転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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謨ー縺医k諢丞袖縺後↑縺?¥繧峨>後の話

 目の前をこげ茶色の髪をした少女が笑顔で駆け抜けていく。それを複数の子供たちが楽しそうに追いかけて、追いついたと思ったらみんな一塊となって草むらに転がった。特有の高い笑い声がたくさん湧き上がる。かわいい。

「元気だねえ」

「ええ、本当に……」

 側で子供達を見張っていた白と赤の服を着た娘が私の漏らした言葉に相槌を打つ。少し呆れたような調子が混ざっていたのは、転がった先で花を摘み始めた少年少女らの中に見習いとして自分の補佐に付いて来たはずの実の妹が混ざっているためだろう。

「まだ遊びたい年頃だから許してあげよう」

「駄目です。今日は子供達みんなにしっかり教えないといけないんですから!」

 それはそうなんだけどね。食べられるものと食べられないもの、気を付けなきゃいけない虫や植物なんかはしっかり覚えて貰わないと危ないのはこの子たちだから。家によるけどそのうち食料調達にも行かされるだろうし、ちゃんとやらせる必要があるのは確かなんだ。芋ばっか食ってる訳にはいかんからね。

 意気込む姉とは対照的に、妹の方は子供達に混ざりながら自慢げに摘んで大丈夫な花かを教えている。ちゃんと仕事してるじゃん、感心感心。良い悪いも合ってるし、しっかり勉強して来たっぽいな。理由が若干間違ってるが。

 っていうか、姉の方もまだ15才になったばっかりで私から見たらまだ子供なんだよね。外見年齢的には私より少し上に見えるんだけどさ。まあ成人が14だから世間的には立派な大人なんだけども。

 間違えた点を訂正しに姉の方も子供達へと混ざって行く。妹が頭上の耳を軽く抓られているのをほっこりしながら見つめていると、最初に花畑へと突撃した女の子が私の方へとやってきて、頑張って作ったのだろうちっちゃな花束をこっちに向かって差し出してきた。

「かみさま、あげるー!」

 あらありがとう。花そのものよりその気持ちが嬉しいね。嬉しいんだけどね。ちょっと言わなきゃいけない事があるの。毎日言ってるんだけど。毎日言ってるんだけどね。

「私は神様じゃないねぇ!」

 ん~? と少女はよくわかんないって表情をして、その後あっと声を出して笑顔になった。

「フブキさま!」

 うん……まぁ……まぁ……いいか。単に敬称だし。本当は呼び捨てとかの方がいいんだけど、まあそこはだいぶ年上だから仕方ないだろう。お礼を言って花束を受け取りながら頭を撫でると、気持ちよさそうに少女は目を細めた。調子に乗ってへにょりと垂れた形のふんわりした耳まで手を伸ばすと、きゃっきゃとくすぐったそうに笑いだす。うーんこの人懐っこさ。誘拐されないように気を付けてね。

 ちょっと思い付いたので、貰った花を少し弄って花冠を編む。私はかなり器用なので作業時間は一瞬だ。目の前のちびっ子も見えなかったようで、突然出現したそれに目を丸くして、すぐにすごいすごいとはしゃぎ出した。かわいい。かわいかったので頭にそれを飾ってやれば、かみさまありがとーとお礼を言いつつ頭を下げて、下げ過ぎて花冠が頭の上から落ちてしまった。慌ててしゃがんで拾ってる。かわいい。

「フブちゃんまたやってるー」

 やるならちゃんとやれと怒られていた妹ちゃんが半笑いで子供たちの群れから抜け出してきた。その態度は物凄く緩く、友人に接するようなそれである。正直、みんなこの子くらいフランクで構わないんだけど。

「こら! ちゃんとフブキ様とお呼びしなさい!」

 残念ながら基本姿勢はみんな姉の側なのだ……と言っても、私があんまり神様扱いを好んでないのはこの子も分かってるんだけどね。誰も見てない時の態度はむしろ気安い側だし。

「昔みたいに呼び捨てでもいいよ?」

「ぐっ、いえ、敬称は付けさせていただきます。あなたは神様ですので…………そうでないと困りますから」

 まあ、それはそうだから私も無理強いはしないよ。

 

 

 

 

 

 人類は滅んだ。

 いやマジで、特になんかの叙述トリックとかでなく、私と同種の生き物は地球上から姿を消した。地球全土を隅から隅まで漁った訳ではないから冷凍睡眠してる施設とか残ってる可能性はあるけれど、少なくとも私には生き残りを捕捉する事はできなかったし、新たに生えてた集合無意識の消滅も確認済みである。

 まあヤバい兆候はあったんだよね。転生者の治世が終わり、その精神的後継者たちも姿を消して、もう私の全然知らない人達がトップに立って、人が増えて星中に散って、複数の国に分裂して、軍拡して……みたいな流れにいつからかなってたからさ。

 それで戦争になるかなーとか警戒してたんだ私も。トップの人とかに呼ばれてOHANASHIとかは色々してたの。無人機での小競り合い程度ならともかくそれ以上はね? って。各国私の脅威は知ってたから、たぶん効果はあったと思う。真正面から堂々とやりあう連中は出なかったからね。

 そしたら、あいつら集合無意識を媒介にして感染する霊的ウイルスとか作りやがりまして。自分らも感染するだろ。馬鹿かよ。

 いや普通に抗体とか作ったり指向性持たせたりとかするつもりだったんだろうけどね、バイオハザードの方が早かっただけで。おかげで集合無意識を介して全人類罹患、からの異形化で凄い事になったよね。なんだよモンスター化ウイルスってファンタジー世界だからって魔物生やすなよびっくりしたわ。

 潜伏期間長かったから事態が明るみに出た時にはもう手のつけようも無かった。モンスターになった時点で魂が離れるらしくてちゃんと……ちゃんとか? 死んで転生できてたらしいのだけは救いだったろう。発症時期にちょっと個人差があったんだけど、結局ワクチン作るのは間に合わなかったのが残念でならなかったね。

 あの頃はそう、集合無意識を利用しない新技術で宇宙進出しようと頑張ってる人達がそろそろ有人で別の星行けそうだぜ! ってなってたのをニュースで見たくらいだったから、全人類がまだ地球に居たはずなのだ。だから、宇宙にはもう私と同じ種の人間は存在しなくなったのだろうと個人的に考えている。今は亡きマザー初雪はアセンションしない人類は全員地球に集めていたからね、隠れて残ってる奴が居た可能性は否定しないけど、探しようが無いから勘定に入れなくていいと思う。なので、私が旧人類最後の生き残りなのだ。あ、ウイルスくんは私には無力だったよ。

 

 そこから暫くは暇だった。一応生き残った奴とか居ないか地表を探し回ったんだけどね。何せ人間から生まれたモンスターがそこらじゅうで暴れ回ってるもんだから、文明は完全崩壊しちゃってたんだよ。あれじゃウイルスに抗体持ってる奴が居たとしてもきっと生き残れなかったと思う。何せ人類ひ弱だったし、実際、誰も残ってはいなかったし。

 それでも暇にあかして地球を何万周かはした。北極から南極、北半球も南半球も、赤道も砂漠も海上も海中も探してみた。でも、それでも人類復興の兆しを感じられなかったので、私は捜索を打ち切った。そして諸事情あって拠点にしてた棲艦島でゆっくり静かに暮らす事にしたのだ。

 私に維持できる文明なんてほとんどなくて、手元に残った旧人類の遺産はしばふ芋と棲艦島の地下基地にあるものくらいだった。何しろ集合無意識から感染するウイルスだったもんだから、魂持ちの高度AIくんたちもモンスターになっちゃってたんだよね。簡易AI巻き込んで巨大機械竜とかになってたよ。滅ぼしといたけどさ。

 なので私の生活はかなり原始的なものになった。地下内部の入り口付近で生活して、芋を育てて獣を狩る。季節ごとに果物も採れたりしたけれど……野生のそれらより芋の方が甘いのでまあ基本は芋食ってたよね。ようこそ、ここがしばふ村だよ。

