転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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1年以上後の話

 日本政府的には、全くこの現状はよろしくないのだろうな。宮里はある程度泊地としての機能を備える程度には整備され、一時的にであれば滞在する事が可能になった黒い島の上で、視線の先にある困った光景を半ば呆れた目で見つめていた。

「わたくしにお任せいただければ、百年以内にこの土地の価値を百倍以上にして見せましてよー!!」

 おーっほっほっほ!

 何故かお嬢様言葉で高笑いする金髪の美女と、どことなく楽しそうな雰囲気でそれと向かい合う、見慣れた青いリボンの美少女。

 美女の方は若くして大企業の社長を務め、複数の会社を束ねる会長のような立場も兼ねる女傑であり、その名声が既に日本の隅々にまで轟く超人である。何せアメリカを救ったとされる張本人だ。立場上、宮里は比べられる事がままあったが、勝てる所などほぼ無いだろうと自分では思っていた。

 美少女の方はここの地主である……ただ、年若いため管理は代理人に任せきりにしている。勿論こうしたいああしたいと言えばある程度通る立場ではあるし、義理としても話を通すのはおかしくないだろう。そもそも正直な事を言えば、不都合な事に、この二人はどういう訳か異様に相性が良いようだったし。

「まったく使い道とか思い付きませんし、なんならお譲りしますよー」

 ちょっと待て。宮里は胃が痛むのを感じた。流石にそれは絶対に良くない。ラインを大幅に超えている。この島が生まれてから一年以上は経っているが、そんな短期間で外国籍の人間に売却されていいはずがない。止めねばならぬ。と宮里は声を掛けようと一歩踏み出し、その喉が震わされる直前に、金髪美女の手刀が美少女の頭に炸裂――する寸前でするりとそれは躱されて、空を切った腕が謎の衝撃波を作り出し、黒鉄の地面を切り裂いた。ひぃっと宮里からは悲鳴が漏れた。

「おばか!!」

 すこしたたらを踏んだ美女は攻撃は当たらないと判断したのか、声でその行いを糾弾する事にしたようだった。余波だけで足下が切り裂かれているのはスルーして行く方向らしい。

「わたくしは、この土地を貸せと言っておりますの!! 気軽に譲渡契約を持ち出さないでくださいまし! 国際問題になりましてよ!!」

 貴女がここに本社建てたいとか言い出した時点で手遅れですよ。宮里は馬鹿と馬鹿が合わさって生まれる、特有の頭ゆるふわ空間を恐怖交じりの胡乱気な瞳で見つめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 本日未明より、複数の艦娘保有国による合同作戦、オペレーション:サンライズが敢行された。

 日の出、と名付けられたこの作戦の目的は一つ。太平洋に残された、巨大変色海域の解放である。

 これを以て全世界の青海を取り戻し、人類の新たな夜明けとする。そんな題目を掲げ計画されたこの作戦には多くの国が参加し、『平和とは一つの国や人が築く物ではなく、多くの人間が協力して作り上げるものである』と知らしめようと、大きな力を入れて推進されていた。それが今日というこの日に、ついに発動を迎えたのである。

 深海棲艦を駆逐し、海に平和を。各国がその活動に協力したという実績を欲しがり、艦隊の規模は膨れ上がった。送られてくるのは最精鋭。どの国も本気で計画を推し進めていた。

 新秩序が敷かれるであろう今後の世界で発言力に影響する。その共通認識のもと水面下で様々な駆け引きが行われたが、幸いな事に、深海棲艦の駆逐についてだけは全ての国が意見を一つとしていた。そのため、少なくとも表面上は平穏に作戦は始まった。

 勇猛なる各国の代表艦娘達は大いに奮い立ち、集まった港から気炎万丈に出撃して行く。作戦の成功を疑う者は誰一人居らず、出発を見送るメディアの声もその雄姿を称えるものばかりであった。

 

 ――尤も、ネットワークの発達した昨今である。その目標は既に、一人の日本の少女によって大方達成されてしまったのだと、関係者並びに多くの民衆が知っていたのではあるが――

 

 

 

 

 

