのかもしれない。多聞丸ははっきり言ってしまえば延々拷問が続くかのような状態に置かれているが、それでも根本的に、少女による転生は――少女の趣味嗜好を満たすためであるのも事実だが――善意の賜物である。そこへ足りないからもっと出資してくれと我儘を言っているに等しいと言えなくもないのだから、身勝手が過ぎると、視点によっては考えられなくもないかもしれない。

『んー。むぅー…………まあ、貴女が辿ろうとした道はだいたい今視ちゃいましたから、何かしらスパイスを放り込むのは有りっちゃ有りですけれどー』

 よっしゃあ。多聞丸は内心でガッツポーズを決めた。 

『更に障害追加するのも有りだと思いますのよ』

「勘弁してください」

 多聞丸は地面にさらに頭をめり込ませた。内心冷や汗ものである。この対話に億単位の人類の生死が関わるかもしれないのだから、迂闊な思考はするだけで他人の命取りになるのだ。それが強く意識された。

『ま、冗談ですわ。ここから深海棲艦VS大怪獣軍団とかやっても勝手に戦って結果だけ教えろって感じですし』

 勝った方が敵になるだけですしね。軽く息を吐くと、少女は険しい雰囲気の顔で腕を組んだ。真剣にプランを練っているようで、おそらく自分が楽しくなれる発想が出て来ないか連想ゲームしているだけだろうと多聞丸にはなんとなく察しが付いた。

『ふぅむ。貴女に直接力を与えるのは特に面白くない。そもそもその能力で力まであったら単に力押しで何とかなる場面が多過ぎますものね。だったら外付け……艦息、いや年齢が厳しいですわね……いやそういえばストックに……』

 あっ、と少女が何かを思い付くと、長すぎて地面に放り出されている髪が、風か何かで巻き上げられて辺り一面に広がった。それが吉兆か凶兆か多聞丸には分からなかったが、自分の頭を撫でて行くそれに、不思議と悪意は感じなかった。

『整いましたわ。さあ、視てごらんなさい。未来を!』

 少女は笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊された3D映像出力装置くんが存在しない地面に転がっている。観覧席から飛び出したレ級が勢い任せに蹴り飛ばした結果だけど、別に映像は止まったりせずに音声と共にずっと流れ続けていた。お前、ただの飾りだったのか……

 いやしかし、正解発表後すぐに再現VTRですと小さく斜め下に書かれた立体映像で楠木提督の過去話が流れ出したわけなんだが、これで私達が人類救済の手段としてこの世界に放り込まれたって事なのか。ええ、向こうでレ級に凄い勢いで殴られてるけどバリアみたいなので全然攻撃が通ってないあの少女がさっき言ってたけど、中身の魂はある程度選んでたみたいだから、それも加味すると……私達マジで神様に召喚された勇者かなんかみたいな立場かこれ……わー中身伴ってなさ過ぎるぞ私。

 いや選考基準分かんないから悪い事はあんまりしない奴ならおkな程度のゆるゆるな基準なのかもしれないけど。考えてみれば私の知る限りの転生者ってみんな人のために力使ってるもんなぁ。私も命令は聞いてるし、そこまで扱い辛いもんでもない……よな? たぶん。コミュ力残念系ではあるけども。

 なんて思いつつ体を捩るが、尻が椅子から離れない。いやね、レ級が飛び出した時流石に不味いかなと思って止めようとしたんだよ、私だって。そしたらなんでか回答席くんが私の臀部を放してくれなくなったんだよねぇ。まぁ、少女の仕業なのは明らかなんだけども。好きにやらせていいですわよーみたいな視線をちらりとこっちに送って来てたし。

 うーん。だが分からん。予知の話になってすぐレ級が暴れ出したから関係ある話なんだと思うんだけど、これ、特に正体を知られるとストレスになる理由にはなってないよな? 別に楠木提督が少女に頼んだから私達が追加されましたって言われても憎しみとか感じたりはぜんぜんしてない……っていうか、なんか映像でストックがどうとか言われてたし、私が死んでから転生まで百年以上経ってるって最初の最初に言われたから、たぶん私の魂って塩漬けにされて保存されてたんだと思うんだよね。むしろ恩人じゃないだろうか。下手したら永遠に倉庫に仕舞われて忘れ去られてた可能性もありそうなんだが。ここは関係ないのかなぁ。それとももしかして私の方がここから何かやらかしたorこれからやらかすわけ?

 いやそもそも再現VTRらしいから、実際のやり取りはこの映像とはかなり違っててストック云々は後付けで無意味なのかもしれないけどね。肌に合わなかったのか知らんけど動画の途中からシリアスな雰囲気霧散してってたし、この子重苦しい話苦手なんだろうか。

 連打を続けていたレ級は拳では威力が足りないと見て一度遠ざかり、えらい速度で戻って来て、そのままの勢いで跳び蹴りを見舞った。文月は動きがまったく見えていないようで目を白黒させている。動きだけなら私よりもずっと速いもんね。戦闘向けの能力持ってない人達には光の線か何かとしか認識できてないんじゃなかろうか。

 まあでも、そんな超高速で繰り出されたその脚も、拳と同じ位置で動きがぴたりと停められて、まるで少女には届いてないんだけども。ああ、あれたぶん真っ赤な変色海域と同じような現象起きてるな。私貫通できるかも……いやしないけどさ。

「映像を止めやがれ!! その先はッ……!!」

 突撃を繰り返しながらレ級は叫ぶ。映像では楠木提督が起き上がり、少女に一時的に制御できるようにしましたわーと説明されている。制御可能にするの自体は簡単なのか……公平性とかいいからやってさしあげてくんないかなぁ。

「お願い、止めて! 知らせるにしても、こんな直接的なのは!」

「あら、私はそうは思いませんわ」

 ゴトランドさんも声を上げるが、取り付く島もなさそうだった。流石にレ級の攻撃に混ざりはしなかったけど、戦えるのなら自分もやってたんじゃないかというくらいの必死さを感じる。え。マジでこの場面になんかある感じなの?