 そんな生活をそこそこ長く続けていたけれど、退屈だけはしなかった。それはそう、てんせい☆ちゃんねるのおかげである。ありがとう世理亜、これが無かったら解脱しちゃってたかもしれない。サブの管理権限もやる事増えて嬉しかったね。私が削除人吹雪だ。荒らしは規制よー。

 

 てんせい☆ちゃんねるは暇な時とか赤ちゃんで何にもできない時期とかに遊べるから、転生者達には概ね好評である。例のあの子は出入り禁止なのもあって積極的に使っている人が多いのだ。と言っても書き込まないだけでどうせ見てるんだろうなとはみんな思ってるんだけど、まあ何書いても不利益を被らせてきたりはしないらしいから大丈夫ではあるのだと思う。

 当然、私も毎日使わせてもらっている。単に他所の転生者と遊んでみたり知り合いにこっちの現状を伝えたりと積極的に書き込んでいるのだ。実はスクショとか動画もアップロードできるのでアニメの保管庫としても使えたのが本当に有り難かったね。文明崩壊前にリンカネで保管してたデータ全部上げといてよかったわ。生配信にも対応する計画を立てているそうだが、それは時間の同期の問題で上手く行っていないらしい。

 まあそんな掲示板があるので、私は退屈はしなかったわけだ。だって動画見れるんだもん……いろんな世界から集まってくるからむしろ見るの取捨選択しなきゃならなかったよ。世界ごとに文化が違うから理解しがたい価値観なのとかもあったりしたけどそれもまた面白くてね。一応チート能力さんと修行もしてたけど、正直身が入ってたかと言われると微妙。チート能力さんに体を動かしてもらう事とかはできるようになったんだけどねえ。

 

 そうやってそこそこ楽しくやりながら、たまに私は島の外へと探索に出かけたりもしていた。人類が居た痕跡はどんどん無くなって、人類の変異したモンスターたちは生態系へと組み込まれて行き、そこには新しい世界が広がっていたからである。

 世界を調べて回るのはかなり面白かった。なんかモンスター共も縄張り争いとか繁殖とかするらしくて、最終的に狂暴なだけのは淘汰されてそっちの能力が高いのが残ったりとかしててさ。私が巨大獣とかは倒しちゃってたのもあるかもしれんけど、それを加味しても小さい連中の方が生き残ってたりしてね。最初は異形だったんだけど代を経るごとに普通の生き物みたいになって行ったみたいで、毛皮はもふもふしてて全身でぴょんぴょん跳ねてお腹はぷよぷよしてる20cmくらいの丸っこい生物とかはユーラシア全土に広がってた。かわいい。地域差とかもちゃんとあって個人的には岩場に住んでる子たちが好き。すごい毛がもっさもっさしてるの。家畜化してーなーとか思ったんだけど日本の気候に合わなかったのが残念。仕方ないのでたまに野生の奴を刈りに行ってお布団の材料にしてます。毛の下から出てくる本体もなかなかかわいいしアドしかない生物。こいつら元人間なんだよな……って思うと微妙な気持ちになるが。あと、刈ったらまた生えるまで保護しとかないと普通に死ぬんだよね、野生生物に喰われて。防御機構無くすんだから当然なんだけど。

 閑話休題。ともかく地球は星の形以外は別の世界みたいになっている。それは日本列島も例外じゃなくて、むしろ人が多かった本州は大陸よりも多種多様な生物が暮らしていた。富士山なんて龍みたいなの棲んでたよ。たぶん魔力か何かで飛んでた。日本列島は棲艦島からの近さもあって度々私も探索して、面白生物を発見するたびにスレに報告していたんだけど……とある日の事である。

 

 その日、私は野生のお米でも生えてないかと本州内部を探索していた。いつも通りに木から木に飛び移り大地をじっくり見下ろしつつ、突然襲ってくる獣にも気を配っていると、突然それが見えたのだ。遠くの木々の合間に輝く、淡い炎の揺らめきが。

 最初は自然発火的な奴かなーと呑気していた。何しろ炎を噴くようなモンスターが普通に生息してたりするので、雷なんかが落ちなくてもそこそこ火事は起きていたからである。でもまあ大きくなっても困るし消しとこうか、と思ってそちらに向かって跳んでみると、そこは小さな空き地みたいになっていて、そのど真ん中には大きく組まれた櫓が鎮座ましましていたのだった。!? と私がなったのは言うまでもない。

 明らかに人工物であるそれを怪しんで、私は大きな木の頂点付近からそこを見張る事にした。いや、私の耳にはその時点で何かの動き回る音が方々から聞こえていたんだけれど、安易な接触をしていいものか判断に困ったんだよね。櫓を組んでるって事は明らかに知能はあるけれど、それが必要な程度の文化レベルかもって事でもあったから、正体がまるで掴めなくて。

 暫く待っていると、明らかに二足歩行をした生き物が複数、連れ立って櫓に集まって来た。私よりだいぶ小さいのから私よりかなり大きいのまで。驚く私をよそに旧人類と同じ程度のサイズ感なそいつらは火を囲んでなにやら歌って踊りだし、狩ったのであろう肉を火で炙り、採って来たらしい木の実と一緒に食い始めた。宴かお祭りかなんかそういうのだったっぽい。

 そいつらは明らかに旧人類と似た生き物だった。文明ごとに三つ目とか翅の痕跡があるとか皮膚が硬質とかで少し見た目は違ったんだけど、大まかに頭一つに手が二つ脚が二つある生物というのは一致していて、そいつらもそれに該当していたのだ。

 彼らの大きな特徴は耳。そう、私の眼下で嬉しそうに食事を頬張る彼らは、どう見てもケモミミの生えた人間だったのである。

 しかも種類が一つじゃないの。ある人は犬っぽいし、ある人は猫っぽい。どう見ても兎な人も居れば、パンダみたいな人も居た。明らかに単体の生物から進化してきた存在ではない。親子であろう女の人と抱かれた幼児が同じ耳をしている辺り遺伝はするんだろうと思われるのが不可解である。混ざったりしないのかな? それとも子供を残せる相手に制限があるとか? いやでもお父さんっぽいのとお母さんっぽいので耳の形違うな……? いったいどういうことだってばよ!? 私の頭は疑問符でいっぱいだった。

 耳を澄ませば彼らの会話も聞こえてくる。翻訳能力のおかげで内容は分かったけれど、狩りが上手く行って良かったとかお前んとこの子もそろそろ連れてこうぜとかもうすぐうちも赤ん坊がーとかそんな内容ばっかりであんまり得られるものはない。結局、私は櫓から火が消えるまで彼らを見張りつつ、スレにスクショと動画と糞レスを欠かさない事しかできないのだった。

 

 火の始末を終えた彼らが帰った家は洞窟だった。服とかも原始的だったのでそうかもとは思ったが、建築技術とかは持っていないらしい。入り口はカモフラージュされてドアみたいなのが付いてたけどそれくらいである。耳を澄ませて外から中の様子を窺うとみんなそのまま寝始めたので、私も家に帰る事にした。お腹空いてたし眠かったんだもん。

 その翌日から、私は周辺一帯を大調査する事にした。以前は発見できなかった彼らがいったいどこから来たのかが凄く気になってしまったからだ。私が見逃しただけならいいけれど、なんかまた頭のおかしい出来事が起きてたら困るからね。

 彼らに見つからないようこっそり忍んで調べるのはそこそこ骨が折れた。調査が進展するまでに10回くらい冬を越してたね。その間一回も見つからなかったのはちょっと自慢である。えっへん。

 というのはともかく、急に現れた人類っぽい者達、そのルーツは地下にあった。それもかなり地表から遠い、私でもちゃんと地面に耳を付けないと分からないくらいの場所にそれはあったのだ。そこそこ広がっていた彼らの勢力圏の中央付近、その直下の空間でそいつは厳かに沈黙していた。

 入り口は完全に土砂に埋もれていた。後で分かった事だけど、残された機械類がなんとか開けた地面の裂け目から彼らは出てきて、時を経てもう一度埋まってしまったらしい。殴って土砂だけを取り払って奥の方へと下ってみれば、最初は自然の洞窟っぽかったのだけれど、途中からは明らかに人工物……私にも見覚えのある様式のそれになっていく。そしてその最奥には、明らかに地下シェルターだったであろうものが放棄されていたのだった。

