魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第9話『トラブルシューターⅢ』挿絵あり

 

 

 

「ふむ。随分と凄いのねぇ―――けれど霊的防御なんて無いのは不用心……というよりも、そういう技術が無いのでしょう」

 

 校舎内に紛れこませた傀儡、『犬の使い魔』を通して見えてきた学生らしい光景に少しだけつぶやく。

 犬は何かを叫んでいるが、とりあえず黙って偵察しつつルーンを打ち込めと言っておく。

 不満げな気持ちがこちらに流れ込んでいるが、「魔女」はそれを黙らせつつ犬の視ているものを詳細に見て、頬に手を当てる。

 

 魔女は―――紅潮していたのだった……。

 

「ふふふ。カルデアの姫騎士ちゃんは随分と騒がしいのね。英雄の姫(プリンセスブレイブ)はそうでなければね。やはり欲しいわ……」

 

 魔女は蕩けた顔で、そんなことを言う。言いながら足元の犬、狼とも言える「使い魔」に生肉を与えておく。

 

 中々にいい肉、牛の『腸』らしき内臓を無造作に投げたことから分かることだが、犬たちはドッグフードなどをこの方食べたことはない。

 主人たる「魔女」が手ずから与える肉はいつでも新鮮なものであり、己が高まることを感じるのだ。

 かつての「野生」のチカラを取り戻しつつある自分を認識している―――。

 そう感じた「魔女」は、「いい子ね」と喉を一匹一匹撫でてから食事を再開させる。

 豪奢な部屋、調度品も立派にすぎる床を存分に汚しても構わないとする魔女は、使い魔たちを満足させてから、犬の視界にロックをさせつつ依頼主に通信を入れる。

 

『―――ミス、なにかありましたかね?』

 

「随分と早く通話に出るのね。ミスター?」

 

『この司 一、あなたのような美女からの通信ともなれば、どんな仕事を放り出しても通話に出ましょう』

 

 モノホンのテロリストに仕事など、あまりにも不釣り合いな言葉だが、それでも会計監査や様々な支払いなどあるのだろう。

 

 如何な廃工場とはいえ、テロリストたちが寝泊まりして武器を自作ないし整備するとなれば、光熱費から水道料金にと、多くの金が使われる。

 

 有史以来、軍隊というものは戦闘をしている時よりも滞陣しているときの方が金を使うのだ。

 

 上辺だけなのか本心からなのかは分からないが、こちらに対して遜った言い方をする司に対して提案を行う。

 

「私としては少々「匂わせて」おきたいのだけど、アナタはどうお考えで?」

 

『本音を言わせてもらえば、新入生歓迎期間になにか面白い素材がいないかと思うのですけどね……まぁいいでしょう。正直、今月の星の巡りは私はよろしくないので、ミスの判断にお任せしましょう』

 

「けれど―――「やる」のでしょう?」

 

『……『出資者』は無理難題をおっしゃるもので』

 

 苦い顔をする司に少しだけ同情しつつも、それがお互いの仕事だと納得をしておいた。

 

「―――サヤカさんは、学内を混乱(シェイク)させるための切り札。まぁちょっとしたゴーストを発生させます」

 

『御意、キノエなどコラボレーター(情報提供者)たちには「何か」が起こるとだけ言っておきましょう』

 

 あまり詳細を語りすぎると何かの嫌疑をもたせてしまう可能性もある。あまりにも用意が周到すぎたなどなど、周りから疑いの眼を持たれてしまうかもしれないからだ。

 

 ゆえに―――魔女の戯れ。遊びが一高を混乱させてしまうのだった……。

 

 † † † †

 

 

「司波くんってニンジャを師匠に持っているんでしょ? 走り方は、そんなんでいいの? スリケンとか使って足止め出来ない?」

 

「腕を後ろに流して前傾で走り続ける走法なんて、あの作品だけだ。そしてスリケンとか意味が分からない―――でどうする?」

 

 アーシュラからの、テンプレートでありながらも忍者に対する偏見混じりの言動に、どうしたものかと達也は頭を悩ませてから、最期には真面目な話をする。

 

 雫とほのかの体重を感じさせない抱え込まれだが、ともあれアブダクションの現場なわけで、何とか止めねばならない。

 

 要は―――どちらかが前に出て通せんぼする必要があるわけで、その役目をアーシュラは担うことにするのだった。

 

「私があちらの前に出るから、キミは後ろから追撃よろしく」

 

 言ってからアーシュラは全身から吹き出る魔力放出のベクトルを調整することで、超速での移動を開始する。

 

 母 アルトリア・ペンドラゴンという『女性』から受け継いだ魔力のアフターバーナーと大出力のエンジン。それを思いっきり『踏み込め』ば、その速度は尋常のものではなくなる。

 

 当然、魔法師であろうと追随出来なくなるほどの、秒もしないうちのトップスピードへの変化は、達也を置き去りにしてボードを操る連中に並走する結果となる。

 

「ちょっと――止まってくださーい。あなた方のやり方は違反でーす」

 

【挿絵表示】

 