 浮かんだVTRの中で楠木提督が未来視に入る。その先にあるのは明るい……とは言い難いものの、かなりマシになった未来だ。未来視なので音声はないのだけれど、画面にも至る所で様々な活躍をしている転生者の姿が映り出す。

 

 あらゆる場所を緑で埋め尽くし明らかに土壌の栄養素以上の食料を作り出す農家。

 幾多の生命を混ぜ合わせ新たな種を根付かせる研究者。

 光を束ね地上へ降らしあらゆる生命の活力へと変える小学生。

 あらゆる食材非食材で舌を蕩かせる流しの板前。

 自宅に脚を生やして危険地帯を移動させる飼育員。

 不定の姿で他者を欺き弱きを助け強きを挫く大怪盗。

 領域内のセキュリティを完璧に構築し侵入者を無力化する無職。

 美しい声で囁いた相手を骨抜きにする文月。

 聖なる剣を振るい放たれる悪意ごと敵を切り裂く女騎士。

 魔力を放ち海上の邪悪を塵へと還す魔導士。

 ビルの屋上で上がるチャートを見ながら高笑いをするお嬢様と何処か茫洋とした表情の女性とその二人を見てため息を吐いている苦労人らしき狙撃手。

 燃え盛る翼で敵を打ち肉体を消し飛ばされても甦る白髪の少女。

 世界各地のあらゆる海で救助活動を行うゴトランドさん。

 戦場の真ん中で散歩でもするような表情なのに飛んでくる攻撃がまるで当たる気配のない丹陽さん。

 逆に飛んでくる攻撃全てが吸い込まれるように命中するも傷一つもない戦艦棲姫の二人。

 たくさんの体で何もかもを押しつぶして行くPT小鬼群。

 雲の中に潜って魚雷を投げてる潜水新棲姫。

 機械化された港で押し寄せる敵を殲滅する集積地棲姫。

 浮輪王国の女王としてお世話されてるベイさん。

 海の底で眠り続ける五島沖海底姫。

 のんびりと歌いながら破砕音波で周囲を圧壊させる軽巡棲鬼。

 泣きながら飛んでくる弾を敵の後頭部に瞬間移動させるほっぽちゃん。

 

 おお……おお……と若かりし頃の楠木提督が感嘆の声を漏らす。目からは涙が溢れ、口は半開きになっている。少女はその顔を見て少し笑ったが、それを気にもせずに楠木提督は予知を続けた。100人以上も転生者は居るんだから影響の確認だけでも時間かかるわな。流石に全員を映す気はないようで、暫く動きのない映像が続く。

 その間もレ級は少女に攻撃を続けている。なんかだんだん速くなってる気がするから、もしかしたら怒りとかで能力を上手に使えるようになって行ってるのかもしれない。もしかしてそのために私に止めさせなかったんだろうか。修行パートか何か?

 今までよりも更に距離を取り、助走を付け鋭さを増したレ級から見舞われる、過去最速の一撃。結界のようなもので防いでいた少女は口角を吊り上げるとそれを解き、向かって来たレ級の足先を普通に掌で受け止めた。うーんやっぱり届いても効かないのか。レ級は悔しそうな顔でその場から離脱を図り、次の瞬間、少女の生みだした投網のようなものに突っ込んで、顔以外をグルグル巻きにされて地面に転がる事に相成った。漫画みたいな状態なので狙ってやったものと思われる。器用だなあ。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃありませんの」

「ア"ア"!? テメェ何言ッてやが……!?」

 少女の言葉にレ級は何かを察したようだった。私でもギリギリ視える程度な速度で映像の方へ顔を向けると、今にも叫び出しそうな顔になり、そして実際に、止めろォ!!!! と大声で叫び出す。私も映像の方へと注意を戻せば、そこにはレ級が映っていた。今と同じくらいの見た目の楠木提督と一緒に。

 やはり予知故か音声のない動画の中で、二人は何かを話している。訝し気な顔をしたレ級が艤装の尾の先に付いた顎で楠木提督を脅すが、それを気にせず提督はレ級に歩み寄り、何事かを口にした。艤装がくにゃりと力を無くし、地面にごろりと転がった。映像の中のレ級は何かを呟いた。

「オイ! 馬鹿野郎!? 止めろ!! 今すぐ止めろ馬鹿!!!」

 騒ぐ今のレ級。あ、人間の姿なのに艤装出した。出せるんだ。いや出せるようになったのかな? 網に絡まってて意味ないけど。

 そうこうしてる間に映像は進み、楠木提督はレ級に手が届く距離まで接近して、その頭へと手を伸ばした。被っているフードを脱がせると、その白い髪を優しい手つきで撫ぜ始める。レ級の口元がアップになり、唇が動いた。

「ええっ!?」

 観覧席で事の成り行きをわたわたしながら見守っていたベイさんが、それを見て目を丸くした。あーあれか、もしかして唇も読める感じなのか。意思疎通能力に関しては本当万能なんだなこの人。

 動画内では楠木提督がさらに距離を詰め、ついにはレ級を抱きしめるに至った。過去のレ級の目から涙が零れ落ちる。今のレ級は羞恥で死んだ。

「はい、といったところで次の問題でーす!」

 ぱんっと少女が手を叩くと、動画は一時停止した。レ級の泣き顔を映したまま。

 

第8問

多聞丸とレ級はどういう関係だったでしょう?

 

「まあなんていうか……ノリで出題しましたけど、これヒント足りてます?」

「糞みてェな問題作ッてんじャねーぞ糞が!!」

 レ級の尊厳がノリで破壊されて行く……いや、別に何か感情を揺り動かされて涙を流すのはおかしな事じゃないと思うのだけれど、流石に涙目ドアップにされたら物凄い羞恥心が湧き上がってくるのだろう。顔を真っ赤にしながら艤装も使って大暴れしている。網で存在しない床に転がされながらだからあんまり意味は無いけれども。

 少女はぷーくすと口で言いつつのたうつレ級を嘲笑っている。シリアスさんは出張に行ったようだ。ほんとひでぇ創造主だな君。文月とか急に問題が来たりレ級の暴れてる理由が微妙に変わったりで困惑しきりだよ。

 いやしかし、情報が足りてるかと言われると、微妙に足りないと思う。前世の知り合い、それも相当親しい仲だったんだろうって事は見て分かるんだけど……具体的な関係って言われるとちょっと困る。

