転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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ナカガイイナー

 文月が魂から色々絞り出しながら発した絶叫を掻い潜り一旦部屋に帰ったら、なんでかそこにはぐでんぐでんになった初雪がごろんと床に撒き散らされていた。他の皆は文月のチート+特殊装備の総員起こしでお目覚めスッキリ爽快な朝を迎えてるっぽいのに、どうして一人だけ軟体生物のようにふにゃふにゃと転がっているんだ……いや初雪も私達の部屋までは来れてるんだから影響は受けたんだろうけどもね。効果が長続きしなかっただけで。

 こちらに這い寄ってくる初雪を拾い上げ背の低いテーブルの横に座らせると、そのままくたりと崩れ落ち、卓上いっぱいに長い黒髪が広がった。まあ洗ってるしさして汚くはないだろうけどさぁ……もうちょっと遠慮とかなさらない? 毎度の事ながら呆れ返っていると、上の方から何かが私に向かって飛び掛かって来た。それはちょっとくすんだ桃色の髪を翻し、狙い通りに私の背に全体重を乗せて来る。

 下手人の名は漣。姉妹艦の曙に会いに来てそのまま(無理矢理)一緒に寝てた、私達の同期にして適性者達の精神衛生健全化に大いに貢献してると思われる、艦娘コミュニティの管理者である。

 昨晩、曙の改二改装が終わった頃にようやく漣は到着した。自分が直接そこに関われなかったのを心底残念がっていたが、これは仕方がないだろう。文月と違って不老化等のリスクを知った上で封印解除に臨んでいたので、曙は許可申請などが全部済んでしまっていたのだ。

 まあそれ以前に、曙ってばわざと漣の到着前に事を終わらせてたっぽいんだけどね。詳しい話は将来に持ち越しにしたからよく知らないけれど、心境的に色々あるんだろうと思われる。残念がる漣にちょっとだけ自慢げに見せつけてみたりと仲は至極良さそうだったし、悪い意図ではないんじゃないかな。たぶん。

 その後我々の部屋に押しかけてきたので許可待ちの文月も交えつつ就寝まで話したりして、二段ベッドの上から叩き落とすわけにもいかなかった曙と一緒に漣は朝を迎えた訳だ。ヤケクソ気味に行われた総員起こしは時間的にかなり早かったから、さっきまでは二度寝でもしてたのかもしれない。

 そんな漣がなんでか私に襲い掛かって来た。いや攻撃してる訳じゃないんだけど、なんでそんな事してるのかはよく分からない。体重的にはさほど重くない、思ったよりはちゃんと筋肉があるからか初雪よりちょっとあるかなー程度だ。背中からこちらの顔を覗いていたので首を回して目を合わせてみると、漣は私に乗っかったまま、神妙な顔で申し開きを始めた。

「よく考えたらうちらも特型だしぶきぶきに甘えても良いのではないでしょうかと思った次第であります」

「なにそのどっかの悪魔の実みたいなの」

 いや別に甘えるのは構わんけどね。この世界だと吹雪型綾波型暁型の区切りって私達の意識はともかく世間的には微妙で、大枠で特型扱いだったり全員吹雪型扱いだったりで私を長女扱いは普通に可能だし。なので妹として構えと言われれば無しではないのかもしれない。艦娘達は艦これ要素のせいなのか吹雪型と綾波型で別みたいな意識がちょっとあるけれど、まあ私は別に嫌ではないし。でも漣ってしっかりしてる側だから私が何かしてあげられる事とか特に無くないっすかね。

「たかいたかーい」

「おおっ?」

 とりあえず手を回して腰のあたりを軽く掴み、頭上高くまで持ち上げてやる。漣は手足もあたまもぶらんと垂れ下げて、なんだか変な体勢になった。

「からの大回転」

「グワーッ!」

 そのまま水平にぐるぐると回してやると、漣は大げさに叫びをあげた。上の方から曙の呆れた目線を感じる。漣を妹扱いするなら曙も妹になるんだけど、やる?

 

「やー。なんだかんだふぶきんとはお久しぶりなもんですから仲良くしとこうかなーと」

「なにそのどっかの配信者みたいなの」

 床に降ろしてから急にどうしたのかと聞いてみたのだけれど、言われてみればネット上ではともかく直接顔を合わすのは確かにだいぶ久しぶりなんだよね。四国攻めの時は挨拶程度だったし、漣が出向してきた時には私は居なかったし。実際会ったら訓練所と特にノリが変わってなかったので謎の安心感を覚えた。割と曙関連で浮き沈みがあったらしいからちょっと心配だったんだが、その辺りはもう払拭されているらしい。大丈夫だって画面越しに聞いてはいたけれど、本当にもう問題はなさそうだ。

「昨日はぼのたんに構い倒しだったので今朝は他の姉にも行ってみようかなと思った次第でござりまする」

「えっじゃあ初雪にも甘えるの?」

「……良ければ?」

「うぇるかむかもーん」

 漣は一瞬考えたが、初雪的にはOKだったらしい。腕を広げて歓迎の構えである。それじゃあ遠慮なくと漣は飛び込んで行き、そのまま膝に頭を乗せると撫でられだした。割と珍しい風景である。

 片手で漣を撫でながら、初雪は私の事を手招いた。なんだと思えば隣に座るようにジェスチャーされたのでそれに従い腰を下ろすと、かいた胡坐の上に初雪の頭が落ちてきた。漣に膝枕した初雪に私が膝枕をしている構図の完成である。うーんこの。やっぱり甘えられるよりは甘える方が好きだったようだ。

 さてこうなると私も次に繋げた方が良いのだろうかと思えて来る訳なのだが……風香は部屋に入った時から居なかったからたぶん走りに行っちゃってて、文月は改二の云々でまだ工廠なんだよね。なので候補は一人しかいない。私は後ろを振り返り、そこに居た何やってんのこいつらみたいな顔をしている曙と視線を合わせ、隣の床を軽く叩いた。

「やらないわよ」

 まあそう言う気はした。

 

 私達の体勢を元に戻させ普通にテーブルに着かせると、曙はため息混じりに私達を睥睨した。その目からは特型の姉妹艦が変な奴ばっかりで困ってるんですけどどうしたらいいですかねえみたいな感情を読み取れる。

