転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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痛い演習

「ああああああぁぁぁ!!!」

 裂帛の気合と共に敵の懐に踏み込む。拳の間合い。低い体勢から、握りしめた連装砲を拳ごと下から上に思い切り振り抜き、白いにやけ面に接射する。だが、発射音が鳴り響いた瞬間には敵は軽く仰け反り、射撃を回避していた。被ったフードだけが動きに付いてこれず、浅く切り裂かれる。この距離でも当たらないのか! 曙は内心で舌を打った。

「右っぽい!」

 無理な体勢からの発射による硬直を狙い、敵が体の後ろに伸びた尾をぐるりと叩きつけてくる。咄嗟に腕で防ぐも、それはしなやかに曙に巻き付いた。一瞬、締め付けによる痛みで呼吸を詰まらせる間に、曙は空中へと放り投げられた。黒塗りの艦載機が水面から離れた駆逐艦に狙いを定める。

「やらせはせん!」

「そこっぽい!」

 その敵機に初雪の弾が直撃し、投げ上げた隙を突いた複数の砲雷撃が敵船に迫る。爆風で水柱が上がった。

 水面を転がり、せき込みながら起き上がった曙は警戒しながら水柱を睨みつける。息が整う間もなく、海面は静まり返った。敵影は無い。

「居ない……!?」

 何処へ行った、と周囲を見渡すが、辺りに居るのは同様に困惑する同艦隊の駆逐艦ばかりである。誰も彼もが中小の損傷を受け、曙自身も小破ではあるが一撃を喰らっている。大破まで行っている者はいないが、何人かはもう一度攻撃を耐えられるかも怪しい。後方ではソナーとレーダーを備えた夕雲が難しい顔をして索敵していた。

「これは……曙さん! 下よ!」

 夕雲の叫びと同時に、曙の足にびちゃりと冷たいものが絡みついた。ぞわりと総毛立ち、反射的に下を向いた曙が見たのは、自分のソックスに食い込む白い指と、赤く光る双眸だった。

 

 

 

 

 

「ストップ! ストーーーップなのですー!!」

 傍で監督していた電教官から待ったが掛かってしまったので、曙の足を解放する。海中に引きずり込んであげようと思ったのに残念である。水面に立ち上がり、フードを取って水を払うと、だばぁと大量の海水が落ちる。潜水したから当たり前か。

「今沈めようとしましたよね!? 流石に息が出来ないのは無効化能力でもどうにもならないのです! というか駆逐艦の艤装に水中呼吸の機能は付いてないのに潜ったら駄目なのですー!? 妖精さんもぐったりしてるのです!」

 電教官がこちらに駆け寄りながらまくし立ててくる。見れば私の艤装の上では妖精さんたちがぴゅーぴゅーと天に向かって水を吹き出していた。すまぬ。

 

 

 

 実戦演習二日目、現在第三訓練所では私一名vs駆逐艦隊十二名という糞みたいなハンデ戦が執り行われています。

 しかも私は深海棲艦のコスプレ状態で。

 前日に楠木提督に渡された、にやけ面のお面とフード付き外套と白手袋に白タイツ、それに巨大尻尾のレ級なりきり五点セットを装着した状態で。お面とか目が光るギミック付いてやんの。吹雪型の制服を外すわけにはいかないから本家と違って外套になってるんだろうけど、お面はかなり本物に似ているらしい。あの提督茶目っ気あり過ぎだろ……。

 ちなみに尻尾は普通にしても動かないので錨を中に仕込んで手動で動かしている。さっきも武器として使ったが、実は私の発案ではなく暁教官長の戦術だったりする。昨日二回ほどそれでやられたのでパクらせていただいた。水中から飛び出してくる鎖とか初見で完全回避は無理だったのだ、油断してたつもりはないのだけど、完全に不意を突かれた。経験不足と実力差を痛感したね。私よりあの人がチート持ってた方が絶対有効活用できると思うの。

 その暁教官長だが、今現在は早朝に行われたテストで私から百回ほど攻撃を受け艤装が大破、現在艤装入渠中のため陸からの監督をしている。何のテストかって? 私の『最小限の物理無効化能力貫通能力を使った攻撃』を受けた人間が死なないかどうかのテストだよ。艤装と制服にダメージが吸収される謎システムになってるとはいえ、覚悟決まり過ぎだろあの人。物理無効化能力自体は艤装の他の機能が壊れたとしても核が残ってれば最後の最後まで使えるらしいけど、流石に撃ってるこっちが怖かったわ。昨日私の相手ずっとしてたのも、本当に演習に参加させても大丈夫なのか自分の体で確かめてたんだろうなあれ。

