うわあなんだか凄いことになっちゃったぞ。
私の視線の先が黒いもので埋め尽くされて行く。それは明らかに自然の作用で起こっている事ではない。それらには目があり、手があり、そして悪意があった。
ソナーには数える意味がない程に音の反射が届いている。きっと島風や夕雲さんのレーダーにも同じように出ていただろう。その故障を疑う方が正気としか言いようのない表示が。
いやあ、世も末だね、まだ今世紀始まって二十年経ってないはずなんだけど。なんて思いながら、長門さんが読み終わるのを待つ。敵さんはどうも攻撃してくる気配はなく、あまりの異様な光景にこちらの味方も手出しするのを控えている……というか、撃っていいのか分からんのだろうなぁ。明らかに異常事態だし、勝手に状況を進めないだけの判断力を全員持っているって事だ。恐慌状態に陥ったりしないの素直に凄いと思う。
誰ともなく一度陣形を立て直すべきだと判断して、全体が隊を組みなおす。私と島風は組み込まれていないのでそれに加わりはしなかったが、合流して数日の人達も居るのに大したものだと感心する。果たして本人たちの適性ゆえなのか、集合無意識側からの影響なのかは分からないけど、間違いなく強いって事だけはよく分かった。
まあ、それでもどうにもならないのが今の状況なんだけどね。いや、酷い世界だなあ。どの口で全滅まで行かないと思ったとか言ったんだあの魔法使い。人間過大評価しすぎじゃない? この状況でもたぶん内ゲバとかするぜ? いやしなくてもどうしようもなさそうなんだけども。
そんな感想を頭に浮かべている間に、長門さんは渡した封筒の中身……指令書を読み終わった。変色海域化していないため連絡は付くし確認も可能だったが、長門さんはそれをしなかった。しても意味が無いと察していたのだろう。
長門さんが内心憤懣やるかたないのを押し殺そうとして失敗した表情で見つめて来る。勿論それは私に対しての怒りではないだろう。きっと深海棲艦と楠木提督と、それ以上に自分に対して、だろうなあ。真面目な人だし。
「吹雪、これは……」
「最善かと思います。申し訳ないですが」
だろうな、と声にならない声が長門さんからした気がした。わあ、すっごい悪い事してる気分。でもしょうがないのだ。現状これしかしようがない……と言うよりは、こうするために今回の作戦は組まれたのだろうし。
うーむ、しかし見るからに全く納得していない。どうにかならないものかと頭をフル回転させて、それが空回る音まで聞こえてくる気がする。でもどうしようもないんですよ、どうしようもない状態にチート転生者たちが全力で誘導したんだから。
長門さんはそもそも、召集された未成年に戦わせる事を良い事だとは全く思っていない。それでもそれ以外方法が無いって現実を突き付けてくる赤い海の最前線で戦い続け、本来なら死地である場所で宮里艦隊の仲間たちを指揮し続け一人の死者も出さなかった、旗艦の鑑みたいな人である。
そりゃ調整してそういう未来にしたってのはそうなんだろうけど、そもそも起こり得ない可能性はいくら調整したって出て来ない訳で。今を成立させるためにしてきた長門さんの貢献度って下手しなくても私より高いんだよね。私が安穏とクソコラ眺めてる間も戦い続けてた訳だし。
そんな人だから、分かってしまうのだ。私を含めた全員の生存率を最大にする方法が。
そして感情的に全く納得がいかなくても、その手段を取れるのだ。立場的に拒否する事が許されないとかそういうのはあるけれど、そこを言い訳にせずに自分の決断だと背負い込んだ上で。
うーん。私が言える事、無いなぁ。いや、言いたい事は無くもないんだけど、それで負担が軽くなる事は無いので意味が無いというか。謝るのも良くなかったなぁ。むしろ罪悪感あるわ、私が長門さん側だったら。この場合むしろ、言うべき事はこっちだったわ。
「任せてください」
できるだけ自信満々に。堂々と無い胸を張り、不敵な笑みを浮かべて。いやあんま浮かんでないなこれ……表情筋ちゃんしっかり仕事して。
ともかく、伝えるべき事は伝えた。私は絶対大丈夫だし、それは何一つ嘘偽りのないただの事実である。そんな自信満々な態度のつもりの私を見て、長門さんは少しだけ呆れたような、笑ったような溜息を洩らした。その調子で肩の力を抜いて欲しい、どうしようもない事で胃に穴とか開けてほしくないからね。
長門さんは一度だけ深呼吸すると急ぎ通信機を起動した。敵が迫って来てるのもあり、本来一刻の猶予もない。言うべき事を簡潔に纏め、素の声でも連合第一艦隊全員に行き渡るような声量で、指示を待つ皆に命令を下した。
『作戦終了!! 現時刻を以って、北海道上陸作戦を終了する! 連合第一艦隊は只今より鎮守府へ帰還、補給と艤装の整備を行う!!』
一瞬だけ静まり返った空気が、ざわりざわりと動揺の声に変わった。人によってはかなり離れた位置に居るのだけれど、ちゃんと聞こえちゃうのが雪ちゃんクオリティだ。文月の声はしなかったので普通に察していたのだろうと思われる。
「ちょえ、マジっすか長門さん、あれどーすんですか!?」
慌てた様子でどんどん増えていく黒い黒い深海棲艦の群れを指差したのは深雪だ。隊列的には長門さんにかなり近く、通信機は使ってないけど普通に会話もできる程度。お前本来その位置なのにあんな端の方に居たのか……
でもまあ、質問はもっともである。あれほっといたら北海道どころか本州も全滅ルートだもんね。見えるだけでもう一万……いや十万くらいは居そうだし。なので私は一つ咳払いし、自分の通信機をONにして、深雪に見えるよう軽く手を振った。
『第十艦隊、吹雪です。北海道上陸作戦終了後の、次の作戦の指揮官を拝命しました』