「いやあ、ぼのたんが改二になってちょっと寂しかったもんですからついつい」

「それで私に甘えようとしたの?」

「お姉ちゃん、甘えられるの好きだと思われてるから……」

 誰のせいだろうね不思議だね。いやまあ前世と今世の年齢合計したら年下な皆に甘えるくらいなら甘えさせてる方が落ち着くだろうってのは確かだけどさあ。

「改二目指すならしっかりしてた方が遥かにマシなんじゃないの、初雪の話聞いた限りじゃ」

「どうせ私は艦娘の恥部……お姉ちゃん慰めて……」

 初雪は曙の言葉に涙目になってこちらにもたれかかって来た。でも私は見逃していない。その涙が単に欠伸を噛み殺したから出た物だという事を。なのでちゃんと初雪を元の体勢に戻しておく。そんなーと初雪は鳴いた。

「いやぁほら、あからさまに強いふぶきんぐの好感度稼いでおいたら艦娘の覚えも目出度いかなぁ、とか」

「なにそのどっかの決闘者みたいなの」

 そもそも甘えられて好感度が増えるかと言われると……まあ、正直、何事も無くスルーされてるよりは増えるんじゃないだろうかと思わなくもないけれども、普通に一緒に遊ぶとか、普通にお話しするとか、もっとまともな方法がいっぱいあるだろう。初雪の真似はよろしくない。主に絵面が。

 いやしかし好感度ね。成程? 文月の言ってた通りなら、間違いなく漣はあの話を知っているのだろうから、これはもしかしなくてもそういう事なのだろうか。だとしたら……うーん。

 私と仲良くなると適性値は上がる。らしい。漣の狙いはたぶんそこだ。初雪が重要サンプルだったみたいだから、それに倣おうっていうのは別におかしな話じゃあないだろう。悪意でやってるわけでもなし、可愛い物である。

 でも、適性値だけで許可の有無が変わるって事ないだろうし、普通に心構えとかそういう所の方が重要そうなんだよなあ。長門さんがその典型で、何が気に入られなかったのかは知らないけれど、認められた時はやっぱり心境の変化みたいなのがあったらしいんだよね。

「適性値だけでなれる物じゃないだろうし、集合無意識の漣さんとたくさん話すなりした方がいいんじゃないの」

 何せ私なんてチケットがなかったら今でもなれてたか怪しいからね。覚悟とかなんにも足りてなかったみたいだし、今でもその辺りはあんまり変わってないからなあ。

 私の一般的過ぎるアドバイスに、漣と曙は何故か微妙な表情を返してきた。意外そうというか……ちょっと驚いてる? 初雪もこっちを見つめていた。

「ブリーザ様、ご自分の性質理解していらっしゃる感じですのん……?」

「なにそのどっかの宇宙の帝王みたいなの」

 じゃなくて。うん。うーん。やらかした感じか。そうだよね。私の好感度稼いでるって話だったのに適性値に話が跳んだら知ってるんじゃねってなるよね。いや知ってるのを知られたからってどうなるもんでもないけどさ。

 つーかその反応はもしかせんでも私への情報制限してたな? いや明らかに私に良い影響を与えそうにない情報なんだから当たり前なんだけれども。彼女等視点じゃ完全に確実な話って訳でもなかったろうし。

「ちょっと前に知ったよ」

 創造主から確定情報として貰った。というのは予想だにしないだろうけれども、そもそもよく考えたらこれ普通に想像できる範囲の話なんだよね。私達提督はケッコンカッコカリなんてのもできる訳だから、指輪無しでもできる奴はできるんじゃねって考えが及ぶ人はたぶん少なくない。まあケッコン指輪の効果もまだ実証はされてないんだけども。

「それって、吹雪的にはどうなの? こいつ完全に打算で近づいて来てる事になるんだけど」

「仲良くしたいかなって」

「なにゆえっ!?」

 驚いた声を出したのは漣である。いやなんでって。召集の被害者側が生き残りたいです力貸してくだしあ!! とか頑張って仲間や日本の皆護りたいです!! て言ってきて嫌がる理由どこよ。別に私の適性値age能力はどこぞのYHVHみたいな分け与えるタイプじゃないから損とか無いだろうし、私からの評価にたぶん影響無い……っていうか、動機次第じゃ加点されるまである。

 あと、そもそも私は訓練所時代から今の今まで漣には好感しか持ってないし。それがなんか、適性値上がるみたいだから仲よくしようぜ!! って言ってきたとして、それに対する返答は、マジかよすぐやろうぜ!! にしかならんのよ。

 最初から打算での付き合いだったとしても、結局好きになれるかって他の部分の影響が大きいと思うんだよね。いい人で趣味が合えば好感度なんて普通に上がってくだろうし、わるい人で趣味も合わなければどうやっても上がらないだろうし。関係無くない? むしろお互い意識できる分何も無いよりずっと良いと思うよ。

 さらに言うなら下心隠してきたっていうのも問題にならない。だって隠す理由が私を騙すためじゃないもの。私に言っていいのか分からない、言った場合好きになってもらえるか分からないからって理由で隠してるんだから、むしろ私の事を慮ったが故である。何が悪いのかちょっと分かんないっすね。

 なんてのを簡潔に纏めたらこうなった。

「サザナミマイフレンド」

「しばかれる!?」

 いやビンタとかはしないが……結局これに集約されるんだよなぁ。私と漣はネット上でのものだけとはいえ、ずっと付き合いが続いていたりする。PCコミュは深刻なやりとりとかはあんまりしない、おふざけ全開なところなので一緒に遊んで楽しかった記憶しかないのだ。参加者同士が気を遣い合った結果だと思うので皆いい人なんだと思われる。

 まあつまるところ、誰それだから大丈夫ってのが大いにあるんだよね。他の人なら駄目かもしれないけど漣は大丈夫。あんまり良い事ではないけどね。悟りの道って遠いわ。悟りたいと思った事は特に無いからいつまで経っても遥か彼方のまんまだろうけど。

 私は漣に向かって指を一本伸ばした。漣は一瞬で私の意図に気付くと、自分も指を伸ばしてくる。指と指とがゆっくりと合わさった。私の指は光った。

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 周囲の三人が全員驚きに声を漏らす。そういやあんまり他人に見せた事なかったな。

「無効化貫通の力って圧縮すると光るんだよ」

「しらそん!!」

 言いながらも漣は指を離していない。そういうとこだよ。

 

