魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
命を刈り取る形をしている得物と相手を打ち倒す得物とがぶつかり合う。
「むっ!!!」
「―――!!」
盛大な金属音の中でも得物を見眇めたアサシンの声が響く。彼女にとってアーシュラの持つ得物は嫌悪感を持つのだろう。
アッシュブロンドの髪に薄紫色の瞳を持つ美女。年齢で言えばJDぐらいだろうか? と思える美女はある意味ではふさわしくない武者としての鎧……恐らく中華系統のそれを纏っている。
その手に携えた凶悪な硬鞭……中国で発展してきた殴打武器が2振り。双鞭というものだろうか。
ともあれ、それとアーシュラの持つ
「こちらの真名をすでに看破しておられる様子!! しかし!! 我が連環馬は破れますまい!!!」
「破ってやるわ!!108の宿星の1つ 天威星 呼延灼将軍!!!」
言いながらも武器によるぶつかり合いは絶え間なく行われ、魔力の煌めきが盛大な火花と共に散っていく。位置を変え、姿勢を変え、動きに変化を着けていきながらも音速での攻防は―――。
「―――ッ!!」
「アサシン!!
―――アーシュラに勝機を与えていく。飛び跳ねながらもアサシン呼延灼の肩口を切り裂いた。
それを見た少女マスターが叫びながらも回復術を掛けていくのだが……。アーシュラの鎌には不治の付与効果でもあるのか、どうやら効いていないようだ。
それ以上に感じることが達也にはあった。
(確かに、とんでもないスピードでの攻撃がアーシュラの持ち味だが、今日のアーシュラはちょっと違うな……)
衣装の媚態とかそういうのに注目しつつも、変則的な……有り体に言えばトリッキーな動きで、双鞭武侠 呼延灼を翻弄していることに達也は気付く。
「ゴルゴン三姉妹全部に言えることだが、彼女らは全て英霊というには特異すぎるんだ。中でも怪物として知られる末妹メドゥーサは英霊や神霊というカテゴリーでは括られない。どちらかといえば『悪霊』の類なんだ」
「……悪霊ですか?」
「純粋な『英霊』という点に括られないというカテゴライズさ。魔物、あるいは『反英雄』ともいえるか。とはいえ、メドゥーサのことは如何に神話伝承に疎いとはいえそれとなく知っているだろう?」
士郎先生の解説に、とりあえず達也は自分の拙い知識を言う。
「ええ、髪の毛の一本一本が蛇であり、その眼から放たれる視線は、射抜いたものを『石化』の呪詛に捉えると……」
「ああ、今のアーシュラはそのメドゥーサの力をその身に宿しているんだ。同時にその戦い方もな」
正調の剣士・騎士ではない。まるで怪物のような戦いでもある。虚空から出てくる鎖を足場に、飛び跳ねるようにしている戦い。
そして―――アーシュラの驚きの攻撃、鎖の反動を利用しての―――。
「ドロップキック……」
数多の傷を与えられた呼延灼の腹に思いっきり叩き込まれる蹴撃。それが彼女の身体を『くの字』に折り曲げて向こうに吹き飛ばす。
その威力は並ではない。特級すぎるライダーキックを食らった呼延灼がマスターがいた連環馬の陣の中に戻された。
土煙をあげながら、そこに落ちたアサシンのダメージは深い。
「ぐぬぬっ、なんて攻撃ですかっ! しかも私よりもスタイルよくてカワイイとかズルすぎるっ!! 騎士王の娘で血筋も良いとか、チートガールがっ!!」
「無問題! アサシンの方がチョーカワイイよっ! 登録されれば英霊の座でも大人気間違いなし!! 輝いてるよっ!! 並行世界次第では悪徳政府を倒して宋江大人の作る王朝で輝星将軍とか序されるよっ!」
「我が世の春が来たああああ!!!」
だが、そこから簡単に回復する様子。どうやらあのアサシンは褒めちぎられるとパワーアップするようだ……英霊とはそういうものなのだろうか?
