転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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実はアドリブ力も評価されてたらしい

 私達が影武者ニンジャに気付いた事に気付いた川内さん曰く、あれうちの棟梁。だそうである。ちなみに実父。へー長の一族なんだ……じゃなくて。

 なんでバラしてんですかね川内さん。教えて良い事と悪い事ってあると思うんですよ。これは明らかに良くない事じゃあないですかね。なんて思って聞いてみた所、そもそも川内さんはそれに関して疑ってる人には話してもいいって許可を貰っているらしかった。

 まあ変な疑い持たれるよりはいいのか? いやでも川内さんがそっち系の人なのは……知ってたでしょって? はいまあ。そうですけれども。知ってたの知ってたんですね。え?誘導したらほぼ白状してたし言外にも出てた? あー魔法使いのあの子が言ってた情報抜かれてるってそういう……ニンジャ式読心術みたいなのもありそうだし私じゃ駄々洩れか。なんか文月ですら隠しきれてなかったみたいだし。あ、養子には行かないです。っていうかその場合あの影武者さんの義娘になるんだろうか。

 

 なんて与太話をしてたら秋雲先生に声を掛けられて改二について相談をされたんだが……あの問答で改二になると決めたらしいのはちょっと意外だった。その場じゃ明言してくれなかったからやきもきしたんだけど、その決断が良かったのか悪かったのかのかは正直分からん。

 ちなみに秋雲先生の漫画が載った号は私達の部屋に置いてあるし閲覧自由である。届いたのはごく最近だが、当然文月も読んでいるし島風も読んでたし曙も軽く流し読みくらいはしていた。いわんや初雪や漣をや。である。

 なお秋雲先生の正体が完全にバレてしまったため今後高騰すると思われるのでその前に注文出来て良かったと思います。いやなんか秋雲先生変な人気が出て某艦娘関連スレの瞬間最大風速が偉い事になってたんだよね。凄い性癖持ちのプロの漫画家艦娘でエリート艦隊入りしてるし吹雪と仲良さそうとかキャラ立ちすぎだろって言われてた。性癖に関しては二次元限定だろ流石にって擁護しておいた。割と同意貰えた。

 

 

 

 

 

 朝の作戦会議へと赴くと、そりゃあそうなんだが、影武者さんもしっかりと参加なされていた。ちゃんと指示は受けていると思われるし、本人もその手の事に詳しいのだろう、発言もかなり積極的にされていた。でも、それでいて違和感を抱いた人は殆ど居なそうだった。

 長門さんくらいかな、気付いてたの。旗艦をやっていない今は名目上宮里提督の補佐として居るんだけど、影武者さんには何処か納得の行かなそうな視線を送っていた。義理のらしいけど親子だから分かっちゃう事もあったんだろうなあ。ただそれ以上態度に出てなかったし、特に何かを言う事もなかったのでそういうのが居るのは知ってたか可能性くらいは元々頭にあったのかもしれない。

 

 そんな訳でミーティングは多少の修正が行われつつも問題は起きずに進み、結果、本日の私達の任務はちょっと意味の分からない事になった。そう、修正されたのは主に私率いる第十艦隊だったのである。

 率いるって言っても構成員二人だけじゃん……って思うじゃん? 私もそれだから気楽に旗艦やってるのもあるじゃん? でもさ、なんでか、今回違うんだよなあ……

 

 

 

 

 

 舗装された道路を車で行く。使っているのは四国や九州でも使った例の改造車だ。対向車の居ない道をそこそこの速度で走るそれの、開き切った天井から顔を出し、私は耳を澄ませた。

 聞こえてくるのは声。四方八方から返ってくる一定の波長の音波が、私の耳に周囲の地形や物体、生命の有無を知らせてくれる。その範囲、実に半径5km以上。広いか狭いかで言ったら糞広い。意味分かんないくらい広い。色々視え過ぎて体は大丈夫だけど中の私が混乱しそう。たぶん地球が丸くなかったらもっと視えそうなのが酷い。

 もうチートやチーターやそんなん。まあマジで貰った能力で聴覚滅茶苦茶ブーストしてる訳だから疑いようもなくチートなんだけども。しかも今回三人分だし。実際聞いてる私と、集音のために艤装を稼働させてる猫吊るしと、声の主である文月のね。

 いやあ、凄い豪華だぞこの車内。なんせ現状ようやく二桁行くくらいしか居ない改二の艦娘が三人も乗ってるからね! 私と島風と、あと文月。乗り合わせてる皐月さんは出発前に場違い感が凄いって漏らしてた。