 抱き合うような関係かぁ。二人とも日本人ならだいぶ近い距離感なのは間違いないけど……っていうか、この映像誰視点なんだろう。楠木提督の予知のはずなのに映像に楠木提督入っちゃってるし。まあ再現映像だからその辺り適当なのかもしれない。

 閑話休題。ええと、まず、楠木提督の前世は女性。これは少女が言ってたから確定だ。それで、たぶんレ級も同じく女性……でいいんだよね? 元男だったらそのギャルの延長線上みたいな格好の魂にはあんまりならないと思うし。無いとは言い切れないけどさ。

 でもそれが分かっても関係は確定できないんだよね。たぶん再会して感動して泣いたんだと思うから、ただのご近所さんとか上司と部下とかそういう軽いのじゃあないと思うんだ。レ級は色々楠木提督から知らされてるっぽいから、かなり信頼できる間柄……まあ、普通に考えたら家族とか、そういう感じかなぁ。

 指輪渡してるなら恋人……の線も無くはない……? たぶん同性だと思うけど別にないわけじゃないだろう。 でもそもそもあの指輪楠木提督の奴かな? 動画見た感じじゃそうだろうとしか思えないけど、他に渡せる人が居ないとも限らんわけだしなぁ。ああ、でもゴトランドさんも貰ってるし流石に前世からの恋人とか居たらそんな事しないんじゃ……いやそれぞれ違う人から貰ってる可能性もあるのか。ワケワカンナイヨー。

 家族だとしたら、どうなんだろう。親子か姉妹……お祖母ちゃんと孫? いやそこまで離れてるか? あ、あー思い出した。そういやレ級は大将さんに対してあの馬鹿とか言ってた気がする。そうなると目上とかじゃなさそう? やっぱり姉妹くらいの距離感な気が……いやでもレ級の方が年上だったら有り得なくもない? そうなるとヤンママ……いやそれもどうだろう。

 っていうか、回答は別に家族なら家族でいいんだよねこれ。姉妹でも親子でも家族は家族だもん。ほんとこの問題何の意味があるんだ……レ級への嫌がらせ? 延々攻撃されてたのちょっとイラッと来てたんだろうか。

 

「はいではサクッと答え合わせて行きましょうか」

「一回死ねマジで」

「え、一回で良いんですの?」

「消滅しろ!」

「無理ですわー、では全員の答えどーん」

 少女は一気に全部を開示した。本当に思い付きでやっただけで割とどうでも良かった奴だこれ。

「えー順に、『家族』『恋人』『親友』ですわね」

 ありそうなの大体揃った回答である。レ級は微妙な顔をしていた。

「吹雪……はまあ、安定取っただけですわよね」

「そうだよ」

 結局家族って書いたのが私だ。だって一番可能性高そうな気がしたんだもん。しょうがないじゃん。

「文月は?」

「家族は吹雪さんが書くかなぁって」

 文月にまで読まれてる……だと……? やだ、私単純。一切否定できないんだけど。

「猫吊るしは?」

「家族読み親友読みで恋人だな」

 ポケモンかな? 結果被らなかったからいいんだけども、二人とも私がストレートに書くと思ったのか……いやまあ、合ってるけど。当たってるけども。

「はいでは暦さん、お答えをどうぞ」

「言う訳ねェだろ!?」

 おいおい本名お漏らしされてんよ。いや知られてどうって事無いだろうし、大事な情報じゃないんだろうけどさ。勝手にばらすのはどうかと思うの。

「えー。じゃあ吹雪せいかーい、ですわ」

 私の回答席が控えめに光る。他二人もずらして答えただけだから実質正解みたいなもんだし、盛大に光られても困るから丁度いい。レ級は思いっきり体を捻って尾の先から大砲をぶっ放した。弾も撃てるのか……少女に到達する前に消滅してたけど。

 

「そういう訳で、レ級は多聞丸の前世での実妹なのですわ」

 少女はレ級の事をにやついた顔で眺めた。うん、そうね。色々必死だったのには得心が行ったわ。でもそういう人弄って喜ぶのは趣味が良くないって雪ちゃん思うなぁ。

「しかも結構なシスコン」

「あ? 適当な事ぬかしてんじャねェわカス」

「あのねレ級」

 普通の妹は亡くなった姉を偲んで使ってたゲームのアカウント引き継いだり致しませんのよ。などと、少女はとんでもねえ個人情報を暴露した。たぶん普通に規約違反である。やめようね!!

「っていうか、お姉ちゃんと再会したいなんて条件で私と契約しておいてシスコンじゃないとか無理しかありませんわよ!」

「何バラしてくれてんだテメェ!?」

 一連の遣り取りに文月が咽た。契約……っていうと私みたいに施された感のある転生とは違う感じだったのだろうか。そして文月も心当たりがあると。

「よく分からんがお前こんなのと契約したの?」

「あら酷い言い草」

 仮にも私達をお創り遊ばされた御方にあらせられるのだろうけど、何もかも酷いからそんな扱いになるのも仕方ないね。特に猫吊るしは変な選択させられた訳だしさ。

 

 契約とやらに関してよく知らない私たち向けに、少女はちゃんと説明をしてくれた。曰く、後払いの対価で願いを叶える代わりに返済が終わるまで自分の遊び相手を務めてもらう、という事であるとか。なお説明の最中耳まで真っ赤になったレ級がずっと砲弾を撃ち込んでいたりしたが全部ふしぎなちからでかきけされていた。

「まあ細かい定義は特にありませんし、契約内容は様々ですけれどね。ちなみに今居る面子だとレ級と文月が契約者ですわ」

 少女の側が一方的に転生させた私や猫吊るし、ほっぽちゃんやベイさん、丹陽さん。それと試練のクリアという先払いの形で願いを叶えて貰おうとしたゴトランドさんは契約者には入らないらしい。文月の転生三回ってそういう……人生二回分でも支払い終わんないのか。何叶えて貰ったんだろ。

「それと、この映像だと多聞丸も私に頼み込んでおりますけれど、あの子も契約者に含まれませんわ」

 なんでも思い付いてすぐ転生者追加しちゃって契約するの忘れてたかららしい。君そんなとこもガバるの?