 実の所、出発地点に指定された港に到着した時点で宮里は嫌な予感がしていた。普段は欠片も緊張していないように見える最大戦力、その娘が明らかに気を散らしていたからである。表情には出ていなかったが、頭に乗せた妖精さんに何度か頭をはたかれて、なのに、そもそもそれに気付いていない有様だった。

 この作戦に参加した日本の艦娘は十二人。宮里――大和、長門、龍驤、加賀、青葉、川内、暁、夕雲、秋雲、文月、島風……そして吹雪である。全て宮里艦隊からの選出であるが、これは単に連携面を考えても同一艦隊で固めた方が問題が起こり辛いだろうという判断からだ。それと、直近で配置されていた場所が、出発地点と近かったから。

 そう、この作戦、日本という国はさほど力を入れていなかった。と言うと少し語弊がある。正確には、上の人間達はこう判断したのだ。

 

 吹雪面子に入れとけばそれで良くない?

 

 つまるところ、現状の艦娘というのは、現場レベルでもなければそういう評価だった。

 ただ、それが正しかったか間違っていたかと言えば、完全に正しい判断だったと言わざるを得ないだろう。

 何故ならば、吹雪以外の日本艦娘は今回の作戦、控えめに言って予備戦力に等しかったのだから。

 

 

 

 

 

 有体に言えば、一部の艦娘が強過ぎたのだと宮里は数時間前を思い返す。控えめに言えば予備戦力だったがはっきりと言えば無駄飯ぐらいだった自分達を恥じようにも、なんかもうそれ以前の問題であったと。

 

 艦載機の機銃が大型の姫級の装甲を貫き瞬間的に絶命させる米空母、エンタープライズ。

 一つの爆撃機から投下された複数の爆弾が、別々の深海棲艦の中枢を確実に破壊する米空母、ホーネット。

 辺り一帯を破壊し尽くす超火力を超高速でばらまき続ける伊駆逐艦、リベッチオ。

 手に持った王錫を振るえば撃ち放たれたレーザービームが戦艦駆逐艦を問わず塵へと返す英戦艦、ウォースパイト。

 手に持った聖剣を振るえば撃ち放たれたレーザービームが戦艦駆逐艦を問わず塵へと返す英空母(?)、アークロイヤル。

 艤装どころか全身を燃やし、炎の砲弾を延々空から降り注がせる露駆逐艦(?)、ヴェールヌイ。

 敵の残骸を操り、成形し、巨人と化して暴れ回る独駆逐艦(?)レーベレヒト・マース。

 そして拳の一振りで全てを粉砕する、我らが日本輸送艦(?)、吹雪。

 

 その八人の艦娘達が、圧倒的な【異能力】でもって、ほぼ全ての敵を殺し尽くしてしまった。自らの異常性を隠蔽する気の一切ない、暴走と言っても過言ではない、蹂躙劇。

 他の娘達だって見ていただけではない。索敵担当の夕雲は確実な成果を上げていたし、他の国の艦娘達も各員それぞれに与えられた仕事は完璧にこなしていた。宮里とて既に改二に至った戦艦の端くれ、自身も一部隊を壊滅まで追い込んだりはできていたし、それは他の、件の八人が所属している以外の国も同じだった。

 その上で、1000体以上は居たはずの姫・鬼級の九割は、おかし過ぎる戦力のそいつらに喰い尽くされてしまったのだ。

 何が酷いかと言えば、それで間違いなく、全員が自重はしなくても手加減はしていた事だろう。正面火力は吹雪さん一人で済む作戦ですよね? などと青葉が漏らしていたが、宮里も全くの同意見だった。

 

 分かっていたつもりだったが、実際に見ると本当に常識という物の正確性の無さには驚かされる。吹雪並の艦娘が本当に各国に存在するなどと、北海道を取り戻した頃の自分が言われても絶対に信じられなかっただろう。

 大きな活躍を見せたのは八人だったが、それ以外もおかしい事をやっている者は多く、海水を操り砲弾を受け止める潜水艦だの単装砲から霊魂を撃ち出して拡散ホーミングミサイルやりだす軽巡だの敵を宙に浮かせてまともな攻撃をさせない戦艦だのと、明らかに艤装と関係ない力を行使する者は多かった。

 だが、それに文句を言う人間も特には居なかった。それは戦力として大きいからだとか、海の上で誰も見ていないからだとか、そういう理由ではない。ただ単に、既に世界の常識は書き換えられていたからである。

 

 

 超能力者は実在する!!

