転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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集合無意識ちゃんはおしまい!

 はっと正気を取り戻すと心配そうな表情の連装砲ちゃん達とベイ、それと呆れた様子の浮輪さんたちがこちらを見つめていた。突然私が自分の頭をぶん殴ったりしたものだから少し驚かせてしまったようだ。気絶とかはしてないから本当に何やってんだこいつ……ってなっただけだろうけどちょっと罪悪感。

「だ、大丈夫……?」

「みゅー?」(いたい?)

「きゅー?」(いたくない?)

「きゃー!」(いたいのいたいのとんでけー!)

「大丈夫、ちょっと自分のバグ修正してただけだから」

 首を傾げる連装砲ちゃんとなんとも言えない表情になるベイ。浮輪さんは声を出さずに身振り手振りでやれやれだぜとどことなくダンディな調子で伝えてくる。宙に浮かんだ掲示板のログを目の端で見るとそちらもちゃんとした文章に変わっており、誤訳はあるかもしれないがとりあえず文章としての問題は無くなっていそうだった。うむ、しっかり直ったな!

「吹雪は何ていうか……いつもいつも通りだね……」

 心配してくれた連装砲ちゃん達を撫でていると、ベイがふふっと控えめな笑顔を見せた。褒めてるっぽい言い方だがあんまり褒められてる気がしないのは何故だろう。

「私の場合ある程度平常である事が能力に含まれてるっぽいから」

 その方が強そうな感じがする、というのは私のチート能力さんにはとても重要な要素だ。すぐ焦って取り乱すのはあんまり強くなさそうだからね。いつでも実力を発揮できるのはすごく大事なのだ。

 

 ――知らん……何それ……怖……

 

 って思ってたんだけど違うらしい。じゃあただの素か……

 チート能力さんの声はベイにも聞こえていたらしく、可愛らしい表情で目をぱちくりと瞬かせた。この子多数の人格持ちの脳内会話も読み取れるとかで私がチート能力さんと話してると内容丸聞こえなんだよね。やだ、勘違いしてたのバレちゃった。恥ずかしい。誤魔化そ。

「ベイはこれから浮輪島?」

「あっ、うん。これからほっぽちゃんに送ってもらって…………予定通り、あっちで終わるよ」

「そっか」

 今日は人類の転換点。集合無意識消去の日――即ち、集合無意識依存の肉体を持つ転生者たちとのお別れの日である。

 

 ベイは少し寂しそうというか、名残惜し気な様子だった。この場所、棲艦島のリンカーネイション本社ビルの最上階一個下のフロアの談話室で今日遭遇したのはただの偶然だったのだけれど、チートの習得とかで私との係わりは深い方だったのもあり、この別れをかなり惜しんでくれているらしかった。

 二人とも少し無言で連装砲ちゃんを撫でまわす。浮輪さんのちっちゃいおててもにぎにぎする。うむ。なんか満足。ベイ本人に対して言うべき事は特に無い。別れは悲しいけれど、マジで言う事は特に無い。だってそういうの昨日までにやりつくしてるから。消滅日時決まってもう十年以上経つからね。言うべき事とかやるべき事とかしっかり済ませて今日という日を慎ましやかに迎えているのである。

 お別れ会とかを盛大にやったりはしなかったんだよね。我々はどちらかと言えば陰寄りの人間が多くて、そういうのを好む人種は少なかったからさ。社長とかは結構好きなんだけど、皆の好みを無視しても楽しくならないってのは流石に重々承知だった。つまり何度もやらかしているという事であるが……まあ、嫌われていないどころか雑ながら愛玩されてた辺り加減は適切だったんだろうなぁ、あれはあれで。

「吹雪も浮輪島に来る……?」

「うーん」

 魅力的な提案である。浮輪島というのは地球上で見つけて保護した浮輪さん達の棲む隠れ小島の事だ。地図上には記されておらず、一説によると百万以上の浮輪さんがそこには暮らしているという。浮輪さん、なんか地球固有種だったらしくて他の星だと見つからないんだけど、なんでかどの子も無害なんだよね。そんな子達を殺すのも可哀想だという事で、意思疎通可能なベイの所有するその島で保護してもらっていたのである。

「行きたいけど……浮輪さん達の邪魔するのも悪いし、実は人待ってるんだよね」

「そっか」

 浮輪さん達はなんでかベイが大好きである。会話ができるというのもあるんだろうけど、それ以上の何かがたぶんあるんだと思う。だって同じく会話できるようになった私にはあんまり懐かなかったし。護衛棲水姫だからかな? 私が怖がられてただけという説もあるけれども。

 私とベイは暫し連装砲ちゃんと浮輪さんたちと戯れた。ベイもほっぽちゃんを待っていたらしく、お互い暇だった結果である。二人とも言葉少な目で遊んだが、私達は基本そんな感じなのだ。なんというか、どちらも他に合わせてテンションが上下する性質なのか二人だけだと終始静かになるんだよね。それで楽しくないなんて事もなく普通に良き友人兼師弟としてお付き合いしてたんだけど、これで二人とも言語チート持ってるってマジ? 語彙力に比べて言葉数が貧弱過ぎるだろ……

 

「ベイおまたせー……あれ、吹雪だ」

 十分ほどして、こげ茶色の髪を特徴的なサンバイザーで留めた私服姿の龍驤さん……もといほっぽちゃんが突然姿を現した。ベイと同じく他転生者の力で姿形を変えていて、対外的には完全に龍驤として扱われていたりするのだが、何故か普通の龍驤さんよりかなり幼い……北方棲姫と同じくらいの外見年齢にされてしまっていたりもする。本人は遺憾だったようだが一部の人には大好評である。具体的にはベイとかベイとかベイ辺りに。

 ほっぽちゃんは朝の五時くらいから大忙しだった。何しろワープ能力なんて持ってるものだから、お気に入りの場所や相手と終わりを迎えたい皆とあっちこっち飛び回る事になったのだ。昨日深夜までお別れと全く関係ない定例のゲーム大会してた我々のせいなので本当に申し訳ない。優勝しました。