「あと当然ですけど、私も叶えてもいいと思った内容でしか契約いたしませんから……例えばそうですわね、猫吊るしがその体を現世でも使いたい、とか言い出しても叶えてあげませんのでご了承くださいまし」

「ああ、それはなんかどうにでもなりそうな気がするから別にいいわ」

 ふふんと猫吊るしは春雨ボディで自信有り気に笑った。まあ猫吊るしの能力なら人型ロボットでも操作すれば生身とあんまり変わらなそうだしねえ。将来的にはたぶんそういうのも出来るはずだし、さっき見た映像を鑑みるに他転生者の力借りればその手の造れそうだし、危なそうな契約とやらに手を出したりする必要は無いだろう。

「それは重畳。では多聞丸の話の続きに――」

「待って!」

 動画の一時停止を解除しようとする少女を制したのはゴトランドさんだった。レ級も多少落ち着きを取り戻し、少女を睨みつけている。

「九問目が何かは予想が付くよ。でも、それは本当に今教えて大丈夫なの!?」

「逆に聞きたいのですけれどぉ」

 少女は顎に人差し指を当てると、心底疑問そうな表情で首を軽く傾げた。

「貴方から見て大丈夫じゃない可能性ってありますの?」

「結構あるよ!?」

 あるんだ。核心突かれて口ごもるパターンとかそういうのじゃないんだ。

「テメェからしたらマジで問題ねェんだろうが、テメェにとって大丈夫でもオレらにもそうとは限らねェだろ」

 羞恥心から引き戻されてむしろ冷静になってしまったのか、レ級の声は意外と落ち着いていた。もしや狙ってやった?

「えー、貴女だって吹雪と猫吊るしと直接言葉を交わして、どういう子達だか少しは分かって来たでしょう?」

「こいつらが問題起こさねェ事なんざ最初から分かッてんだよ」

「でも、だからって今教える意味も無いでしょ? 次の作戦が終わってからでも……」

 わぁ、信用されて……いや信用かこれ? 糞単純で頭足りてない能天気野郎って思われてるだけじゃね? まぁ事実だからしょうがないけど。

「ふむ。まあ確かに。別段今言っても後で言っても変わらない気はしますわね」

 少女はゴトランドさんの言葉に頷いて、顎に手を当て思案を始めた。ほっぽちゃんとベイさんはなんとなく話がまとまりそうな空気に顔を緩ませる。でもこの場合はたぶん……

「つまり止める理由にもなりませんわね! 再生スタート!」

 まあ、そうなるな。

 

 

 

 

 

 再びレ級の涙から始まった動画は、すぐに次のシーンへと移り変わった。

 

 素足で海上を走り回り拳で深海棲艦を叩き潰す変な少女。

 その少女の友人のために艤装をせっせと拵える小さな小さな少女。

 

 言うまでもなく、そこに映っていたのは私と猫吊るしである。

 なんでよりによって艤装無しで戦ってるとこなのか。ちょっと恥ずかしいわ。レ級の気持ちが少しだけ分かった。

 そして場面がまた変わる。今度は頭の上に猫吊るしを乗せた私が無表情にこっちの方を向いていた。私、調整とか無しでも猫吊るし乗せてるんだ……

 どうやら今度の映像は楠木提督の一人称視点なのか、身振り手振りの動きがたまに視界に入っている。猫吊るしの表情的に何か深刻な場面ではなく、軽い世間話か何かをしている様子だ。ちなみに私の顔からは何も読み取れなかった。うわこいつ近寄り辛ぇ。

 音声は無いが話は弾んでいる様子で、主に猫吊るしが色々言って、たまに私も口を挟んでいる。別になんて事のない会話シーンっぽい。実際、読唇できているであろうベイさんもおかしな反応は見せなかった。

 そしてある時、楠木提督の手が自分自身を指差した。それに驚いた猫吊るしと私――なんかびっくりしてるのは分かった――が、楠木提督に何かの言葉を返す。ベイさんがちょっと気まずそうにこっちを見た。え、何言ったの私達。

 なんてちょっと気になる事はあったものの、それとは関係なく次の瞬間に映像は元の楠木邸の庭、少女と向かい合う場面へと戻っていた。

 そして楠木 多聞丸は嘔吐した。

 

 

 

 

 

「はい、では張り切って参りましょー!」

 

第9問

吹雪と猫吊るしは多聞丸とどういう関係だったでしょう?

 

 ちょっと待て。

 え? マジで待って。

 ええ? 何言ったの私達。

 えええ? 関係? 関係あるの?

 ええええ? さっきの問題のレ級みたいに?

 えええええ? 私と? 猫吊るしと? 楠木提督が?

「ちょっと難しい問題ですので、誰か二人が一つずつ合ってれば同じ人が二つともでなくても正解という事に致しましょうか」

 身に覚えが無さ過ぎるんだが? 猫吊るしも訳が分からない様子で目を白黒させている。文月なんて意味不明すぎて回答席に額を付けて冷やし始めた。オーバーヒートしちゃってる。

 私も私で答えの見当がまったくつかない。何言ったら楠木提督が胃の中ひっくり返す事になるんだ? ベイさんは分かってるだろうけど……盗み見ればいつの間にやら彼女の口はバッテンマークしたテープのようなもので塞がれていた。封印されちゃったかぁ。

 しかし関係、関係ねぇ。楠木提督のお願いで私達は召喚された訳で、それで罪悪感を大きく感じてる? それはまあ、ありそうだけど……でも他の人達の時は喜びの方が大きそうだった。たぶん、助けられる人が激増しててそこまで思考が及ばなかったんじゃないだろうか。後々、つまり現在そこに悩んでたりはしそうだけど、援軍が判明したばかりのこの時にはあんまり関係無い気がする。

 なら、そういうのを無理矢理意識させられる事を言われたとか? それこそ恨み辛み…………言うかなぁ? 私と? 猫吊るしが? まあ冗談で言っちゃう可能性は否定しないけど、チート能力自体が変わってるって事無いだろうし、たぶん予知内雪ちゃんノリと勢いだけで戦って特に労せず功績上げてるだけだぞコイツ。今の私と同じで。