マスターである少女……京劇役者のように目尻に朱を差した子のヨイショの声に反応する様子を前に達也は頭を痛めたが……。
それを遮るようにアーシュラは挑みかかる。
「そんな世界があるかっ!! 貴様の頭目 及時雨と同じく毒で以て死ぬがいいっ!!」
「呼保義殿に対する侮辱は許さんっ!!」
鎧を一部パージして、肌もところどころ露わな扇情的すぎる軽鎧姿の呼延灼将軍。それゆえか鉄鞭の攻撃は激しい。受けるアーシュラは、一振りの鎌では抗しきれなくなっていく。
「流石にハルペーの効果を思い知ったならば、攻撃に次ぐ攻撃に転じますか」
余人の介入を許さぬ人外魔境の戦いを分析している立華の言葉。あの鎌の銘が知れたが……。
「ですが手数ではやはり二刀流に優位がある。となれば―――」
『待てアルトリア! お前はもう少し兄に対する扱いを考えるべきだと俺は思うぞっ! にいちゃんお前がカリバーン無くしたと青ざめていた時に木彫りの鳥を―――』
「では行って来なさい!! アッド―――!!(怒)」
いつの間にかやってきたアルトリア先生の剛速球(時速160kmOVER)で投げ込まれた四角い箱が戦いの狭間に吸い込まれる。
アサシン呼延灼の間隙を縫う形で放り込まれたそれを受け取ったキャッチャー・アーシュラの手の中で、
長柄の得物2つ、しかも扱いに難がある鎌を器用に操りながら相手を追い詰めていくアーシュラだが……。
「バフが掛かりすぎ! マスターを封じて!!」
「分かったわ!!」
相手の硬さに難儀したのか遂には、マスターである少女を狙ってほしいと要求してきた。
それに応じる立華だが……。
「リーレイ! 呼筒を!!!」
「来々! 急急如律令!!」
言われる前から用意していたのか、何かの『筒』らしきものを何本も指の間に挟んだ少女は言葉と同時、虚空へとそれらを投げた。
筒から何かが顕現をする。光を発して現れたものは―――。
何かの人形としか言えないものと、人間にしか見えないが明らかにもはや生きているとは言えない呪符を顔の前に貼らされたヒトガタ。
最後に召喚者(?)である少女を背中に乗せて空を遊弋するとぐろを巻く巨大竜。
頭から尾に至るまで強壮な印象を持つ竜は、赤い羽根を生やして首の根元付近からは炎を発している……あまりにも現実離れした光景に誰もが呆然とせざるを得ない。
「―――」
「出るものが出たな」
「ですね。ではお願いしますか」
呆然として驚く周囲とは別に予想していたと言わんばかりに、衛宮夫妻は平然とした応答をしている。
アルトリアの言葉で前に出てきたのは2科生主体の生徒たち。いわゆる『南極帰り』と言われている生徒たち20人ばかりだ。
その中には壬生や平河などがいる。
まさか……。
現れた人形兵の数はざっと数えても100体以上、更に言えば僵尸のような呪符の兵士も50は下らない。
そいつらがどれだけの力を有しているかは簡単には判断できない。されど―――。
(エイドスの密度が濃すぎる。どう考えてもサーヴァントや上位存在を相手にしたとしても害せられるだけの何かは持っていそうだ)
達也が断じたものが正しいかどうかは分からない。
だが、整然と行進してくる傀儡兵を相手に接近戦自慢や1科生の魔法が通用しないのだ。
「なんで!? なんで私の魔法が通用しないのよっ!!」
風紀委員長として率先して事態に当たろうとしていた千代田の慟哭するような言葉が事態の異常さを告げてくる。
そして、接近戦自慢たちは平手での打擲―――連続でのそれだけでふっ飛ばされる。当然、現代魔法で張った鎧を砕いた上でのことだ。
「くそっ!!! なんでこんなにまでも―――」
―――『差』が着くのだ。