 

 

 それはもう、地球全土を浸食してしまった、新たな世界観だった。

 宮里はその事を猫吊るしや吹雪に教えられて知っていた。自身には素養が無くある程度の疑いは持っていたが、秘書艦でもある長門がその力を扱えるようになったのもあり、そういう物なのだろうとは漠然と理解していたのだ。

 だが、その認識が世界全土に隠蔽もされず広められたのは流石に予想外だった。そしてその理由が、隠しようがない程にそういう人たちが無双していたから、だったのはもっと予想外だった。身体能力がおかしいだけの吹雪など、誤魔化すのは楽な部類だったのである。背中から生やした炎の翼で空を飛ぶなんて物理法則もへったくれも無い事を公衆の面前でやられたら、秘匿のしようなんてなかったのだ。

 なので、世界から最精鋭の艦娘を集めると超能力者集団になってしまうのは、なんかもう色々仕方のない事だったのである。

 

 そもそも、超能力者と言うのは深海棲艦の到達前から実在していた。宮里艦隊なら初春がそうであるし、米国にはその能力で犯罪行為を行う集団も存在していたという。なんともなれば、英国では魔法使い同士が少し前まで抗争を行っていたし、中国には仙人が実在しているらしい。

 ただ、肝心のその能力は非常に小さなもので、深海棲艦に太刀打ちできるような人間はほとんど存在していなかったという。昨今現れ、その全員が過去の艦の魂との感応能力を持っている彼女達は、そちらに詳しい専門家からしても異常な存在なのである。

 どうしてそんな存在が突然現れたのか? 過去には存在していなかったのか? その答えを知る者は居なかったが、その力が深海棲艦に通じるものであったことから、その正体について大きく支持を集めている仮説が一つあった。

 彼女達超能力者は、深海棲艦に対抗するために人類が生み出した、免疫細胞の一種ではないだろうか。

 あくまでただの仮説なのだが、この説は全世界的に注目を集め、実際に信じ込んでいる者も多かった。集合無意識の実在と深海棲艦の台頭と超能力者の活躍を結びつける者は、意外な程に多かったのである。

 そして実は、特に陰謀論者とかが好んで信じ込むだけの根拠が、一つあるのだ。それは宮里の目の前で馬鹿みたいな高笑いを上げて頭の悪い会話を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

「初めまして宮里艦隊の皆々様!! 艦娘の作法に則って艦名で名乗らせていただきますが、わたくしの名前はヨークタウン!! アメリカ初の空母艦娘にして、同国の艤装建造の第一人者ですわー!!!」

 おーっほっほっほ!

 出発前、宮里艦隊の面々は米国の英雄達と対面するに当たり、英語での応答が必要になると覚悟を決めていた。一応、宮里を始め長門、龍驤、川内ら自衛隊組と、それに文月が会話までこなせるためそこまで問題にならないだろうとされていたが、それでも多少の緊張を持って邂逅に臨んだ彼女達にぶつけられたのは――非常に流暢で現地人並みの語彙力を持ち何故かお嬢様言葉な普通の日本語であった。

 ヨークタウンと名乗る金髪の美女は言った。自分は親日家を越えた親日家、むしろ心のふるさとは日本であると。いっそ帰化したい。国籍移したい。日本に住みたいと、そう言った。国際問題である。

 ヨークタウンは大金持ちである。それも現在進行形で資産が増えている、超大金持ちである。ついでに言えば自分でも言った通り艤装建造の第一人者で国家レベルの偉人である。いろんな意味で拠点を移すとなると大惨事なのだ。問題が多すぎてそもそも認められないだろう。きっとどちらの国からも。