 そう、今私は提督の力を使って演習に参加している。というか、私が楠木提督に頼まれた本題がそれなのだ。ごくごく薄ーく貫通能力を使う事で少しだけダメージを与え、戦闘中の痛みを体感させる。一撃喰らっても戦意喪失しないように鍛え上げてくれってな話である。実際一撃目で明らかに動きに精彩を欠くようになった訓練生は多かった。例外だったのは初雪、曙、そして夕立くらいである。特に夕立はやばい、あいつむしろ動き良くなったぞなんなのあの娘ソロモンの悪夢なの。なお島風は当たった瞬間すっころんで吹っ飛んでいって連装砲ちゃんと玉突き事故起こして勝手に戦線離脱していた。

 先制でとりあえず全員に一発ずつ命中させ、反撃も十一人くらいじゃ普通の砲撃だと私なら避け切れるようだったので、一人ずつ仕留めて行こうと思って曙に接近したらむしろ向こうから踏み込んできたのがさっきまでの状況である。結果、水中に沈むのも沈めるのも禁止という事になった。

 

 

 

 仕切りなおして最初から、距離も離されてしまったので索敵からである。と言っても、基本的に私の方が発見が早い。というのもこちらはレーダー以外に偵察機を飛ばせるからである。飛ばしてるの私じゃなくて飛鷹さんだけどな!! 1vs12と言ったが攻撃対象にしていいのが私だけという話であり、正確には自衛隊の飛鷹さんと一緒だったりするのだ。こっちにも貫通能力を付与しているため、私の脳内艦これ編成画面には飛鷹さんが吹雪さんと一緒に登録されていたりする。ちなみに飛鷹さんの攻撃が大丈夫かは雷教官が試した。こっちも中破したので入渠中である。

 さほど離れてはいないので、数分のうちに敵艦隊を捕捉する。既に中破小破まで持って行っているので開幕狙撃は止めて飛鷹さんに艦上戦闘機を向かわせてもらう。私はその間に右に回り込んで強襲を仕掛けさせていただこうと思います。

 

 右手側に大回りして敵の左面を突くように接近していくと、訓練生たちが艦戦を狙い撃っているのが見えた。なので私はしっかりと狙いを付けさせて貰って雷撃を放ち、同時に速度を上げて魚雷に続いて吶喊する。索敵を行っていたのだろう、夕雲さんがはっとこちらを向き仲間に警告を放った。だが、警告された側の反応が遅い。魚雷が炸裂する。

 上がった三つの水柱の合間を抜け、近くの漣にすれ違いざまの一撃を撃ち込む。向こうからも一発飛んできたが、急加速する事で紙一重で回避する。勢いのまま夕雲さんに飛び掛かり接射し、手近な連装砲ちゃんを島風に投げ飛ばす。艦戦の処理を終え一息ついた初雪にも砲撃を喰らわせると、残りの夕立、曙、叢雲、山風、秋雲、連装砲ちゃん二体から一斉に砲弾が飛んでくる。それら全てを躱そうとして、最後の一撃がフードを掠めた。夕立である。マジでなんなのあのぽいぬ。怖いんだけど。

 外れたと見るや叢雲が槍のようなものを構え突進し、それに合わせて夕立と曙も前進してくる。フェンシングのような鋭い踏み込みで放たれた叢雲の刺突を、片手で絡め、抑え込む。ぎょっとした表情の叢雲の腕を取り、背中から水面に叩きつける。跳ねあがった水しぶきの合間から飛んできた砲撃を軽く跳躍して回避し、曙の眼前に着地する。曙は自分から一歩踏み込み、先ほどの再現になった。

 曙のアッパーを上体逸らしで避け、左から尻尾を叩きつける。だが、今回それは曙に当たらなかった。前にさらに飛び込んで私の右脇を抜けて行ったのだ。学習してる。尻尾をぶつける為に回転した私と曙の視線が交錯する。ほぼゼロ距離、曙の発射管から魚雷が打ち出された。自爆でもする気なのかと驚愕しながら、着水前の魚雷を足で優しく蹴り上げる。ソフトタッチされたそれらは爆発することなく上空へ打ち上げられた。愕然とした声を上げ一瞬硬直した曙は、距離を離そうと水面を蹴る。判断が遅い。私は振り上げた踵をそのまま曙に叩きつけた。