「まあ実際、適性値上げに関しては私からの好感度より漣からの好感度の方が問題だと思うよ。私、宮里艦隊の皆と漣でどう違うかって言われると困るし」

 あと一緒に居る時間か。たぶんだけど時間と距離も関係ありそうなんだよなあ。例の少女は言ってなかったけど、関係無いなら提提督の指輪は扶桑さんや榛名さんに郵送ででも送られてるだろう。特に後者はきっとめっちゃ上がる。

「あー、やっぱそっちも関係ある感じなんです?」

「タブンネ」

 絶対そう。とは流石に言えないので観察結果でそんな気がしたとだけ言っておく。私の側だけが問題だったら収集部隊の時代からお世話になってる皐月さんとかもっと高いだろうしねえ。

「低い方の値が反映されてる感じだと思うよ」

 そんな話だったと思う。平均でもない辺り扱いが面倒臭い。平均だったら……長門さんがえらい事になってそうな気がするわ。

 曙や漣にとってはその辺りの話は納得のいく物だったようだ。聞いた情報から宮里艦隊や提艦隊、五十嵐艦隊では特定の提督と相互に(友情恋愛家族愛問わず)想い合ってる人ほど適性値が高くなってるんじゃないかと考えていたらしい。

「人間関係考えなきゃいけないのめんどくさそう……」

「まぁ、無理な人付き合いしても意味無さそうだしその辺りはいい感じに?」

 無理そうとか言ってはいけない。ちょっとはマシになるよたぶん。

「あんた半端に付き合うと嫌われそうだしね」

「動画の方が印象いいまである。ちゃんと話すと愉快なんですがねー」

 特型の妹達からの言われようが酷い。いやまあ、自業自得というかコミュ力鍛えてなかった私が悪いんだけど。

「ちなみにこの話拡散するのは?」

「止めといた方がいいんじゃない、証拠とかある訳じゃないし」

「指輪でも批判意見があるのに、そんなとこにすら優劣があるなんて言えないわよ」

 曙は溜息を吐いた。確かに鎮守府ごとの格差が凄い事になってるもんね。勘付いてる人達は普通に居るみたいだけど、知らない人たちにまで言うのは無意味に不満を増やすだけだろうなあ。

「ん、む……? ということは、お姉ちゃん的にはお姉ちゃんは私の事大好き……?」

 突然、初雪が天啓を得たかのようにその瞳を輝かせ始めた。漣も確かにと頷いている。曙は胡乱気だ。

 初雪の適性値がかなり上がっているのは明らかで、私に対して相当な好感度を持っているのもまた明らかだ。その上で、低い方に合わせて適性値が変動するとなると、どちらからの方が高いにせよ、私側もだいぶ矢印が大きいのは間違いないだろう。成程……自分で法則に気付いたって事にするとどう足掻いても好感度高めなの自覚してる事になるのか。

 お姉ちゃーんと初雪は私に覆い被さるように乗り掛かって来た。呼応するように漣もその上から体重を預けようとしてくる。

「お姉ちゃんと両想……うわすごい不服そう」

「見た事ない顔してるわね」

「今日一表情変わってますな。しかし正体見たり照れ隠し」

 照れてねーし。なんかこう凄く納得行かないだけだし。嫌いでも何でもないのは確かだけども、私的好感度ランキング上位に来るレベルとか思わないじゃん。そういうの比較するの苦手だから自覚的にはよく分かんないし。

 しかし、私って普段そんな表情変わってないのだろうか。結構分かり易いっぽいのになあ。傍から見たらかなりとっつき辛い奴なのかもしれない。かもっていうか確定だけど。

「やっぱちゃんと顔突き合わせないと駄目ですなぁ……」

 漣がぼやくように呟いた。前は出向の関係で会えなかったもんね。会えてたら漣はもっと強くなったり改二になってたりしたんだろうか。好感度足りてたかは知らんけどさ。

 

 

 

 

 

 初雪も漣も降りてくれなかったのでめんどくさくなって乗っけたまま朝食へ行ったら食堂に着く頃には上に十人くらい乗っかってて入り口から入れなかったりした。頭上からはぽいっとかオウッとか聞こえてたので大体知り合いの犯行であろう。

 ともかく無事に食事を終えて、作戦会議もちゃんとやって、今日も出撃じゃーと艤装背負って表に出たら、そこには吹雪が居た。司波艦隊の吹雪……つまりは四国で轟沈した私に自分の艤装を貸してくれた彼女である。

 お久しぶりですと寄って来た吹雪と挨拶を交わし、背後の工廠から聞こえる文月の歌声をBGMに所用を片付けている島風を待ちつつ雑談に入る。吹雪は昨日到着していたけれど、荷解きや他への挨拶回りで私とは会えていなかった。いきなり曙に突撃した漣よりまともだった結果だろう。

 鎮守府の様子や戦いの事、いつか吹雪の後輩として私の指導を受けてみたい事なんかを話される。まったく参考にならないと思うから止めといた方がいいと言っておいたが、それでも体験したいらしい。妙な敬意……というか憧れのようなものを感じる。

 同じ吹雪でこれだけの違いがあるのすごくすごいですみたいな言われ方をしてしまったのだが、ここに呼ばれてる以上、吹雪って凄い上澄みなんだよね。今回の作戦、九曽神艦隊の駆逐艦で一番強かった卯月すら来てないくらい選考基準が高いんだよ。あいつの場合性格の問題で弾かれた可能性もあるけど、それを差し引いたって経験の少し浅い二期生から選ばれたってのは尋常じゃない。

 ストレートな尊敬のまなざしはただのチート転生者な私には眩しかったので話を逸らし、以前貰ったお芋や実家の事について聞いてみたが、今回は残念ながら持ってきてはいないらしかった。良かったら送りますよと言ってくれたがそれは悪いので実家の連絡先を教えてもらい、今度通販で買う事にする。とっても美味しかったから楽しみ。

 

 そんな雑多な事を話していると、ふと、背後で流れていた歌声が止んだ。吹雪もそれに気付いたようで、顔にはちょっと残念そうな表情が浮かぶ。そのまま工廠の方へ視線を向けると、浮かんだ疑問を呟いた。