 そんな冗談なのか本気なのかもよく分からないような発言に、答えたのは吹雪だった。

「WELCOME(ようこそ)」

 その発言は、何故かその場にいた米艦娘の半数に意味が通じた。通じてしまった。それ以来、どうも吹雪は気に入られてしまったのか、ヨークタウンに熱烈なラブコールを受けているのだった。

 

 

 

 

 

「ですので!! もし公務員をお辞めになる事があったなら是非ウチの門戸を叩いてくださいませ! お給料は弾みますわよ!!!」

「追い出されたりしたらお世話になります」

 今もいつの間にやら、話が土地の貸し借りから雇用についてに変わっていた。話術が凄いというよりは、完全にノリだけで話していたためとっ散らかり、あらぬところに着地しただけだったようだが、日本という国にとっては割と脅威である。

「うちの最大戦力を引き抜こうとするのは止めて頂けませんか……?」

 おそるおそると宮里は会話に割り込んだ。本当に、この美少女――吹雪に何かあると大問題に発展するのは確定的だったからだ。この島の事だって色々と面倒な事情が重なった結果なのだ。おかしな事態に積極的に持って行くのは本当に止めて頂きたい。

「大和さん! 貴女もですわー!! 我が社なら今の3倍のお給料はお約束できましてよ!」

 だというのに、肝心の金髪美女――ヨークタウンはこの調子である。宮里だって割と重要な立場な訳で、当然承諾する訳には行かないと彼女も分かっているだろうに。まあ尤も、これは別に吹雪や宮里に限った態度ではなく、秋雲や夕雲にも行っていた事であり、そうするのが彼女にとっては普通で当然なだけらしいのだが。

 そう、この女傑ときたら、優秀な艦娘全員――即ち、作戦に参加した全員に一度以上は勧誘を行っていたのである。人材収集癖、とでも言えばいいのだろうか。最初は冗談で言っているのかと思ったが、ヨークタウンの妹、ホーネットによれば全て本気であるらしい。非常に頭が痛そうな表情でため息交じりに教えてくれた。

 そしてこれが陰謀論者達の根拠の一つだった。実は彼女の会社には、超能力者であると言われている艦娘が大勢所属しているのである。その上、ヨークタウンは提督の能力まで兼ね備えていたりする。さらに言うのであれば、彼女の人材収集は、深海棲艦が襲来するより前から行われていた。何かを感じ取ってしまう人達が何かを感じ取ってしまうのは必然であった。

 彼らの主張はこうだ。

 ヨークタウンは集合無意識から何らかの知識の供与を受けており、それを独占する事で経済を牛耳っている! そして超能力者達の事も知り得て、戦力とするために搔き集めているに違いない! 他の秘密結社と結託して裏から世界を支配するつもりなのだ!

 宮里からしたら目の前のこの女性にそんな野望があるとはまるで思えないのだが、それとは関係なく世間にはそういうご意見の方が結構いらっしゃった。笑えない話であるが、当人は気にしていないようなので胃が痛いのは妹の方だろう。

 

 それにしても、と宮里は思う。吹雪のヨークタウンに対する態度は、少し変じゃないだろうか。

 吹雪は人見知りする。これは上官として過ごして来て間違いないと確信を得た事実だった。吹雪は基本的に、というか初雪のような例外を除き、交流の浅い年上に砕けた態度を取る事はまず無い。それどころか、慣れた相手に対しては駄々洩らしする感情も初対面の相手にはあまり見せる事はないのである。

 それがどうだろう、今朝ヨークタウンやホーネット、それにエンタープライズ等を相手にする時は初手からネタに走っていた……らしいのだ。宮里には分からなかったが、そういう返答だったらしいと秋雲は言っていた。何故か通じてしまった事に彼女も首を捻っていたが、それはともかく。

 これはかなりおかしい。吹雪に関して普通よりかなり知っている宮里の認識では、それは友人程度には心を許している相手にしかしない態度だった。初対面のはずのヨークタウンにそれをするのは、はっきり言えば異常事態なのである。

 もしや何らかの方法で事前に知り合っていたのではないか、と宮里は疑った。方法としては二通りが考えられる。普通に日本とアメリカの国交が回復した後にこっそりと接触したか、もしくは、そもそも海が赤に閉ざされる前から知り合いだったかである。