はぁ? と深雪……だけじゃなくて複数人からそんな感じの声が聞こえた。いや、正直私もどうかと思うのだが、これマジで指令書にそう書かれてるんだよね。酷くない? ちなみに次の作戦名は特に決まっていない。次の作戦、って書いてあった。後で名付けると思われる。
先ほどとは違う質のざわつきがする。小隊レベルならともかく、作戦全体の指揮官ともなると私がやるのは変だからね、仕方ないね。
『この作戦については、参加者や現場指揮、その他諸々全て、私に一任されています。これから参加者を発表致しますので、それ以外の艦娘は全員、一度鎮守府へ帰投、その後司令室の指示を仰ぐようにお願いします』
しん、と今度は逆に静まり返った。深海棲艦の嗤い声が近づいてくるのが分かる。楽しそうだなあ、こっちはちょっと胃が痛いよ。気分だけだけど。
『今作戦の参加者は、宮里艦隊、駆逐艦吹雪――以上です』
もう誰が指揮を執るか言った時点で大体みんな察してたっぽいけれど、次の作戦、参加者は私一人である。猫吊るしは乗せるけど、島風すら参加はしない。だってそれしかないもん、今の状況。
長門さんからぎりりと何かが締まる音が聞こえた。心情的にまったく許せる話ではないだろうからなあ。それでいてこれが一番有効で、他の手段なんて存在しないって、一番よく分かっちゃうんだろうけど。お労しや長門上。
艦娘は原則、一人での出撃は許されない。でも、これ実は、絶対ではない。
というのもだ、最悪の……たとえば艦隊はほぼ壊滅、情報だけでも持ち帰らなければいけないような状況で、残ったのが二人だけ。そんな時、敵の航空機に追いすがられて撃ち落とすのも絶望的……ってなった場合、一緒に逃げて二人とも死んでちゃ仕方がないからである。本当に、どうしても、一人で行かなきゃいけない場合に限っては、単艦運用も許される場合があるのだ。
そして今回のこれはそれに当たる。つまり、実態はアレだが、私の扱いは今回、撤退のための殿みたいなもんである。実態はアレだが。
マジかよ……と深雪が愕然として呟いた。すまないマジなんだ。考えた事が無かった訳じゃなかったろうけど、本当にそんな状況になるとは思ってなかったろうね。ごめんねーと視線で伝えてみたら、意外とちゃんと伝わったらしく、目線を周囲へと彷徨わせ、そうして私の後ろにいた島風を見つけたようだった。
「いや、っていうか、島風は!? 吹雪一人で戦う訳じゃないよな……?」
最後の方は少し尻すぼみになっていた。言いながら答えに気付いたのだろう。私より、別段普段通りな島風の顔を見ているのが印象的だった。
「深雪」
島風は私の横を通り抜けながら、納得が行かなそうな深雪の傍へと、珍しくゆっくり滑って行った。
「吹雪は今まで、海だと一回も本気で戦ってないよ?」
まぁ確かに、陸地の方が力いっぱいやってたのは否定できない。海の方が普通に武装使えたり障害物無かったりしたからなぁ。巨大鯨ぶっ潰した時は割と本気度高かったと思うけど、あれも足は地っていうか敵の艤装に着いてたし。
深雪は次の言葉が継げなかった。納得してしまったのだ。私や長門さんを見て、今まで多少は深雪に残っていた気勢がしぼんで行く。
『てすてすー。聞こえる?』
北上さまだよーと通信機越しに少し間延びした声が聞こえてきた。はいと返事をすれば、ぶっちゃけーさと困った様な言葉を向けてくる。
『あれ勝てんの?』
『勝てますよー』
撤退作戦とかじゃないんだーと諦観の声がする。それは山雲のものだったが、北上さんも同感だったのかうわはーと笑い声の様なものを寄越してきた。実は殲滅作戦なんだよなぁ。
『ユッキー! 最後までとは言わないヨー! でも最初くらいは……』
『駄目だよ金剛さん』
北上さんの次は金剛さんだ。焦れたような、我慢しきれなかったような声色。友人が一人で戦うと聞いて黙ってられる人じゃあないから仕方ないんだけど、今はちょっと困る。なので断ろうと口を開いたら、私が何か言う前に、初雪の声が割り込んだ。
『金剛さんの射程に敵艦が入る前に敵機の射程に私達が入っちゃう。対空に注力したところで数が多すぎる。一当てして逃げるのすら成功する公算が無い。低いじゃなくて、無い。駄目だよ』
誰だお前。いや初雪なんだけど。声は思いっきり初雪なんだけど。え、お前戦場だとそういう感じなんだ? 割とシャキッとしてるっていうか、こう……マジで頼れる年上枠だったんだ? あれか、金剛さんの横についてブレーキ役とか参謀役とかしてた感じ? セット運用されてたのそういう理由か……
ぬぐぐと金剛さんの方から変な声が漏れ聞こえる。言われなくても本当は分かっていたのだろうけど、それでも心配でたまらなかったのだろう。実際負ける要素無いんだけど、まともに一緒の作戦に参加してないから私の戦力わかんないよねそりゃ。
『しかし、あの数に一斉に撃たれたら逃げ場が無いように思うが……いや、アウトレンジで戦えばいいのか?』
それだと弾薬が……と本気で疑問そうな質問をくれたのは宮里艦隊の那智さんである。私が勝てないと思っているのではなく、ただただ純粋に疑問のようだ。まあ弾薬足りるならそれでもいいんですよね。今回の場合、多過ぎて絶対足りないけど。
『私の場合、敵の弾を弾いて他の弾にぶつけてそれをさらに他の弾にぶつけられるので、それを繰り返せば抜ける穴くらいいくらでも作れますよ』
『全く意味の分からん事正気の声色で言うの止めてもらっていい?』
関西弁のイントネーションでツッコミを入れてくれたのは龍驤さんだ。悪意のある調子ではないし、内容は信じた上で完全に意味不明だったので抑えきれなかったと思われる。
んー。全体的には宮里艦隊のみんなと同期の駆逐艦のみんなは半信半疑くらいとはいえ私が戦える――勝ち切れるかは別――と思ってて、それ以外はかなり疑ってる感じかな。まあ、それも当然か。一緒に出撃してないもんね。具体的にどれくらい強いか、話に聞いただけじゃ実感できるはずもないか。