 中の様子は案外スッキリとしていた。時間が経ちすぎてたんだろうね。分解されるべき有機物が全部分解されて、そこは乾いた砂と人工的な壁や床が静かに眠っているだけだった。私が足を踏み入れても反応するものは何もなく、電気系統がとっくに死んで機能を停止している事だけが理解できた。

 何か残されていないか調べた私はそこで何千人も暮らせそうな複数の部屋や地下空間と、そのエリアの外に配置された動かなくなったコンピュータ……それもここを制御していたであろうホストコンピュータが綺麗に残っているのを発見した。たぶん、外に出てた彼らのご先祖様は隔壁に阻まれて手出しができなかったのだと思う。それは電源が入っていないだけで、上手くやれば今でも使う事ができそうに見えた。

 そこから私の苦難の日々が始まった。私に工学系の知識は無い。マジで無い。いやPCの組み立てくらいはできたけど、やらなきゃいけなかったのがそんなレベルで済まない事だったんだよ。動力に燃料ぶち込めば点くんじゃねって最初思ったんだけど、動力炉は普通にぶっ壊れてたの。だから配線見つけてそこに棲艦島から持ってきたある動力……私の魔力で発電できるそれをどうにか繋げて、経年劣化で駄目になってたところも取り換えて……なんて作業が必要になってしまったのである。

 スレで風香や猫吊るしに指導されつつの修理はかなり時間が掛かった。でもそれは何とか成功して、残されていた文書や映像などから、この施設で行われた事や起きてしまった出来事などを私は数年越しで理解する事ができたのだ。

 

 この地下施設は、要するに生物進化の実験場だった。外に居る彼らは人間に動物の因子を組み込んだものとかではなく、動物を人間っぽい姿に無理矢理進化させたもの。というのが真相である。

 目的は簡単に言えば、こうだ。

 

 

 

 

 

『ケモミミいいよね』

 

 

 

『いい……』

 

 

 

 

 

 さすが日本だ、あいつら未来に生きてんな。

 

 いや滅んだけどね? ばっかじゃねえの旧人類。なんだよアニマルセラピーの動物を人型にした場合の研究って。んなもん助手雇ってコスプレしてもらえば大体同じだろ! え? 違う? 違うの? あ、違うんだ。やっべスレ炎上した。お前等理解者かよぉ!! いや私三次元に興味無いからどっちも一緒にしか……え、あったかいお耳もふもふなでなで? む、確かにそれは違うかもしれん。いやそういう問題なの? あ、獣人居る世界の連中から熱いマジレスが……そういう専門店あるんだ……じゃあ私が間違ってたわ。ごめんね。

 ちなみにここの研究員さん達はモンスター化ウイルスの進行が遅かったようで、外のニュースを見てこの研究所の隔離を即座に決定、食事などの自動供給や施設内の快適さをAIなしのコンピュータくんに任せ、エネルギーが切れそうになったら入り口を開放する設定にして、自分達は外に出て、ここを封印してからお亡くなりになったらしい。私が初期にケモミミ達を見つけられなかったのは、ちゃんと護られていたが故だったのである。本当に好きが高じてやってただけで、どうやら悪い連中じゃあなかったっぽいんだよね。

 まあそれはそれとして普通に当時としては違法行為なので見つけたら取り締まってたと思うけど、もう法律とか無いからさ。入り口に石碑を立ててお墓代わりに彼らの名前を彫っておいた。新人類の生みの親、その情熱と魂ここに眠るって。

 

 ケモミミ族の全貌を理解した私は彼らの前に一度も姿を現すことなく棲艦島へと帰って来た。というのも新人類たちは普通に繁栄していて、私が手出しする必要性が全く存在しなかったからだ。なんか身体能力が旧人類より明らかに高くて、モンスター相手でも普通に戦えてたんだよね。見た目はあんまり変わらないから魔力との親和性が高い、つまり素で身体強化ができてるんだと思われるのである。

 そんな状態なら私なんて会っても悪影響しか与えない訳で。必要性もあり、棲艦島に引き篭もる事にしたのだ。勿論たまに様子は見に行ってたけどね。時折嗅覚の鋭い連中に存在を察知されたりはしたけど、はっきり目視はされなかったんじゃないかな。宇宙レベルですまんな。

 そこから暫くは平和だった。彼らはゆっくりと進歩して、家が建ち集落ができ国ができた。北海道の方に進出する人達も現れて、そこにまた新しい国が建ったりもした。文化も育ってきたけれど、どうやら金属が満足に取れないらしく、代わりにモンスターの一部を積極的に利用するから国ごとに独自性がかなり出て来ている。全体に木を使ったものが多いのはやっぱり日本だからだろう。

 金属に関してはどうしようもないんだよね。何せ我々が取り尽くしたから、地表にあるとしたらどうしても旧文明の痕跡くらいになってしまう。モンスター退治の傍らそういう遺跡を探索する人達も現れたから、将来的に冒険者とか呼ばれたりするんじゃないだろうか。魔法もじわじわ発達してきたし、全体的に和風ファンタジーな世界になって来ている気がするんだよなぁ。見てて楽しかったです。

 そうやって新人類の事を眺めていたら、気が付いた時には、棲艦島は神のおわす島として恐れられるようになっていた。

 いやね、別に私の存在が露見したとかじゃないんだ。ただ単に、棲艦島の周りの海ってモンスターが滅茶苦茶強いのよ。渡航技術が未熟なのもあって、新人類は誰も島に近づけなかったんだよね。それで教訓とかにするためだと思うけど、あそこは神様の土地だから近づいちゃメって子供に言い聞かせる話が民話として盛大に広まってしまったのだ。

 ……後はまあ、近づこうとして死にかけた連中で察知できたのは助けてたからってのもあるかもしれない。姿は見られてないはずなんだけど、逆に神性を感じさせてしまったのかもね。でも目の前で喰われそうなのほっとくのもなぁ……

 

 

 

 なーんて事をやっていたある日。棲艦島に大きな船が辿り着いた。それの様子は五体満足ではまったくなく、櫂は折れ船体はボロボロ、中は水浸しで沈没寸前。しかも凶悪な魔物を打ち払うために屈強な漢達が失われ、残された船員は老人と女子供だけ。ともかくと急いで上陸した彼らは、寒さと不安に震えながら未知の大地へと恐怖を押し殺して足を踏み入れる事になった。

 そんな彼らの前に現れた、海に沈み逝く定めだった戦士たちを片っ端から投網で掬い上げて肩に担ぎつつ手製のタオル持っていらっしゃーいと軽い感じで挨拶してきた新人類から見ても完全な肉体美を持ち可愛らしさと地味さを兼ね備えた顔面偏差値の糞高い美少女は誰でしょう? そう、私です。

 新人類の皆様はそりゃあもう困惑されたね。化け物のせいで隔離されてた土地に死に物狂いで到達したらなんか変なのが夫や息子を担いで連れて来てついでのように体拭く布までくれたら何が起きてるのか分からなくて当然だわな。族長らしき人も私に話しかけてきた時震え声だったよ。

 話をすれば、彼らは移住希望者だった。本州の方に居場所がなくて、ワンチャンに賭けてここまで船で来たんだそうな。私が一部の場所に入らないって約束できるなら好きにしていいよって言ったら怪しみつつも喜んでた。

 そして色々取り決めとかして、私の事もちょっと知ってもらって……それで気が付いた時には神様にされてたよね。違うっつってんのに。違うって理解もしてんのに。

 

 まあ、彼らの方にも事情があってね。実は新人類たちにも宗教ってあるんだけど、信仰対象は代表的なのが三つあったんだ。

 一つが本州で信仰が盛んな大地の神様。人口が多いのと直接会って話したりできるのもあって最も強大な宗教で、新人類の巫女さんは文化的にここの発祥になっている。

 もう一つが北海道含めた北部で敬われている海の神様。魔術的というか神秘的で怪しげな水に関する直接的なご利益があるから、厳しい自然の中ではとても有難がられて広まったらしい。