 そうして朝までごろごろしてたみんなを叩き起こし、リクエスト通りの所に送ってやったほっぽちゃんが最後にやって来たのがベイの所だったという訳である。ちなみに現在時刻は午前八時。支度させたりしてそれなので実質二時間くらいで仕事を終わらせてしまっている。えらい。

「吹雪も一緒に行くの?」

「いや、たまたま居ただけ」

 邪魔する訳にもいかんしね。とは言わないけれど、ほっぽちゃんは大体察してしまっているだろう。実はほっぽちゃんの本日最後のお仕事はベイを運ぶ事なのだ。ほっぽちゃんは大の仲良しなので、今日は二人して浮輪島へと赴く予定なのである。この雪ちゃんは間に挟まったりしない善い雪ちゃんなのでちゃんと転移を見送るから安心して出発してほしい。いや別にこの子らが恋人同士とかって訳ではないんだけどね。

 ほっぽちゃんが私の言葉に軽く了解の返答すると、突然寂しそうな声をした連装砲ちゃん達がほっぽちゃんに跳び付いた。みんな今日で最後だと分かっているから仲の良かった子との別れは辛いものがあるのだろう。私やベイに付き合って一緒に構ってあげてたからなぁ。

 もみくちゃにされるほっぽちゃん。背が低いから一人ならともかく複数に群がられると簡単に圧されてしまうのだ。実体は深海棲艦ボディだから質量は割とあるはずなんだけどね。ほっぽちゃんは仕方ないなとぽんと少しだけワープして、勢いで転がった連装砲ちゃん達を一人一人丁寧に助け起こした。

 いいこいいこと頭を撫でられる連装砲ちゃん達。この子ら一応一万歳超えてるんだけど、かわいいからいいか。気持ち良さそうだし。あとベイもちっちゃい子を撫でながら窘めるように少し困ったように微笑むほっぽちゃんを見て声を出さずに恍惚の笑顔で昇天してるし。お前ほんとなんでその趣味ほっぽちゃんにバレないの?

 連装砲ちゃん達を宥めすかしたほっぽちゃんは涎でも垂らしそうな表情のベイへと歩み寄ると、行こっかと言ってその片手を握りしめた。一瞬で普通の笑顔に戻ってうんと頷くガンビア・ベイのような不審者。お前凄いな。色々と。

「それじゃ吹雪も連装砲ちゃんも元気でね…………またね」

「またねー」

「うん。機会があったらまたよろしく」

 この世界で会う事は二度とないんだろうけどね。我々はまた転生するのが確定している上に今後複数を送り込む世界もあると明言されているのでまた会える可能性は普通にあったりするのである。まぁ凄く低い確率なんだろうけど……なんか転生者百万人くらい纏めてぶち込まれた世界とかあったらしいから期待できない事もないだろう。

 

 我々の今後とかについては自称魔法使いのあの子から直接聞いた話である。この一万年の間に何度か会う機会があったからね。どれもこれもバグ利用みたいな方法だったし私は他転生者とかの付き添いばっかりだったからお願いとかはあんまり聞いてもらえなかったけど、質問にはちゃんと答えてもらえたのだ。

 直近で会ったのは五十年ほど前。叢雲と模擬戦をした時である。しかも原因は私ではなく叢雲の方。叢雲ってば、槍の一撃で世界の壁を突き通してあの子の居る空間とこの世界を繋げてしまいやがったのだ。おかげで転生が確定したのは良いのか悪いのか。とりあえず槍で襲い掛かって返り討ちにされてたから喜んではいなかったみたいだけども。

 ちなみにその時に回収予定の魂について聞いたんだけど、まぁ……なんていうか……多いなぁって感想になりましたねはい。なんでかって言ったら、この世界の艦娘ってその個人個人で本当に姉妹みたいになる『特別な姉妹艦』ってのが居るんだけど、転生者のそれになっちゃった人達が全員回収候補に入っちゃってたからなのだ。

 つまり私で言うと今マザーやってる初雪とか招集時代から一緒だった深雪や叢雲、浦波、東雲、その1000年以上後に加わった白雲、それと最近できた白雪も対象だろう。リベッチオなら元々転生者だったシロ猫はともかくマエストラーレとグレカーレが居るし、丹陽なら秋雲先生と風香の母である天津風さんを含めて7人、フレッチャー級なんてそれだけでこの世界に投げ入れられた転生者の数を越えている。アメリカの生産力ェ……

 『特別な姉妹艦』以外にも回収候補の人達は居て、宮里提督や長門さんを始めとした旧宮里艦隊の面々は概ねみんな名前を挙げられてしまっていた。私達と同じ扱いになるらしいからそんな酷い事はされないと思うけど、塩漬けにされる可能性はあるのでなんとも言い難い。ちなみに教官長に関してはもう送る世界も作ってあるとの事なので凄くお労わしい事になるのは間違いないだろう。まぁあの人ならなんやかんや何とかするのだろうという確信はあるけどね、次元に穴開ける叢雲と普通に戦えるし。

 あと、変わった所ではベイがよく連れ歩いてた三人の浮輪さんと風香の連装砲ちゃん達も回収確定組である。

 浮輪さんと連装砲ちゃん達も回収確定組である。

 マジで何考えてんだあの幼女。と最初は思ったんだけど、たぶんベイや風香に配慮した結果なんだろうと考えられるので難しいところだ。でも一万年幼女(明確な性別は無いけど人格的には女の子寄りらしい)やった連装砲ちゃん達って転生したらどうなるんだろ。私達と同じような転生させられたら幼女力が抜けないような気がしてならない。

 

「あ、連装砲ちゃん達の事お願いしていい……?」

 申し訳なさそうに頼んでくるベイに首肯で答えを返すと、じゃあねと笑って二人と三人は浮輪島へと跳んで行った。きっとここから時間まで浮輪さん達と遊んだりするんだろう。ちょっと羨ましいかもしれない。

「……連装砲ちゃんどうする? 風香のとこ行く?」

「みゅー」(いくー)

「きゅー」(おわかれしたのいいにいくー)

「きゃー!」(またあえるといいね!)