みんな文月くらいちゃっちゃと意識を切り替えてさっさと帰ってくれた方が有難いんだけどなぁ。文月あいつ、同じ転生者でチートの事も知ってるもんだから私の実力を疑う余地も無く、年も下だから私に頼る事に恥を感じる必要すらないっていうある意味一番楽な立場なんだよね。おかげで今もがんばれと簡潔な、でも本当に心から全幅の信頼を置いていると分かり魂が奮い立ち気力も充足するような肉声を私と猫吊るしだけに聞こえるようにお届けしてくれている。がんばる。
『吹雪、はっきり言いなさい』
命令に従い、皆帰投しなければならない。でも私一人を残してくのには後ろ髪を引かれまくる。だけど急がないと不味いので長門さんがもう一度号令を掛けようとしていたそんな折。まだ何か言おうとしていた人達に先んじて声を掛けてきたのは、すぐ傍にいた叢雲だった。普通に話せば聞こえる距離に居るくせに、わざわざ通信機を使って全員に聞こえるように話している。
『私達全員が納得できる理由。あるなら濁さずに言いなさい。私達が命令に従って動いてるのは、納得できるだけの説明があったからよ』
前提として、召集された艦娘は兵隊ではない。強制はされてるが訓練はあんまりされてないので、命令だからやれ、は不満が溜まる一方になり良い事が何にもなかったりする。まあ宮里艦隊は割とそうでもないというか、上層部に対して――作戦内容に関してはだけだが――信用はあるようで、最低限で良かったりしたみたいだけども。
ともかく、基本的に作戦の内容と意図は艦娘に共有されているのだ。私がそうであるように、他の皆も所属部隊以外が何をやっているかも大体把握しているし、疑問点を質問したりも許されていた。まあ当然、答えられない部分もある訳だけども。
なので今回もその説明を行え、と叢雲は言ってる訳だ。私一人で戦わなきゃいけない、絶対的な理由の説明を。みんな分かってるだろうそれを、はっきりと。
叢雲は感情を感じさせない表情をしているが、その表情は初めて見るのでむしろどう思ってるかは知れてしまう。
『ん。じゃあ遠慮なく』
いや、正直遠慮したいんだけど。そうも言っていられない。敵は今、こちらに攻撃する姿勢を見せてないけれど、もっと近づいて来たら分かんないからね。そうなる前にさっさと撤退を始めてほしいのだ。深雪や金剛さん達以外にも納得行かなそうな声は複数聞こえていたし。極力分かり易く行こう。ちょっとだけ嘘も交えてね。
『私以外の全員、足手纏いなので退避してください。私の生存率が下がります。邪魔にならないところまで、大急ぎで』
叢雲は了解、と軽い敬礼をして撤退を始めた。その後ろ姿からは、私に言わせた事への罪悪感のようなものが見える。私や深雪の事言う割に自分も雰囲気に出るじゃんアゼルバイジャン。ありがとう。こっちこそごめんね。
長門さんが全員にもう一度号令を掛け、各々が帰り支度を始める。ろーちゃんが一人はだめですって言って寄って来たけど、ビスマルクさんに引き摺られて連れて行かれた。ビスマルクさんは武運をって言ってたけど、間違いなくキレてる。私じゃなくて上層部と深海棲艦に。楠木提督、今後の指揮大丈夫だろうか。
金剛さんが騒がしく帰ったらtea partyしますヨー約束ですヨーと大声を出しながら私の背をぶっ叩いて行く。踏ん張らなかったら結構吹き飛ばされていたような気がする。力凄い事になってんなあの人。
お茶会くらいはいくらでも付き合いますよーと大声で返したら、金剛さんは名残惜しそうに手を振って遠ざかっていく。それを見送っていたら、今度は霧島さんが私の背に気合を注入し始めた。避けるのも何なので素直に受け止めておく。良い音が鳴った。
それで流れが出来てしまったのか、ノリの良い人たちが次々と私に向かって殺到してくる。足手纏いとか言わせた怒りと、私への気遣いと、一緒に戦えない悔しさと、ただの悪ノリが混ぜこぜになった一撃が、私の背中に叩き込まれて行く。
そして分かったのだけれど、やっぱみんな心配はしてるけど、私が死ぬとは思ってないわこれ。駆逐艦以外の人達もみんな。イメージ戦略大成功してる気がする。単に敵の数が多すぎてどれくらいの戦力か実感がわかないってのもあるかもしれないけども、吹雪だし生き残れはするだろ……くらいの勢いな気がした。過剰に心配されるよりよほど良いけど、私そんな印象なんだ……今も増え続けてるあれらと戦って普通に帰って来れるって思われてるんだ……まぁ事実だからしょうがないけど。
実はノリの良い側な宮里提督や加賀さんの一撃も貰い、初雪の弱すぎて当たったかどうかも微妙な一発も貰い、去っていく皆を私は見送った。文月も叩きながらのすれ違いざまにがんばれ♡がんばれ♡と心の益荒男が勇ましさを取り戻しそうな意味深な声でエールをくれた。残ったのは長門さんと、深雪と、あと島風だ。
「なあ吹雪……ぶっちゃけさ、勝率どれくらい?」
「え、100%だけど」
即答したら、恐る恐る耳打ちして来た深雪は落ち込んだようなジェスチャーの大げさな反応を見せた。いやしょうがないじゃん。私とあいつら相性が良すぎるんだよ。他に隠し玉でもなきゃ勝ち確である。むしろ敵が私以外に行かないかの方が問題だ。まあ、おそらくそれも心配ないとは思うんだが。
くそーと深雪が悔しさと情けなさを声にして、思いっきり口から吐き出した。まあチート転生者相手だからね、比べるだけ無意味なんだよ。その事を教えてないからアレだけど、純粋に魂を比べたらきっと深雪の方が価値が高いだろう……今更だけど、教官長以外も回収される人出そうなんだよなあ。ちょっと心配。
深雪が私の背に回り、力いっぱい手の平を叩きつけた。次の一瞬、深雪の気配が変わり、その次の瞬間には元に戻った。おや、と思い前にも似たような物を見たなとその現象を思い出そうとしていたら、深雪が叫んだ。
「ちくしょう! 今かよ!」