 そして最後の一つが自分達を作りたもうた創造主様。つまり……例のケモミミフェチどもである。まあ造ったのは確かだからおかしいとは言わんけど普通の人達だからご利益は無いと思われる。

 入植者たちが信仰していたのは三番目。つまりフェチズムに忠実な研究者達だったんだけど……やっぱり神様が実在する他二つと違って明確なご利益が無いもんだから、この頃にはかなり廃れてたらしいんだよね。だから排斥されて差別されてどうしようもなくなって、命からがら棲艦島まで逃れて来たんだってさ。

 それでも神様に関する逸話とかは残ってて、身体的な特徴なんかも口伝で伝わってた訳だ。そして彼らにとって一番目立つ外見の要素が何かって言ったら、当然一族ごとに違うケモミミになる訳なんだよね。んで私の耳見るやん? 位置も形も神話のそれと一致してるやん? 私滅茶苦茶強いやん? 美しいやん? したらな君ホンマに神ちゃうん? ってなるのは必然だったんだよ。

 私は必死に違うよ全然違うよって説明した。そしたら、末端はともかく、族長さん達はそれを理解してくれた。で、その上で神様にされました。糞がよ。

 いやしゃーないんだよ。彼らには後ろ盾が必要だったから。偽物でもいいからともかく本州と北海道の人達が話し合いの席に着いてくれるだけの威光を持った存在、つまり神様が居てくれないと取引とかもままならなかったんだから。彼らだけの問題なら島に引き篭もっても良かったんだけど、被差別民はまだまだ海の向こうに残ってたからさ。そっちの地位向上も兼ねてやるしかなかったんだよね。

 あ、宗教の復古は上手く行ったよ。大地の神様も海の神様も昔からの知り合いだからね。普通に話付けて来た。いやあ……久しぶりに会ったけど元気で良かったわ、藤提督と海神様。藤提督には相変わらず滅茶苦茶怖がられたけど、海神様はもう旧人類に対して怒ってなかったからすんなり話が通って助かった。一時棲艦島に封印したり深海棲艦の怨念まみれにした事はちょっと根に持ってたけどね!

 

 そう、ぶっちゃけ、旧人類は死に絶えたけど、私の知り合いの人外は結構まだ生きていたりする。

 ファンタジー世界だからねここ。神様とか普通に不老なんだわ。滅ぼせば死ぬけどそうじゃなきゃ特に問題なく生きてるんだよね……藤提督に関しては妖怪の中でも異常枠っぽいけども。

 藤提督、山風やローザが亡くなってから暫くふさぎ込んでて気付いたら社から出奔してたんだけど、新人類の中に生まれ変わりを見つけて可愛がってたら神様にされちゃってたらしいんだよね。おかげで女神官達は完全に我々の見慣れた巫女服なのである。私の所の子らも含めて。素でお狐巫女やらわんこ巫女やら子猫巫女やらが箒持って鳥居の下で仲良く神社の掃除してるんだよねこの世界。和風ファンタジーっぽくなった主原因はたぶん藤提督だ。落ち着くからいいんだけどさ。

 ちなみに海神様の方には生まれ変わって海神様の眷属やってる元九曽神艦隊の秋月と照月が居たりする。あの子らの実家の宗教が祀ってたの海神様だったし、封印中の海神様鎮めてたのも二人だったからね。話し合いに行った時に挨拶したけど……あれ眷属っていうか嫁だよなぁ。気に入った巫女さん嫁に貰って旧人類許しただけ説が拭えない。いや悪い事ではないけどさ。一万年掛けて口説き落としたんだろうし、むしろ尊敬するわ。

 

 そんな訳で、私はこの国――人数が増えて国を名乗るまでになった彼らにとって神様でないと困る存在になったのだ。本気で神様と信じてる人と実情を知ってる人の割合? ハハッ。一般的に三大神とか言われてるよ馬鹿かよ。私に祈ってもご利益無いのによくやるわ。

 国の上層部は私の事よく分かってるからそこそこフランクに接してくれるからいいんだけどさ、一般棲艦島の皆様とか私に名付け親になってもらうのは縁起がいいとか本気で信じてたりするんだよね。いやそりゃなってくれって言われたら拒まないけどさ、私別にネーミングセンスとかある訳じゃないからイヌミミ族の四男だからケンシロウくんだとかそんなのしか出て来ないからね? え、意味? 武術に愛された不屈の益荒男って意味だよ。大きく育ってね。

 神様ではないと知ってる人達に関してはあんまり問題ない。代々の世話役、要するに巫女さんはちゃんと私がぼんやり長生きしてるつよいだけの人って分かってたし、そこまで堅苦しい接し方してくる人は……そんなには居なかった。国の上層部は私の心の内を知っていてしっかり事実を教育した子を送ってくるからね。つまり彼女等はかなり良い所の出であり、今私と一緒に子供たちの面倒を見てる二人なんて王女様だったりとかする訳なのだ。まあ神様として広まってる奴の側仕えとか普通にステータスなのでさもありなんという感じだが、妹ちゃん礼儀作法大丈夫? なんか色々足りてなくない? 私相手ならいいし助かるけど今後困りそうな気しかしないよ?

 っていうか子供の引率私にやらせる辺り、上層部の連中は私の事をちいさくてかわいいもの与えとけば大人しくなるし愛着持って護ってくれるようになるちょろい奴って認識してるよね。正解だぞくそどもー。あ、そっちの方は入っちゃ駄目なとこだからねー覚えてねー。入ったら死んじゃうよー。いや本当に死ぬから入らないでね? 別に私のテリトリーだから禁足地になってる訳じゃあないのよ。普通に危ないの。たまに侵入して死体で見つかる奴出るから本当に入らないでね?

 

 

 

 

 

 二人の巫女が子供達にこの島の生態系を教育している。私はそれを眺めつつ、周囲から危ないものがやって来ないか見張っていた。この棲艦島にはそれ程危険な猛獣は居ないけれど、全く魔物が存在しない訳でもない。そもそも根絶したら生態系滅茶苦茶になるからね、大きな脅威に繋がる奴以外は基本放置されているのだ。

 教えを受けている子供達に目を向けるとその反応は様々だった。知らなかった事に目を輝かせる狐っ子、言われなくても知ってた事を誇ってる熊っ子、言ってる内容を理解できなくて珍しいお花や木の実を手で転がして無邪気に笑っている犬っ子、陽気に当てられて丸くなり始める猫っ子、知らない子達に怯えてお兄ちゃんの後ろに隠れちゃってる鼠っ子、いろんな事に興味が行ってその子を置いて行きがちになるお兄ちゃん。かわいい。

 この子たちにも代々要職についてる家だとか王様の血筋だとかそういうのがあるにはある。けどこの国そんなに身分がどうとかしっかりしてないから、漁師の子とか衛士の子だとかと育ててる間は一緒くただ。王様としばふ芋農家の人とか小さい頃決闘までやって今親友だぜ。このまま格差とか少ないまんまの文化してくれると有り難いんだけどね、私的には。

 なんて事を考えていたら、いつの間にか一行は林の中へと踏み込んでいた。ちゃんと管理されているから怪我をするようなものはそんなになく、日差しも適度に入って来て散歩するにも良かったりする、ある一点を除けば何の問題もない場所である。

 キノコは危ないから絶対自分でとっちゃ駄目ですよーとの姉巫女の言葉にちっちゃな子達がはーい! と元気良く返す。その可愛らしい声に誘われてか、その問題点どもは文字通り、林の奥から飛んで来た。

 それらは一見して淡く光る球体である。色は個体によって違いがあり、赤かったり青かったり珍しいものだと虹色に輝く奴もいた。普段は翅のようなものも無いのに宙に浮き、ふわふわと飛びながら自然の多い場所に集まっている。基本的に害は無い。それどころか、むしろ益の方が大きいくらいの連中だ。しかし、こいつらは困った事に、自分達の気に入った存在が近くに来るとそれに群がる習性を持っているのである。