「あれ、文月ちゃんですよね。どうして歌ってんだろう……?」

「あれは改二のテストだと思う」

 私が知っているとは思わなかったのか、吹雪は驚いた様子を見せた。どうやら改二の許可が出た事は昨晩聞いていたようだが、実際の改二がどうなったのかは知らなかったようだ。そりゃそうか、改装は今朝行われたばっかりだもんね。

 自然、話題は改二についてに遷り変わる。昨日は改二ラッシュであった事を知ると、感心した様子で皆さん凄いですねと素直な賞賛の声を上げていた。

 そういえば、吹雪は改二はどうなんだろう。かなり強いっぽいのは状況的にも伝聞的にも間違いないから、適性値も相応にあるのだろうけれど。

「私なんて、まだ集合無意識の艦娘さんに会ってももらえないのに……」

 少し落ち込んだ風に吹雪は俯いた。やっぱそうなのか……吹雪に非のある話じゃないんだけど、それは分からないだろうしなあ。

 現状、集合無意識の吹雪さんは本来そうだったはずの人格が切り離されて人間に転生したため、別の側面――深海吹雪に似た容姿の吹雪さんが主人格として活動を行っている。でも、経緯が無理矢理だったせいか不安定で表に出るのも長時間は厳しいらしい上、見た目がその……とても怪しいんだよね。完全に深海棲艦だから。

 そのため艦の内部に引きこもっていて、その姿を拝んだ事があるのは私しかいないのだ。そんな状態なので、当然他の適性者は艦娘に会えないまま艤装を使っている事になる。うーむ、これだと認めてもらうどころじゃないよなあ。

 吹雪さんは悪い艦娘じゃない。だから、たぶん受け入れる事ができれば普通にアドバイスとかは貰えると思う。でもあの姿の彼女に突然出現されたら混乱で話すどころではなくなるかもしれないし、最悪、艤装に対して不信感が芽生える可能性すらある。

 だからって、目の前の背にのしかかる無力感を必死に堪えているように見える吹雪を放っておくのは、先輩として有り得ないだろう。

「吹雪、一緒に来て」

 どこに、とは言わなくても分かるだろう。担いだ艤装を一旦外し、目の前の地面にゆっくり下ろす。時間的にはまあ、中では加速されるから大丈夫。だといいなあ。吹雪は一瞬驚いていたけれど、すぐに真面目な表情ではいっ! と頷いた。

 

 

 

 集合無意識の中に降り立つと、すぐに吹雪もやって来た。一緒に来れるのは吹雪さ……雪吹艦隊の吹雪とやったから知ってたけど、普通の人間でも大丈夫だったようだ。いやそういえば吹雪も吹雪って入ってるからヒロイン? まあ現状とはなんにも関係ないけれども。

 朝焼けに照らされた駆逐艦吹雪の甲板には、相も変わらず机と冊子が設置されている。まあ有用なものではあるけれど、とりあえず今は用がない。用事があるのはその奥の方に見えている、艦内へと続く扉の方だ。

 私がそちらに向けて歩き出すと、吹雪も後ろを付いてくる。少し不安げな様子だけれど、足取りはしっかりしているから大丈夫だろう。艦娘は本来怯えるような相手じゃないし、仲良くなってくれると嬉しいんだけど。

 扉の前に到達すると、それは少しの音もなくゆっくりと誘うように開いて行った。あっと発された吹雪の可愛らしい叫びがその中に吸い込まれて行く。真っ暗な通路の奥で電灯の光が揺れた。

「行こう」

 一声掛けて私は中へと踏み込んだ。何歩か進み、そこで吹雪が来るのを待つ。吹雪はちょっとだけ尻込みしていたようだけど、待ってる私を見つめながら、おっかなびっくり艦の中へと入って来た。

 実は吹雪だけ締め出されたりしないかという不安が無くもなかったのだけれどそんな事もなく、電灯の導きに従って私達は奥へと進んで行った。おそらくだけど、深海吹雪似さんも艤装を通して私達の話を聞いていたのだろう。やっぱり普通にいい人なんだよなあ。

 ただ、見た目に関してはやっぱり普通の艦娘とは違うから、そこだけは先に言っておいた方が良いだろうか。先入観で判断してほしくはないもんね。

「吹雪」

 私は進む足を止め、数歩後ろを付いてくる吹雪の方を振り返った。急な事にはいっ!? と硬い声を返し、吹雪の脚もその場で止まった。

「艦娘は集合無意識内の軍艦の記憶とか記録、イメージなんかから形作られてるって話は聞いてる?」

「えっ……はい! 訓練所で習った……でもそこまで踏み込まなかったような……?」

 そういや初春さんや猫吊るし情報だから一般には出回ってないか。でもこの辺り、艦娘から聞いてる人は聞いてそうだし続行。

「艦娘の姿は基本的に女の子で、友好的な態度をとる。これは……まあ、海上で暮らす家であり頼もしい仲間である軍艦の、味方から見た優しい姿の擬人化なんだと思うんだ」

 私の言葉に吹雪はたくさんの疑問符が浮かんでそうな表情で答えた。うんまあ、いきなりこんな事言われても困るよなって私も思うわ。

「でも、軍艦って当たり前だけど、他の側面もたくさんあって……例えば敵から見たら、勇壮な姿はむしろ自分達を脅かす恐怖を感じる部分になり得る」

 そして人類の集合無意識である以上、艦娘は日本人以外からの印象も確実に入っている……はず。っていうか、魔法使いの子がどう設定したのかは分からないけど、日本人から見ても怖い恐ろしいって感情が無い訳も無いしね。

「この先できっと吹雪さんに会えると思うけど……その、予想と姿が違ってても、驚かないで向き合って欲しい」

 私の言葉に何か良くないものを感じ取ったのか、吹雪は緊張した様子でごくりと喉を鳴らした。ちょっと脅かすみたいな感じになっちゃったからね仕方ないね。でも、再び私が歩き始めた時には、吹雪はさっきよりもしっかりとした足取りで後を付いて来てくれたのだった。

 

 暫く進み、何度か見た錆の浮いた鉄扉へと私達は辿り着いた。普段通りならこの中に吹雪さんは居るはずである。私はちょっと脇に退き、後ろに続く吹雪に道を譲った。今回用事があるのは私じゃないからね、入るのは自分でやらないとね。