深雪は海面へと足を思い切り叩きつけた。分かり易く地団太踏んでる……でも思い出した。あれは確か九州でだ。長門さんが同じような事になっていたような覚えがある。
「改二の許可でも出た?」
「なんで分かったのさ!?」
あ、やっぱそうか。たぶん深雪は何かの理由で条件を満たし、集合無意識の方へ呼ばれたんだろう。それで許可貰うだけ貰ってすぐ帰って来たのだ。どういう条件だったんだろ。気になるけどまあ……帰ってからでいいか。
「くそー、すっごい悔しいなこれ!」
改二になった程度じゃ追いつけない差なのは分かってるだろうけど、それはそれとして。深雪は思いっきり自分の頭を掻き毟った。そのまま艤装で快活に滑り出すと、私の方をビシッと指差して叫んだ。
「吹雪! さっさと帰って来いよ! じゃなきゃ改装終わらせて、救援に来ちゃうからな!!」
そう言って破れた服を取り繕いつつ、深雪は皆に追いつこうと速度を上げて行った。それを見て長門さんも退避に動き出す。
「吹雪、九州であれだけ言っておいて、結局お前に任せるのは汗顔の至りではあるが……」
「いえ、あの時とは違いますから、気になさらないでください。今回は私も艤装も、万全です」
つーか、私が生身で出ようとしたアレとは違って状況的にも他にどうしようもないし。そもそもみんなの強さどうこう以前に連戦で弾薬とか燃料とかが何もかも足りてないですからね。戦うための物資自体が無い訳だから、長門さんに非を認めるのは難しいと思う。つーか、今回は逆だ。私じゃなくてみんなの方が戦えない状態に近い。
「正直、お前が戦う事であれらがどれほど足を止めるか、私には分からない。ただ、もしかすると……」
「ああ、あれは吹雪狙いだ。まず間違いない。あいつ等が押し寄せてくる理由、他に無いからな」
今まで沈黙を保っていた猫吊るしが声を上げ、長門さんはやはり、と呟いた。あ、やっぱりそうなんだ。良かった、前線で大暴れする雪ちゃんを無視して本土を攻撃する深海棲艦は居なかったんだ。
さてこれは今回の作戦の話ではなく、楠木提督が艦娘部隊の設立、もしくはそれ以前から推し進めていた計画が、何をどうするための物だったのかという話だ。
目的は単純だよね。深海棲艦の殲滅。勿論戦争を起こさないとかできる限り死傷者を減らすとか、そういうのはたくさんあるけれど、最大の目的を挙げろと言われたらこれになるはずだ。
ただこれ、今日初めて知った敵の規模を見る限り、容易な事ではない。ちょっと数が多すぎるのもそうなんだけど、おそらく、普通にやってると一度には出現してすらくれないと思われるのだ。
何しろあいつらの目的は人類を苦しめ続ける事。あんな数で攻め入ったら一月もあれば日本程度は更地になる訳で、軍団規模が目的と合ってないどころの騒ぎじゃあない。無駄無駄の無駄で深海棲艦にとってはまるで損にしかならないのである。
だからまず、どうにかしてあの大軍団を引っ張り出す作業が必要になった訳だ。そして、そのために活用されたのが、はい。ご存知『なんか』『つよい』私、伊吹 雪ちゃんなのでした。
駆逐艦吹雪として大暴れする私を仕留めるため、深海棲艦に一大決戦を決断させる。それが転生者の皆が進めて来た計画だった。と思われる。
そりゃあ私の事、敵に知られてる訳だよね。普通に考えたら情報秘匿した方が奇襲気味に使えるだろうに、隠す気0で遠慮なく使い倒してたのはそういう理由もあった訳だ。むしろ脅威として敵の認識上に君臨させるためだったから強敵に遠慮なく全力投球しておっきな花火撃ち上げまくってたんだろうね。
間違いなく小鬼達が私のヤバさ敵中で喧伝してたんだろうなあ。先にぶっ潰さないと日本が解放されちゃうぞ、でもアイツぶっ殺せば民衆はもっと絶望してくれるぜ!! みたいな感じで。
燦然と輝く最強の糞ユニットとして短期的には普通の絶大な成果を、長期的には頭がおかしくなって深海棲艦が死ぬ脅威の存在になる事を、私は期待されていた訳だ。他の転生者が外国で活動し私と猫吊るしがハブられてた理由も、おそらくは楠木提督の個人的な理由ではなく、これが根本的な原因じゃないだろうか。微妙なとこだけど。
私は、おそらく個人で希望の象徴にならなければならなかったのだ。ヴィランがオールマイトを狙うように、深海棲艦が私を狙ってくるように。
そうして作り出されたのが今の状況で、だから、私と猫吊るしには予想が付いた。いま日本に攻めてきた、総数が良く分からない空も海も埋め尽くしている黒い津波は、宮里艦隊の吹雪を殺すためだけにここまでやって来てくれたのだと。
長門さんが看破した敵の作戦には続きがある。連合第一艦隊を壊滅させた後、それを成し遂げた部隊を私が殲滅した、さらに後。戦いを終え、一息吐いた私を、今視えている大部隊で袋叩きにするつもりだったのだ。つまり、今回の敵の作戦は全て、私を確実に釣り出すためだけに展開されたものと推測される。
ま、実際に釣り出されたのはあいつらの方なんですけどねー。やーいまんまとひっかかってやんのーばーかばーか。
楠木提督の謀は、要約すると私を目立たせて危機感煽って大量出兵させて一度で全部ぶっ斃すってそれだけなのだけれど、それがどれだけ厳しい条件で成立した物なのか、私には想像しかできない。だって本来あれだけの数が居るなら、私なんて無視で構わない。私の居ない所を攻め続けるだけでどうにでもなるからね、対策なんて必要無いんだ。必死に駆けずり回ってる私をせせら笑ってやれてむしろ気持ちいいんじゃないだろうか。
なのに奴らはやって来た。それは、私が日本中で英雄視される、艦娘の中でもひときわ輝く一等星となったからだろう。まあ、こう、好奇の目の比重が大きい気もするが、それは置いておいて。
メディア露出させられて、動画もいっぱい録られたのはまさにこのため。私の羞恥を煽るあれは、無駄どころか人類を護るために本当に、マジでなんの嘘偽りも無く、絶対に必要な事だったという訳である。キレそう。