 文月は艤装を稼働させつつ、透き通るような真っ直ぐかつ一定のかなり高いそれでいて美しい声を出し続けている。何が凄いって、その喉から出てる概念的には声であるはずのそれが他の雑音と一切混じり合わない事だ。しかもある程度の厚みなら一部を反射して存在を知らせつつ貫通する。おかげで地面の中とか以外、周囲の物体は完璧に捉えられるのだ。

 そしてそんなとんでもない波長はほぼ息継ぎ無しで出され続けている上、改二の特別な装備だとはいえ拡声器を通しても性質を損なわないのである。知ってるつもりだったけど想像以上に意味が分からない。一つの事に特化したチート能力ってこうなるのか……

 たぶん魔法的な効力でも付与されてるんじゃないかと思われる癌にも効きそうな声を耳から摂取しつつ、私は周囲を観測する。虫やら動物やらは居るけど他には何も無し。平和なもんだ。まあ避難区域の中だから当たり前なんだけどね。

 

 今回の私達の任務は、給糧艦文月改二の特殊な運用のテストである。まあその……私が水中なら五十キロ視通せるのを、文月の特殊装備と組み合わせれば陸上でもできるんじゃね? って話だ。

 うん。影武者さんから意見が出て、実際やったら見事にできちゃったんだよね。楠木提督がやれって指示したんだろうから可能なの分かり切ってたけど、正直やるまで私ですら半信半疑だった。それ専用の声のチューンナップを一瞬で完了させる文月のおかげでチート転生者を見た現地人の感覚が少し理解ったのは収穫だったかもしれない。

 ともかく基地の中ではできたので次は外に出てやってみませうという事になった訳だ。車に乗りながらやれたらかなり汎用性が広がるからね。北海道で陸上の索敵に使えそうなら使うつもりらしい。明後日には北海道攻めするのに急遽そんな事やってていいのかって気はするけど、陸上で遮蔽無視して五キロも視えれば先制攻撃し放題だからね仕方ないね。

 そんな訳で急遽(大淀さん視点)私達は特殊任務に就くことになった訳である。ちなみに大淀さんは楠木提督(影武者)を畏怖と尊敬の入り混じった表情で見ていた。どっからその可能性を見出したのか事情知らなきゃ全く分かんないだろうからなあ。

 今回一緒に働く面子はいつもの私と島風といつも一緒の連装砲ちゃんたちに主役の文月、それと運転手の球磨さん、最後に医療班の皐月さんの五人である。皐月さんは陸上任務だからって最悪を想定して指名された訳だね。

 球磨さんは四国でもご一緒したあの球磨さんである。いつの間にか久曽神艦隊から異動していたらしい。出発前に聞いたけどやっぱり広い北海道で特殊車両の運転手と艦娘を両立できるのを見込まれての事のようだ。

 あと……まああれだな、今回抜擢されてるのを考えても私との相性が悪くないんだろうたぶん。本人的に嬉しいかは分からないがそのうち戦闘部隊入りできるようになるのかもしれない。いや私次第ではあるんだけどさ。

 

 じゃあちょっとその辺りパトロールしてきますかーと念のため燃料なんかも私の艤装にいっぱい積んで出発した我々だが、とりあえず走行程度に動きながらの索敵が可能だというのはかなり早い段階で判明していた。何せ私が数キロ先にある看板の内容を言い当てるものだからそりゃもう疑いようも無いってものだ。鎮守府まで来るのに海を通って来た私達はこの道を見てすらいない訳だからね。

 いやあ凄いんだよ文月音波。どういう訳か表面の凹凸まで分かるから印刷してあるものが分かるんだよね。つまり色こそ分からないものの目視しているのと大差ないくらいその場の状態が理解できちゃうのだ。ちなみにそれを言ったら皐月さんはお前は何を言っているんだって顔になった。その後試してみて百メートルくらいなら自分でもやれる事に気付いて目頭を押さえていた。疲れ目だったのかもしれない。

 そうやって皐月さんの精神力を犠牲にして分かったのだが、文月のこの能力は私以外と組んでもある程度発揮が可能だった。猫吊るし曰く、たぶんソナーが上手な人程遠くまで分かり、苦手な人ほど範囲が狭くなるという。ここに居る面子だと私>島風>>>>>皐月さん>球磨さんと見事に適性値順になっている。私と島風であんまり差がないのはどっちも静止状態だと地平線まで届いちゃってて計測不能だから。縦方向でなら測れるかもしれないけど特になんも無いしなあ……今日快晴だし。ただ島風は動いてると精度が落ちるっぽいので一応私の方がちゃんと聞こえてはいるっぽい。