 曙が大破した瞬間、真後ろから高速のドロップキックが飛んできた。島風である。どうやら連装砲ちゃんを叩きつけられても行動不能に陥らなかったらしく、とりゃーと怒りに任せてぶっ飛んで来やがったのだ。島風の全速力を乗っけた高速の人間砲弾、だが、しかし、まるで全然! この私を倒すには程遠いんだよねぇ! 私は体を捻り、突っ込んできた島風の足をつかみ取り、勢いを殺さずに、逆にさらに力を込めて島風を飛んできた方向へと一回転して投げ返す。オウッ!? と鳴き声を上げながら島風は水面を何度か跳ね、最後には半泣きの山風に激突し二人とも沈黙した。

 島風を投げ飛ばした隙を逃さず攻撃してくるのが夕立である。完璧に心臓を捉えたそれを、私は思い切り仰け反る事で回避する。空を見上げる体勢になった私が見たものは、砲弾の軌道上に降り注ぐさきほど蹴飛ばした魚雷であった。やべぇ。

 

 爆風が辺りを襲い、近くに倒れていた曙が衝撃で海面を転がる――まぁ曙の魚雷は無効化貫通しないから無傷だろう。その光景を二十メートルほど離れた位置に立ち、私は眺めた。夕立の方にも視線をやるが、流石に狙ってやった事じゃなかったのか、秋雲や別に気を失ったりはしていない他の訓練生と一緒にびっくりした表情でこっちを見ているだけだった。

「ブッキー今の何……?」

 私の横から漣が質問してきた。困惑気味というか、何かむしろ興奮したような感じなのは気のせいだろうか。

「今のは打ち上げた曙の魚雷が夕立の砲弾と当たっちゃっただけだよ」

「いやそっちじゃなくて」

 漣はわざわざ膝を曲げ、後ろに倒れこみブリッジの態勢になると言葉を続けた。

「こうマトリックス避けしてたっしょ、あっちで。なのになんでどうして一秒後には私の横に立ってんだお」

「残像だ」

「瞬歩か響転か飛廉脚でも習得してらっしゃいます?」

 全部オサレの奴じゃねーか。そんな事出来る訳……出来ないよな……?

「単に強化された筋力で横に跳んだだけだよ」

 実際、爆発前にチート筋力を海面に叩きつけて、普通に横にぶっ飛んで爆破範囲外に無事着地しただけである。

「強化量すごいですね」

「それほどでもない」

 何で強化されたのかは言わなかったので、チート能力だとは思わないだろう。艤装にも身体能力強化能力あるし。

「ところで私まだ中破なんすよ」

「知ってた」

 言いながら構えた漣を先に撃ち抜き、その砲音で我に返った夕立と秋雲も撃ち抜いて、倒れただけの連中に止めを刺して、その演習は終了となった。勝利Sだなうん。曙と夕立の攻撃がフードに掠ってるから完全を付けるのは憚られる。

 なお後で聞いた話だが、夕立は私の高速移動に驚いてただけで魚雷は狙って撃ち抜いてたらしい。恐ろしや……

 

 艤装が完全に動かなくなる程酷い状態の人は居なかったので、陸に上がって反省会である。まず航空機に気を取られ過ぎて周囲の警戒がおろそかだった点を注意される。さもありなん、一発の砲撃も出来ずに格闘距離まで近づかれるとか最悪である。

 次に安易に距離を詰め過ぎだと言われた。一人が格闘戦やってたら他の艦娘達は撃てもしない遊兵になっちゃうもんね、普通。その状態で撃ってきてた悪夢みたいなのも居たけど。私も接近戦はあんまりしないように注意された。深海棲艦も一般に砲雷撃や艦戦メインであり、殴り合いはそんなにしてこないものらしい。

 そして予想外の事が起きても戦いの手を止めてはいけないと注意される。確かに実戦で予想外の爆発が起きた程度で回避行動も忘れるようだと死が見えそうだ。私も気を付けないと。

 全体にはその三つが大きな注意点として挙げられ、個別の検討へ移っていく。初雪は一つの事が終わっても油断しないように、叢雲は一撃止められても次に繋げるようになどなど皆それぞれ課題を提示されていく中、とても強く注意されたのが曙だ。