 ボードを操るOGに並走するまで秒もかからなかったのは、あちらにとっても予想外だったようだ。

 ボードのローラーは動き続けているが、2人の同級生を抱えていた長身の女性二人は、横にいるアーシュラの姿を見て、あからさまに驚いた。

 

「―――――えええええ!!!!!????」

 

「ア、アナタ! 歩行でボードに追いついているっていうの!?」

 

「そうですけど――、とにかく止まって、その胸がモリモリの子とちんまい子を離すように―――」

 

 走りながらも山で『こだま』を響かせるようなポーズを取り、明確に『声』に魔力を乗せた上での言葉を発する。

 被害者2人が表情を微妙にしていたが、分かりやすい表現を優先した結果である。勘弁してほしいものだ。

 とはいえ、OGは鼻水垂らしかねないギャグ顔から一転してCADを操り、こちらを妨害しようと魔法を発動させてくる。

 

「中々の健脚だが、ここで負けるわけにはいかない。頼んだよ涼歌!!」

「任せていいよ。颯季、あなたの『秘密』を覗かせてもらうわ!!」

 

 短髪で活発そうなのが颯季という人で、長髪でしずやかそうな人が涼歌というらしい。分かった所でアーシュラにとってはどうでもいいことだが。

 

 地面が隆起を果たして段差を作り上げる。その所作に足を止めていなかったことで一動作遅れるも、アーシュラはつんのめりそうになるが、構わず飛び上がる形で避けた―――瞬間、風祭涼歌の魔法が発動。

 

「アナタのスカートの中身、見せてもらうわよ!」

 

 飛び越えた段で遅行で発動する魔法。乱流がアーシュラの真下から吹き上がる。

 

 いわゆる今では見られない地下鉄の通気口から吹き上がる風―――マリリン・モンローで有名なスカートめくりのシーンとなるはずで、後ろで追走していた達也をボードに乗っかる摩利が追いつき眼を閉ざそうとした瞬間。

 

「―――風。『運』が悪いですね。卒業生さん―――」

 

 瞬間、風祭涼歌が驚愕するのを萬屋颯季は眼にする。

 

 相手方を妨害するはずの風―――操り吹き上がるはずのそれが、相手を『進行方向』に押し流す風に変わったのだ。

 

「そんな!? どうして!?」

 

「ワタシのお母さんは、風を操ることが得意なんですよ。スワシィの谷での『大シーザー』との戦いでも、風を操って空を舞ったぐらいです」

 

 谷の霊力を根こそぎ奪ったローマ皇帝『ルーシャス』との壮絶な戦い―――時に空中戦まで行った果てに、大ローマ連合軍はルーシャスごと『歴史』から消え去ったはずなのだが……。

 

 やった本人も『そんな戦いありましたかね?』と懐疑的。

 

 ボケたか? という言葉に対して竹刀を使っての実戦式訓練であった。

 

 おにょれ鬼母―――と思いながらも、その時のことが『糧』となった。

 

「風よ。我が意に応えよ!」

 

 風祭涼歌の風を奪ってボードの進行方向に先んじて着地。風に運ばれる姿に風の竜を達也は感じた。

 アーシュラは振り向くと同時に、見えたボードの違反者に対して呼吸を整える。

 

 数秒で吐き出される『竜の息吹』(ドラゴンブレス)

 

 高密度の『エーテル』を利用した対抗魔法が、ボードにかかる慣性力から発動させようとしていた魔法式・起動式全てを根こそぎキャンセルした。

 

「「うそーーーーん!!!」」

 

 古典的な驚愕の声をシンクロさせたOGだが、物理法則そのものはまだ生きており、マグダラの聖骸布で『風』を包み込んで、エアバッグとして2人と2人を受け止めた。

 

 巨大な風船のごときそれに衝突したことで、捕物は終わりを告げるのだった……。

 

 

 † † † †

 

「確かにお前たちの魔法力はとんでもないが、それを以て過激な勧誘行動をするなんて言語道断だ!! OGだからと容赦はしないぞ!!」

 

「うわっ、摩利ってば、ちょーおこ()じゃん」

 

「きっと『ナオツグ』と上手く行っていないのよ。倦怠期ってやつね」

 

 人のことは言えないのだが、随分と人の神経を逆撫でする言動を正座しながらも行うOGの先輩2人である。

 ちなみに言えば聖骸布で拘束済みである。

 

「あ、あの摩利さん。流石に2人も反省した―――いえ、してないでしょうが、これ以上は暖簾に腕押しですから」

 

 その時、短髪のジャージ姿の女子―――くりくりした眼が特徴的な人が、フォローにならないフォローを入れてきた。

 

 同級生にしては、随分と謙った言い方をする女子バイアスロン部部長『五十嵐亜実(つぐみ)』の言葉に―――険ある視線で見ながらも、渡辺摩利は眼を瞑って嘆息をした。

 

「衛宮、離してやっていいぞ」

「いいんですか?」

 

 アーシュラの質問に対して再びの嘆息をしながら摩利は口を開く。

 

「ボードは既に没収済みだ。仮にバイアスロン部から違うのを借りパクしたならば―――今度は連座制で五十嵐も同罪にする」

「き、肝に銘じておきます……」

 