 前者なら問題はあるが、普通の事だと思える。吹雪の名は各国に轟いているし、接触を図ろうとする組織は多かったのだから、その中の一つが成功していたとしておかしくはないだろう。防諜に失敗しているという事なのであってはならない事態ではあるが。

 後者だとしたら、大問題である。最悪の場合、日本政府への義理よりヨークタウンへの義理の方が大きい可能性すら生まれてくる。

 ヨークタウンは以前から超能力者の収集を行っている。その情報源がどうなっているのか、識別方法は何なのか、その辺りは一切不明であるが、吹雪が対象になっていたというのは有り得ない話では全く無い。というかむしろ、別の国からも普通に引き抜いていたその勧誘の対象に吹雪がなっていなかった事の方が不自然なくらいなのである。

 吹雪の戦闘力は異能者の中でもとりわけ強力だ。それは同じ異能者へのインタビューで発覚した事実だった。実際どちらが強いのかというふざけた質問を受けた、イタリアの少女の返答はこうである。

 

『え? 戦う? 国ごと滅ぼされたいの?』

 

 そんな事もあり、日本は今、吹雪を失うわけにはいかないのだ。現在、吹雪は日本の立場を支える柱の一つとなってしまっているのだから。

 

 

 

 

 

 結論を言うのであれば、吹雪の偉業は流出し、世界中にその存在が認知され、彼女や奇跡の芋の技術を抱えた日本国の発言力は国際社会において無視できないものとなった。

 

 順を追って話そう。北海道沖での一大決戦が終わった後、日本全土はあっという間に変色海域から解放された。

 これはあの戦いの後、目に見えて深海棲艦の数が減ったのが主原因である。最悪の時期を乗り切った日本艦娘達にとって、主力をほぼ失った雑魚の集団など物の数ではなかったのだ。

 勿論、吹雪の成果に対し疑いを持つ者は上層部にも多かったが、深海棲艦の残骸で出来た真っ黒な金属島を見せられてしまえばまともな反論も浮かばない。出撃していた艦娘達からも目撃証言は相次ぎ、さらには映像も残っていたために、吹雪の成果は現実にあったものだと公式に認められてしまったのである。

 隠蔽しようという意見もあった。後々の火種になる事は間違いないし、これを公開するのは本人の人権の問題を鑑みても悪い影響が大きすぎるのではないかと懸念されたからだ。だが、残念な事に、議論が十分になされる前に映像が流出したためそんな事は言っていられなくなってしまったのだった。

 そうして吹雪はいろんな意味で大人物として祭り上げられるようになったのだ。尊敬、畏怖、憧憬、危惧、嫉妬……本人は様々な感情をさらに受けるようになってしまったが、統治の観点で言えば、吹雪はかなり役に立った。吹雪と大決戦の存在は、徴兵の必要性の大きな根拠となったのである。

 当時、政権の支持率は割と崖っぷちだった。必要だからと言って日本で下限12歳の少女の徴兵などを敢行すれば当然なのだが、吹雪の存在は追い詰められた彼らを突き落とす事は無く、むしろ少しだが陸地の方へと引き戻したのだ。徴兵、もとい召集を行わなかった場合、日本は壊滅していた。件の映像はその事実を完璧に映す資料でもあったのである。

 そうして国内の安定化を図りつつ、異常な発展を遂げ超農業大国と化していた北海道から多数の技術も吸い上げ、日本は海外へと手を伸ばして行った。その時も当然のように吹雪は最前線を駆け抜け、その異常性をまざまざと各国へと見せつけた。自重する気は全く無かった。何しろ人命が懸かっているのだから、本人も周囲も止めなかったのだ。止められるとしたらその国自身からの停止命令だったろうが、それすら出る事は無かったのである。

 これに関しては最初にアメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスと手を組めたのが大きかった。色々な問題はあったが、少なくとも常任理事国の承認を受け、国際連合由来の大義名分で動けたからである。不自然に承認は早かったが、おそらくはどこの国も変色海域が長く続くのは不利益しかないと判断したからだろうと言われている。