 残念なのは文月一人でやるのが難しいって事だろう。出し続けながら集中して聴くのは流石に無理があるらしい。まだなれないからねーってきゃわいい声で言ってたので習熟したらできるようになるのかもしれないけども。ただその場合でも文月の探知能力次第で範囲が変わってくるし、素直に得意な人と組ませた方がいいと思われる。どの道最低二人居ないと運用の許可は出ないしね。

 ところで、島風で範囲は十分、皐月さんでも壁越しに建物内部の様子を把握できそうなこの性能だと、どう考えても私って必要無いんだよね。他のソナーが得意な誰かでも普通に行ける訳だから。まあ耳が良いと周知されてる私を指名しないと説得力が無いとかそういうのもあるんだろうけど、それを加味しても私は他の事をやってた方が明らかに効率がいいと思われる。それこそ昨日一昨日の続きでもなんでもさ。

 なので実は、この実験は主目的ではないのだ。というのを地平線付近で組体操してる10体の小鬼群を発見した事で悟る私なのだった。

 

 

 

 ピラミッドの頂点に立っていた(過去形)小鬼が指差して居た地点をよく見てみれば……というか、よく見るまでもなく、そこにはド派手に何かが引き摺られたような跡と、押し倒された草木があった。おそらくは深海棲艦の移動跡。横の道からもっと大きいこっちの道路に上って来たようだ。ただ、周囲にそいつらは見当たらないので通ってから少し時間が経っている物と思われる。

「数は正直まったく分からんが、だいぶデカいのたくさんとそこそこデカいのもっとたくさん、小さいのも大量……いやどっから来たんだこれ?」

「サーチ範囲内には……居ないか。方向的にはこれどこに向かってるんだろ」

「このまま道なりに行くと避難区域を抜けるね」

 目的地は分からないけど、そこから先は普通に人が暮らしている。入られたらすぐにアウトだ。一応本体からは走って逃げられない事もないだろうけど、艦載機で追われたりしたら無理だろう。そもそも砲撃してくるし。つーか五キロ範囲内に居ないって事はもう入ってないかこれ? 避難区域って滅茶苦茶広かったりはしないんだぞ。

 となると、一刻の猶予もないだろう。幸いなのかなんなのか、この隊の旗艦は私だ。正直中学生が判断するような事柄ではないし、無線も繋がる以上本来なら鎮守府側の判断を待つべきなんだろうけど……実は出発前に私達は指示を受けている。もし深海棲艦が見つかるようなら駆除してしまって構わないってね。そしてこれは見つけたの範疇だ。私がそう判断した。

 私と同じく文月の声を頼りに索敵している島風、地面を調べている皐月さん、基地と通信しようとしている球磨さん。その三人を置いて、私は周囲を見回しながら音波を振りまき続けている文月を抱え上げた。

「球磨さんと皐月さんはそのまま鎮守府への連絡をお願いします。島風はその護衛と索敵。文月は声出し続けて」

 文月の腹に負担が掛からないよう、かつ私の片手が自由になるよう脇に抱え込む。むうん給糧艦になったせいで大型化してるのがネック。とはいえ私なので重量的には問題ない。猫吊るしは何をする気か察してしっかりと私の頭に貼り付いた。

「問題があったら無線ください。私が行ってきます」

 返事を待つ暇は無いし、それだけ言い残して地面を蹴る。小鬼が居た以上ある程度の猶予はあると思うけど……それでのんびりしてて誰か亡くなりでもしたら目も当てられない。島風の了解ーという声を背に私は発進した。

 

 文月の声は高速移動中でもしっかりと耳に入って来た。走り出した直後は突然の超スピードに恐怖で引き攣っているにもかかわらず麗しさで声優アワード掻っ攫えそうな声になっていたのだが、そこは流石人生四周目というべきか、すぐに気持ちを立て直して速度に合わせた音波を喉から出す事に成功していた。

 敵を見逃すとまずいから連れて来たけれど、ちゃんと能力を運用できるかは正直賭けだったので凄く助かる。おかげで周囲の事がはっきりと分かった。っていうか高速移動してるのにそれはおかしいし声って概念の何かであって音ではない可能性があるなこれ。