 よし。じゃあ風香探すか。一応人待ちしてたんだけど、別にここで待ってる必要は実はないんだよね。最後の一仕事をしてるはずだから、連装砲ちゃん達を送り届けた後にこっちから出向いたっていいだろう。私は連装砲ちゃん達を頭の上に積み上げて、談話室を出発した。

 

 

 

 

 

 探す、と言ってもどこに居るかはおおよそ察しが付いていたので風香はすぐに見つかった。リンカーネイション社本社ビル、その屋上に設置された集合無意識ぶっ殺しゾーン生成マシンの最終メンテナンスをみんなで手伝っていたのである。

「電圧魔圧霊圧異常なーし」

「魂圧異常ありー」

「ごめん魂サーバーとの接続切り忘れてた」

「マザーがまたミスしてる……」

「ごめんて」

「実行時間までに完璧にしてくださればいくらミスされても構いませんわよー!!」

「えっ、じゃあこないだ食料プラントの設定間違えて大量にドリアン作っちゃったのも許してもらえる……?」

「おうっ!?」

「責任をもって消費方法を考案しなさいよ。でないとあなたの義体、ドリアンを燃料に稼働するように改造するからね!」

「やめて天津風さん……私あれ苦手……」

「では私がいただこう」

「えっ……プラント一個分だよ……?」

「いただこう」

「胃腸に自信あり過ぎですね!」

「喰ッたモン魔力に変換する術式は胃腸の力に入らねェだろ」

「そんなの身に付けないで欲しかったんだけどね……」

「魔圧低下ー……なんで?」

「すまない、ドリアンの事を考えていたらいつの間にか咀嚼していた」

「なンでどいつもこいつも新しい術式制御し切れてねェンだよ!!」

「魔力直接食べれるんだ……?」

「制御できてないのは術式じゃなくて食欲ですね!」

「好き嫌いせずになんでも食べれて偉いですわー!!」

「姉さん甘やかさないで!」

「飛龍、この調子で間に合う?」

「ギリギリだねえ」

「あはは、駄目だったらちょっと干渉するね。流石に」

 そこに居たのは技術者の皆さんと複数の転生者達、それと風香と天津風さんと初雪だった。各星に設置された子機の調整は終わってて残すは本体のみと聞いていたんだけど、なんか思ったより大変そうだな? まだ修羅場ってるって感じでもないけどあんまり邪魔しない方がいいかもしれない。

 わいのわいのとやっている皆にこっそりと私と連装砲ちゃん達は忍び寄った。それに一番最初に気付いたのは、当然というかセンサー類と繋がっているマザー初雪だった。

「あっお姉ちゃん……おはよ」

「おはよう。進んでる?」

 黒髪な初雪にあんまり進んでなさそうなのを承知で聞いてみる。そしたらスッと目を逸らされて、微妙と小さな声で呟かれた。昨日のゲーム大会にゲスト出演して深夜まで遊んでたのにこの有様なので言い辛かったものと思われる。

 今の初雪は新しいボディを使っていて、それに慣れるために色々な事を試している。その一環としての大会参加だったから別に責める気もないんだけど……まあ、本人的には出来らあっ! って言っちゃった手前バツが悪いんだろう。たぶん間に合いはするんだろうしね。

「連装砲ちゃん、ベイとお別れできた?」

 初雪に続いて風香が機械から離れ、こちらにぴょんっと虚空を蹴って跳んで来た。連装砲ちゃん達はミューキューキャーと私の頭から飛び降りると、揃って風香に抱き着いた。

「みゅー」(できたー)

「きゅー」(してきたー)

「きゃー!」(さみしいよぉー!)

 よーしよしよしよしと風香にあやされる末っ子気質の連装砲ちゃん。お別れの時は大丈夫だったけど時間をおいたら寂しさが増してしまったのだろう。他の2人も釣られてちょっとしょんぼりしている。かわいい。

「雪は……連装砲ちゃん達連れて来ただけ?」

「うん。邪魔だろうからすぐ降りるよ」

 調節とかがメインであって、力仕事とかは特に必要無いから仕方ないね。部品とかの運び込みは手伝ったけれど、今となっては私は全く役に立たない。風香はものづくりに関しては一流なので調整にも参加できるんだけどね。親子揃ってその辺りはとてつもなく優秀なのである。自分で造ったマシンで星間レース出場して一着とか普通に取ってたからね風香。脚で走るのもぶっちぎりだったからその手の競技では民衆の皆様から殿堂入りという名の出入り禁止としてお墨付きをいただいている。

「そっか。こっちは任せてゆっくり遊んできなよ!」

「調整はまかせろー」

「みゅー!」(えい!)

「きゅー!」(えい!)

「きゃー!」(おー!)

 気勢を上げる五人の姉妹。いや初雪は姉妹カウントでいいのか……? マザーとして考えると間違いなく姉妹なんだけど杏奈成分が混入してるせいで素直にそう扱って良いものか微妙なところがある。まぁ仲はとてもいいから問題はないんだけど……いいのか……? うーん……

 

 

 

 

 

「あ、雪ちゃん。おはよう」

「あれ、おはよう吹雪。珍しいね」

 私に気付いて挨拶して来た皆に手を振りながらリンカネ本社のエレベーターを降りて、そこそこ出入りする人達で賑わっているエントランスを通り抜けようとしたら、そこでばったりと吹雪に出会った。雪吹艦隊の吹雪……即ち、集合無意識から切り離されて一人の人間として転生した、沖縄で艦これを始めたあの吹雪さんである。

「殆ど本社に顔出さないのに」

「なんとなく気後れしちゃって……でも、これからの事で改めて挨拶しないとだから」

 吹雪は出自こそ特殊だが、転生者……それも分類的には契約者とやらで、次回の転生が確定している組だ。だから私達の間では完全に身内扱いだし、リンカネ社内でもきっちり幹部に名を連ねていたりする。でも、やっぱり原作キャラのカテゴリに入ってしまうせいかみんな一目置いちゃってるから、そこが気になってしまうらしかった。