 なので別に、酷い事言われたとかそういう事じゃないと思うんだよね。そもそもそれじゃどういう関係かって話にならんし。あかん混乱してる。だっていみわかんないんだもん。

「ねえスーちゃん、これあたし答え出せる?」

 疑問を呈したのは文月だった。解答台に顎を乗せ、じっとりした目で基本ジト目な少女を見つめている。問われた側は数秒間だけ動きを止めた。

「…………勘で頑張ってくださいませ」

「無理なんじゃんっ!!」

 ノリと勢いで問題考えるから……でもそうよね。文月って私と猫吊るしと転生者としては殆ど話をしてない訳で、前世の事とか知らない事が多いはずだし。ネット上に流出してるのとかは除いて。その割には色々把握されてる事に情報化社会への恐怖を感じなくもない。

 しかし、裏を返せばこれ、私と猫吊るしはそれぞれちゃんと考えれば分かるって事だよね? じゃなきゃ流石に出題しないと思うし。ガバガバで到達不可能でしたとか言われない限り。

 んーでも私、本当に楠木提督と関係なんて思いつかないぞ? 楠木提督がこの短時間であの場面までの全部を把握したとかじゃなければ、映像時点の彼……彼女? ともかくこの人が私の細かい情報なんて知らないはずなんだけど……言われた事が余程ショッキングだったのか……?

 分からん。よし、私の事は分からんから猫吊るしの方を考えてみよう。私の方からしか分かんない事とかあるかもしれないし。

 猫吊るしは楠木提督が調整したこの世界だと艤装を持ち込んだ張本人になってるけど、予知の方だとどうだろう。別に最初の妖精さんじゃないらしいから、そこまで極端な立場じゃないんじゃないだろうか。なんか見切れてた島風の艤装整備してたし、下手したら私達個人で動いてそうだったんだよね。っていうか島風普通に居たなあの予知。

 でも今は、島風の事はいいんだ。重要な事じゃない。とにかく、問題文通りなら猫吊るしも楠木提督となにかしら関係があるはず……?

 いや、人間として産まれてくるから予知の時期までに何かあるかもしれない私と違って、猫吊るしってこの時点で現出してどれくらいだ? 私も島風も見た目今と同じくらいだったぞ。たぶん二年も経ってなくね? そんな相手になんか言われて吐くほどショック受けるって何よ。

 実際胃液が撒き散らされた以上、何かしらはあるはずなんだけど、それが存在するべき時期がそこに無い。答えなきゃならないのはどういう関係()()()か…………うん。そうだね。過去形だね。最初からそこに注目しろよって話だね。

 え、これ前世の話? 前世でどういう関係だったか答えろって問題なの?

 そういや一個前のレ級のもそうだったわ。流れで来てるのかこれ。そりゃ文月答えられないわ。そういう話した事ないもん。

 だとしたら、言われたのは前世の名前、とかかな。それならベイさんが気まずそうだった理由も分かるし。期せずして知ってしまったから申し訳なくなっちゃったんだろう。別に隠すものでもないから全く構わないんだけど。

 あ、いや猫吊るしは名前覚えてないから……言ったの私だけ? ああいや、そうか。別に名前である必要もないのか。何らかの前世の情報を口にして、それで誰だか特定できちゃえば同じ事か。

 私達が驚いてたのは……逆に楠木提督の前世の事を聞いたから、かなぁ。たぶん中の人が女性だと気付いてびっくりしたんだと思う。もしくは、それこそ知り合いだったか。

 んんー? でも、私楠木提督みたいな人に心当たりとか無いぞ? いや、まず前世だと女性だったらしいから今の楠木幕僚長のイメージを取り払って考えなきゃいけないんだけど、印象強いから難しいんだよなぁ。深海棲艦襲来から今に至るまでメディア露出もネットでのコラ画像も滅茶苦茶多いからねあの人。

 っていうか、それ以前の問題として、私が前世で関わった女の人ってあんま多くないんだよね。そりゃ最低限の人付き合いくらいはあったんだけど、プライベートにまで影響あった人って言われると男女問わず滅茶苦茶少ない。それこそ家族くらいじゃなかろうか。

 そしてその中に楠木提督みたいな人は居ない。そんなに楠木提督と話とかした訳じゃないけど、狭くて浅い付き合いしかしてない私でも、流石に前世の母とかだったら分かると思うの。記憶も摩耗してないしね。だからそこまで深い関係性じゃあない相手……のはず。

 それでだな、これが大問題なんだが。私、浅い関係の三次元の相手で、かつ姿形が何もかも変わってるとか言われるとだな。もうこれ一切見分けがつかないんだよね。

 え、どうすんのこれ。個人特定されただけで吐かれるとかたぶん相手的にはすごいトラウマレベルの記憶と化してるはずなんだけど、私一切心当たり無いんだけど。

 なんかやったかなぁ、前世で。割と人に迷惑かけないように生きてたつもりなんだけど、今世と違って美少女とかじゃなかったからなぁ。普通にしてるつもりで他人から見たら吐き気を催すほど気持ち悪い存在だったとか、別に有り得なくもないんだよね。だって関わらないから注意もして貰えないんだもの。言ってくれたら改善のしようもあるかもしれないけど、言われないからどうしようもない。我慢するくらいなら言ってくれても良かったのに。言うのも嫌なレベルだったとか?

 ああいや、でも私はともかく、猫吊るしがそんなんなるかな? 工廠の人とかとかなり仲良しだし、前世もそれなりのコミュ力あったと思われるんだよね。問題文にある以上楠木提督がああなったのは私だけが原因じゃないはずだし……ええ? 余計わかんなくなったぞなんだこれ。

 そもそも、猫吊るしの前世の事って大して知らないんだよね。私達はそういう話はあんまりしてないんだ。興味がないとかじゃなくて、そこはお互い趣味が共通してたって情報があれば十分だったから。今目の前に当人居るんだから一度死んだその前の事とか関係ないかなって。少なくとも私はそう思ってた。

 なので……逆に知ってる事から考えてみるのはどうだろう? えーと……元男。これはうーん、これだけだと関係なさそう。前世もオタク……私と合わせられるくらいにはオタク。合わせてくれてるだけ説もあるが。あと……うん。何やってたとか学歴とかそういうの全く知らないなぁ。私も言ってないんだけど。

 後なんか知ってる事? 完全に好意で人類のために働いてくれてる事とか? これは今の話だけども、前世もそういうノリだったんじゃないかとは思う。だってなんでも轢かれそうな子供を……

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

 

 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、それか。

 それだ。

 わかった。

 それならわかる。

 正体知ったら吐くぐらいのトラウマになってる可能性は十分ある。

 あれ? でもそれ私は関係ない……

 いや、違うか。いや違わないけど、私はあくまでその件には関係ないだけか。

 だったら私の場合は……覚えてない。覚えてないけど。確かに聞いた。

 私の消える事のない前世の記憶は正確には転生の直前、魔法使いを自称する少女にダイスを振らされた前後までが範囲に入っている。

 だから、何を言われたかはっきり覚えている。

 つまり……その、だから。この考えが正しいのなら、それをやっちゃったのが……って事だよね。

 そっか。一回じゃなかったから一生懸命な楠木提督が生まれちゃった感じなのか。

 え、でもこれマジ? そんな立場の奴明らかに重要な体に突っ込む?