でもそのおかげで、奴等は私以外を狙わない。いや攻撃したら撃ち返すだろうけど、逃げる人たちを追うような真似はしないだろうと断言できるし、ちょっと混みすぎてて私と会えないからって上陸を始めたりもしないだろうと考えられる。待たせ過ぎなければ、きっと。
理性が無いらしいあいつらがどこまで作戦に忠実かはよく分かんないんだけど、まあ猫吊るしが大丈夫だって言ってるから大丈夫だろう。っていうか駄目なら別の作戦にするだろうし、楠木提督達がその辺は調整済みだろたぶん。だから私のやる事は戦う事。そして、押し寄せる深海棲艦を一体も残さず平らげる事だ。
深海棲艦はもう、人類が数を保つ限り永遠に涌き出してくる。これは猫吊るしが言っていた事で、間違いは無いと思われる。でもあの時同時に、現在の数を減らす事は可能だとも言っていた。
だから今日が分水嶺。ここで私と、海外のどこかでもう一つの作戦を繰り広げている転生者達が、現れた深海棲艦を滅ぼし尽くせれば、おそらく残りは何とかしてしまえる。涌き速度と退治速度の釣り合いもどうにか取れる。きっとそういう計算なんだろう。
二か所に分けたのは取り逃す数を減らすためかな。私は状況との相性が良すぎて確勝だけど、範囲攻撃は不得意だから、きっと全ては任せきれないんだろう。私に戦闘力に比例した広範囲必殺技とか搭載できれば良かったんだけどね。
同じく外国の人達だけで何とかするのもきっと難しかったんだと思われる。私のチート能力さんの性質がこの件に向いてるだけで、似たような能力の人は居なかったんじゃないかな。さらにその性質故に共闘も意味が薄いから、私は一人で戦う事になった訳だ。
んー、私が戦うのって全体の何割くらいなんだろう。変な能力持ってるのが居なければたぶん十割でも勝てるけど、倒し切れるかって言われたら難しいからなあ。一割未満でも不思議じゃないし、九割以上も無くはない。逃げに出られたら同じ事だから、無双しても相手が逃げないギリギリの数になってると思うけど……うーん分からん。
まあ、どうだったとしてもやる事は変わんないんだけどね。私のやれる事なんて、最初っから何一つ変わっていないのだ。
戦って、勝つ。それだけ。得意分野だ。任せてくれたまえ。
確認を終え、長門さんが去って行く。一応部隊内での殿も務めている事になるのだろうか。追ってく敵は見当たらないけど、必要な事ではあるだろう。旗艦がやる事なのかは微妙だけど。
さて、最後に残ったのは島風である。眠たげな瞳を普段よりほんの少しだけ細めて私とその後ろの光景を眺めている。表情がほぼいつも通りなのもあって呑気そうにも見えるけれど、別にそういう訳でもない。むしろ普段より緊張していると言っていい。まあそりゃそうだ。言わなくても自分で理解したっぽいけれど、島風は傷ついた連合艦隊の護衛になるんだから。
別に島風、私の事心配で最後まで残ってたとかじゃないんだよね。部隊としての殿は長門さんだけど、その長門さんを航空戦力から守んなきゃいけないから出発を待ってただけなんすよこの子。まあ追ってかないとは思うけど確実じゃないし、そりゃあの量見たら基本マイペースな島風でも多少の緊張感くらいは出て来ようってもんである。
私の心配? する訳ない。私の力を一番知ってるのはたぶん楠木提督で、二番目が猫吊るしだけど、三番目はきっと風香なのだから。まあ、だからこそ急に私が大爆発に巻き込まれたりすると動揺したりはするみたいだけども、そこは友人だからね、仕方ないね。逆も然りだろうし。
それはともかく。島風は艤装と合体させていた連装砲ちゃん達をパージして一人と三体になると、あとでねーと手を振って長門さん達を追いかけて行った。連装砲ちゃん達もミューキューキャーと鳴いてこっちにおててふりふりしてくれた。かわいい。
「お前らほんとこういう時なんも無いよな。こう……もうちょっとなんか有りそうなもんだが」
「絶対勝てるのに何やっても感動的にとかなんないでしょ」
そういう問題? って猫吊るしは仰るけれども、万に一つどころか無量大数に一つも負けが見えない状態でなにをせーと言うのか。
「猫吊るし居るから一人でもないしね」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
さっきから猫吊るしは何故かガイナ立ちみたいなポーズを決めている。それだと私巨大ロボか何かなんですがそれは。いやサイズ感的には間違ってないんだけど。
「それじゃあとことんよろこばせてやるからな」
「誰を?」
「視聴者」
それはあれか、例の魔法使いの子が配信してるっぽいのを見てるっぽい連中の事か。って思ったけど、違った。上を視たら偵察機が飛んでいやがったのである。味方の。
「あー、もしかしてあれ撮ってる?」
「撮ってる。青葉のだな」
そっか、青葉さん重巡だもんな。水上機くらい使えるか。まあ、別に見られてどうなるもんじゃないし、いいんだけどさ。
「あれって撃ち落とされない?」
「されるんじゃねーかな……一応もうちょっと離れとけって伝えとくけど。あ、なんなら帰るよう言っとくか?」
「いや今更戦闘力バレてもどうって事ないし、どうせ証拠映像は要るでしょ。いろんな場面で」
私が全部叩き潰しましたって口で言うだけなのと戦ってる映像が少しでも残ってるのでは説得力が違うだろう。全部収めるのは難しいだろうからいい所で帰らせないとだけど、その辺りの引き際は青葉さんだって弁えている筈だ。足を引っ張りたいわけじゃないだろうしね。
敵はどんどん前進して、見える数を増して行っている。既にその数は百万を超えてるような気がするが、数えるの面倒になったから千以上を数えてないので分からない。猫吊るしなら分かるかと思ったけれど、数えてないとのお返事だった。気が合うね!