 吹雪は躊躇いなく、でも硬い表情で扉のノブへと手を掛ける。するとガチャリと鍵の開く音がして、吹雪が入室を許可されたのが感じ取れた。もしかして私が開けようとしたら開錠してくれないつもりだったのだろうか。譲っといて良かった。

 そのまま吹雪は重い鉄の扉をゆっくりと開き、慎重な様子で部屋の中へと入って行った。お邪魔しますと声を掛けるのも忘れない。私もそれに続き、閉まって行く扉の隙間をくぐり抜けた。

 果たしてそこには人影があった。ちゃんと人型のシルエットで、薄暗いのもあって外から見れば中学生くらいの少女が佇んでいるようにしか見えなかっただろう。でも中に入ってしっかり目を凝らせば、それはなんか、鎖のような物が中途半端に繋がった首輪をしていて、目が赤くて、髪が白くて、短い角が二本生えていて、肌も真っ白で、左手が黒い何かヒレみたいな形状になってるわけで。

「深海……棲艦……?」

 にしか見えないよねえ。私も初見そうなったし、前提知識がない吹雪にとっては余計に恐怖の対象に映るだろう。あと私と違って殴ればなんとかなるとかそういう事もない訳だしね。

 吹雪は深海吹雪似さんと見つめ合っている。私に助けを求めるでもなくちゃんと相手の事を見ようとしてくれてるのかもしれない。やっぱり勇気があるよね。四国でもそうだったし通って来た通路でもそうだった。能力ありきの私の蛮勇とは全く違う。なんかもういろいろ申し訳ないなあ。そもそも吹雪さんがこんな事になってるのも元をただせば私のチート能力さんのせいな訳だし、全方位に迷惑掛けまくってるな私。本当に申し訳ない。本当は吹雪さんめっちゃ良い人だしなんだかんだこっちの事気にしてくれてるっぽいし相談にはちゃんと乗ってくれるし真面目に考えてくれるしほんと頭上がらないくらいお世話になっちゃって本当にありがとうございます。

 

 ――雪、思考が五月蝿い。

 

 あっごめんなさい。

 

 

 

 ――ようこそ。雪村 伊吹。私は吹雪。駆逐艦吹雪の側面の一つ。

 

「あっ、雪村 伊吹です! よろしくお願いします……っ!」

 はっとしたように吹雪は敬礼をした。顔は強張っていて、様々な疑問が胸中を占めているのが傍から見てもよく分かったが、失礼の無いよう表面的に態度を取り繕う冷静さは欠いていないようだ。うーんこれで中学生なんだから有望株である。

 深海吹雪によく似た吹雪さんは、まず自分の事を話し始めた。深海棲艦ではない事。トラブルが重なってこの姿になっている事。っていうかむしろ深海棲艦の方が真似してるんであって自分の方がオリジナルである事。それでも見た目が見た目だから表に出るのは自重している事。そもそも表に出るのはいろんな意味で苦手な事。そして、ここに招待するのは改二にしてもいいと思った相手だけである事。

「それじゃあ、私に何か問題があって会ってもらえなかった訳じゃなかったんですか……?」

 

 ――ええ。客観的に見て、貴女はよくやっているでしょう。問題も起こしてはいないし……そっちの問題児と違って。

 

 吹雪さん私に辛辣じゃない? って思ったら流し目で睨まれた。うんまあ。起こしまくってますもんね、問題。言われても何も反論できない。私が悪いんだよ。

 

 ――貴女は海の恐ろしさも、戦いの齎す狂気も知っている。その上で、それを超えて行けるだけの強さもある。心も、敵と戦う力も、両方。

 

 吹雪は二期生の中でもかなり強い。司波艦隊ではほぼリーダー扱いで、旗艦も務めていると聞いている。なんというか……誰かが言ってた話だけで見ても中学生レベルの子じゃないんだよね。単純に戦闘能力が高いだけでなく、回りの子を導き奮い立たせられるリーダー気質、もしくは長女気質みたいなものを持っているらしいのだ。

 吹雪さんから見てもそれは正しい評価だったらしい。少しだけれど、吹雪さんが微笑んだように見えた。

 

 ――だから、貴女になら改二の許可を与えてもいい。

 

 おお、と私の口から声が漏れた。吹雪も本当ですかと驚きに目を見開いている。課題的なのも無い辺り、余程気に入られてるのではないだろうか。強さ的にはもっと上に感じる龍田さんですら出されてたのだから、やっぱり精神性とかが比重大きめに見られるっぽいなあ。

 

 ――ただ、今はまだ駄目。貴女の体が耐えられないわ。

 

 oh……まあ、それは仕方がないか。なんか体への影響は適性値以外にも個人差があるっぽいし。改二になり易いなり辛いもあるんだろう。

 吹雪も残念そうな顔になったけれど、それ以外は太鼓判を捺されているんだから後は時間の問題である。どの道、作戦がもう明々後日に迫ってるから見送りになってた可能性が高いだろうしね。

 吹雪さんは体が普通に耐えられる程度になったら自分の方から呼ぶと約束した。吹雪の方も明るい顔でありがとうございますと返している。どうやら吹雪さんの姿形や成り立ちに関しては受け入れる事ができたらしい。良かった。器も大きい。

 

 ――そうね……折角ここまで来たのだし、貴女に少しだけ助言をしておきましょう。

 

 その告知だけで帰すのは勿体なく感じたのだろうか、なんとも有難いお言葉を賜った。自力で条件満たしてるんだから当然だろうけど、吹雪は相当見込まれているようだ。私なんて強制だったからなぁ。

 吹雪さんはスッと人の形をした方の腕を上げ、指を伸ばす。吹雪が釣られてそちらを振り向く。その先に居るのは、私だった。

 

 ――これに憧憬を抱くのは止めなさい。

 

 至極真面目な表情である。

 

 ――雪は確かに力はあるわ。けれど……それは、それ以外の能力を保証するものではない。見えている部分に対して真っ当な評価をするのはともかく、見えない部分に過度な期待をするべきではないの。

 

 それはそう。

 

 ――有体に言うとこの子莫迦よ。物凄い莫迦。善良だけれど思慮が浅すぎる。ちょっと頭の緩い普通の同年代と思って接しなさい。

 

 酷くね?