 ……強迫観念かぁ。正直、これが合ってたとして、私はたぶん理解はできるけど、共感はできない。それが少女も同じだったとしたら……え、まさかと思うけど、これ好意? 好意でこんな事したの……?

 つーか、これまた書き方に困る奴なんですけど! 一個前の問題と対比にしようとして失敗してる奴なんですけど!!

 

 流石に溜息が漏れ出てくる。横を見れば、沈痛な面持ちの猫吊るしと目が合った。ああ、うん。猫吊るしも分かった感じか。お互い頭の痛い話である。レ級やゴトランドさんは私達が理解したと気が付いて、存在しない床を殴ったり存在しない天を仰いだりしていた。文月は不貞腐れてた。

 

 

 

「さて、全員が書き終わったようですので、答え合わせを致しましょうか」

 今までよりもだいぶ神妙に少女は切り出した。いいかげん、私も理解ったよ。私と猫吊るしにこれを教えるのがこのクイズみたいなネタバラしの主目的だったんだろうなって。

「それじゃあまず文月から」

 どん、とは言わずに、少女は文月の答えを表示した。『親戚関係』投げやりっぽいが、範囲広いし現世でも前世でも当てはまりそうな回答である。ちゃんと考えはしたようだ。

「まあ……先祖を遡れば皆親戚ではありますわよね」

「でしょぉ?」

 でもだめですわーと文月は不正解を突き付けられた。まあこれは仕方ない。当たる訳ないもん。それこそそういう能力じゃなきゃ無理だわ。

「それじゃあ本命のお二人……」

 あら、と私達の回答を読んだ少女は意外そうな声を上げた。しげしげとそれを眺めると、満足気に頷いてからではこうしましょうと告げる。

「猫吊るしの回答は吹雪のを、吹雪の回答は猫吊るしのをお見せいたしますわ」

 ぶおんと音を立てて、モニタの画面が遷り変わる。二分割されたそこには二つの文章が掲示されていた。

 

 

 

『事故から庇った猫吊るしと庇われた人』

 

 

 

『患者の吹雪と担当した医療従事者』

 

 

 

 うん。猫吊るしのもどう書いたもんか悩んだろうなって感じの出てる文章である。

 いやそこはどうでも良くて。つまりそういう事なんだよね。

「解説、要ります?」

 要らんわ。

 つまり、私も猫吊るしも、前世の死因に楠木提督が関わってるって事でしょ?

 って思ったら、文月が全然分かってなさそうな顔してたので結局解説タイムは設けられることになったのだった。

 

「前世のある時、持病の診療へと赴いた吹雪は検査のために薬を投与されたのです」

 そう、前世の私の死因は、医療ミスである。転生のあの時、わざわざ最初に死因教えてくれたのはつまり。

「その時にその薬を投与した人物。それが前世の多聞丸なのですわ」

 そういうことですよねー。レ級が滅茶苦茶睨んでるけど少女は意に介してない……という事もなくたまにちらちらそちらを覗いている。

「あれはお姉ちゃんの責任じゃねェぞ……!」

「ええ勿論。法的にも彼女は一切罪に問われませんでしたわ。状況的に、言ってしまえば死刑台のスイッチを知らずに入れただけというのが近いですもの」

 一番問題だったのは、病院側の管理体制であるらしい。ぶっちゃけ、楠木提督がどう確認したところで中身の安全性とか分からない状況だったとかなんとか。

 一から十まで整えられた私の死への階段の方が普段通ってる扉の先に突然出現した、と少女は表現した。SCPか何か?

「そして猫吊るし。貴方の方もどうしようもないですわ」

 猫吊るしの死因は、轢かれそうになった子供を庇った女性をさらに庇って轢かれた。というなんとなくテンプレ転生者みのある事故である。

 でもってこれも、女性――前世の楠木提督には何の落ち度もない。何せ不注意だったのは子供と運転手であって、その人ではなかったらしいのだから。

「あえて言うなら、その時の猫吊るしは位置的に子供が見えていなかったので、あの子が庇わなければ猫吊るしは死ななかったでしょうけれど……」

 それで責任問うってのはまあ違うだろう。ところで、そこに実妹転がってるんですけど、その辺りのデリケートな話して大丈夫? 血が出そうなほど拳握りしめてるけど。

「こうして、二人ほど殺した、と勘違いしたあの子は滅茶苦茶自分を責めた訳ですわね」

 殺した、の所でレ級が一瞬キレた目をしたが、勘違いと言われてすぐ鎮静化された。少女的にも楠木提督に責任とか無いと考えてるらしい。そういやそんな話したってさっき言ってたな。あれ私達の事かよ。

 さて、私の件で思い悩んでいたところに猫吊るしの件が合わさって、楠木提督の中の人は大いに悩み苦しんだ。それこそ食事が喉を通らないくらいだった程らしく、レ級は見てられないくらいだったと溢していた。

 そうしているうちにある日大きな災害が起こり、楠木提督はその生涯を終え少女に回収されたのだという。ちなみに文月と命日が一緒なんだとか。同じ災害で亡くなったのかな?

「つまるところ、多聞丸がストレスで死ぬ、というのは罪悪感に耐えられないからという事なのですわ」

「主に君のせいだよね?」

 なんでその状況の人相手に渦中の二人を重要位置で転生させました!! とかやらかすかなぁ……私が弱かったら使わないって選択肢もあったろうけど、強すぎるんだよ私。使わない選択肢取れる? 取れないよなあ?