動きとしては私を囲むように展開してるのかな。やっぱり陸地には向かっていないように見え、一人残った私を嗤う金属音が微かに世界を揺らしていた。艦これ準拠だからか割と可愛らしい感じの声も混ざってるんだが、まあだいぶホラーチックな音響効果である。これで私にとって脅威なら多少怖がってやってもいいのだけれど。
「あ、そうだ猫吊るし、一応確認しとくんだけど」
ん? と猫吊るしが腕組みを解いて私の方を見下ろした。まあ、正直必要無いとは思うんだけど、念のためにね。
「応急修理女神は使うなよ」
「了解! トランザム!」
妖精さんは存在が実体と非実体の中間なので似たような事ができそうな気もするが、猫吊るしのそれは流石に台詞だけだった。ちなみに私もできない。できたら別の能力である。
「っつーか、気付いてたんだな」
「そりゃねえ」
応急修理女神、それは艦娘が轟沈する際に消費する事で装甲どころか燃料や弾薬まで完全回復する事ができるちょっとどころでなく原理が不明な、まさしく神の装備である。
ただし当然そんな強力なものが使い放題なはずもない。それは効果を発動した場合、消えて無くなってしまう。使いきりの消費アイテムみたいな扱いの装備品だったのである。下位互換に傷だけを治す応急修理要員というのも存在しているが、そっちは耐久力の回復のみで弾薬とかは回復しない。
この世界には応急修理要員みたいな妖精さんはいる。いるが、その子たちはゲームと違って緊急蘇生アイテムみたいな扱いではなく、乗組員の一人として勤務する、普通の妖精さんの一種である。当然、轟沈の肩代わりとかはできなくて、代わりに普段から開いた穴を塞いだりしてくれてたんだよね。
だから私は当初、応急修理女神は存在しないか、アイテムではなく本物の神様的な何かだろうと思っていた。初春みたいな霊能力者がなんやかんやしたらご降臨されたりしないかなとかちょっと思ってた。
でも、この世界はどうやらゲームの仕様を元にした現実世界っていうすっごい困った場所だった。それを知って、私は考えを改めたのだ。応急修理女神、手に入ってないだけで仕様としては実在するんじゃね? って。
そして猫吊るしは妖精さんにできる事は全部できるチート妖精さんである。だったらもしかして、応急修理女神の仕事だって、やれない事はないんじゃないかと。そう思い付いてしまったのだ。
「ちなみに消費型?」
「そうだよ」
「絶対使うなよ」
振りじゃないぞ! 絶対だぞ! って言ったら猫吊るしは笑い出した。
「お前が死にそうなら使う。そうじゃないなら使わないよ」
「そっか」
滅多な事では使わない、と猫吊るしは確約した。どう消費するのかまで聞いてないけど、リスクは少ない方が良い。っていうか。
「なら使う機会は無いな」
あー良かったと胸をなでおろす私。敵はどんどん溢れ出し、そろそろ見える範囲に海の方が少なくなってきた。とっくに砲撃とか届くと思うけど撃って来ないのはなんだろう。演出? 凝ってるなキミら。
「んー。まあ、勝てるよなあ。これ、普通に。さっきから吹雪の体凄いし」
「あ、分かる?」
猫吊るしは私の体も『つかえる』。故に触れてる今なら分かるのだろう。私の身に何が起こっているのかが。
――テンション上がってきたぜーーーーーッ!!!
さっきからチート能力さんがすっごい滅茶苦茶張り切って仕事してるのが。
「そういや猫吊るし、私のチート能力の事どれくらい分かった?」
「理解しない方がいい事は分かってるぞ」
「じゃあ説明も要らない?」
「したら弱くなる、だろ? 要らんわ」
「正解」
まあ、そこを正解できる時点で手遅れだと思うけどね。だいたい分かっちゃってるって事だし。詳細が分からなければいいのかなぁ、『なんか』って。
私の能力の話をするとしよう。
私のチート能力、『なんか』『つよい』は単純な身体及び感覚強化能力ではない。
いや、それも行っているし、出てる結果としてはほぼほぼそれが全部なのでその認識で全く問題ないのだけれど、詳細を語るとかなり違う。
これは全部おそらくの話、つまり予想でしかないのだけれど……実は私の能力は、沖縄に居る吹雪さんの、「条件を達成する事でよりよい報酬を得る事のできる能力」と同じで、縛りを設ける代わりに通常よりも強い出力を実現するタイプの能力だ。
私がこれに気付いたのは六日前、島風と本気の勝負をして、敗北したその時だった。あの時、私の身体能力は、競走中にその能力を上げた島風に追いつくように、終了したその後で足の力が強くなっている。それ以外にも思い返せば、九曽神艦隊で結界に行く手を阻まれた時もなんでか途中から侵入が可能になっていた。
そして今。私の体は現在進行形でその能力を急激に上昇させている。そう、それは目の前に広がる深海棲艦の大海原の面積が広がるに従って、それと比例するように。
これの意味する所は一つ。
私は強大な障害と相対するとそれに合わせる形で出力や付加能力を追加する事ができる。
って事である。
つまるところ――私の『なんか』『つよい』能力とは、
その場の誰から見ても『なんか』よくわかんないけど阿呆みたいにその状況に対して『つよい』存在になる能力
ではなかろうかと。私は理解している。
これたぶん、魔法使いを自称するあの子がしてくれた約束を忠実に守った結果だと思うんだけどね。頑張ればどんな戦況でもひっくり返せるくらいにはしておく。あの子は確かにそう言っていた。私はそれをはっきりと覚えている。
そしてそれを叶えたのがこの能力だ。状況に対して互角以上に『つよい』奴だったら、そりゃあ頑張ればなんとかできるだろうよ。
逆に言えば、頑張らないとひっくり返せないんだと思うんだよ、本来。そこまでつよくなれる代わりにそれ以上強くなれない、それが縛りなの。だから実は、私は戦闘向け転生者と最初に出会ってたらとりあえずはそいつと互角くらいの強さだったと思われるんだ。たぶんだけど、リベッチオと会った時、もし戦ってたら勝ててもギリギリだったんじゃないかな。頑張っても。
でも私って、深海棲艦相手だと今まで余裕で勝ってたじゃん? それに子供の頃から隠さないといけないくらいには身体能力も高かった。状況に合わせる能力だったらどの戦いでもギリギリでないとおかしいし、周りに脅威が無い状態では弱くなってないとおかしいだろう。でも実際にはそうはなっていないし、私はずっと強いままになっている。
その理由は大きく分けて二つ。一つは、「その場の誰から見ても」の誰かに私自身も含まれるから。