 

 ――あと、こう言われて別に気を悪くもしていないわ。自覚があるのよ。

 

 まあそうっすね。

 

 ――とにかく、ちゃんと伊吹 雪と関係を結びなさい。虚像の手は掴めないのだから。

 

 そうして吹雪さんの話は締めくくられた。いやうん。まあ……過度な期待されるよりは確かにいいんだけど、言い方どうにかなんなかったですかね。ご迷惑掛けまくってるから仕方ないんだけども。

 ほら、吹雪も頭にすっごいいっぱいクエスチョンマーク浮かべてるよ。いきなり全然関係なさそうなアドバイスされたらそうもなろう。まあ吹雪さんから見たら私の馬鹿さ加減と吹雪の憧れの視線の噛み合わなさがもどかしかったとか、色々あったんだろうけどさあ。

 いやまあ主人公補正をさておいても、提督と仲良くなれば少しは適性値上がって肉体の強化も促進されるみたいだから関係ない話でもないのか。真っ当に仲良くなれるならそれに越した事はないし、私にとっても悪い事じゃあないのかもしれない。過大評価はあんまり良い結果には繋がらないだろうし。

 私の中でチート能力さんがバカに限界はないのだ!! って叫んでいる。え、もしかしてチート能力さんが賢さ補正してくれないのってそういう理由……?

 

 

 

 

 

 とりあえず敬語は止めようって事だけ決めて吹雪と別れ、私は島風と任務に出た。今日の仕事は昨日とは逆方向で同じ事をするだけである。またPT小鬼がいっぱい出たけど、まあ基本はあんまり変化はなく、何事も無いまま私達は帰路に就いた。

 そうして工廠に艤装を預け、お風呂に入り夕飯も食べ、今日は昨日に比べて平和だなあなどと思いつつ部屋へと帰る。するとなんでだか金剛さんに呼び出され、私と風香は談話室の一つへと招き入れられたのだった。

 

 部屋のテーブルでは赤城さんが煎餅を齧り、その横では同じように加賀さんとビスマルクさんも菓子を口にしている。私達と入室した金剛さんに比叡さんがお帰りなさいと抱き着いて、北上さんとローザが仲いいねー。ねー。とそれを笑顔で見守っている。その横では榛名さんが夕立の髪を弄っていて、奥の方では霧島さんが扶桑さんと歓談していた。

「召集前からの知り合いで集まってみたんですヨー」

 13人はどういう集まりなんだっけ? って顔をした私に対して金剛さんはちゃんと説明をしてくれた。成程、確かに知り合いばっかりなんだけど……あれ、加賀さん? 夕立は榛名さんと霧島さんの友達だったらしいけど……見た感じだと赤城さん辺りと旧知の仲だったんだろうか。

「へー。加賀さんも誰かの知り合いだったの?」

 ナイスな事に島風が質問をしてくれた。それに答えたのは件の加賀さん自身である。咀嚼していたチョコレート菓子を飲み込むと、顔だけをこちらに向けて喋り出した。

「私の祖父は志乃……霧島の家と付き合いがあるの」

「その縁で沙希さんとも小さい頃からの付き合いなのよ」

 端的過ぎる加賀さんの言葉を苦笑気味に継いだのは霧島さんだった。ほへぇ、意外な繋がり。まああれだけ大きくて構成員も結構たくさんいるおうち(意味深)だし、外部で深い付き合いな人も居るわな。

「おうっ? あそこの……? 何やってる人なの?」

「演歌歌手よ」

 ああ、うん。なんかこう……割と聞くよね。そういう業界とそういう業界のそういうの。うん。詳しくは聞かんとこ。

 

 私と島風が来たことで予定の人員が全員揃ったらしく、金剛さんは手ずから飲み物を入れると全員に配り、再会にカンパーイと音頭を取り始めた。まあ陶器のコップなのもあって打ち合わせてもあんまり音は響かないんだけどね。

 そうして始まった親睦会はかなり和やかに進んで行った。あまり親しくない人たち同士の自己紹介だとかから始まり、心身の健康状態の話や共通の知り合いの話題、指輪の話、各鎮守府の現状とか改二に関する話、提提督の話や色恋沙汰の話、いつかの生放送の話、ここに来るまでの道中での話、それと提提督の話。提督の話多いな? 面子的にしょうがない所はあるけれども。

 意外だったのは提督の事は知らなかった加賀さんが、私の事は召集前から知っていたらしいという事だろうか。と言っても話した事がある訳でなく、すれ違ったか遠目に見た程度みたいなんだが……霧島さんのお家には何度かお邪魔したからその時かなぁ。あそこでは碌な事してないから変なとこ見られてそうでなんか恥ずかしい。

 人数多かったし振られた時以外は聞く側に回っていたけれど、どうやらみんな元気そうで、大きな怪我なんかも無かったみたいだから安心した。まあ、どの人も引っ張っていく側って言われる強い艦娘だからそれ程心配は要らなかったのかもしれないけど、元々は一般人だからね。

 っていうか平均戦闘力やべぇなこの部屋。戦艦と軽巡と空母と駆逐艦と潜水艦の現最強が揃ってんぞ。それぞれ金剛さん、北上さん、赤城さん、私、ローザ……ろーちゃんである。転生者含めたらどうか分からんけど。あと北上さんは改二が軽巡扱いでいいのか微妙か。ちなみに重巡最強はポーラさんだ。酔っぱらって脱ぎ散らかしたり上からマーライオンしてる印象が強いけどクソ強いらしいと聞く。

 比叡さんや霧島さんは改二に対して大いに興味がある様子で、私達改装済み勢に積極的に話を振って来たけれど、誰もそれについては言えなかった。機密指定されてるのもあるけど、そうでなくとも不老化とか易々と口にできるものではない。金剛さんも急がなくていいと比叡さんを抱きしめてなでなでしていた。比叡さんは堪能してた。

 前に猫吊るしも意外って言ってたけど、そもそも改二については改装ペースが早すぎるくらいらしいから焦っても仕方ないんだよね。今朝吹雪が言われたように体の方が追いついてないケースも多いのだろうし。とはいえ、それで納得がいくかは別問題。ローザなんかは早くなりたいですって言いながら指輪を輝かせていた。無意識煽り。

 指輪に関してはやっぱり欲しそうな人は多く、ローザ辺りはお兄ちゃんも来れば良かったのにとか言っていた。二人以上から貰うの有りなんだろうか? 私に対してもちょうだいちょうだいって纏わり付いて来たけれど、島風にあげたので全部って説明したら納得してた。全員。渡せるなら渡しちゃいたいんだけどねえ。