 私達を使うと前世で自分が殺したと思い込んでる人間に凄い負担を背負わせるように感じちゃう。使わなければ大量に人が死ぬ。なにその糞みたいな二択。いや私も猫吊るしも嫌がらない以上択にもなってないだろこれ。ほぼ強制だよ。レ級ってば、苛烈かと思ってたけどむしろ穏当な対応してるわこれ。

「糞……なんでバラしやがッた、意味ねェだろ!?」

「あら心外。意味なら有りますわよ」

 でもその前に。と少女は笑う。なにわろとんねん。

 

第10問

これを知った貴方達は、多聞丸の能力改変を望みますか?

 

 クイズ形式ですらなくなった件について。

 アンケートじゃん。ただのアンケートじゃん。

 結果? 言う必要ある?

 

 

 

 

 

「はっきり言いますけれど、別に貴方達が知った所で多聞丸死にませんわよ」

「ええ……」

 そうなの? いやでも苦しみが増すのには変わりないのでは?

「一時的に夜も寝られない程に悩まされる事だけは間違いないですけれどね。なので、攻略戦の最中に教えるのはデメリットしかなかったのは事実です」

 ただ、もう今更関係ねぇよというのが少女の主張だった。成程、結局数日後に迫った戦いまでが問題だったって事なんだろう。え、本当に何があるのその日。

「だったら終わってからでも良かったでしょう? 話す予定だったんだよ、元々」

「話しませんわよ」

 えっ、とゴトランドさんが声を漏らした。丹陽さんは笑っているが、なんとなく、やっぱりなって雰囲気を感じる。どこまで知ってたんだ丹陽さん。

「だってあの子、当事者から許されて苦しむ事から逃げてるだけですもの。なんやかんや理由付けて、死んで逃げ切ると思いますわよ」

 楠木提督の苦しみの根源は、結局私の時も猫吊るしの時も、周囲も法律も被害者の家族でさえも自分を責めてはくれなかった事なのだという。だというのに、今世に至っては私と猫吊るしは間違いなくあっさりと許してしまう事まで予見された。だから、そこから延々逃げてるんだそうな。

「忘れないでくださいませ。あの子は素質こそ持っておりましたけれど、一般人ですのよ、元々」

「テメェが言うなボケ」

 それはほんとそう。その出自でここまでやらされてるの凄い酷いし、その人にやらせてるの君だからね? なんていうか、一応フォロー入れてるんだろうけど何もかも不味すぎてフォローになってないというか。マジ糞過ぎない君?

 大体、言わないだろうってのも自分が辛いからってだけじゃないでしょ。私達が知らない方が心穏やかに過ごせるからってそういう理由絶対入ってるでしょ。話に聞いた感じそういうタイプにしか聞こえないもん。

「言いたくないなら別に言わないでいいんじゃないの?」

「謝罪とか責任とか誰も求めてないしね」

 文月の疑問に私も同意する。これわざわざ苦しめる意味ある? そりゃどこかで決着付けておいた方がいい話ではあるのだろうけど、楠木提督が私や猫吊るしが超許すって事を予知しちゃってるのなら、実際にその事について話し合わなくても同じようなもんって気はする。私達が知らずに笑顔で接してくるのも不味かったりするの? いやたぶん私はあんまり表情無いけども。

 それとも、それだと自分が駄目駄目だと抱え込んじゃうとかだろうか。なら確かに困りものなんだけど……っていうかどう足掻いても苦しむじゃねーかこれ。詰んでない?

 少女は渋い顔になった。どうもそれは彼女的にはよろしくないらしい。これは予測なのですが、と前置きをして自分の考えを口にした。

「多聞丸の予知には、自分自身の心を知られたパターンが組み込まれていないのですわ」

 それは……まあ、そうなのかもしれない。楠木提督と能力被ってなければ知りようがない訳だし。予知って可能性が無きゃできないだろうしね。でも少女がそこまで言うほど言いたくないのだろうか。言いたくないんだろうなあ。

「つまり、あの子、自分がまったく言う気が無いせいで、言った先の未来がどうなるか予知できてないんですわよ! ちゃんと吹雪と猫吊るしと向き合った場合どうなるか分かってないんですのよ、あんな能力持ってるくせに!」

 そんな能力渡したのお前やろがい。なんかぷんぷんしてる風だけど概ね原因君だよ?

 いやでも、そうなるともしかしてこれ、好意で私達にばらしたのか。たぶんだけど。

「君視点、その方が将来的に楠木提督は楽になりそう?」

「そういう事ですわ。短期的に見れば数倍の負荷が心に掛かるかもしれませんけれど」

「それストレスで死なない?」

「結局死んじゃいそうですね!」

「どうやっても寿命縮みそう……」

 正直観覧席の三人が言う通りな気もするのだけれど。まあ、でもたぶん……今回のこの一件。少女の好意からの助言ではあったっぽい。行いが酷すぎてそういう問題じゃない気しかしないのだけれども、一応は。

「でも絶対必要なんですわよ、私多聞丸を今回で解放するつもりございませんし。契約者ではないのであんまり無体はしませんけれどー? 掛けた手間分くらいは楽しませていただきませんとねー」

 これ以上無体なプランとかあるんだ……いやまあ、確かに何も考えないで傍から見た場合、前世でやらかした相手に謝れるようにしてあるように見えなくもないけどさ。配置がいやらし過ぎてわざと苦しめるためにやったようにしか見えないんだわ。やり方悪すぎない?

「成程。今世でちゃんと決着しとかないと来世以降も引き摺る羽目になるのか。なんでわざわざ露悪的な事付け足してんのかは知らんが、普通に楠木提督のためだったんじゃねーか」

 猫吊るしの呆れたようなぼやきに反応したのはレ級である。何かに気付いたようにはっとして飛び起きると、絡まる網を引きちぎりながら尻尾の大砲を怒り任せに撃ち上げた。

「そういう話なのかよッ! ッつーとなんだ!? あの馬鹿、解決せずに背負い続ける気だッたのか!?」

「っぽいんですわよねぇ。無駄ですのに。そんな事してもまた吹雪と猫吊るし同じ世界に放り込むだけですし」

 え、なんか勝手に来世の有無決められるところだったんですけど。怖。

 っていうか、楠木提督はたぶん今世で終わるつもりで抱え込む気だったんだろうから、来世の事は計算に入れてないと思うの。流石に知ってたら話すのでは……いや、なんか聞いてる感じ滅茶苦茶自罰的だからそれでも話さない可能性高そうだなあ。

「まあ、そんな訳ですから、適切な距離感で仲良くしてあげてくださいな。その内馴れると思いますから」

 なんか高度な事を要求された。え、私だよ? そんな事できると思う? だって……私だよ? 大丈夫? 誤って楠木提督死んじゃわない? 平気?