 敵さん等は若干の破壊痕を残しながら道なりに真っ直ぐ進んでいる様子で、逸れた個体は見受けられない。幸いというべきか、統率はしっかりとなされているようだ。普通なら地上で完璧な連携してくるような奴らは最悪なのだけれど、チート転生者からしたら纏まってくれてた方が色々楽だからね。

 周囲は田舎という雰囲気を潜め、そこそこ発展した都市部の様相に変わって来た。通り掛かりに轢き潰されたのであろう電信柱やら崩れた塀やらが目立っている。まだ人間は見当たらないが、これは急がないと不味いだろう。私はさらに足に力を込めた。文月は声以外の部分で驚愕や恐怖を表現した。

 

 そうして時間にしてほんの少し、距離にしたらそこそこ進んだ頃、敵の最後尾を私の聴覚が捉えた。ただそれは、地面を這い回る艦船連中ではない。そいつは空を行く直掩機だった。そりゃ高い所の方が地平線より先に見えるわな。っていうか、それで気付いた。地面走るより高く跳んだ方が索敵範囲広がるじゃんこれ。五キロくらいしか分からないの反射と角度の問題なんだからさ。

 そんな訳で私は上空へと飛び上がり、そのまま放物線を描いて進み飛んでる敵機を踏んづけた。落ちて爆散するそいつ。私はさらに高く跳ぶ。真下には敵の群れが広がっていた。

 前方を行く足付きのイ級やロ級、その上に乗っかるPT小鬼、その後ろには手で歩くト級やヌ級、合間合間に人型のリ級やヲ級、タ級やレ級なんかも混じっている。なんか下級の中には普通の奴よりデカいのが結構居て、避けられないなら耐久力を増そうって装甲を増設しまくったタイプなんじゃないかと思われた。浮けるか怪しいしもしや陸戦用? そんなの有りなのか。

 その他所々に鬼か姫級のようなものもおり、見分けは難しいが左の方に居るのはたぶん護衛独還姫……かなあれ。右の方にはなんか丸い……アンツィオ沖棲姫か? なんかそんなのもいて、全体にかなりのハイペースで前進していた。

 中心に居るのはまるでタコのような姿をした深海棲艦、戦艦未完棲姫。その周囲にはちっちゃいタコじみたマスコットみたいなのが追従している。かわいいかもしれない。そして最後方を固めるのは欧州水姫だ。凛々しい雰囲気だが既に死んでいる。もう撃った。

 しかしなんか見た感じ大小合わせて……五百匹以上居ないかこれ? 道に沿って移動してる上に左右に建物があってそこからはみ出す気が無いのか隊列が間延びしてて分かり辛いんだけど、どうにも四国でかち合った連中よりも数が多く見える。質もあれに比べると段違いだし、とんだ大規模襲撃だ。マジでどっから来たこいつら。ちゃんと海は見張られてるはずなんだけどなあ、どっかに穴があったんだろうか。

 いやーヤバいなこれ。私でもそこそこ駆除に時間かかるぞ。流石に何時間もかかるって訳じゃあないけど、一瞬でけりを付けるのはちょっと無理。勝てるかと言えば勝てるだろうし文月はまあ、悪いけど遠くに放り投げれば安全だろう。殴れば倒せるし結構積んでるから攻撃手段も十分ある。周囲の被害とか考えなきゃ負ける要素は特に無い。

 

 じゃあなんですぐ終わらないのがヤバいのかって言うとだね。もう先頭が一般人にエンゲージしかけてるからだね。

 恐慌状態で叫び声上げながら背中向けて逃げてる人とか腰抜かして倒れてる人とかそれを見てか勇敢に物投げつけようとしてる人とかが居るからだね。

 

 不味い。これ直近の人達だけ助けてどうにかなるか? 敵の通ってる道沿いの建物、その中からはしっかり人の気配がする。さっきまではたまたま誰も居なかっただけでとっくに避難区域は抜けてた訳だ。本当にたまたまかはともかく家から出て来てないから助かってるけど……ぬう、物音気にして顔出されるだけでも危ないぞ。つーかこの異常事態、落ち着いて行動できる人がどれくらい居るんだ?