 問題だったのは当然ながら、ゼロ距離雷撃の事である。根本的に私たちに求められているのは、死んでも敵を殺すだなんて事ではない。私たちのやるべき事は、生きて深海棲艦を追い払い続ける事なのだ。こっちの方が圧倒的に数が少ないんだから、痛み分けは負けである。というか、そうでなくとも基本的に艦娘よりも装甲が厚いのか何なのかとにかく耐久力の高い深海棲艦の鬼級姫級に対して、自爆覚悟で相打ち同ダメージってあんまり意味がないらしいし。

 最後に私に対する注意であるが、妖精さんに気を遣ってあげなさいとの事だった。私の艤装から出た妖精さんの中に他の妖精さんから背中をさすられている娘が居たからだろう。お前ら船酔いとかするんだ……

 ちなみに教官達から一番評価が高かったのは夕雲さんである。水中に潜った私も横からの雷撃もしっかりと発見してたし、飛鷹さんの艦戦も最初に見つけたらしい。駆逐艦の訓練生で最年長なのもあってとても頼もしい。

 

 

 

 午前中の演習を終え、修理が必要な艤装を工廠へと運び入れる。午前中に遣り合った十二人の艤装は大破状態なのだが、数時間で全員修理完了するらしい。流石駆逐艦だわ。逆に言えば数時間はかかるので、午後は講義からである。

 昼食のため食堂へ向かう道すがら、山風と目が合った。びくりと山風は一瞬だけ硬直し、目を伏せて走り去って行った。怖がられてるわー……

 でもまぁ、仕方ないだろう。他の十人は志願だったのだが、彼女と初雪だけは教官側からの指示で参加させられていたのだ。志願者のほとんどが成績優秀者だったために、最後の二人も上位の方から選んだ結果だったので他意とかは全くないんだろうけど、望まずに痛めつけられたのはちょっと可哀そうである。午後には全員私に撃ち抜かれる予定であるというのは置いておいて。

 あ、走ってった山風が島風に追いかけられてる。その娘かけっこしてるわけじゃねーから!

 

 

 

 午後の講義の内容は我々の艤装の燃料や食料の生産に使われる資材についてである。

 前に伊良湖さんが軽く触れていた通り、我々の使う燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト等々はそういった名前で呼ばれているだけで元々それらの言葉が指す物体とは全く性質の違う物体である。その正体は霊体の残滓や塵、思念や魂の欠片、集合無意識の断片、瘴気、魔力などなどが混ざり合い溶け合った、人類がこの星に生まれて以降積み重ねられ続けてきた霊的資源であるらしい。

 これらの霊的資源は霊地と呼ばれるような場所や海上の特定の地点などで採集されるのだが、その採取方法は至極簡単で、専用の道具を設置すればフルオートでやってくれるのだそうだ。ただし問題点が三つほどある。一つ目は一度に取れる量はさほど多くなく、同じ場所での採取はある程度期間をおかないと出来ない事。二つ目は一回の採取にそれなりの時間がかかる事。三つ目は採取に必要な専用の道具というのが艤装に装着する特殊装備であるという事。

 つまりこの霊的資源、収集に艦娘が必要なのである。

 

「私たちのような戦闘に適さない艦娘がこの作業――遠征任務を行っていた訳なのです」

「ここに配属になる直前まで私達四人、恐山でドラム缶担いでたのよ」

 やっぱりあるのか、ドラム缶。っていうか恐山て。

「本州にある霊地を回って資源の確保をするのが、今までの遠征班の任務だったのです」

 そうしてかき集めた中から燃料や弾薬、艤装建造のための鋼材なんかもやりくりしていたらしい。ちなみに資源収集が始まる前の一番最初の艤装は霊地で直接建造して、霊脈に燃料タンクと艦娘を突っ込んで稼働出来るだけの燃料が溜まるのを待ったりしてたらしい。

「でもこれからは戦闘を行う艦娘の数が十倍以上になる関係で、どうしても本州内部で採集出来るだけの量じゃ足りなくなってくるの」

「なので、必要になるのが海上の霊脈、もしくは本州以外の島々の霊地での資源収集なのです。ですが現状、海上には青い海であっても深海棲艦が現れるので、今のままでは採集は行えません。そこで皆さんの出番なのです」

「採集や運搬の遠征に燃費の悪い戦艦とかを使うのは効率が悪すぎるでしょ? だからあなた達が遠征部隊に護衛として同行するか、鎮守府次第だけど、あなたたち自身が収集係として遠征任務に出るかになるわ」