 

 

 

 

 

「ああ、そうだレ級。貴女に言っておかないといけない事がありまして」

 結局楠木提督の取り扱いに対して注意しておくついでに裏設定語りたかっただけらしい少女が、じゃあはいどうぞと現世帰還用のゲートを無造作に作り出し、またお茶もらったりして休憩して、それじゃあもう色々疲れたし帰るか……ってなった頃に、何故だかレ級が呼び止められた。不審気に睨んでくるレ級に、少女は僅かに微笑んだ。

「貴女の契約内容は既に履行されているわけですが、実は、契約前から多聞丸に再会させると決まっていた事について物言いがつきまして……」

「誰からつくんだよンなもん……」

「視聴者から」

 やっぱこの子、私達の事動画かなんかにして誰かに見せてるよな? 適性値一覧に需要あったとか言ってたもんな? うわ恥ずかし……ん? いや、もしかして迫真オールマイトとか不特定多数に見られて……? え? あれ私達のネットだけじゃなくて上位世界のネットかなんかにも映像ばら撒かれてたりとかするの……? え? 馬鹿なの? 私を羞恥で殺したいの? もう帰っていい? あ、いいのか。帰ろ。そして寝よう。寝て忘れよう。いや今寝てるんだったわ。忘れてた。

「それで、契約を無かった事にする気はないんですけれど」

「無いんだ!?」

「ほぼ詐欺だ……」

「最後まで酷いですね!」

「代わりに別のお願い叶えてあげようと思ったんですのよ!!」

 何その絶対返金にだけは応じないソシャゲみたいな。まあ、レ級が損する案件ではないんだろうけども。肝心のレ級はと言えばもう呆れ返ったというか疲れ切った感じの目で溜息を吐いていた。感情が上下に動きまくってたもんね。そうもなろう。

「それこそ多聞丸ちゃんの能力制御可能にでもしといてくれッて話だろ……」

「おっけーですわー」

 は?

 私はつい声に出した。私だけじゃなくてその場の転生者全員が揃って声を出していた。

「……アア? いい……のか?」

 レ級はどうせ拒否されるだろうと思っていたらしい。私もそう思ったわ。だって今日のあれこれ意味無くなっちゃうもん。

「ちょっと元のお願いより面倒ですけれどねー。そこはまあ、サービスで」

「ええ……? じゃあお前、今日のクイズとか、ありゃなんだッたんだよ!?」

 茶番ですわ!! 少女は笑顔でサムズアップした。

 レ級の尻尾に噛みつかれた。

 

「ああ、そうだ吹雪。貴方に謝っておかないといけない事がありまして」

 少女はレ級に齧られながら私に声をかけてきた。それは防がないのか……

「私、何かされたっけ?」

「いえ、貴方というか島風の事なのですけれど……」

 え? 島風? なんで? いやそういやここに来た事あるのか。え、その時何かやった? いや何かはやってたみたいだけど、謝られるような事?

「私、島風に貴方達にも振舞ったケーキをお出ししたんですのよ」

「ああ、うん。美味しかったって言ってた」

 そういやあったなそんな話。実際なんか怪しかったけど美味しかったけれど……問題でもあるのあれ?

「実はあれ、ほんの少量ですけれど私の使っている力が含まれておりますの。本来ご褒美にあげたりする転生者や契約者向けの性能拡張用の物なんですけれど……あの子、完璧に消化しちゃったんですわよね」

 おい何食わせてんだ。いやこの子が何らかの力で製造した以上それが含まれてるのはおかしくないんだけど、性能拡張用ってなんだよ。何を拡張するんだよ。魔力か。魔力なのか。そういやあの後だな、島風が使えるようになったの。

「もしかして島風が加速できるようになったのって……」

「アレの影響の一端ですわね」

 おい。道理で普通より遥かに多いとか言われるわけだよ……っていうか一端?

「それだけじゃないの?」

「はい。まずですね、私の使ってる『力』と貴方達が魔力と呼んでるチート能力の稼働に使ってるそれ、違う力だというのは分かります?」

 ええっ!? っと物凄く麗しい声で叫んだのは文月である。レ級の尻尾にがじがじされてる少女に詰め寄ると、肩を掴んで詰問を始めた。

「それって、まさかだけど、チート能力いくら使っても返済に繋がらないって事じゃないよね!?」

「あ、バレました?」

「はああああああああああああああああああああああああ!?」

 超可愛らしい絶叫が辺りに響き渡る。詐欺みたいどころか完全に詐欺な事やってるぞこの子。

 文月がもぉー! もぉー! と嘆きながら少女の額にでこぴんを連打する。きゃーきゃー言いながら少女もそれを受け入れている。どうやら暴力じゃなくて制裁やツッコミなら防御しないスタイルであるらしい。

「えー、それで、島風の話は?」

「おっと、失礼いたしましたわ。大事なのはそっちですわよね」

「あたしの事ももうちょっと大事にしてよぉ!!」

 文月の指は加速した。それを気にせず少女は私への話を続ける。むしろ手放したくないから話さなかったのでは? 私は訝しんだ。

「島風ってば、私の使ってる『力』、そのまま体に宿しちゃってますのよ。ですから、申し訳ないのですけれど、あの子も亡くなったら教官長と同じく回収させてもらいますわね!!」

 私は無動作で少女の目の前まで移動すると、中指を親指で押さえて、全身全霊を籠める。そしてそこに溜まった力を丸ごと、少女の額へと叩き付けた。

 

 

 




正直長すぎるだろと思っているので凄い反省してます。
ただでさえ遅筆な人間がやるもんじゃないですね。
凄く楽しかったですが。

ちなみにですが、最初の方の多聞丸との問答で少女は本当はもっと優しい言葉をかけてました。
悪役ムーブしようとして途中で力尽きたのが再現映像になります。
まあ内容は変わらないから酷すぎるって事に何の変りもないんですけどね!!
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