 余談であるが、転生が確定している人達はみんな仲間扱いなので風香や教官長も身内として扱われていたりする。最近だと叢雲もね。

「本拠地の防衛をずっとしてたんだからもっと偉ぶってもいいくらいだと思うけど」

「私達からすると我儘でやらせてもらってたって感覚だから……」

 雪吹艦隊の皆さんは一万年以上ずっと日本の防衛に携わってくれていて、星外での名声は大きくないがこの列島への貢献度はかなりのものだと転生者内では高い評価をされている。何しろ我々が宇宙で好き勝手やってる間に家を深海棲艦やそれ以外から守護ってくれてた訳だから、これはもう当然の帰結だった。今日だって最後の最後、深海棲艦の存在が消えるその瞬間まで海を警戒してくれていたりするのだ。

 ただ、本人たち的にはそれは本能というか大本が軍艦である事からくる使命感の発散のために、無理を言ってやらせてもらっているという認識だったらしいのである。真面目な人達だなぁ。

「それで次は警察官にって皆さんすごい真面目だよね」

「あ、実はそれ人によってなんだ。隠居する人や他の仕事を始める人も居るんだよ」

 あれ、そうなのか。まぁ給糧艦の間宮さんとか伊良湖さん辺りはお店開いてたら繁盛間違いなしだもんね。食べた事あるけど料理バトル漫画にも出れそうなレベルだったし、他の人達だって一万年磨いた趣味の技能とかあるだろうからそっちに進む人だって当然居るのか。もし軍隊があったら大半はそっちに行ったんだろうけど、今そういうの無いもんなぁ。

「今日はそれでいくつかお願いしたい事があって、社長さんに挨拶にきたんだ」

 こんな時だけ特権を使わせてもらうのは申し訳ないけど。と吹雪は少し恥じらった。いやぁ、ぶっちぎりで幹部の特権使ってないしむしろ喜ばれると思うな。あの社長は貢献した人に報いれないの気にするタイプだから。

「社長なら屋上でメンテの監督してるよ。たぶん役に立ってなかったから喜んで対応してくれると思う」

「ええっ?」

 技術畑の人達とか嬉々として送り出してくれるだろうし、お願いも聞いてもらえるどころか大幅に色を付けてもらえる(強制)と思う。雪吹艦隊の人達がちゃんと考えて出した希望ならそこまで変なのもないだろうしね。

 わざわざ吹雪が今日来たのは、能力的に陳情ミッションかなんかがデイリーとかで出たんだろうと思われる。報酬は分かんないけど主観的に難易度が高い方が良い物が貰えるらしいから、そこそこ価値があるやつなんじゃないかな。あの社長は遠巻きに見てるとお金に関する事には凄くシビアで圧倒的なセンスの持ち主に見える。だからお金の掛かる上に儲けも大して出なさそうな事に出資してもらうのは酷くハードルが高いと感じていると考えられるが……実態としては財布に締めるだの閉じるだのといった機能が付いてないレベルだから心配しないでほしい。

「屋上……って入っていいのかな?」

「私達は個人の私室以外立ち入り自由だよ」

 本当に幹部の自覚薄いな……なんなら他幹部の直接関わってない研究の停止命令とかも個人の判断で出してよかったりするんだけど、一回も使った事ないんだろうなぁ。私も無いけど。

 っていうか社長室の下階にある拡張空間に吹雪の専用部屋もあるはずなんだけどこの分だと全く使ってなさそうだな。あのフロア、籠って出て来ない転生者とか居たりするせいでかなりのカオス空間になってて面白いのに。今度案内してみようかな、教官長が迷い込んで一週間かけて地図作成して脱出したエリアとか楽しい場所がいっぱいあるから。

 などと思いつつ、学生服のようないつもの制服で私に見送られながら受付に並んだせいで何者だと周りから滅茶苦茶注目を浴びている吹雪を背に、私は本社を後にした。なんか悪い事した気分!!

 

 

 

 

 

「わ……! あ、吹雪ちゃんか。おはよう」

「おはよ白雪。なにしてんの?」

 リンカネの敷地を出ようとしたら正門から通りをおっかなびっくり覗いている娘がいたので声を掛けたらなんか驚かれた。足音とか消して近づいたせいだよねごめんね。

「寮に帰るところ……なんだけど」

「もしかしてまた逃げてた?」

 うっと白雪は呻きを上げた。図星らしい。まあ、割といつもの事ではあるのだけれど、別に逃げんでも……

「あ、今日は金剛さんからじゃないよ」

「じゃあ艦隊の子?」

 うん。と首肯して、白雪は困り顔になった。困ってるのはたぶん艦隊の子の方だけどね。

「やっぱり金剛さんと仲良く見えるのは不味いのかな……?」

「いやそこは不味くはないよ。不味いのは白雪の認識だよ」

 そもそも見えるってなんじゃい。お前と金剛さん仲良しやろがい。

「…………! もしかして、金剛さんの件とは関係なく疎まれてる……!?」

「もうちょっと自己評価上げて?」

 むしろ逆なんだよなぁ。

「あの子らはツンデレ拗らせてるだけだと思うよ」

「いやだな吹雪ちゃん、ツンデレなんて現実に存在する訳ないじゃない」

 この世界には存在するが? 集合無意識の艦娘から影響を受ける艦娘は普通にツンデレになったりヤンデレになったりするが? いや普通は言い過ぎか。レアケースではあるもんね、白雪が普通カテゴリに入らないだけで。

「やっぱり新参者の私が前世の事だけで金剛さんに気に入られてるのは良くないんだよ……」

「そうだったらそうなんだろうけどさ……」

 お前金剛さん甘く見過ぎなんだよなぁ。あの人、別にお前の前世に関係なくお前の事好きだからね? 前世のお前と今世のお前が並んでたら二人とも獲りに行く。それが剛田 金奈枝という女性なんだから。

 

 真白=ホワイト=レーシェ=エンデ=ヴィヴ・沙雪は白雪の適性者であり、私の妹艦であり、提 督正の転生体である。

 数年前に存在を発見して、マザー初雪を介して色々調べてみたら、いろんな銀河の血を引いて名字がややこしい事になってる地球人の女の子だったんだよね。ちなみに名字は全部他言語(含別星系)で白という意味らしい。つまり名前に艦名が入ってる側なので容姿は整っていると思う。毎度の事だけどふざけてんのか集合無意識。

 最初に白雪……真白さんに接触した時、私達は一度会ってそれで終わりにするつもりだった。というのも、マザー初雪が例外なのであって、基本的には前世の人格と今世の人格は全くの別人であるからだ。本来なら接触自体するべきじゃあなかったのかもしれないけど、そこはなんかこう凄い偶然で所在が分かっちゃったから、盛り上がっちゃってね?