「あっ精霊さんだー!」

 一人の犬っ子が目を輝かせて叫んだ。それに気を惹かれたのだろう、飛んできていた連中の一部がその子に向かって殺到する。と言ってもさほど早くはないのだが、その、お前等の場合群がるの自体があんまり嬉しくないというか……いや、本当に害は無いし、仲良くなれば力を貸してくれたりもするしそれが得意で従えるまで行くと精霊術師とか呼ばれる魔法使いになれたりもするんだけど……

 気が付けば百以上居るそいつらは各々が好んだ子供達にじゃれついていた。うーんこの。みんな楽しそうだからいいんだけど、やっぱり微妙な気持ちになる。あ、妹ちゃんだけちゃんと自分の方に来たの整列させてるわ。すげえ。

「やっぱり子供は精霊に好かれますね」

「うん、まあ、そうね」

 ここに居る連中はそうだね。個体差があるから大人の方に吸い寄せられてく奴も居るし、実は魔物の方に突撃してく奴等も存在するんだけど。

「微笑ましい」

 姉巫女がくすりと笑う。見た目は確かに微笑ましい、小動物と幼児が戯れているさまである。でもなぁ、私みたいに能力でこいつらの言葉も分かっちゃうとなぁ……

 

『いぬみみようじょ! いぬみみようじょ!』

『はわわちっちゃな尻尾がぺしぺし迫ってきますぅ……イイ!!』

『お兄ちゃんの袖ちっちゃなおててで掴んでるのかわいすぎない?』

『せやな』

『姫様! 整列完了しました!!』

『姫様に命令されるの気持ちいいなりぃ……』

『尊厳放り捨てて傅くのがこんなに心地いいなんて……びくんびくん』

『眠いならぎゅってしていいんだよ、我々やわらかいからね』

『枕にしてくだしあ!!!』

『らめえ齧らないで変な扉開いちゃううううう!!!!』

『手遅れでは?』

『はーお肌すべすべでぷにぷにしてるとか触り心地良すぎでしょ。私達をダメにするために生まれて来たのかな?』

『この子たちが大きくなってまたちっちゃな子が生まれる。そこに喪失感と生命輪廻の神秘を感じるんだ』

『あっちょっと潰れるッ』

『ちょ、絡まった、この子の髪なんでこんなにふわふわなの!?』

『あーだめだめ裾がめくれちゃってますよこれは引っ張って直してあげてるだけだからね間近で観察してる訳じゃないからね』

『私は見てるだけの無害な存在……言わば空気! 触れ合うだなんてそんな畏れ多い……あの、なんでじっと見つめてくるんですかネコミミちゃん。私獲物とかじゃぬわー!!』

『巫女服の袖の中に住みたい』

『右と左どっち派?』

『利き手の方がいい』

『俺は逆の方がいいからお前とは共存できそうだ』

『ん“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“!!!!! おきつねちゃんの尻尾に住みたいいい“い“い“い“い“!!! 住んだ!!』

 

 こんなんだぞこいつら。

 これで性欲とか無いから本当に害は無いのなんかのバグだろ。おかげで排除もし辛いんだよお前等。音で会話してる訳ではないから新人類の皆からはただじゃれてるようにしか見えないしさぁ。ちゃんと恩恵もあるのが最高に性質悪いわ。

 実はこの丸い空飛ぶ小さな球体どもは只々懐いて来ている訳ではない。こいつらは魔力を集めるのをお仕事としていて、自然の多い所に居るのも人に群がるのも実は魔力を吸い上げる為だったりするのだ。

 と言っても、ただただ一方的に搾取しているって訳ではない。魔力って溢れすぎると害になる場合があるんだけど、こいつらはそれを未然に防いでくれるのだ。しかも魔力を貰ったら、代わりに傷を治したり外敵に攻撃してくれたりとちょっとした奇跡を起こしてくれる事もある。だから新人類とは共生関係と言えない事もないんだよね。やってる事は魔力を対価に力を貸してくれるっていうRPGとかに出てくる召喚できるようなタイプの奴そのものなので精霊呼びもやんぬるかなといったところだろう。

 問題は積極的に気に入った奴の魔力を吸おうとする事と、この島に居る連中はストライクゾーンが全体的に低い事だ。いや乳幼児の魔力吸って暴発しないようにしてくれたりして有り難いんだけどさ……声が聞こえちゃうとね……

 あと個人的な問題をもう一つ言うとだ。

 

『あっ吹雪おるやん』

『ほんとだ吹雪だ』

『うお……すげえ魔力……』

『うわーん! 魔力がデカすぎます!』

『大きすぎて島の中だと動いてるか分かんないんだよね』

『来とったんかワレェ!』

『突撃ィー!』

『うおおおおおおおおおお!!!』

『うおおおおおおおおおお!!!』

『うおおおおおおおおおお!!!』

『ケモミミなでなでもふもふし放題の生活を送ってる吹雪を許すなー!』

『祝福の名目で赤ん坊と触れ合える吹雪を許すなー!』

『ケモミミロリを独占してる吹雪を許すなー!』

『ケモミミショタもだ!!』

『でもロリおねになるのいいよね……』

『雪ちゃんの魔力もぐもぐ! 雪ちゃんの魔力もぐもぐ!』

『うまい!!!』

『濃い!!!』

『多い!!!』

『あかん食い過ぎて破裂しそう』

『新入りー! あれほど吹雪と遭遇した時は気を付けろと言ったのに!!』

 

 こいつら私見ると滅茶苦茶群がってくるんだよね。

 しかも言葉通じてるって分かってるからとてつもなく馬鹿みたいな事言ってくんの。相変わらず凄いですねじゃないんだよ姉巫女ちゃん。意思疎通できちゃうと滅茶苦茶うるさいんだよこいつら、しかも私には恩恵あんまくれないし。いやそういう契約だからなんだけどさぁ。

『雪ちゃん、雪ちゃん、今期の制作物持って来たよ。気になるって言ってた劇場版の続編も予告編ごと収録してるから後で一緒に見よー?』

「やったぜお前ら最高だな」

 仕事終わったらうちに集合な! てんせい☆ちゃんねるの動画もいいけどちゃんとモニタに映して見るのは別腹だからね!! 薄く切った芋揚げて準備しとこう!!!

 

 

 

 

 

「そういやそっちの次元って今どうなってんの?」

『いやーこっちは変わんないよ』

『平和ー』

『刺激の無い穏やかな毎日だよ』

『吹雪の魔力もぐもぐするのが生きがいになるレベル』

『それは特殊な趣味だから』

『社会貢献になるから良い事だけどドン引きだよ』

 ここは棲艦島の地下への入り口から入ってすぐの所に作ったプライベートスペース、作ってもらったモニタやゲーム盤なんかのあるそこそこ広いプレイルームである。地下への入り口を塞ぐついでに造られたここは巫女たちすらも立ち入らない、本当の私室となっていた。

 見守りの後に巫女や子供たちと別れ、その遊び場で映画を見終えた私は、感想戦の合間に気になった事を周りの精霊()に聞いてみた。まあ、返答としては前にした時と変わらない。上位次元は何の問題もなく平和な社会を築き上げ、運営も滞る事を知らないようだった。

 彼らの文明は滅んだ旧人類の遥か上を行っている。魔力が資源として使えるとかでこちらに回収しに来ているし、私も創作物と引き換えに提供しているけれど、最悪それすら無くてもどうにかなるというのだから仕事自体が趣味の領域なのだろう。だから欲求に素直過ぎてあんな気持ち悪くなるんだろうけども。

 そう、この精霊とか言われる変人たちの正体は精霊なんて高尚なものではない。こいつらは大昔に肉体を捨て上位次元へとアセンションした、元人類……の操作する端末が新人類にも認識できるように顕現した存在である。

 いやね、旧人類が滅んだのは本当なんだけど、そもそも人類から分派した連中はまったく影響受けなかったんだよね。あのウイルスは集合無意識から感染する奴だったからその集合無意識と関係なくなった奴に効くわけないの当たり前なんだけどさ。

 あ、こいつらだって旧人類見捨てた訳じゃないよ。むしろ助けようとしてた。ただ進行が早すぎてどうにもならなかっただけで。不老不死故にかのんびり屋になっちゃったのが多いらしくてね、事態に気付いた時にはもう手遅れだったと震え声で溢していた。端末ごしだから見えなかったけど、本体は涙を流してたんじゃないかな。ちなみにそいつはさっき魔力もぐもぐとか言ってた奴である。アセンション前からの知り合いなのが笑い所さん。

 アセンション人類は基本的に私とは仲良くしてくれていて、彼らの作りだした娯楽、その中でも三次元なこちら向けの奴を定期的に提供してもらっている。代わりに私は魔力を持って行かれる訳だが、何かしらの影響が出た覚えは全く無い。収集作業に従事してるこいつら曰く、回収量より回復量の方が多いとの事なのでたぶん表面を千切り取ってるだけで済んでいるのだろう。まあ、私の魔力だけだと偏りが出てよろしくないとかで加減してるだけみたいなんだけどね。例えるなら脂質だとか言ってた。脂っこいの?