 つまり私たちも場合によってはドラム缶を引いて海を渡らなければならない訳だ。この話に対しては戦うのが嫌いな娘たちからは良い反応を得ていたが、逆に戦いたがっている少数は不満気だった。私なんかはちょっと楽しそうだなと思うのだが。

「ただ勘違いしないで欲しいのですが、配属先でどういった役割を与えられるにしても、海の上に出れば戦いになってしまう可能性は高いのです」

 むしろ戦艦や空母が同行できない分、単純な迎撃任務などより危険度が高くなる事も有りうる、と電教官は言う。それでも遠征任務は絶対に必要なのだ。兵站がボロボロだと戦いにすらならないからね仕方ないね。

「それに遠征任務には日本国民の生活も係っていたりするわ」

 雷教官の言葉に訓練生がざわつく。

「あなた達の適性検査に使った注射器、実はあれ、燃料や鋼材にならなかった抽出した残りの部分から作られているのよ!」

 原料などを外国から入手出来ない現状では検査用の道具や諸々の用意も容易ではなかったらしく、全て自衛隊が工面したのだとか。艤装以外にも使えるとか便利だな霊的資源。

「深海棲艦を退けて諸外国と連絡が取れたとしても、少なくとも数年は通商の回復は見込めないのです。それまでの間どうするのか、という事の答えの一つがこれなのです」

 燃料や鋼材はもとより、ガラス製品や食料にまでなるのなら成程、国民生活の助けになりそうである。

「去年の暮れから稼働している新型の発電所も艤装と同じ燃料を使用していたりするので、本当に大切な任務なのですよ」

「艤装の技術を応用して発電機にしたらしいわね」

 よくよく考えれば、艤装も新型発電もほぼ同時期の登場である。関係ない訳がないわな、と思いながら島風を見やると、ほへーと何一つ理解していなさそうな顔で聞いていた。大丈夫か、お前のご両親の仕事の話だぞ今の。

 

 

 

 

 

「それで飛鷹、あなたから見て吹雪はどうだった?」

 昼食を終え、訓練生達が講義を受けている間に暁、響、飛鷹の三人は報告書の作成と今後のための打ち合わせを行っていた。問われた飛鷹は少し考えるようなそぶりを見せると、自分の感想を口に出した。