 最後に釘を差したのは、現役部員に対してであった。

 

 反省云々はともかくとして、これ以上は支障が出ると思ったのだろう。ともあれ委員長の指示がそれならば、問題ないだろう。

 

 聖骸布の拘束を外して立ち上がった2人のOGは、身体の調子を確認してからアーシュラに近づいてきた。

 

「中々の使い手だな。まさか涼歌の風を奪うとは予想外だったよ」

「アナタもSSボード・バイアスロン部に入らない?」

「興味ないです。そして風紀活動が終わり次第、弓道部に入部届を出しに行くので」

 

 首筋に蠱惑的に指を這わせようとした風祭を躱して、アーシュラは距離を取る。

 アーシュラが1学年の主席であることを『知っている』だけに、もったいない思いがあるのだろう。 

 

「自分たちは、そろそろ通常業務に戻ります」

「ん、そうか―――って!? お前ら舌の根も乾かぬうちに!!!」

 

 達也が渡辺委員長に話しかけたスキを狙ってか、2人のOGは、木の陰に隠しておいたらしきボードを手にして走り去ろうとしていた時に―――。

 

「予備のボードぐらい元から持っていたのよ!!」

「馬鹿め―――私達の勧誘活動は―――」

 

 瞬間、上方から飛んできた吸盤付きの矢2本―――何かの札が張り付いたそれが、萬谷と風祭の額に猛烈な勢いで張り付き―――。

 

「「へ?」」

 

 ぽんっ!! という間抜けた擬音の後に、2人の姿が忽然と消えた。

 

 もはや音も光もなく、その場から完全に消えさった現象に―――誰もが驚く。約一名を除いて―――。

 

「「「「――――!?」」」」

「あっ、お父さんの『妖精矢』だ」

 

 アーシュラは、その場に残された吸盤の矢尻を持つ矢を手にしてから札を検分。そういう効果かと理解する。

 

「真由美!? 萬谷と風祭はどうした!?」

『こちらで確認した限りでは、矢を受けたあとに2人の姿は、校門前に『移動』していたわよ―――まさか『瞬間移動』、いえ『空間転移』!?』

「そんな大層なものじゃないですよ。まぁ多分、校内に入れなくなってるんじゃないですかね」

 

 通信機の向こうにいるだろう七草会長に対して、摩利の方に行きながら通信に答えるアーシュラ。

 

『そ、そうよ。何か見えぬ壁に進行を遮られているように見えるわ』

 

 その言葉で父の『お仕置き』を察したアーシュラは、バイアスロン部の部長に声をかける。

 

「五十嵐先輩でしたっけ? あの人達のアドレスぐらい知っていると見て言いますが、多分『今日いっぱい』は、一高内に入れないということを教えてあげてください。ついでにいえば、何か荷物があるならば持っていってあげてくださいよ」

 

「う、うん!」

 

 原理は理解できないが、真由美の言葉で深刻さを理解した五十嵐は、端末を取り出して通信に入る。

 

 それを見ながら、アーシュラは妖精矢を風化するべく風を操っていたのだが―――そこに達也からのツッコみが入る。

 

「士郎先生は何をしたんだ?」

 

「矢を射掛けた」

 

「そりゃ見れば分かる。射掛けた効果を俺は教えてくれと言っているんだ」

 

「教えない。他人の魔法を探るのはマナー違反じゃないかな? お父さんが許可してもいないことをキミに教えられない」

 

「まぁそう言われればそうだがな……」

 

 突き放す言い方のアーシュラに、少しだけ苦手意識を持ってしまう達也。

 

 そんなアーシュラと達也の「組」に対して、助けられた光井ほのかは聞きたいことがあるようだ。

 

「達也さんと衛宮さん―――風紀委員でコンビを組んでるんですか?」

 

「まぁな。どういったところでアーシュラは女子だから、最初ぐらいは着いてやらないと無情だろ」

 

「そ、そうですよね。流石は達也さん。優しいです」

 

 達也に対して「違うこと」を聞きたかったのだろうが、そこまで踏み込むことをしない光井ほのかを見ながら、色々と面倒な人間関係を感じたアーシュラ。

 

「よし、ここはもういいだろう。風祭と萬谷をふん縛れなかったのは業腹だが―――いい薬になっただろうしな。2人とも通常業務にもどれ」

 

 それに対して、アーシュラも達也も特に抗弁することはなかった。

 

「衛宮さん。ありがとうね」

「ありがとう」

「今後は気をつけてね〜〜」

 

 最後の最後で礼を言われて、注意勧告をしつつ、バイアスロン部の練習スペースから離れる2人。

 

 その背中を見ている光井からの、ジェラシーというほどではないが、ちょっとした妬みの視線にげんなりしつつ、アーシュラはため息を突くのだった。

 

 ―――そういう風なことは、もう、ご勘弁なのだ―――。

 





なかなか思った通りの絵は出てくれない。

普通の表情で走る絵図を出したいのに、必死こいているふうなのしか出ないのでこの辺りが限度ということ。あとその都度スカート丈が短くなって魔法科制服を改造したようなのにしかならない
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