 敵深海棲艦は何故か二体だけ異常に突出していて、他の奴等とはかなり距離が空いている。一番前に居るのはPT小鬼。たぶん転生者の分体だろう。こいつが先行して自分を見せつけて逃げる時間を捻出してくれてたんだと思うけど……そのすぐ後ろでは追いついたのか付いて来たのか、恐らく重巡棲姫だろう人型がナメクジだかウツボだかよく分からん形状の艤装を振り上げようとしている。奥に見える倒れ込んだ人を叩き潰そうというんだろう。

 その周りではそいつを見た女性が叫びをあげている。そしてその悲鳴が悲鳴を呼んで人を引き寄せちゃっているっぽい。あかん、どうにか避難誘導しないと際限なく増える悪寒がする。つーか思いの外辺りに人通りが多い。特に一つ隣の道路に人が集まり過ぎている。なんだ? 祭りでもやってるのか?

 私が急いで全部倒すにしても数が数だから数分は掛かる。その間全砲門が私だけを狙ったとしても、流れ弾が絶対周囲に飛ぶ。急いで避難するか家の奥でじっとしててくれれば手は出させないしできるだけ誘導して被害は減らすけど、近くに出て来ちゃったりしたら私だけで守護り切れるか? 建物に向かって撃ち込むのは今の所してないけど、そもそも嫌がらせ大好きらしいアイツらが私だけを狙うとかあるのか?

 いや……違うか。私一人じゃあないな。頭上には猫吊るしも居るし、今はもう一人、仲間がここに居るわ。そういう能力は私よりありそうな転生者が、腕の中に!

「文月、民間人多数、なんでもいいから落ち着かせて遠くに誘導できない!?」

「無茶振り!?」

 しょうがないじゃん相談してる暇もないんだから。今現在私は空中、次の足場に到達したら敵軍と一般人の間に跳んでって囮でもなんでも始めなきゃならん。放物線描いて落ちてる今しかシンキングタイムが存在しないのだ。文月が状況把握してるのかだって正直よく分かんないわけで。

 でも、文月の回答はたった一瞬の後だった。

「賭けになるよ!?」

「あるのか!?」

「任せる!!」

 ちゃんと文月は下がどうなっているのか理解できていたし、案もお出しできるらしい。高く跳んだから肉眼で確認できたのだろう。猫吊るしもびっくりだ。判断力もあるし、頼もしいなこの転生者の先輩は!

「じゃあ投げて! 一番高い建物の上!」

 いいのかそれ。って一瞬思ったけれど、それを聞いた時には私の足は敵の飛行機に付いていた。だから聞き返してる暇は全く無く、私は足下にさっきまでより強い力を篭め、文月を高く投げ上げつつ敵機を蹴り、前方に向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこはある程度発展した都市部である。海からはそれほど遠くなく、しかし、深海棲艦が易々と来られる距離でもない。高層ビルが立ち並ぶような事は無いが、中心部へ行けば五階建て程度のそれならそこかしこにある。そんな普通の町だった。

 特徴があるとしたら、避難民たちの暮らす仮設住宅地が複数存在している事と、そこに暮らす、暮らさざるをえない人々と元々の住民の仲が――かなりオブラートに包んで言えば――あまりよろしくない事だろう。大きすぎる生活水準の格差への不満と、急に現れた自分達の生活を脅かしかねない隣人への恐怖。凶悪事件に発展しないだけの分別を互いに持っていたのが幸いだったと言える。

 当然政府が何もしていないなどという事は無く、でき得る限りの支援活動は行われている。少なくとも雨風を凌ぐのに困らないそれなりに衛生的な住居は提供されていたし、最低限の衣服なども支給されていた。しかし、それだけで生きて行ける人間というのは、悲しいかな、それ程多くは無かったのである。

 そんな何かが起きれば一気に治安が悪化しかねないよくある状況の町に、ある日外から大きな一石が投じられた。食糧事情の改善のための特殊な生成食料品の支給。つまりは艦娘の給糧艦によって生産された人工食料が町に降ろされる事になったのだ。

 告知された支給予定の中には驚くべき事に嗜好品の類が含まれていた。多くの人間は訳の分からない製造法で生み出されるそれらの事を内心では疑っていたが、自分のため家族のために入手の機会を逃せるはずもなく。結果、支給当日には朝から大勢の避難民が詰めかけ、配布開始から暫く経った時点でも列が公道にまで長々と伸びている状態であった。

 

 それが人前に現れたのはそんな折である。最初に発見した男は、それが何か被り物をした歩けるようになったばかりの赤ん坊だろうと思い、はて親は何処であろうかと辺りを見回しつつ、息を切らせて車道をふらふらと歩くその子供に近づいて行った。

 その男の不幸は侵略者達の個々の見た目について詳しくなかった事だろう。その姿形は公にされており、分かる人間なら一目で気付けたはずなのである。その子供が、PT小鬼と呼ばれる小型深海棲艦の一種である事に。