戦いを始める前の私の身体能力は、私自身がこれくらいあったら『なんか』『つよい』だろうって認識してる強さそのままだったように思う。百メートル走れば余裕で十秒切れて、校舎から落下する先輩無傷で受け止められて、複数の銃弾を避けて相手を無力化できる、その程度の強さが。
そもそも私、生まれたばっかりの頃ってこの世界が能力バトル物の世界とかなんじゃないかって思いっきり警戒してたんだよね。だから、もしそうであったとしてもちゃんと対処できるラインが私にとっての『なんか』『つよい』の最低条件だったんだよ。ここがヒロアカ世界だったとしても並のヴィランなら倒せる。ちっちゃな雪ちゃんは二本足で歩けるようになる前からそういう存在だったのだ。
私が自分のチート能力を制御も観測もできないのはそういう理由。私自身から見ても、私は「『なんか』よくわかんないけど阿呆みたいにその状況に対して『つよい』存在」なのだ。「よくわかんない」ようになるのまで能力に含まれてるから私は自分の魔力関連に関しちゃよくわかんないのである。だから能力頼り以外で能力を貫通して魔力の事理解しなきゃいけないんだけど……まあそれは置いておいて。
チート能力さんが自我を持っているのもこの能力の「私自身も判断基準にされる」って性質のせいだと思われる。能力として成立させるために判定用の回路が必要で、本来はどれくらいだったら『なんか』『つよい』か裁定して強化の量と方法を司る。それだけの存在だったのだろうけど……ここで私の認識が悪さをした。
私はチート能力を自分の物だとは思えず、自称魔法使いから与えられた何かが体の中にある状態、と割と最近まで思っていた。そのせいでちゃんと受け取れてないわ繋がったまんまだったわでチート能力さんは大混乱。そこへ私が話し掛けちゃったりもしたもんだからさあ大変。チート能力さんは一つの自我としてほぼほぼ成立しちゃいましたとさ。
いやあ、あくまで私自身であるって思い込もうとはしてみてたんだけど、無理だったよね。いや全然無理だよそんなもん。だってもう、もう一人のボクくらいの勢いだもん。立ち位置的には王様よりダマムーとかのが近いかもしれないけど。
閑話休題。二つ目の理由。二つ目の理由は、私の身体強化能力は、一時的な身体強化だけではなく、永続的な身体強化も含まれるからである。
というよりも、認識が逆だったんだよね。猫吊るしが私は魔力を消費し続けてるって言ってた事から分かるように、私は魔力で身体能力を一時強化できるし、続けてるけど……別に一時強化できる能力を例のあの子から授かった訳じゃない。私が貰ったのは、あくまでつよくなれる能力だ。
この辺りだいぶ分かり辛いんだが、私が魔力を消費し続けているのは、『魔力を消費して一時的に身体能力を強化する技術』を、チート能力によって感覚的に身に付けて、それをチート能力側が使い続けているから。というのがおそらく事の真相である。
言っちゃえば、私の力の強さって半分くらい川内さんに教えてもらったカラテと一緒なんだよ。後から覚えた物なの。感覚的にやれるタイプの技だったからチート能力さんが自動習得してくれたんだと思うけどね。そして、だからこそ、別に脅威が去っても忘れたりしない。わたしはずぅっと、強いまんまなのだ。
そしてつよくなる方法は一つではない。チート能力さんはむしろ勤勉で、職務には忠実な方だと私は感じている。そんな子が、身体能力の一時的な上昇だけで満足するだろうか? いやしない。っていうか、しなかった。これも島風との対戦後に実感した事だけどね。チート能力さん、私の体、魔力使ってない素の状態も強くしてるっぽいんだよなぁ……
私の足は島風とやったレースのビフォーアフターで、その強さが変わっている。単純に筋力が上がっていたのだ。そして、今日、たくさんすぎる深海棲艦を目の前に、その変化の感覚は加速度を上げ、私の全身で喜びの声を叫んでいる。
これに関しては勘違いの可能性もあったんだけどね。単に消費できる魔力量増えただけじゃね? って。でもそれを否定してくれやがったのが、やっぱり自称魔法使いな創造主ちゃんなのだった。
あの子は言った。ただ能力だけ封じても無意味と。あそこは夢の中だったけど、身体能力とかはなんでか現実準拠なところがあったから、それで私は泳ぐ事ができたのだろう。チート能力を封じられた状態、即ち魔力は一切使えない状態で、普段と大差のない力技を行使しながら。
これを加味して考えるに、私の体はおそらく――――既にまともな人間のそれではない。筋肉の構造、内臓の耐久力や処理能力、皮膚の強靭さから感覚器官の鋭さまで、全てが『なんか』『つよい』ように弄られていると思われる。
皐月さんが引くわけだよね。たぶん、ちょっと診察するだけでもおかしい部分が幾つもあったんじゃないだろうか。逆に言えば封印能力持ったチート転生者と敵対しても私は普段と何ら変わらずにその人を殴殺できるって事なのでデメリットばっかでもないしむしろちょっと変な構造になってるだけで別にデメリットとか無いんだけど……うん。まあ、あれだよね。
そりゃ楠木提督苦悩するよね。私にさらに人間辞めさせるか死人増やすかの二択だよ? あの子本当に馬鹿なんじゃないのかなぁ? 今更だけど。今更だけど。
あと両親にもかなり申し訳ない。遺伝子とかまで弄ってるか分かんないけど、倫理的にだいぶ問題のある事が私の体で行われていると思われるのでこれに関しては本当に謝るしかない。元々孫を見せられる生き方をしようとは思ってなかったけれどもさ……
纏めると、私のチート能力、『なんか』『つよい』は強化能力ではない。
それを漢字で表すなら、進化能力とした方がおそらく適当だと考えられる。
そうつまり、私はフリーザ様でもオールマイトでもない。どっちかっていうと、デジモンかポケモンか何かである。増殖はしないからデビルガンダムではない。再生は分からん、まともに傷ついた事ないし。
私、たぶんだけどドラゴンボールの世界にぶち込まれても普通に善戦できるんだよなぁ。たぶん相手の持ってる常識に合わせて強くなっちゃうから、超のインフレ天使とかにもおそらく対応できる。全王様みたいに問答無用で消されちゃうようなのはどうしようもないかもしれないけれども。
魔力消費でプラスできる筋力って魔力の量が限界じゃないの? って疑問もあるかもしれないけれど、それに関してはかなり単純な答えが推測できる。私の身体強化魔法、たぶん加算じゃなくて乗算なんだよって、ひっどい答えが。つまりは、方向性が界王拳やバイキルトと一緒。ステータスが上がると上昇量も上がるタイプの強化魔法っぽいのだ。