 

 ところで、金剛さんは友達が多い。これは艦娘との間でもそうなのだけれど、当然ながら艦娘以外を見てもそうなのである。つまり、学校やなんかに居た一般人の友達だね。

 金剛さんは召集以降も当然のようにその人達と連絡を取り合っていて、みんな薄々――というか確信していた事だったろうが、生放送のおかげでその全員に艦娘をやっている事がバレてしまっている。それでも本人は交流中に情報は漏らさないように気を付けていて、実際金剛さんから漏れたっぽいようなリークは見受けられない。でも、その逆は普通にあるようで。

「そういえば、瑠実と鈴果と美羽が艦娘になったらしいヨー」

「ええと……柳田さんと南さんと三川さんですか?」

 誰、と一瞬思ったが名字の方は覚えがある。たぶん全員現二年……つまり同学年の元クラスメートじゃなかっただろうか。担任やってた赤城さんが誰か分かってるし。私とは良くも悪くもあんまり係わりが無くて、仲も良くも悪くもなかった人達だ。

「それは公募の方よね、かなり高収入とは聞くけれど……」

 戦闘には参加しない艦娘は、今日本の各地で志願を受け付けている。ただ、戦闘部隊レベル未満の適性であっても艤装を起動できる人間というのはかなり限られていて、その門はかなり狭いらしいのだ。数百人に一人とか数千人に一人とかって噂になっている。適性検査受けてる人達にとってはもう就けるか分かってるからお知らせが来る来ないの話ではあるんだけどね。

「瑠実と美羽は給糧艦らしいから安心安全デース! だけど、鈴果は駆逐艦だから少し心配ですネー」

 まあ、仕事の説明によると食料を生成する給糧艦は勿論、駆逐艦の人も内陸部での収集のお仕事が基本らしいから危険はそんなにないと思われる。海辺に行かなきゃ深海棲艦はまず出て来ないしね。遭難とかはあるかもしれないけれども。

「私達のクラス、異常に適性者が多いわね……」

「私、雪、比奈叡、志乃、榛名、赤坂先生にその三人で九人?」

「先生も入れるっぽい?」

 そこはまあ……入れていいんじゃなかろうか。名前的にヒロイン的なサムシングの一人なのだろうし。うーん。しかしその三人はどうなんだろう、艦名っぽいのは無さそうだけど……私、というかこの雪ちゃんぼでーの影響を受けてたりするんだろうか。少なくとも嫌いではない相手だから、ちょっとだけ上がって中途半端な適性値になったとか有りそうなんだよなぁ。

「そもそも学校単位で多いんだヨー。私と扶桑もだからネ!」

「私もよ」

 そう言ったのは会話より菓子に集中していた加賀さんである。どうやら卒業生だったらしい。もしや思ったより近所にお住まいでした?

「Wow! じゃあ名取先輩と恭子も入れて14人!?」

 まーた知らん名前が出てきた。あ、いや、先輩の方は知らないけど後者の方は覚えがある……ような?

「恭子ってもしかして藤間さんですか?」

「あ"っ、Y,Yes! その通りデース!」

 ああやっぱそうか。別のクラスだけど同じ部活、つまり陸上部の藤間さんか。同学年で普通に話すくらいの仲はあった人だ。やっぱ影響しちゃってるっぽいかなあ、これ。そうなるともう一人も気になってくる。

「名取先輩というのは……?」

 名取、というからには長良型三番艦の名取だろうか。もしや戦闘部隊? 本名の方の可能性もあるけれど、少なくとも知り合いには居ないから、その場合は私とは無関係かな。

 割と呑気してる私をよそに、金剛さんの方はやらかした感のあるちょっと沈痛な面持ちをしていた。冷や汗のようなものも見え、理由は良く分からないが、何かを間違えてしまったとかそんな様相である。

「そうですよネー。気になるよネー……」

 どうしようかなぁと少しの間だけ考えた金剛さんは、ヨシ! と一声を上げると意を決したように何処かへと電話をかけ始めた。ちょっとのコール待ちの後、手にしたスマホからはどこか聞き覚えのある声が漏れてきた。

『もしもs……』

「先輩ゴメンナサーイ!! 話の勢いでユッキーに言っちゃいましたー!!」

『ふぇ……? あー……いつかは言わなきゃだったから、気にしないで』

「ありがとデース……ユッキーに代わりますネー……」

 えっ、いきなり? 相手の人もえっあっはいってちょっとびっくりしてるけど大丈夫? 風香がなんでか横でオウッと鳴いていた。

 かなり申し訳なさそうな顔をした金剛さんが差し出してきたスマホを受け取って、こんばんはと電波の向こうへ声を掛ける。すると相手の方からもいささか緊張した色の声が返って来た。うーんしっかり聞いてみればこれは、間違いなく知り合いの物。っていうか、そうか。考えてみれば、風香と先生を除けば一番親しかったかもしれない。

「お久しぶりです。部長」

『うん、久しぶり、伊吹さん』

 電話の先に居るのは、間違いなく私達が一年の時に陸上部の部長だった人物。扶桑さんと同学年であり、他県へと進学が決まっていたはずのその人だった。つまり正確には元部長。

「艦娘になってらしたんですね……」

『うん……ごめんね、内緒にしてて』

 横では風香が心配そうにオッオッと声を漏らしている。反応的に知ってたっぽいなぁ。私よりは仲良かったみたいだからそういう事もあろう。

 部長は遠慮のない言い方をしてしまえば、風香に心を折られた側の人間である。まあ、私の出現で折られたプライドとかそういうのがさらに粉微塵に砕かれて吹き飛ばされてた気もするが、本人から私が部に所属する前にはもう殆ど折れてしまっていたと聞いている。

 風香は走る事に関しては天才だ。それは私が陸上部に入る前からはっきりしてて、私が入る直前くらいにはもう県内そこそこレベルだった部員を一年の一月目にして一蹴するという暴挙に及んでいる。私が居なかったら間違いなく学生記録破ってるんだよねこの子。私が居たせいでアレな事になったけど。