 それは無防備に近寄ってくる男を見上げると、にちゃぁと邪悪な笑みを浮かべ、自分の頭に付いた艤装から細長く黒い筒状の物を取り出した。そして上げられた顔が異形のそれであったことに驚き足を止めた男の方へと一歩踏み出し、そのままべちゃりと倒れ伏した。

 転んだ。男がそう判断した次の瞬間。その小鬼の手からこぼれ宙へ放たれた黒い筒が地面へと勢いよく接触し。盛大な爆音を響かせながら表面のアスファルトを消し飛ばした。何とも分からない破片が辺りに降り注ぐ。何が可笑しかったのか、PT小鬼は転げながら笑いだした。

 その急な日常の崩壊に男の脳が機能不全を起こし、下半身への命令系が麻痺したのは致し方の無い事だっただろう。強かに尻を地面に打ち付け、裏返った声で叫びを上げる。何が起きたのか、まともに判断は付かなかった。ただ、ここから一刻も早く逃げ出すべきだという事だけははっきりと理解できた。

 周囲から悲鳴が上がる。それは男の向いていた方向、つまり、小さな深海棲艦のやって来た方向からだった。そこには異形があった。真っ白な女性と、その背に付いた形容し難い一対の胴の太い蛇のようなもの。重巡棲姫と呼ばれる絶望が、道路の中央を練り歩いていた。

 それは足早に男に――否、未だ笑い転げ続けている小さな深海棲艦に近づくと、何をしているのか問い質した。そして元気良く、転ンダ!! と返されると、蔑み切った目で矮小なそいつを睨み、シズンデシマエと吐き捨てる。

 その間中、男は逃げようと地面でもがき続けていた。だが混乱した神経は容易には元に戻らず、ほんの少し遠ざかるのが精々である。騒ぎを聞きつけた人間が事態に気付き、更なる悲鳴が上がる。それが耳に刺さり、重巡棲姫は煩わしそうに辺りを睥睨した。

 そうして初めて、重巡棲姫は地面を這いずる男に気が付いたようだった。蔑んですらいない、ひたすらに冷たい視線が男に向く。それの腰に付いた異形の蛇か魚のようなものが持ち上がり、先端に付いた大口を開きだす。誰かの投げたアスファルトの破片が跳んだが、まったく見向きもされていない。さもありなん。それらにただの物理攻撃など無意味である。

 口腔を見せる大顎。響く悲鳴。大きくなる小鬼の笑い声。男はその時ようやく悟った。自分はきっと、あの生物とも分からぬものに噛み砕かれ、一つ持った命を散らすのだろうと。通り道に生えた雑草を踏み折って行くように、なんの感情も向けられることなく死んで行く事になるのだろうと。

 立つ事ができれば、いや、せめて転がって逃げる事でもできればまた終わり方は違ったのだろうか。凶器が振り下ろされるのを妙にゆっくりと感じる中で、男はぼんやりと考えた。

 男には全てが緩慢に感じられた。そのせいだろうか、目を閉じるという反射すら上手く働いてくれない。まるで悪夢だ。覚めないのならばせめて痛くなければいいと頭のどこかが考える。少しずつ迫ってくる大口とまったく表情のない女性部分。視界の端に、何かが降り立った。金属製の物が潰れる鈍い音。遅れて軽い地を蹴る音。何か、深海棲艦とは別の影が男を覆った。

 

『すまない。ギリギリになってしまった』

 

 辺りに澄んだ声が響き渡った。同時、男に向かって振り下ろされていた異形の顎が、破裂するように砕け散る。

 

『だけどもう大丈夫!』

 

 男にとってもどこか聞き覚えのある声だった。身近な人間の物ではない、しかし、ここ数カ月は何度も耳にする機会のあった声。その主と思われる人影は、振り抜いていた拳を引き戻し、逆の腕で深海棲艦の女性体を打ち抜いた。

 

『何故って?』

 

 金属片を撒き散らしながら吹き飛んで行く女性のような姿をした侵略者。一撃。いや、最初のを含めて二撃か。男の悪夢は、たったそれだけの時間で終わりを告げられた。

 

「私が来た!!」

 