 その時の真白さんは私達の事が一目で分かったらしく、我々の名前がかなり売れているのもあってとても委縮してしまっていた。まあそれでも話自体はちゃんとできて、当たり前なんだけど、前世がアレにしては普通の女の子だなって印象だった。金剛さんは一度だけ抱きしめたりはしてたけど、それだけと言えばそれだけで、真白さんも前世の事を利用しようって人ではなかったから、本来ならそれで終わりのはずだったんだよね。

 問題が起きたのはそれから少し後。なんか真白さん、一念発起して艦娘になって、白雪適性で、私達の知らんうちに金剛さんの所に配属されちゃったんだよね。

 そこからは大変だった。金剛さんが根本的に人好きで白雪の気立てがとても良かったものだから、提提督とは全く関係なく、金剛さんは白雪自身の事を大好きになっちゃったのだ。何故か金剛さんが私のところに送ってくる怪文書を読んだ端から削除するのはここ最近では日課になってしまっている。妹に送れよ。いや送られても困るだろうけど。

 金剛さんは好きな相手の事は際限無しに好きになる。白雪は自分じゃなくて前世の提提督の事を好きなだけだろうと勘違いしてるけど、全くそんな事はない。あれは間違いなく一万年以上燃え続ける提督への想いとは別の炎が物凄い火勢を上げているだけである。バーニングラブの伝道師たる金剛さんがその辺りを混同するなんてのは有り得ない話なのだ。

 なんか前世の提督が結構な功績を残しているせいなのか、白雪は自己評価が低いんだよね。艦娘になったのが本当に最後で自力で戦果を上げられないってのも一因になってるかもしれない。そしてその状態で周囲に素直さと対極の娘がいっぱい居たもんだから、白雪視点だと不当に金剛さんに好意的に接されている自分はその子たちに嫌われているように思えてしまって仕方がないという訳なのだ。

 ちなみに白雪は今、私の家に住んでいる。数千年前から立て直したりしつつ寮として使われてるし、私は他の星に行ったり本社の部屋の方に泊ったりもするからあんまり私の家って感じでもなかったんだけど、アセンション計画のために最近はずっと地球に居る為、白雪とは同居状態なのだ。

 その上で、私と白雪は趣味が合う。発見場所からも分かる通り、白雪は私と同じくネットを徘徊して遊ぶタイプの人間なのである。それもあって、白雪は改二にもなってないのにかなり強い。計ってないけどたぶん適性値が万単位になっていると思われる。まぁ、今日これから意味は無くなるんだけどね。

 

「金剛さんは白雪の事普通に好きだと思うよ」

「でも金剛さん、前世の記憶と同じようなバーニングラブしてるよ? あれは提さんに向けた物だと思う……吹雪ちゃんへの態度と全然違うし」

 それは一万年以上の付き合いでほぼ親族みたいな付き合いになってるせいじゃないだろうか。いや昔から引っ付いたりはしてくるけど、あの人基本距離近いしそんなもんだよ。

「私へのはライクだから」

「吹雪ちゃん一万年前も同じ事言ってたけど絶対間違ってるよそれ……」

 提督の記憶を参照しながら、これだから吹雪ちゃんの意見は参考にし辛いんだよなぁと白雪は軽くぼやいた。今や傍から見てると珍獣だけど触れると危ないって扱いになってる私に対してこの遠慮のない物言い。これだから私の姉妹扱いされるんだぞお前。たぶん世間的にはその事の方が悪評に繋がるんだけど……内緒にしとこ。

 

 

 

 

 

 大した寄り道にもならないので白雪を家に送り届け、私は一路港にある工廠へと向かった。棲艦島の工廠はリンカネ艦娘の本拠地だけあって世界最高レベルの設備を誇る大工廠だったのだが、今はそんなに人気がない……かと思ったのだけどそんな事もなく、なんだか結構な数の艦娘達で中はごった返している。というのが外からでもはっきり耳へと伝わってきた。

 入り口で認証を受けてゆっくり内部へ進んでみると、そこは艤装に寄り添い集合無意識と交信するたくさんの艦娘で溢れていた。成程、お世話になった集合無意識内の艦娘に最後の挨拶をしているわけか。そりゃそうだよね、私だってやる予定なんだから。

 顔見知りも多かったので目の合った人と軽く会釈し合いながら私は奥へと進んで行く。艦娘の数は多いけれど動いている機器の音は少ないので、そいつの居場所はすぐに分かった。

 その部屋に辿り着くと丁度作業が終わった所だったのか、機械類が天井や壁に収納されて行くのが確認できた。あら偶然。となんとなく気分を良くしつつ中へと足を踏み入れると、私の気配に気付き、毛先が水色な桃髪の少女がこちらに向かって振りむいた。

「ん、結局こっち来たのか」

「待ってても良かったんだけど、外出る用事があったからついでにね。それに私が持ってった方が早いし」

「別にこの艤装なんて大した重量じゃないけどなー、小型だし」

 言ってそいつは目の前に鎮座するぴかぴかの艤装を持ち上げると、床に傷が付かないように私の前にゆっくり穏やかに着地させた。最後のメンテナンス、意味があるのか分からないそれを、ゲーム大会明けの朝一番からやってくれていたのだ。

「よし吹雪、まず吹雪さんに挨拶して来い。その後俺の部屋行こう」

「うん。メンテありがとう、猫吊るし」

 私は集合無意識に向かって己の意識を投げ込んだ。

 

 

 

 

 

 朝焼けの海。日の色の溶け込んだ雲。その中に浮かんだ一隻の駆逐艦。そこは最後の日でも変わらない、いつも通りの風景だった。

 珍しいのは私が艦上ではなく海の上に立っていた事だ。最初の時はそうだったなと思い出しながら、少し遠くにある駆逐艦、吹雪を眺める。それはゆっくりとした速度でこちらに向かって進んでいた。