「何もかもおかしいからどこから突っ込むべきなのか分からないわ」

 うん、と暁が頷き、響も瞑目する。誰もが思った事だが、反省会の時は誰も突っ込まなかった。突っ込めなかったとも言える。

「なんでコスプレしてるのあの娘」

 楠木提督に頼まれたからじゃないかしら、と暁が答える。衣装まで用意してたみたいだからね、と響がそれに補足を入れる。

「あの尻尾、錨が入ってるって本人は言ってたけど、巻きつけて人を放り投げるって器用すぎない?」

 あれって暁が教えたんだよね、と響が確認をする。やっては見せたけど教えてないわよ、と暁がぼやく。

「目視できるギリギリの位置から狙撃してたけど、あれ普通の連装砲よね? なんで連射で命中するのかしら」

 普通に的当てしてる時も外したの見た事ないのよね、と暁がため息をつく。砲撃も雷撃も爆雷なんかも狙った所に飛ばせると言ってたよ、と響も付け加える。

「砲撃の威力もコントロールしてるのか、全員一回じゃ大破しないように撃ってたようだし」

 あれは暁で色々試した結果だよね、と響が言う。楠木提督から大丈夫だって聞いてはいたけど恐ろしい体験だった、と暁は吐き出した。

「複数から同時に撃たれても当たってなかったけれど、あれって見切って避けてたのよね?」

 そうね、と暁は遠い目をした。服に掠ってはいたらしいけどね、と響は苦笑いを滲ませる。

「刺突を止めたり蹴り倒したり投げ飛ばしたりしてたけど、護身術か何か得意なのかしら」

 そういう情報は無いんだけどね、と響は資料をめくる。身体能力任せじゃないかしら、と暁は考察した。

「身体能力と言えば、ジャンプ力もおかしいわよね。助走無しでえーと、縦二メートルくらいは飛んでたような……」

 元々の身体能力がね、と暁が例の新聞記事を指す。それに艤装の身体能力強化が加わった結果があれみたいだね、と響が言葉を継いだ。

「ただ力が強いんじゃなくてそれを制御し切ってるっていうのが恐ろしいわね。魚雷を爆発させずに蹴り飛ばすって」

 感度が高かったりしたら出来ないだろうからやらないように指導するわ、と暁は意気込む。そもそも格闘距離に入るの自体あまり良くないからね、と響も同意する。

「最後に見せた瞬間移動なんだけど、あれって他の娘にも出来ると思う?」

 無理じゃないかな、と響は難しい顔になる。習得出来るなら有用でしょうけどね、と暁も眉を寄せた。

「それでちょっと、確認しておきたいんだけど」

 飛鷹は一度言葉を切った。一筋の汗が頬を伝う。

「あれで全力を出してないって本当?」

 暁は目を逸らし、響は窓から空を見上げた。その反応で、飛鷹は真実を悟った。

 そもそも読ませてもらったレポートから察せられる彼女の正しい運用法は、桁違いの弾速と埒外の威力でもってアウトレンジから一方的に撃ち続け、高い航行速度で追いつかれもしないという身も蓋もない物のはずなのだ。自分から距離を詰めて肉弾戦を挑むような真似をする必要はまるで無い。いやそれをやられたら訓練にならないのだろうけども。

 総括すると。

「あの娘、本物のレ級より強くない……?」

 沈黙が下りる。遠くで鉄を打ち付けるような音がしている。訓練生たちの艤装は現在鋭意修理中だ。

 

「ま、まぁ、強い分にはいいわよね、頼もしいし。噂じゃあれに準ずる娘が十人は居るんでしょ?」

 ああ、と響が引き出しから一枚の紙を取り出し飛鷹に手渡した。

「今回の適性検査で見つかった適性者の上位者……のリストだよ、異常適性者なんて失礼な呼び方をする人も居たみたいだね」

「あら、これって機密じゃないの? 読んじゃっていいのかしら」

「貴女にはこれからも演習を手伝って貰う事になるし、口外しなければ別にいいわよ。教える相手の事は知っておいた方が良いわ」

 そうね、と飛鷹は同意して書類を覗き込み、噴き出した。

 

 

 

 

 

 姓 名      艦種 艦名     適性値

 

 剛田 金奈枝   戦艦 金剛     32515

 剛田 比奈叡   戦艦 比叡     5855

 三山 榛名    戦艦 榛名     15123

 霧島 志乃    戦艦 霧島     8812

 桑谷 扶美    戦艦 扶桑     14444

 赤坂 真城    正規空母 赤城   3898

 上河辺 北斗   軽巡洋艦 北上   10010

 伊吹 雪     駆逐艦 吹雪    530000

 足立 夕海    駆逐艦 夕立    9836

 島 風香     駆逐艦 島風    12883

 提 Rosa      潜水艦 呂500   13341

 

 

 

 以下艤装未開発に付き招集見送り

 

 提 Benedikta  戦艦 Bismarck    1613

 久我山 歩宇良  重巡洋艦 Pola     4594

 

 

 

 

 

「これはひどい」

「酷いわよねぇ」

「自衛隊が100だ200だで一喜一憂してたのを思うとね」

 三人とも嘆息した。

「ただ、これを見る限りやっぱり吹雪は何かおかしいわよね」

「ただ六桁が希少なだけなのか、それとも彼女が特異点の中心なのかは今後の適性検査待ちね……本当におかしいのは吹雪なのかそれともあの地域なのかもはっきりしてないし」

「ああ、今も調査されているんじゃないかな、あの地域は」

 あの地域? と一人だけ詳しい話を知らない飛鷹が疑問符を付ける。基本的に偵察や巡回の任務以外に付いていない彼女はあまり事情に詳しくはない。

「このリストに載っている娘達はね、多くが同じ地域、それもかなり狭い、ほとんどご近所さんって言ってもいいくらいの近距離に暮らしていたのよ」

「少し離れた所に住んでいる娘も居たらしいけどね、代わりに仕事場がその地域にあったり、親戚がその地域に住んでいたりしたらしいんだ」

「……それって」

 飛鷹は息を呑んだ。暁は目を細め、響は歯を噛みしめた。

「可能性の話だしまだ何も分かってないらしいけど、地域か、人か、それとも別のナニカか……もしかしたらそこには、艦娘の適性値を上げるモノが存在しているかもしれない。なんて話よ」

 五月の生温い空気が窓を抜け、廊下へと染み渡る。飛鷹は身震いした。

 

 

 




人生トップレベルにいろいろあり過ぎてだいぶ遅くなりました。
コロナ自粛が懐かしいですわ……まぁ続いても困るんですけど。

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