転生チート吹雪さん   作:煮琶瓜

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強すぎてニューゲーム

「ああ! 何たる悲劇! 何たる不幸!」

 何もない空間で存在しないスポットライトの光を浴びて、一人の少女が芝居がかった所作で叫ぶ。

「地球は肥大してゆく日光の脅威に晒され、あらゆる生命は死滅し、最期には星そのものも赤色巨星と化した太陽に飲み込まれたのです!」

 両手の指を胸の前で組み合わせると、数瞬停止し、何かを潰すかのようにそれを堅く握り締めた。

「そのまま地球と一緒に太陽に叩き込まれて何事もなく生存して食べるものがなくて栄養失調でお亡くなりになったのがあなたになりますわ」

「最初の必要だった?」

 飽きたのか唐突に普通に喋り出した少女はスポットライトからひょいと飛び出ると、その場に居たもう一人の肩をぽんと叩き、叩かれた方は呆れた様子で突っ込む。それに少女は困ったようにほほ笑んだ。

「どうして酸素も何もない空間でしばらく生きてられましたの?」

「さぁ……? 自分でも流石に即死するかと思ったんだけど」

 再生力でどうにかなってたんじゃないだろうかとその人物は回顧した。思い返しても全く意味は分からないのだが、魔力がすごい勢いで削られるだけで何故か生きていられたことだけは覚えている。おそらく体を動かすための養分が足りなくなって死んだのだろうとは予想が付いたが、そこも魔力でどうにかならなかったんだろうかとは自分でも思わずにはいられなかった。

「『なんか』『つよい』からダメージはどうにかできたけど、あくまで『なんか』『つよい』だけだからリソース不足には対応し切れなかった感じかな? 酸素については全く説明付かないけど」

「そこまで行ったら栄養とかの概念くらい超越してもよさそうですけれどねえ。変なところで律儀というか……」

 調べようにも既に体は焼失している。時間程度の事は少女にとって大した障害にはならないが、そこまでする程の事でもないというのが実際の所だった。

「それじゃあとりあえず、完走した感想をどうぞ」

「すごくたのしかったです」

「小学生並みの感想をありがとうございますわ!」

「嘘じゃないんだけどなあ」

 本人の主観で評するならば、その一言で間違いない。良い事も悪い事も沢山あったが、全てをひっくるめて短く表現するならそう纏めるしかなかったのだ。

「まあ、それなら何よりですけれど……」

 それにしても、と一度話題を打ち切って、少女は話していた相手の姿を上から下までじっくり観察した。それは青年である。何の変哲もない、特に異常性を感じられない、どこにでも居そうな青年の魂。収まっていた器の容と何一つ一致する部分のない、以前見たそのままの姿だった。

「貴方、全然変わってませんわね」

「君がそういう転生の仕方にしたせいじゃないの?」

 精神の保護は間違いなく存在していたと青年は確信している。それはどの転生者も前世との同一性を保っていた事からも明らかで、誰もがそうなっていると考えていたくらいには間違いのない事だった。そのため話題に出される事自体が意外である。

「完全に変容しない訳ではないですわよ。でないと多聞丸とか治らないじゃありませんの」

 確かに。青年は納得した。

「貴方の適性……というか性質ですわね、それは。魂が強靭というか自我が頑固というか暢気というか適応力が全く無いというか学習能力が欠如しているというか」

「すごくスムーズに罵倒に移行された!?」

「あら、褒めてますのよ? お陰様で撮れ高はなかなかでしたもの」

 密度はちょっと寂しかったですけれどね。軽く肩を竦めた少女の言葉に青年は少し昔を振り返る。思えば最初の二十年が一番濃く、それに続く一万余年もかなり濃く、そこから数万年だか数十万年はとても薄く、暫くしてから訪れた数百万年はそれなりの濃さで、その先の数億年は書く事すら無い程薄味だった。平均してしまえばきっと薄さの方が勝つのだろう。本人的には印象に残る思い出が多いか少ないか程度の差であって、ずっと良い人生が続いていたのだが。

「ちなみにハイライトは?」

「動画にした奴だと私が来た100連発とかありますけど見ます?」

「そんなにやってたっけ……?」

「むしろ100選ですわよこれ」

 他には最大威力の変遷動画などもあるらしい。最終的に地球どころか太陽系すべてが吹きとぶほどの一撃を素手で出していたので逆に画面映えしなくなってしまったと少女はちょっと残念そうだった。青年は流石にちょっと自分の行いを反省した。