 その船首に一つの人型が腰掛けている。白い髪に赤黒く短い二本の角を持ち、鎖の切れた金属の首輪を付けた女の子。片方の腕は黒く、大きく、指には水かきも付いた異形のそれだ。紅い瞳も相まって、一見では何かしらの脅威として映ってしまうかもしれない。だけれども、その実情はと言えば、完全に人間の味方なのである。

 深海吹雪……とよく似た集合無意識に存在する駆逐艦吹雪の艦娘。概ね私のせいでこの姿になってしまったその人が、非常に珍しい事に、甲板に出て私の事を迎え入れてくれていた。

 んだけども、なんかその、途中で艦が側面を見せて、12.7cm連装砲さん達が私の事をじっと見つめだしたんだけどなんなんですかね?

 

 ――てー。

 

 深海吹雪似さんの声が響き、私に向かって大砲の弾が殺到した。

 

 

 

 

 

 ――当たらないか。

 

 足下の海を蹴り、発射された連装砲の弾より速く吹雪の甲板に着地した私を見つめて吹雪さんは言った。その瞳からは諦観というか納得というか、そりゃそうだよなという感情の色が窺える。まあもっと酷い事いっぱいやってきた訳ですからね。

「あれくらいの弾速だと足場にできちゃうので……」 

 掴み取る事も可能ですしおすし。今更脅威にならないのよね、私レーザーとかも距離次第じゃ発射されてから避けられる訳ですから。

 

 ――少し緩んでいるようだからと思ったのだけど、この程度では無意味ね。

 

「かなり昔の兵器ですからね……」

 まあ、緩んでるのは確かかもしれない。このところは深海棲艦も大した脅威でなく、少し前にあった大発生も守護者総出で掛かったらあっという間に鎮圧が完了してしまった。ちょこちょこその時の生き残りが暴れてはいるけど、常駐してくれてる人達だけで何とかできる程度の戦力では転生者達にお呼びなんて掛からない訳で。このところは除霊とかやってたのが私である。しかも翻訳能力で未練とか分かるから戦ってなかったし。喋れる知性が残ってない奴は消し飛ばしてたけどもあれは戦いには入らないだろう。

 

 ――そうね、それに貴方が完全に緩む事は無い……いいえ、緩んでも常人より鋭いと言うべきか……

 

 それはそう。私の感知範囲は広すぎて無警戒でも屋上から地下の暗殺者の気配が分かったりしちゃうから、むしろ警戒しっぱなしだと頭が痛くなりそうなんですよねえ。実際痛くはならないんだけども。

 そんな私の思考が伝わったらしく、吹雪さんは小さく嘆息した。そして座っていた艦の縁から腰を上げると私の正面に立ち、真っ直ぐな姿勢で私としっかり目を合わせた。

 

 ――伊吹 雪さん、永い間、ご苦労様でした。集合無意識に代わり感謝を申し上げます。

 

 珍しい姿はしていても中身は軍艦の魂だからだろう、その敬礼は完璧だった。慌てて敬礼で返してありがとうございますなんて焦りながら言ってる私なんかよりは、余程。

 

 ――貴方の献身は…………問題も多かったけれど、確かに人を救ってきた。それはもっと誇って良い事です。

 

 やった事は誇ってるんですよこれでも。ただ私より貢献度大きい人いっぱい居るじゃんね☆ってなるだけで。でも、それはそれとして色々許して褒めてもらえるならそれは嬉しいですね。マジで色々やらかしてるからな私、害獣だからって星ごと滅ぼしちゃった生き物とか居たりするし。

 

 ――でもメカフブラだけは絶対に許さない。

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 アレに関してはマジで謝る以外ない。実際気に入ってて大型の奴相手にする時には大体引っ張り出してたのも含めて。いや評判もいいんですよあれ、あのサイズ利用して捕縛したりとか色々できるから。攻撃力は普通に殴った方が高いんですけどね。

 

 ――そもそも私が今もこの姿であり続けるのも、概ね貴方の影響。

 

「えっ」

 

 ――貴方への畏怖や驚嘆が駆逐艦吹雪本体へも悪影響を及ぼしている。

 

「そうなんですか!?」

 

 ――吹雪は駆逐艦として進水してから除籍まで十五年。対して艦娘としての活動期間は一万年を軽く超えている。その中でも、代表と言われるのは、間違いなく貴方。当然、その在り方は集合無意識へも大きく影響を与えている。貴方の暴威は、普通の人間から見たら人外のそれ。だから、吹雪を人の形に落とし込んだはずの私の姿も、人のものでない部分がそのままになっている。私の姿は他者から見た貴方の印象そのままだと思っていい。

 

 ここに居る吹雪さんは元居た吹雪さんが切り取られたために表出した、駆逐艦吹雪の脅威や恐怖を映す別側面である。ただなんか、普通ならそれも時間が経つにつれて頼もしい味方である艦娘の印象が強くなって、同時に吹雪さんはもっと人間に近い姿へと変わっていくはずだったらしい。

 でもこの世界には残念ながら私が居た。私への強烈な印象が私だけに止まらず、私の扱う艤装とそれの大本である駆逐艦吹雪にも流れていってしまったのだ。おかげで吹雪さんは暴力装置としての畏怖をそのまま身に帯び続ける羽目になり、深海棲艦風の見た目で今日まで固定されてしまっていたのだという。

 

 ――……今となっては、責めるつもりもない話だけれど。

 

「いや、本当に申し訳ないです……」

 迷惑かけ通しだとは思ってたけど、想像の埒外な部分でも滅茶苦茶迷惑掛けてたとは知らなんだ。吹雪さん、外見の事を気にしてあんまり外に出て来なかったし、本当に苦労させてしまってたんじゃないだろうか。ううん、今更ながら凄まじい罪悪感が……

 ……いやね、何が悪いってそれもあるんだけどね、吹雪さんはもう終わるし今更だしって感じで許してくれてるっぽいんだけど……吹雪さん、普通に転生候補に入ってるんですよね。例の創造主的なあの子の。