 それともう一つ、早さの原因だとされている噂があった。これはただの噂であり、証拠の得られた話ではない。だが、各所で出ているのだ。日本のある偉いお方が、多くの国の首脳陣に先に説明して回っていたという、不可思議な噂が。変色海域だったはずの海を抜け、希望を伝えに来たという、荒唐無稽な噂話が。

 閑話休題。そんな理由もあり、吹雪は今や世界的な有名人なのだ。飛び抜けた戦闘力に恵まれ過ぎた容姿、そしてジャパニーズHENTAIスキーな彼女は本当に、いろんな意味で有名人なのである。

 その吹雪に日本から脱出されると、確実にいろんな面で不味い事になってしまうのだ。深海棲艦との戦いは、正直に言えば今となっては吹雪抜きでもどうにかなる。問題は吹雪がそこ以外でも重要人物になってしまった事だ。超英雄である彼女が居なくなったらそれだけで政権不信に繋がり、国は荒れる。そして今の微妙な国際情勢では、少しの荒れが崩壊に繋がりかねない。付け入る隙に付け込み少しでも自国の利益を確保したい、そんな国で世界は溢れかえっているのだから。

 最早日本国に所属してくれているだけで利益になる。吹雪は今、そういう存在になっていたのである。

 

 

 

 そしてこれがまた、大きな問題なのであるが。

 実は、日本国は吹雪に対して行うべき事を、一つ、やり切れていない状態であったりする。

 それはかつての一大決戦の事後処理。

 即ち、吹雪の退じた姫級並びに鬼級に懸けられた、賞金の支払いである。

 

 実の所、本人がまともに数えていなかったために、その斃した数がはっきりとはしない。故に、その総額も考え方によって大きく変動するのだが、数字にするのであれば、それは最小で百兆円、最大で千兆円ほどとなる。急造故の不備か、はたまたわざとか、艦娘への報酬は上限等の設定が無かったのだ。

 当然ながら、それは支払おうとすればそれだけで大問題が生ずる金額である。隠ぺい意見もおおよそ、これが原因で発されていた部分があった。何しろ映像で確認できるだけでも何処かが傾きかねない数だ。特殊事例としてある程度の額で済ませてしまおうというのは、全く以て自然な提起だった。

 何より、吹雪自身もそうなるのを望んでいた。そもそも普段から貰っている給料で何の不満もない吹雪にとっては、国に影響が出る報酬などまったく有り難くない物だったのである。

 当事者も国もそう望んでいたため、本来ならさしたる問題にもならずこの話は収束するはずだった。後々国民に説明は要るだろうが、規模を隠蔽してしまえば誤魔化しもかなり効く筈だったのだ。だがしかし、その議論に結論が出る前に、証拠映像そのものがネットの海に流出し、戦いは人々の知る所となってしまった。

 そう、吹雪への報酬の支払いが真っ当に行われる事になってしまったのは、只々、それが民意だったからである。

 そもそも召集については賛否両論ではあるが、賛成意見であっても『他にしようがないから』『対案がないから』『良い事だとは思わないが』などの枕詞が付いている。そんな状態で最低限の保障として約束されているはずの報酬すら未払いとなればどうなるか、末路はもちろんお分かりですね? 国家が未成年をこんなウラ技で騙し、人権を破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。国民投票も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね!

 こう言われて、困ったのは政権である。吹雪は自分達の支持率を守ると同時に完全に崩壊をもさせる、アキレス腱となってしまったのだ。

 というか、マジで払わされると困るのお前ら国民なんだけどいいの? と言いたくなった高官たちは考えた。考えに考え抜いた。そうして本人との話し合いも交え、どこぞの楠木からの助言等もあり出た結論は、現物支給と免税であった。

 つまり、吹雪は与えられたのである。向こう数万年、一切税金を請求されない、新たに出来たばかりの真っ黒な大地を。

 これには吹雪を日本から脱出させないように持ち出せないものを持たせておきたいという思惑も絡んでいたのだが、それはともかく、これを打診された吹雪はその時こう答えている。