 まあ風香に関しちゃゲームの設定どうこうはあるのかもしれないけどそれはとりあえず置いておいて、部長とはそんな間柄であるのであんまり私達に対して強気に来る事は無かった。でもだからと言って卑屈になる訳でもなく、嫌がらせをしてくるなんて事もない……かなり人間的に出来た中学生だったと言える。クリスマス会に誘ってくれたのもこの人だったし、風香や私が部に溶け込めてた……かは微妙だが、許容されてたのはこの人の寄与する部分がけっこうあったように思う。

『本当は、何かで一緒になったら挨拶しようって思ってたのね。でも……私、強くはなくて。訓練所も別だったし……』

 聞けば部長は本当に微妙な能力で、極端に弱い層でもなければエースを張れるほどの実力もない、至極真っ当な成績をした艦娘だったのだという。つまり上からしたら普通に使い易く有難い軽巡だったのではなかろうかと思う。

 そもそも、部長は訓練所に入るまで私や風香が艦娘になっている事を知らなかった。そりゃあ艦娘になった事やなんかは言いふらしていい物じゃないから当たり前な訳で、金剛さんに教えられなければ迫真オールマイト部を見るまで私の事には気付かなかっただろう。先に言っといてもらえて良かった。いや良くはないが。

 そうして訓練所を出て、鎮守府で私の動画に気付きそれを見てしまうと、今度は思えてきたらしいのだ。こんなすごい相手に大した事のない自分が先輩面して連絡取るのは、何かとても恥ずかしい事ではないだろうかと。

 だから配属先でちゃんと訓練して戦果も挙げて、もし大きな作戦に呼ばれるくらいになったら、その時は堂々と私に挨拶をしようと決めたのだそうだ。

 問題だったのは、彼女の配属された先が――最年少超無邪気系潜水艦ろーちゃんと超内気覇気皆無系駆逐艦の山風を二大エースとし、ケモミミ超弱気妖怪提督と書類仕事はともかく現場指揮能力が微妙過ぎる超若輩者系最年少司令官を擁する藤艦隊だった事だ。部長の主な役回りは、周囲のメンタルケアだったという。

 そんな訳で実働はともかく訓練は他にやる気のある人が少なかったためそんなにできず、実戦だけでそんなに力が付くほどの才能もなく、四国の時も今回の作戦も呼ばれる事は無かったのだという。うん。たぶん、楠木提督には滅茶苦茶感謝されてると思う。居ないと戦闘以前の部分で破綻するタイプの功労者だこれ。

『作戦、勝って欲しいけど、無茶はしないようにね。弱い私がいうのもなんだけど……』

「ありがとうございます」

 弱い、かぁ……部長は、名前に艦名が入ってる側ではないんだよね。つまり、完全に野生の艦娘。そしておそらく、なのだが……たぶん、元々は戦闘部隊水準の適性値なんて、持ってなかったんじゃないだろうか。

 私には仲良くなった相手の適性値を上げる力がある。これが凄い能力だっていうのは間違いなく、周囲の仲間を生き残らせるのに今現在も役立っているのも間違いない。でもこれ、万能では全くないんだよね。

 この能力は元々艦娘適性を持たない相手には何の効力も発揮しない。これは母が一番分かり易いだろう。まず間違いなく本心から私を可愛がってくれていて、私も母の事はちゃんと好きだ。でも、艦娘としての適性は召集されてない以上持っていない事になる。持ってたらたぶん、金剛さんか島風並みにヤバい事になっていただろう。

 そしてもう一つの問題が、中途半端に仲良くなってしまった場合の事だ。いや、兵力増強って観点で言えば全く問題ではないのかもしれないけれど、生き残らせるって話になると微妙極まりない事になる。

 まあつまりだ、部長は、私と接点さえなければ微妙な適性値で戦場に立たされることは無かったんじゃないかな。って話だ。いや、そこまで弱くは無さそうだし、全然関係ないかもしれないんだけどさ……可能性はありそうな程度の仲の良さなんだよね……

 そしてこの状態、解決方法は明快で、人によって難易度が変わる。あとたぶん物理的な距離とかでも変わる。ここから電話の向こうに効果が出るのか全く分からないけれど、私が今やれる事はまあ、これ一つしかないだろう。

「あの、部長、私自分の携帯から掛け直しますから、もう少しお話ししませんか?」

 横から風香のオウッと鳴く声が聞こえた。ただ、それは否定的な響きではなく、むしろ満足そうな音だった。電話番号は普通に知ってるんだよね。お互い連絡先は交換し合ってるからさ。

 了承の返事を貰いスマホを金剛さんに返すと、私はみんなに断って談話室を後にした。人の多い所で電話するの気が散って好きじゃないからなんだけど、みんなは快く送り出してくれた。どうやら事情は周知されてたものと思われる。私だけかい知らなかったの。

 そんな訳でこっそり密やかに屋上に飛び移り、電話帳から久しぶり……どころか使った覚えのない部長の番号を呼び出してコールする。まあ、適性値上げたいなんて打算で電話してどうなるものでもないだろうし、向こうからの感情だってどうする事もできない訳ではあるのだけれど、ともかく話はできるだけいっぱいしてみようと思う。

 話題も多い方ではないけれど、今回は有難い事に当てがある。部長の去年から今までの事とかもそうだけど、それ以外にも滅茶苦茶気になっている事があるのだ。いや、ほら、興味あるじゃん。妖怪提督の生態。

 

 

 

 

 

 実はケッコン指輪についてローザと山風に渡すのが一番いいんじゃないかと提案したのが部長だった事が判明した翌日。作戦の決行日を明後日に控えた本日。ついに楠木 多聞丸提督が鎮守府へとやって来た。

 やって来たのだが。

「あれさぁ……」

「猫吊るしもそう思う?」

「あ、やっぱり二人も分かるんだぁ」

 猫吊るしも私も、そして文月も、すぐにその事に気が付いた。

 

 

 

 ――あれ影武者じゃね?

 

 

 

「体の使い方上手すぎるし」

「気を付けてるみたいだけど重心とかやっぱ違うよねえ」

「え、二人ともそんなの分かるのぉ……? あたし声聞かないと分かんないんだけど」

 うん。なんだ。あれ件の雇われてるニンジャじゃないかな。きっと、たぶん、おそらく、めいびー。

 え? 本物どうしたの?

 え? まさか逃げた? 私達に会いたくないから?

 え? いやいや。

 え?

 

 え?

 

 

 




(アメリカの方に顔出してるだけで逃げた訳では)ないです。
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