 

 ――えっ……

 

 この空間では感情とか考えてる事が一部伝わってしまう。その仕様のせいで私の申し訳なさとその理由が吹雪さんに伝わってしまったらしい。吹雪さんは赤い綺麗な目を瞬かせ、珍しく本気で驚いたような表情を見せた。

 そして数秒の後、吹雪さんは全くの真顔になった。

 

 ――詳しく……

 

 ――説明しなさい。

 

 ――今、私は冷静さを欠こうとしているわ。

 

 なんだか三コマでだんだんアップになりそうな事を言いながら、吹雪さんは私に対する尋問を開始した。

 

 

 

 

 

「飲み物よーし」

「よーそろー」

「菓子類よーし」

「よーそろー」

「あと足りないものは?」

「お前」

 

 

 

 

 

 実際どうなるかは分かんないから覚悟だけはしとく事になった吹雪さんとしっかり挨拶を交わしたのちに別れ、私はぴかぴかの艤装と猫吊るしを肩に乗せリンカネ本社まで帰って来た。

 玄関から兵器を搬入するのも何なので屋上まで跳んで、さっきから進んだように見えない調整組に手を振って自室に入り、艤装を置いてすぐに出る。そのまま隣の猫吊るしの部屋へ行くと、降りた猫吊るしは手早く食料を用意して、大きなモニタの前にこれまた大きな人が駄目になりそうなクッションを設置した。

「んじゃ俺も挨拶してくるからちょっと待ってて」

「よーそろー」

 言われるがままクッションに横たわると、後ろで猫吊るしが春雨の艤装に手を置いて集合無意識へとダイブする気配がする。とりあえずただ座ってるのもなんなので手元に置かれたカップに冷えた緑茶を注いでいると、表面張力で少し膨らみができたタイミングで猫吊るしはこちらに戻って来た。一瞬で終わっているように感じるが、あっちの時間は流れが早いのでそこそこ話していたと考えられる。

 溢さないようにカップに口を付けると、かなり濃く淹れてあるらしく茶の香りより苦みが先に襲ってきた。まあそれでも美味しいんだけどね、この茶葉チート能力全開で造られためっっっっちゃ美味しいお茶っぱだから。それに眠気は吹っ飛んでくれたから、居心地の良すぎるこんなクッションと組み合わせるならきっと丁度良いくらいだろう。

 背後では猫吊るしが義体を保管場所に片付けている音がする。何度も壊れたり機能向上のためにで作り直している何代目だったかも忘れたものだけれど、あれが猫吊るし最後の人間サイズの体である。なのでちゃんと保管しておこうという事になっているのだ。使い道は無いと思うけど、一応ね。

 転生者間宮さん謹製の手作りお菓子の封を開け、キャラメルソースのチョコレート包みという異様に甘い奴を口に含み、砕けたナッツの舌触りを楽しむ。外殻のチョコが溶け終わる頃、ぴょんこぴょんこと軽いものが床を飛び跳ねる音がして、私の頭上に猫吊るしが大ジャンプして降って来た。

「おし、じゃあ始めようぜ、秋雲先生シリーズ一気見をよ!」

「よーそろー……って言っても全部見るには時間足りないんだけど、どれから見る?」

 猫吊るしが頭の上で指先を振るうと置かれたモニタに動画の候補が表示される。どうやら作られた順に並べられているらしく、それはタイトルだけで1000作以上あるのが確認できた。リンカネにはアニメ制作部門があるからそういう事になってしまったのである。

「やっぱ天鎧シリーズは見たいよなぁ」

「一作目の機装か四作目の器奏が好きだな」

 王道っぽいロボットアニメの一作目と女の子主人公の楽器モチーフの四作目。秋雲先生らしくどちらも男児が苦しむシーンはふんだんに含まれているため安心してほしい。笑い所としてはどちらにも文月が出演してるし器奏の方はライバルなメインキャラなところだろうか。

「んじゃ、一作目から行くか。一番最初にアニメ化された奴だし」

「商業デビュー作だしね」

 じゃあ見るべと猫吊るしがちゃちゃっと一話目を選べば、同時に部屋の照明が暗くなる。画面の大きさと全方位サラウンドの音響設備が相まって、まるで貸し切りの映画館のようだった。

 

 アニメを見る時は部屋を明るくして離れて見てね!

 

 

 

 二人きりの個室で、私と猫吊るしは延々アニメを見た。長いシリーズもあるのだけれど、今日は劇場版とか短編の奴をメインに据えて。

 大抵の奴に主役級だったりガヤだったりで文月が出ている事に笑い合い、私がゲスト出演させられた奴の感想を言われ、猫吊るしが出ている奴を強制終了しようとしたので腕力で止める。腕を操られて完全に止めきれなかったのは不覚だった。

 作画に関してはリンカネ製の時点で一定クオリティはあるのだが、やっぱりその中でも出来不出来は出るもので、今回は変態作画と言われる奴を多めにしたため大スクリーンでの見ごたえはとにかく凄かった。この一シーンに何億掛けたんです? ってカットが頻発する宇宙戦争ものなんて、男児が酸欠で悶え苦しむ場面の臨場感と没入感は半端ではなく、声優さんの演技力もあって、二人して息を呑んでしまったほどである。

 時折お茶を口にして、やたら美味なお菓子も口に運んでいく。量は十分あるので無くなる心配はしなくていい。猫吊るしも自分の分を宙に浮くちっちゃなトレーに置いて私の頭上で飲み食いしていて、スタッフロールが始まった時なんかはお茶をすする音がよく重なる。そこから次は何見るよとエンディング明けのカットを待ちながら相談するのだ。

 閉め切られた部屋は陽が差さない。ずっと同じ明るさのまま私達は心行くまでアニメ鑑賞を楽しんだ。あるOVAの必殺技が終わった頃ふっと頭上から大してなかった重さが消えて、私の意識は急激に眠気に飲み込まれていった。聞き慣れた誰かのしゃくりあげる声がする。私はそのまままどろみに任せて瞳を閉じた。

 

 

 