方や南極帰り……フィニス・カルデアで教えを受けてきたものたちは、術式の構築では1科生よりも一歩遅いが、その一歩分の遅さを補うほどに強烈な術で、傀儡兵たちを叩く。
「―――牛王招雷! 天網恢恢!!!」
中でも目立つのは壬生紗耶香だ。彼女が持つ身の丈以上の太刀は常に雷光を纏っており、その強烈な電圧なのか電力なのか、そもそもそういう『質』を測ることが無駄なぐらいに、一撃一撃が大地を揺らすほどの一閃光輝なのだ。
「
少女の言葉を受けて巨竜は灼熱の赤槍を何本も打ち出してくる。遠く高い空に舞い上がった上で、行われたその『砲撃』に対して―――。
『『『
三人ほどの術者、南極帰りの放った
「おもいっきりぶん投げろ! 強化魔術の類は教えただろ!!!」
「お、押忍! けどどこへ!?」
「アーシュラと戦っている―――アサシンに対してだ!!」
指導と言うには随分と言葉が荒い士郎先生。だが、受けたレオは戸惑いながらも熱さを感じながらも、その槍を『五本』まとめてぶん投げた。
とんでもない速度、亜音速に至ったのではないかというジャベリンは、アサシンの腹部に再びドロップキックをお見舞いしてふっ飛ばした軌道を追うように飛んでいく。
そして、乾坤一擲のそれが決まろうとした瞬間。
「―――」「―――」
迎撃を果たす金属音。新手の登場がなった。
「助かりましたよ……お二人とも」
鉄鞭を地面に突き刺してブレーキとした呼延灼が呻きながらも、立ち上がりつつ言う。
白い鎧に
手に持つ剣呑な得物は、その出自を言わずとも知らせていた。
「とりあえず今は撤収ですよ。ここでアナタとリーレイを失うのは得策ではない」
「そういうことだ。ここは『三十六計逃げるに如かず』―――」
「逃がすと思っているのか?」
明らかに逃走の支度をしているサーヴァント3騎に対してアーシュラは遂に、アッドというオージャカリバー(偽)を使い王鎧武装(虚)を果たしていく。
「あまりここで戦うのは良くはないと思いますよ。竜の姫騎士……アナタはあの巨大な仙術装置に被害を出さまいと我々を抑え込んでいた様子ですが」
「我らが戦えば、その影響は広く甚大になる一方と考えるが、此れ如何に?」
あの激しい戦いの中でも、実験装置を守るために尽力してくれていたという事実に少しだけ驚く。
だが、それでも見据えた敵が強大であれば、彼女は―――。
「分かったわ……アンタ達の目的は、横浜に現れる『グレイル』だということは『シバのレンズ』で理解している」
「今回のことは恐らく大亜という政府筋からの要請だったのでしょう。だが、あなた方が本当に通すべき筋は『ラセンカン』の方なのでしょう……」
これは立華の言葉。どうやら彼女は今回の襲撃の黒幕を理解しているようだ。
「去れ。大中華の英霊共、今はその首と胴が離れていないことに感謝しておけ」
アーシュラの厳然としたその言葉のあとには、三騎の英霊は驚くような跳躍力で飛び上がり、空に浮かぶ巨竜に乗って去っていくのであった……。
あまりにも呆気ない逃走。しかし、最強戦力たるアーシュラが何もしないでいることで、悔しい想いをしていても、それが正しい判断なのだと誰もが気づけたのだった。
「逃していいのか?」
「クー・フーリンが襲った時にも言ったような気がするけど、ここでは全力で戦えない……言うなれば、ここに踏み込まれた時点で『ああする』しか無かったのよ」
憤懣やるかたない。とまではいかずとも、アーシュラにとっても尻切れトンボな結末だったようだ。
「衛宮先生、それに立華さんにアーシュラさん……一体、何が起こっているんですか? また4月の時のようなことが起こっているんですか!?―――」
中条会長の焦ったような声は、どうしてもアーシュラとしても弱いもので、結局の所……ご両親も揃って、『事態の詳細』を語ることになるのであった。