 振り返りながら美しい、そしてそれ以上に頼もしい笑顔を向けてくる。それは画面越しに何度も見た、英雄と呼ばれる少女の姿をしていた。

「立てますか?」

 少女の声が男の体に染み渡る。それは冷えた全身を温め、脳の混乱をも静めて行く。差し伸べられた手を取ると、脚はいつの間にか自然に動くようになっていた。

「ええと……怪我とかは無さそうですね」

 少女――吹雪と呼ばれる艦娘は、男の状態を手早く検分すると、深海棲艦のやって来た方向へと振り向いた。釣られて男がそちらを見れば、そこでは道の奥を埋め尽くすほどの異形の集団が、上空を飛ぶ異形の飛行物体が、その先に居る人間どもを根絶やしにせんと死の行進を行っていた。

『皆さん! どうか落ち着いて避難をお願いします! 今、こちらに深海棲艦の群れが迫っています!』

 その声は周囲数百メートル全てに、建物を貫くようにして通りの向こう側にまでも響き渡った。まるで脳に直接作用するかのような不純物の混じらないそれにより、事態を理解していた者、何かが起きていると気付いてすらいなかった者を問わず、そこにいた全ての人間ははっきりと言われた意味を理解させられる。

 ざわめきが起きた。だが、それだけ。意外な、そして異常なほどに、事実を突き付けられた民衆は落ち着いていた。配給の列に並ぶ人々にも、直接深海棲艦を見てしまった人々にも、恐慌に陥る者は現れなかった。

『屋内に居る人は外に出ないでください! 屋外に居る人は速やかにここから離れてください!』

 吹雪の声だ、と気付く者は多かった。だがそれを確認しに向かうものは殆ど居ない。精々が近くの建物内から一瞬だけ脅威の位置を把握するために覗き見る程度である。命が惜しい、という事を差し引いても正常過ぎる反応だった。

『あわてず、誘導に従って避難をお願いします! 焦らなくて大丈夫! 皆さんは私が護ります!』

 吹雪が押し寄せてくる深海棲艦に銃口を突き付けた。聞き慣れない音がその先から響く。次の瞬間には、空に浮かんでいた全ての航空機が一斉に落下を始めた。

「今のうちに!」

 吹雪が周囲の人間に向かって叫ぶ。はっとして、先ほどまで腰を抜かしていた男は走り出した。だが慌ててはいない。本人も驚く程冷静に、男の思考は避難に対して全力を賭していた。

『こっちでーす!! こっちに避難してくださーい!!』

 突然、脳を犯し意識を染め上げるような表現しえない、無理に当てはめるのであれば可愛らしいと形容されるべき声が辺りを包み込んだ。人々の視線がそちらに吸い寄せられる。いつの間にか、吹雪に劣らない美貌の少女が、背負った艤装と呼ばれる機械からもうもうと黒煙を上げその存在を主張していた。

『こちら宮里艦隊所属! 駆逐艦文月です!! みなさんの避難誘導をさせていただきます!!』

 その声はおかしな程に存在感があった。少女の姿を直接目視できた者は少ない。だというのに、その場に居た全ての人間が、少女の位置を直感的に理解できた。

『落ち着いて、走らなくてだいじょーぶです!! マイクで誘導します! 押さない、駆けない、喋らない、戻らないで、落ち着いて避難してくださーい!!』

 音頭に合わせて人の塊が動き出す。まるでその声に操られるかのように、誰一人駆け出す事もなく。だが全ての人々の頭はむしろ明晰であり、現状すべき事を完全に理解できていた。即ち、落ち着いた避難である。

 混乱はない。狂乱はない。恐怖もない。代わりにその場の全員には、共通した思いがあった。

 

 私達の後ろには吹雪が居る。だから絶対に大丈夫だ。

 

 有り得ない事に、誰一人の怪我人も出すことなく、一切の滞りもなく。人々は死地から生還する事に成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん言った。私言ったわ。

 なんでもいいって言ったわ。

 うん。さっきなんでもいいって言ったよね。私が。

 だからってお前。お前。

 

 人の声でリアルタイムにアテレコするか普通。

 

 いやできるんだろうなって気はしてたよ? 声真似。声チートだし。普通に行けるんだろうなって。

 私もさあ、自分の動画いっぱい見てるから自分の声がどう聞こえるのかとかそれなりによく知ってる訳。だから、出来の良さも分かる訳よ。

 もうね。たぶんあれ誰も私の声だって疑ってないと思う。それくらいの会心の出来。みんな私が突然オールマイト始めたと思ってると思う。でも実際はね?