 とまあそんな訳で私は旧人類滅亡以降、本格的に一人ぼっちになった事って無かったりするんだよね。海に行けば海神様の眷属は居るし、てんせいちゃんでいくらでも遊べるし、棲艦島に帰ればこいつらが居るしで。そうでなくても陰鬱さとかと無縁なのに、環境も何一つ悲劇的じゃなかったっていう。転生者たちにはあまりにも神経が太いって言われたけどたぶんお前らでも病まないと思うよ。隣に人が居ないと死ぬって奴あんまり居なかったし。

 

 上位次元は平和も平和、文化的な事が隆盛してるからやる事なくて暇で仕方ないなんて事は起きないけどやらなきゃいけない事もないからぼーっとしようと思えば永遠にしてられる。なんて話を聴きながら次に見るアニメを選んでいると、鑑賞室として使っている広いこの部屋の奥、他と比べて雑な造りの扉が置かれたそちらに向かって一人の端末がふらふらと飛んで行くのが見えた。あれは色合いからして入ったばかりだという新人さん。頑張って魔力を吸い過ぎて端末を駄目にし掛けてたけど、まだ調子が悪いんだろうか。それともガタガタなドアに興味を惹かれちゃったかな? 明らかにそれだけクオリティ低いもんね。私が拵えた奴だから仕方ないんだけど。

「そっちは危ないから入んないでねー。アバター壊れても知らんよ」

『あうぇっ!? すみません! 覗くつもりは決して!!』

『吹雪の部屋が気になるとな?』

『やーらしー』

『きゃー新人君だいたーん』

『えっ私室なんですかここ!?』

「いや棲艦島の地下施設の入り口だよ」

 勝手に入って死ぬ奴がたまに出るから扉増やしたんだよね。と教えてやると新人さんは丸い体を青っぽく光らせだした。そんな機能付いてるの君の体。オプション付けられるとは聞いてたけども。

『気になるなら入ってもいいんだぜ! 別に違法じゃないからさ!!』

『やめとけやめとけ!』

『お前人型アバター欲しがってる奴に……』

『アバター買い直しになるかもしれんからマジで行くのはオススメしない。貯金頑張ってる奴の邪魔しようとすんなお前』

『三敗してる奴の発言は違うな』

『買い直しは一回だけだから……』

「そもそも三回も行くなよなんも無いのに」

 実は、この扉の先には本当に何もない。あるのは今はもう稼働のしようもない、リンカーネイション社の地下基地のなれの果てだけである。そう聞くと何か色々有りそうに感じるかもしれないが、旧人類が居た時代に扱いに困ってバラしたり譲ったりで処分しちゃったから本当に何にも残ってないんだよね。それこそ金属製な壁や床が一番価値があるんじゃないかなってレベル。そのくせ安全では全くないから入る価値はマジで無いんだけど……まあ、新人類には私が入り口付近で遊んでるというだけで怪しく感じるらしくて、油断してるとたまに死体が発見されるんだよねぇ。扉付けたのにどうやって入ってんだあいつら。昔はメカフブラとか置いてあったし発進用の出入口があったからそっちから来てんのかな? もう開かないはずなんだけど、今度調べ直してみようかな。

「っていうか最近アバターって高いの? 前は支給してなかったっけ」

『最初は支給だったけど応募過多ですぐ枠埋まったから追加の連中は自費になった』

『初期メンも今や自腹よ。公務員だったのが自営業になった感じやね』

『修理代が……修理代が高い……』

『雪ちゃんの魔力もぐもぐしてるだけだと維持費+αくらいしか稼げなかったりするからねえ』

『単価安いからなぁ。安全だから初心者にはいいんだけど』

 私の魔力安いんかい。いやまあ、暴れもしない枯渇もしない定住してるで安定量確保し続けられるならそうなるのも当然と言えば当然なんだけどさ。

「儲けようと思ってる奴はもっと他のとこ行くか」

『そうそう。同じ地球ならモンスターもぐもぐしに行く』

『今はオーストラリアがアツいらしいな知らんけど』

『我々は吹雪もぐもぐで足りるからよく知らんのよな。遊びに来てるだけだし』

『新人もちょっと稼いだらそっち行く予定だしな。棲艦島マジチュートリアルエリア』

『この島も好きなんですけどね……やっぱ人型アバター欲しいんで!』

 私はこの丸い球体アバター好きなんだけどな。なんかかわいいし。まあ中身お前等だから微妙な気分で見ちゃうけど。

 人型……というか簡易な光る玉以外の端末はケモミミ新人類達には大精霊とか言われて敬われている。外見が豪華なだけじゃなくてこっちに出力できる力も強くて、それと契約できた新人類はみんな偉人として名を馳せてたりするんだが……実態を知ってるとなんか詐欺感あるんだよなあ。いやちゃんと自力で稼いで装備整えたまともな奴らのはずなんだけど。

「人型になって何するの?」

『理想の旦那様を探します!!』

 それは不老不死同士でやれよ!! つーかお前婚活しに来てんのかよ!! さては仲良くなり過ぎると精霊界に連れてかれるとかいう都市伝説を現実にする気だなオメー!! うちの島の子はやらないからな!! 出すなよ!! 絶対手ェ出すなよ!! 本気で恋愛したならちょっと考えるけど!! 絶対止めろよ!! フリじゃないからな!!!!!!

 っていうか同族じゃ駄目なの? こいつらとか……え? 幼女見てすっ飛んでったりするような連中は無理? それはそうだね。ごめん私が悪かった。

 

 

 

 

 

 そんな馬鹿な話をしていた時の事である。大地が突如として震え始めたのは。

 地震ではない。震源が浅すぎる。すぐ足下の棲艦島そのものが、何かに共鳴するように細かく、小さく、僅かに揺れ動いていた。

 あっ今日かぁ。

 私は足下の隠し扉を引き開けて、床下収納となっているそこからよく磨かれてぴかぴかなそいつを取り出して、肩から腋にベルトを掛けて背負いつつ膝の上辺りにそれの一部を取り付けると、地下入り口から勢いよく飛び出した。

 

 地を駆け宙を跳び、大きな杉の木の天辺へ上り、そこで目を閉じ耳を澄ます。居る。棲艦島周辺、昔と違い船で行き来できるよう魔物を間引いた海の中に、何か大きなうごめくものが。それはこの旧人類の深海棲艦の死骸で出来た大地そのものと共鳴しながら、ゆっくりと姿を現していた。

 それは全体像としては二本足で立った昆虫を彷彿とする外観をしていた。体長は十メートル以上、全身の表面は明らかに硬質で頑丈そうであり、さらにその下に発達した筋肉が詰まっているであろう事は腕や腿の太さに比べ関節が細い事から間違いない。頭部は白く、しかし人骨を被ったようなその貌には清らかさなど欠片も感じられず、紅い双眸からはむしろ邪悪さだけが滲み出ているようだった。