「っていうか、やっぱり動画にしてるんだ?」

「ええ勿論! 貴方もそのうちアクセスできるようになりますわよ。別に高尚なものではないですからね」

 『なんか』『つよい』伊吹雪ちゃんシリーズはそこそこ再生されていた。などと聞かされても青年としては内心で頭を抱えるしかない。あの痴態というか馬鹿みたいで恥の多かった人生が何人いるとも知れない不特定多数の世界創造クラスな連中に見られていたというのは、ただひたすらに滅茶苦茶恥ずかしくて仕方がなかった。

「ちなみに配信止めて貰えたりは……」

「貴方が同格になるまでしなーい」

 畜生めぇー!! 青年は心の中で思いっきり叫んでみた。しかしそれだけで全てが伝わってしまったらしく、少女はからかうようににんまりと微笑んだ。

「もんくがあったらいつでもベルサイユへいらっしゃい」

「あ……悪魔たん……」

 青年が戦慄いてみせると、少女はけらけらと楽しそうに笑いを振り撒いた。ミームの保存は精神保護の効果の一つである。だがおそらく、こいつは別にそのままでも忘れなかったんだろうなと少女は確信していた。

「ふむ、そうですわね。ちょっと貴方がどれくらいで変容するか気になりますし、次から保護なしで転生してみましょうか。あ、性別は女の子限定で」

「やっぱ君メス堕ち性癖持ってるよね?」

「長く生きていればなんでもイケるようになるものですわよ。性癖とは変わるものではなく増えるものなのですわ!」

 えっへん。全く無い胸を少女は張った。鼻息も強めに出ている。強い力を持っていようが、結局のところ青年と彼女は同類でしかないのであった。

「……あれ? 転生させてもらえるんだ? 猫吊るしは修行させられたって言ってたけど」

「だって貴方、修行させようにも掲示板に入り浸るばかりで身が入らないじゃありませんの。地球の年を億単位で生きて全然そっちのスキル伸びてませんわよね?」

 図星である。青年は余りにも『力』の扱いに精通していなかった。人類が最早住めぬ星と見切りを付けて出て行ってからの幾万年、ほぼ全ての時間が暇であったにもかかわらず、修業の成果は惨憺たる有様である。同じ力を持つ友人の初期状態よりは幾らかマシ、その程度の制御力しか身に付けられなかったのだ。

「ぜぇーっっったい、アニメ見始めて感想書きに行ってオススメされた別動画見に行ってそれの感想書いてって無限ループするに決まってますわ!」

「否定ができない……!!」

 何しろ実際やっていた事である。艤装から食料を産み出せる関係でその場をほとんど動く必要がなかったものだから、とことん趣味の追求に走れてしまったのだ。楽しかったので問題とは思っていないのが非常に重篤だった。

「それに貴方の場合、特に暴走はしないでしょう? それなら普通に生まれ直して生活の合間に修業した方がメリハリが効いて効率良いんですわよ。延々真面目に取り組める精神性をお持ちでない方々にとっては」

 成人してちょっとくらいまでが一番密度が濃かったでしょうとの少女の問に、青年は頷くしかなかった。必要が目の前にやって来てようやく必死になれる程度には凡夫だと自覚していたのである。ぼんやりと生きる事については定評があるタイプの人間なのだ。

「今の貴方は例えるなら、『力』の専門学校の合格通知を持ってるのに何故か入り口の段差に座り込んで携帯端末を弄ってる状態ですの。通学する気がないのなら、もう通信教育するしかないんですわよ!」

「年単位で入り口前に居座ってるとかもう狛犬か何かだよね」

「年は年でも億年経ってたら卒業者が一礼して旅立ってくレベルですわ!!」

 才能以前の問題であると少女は言う。そもそも才能もある方ではないのに一生懸命さも殆どないのでは、もう必要な状況に追い込むしかないのだ。力を望んでいた訳ではないので仕方のない部分はあるのだろうが、それにしたってあまりにもやる気がなさ過ぎた。