 遠くまで通るような声の奴、全部文月のなんだよなあ……いや私も合わせられるとこは合わせたけどもさぁ。なんか凄いんだよあれ、自然と体の方が次の台詞予想して動いてくれるの。怖。

 

 文月がやらかした事は至極単純。ビルの上に着地して周囲の状況を把握しながらの、私の動きに合わせて声真似しつつマイク使った大音量での声当て、である。

 何が凄いって、拡声器通してるのに肉声に聞こえる上に響き過ぎてて声の出所が分からなくなってた事よ。目の前に私が居たら私が言ってるようにしか感じられなかったと思う。どういう原理だかはさっぱり分からんのでチート乙案件なんだろうけど、やっぱチートってヤバいわ。直接的な暴力しかできない私より酷い事できそうだもん。

 それで、吹雪からのお知らせが終わったらビルから飛び降りて、文月として避難誘導を開始したわけだね。流石にこの位置からだとよく分からんけど、たくさんの人が移動してる気配は感じるから成功してると思われる。

 ここから導き出される答えは……あの子チート能力どうこうっていうか普通に本人の性能もヤバいな? って事である。判断力も度胸もすげぇよ。二期生駆逐艦主席が伊達じゃない過ぎる。

 賭けって言ってたのもたぶん、自分にできるかとかじゃなくて、私の存在でどれくらい説得力を感じてもらえるか――つまり、この町の人達がどれくらい私の強さを把握してるかが分かんなかったからじゃないかと思う。知らなきゃ女の子がなんか言ってるだけになっちゃうからね。

 私の知名度を有効利用して声の力で心の中に滑り込んで……言い方は良くないけど操って避難誘導した訳だ。おお、怖い怖い。やろうと思ったら私くらい余裕で操れるんじゃないだろうか。私文月の声大好きだし、術中に嵌め放題だと思われる。まあそういう事を好むタイプじゃないだろうけどさ。

 

 いやあしかし、怖いなあ。戦闘後。評判がまた酷い事になるよなあこれ。もう四国の火災の時点で否定し辛くなってたのに、ここにきて今回のこれですよ。

 まあでも映像が出回ったりしなければ噂話程度で済むかもしれない。ニュースになったりはするかもしれんし色々各方面盛大に燃えるだろうけど、私の戦果に関しては都市伝説みたいなとこあるから、伝説的にうやむやになってくれる可能性はなくもないだろう。

 って思うじゃん? 思ったじゃん? でもね。なんかね。私の気付いた範囲だけでも横の方とか後ろの方の建物からカメラが複数覗いてるのよ。しかもその傍に別に誰も居ないの。

 そうだよね。文月の指示が出る前から撮ってたならカメラは切らずに置いといて奥に引っ込むよね。だから注意して止めさせるとかも無理なの。イエーイ詰んでる。わざわざ切りにも行けないしな。そんな事で市民の皆さんを危険に晒せないし。まったく文月め。なんて事をしてくれたのでしょう。

 許さねえぞ……よくも私をここまでネタにしてくれたな。殺してやる……殺してやるぞ戦艦未完棲姫。

 いやだってどう考えても原因あいつらだし。文月は人命優先してくれただけで悪い事何もしてないもん。私の羞恥心は煽りまくってるけど、それは私の問題だしね。じわじわとなぶり殺しにしたりはしないからそこは安心して欲しい。

 そういう訳なので、深海棲艦共には盛大にここで散ってもらう事とする。私のこのどこへやったらいいのか分からない謎の恥ずかしさとか一般人の生活を脅かそうとしたことへの怒りとかそういうのを込めた拳を存分に受け取るがいいや! 貫通弾は人里で撃てないからね!!

 

 え? 本当の原因は視えててこの未来に誘導した楠木提督?

 うん……まあ……それはそうだけど、たぶん人の命に代えられなかったとかそういう理由だし……許しますとも。ええ。

 それにね、よく考えたらこれ微妙に自業自得というか……ゴトランドさんの無断の自称魔法使いとの接触に協力したせいでもあるんだ。だって文月が改二になってなきゃあの拡声器は無かった訳だから。そう考えると私自身も無罪って訳じゃないんだよね。

 まあそれはそれとして制御できるようになったはずの能力でこの未来に誘導したのは楠木提督なんだろうけど、恨んではいないっすよ。本当だよ。嘘だと思うなら心を読んでくれてもいいよ。もし嘘だったら木の下に埋めて貰っても構わないよ。

 

 なんて事を考えつつ迫りくる深海棲艦に私は向かって行った。全滅まで、あと二百と五十秒。

 

 

 




なおクリオネだかメンダコみたいなのはちょっと倒すか迷った模様(ロス一秒)
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