 猫吊るしが私の体を操作して眠気を取り払っていたのだと気付いたのは、少し意識が眠りから戻って来てからだった。本当はもっと早い段階でアニメ鑑賞どころではなくなっていたんだろう。前の晩も夜更かししてたからなぁ……あれも楽しかったから仕方ないんだけど……

 などと思いつつ、私はそのまま猫吊るしの部屋で2時間ねむった……そして……目をさましてからしばらくして猫吊るしが居なくなった事を思い出し…………お腹空いたので食堂へ向かった。いや仕方ないじゃん、朝ごはん以降お菓子しか食べてなかったんだからさ。

 

 

 

 

 

 外に出たら見事に朝だったため朝食をいただき、デザートのドリアンを頬張っていたら、向かいにリベッチオがやって来た。昨晩泣いていた気がするが、今はなんだかむくれてしまっているご様子である。私の対面に溢さない程度に音を立てながらトレーを置くと、いただきますとどこか拗ねたような声色で挨拶をして、素早く箸を握りしめた。

「なんかあった?」

「それがさ! 聞いてよ!」

 滅茶苦茶聞いて欲しそうだったので聞いてみたら凄い勢いで喰い付いて来た。かわいいとめんどくさいの中間くらいに居る見た目小学生、それがリベッチオである。

「ゲザってば、私の事泣かせて行ったくせに、もうさっき、夢の中でごろごろしてたの!!」

「それはそういう能力だし仕方ないんじゃ……?」

 そうだろうなとは思ってたけど、猫土下座ってば世界貫通して夢の中に来れるのね。まあマーキングかなんかしてる相手限定だろうけど……私の所にもいつか来るかな? 実はたまに来て一緒に無害なクリーチャーと戯れたりしてたんだけど。

 ふむん。しかしそうなると、やっぱり他の深海棲艦及び妖精さん転生者もこっちに干渉できる人が居そうだなぁ。その辺りどうなんだろう、下手するとほっぽちゃんとか普通にこっちにワープして来そう。実際やってみないと分からないとは言ってたけど……ちょっと確認してみるかな?

 少しリベッチオから目を外し、脳……というか魂から繋がってるらしいネットワークに接続する。どこかで見たようなそれが、私の脳内に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 てんせい☆

    ちゃんねる

 

 

 

 ・てんせいちゃんは、(創造主スケールでは)生まれたばかりの掲示板です。

 

 ・応援して下さいね☆

 

 ・お友達にはここを教えないで下さいね。

 

 ・許可制なので管理人の未把握の転生者・契約者を確認した場合は報告板へお願いします☆

 

 ・この掲示板は管理人の能力なので負荷を与える行為は止めて下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

【我々】某艦これ同人ゲー派生世界総合スレpart124911【終了のお知らせ】

 

 

 

 8778 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:nek02643R

  転生待ちになんのかと思ったらお前は『力』消化するまで駄目とか言われた件

  これ一万年どうにもなんなかった奴なんだが?

 

 8779 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:hopo1219R

  私は他の皆待ってもいいしすぐ転生してもいいって言われた

  でも次行くとこランダムだし待っても同じとこ行かせてくれる訳じゃないらしい

 

 8780 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:be2seka1C

  そっち創造の力持ってる奴居たのかよwwwww

 

 8781 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:hokan105R

  大丈夫?世界滅びてない?

 

 8782 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:nek02643R

  現地人にも一人持ってる奴居たし俺入れて三人持ってる奴居たわ

  危な過ぎるから制御の練習はともかく使うのはみんな自重してた

 

 8783 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:re9cho88C

  問答無用で転生させられたんだが?

  今産声上げてるんだが?

 

 8784 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:yoson104C

  仕方ねぇだろ末尾Cなんだから

 

 8785 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:bayhon89R

  この末尾意味あったんだ……?

 

 8786 :管理人[saga] ID:3373chanE

  お疲れ様でーす。

  この末尾は、

  転生者→R

  契約者→C

  雇われ→E

  になってますよん。

  Eはめっちゃレアなんで滅多に見ないと思いますけどね。私以外。

 

 8787 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:22key241R

  お前等乙

  生き残り組だけど元気?

  なんかそっちから干渉してる奴いるっぽいけどみんなできんの?

 

 8788 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:hokan105R

  転生待ちからそんな事できる奴だいぶレアだろ

 

 8787 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:nek02643R

  俺は無理だわこっちから触れられるならともかくどこにあるかも分からんし

 

 8788 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:hopo1219R

  私も駄目だね

  今居る空間に物質って定義が無いみたいでワープもアポートもできないっぽい……?

 

 8789 :以下、転生者がお送りします [saga] ID:ume10ge3R

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんな元気そうで何よりである。

 うん、まあ……私達の別れが割とあっさりしてたのはこういうのが存在してるせいなんだよね。取ろうと思えば取れるんだ、連絡。しかも画像とかも上げられるんだここ。近況報告とかしようと思えばいくらでもできちゃうから、色々緩くなっちゃったんだよね。会えないことに変わりないから人によってはキツいんだろうけど、私的にはこんな意味不明の状態でどうやって寂しがればいいんだって感覚なのである。

 この掲示板は何千年か前、急に脳内に招待状が届いてアカウント取得と共に使えるようになった転生者と契約者とその他関係者専用の掲示板である。管理人の名は化野 世理亜。そう、私と同期で艦娘を止めた後に刑事さんになって普通に人として亡くなって自称魔法使いに回収されたあの漣だった。

 なんか世理亜ってば、転生者になる訳でも契約者になる訳でもなく、創造主らしきあの子に雇われて専用の掲示板を運営する立場……管理者側の存在になったらしいんだよね。

 まあその……色々言いたい事はあるんだが、とりあえず、私は今後どれくらいこの世界で生きるかよく分からんのだけど、マジでやる事なくて暇っていう事態になってもここで遊んでもらえそうなので本当に有難いと思っています。

 でも、水連も回収されそうなのは世理亜的にはいいんだろうか……? 普通に候補に名前あったんだけど……曙共々。

 

 

 




てんせいちゃんねるもやろうかと一瞬思ったのですが明らかに艦これではなくなるので(今更)踏み留まりました。
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