 外骨格を纏う異常発達した筋肉の巨人とでも言うべきそいつは二本の脚で棲艦島の地面を揺らし、鋭そうな牙が乱雑に生えたこれまた大きな口をいっぱいに開くと、盛大に息を吸い込んで、私の連装砲から射出された一対の砲弾に頭蓋を撃ち抜かれ絶命した。

 うーん。弱い。宇宙全土レベルどころか惑星全土レベルですら繁栄してない種族の深海棲艦だから仕方ないんだろうけども。

 

 新人類の文明の発達は異様に遅かった。単純に生殖能力が旧人類ほど強くなかったのとモンスターの脅威と金属の不在が合わさった結果、なかなか発展できなかったみたいなんだよね。今の技術力的には私の感覚だと飛鳥時代から奈良時代のどこかくらいかなって感じなんだけど…………実は、現時点で既に彼らの出現確認から数万年経ってるんだよね。

 その上で、生殖能力が低めとは言っても彼らは既に百万は余裕で越えるだけの数が居て、集合無意識もとっくの昔に出来上がってしまっているのである。私はそこに参加していないけれど、アセンション組に確認してもらったから間違いない。

 なので、新人類製の深海棲艦が生まれ落ちて来るのはもはや秒読み段階だったのだ。同時に守護者も生まれてくると思うんだけど、どれくらいで彼らの準備が整うかまでは分からなかった。記録だと反攻までにどの文明でも最低国一個くらいは滅びてたから心配だったんだけど……初出現となった今日、悪意の塊どもは案の定この島へとやって来てくれたので、これで一安心ってもんである。

 私にとっては一か所にいっぱい来るよりいろんな所にちょっとずつ来られる方が困るからね、ここを狙ってくれるならすっごくやり易いんだよ。今もまだ目には見えないだけで四方八方から押し寄せて来てくれているけど、他を狙われるよりずっと良い。他にも同じだけ行ってたら困るが、それはまあ新人類の規模的に無いだろう。無いよね? あの巨体で数が死ぬほど多いとか言わないよね?

 

 あ、棲艦島に押し寄せて来てるのは偶然じゃないよ。ここにはあいつらが狙ってくるだけの価値のあるモノが眠っているのだ。

 この地面の下には私が砕いた超巨大イ級の死骸がある。既に結構採掘されていて、その跡が基地として使われていた訳だけど、それでも棲艦島を支えるだけの量は残っているわけだ。奴らは、その霊鉄と呼ばれる資源を利用しようと押し寄せてきている。というと少し語弊があるか。

 奴等が本当に狙っているのは棲艦島の基盤になっている霊鉄の内部。そこに宿る……宿ってしまった、旧人類が滅ぶ間際に残した、強大な悪意の念である。

 ウイルスでモンスター化するの、ウイルスが魂を経由するせいか筆舌に尽くしがたい苦しみがあったらしくてさ、発病した人間は変異しながらとてつもない量の呪詛をばら撒いて死んで行ったんだよね。さらに残された人たちも自分もいつそうなるか分からない絶望や親しい人を失った悲しみ、単純にモンスターに襲われる恐怖とかを発するもんだからもう集合無意識の中はしっちゃかめっちゃかよ。その状態で人類滅亡したもんだから溜まりに溜まった悪意は一挙に解放され、大爆発して世界を覆い尽くした――

 ――りせずに、深海棲艦の巨大な死体っていう宿れるもののあった棲艦島に集まっちゃったんだよね。おかげでこの島の地下は現在滅茶苦茶呪われてまーす。私じゃなきゃ足を踏み入れただけで死ぬくらい。だから入んなっつってんのになー。

 地上は安全なんだよ。あくまで霊鉄があるのは地下だし、しっかり宿ってるから漏れもしてない。だから万単位の年月が経っても全然浄化されてないんだけど、ともかく人が住んでも問題無かったんだ。っていうかその辺りの警告は最初にちゃんとやったからね私。王様の代替わりのたびにちゃんと説明し直してるからこそ禁足地のままな訳だし。でも理解してない人も居るから勝手に入っては死ぬんだよね。まあ迷い込んだだけなのかもしれないけどさ。

 

 そんな訳なので、いつか来ると分かっていた今日のために私は準備を進めていたのだ。近接一本じゃいざって時に困るかもしれないし、敵が物理無効化持ってるタイプの可能性もある訳だから、しっかりとね。そのために用意したのが、というか整備しておいたのが、今背負っているコイツなのである。

 それは今のこの世では非常に珍しい金属でできた武具だ。背負われた最も大きな部分からは排気塔が伸び、そこからは熱い蒸気のようなものが噴き出ている。その中では汽缶が全力で回り、全てのヵ所への動力を送り出していた。手に持った12.7cm連装砲も、左右の足に付けた魚雷発射管も、その他の機銃も爆雷投射機も、全て絶好調である。

 そう、それはこの世界に最後に残された艦娘の艤装。かつて日本と呼ばれた国にあった、駆逐艦に分類された船の、伝説や逸話が具象化された兵器。それを私の容に合うよう歪めた、私にしか動かせない、艦娘だった私にとっての最強にして最後の装備。

 

 

 

 完全独立型駆逐艦 吹雪改百八

 

 

 

 最後の最後で原点へと回帰した、この世界で一番最後に生まれた私の艤装である。

 

 

 

 この吹雪、実は性能的にはある点で最強であるが、基本、あんまり強くなかったりする。というのもこの子は名前通りの駆逐艦なのけれど、なんとそのカタログスペックはある点以外は造り立てほやほやでどこも改造していない、素の吹雪と全く同一のものなのである。

 改装した猫吊るし曰く、連装砲の威力も普通、魚雷の威力も普通、レーダーもソナーも特筆して見るべき場所はないし、各部のサイズを計測してもまったく差異が無いという。もちろん改二以降ではあるので私にしか動かせないし、私が動かす以上貫通弾は撃てるし魚雷を全力で撃つと周囲の物を吸い込むわけだが、実際、普通の戦闘で使っても未改造の艤装となんら変わりない戦果しか齎さなかった。

 それでも私が使う場合に限っては、こいつは間違いなく最強の艤装なのだ。

 

 何故ならば、この吹雪は完全独立型駆逐艦の名の通り、私一人で動かす事が可能だからである。

 

 それも、妖精さんを必要さんとしない、などという次元ではない。勿論名前通りそれもある。妖精さんの居なくなったこの世界で私が連装砲を撃てたのはその機能の恩恵だ。でもこいつの、この駆逐艦の特性で最も強いのはそこではない。

 吹雪改百八は、使用者の魔力を動力源に動き、使用者の魔力で自動修復され、弾薬すらも使用者の魔力で生成でき、集合無意識からの供与無しで物理無効化を貫通し、少量ならば食料ですら創り出せる――即ち、単独で最強の継戦能力を持つ艤装なのである。

 私は強い。正直な話、艤装を装備して伸びるのは対応力であって、戦闘力ではない。もちろんあった方が良いに決まってるし、助けられた場面は本当に多いんだけど、単純に破壊力に関してだけ言えば素っ裸で戦ったって大した差は出ないのである。

 だから、この艤装は私にとって最強装備なのだ。最大瞬間戦闘力が変わらないならそれが長く続くよう努力した方が強いに決まっている。壊れない! 補給要らない!! 無効化耐性!!! ごはん!!!! その他!!!!! 私が欲しいもの全部を一纏めにして詰め込んだ夢の逸品。それがこの背で頼もしく猛っている吹雪改百八だった。

 なので、あの……………………形態こそ原点回帰しているが、実態としてはむしろ、本来の艤装と艦娘の関係を主眼に置いていうのであれば……その、実は逆転現象が発生してたりとかするんだよね。

 だってそうでしょ? 艦娘は艤装の、その先の軍艦の力を引き出して戦う存在だったはずなのに、この艤装ときたら、私の力を最大限引き出すための装備になってしまっているんだから。

 

 いやもう、本当にごめんなさい吹雪さん。出来てしまった時も謝ったけれど、今度また改めて使った報告と謝罪の連絡を入れておこう。雪吹艦隊の吹雪も深海吹雪に似てた吹雪さんも転生者として元気にやってるから、両方ともにね。