「ちなみにだけど、猫吊るしとか風香ってその例えだとどうなるの? あと(らいと)も」

「春雨は教室の入り口でコサックダンスしてて、島風は校舎の周り走ってて、文月は遠くのドームでライブしてますわ」

「一人だけ辿り着けてない事しか分からん……」

 猫吊るし、もしくは春雨は自分に合った『力』の扱い方を自分で探している状態である。器用な性質であるためか他人から教わるよりその方が上手く行きそうだったのだ。とはいえ中々に険しい道であり、迷走する事も多々あったが。

 風香、もしくは島風はそもそも『力』に関して自覚も興味もない。天性の才で扱えてしまうし暴走もしていないが、そんなものを振るうよりはただただ走っている方が好きだった。

 (らいと)、もしくは文月は未だに『力』に触れられていない。声の魅力に磨きは掛かったしアイドルとしての技量は天井知らずで伸びているが、それが『力』にまで昇華されるのはまだまだ先になるだろう。お仕事楽しい!!!!!!!!!! とは一つ前の世界で歌いながら聖遺物を握り締めて格闘戦に励んでいた彼、または彼女の平和な今世での心からの叫びである。なお今世もトップアイドルが謎に自宅で暗殺されていたりで割ときな臭い模様。

「仕方ないから全員転生させましたわ。残してたら貴方が修業する動機になったかもしれませんけど……まあ、今更ですわね」

「みんな頑張ってるもんねえ」

 何も頑張っているのは三人だけではない。知り合いの転生者達はそれぞれの世界で活動していて、その報告や相談は度々スレでも見かけていた。時間の流れが一致しないため人によって回数や密度は違うようだったが、ずっと同じ世界で安穏と暮らした青年に比べれば、皆経験を重ねた事だけは間違いないだろう。

「貴方もそのみんなに入れてやるってんですわよ」

「拒否権とかは?」

「契約者でない貴方にはありますけど……意味ありませんわよ? 『力』を有している以上、最早貴方は私と関係なく不滅ですもの。何もない空間で暇してたいというなら構いませんけれど、本当に只々暇ですわよあれ。地球の年換算で7溝年くらいやった私が言うんだから間違いない」

 嫌ならさっさと自力で世界創造なり『力』の破棄なりできるようになれ。それが少女の主張だった。

「世界に属さない我々には死もないし滅びもない。概念そのものがない以上他者の干渉も究極的には不可能。私だって既に貴方を完全には消せませんのよ、それすら自分でどうにかするしかありませんの」

「もしかして例のケーキ物凄い厄ネタだったりしない???」

「まあ、消えられるようになるのはそんなに難しくありませんけれどね。実際、封印されて詰んだ状態から習得して自害した例もありますし。封印から出る方向の成長も可能ですので諦めなければ何とかなる。それが我々ですわ」

 少女は青年の言葉をスルーした。劇物であるのは確かだが少女からすれば本人次第でどうにでもなるようなものだしそもそも修練無しで消化吸収に成功した例が島風一件だしあんなのぶっつけで完全な取り込みに成功するような奴が制御の習得に苦労するはずもないためそこまで問題視していないのだが、その辺りの価値観の相違を説明するのが純粋に面倒だったのだ。

「ですので、貴方は次の世界にぶちこみますわ。OK?」

「うん、まぁ根本的には善意なんだろうなっていうのはなんとなく分かるからいいんだけどさ……」

 なんだかんだと言ってはいるが、少女が転生関係のあれこれを基本的には善意で行っているだろう事を、青年は何度かの接触で確信していた。もちろんそこには動画の事や自身の娯楽の事なども多分に含まれているのだろうし、価値観が違い過ぎて理解できない部分も多いのだけれども。

「ああ、それとも少し休みます? 休憩室くらいはありますわよ」

「いや、いいよ。数えてなかったけどたくさん休んだから」

「そう」

 少女は少し微笑んで、それから青年の後ろに回ると、その背をえいと突き落とした。抜ける足下。何もない空間の何もない方向に向かって、青年は一瞬で墜ちて行った。

「あ! 例によって次の生に関しては私が面白くなるように決めておきますのでご心配なくー!!」

 もしかして直前の世界の酷さに関して何の自覚もお持ちでない?

 何一つ安心出来る要素のない言葉と共に手を振ってくる少女の姿を確認して、そのまま青年の意識は暗転した。

 

 

 




次回が最終回予定です。
ただ怒られる予感がするので先に謝っておきますね。
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