『あー……まあ私みたいなのが管理しておいた方がいいのかもしれないですね。呪われてそうですし』

 オカルト事案が実在するこの世界においてはなんとも洒落にならないコメントであった。

 また、この黒い島が棲艦島と名付けられたのもこの頃である。深海棲艦の残骸で出来ている事と、所有するならその内艦娘である自分が棲むかもしれないからと吹雪が短絡的に名付けたと言われている。

 

 余談であるが、この時、土地以外の報酬も直接的な金銭以外の方法で支払われていたりする。その中の一つには、吹雪自身が出した要求もあった。

 その内容は、日本のサブカルチャー……所謂オタク文化の支援と保護である。そしてその一環として、吹雪はかつて制作されなかった、一部のアニメの続編の制作を打診した。

 

 めだかボックス球磨川事件編、テレビアニメ鋭意制作中!

 

 まあそんなこともあり、吹雪は手を出せば洒落では済まない存在と化しているのである。故に、ヨークタウンの行動は大問題なのだ。

 土地の移譲もよろしくない。その意思があると思われただけでかなり上は荒れるだろう。離反の意思有りと見られたっておかしくない。英雄を繋ぎ留められなかったなどと思われれば国民感情の悪化は目に見えているのだから、神経質になりがちなのだ。

 尤も、宮里から見たら、日本政府の懸念は杞憂も良い所である。吹雪は根本的に、愛国者なのだ。

 と言えれば少しは格好が付いたのかもしれないが、実態はかなり違う。

 吹雪は、外国の言葉が一切分からないし、学ぶ気も無いし、一朝一夕で自然に身に着けられるほど頭がよろしくないのだ。

 ぶっちゃけ、アニメや漫画、ゲーム文化を潰そうなどと考えない限り彼女はまず日本を離れようなどとは考えすらしないだろう。何せ人命が懸かっているからこそ海外遠征も許容したが、外国へ出向くの自体はむしろ少し嫌そうなくらいだったのだから。言葉の壁というのは分厚いのである。

 というか、何故自分がお目付け役みたいになっているのか。立場的に仕方ない部分はあるのだが、政治にはまるで詳しくないのだけれど。無言の妹に後頭部をどつかれて昏倒し引き摺られて行くヨークタウンを見つめながら、宮里は密かに溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 吹雪周りで問題が起こらないよう監視しながら休憩していた宮里は、やはり異能持ち同士の仲が少し良すぎるような気がしていた。格闘と剣術で模擬戦して辺りを吹き飛ばしそうになりホーネットによって投擲されたスチール缶で両者撃沈された吹雪とアークロイヤルを驚愕の瞳で見つめながらの感想である。どうやらホーネットはツッコミ役に無事就任したらしい。吹雪に当てた……!? と自身の評価が急激な高騰を見せているのに気付いた様子はない。

 この島に寄ったのは多くの艦娘が行ってみたいと言い、航路的にも離れていなかったのが理由である。おそらく各国とも情報が得られるようなら抜いて来いと言い含めてあったものと考えられるのだがそれはともかく。

 到着した途端にお金の匂いがしますわー!! と吹雪との商談に入ったヨークタウンは元より、島ごと動かせそうだけどやってみていいかと聞きに来たレーベレヒト・マース、穢れが溜まり過ぎててイギリスと同じようなの湧くわよと忠告に来たウォースパイトなどに対しても吹雪は初めから感情を隠す気がないようだった。ちなみに全員とてもネイティブな日本語を嗜まれていらっしゃった。違和感しかない。

 文月が周囲に乞われてライブパフォーマンスを始めれば異能力を持った娘達は全員それにノリノリで参加していたし、多くが秋雲の描いたイラストに興味を示していた。中には吹雪に直接あのアニメの続き見たいから打診しといてくれと頼んでいる娘まで見られる始末。いくらなんでも趣味が合い過ぎである。違和感しかない。

 また、吹雪以外の別の国同士の艦娘も何かやたらと親し気で、普通の友人のように話をする娘も居れば、持ってくるの忘れたから次会った時に返すわなどと何かの貸し借りについて語り合う連中まで居た。しかもなんでか完璧な日本語で。いつの間に共通語に就任したのだろうか。違和感しかない。