 それじゃあそれをするためにも、まずは一仕事いたしましょうか。敵の数はえーと、1000ちょっとかな。思ったよりは多いけど、どうにもならない数でもない。ただ意外と密集しているから、連装砲だけだとちょっと装填が間に合わなさそうだ。

 

 うん。

 

 

 

 殴るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実の所、伊吹 雪は一つ勘違いをしていた。

 吹雪は新人類の言葉を完璧に理解している。これは正しい。彼、もしくは彼女の能力は多少おかしな文体になる事はあっても意味を取り違える事は無かったからだ。

 

 問題なのはその逆――吹雪の言葉を新人類が聞き取る場合の事である。 

 

 吹雪は自分が喋る側となる翻訳能力を鍛える際、日本語を知らない別惑星の人間と会話する事によって研鑽を行っていた。吹雪は日本語で喋り、それなのに、日本語など存在すら知らないはずの異星人が吹雪の言葉を理解できたか。その成否でもって能力が習得できたかを判断したのである。

 そしてそれが故に、吹雪は習得に失敗していた。

 あの時代、全ての人間は共通語と呼ばれる簡易な言語を習得していた。当然、吹雪もその全ての中に入っており、多少怪しい時代はあったものの、最終的には完璧に使いこなせていたのである。

 しかしそれが、新たな能力に対しては牙を剥いた。吹雪の術式は、吹雪の発言の意味を直接理解させるのではなく、二人に共通した知識である共通語を話しているものとして相手に認識させるようにしてしまったのだ。

 それは正しく翻訳である。問題なのはそれが共通語としてしか作用しない点だった。吹雪からの表現であれば出力方法は問わないが、受信側には共通語の知識が求められる。そんな限定的な能力にその能力はなってしまったのだった。

 そうしてまともに習得できたと思い込み、そのまま時が経ち、新人類と話をする段になって、翻訳能力は困り切った。それはそうであろう。何しろ相手の知識の中に、共通語などというものは存在しなかったのだから。

 しかし、大幅に劣化しているとはいえ、そこはチート能力の模造品。本来とてつもなく優秀な術式であるそれは、なんとその場で正しい挙動……即ち、相手の言語能力に関わらず吹雪の言葉をそのまま理解させる能力として働き始めようとしたのである。

 けれども、だ。本来吹雪の才覚では数千年、それも意識的に鍛錬してようやく習得できるはずだった能力が無意識下で強引に正しく働き出したとして、真っ当な効果が出る事が有り得るであろうか?

 んなわきゃー当然ねーのである。

 その能力はとりあえず、言語として認識させるプロセスを放棄して、主目的だけを達成するような動き方を始めてしまったのだ。

 結果として、吹雪は新人類との意思疎通は可能になった。

 なったが、吹雪の言葉はまったく言語として受け取られはしなかった。吹雪が何かを口に出しても、新人類はまったくその内容を理解する事はできず、ただ、その意味だけが脳内に直接叩き込まれ、そうされた事が分かる状態になってしまったのである。

 当然、新人類が吹雪と同じ発音をしても同じ現象が起こる事はない。それは吹雪が話した時にのみ発生する事象だった。

 故に、彼らは思ったのだ。

 

 ああ、これこそが神の御言葉。口に出している音声そのものが重要な訳ではないのであろう。

 

 つまるところ、吹雪は王族や役人達からも、気安く接して問題無くそれを望んでもいると理解されているだけで、神であると認識されていたのである。

 

 

 

 

 

 直接意味を理解らせるという性質上、吹雪の言葉は大きく意訳される。故に、吹雪はそんな事は言わなかった。意味合いとしては正しかったが、実際には言わなかった事なのだ。

 

 その日、異形の軍勢が国を襲った。振るわれる巨腕が地を抉り、踏み出される大足の一歩は家屋を容易く踏み潰す。立ち向かった屈強な戦士の渾身の一撃は厚い甲殻に阻まれ、術師の放った全力の炎弾や電撃も同じ結果を辿ってしまう。唯一つ、精霊術によって創り出された石壁だけが化け物の歩みを阻んだが、それもたった三度の殴打に耐えられなかった。

 人々は混乱し逃げ惑い、多くは海より出でたそれから離れるべく島の内部に向けて走り出す。そんな中で、一人の少女が砕かれた石壁の前で倒れていた。腕の中には小さな花冠。貰ったばかりの宝物を持ち出そうとして逃げ遅れ、石壁倒壊の揺れに足を取られてしまったのだ。

 侵略者はその子供を見逃さなかった。それの目標は島の確保である。だが、確保する理由は人々を苦しめるためだった。故に、少しその欲を満たして行こうと邪悪な意思が浮かんだのは、それの持つ性質から言えば順当だったと言える。

 一人の人間を握り潰すに余りある巨大な掌が少女に迫る。少女は恐怖の余りに、腕の中の宝物に縋りついた。

 

 

 

 ――すまない。遅くなってしまった。

 

 

 

 それは彼らの使う言葉とは全くかけ離れたものだ。耳に届く音からは意味が窺えず、しかし、その意図する所は聞いた全ての人々が頭で、魂で理解できた。それはこの島に住む者にとっては慣れ親しんだものである。少しでも届けば伝わるそれが、よく響く発声とともに、周囲の心ある全てのものに響き渡った。

 

 

 

 ――だけど、もう大丈夫。

 

 

 

 伸ばされていた怪物の腕が止まる。避難しようとしていた人々は足を止め、呆然と後ろを振り返った。そこにあったのは、先ほどまで絶望だった光景である。

 

 

 

 ――私が来た。

 

 

 

 そして見た。人の繰り出し得る一撃では傷一つつかなかったその異形の巨躯が、中央から綺麗に分かたれて、支えを失い左右に倒れて行く様を。

 その足元には、まるで人のようでありながら、人では有り得ない耳介をした未成熟な女性が佇んでいた。それは普段はあまり動きのない、しかし何を思っているのかはむしろ分かり易いその顔の表情筋を緩め、倒れた幼子に頼もしく笑い掛けている。

 少しだけ潰れてしまった花冠を抱きしめたまま、目の前の存在の名を呟きつつ、少女はゆっくりと立ち上がった。手を差し伸べる直前で自分から立ち上がった事に、それは意外そうにしながらも嬉しそうな雰囲気を発しだした。

 少女に向かって手が伸びる。先ほどの悪意あるそれとは全く違う、暖かな手。それはゆっくりと髪に付いた埃を払い落すと、優しい力加減で頭を撫でた。

 心地よさに目を細めた少女はその女性の事を見返した。そして気が付いてしまった。崩れ風通しの良くなった石壁の向こう、港のある岸のさらに先。泡立つ海の内部から、動かなくなった大きな化け物と似たものが、たくさん這い上がって来ている事に。

 それは逃げる足を止めた住民たちも同じだった。たった一体でもどうしようもなかったそれが、海面を埋め尽くさんばかりの数で押し寄せてきている。

 圧倒的な絶望。それは生き残る事すら不可能な程の悪意の嵐だった。

 

 それを背に、人のようで人ではないそれが、あまりに無造作に、振り返る事すらなく、海に向かって腕を振るった。

 石壁だったものが地面ごとえぐれ消える。倒壊していた建物の破片が破砕され微塵に砕かれてゆく。大地が、港が、海が、空間にあった全ての物が混ざり、どこかへと消え去って行った。波間から降臨せんとしていた異形たちが、抵抗すら許される事なくその渦へと巻き込まれる。実体化した強大な悪意の念はただ掻き混ぜられ、そのままどこにもいなくなった。

 跡に残されたのは抉り取られるように水平線まで続く横穴の開いた景色のみである。

 驚くほど静まり返った世界の中で、海が元に戻ろうとする轟音だけが空しく響き、惨状を引き起こしたそれの黒い髪の上では海と同じ色のリボンが躍っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ以来国の偉い人達まで平伏するようになった件について。

 誰か助けてくれ。

 

 

 




妹巫女王女(うわっ父上フブちゃんが一番嫌がる対応してるよ……面白いからもうちょっとだけ放置しとこ)
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