なので今、私の体は頭の悪い速度でその基礎能力を上昇させている。そりゃそうだ、魔力の消費量を上げちゃったら継戦能力が犠牲になる。そしてこの状況で継戦能力がないのは『なんか』『つよい』か? って言われりゃ答えは明白なんだから。チート能力さんとしては素の身体能力を上げざるをえないのである。
あとこの能力、敵の強さそのものじゃなくて状況を見てる……ってのは結界貫通できたのから推測できるんだけど、汎用性の高いその「状況を見てる」って部分には問題点も存在する。それは、私は味方が居るとその能力分だけ強化上限が下がるって事だ。
たとえばだけど、敵の戦闘力が10000だったとしよう。その場合、私は一人だと10000まで戦闘力が上がる。だから頑張れば状況をひっくり返せる訳だ。
でもこれが、戦闘力5000の人と組んで10000と戦う場合だと、私の戦闘力は5000までしか上がらないと思われるのだ。そりゃそうだよね、ここで10000まで上がっちゃったら状況的には10000+5000vs10000になっちゃって状況的には頑張らなくても勝てそうだもん。
だから今回、私は1ユニットで戦わされる。能力を知ってれば当然の判断だろう、味方の数に関わらず合計値同じになる能力なんて持ってるなら、そいつ以外は他所に回した方が効率良いんだから。
連合第一艦隊と島風に帰ってもらったのも概ねそれが理由だ。本人が攻撃力を持たない猫吊るしすら影響ありそうなのに、精鋭の皆が居たら頼もしすぎるもん。私の能力上がり切らなくなっちゃうよ。
猫吊るしに関しては艤装使えるかどうかのトレードオフになっちゃうので居てくれた方が効率がいい……といいなと思ったので乗せっぱなしだ。流石に走って浮き続けながらこの数相手にするのはちょっとねえ。できない事もないだろうけどさ。
艤装に関しても無い方が私自身は強くなる可能性があるんだけれど、これに関しては外す訳にはいかない。私はこれが無いと艦娘じゃないし、また長門さんに怒られちゃう。あと吹雪さんにも怒られちゃう。合計値は変わらないはずだし、有難く武装を使わせていただこう。弾薬もいっぱい持ってるしね、足りるかは知らんけど。
ちなみにこんな私だけれど、明確に弱点が存在する。
弱点というか、私が負け得る相手の話なんだけどね。これは一回負けてるから簡単な話で、風香みたいな、最後まで諦める事なく戦いの中で進化していく奴が私の苦手とする相手である。
そう、『なんか』『つよい』は状況や私の頭の中を参照してそれに対応して進化するという性質上、戦闘中に相手の側に進化されると咄嗟にそれに対応できないのである。
だから、まだだって言いつつ強くなって立ち上がってくる連中だとか俺達は一分前の俺達より進化するとか言ってくる連中だとかに、おそらく私は普通に負ける。つまるところ……私は主人公属性に弱いのである。
うん。こう、ね。色々理不尽な仕様とか合わせてなんだけどさぁ。これ最終的にちゃんと倒されるタイプのラスボスかなんかが持つべき能力じゃねーかなあ。一応は主人公ボディ使ってる奴に持たせる能力かなぁ。いや全部推測だから間違ってるかもしれないんだけども。
まあそんな訳なので、現在の状況、勝率は100%なのだ。
この他者を苦しめる為だけに涌き出て来た人類の不快な部分だけを煮詰めた連中に、風香みたいに諦める事なく己の心を燃やし続け培ってきた力を十全以上に引き出すような真似が、できるはずがないのだから。
「ねえ猫吊るし」
「ん? どうした? トイレか?」
どっからその発想出てきたし。いやまあ、それも関係ないとは言わないけどさ。
「これ倒しきるのにどれくらいかかると思う?」
「んー……んんー…………わかんにゃい」
そもそもの話なんだが、物量作戦って私と完璧に相性が悪い。私は状況で強さが変わるが、相手が弱くなったからって私は別に弱くはならない。そのため、簡単に数が減るくせに最初の脅威度だけは高くなるというのが対雪ちゃんには最悪手である。
最悪手なんだが。
「流石にちょっと多くないっすかね……?」
「それな」
私は本当に、絶対、こいつらに負ける事は無い。これは間違いない話である。
でもそれはそれとして、まともな範囲攻撃を使えない私は、当然ながら倒すのに相応の時間が掛かるのである。
「見える範囲でたぶん数百……数千万? 居そうな気がするんだけど気のせいかな?」
「海の果てまで続いてるし億行くんじゃね? 頭おかしいだろあの創造主。どの口で滅ばないと思ったとか言ったんだよ」
一日は86400秒、一秒に百匹倒したとしても8640000匹。まあそのペースで行けると仮定して、まず間違いなく十日は掛かる。つーかもっと居そうだから二十日? 三十日? 数によってはもっとだろう。その間こいつらちゃんと私だけ狙うのかなぁ。つーか色々困るんだけど……とりあえずさ。
「輸送艦で良かったわ、下手したら戦闘じゃなくて栄養失調で死ぬとこだった」
「まあそこも含めての物量作戦なんだろうなぁ……たぶん」
普通はこんなのと戦い続けてたら被弾しなくても疲労しまくって衰弱死である。そういう意味じゃ文字通り死ぬほど有効な手段ではあるんだな。まともな奴相手なら。
まあそれでも私だったら何とかなる。なってしまう。なってしまうんだけど、うんそっかぁ。そうだよね。言われて気付いたわ。すっごい大問題に。
「これ尊厳は垂れ流すしかない?」
「まあ…………あ、おむつみたいなの、必要なら作れるが……?」
わあ有難い。ばーかばーか。使いたくねーんだわ。っつーかさ、撮られてんだわ今。ほんとふざけんなよ深海棲艦。TS転生者のお恥ずかしいシーンとかどこに需要あんだよ。普通にありそうだわ。今美少女だったわ私。糞が。
「よし決めた」
「ん、どうする? 使うか?」
「使いません。どっちもやだから、第三の選択肢で行こう」
もうこれ以外手段がない。一応、前科が無い訳じゃないからまったく不可能って話でもない。状況に対する進化、この場なら、望めなくも無いはずだ。
下地はある。昨日色々やったから、きっと不可能じゃないはずだ。そう思わないとやってられない。むしろそうであってくれ。
最早ただの願望であるが、成就すればこれ以上の事は無い。だから頼む。チート能力さん。しっかり協力しろくださいお願いします。
これから、私は、自身の尊厳がこの身から失われてしまう前に。死ぬ気で。
範囲攻撃の開発と習得を実行する……!!
何日も戦ってたらみんな戻って来て支援砲撃始めちゃいそうだしね。