 そして、その彼女達は、全員が美人であった。複数を並べた場合その圧倒的な存在感と輝きを前に、平凡な日本人女性である宮里などは近くに居るという事実さえ掻き消されてしまう程に、そいつらは神の造りたもうた芸術品のごとく、美人であった。なんで強さと美しさ両立してるんですかねこの人たち。違和感しかない。

 総じて強力な異能を持った艦娘達は、超美人であり、吹雪と似たような趣味を持ち、日本語を自在に操り、互いに何らかの親近感のような物を抱き合っているという、不審極まる存在だったのである。宮里の目には知り合いを通り越して友人関係としか映らなかったのだが、それは普通に考えたら有り得ない事である。どう報告した物かと考えすぎて、そろそろ頭が痛くなってきた。

 もしかして日本にとてつもなく有利な環境が知らず構築されているのではないかと宮里は思い至ったが、どうしてそうなったのかは全く予想が立てられない。できれば吹雪に沙汰が及ぶような報告は上げたくないのだが、意味不明すぎて見たままの証言をする以外にどうしようもなさそうだった。

 

「宮里提督」

 腰の下部まで届く長い黒髪の少女が話しかけて来たのは、そろそろ棲艦島を発ち出発した港へ戻ろうかという頃合いだった。背中に同じくらいの長さの白髪の美少女を背負っており、どうにも気に入られてしまったようだというのが見て取れる。

 少女の背丈は小学生の高学年か、下手をすれば中学年程度しかない。これは背負われた白い少女も同じだが、どちらも外見相応の年齢という訳ではなかった。改二の副作用でこうなってしまっただけで、本来はどちらも成人女性なのである――と宮里は思っていたが、白い方に関しては成人しているのは本当だが、元々身長はこんなもんであった。

「どうかしましたか、教官長?」

 教官長、暁。改二になってからあっという間に縮んだその自衛隊員は、心底困った様子で宮里に助けを求めてやって来た。

「あの、私、何故か他国の艦娘の皆からすっっっごく誉めそやされるんですけど……」

 なんでですかね? と暁は本気で理解できていなさそうな困惑顔を見せて来た。背の美少女、ロシア所属のヴェールヌイがかわーいなやと呟いた。

 そもそも暁は今回の作戦、まったく活躍していなかった。暁は非常に高い技量を持っているが、その能力は敵が端から溶けて行くような異常な戦場ではまったく発揮されなかったのだ。そのため本人の視点だと、後ろで不測の事態に備えていたら滅茶苦茶褒められたという訳の分からない事態に陥っていたのである。

「この子はまあ、わかる……のです。同型艦の改装した姿だからか、私もなんとなく接しやすいですし」

 でもそれ以外に関しては全く分からない。暁はどういう訳か、謎の美少女超能力者軍団やそれ以外の普通の精鋭艦娘からもやたらとその能力について賞賛されてしまったのである。直近ではそんなに大活躍をするような事件そのものが無かったのにもかかわらず。

 褒められるのが嫌な訳ではないが、理由もなく褒められるのは心地が悪い。何らかの誤解があるなら問題が起こらないうちに訂正しておく必要もある。だからとりあえず、提督であり知り得る事が普通よりは多い宮里に心当たりがないか聞きに来たという次第だった。

 そして宮里は、その理由に大体見当がついた。

 宮里は黒い浜辺で島風や文月、リベッチオ、丹陽、エンタープライズらと一緒になって連装砲ちゃんに構い倒している吹雪に、微妙な表情で目をやった。

 つられて暁もそっちを見た。それで彼女は大体の事情を察してしまった。

「先週、文月の配信でゲストに出た吹雪と一緒に、図解まで付けて大げさなくらいに褒めていたので、その影響……ですかね」

「良い配信だったよ。日本の広報は恵まれているね」

 暁は無言でヴェールヌイを降ろし、吹雪と文月に抗議の鉄槌を下さんと駆け出した。

 

 

 




今までも酷かったですがここからは別ベクトルで酷くなります。
いつも通り作者は楽しいので止められない止まらない。
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