魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
前話にて恐るべき勘違いをしていたことは恥ずかしすぎた。
メッセージの方で指摘してくれた人ありがとうございました。私なりの修正をしておきましのでご勘弁を
―――見られている。そう感じたのはいつからだろうか。ともあれ、第2小体育館に着くと同時に何かの視線を感じて、視線の方向に眼を向けると―――無人であった。
傍目には無人にしか見えないぽっかり空いた空間。
如何に部員勧誘期間中だからと公称550人程度の学生しかいない「巨大な学校」なのだ。
そんな所があっても不思議ではないのだが……。
(……『ちょっかい』かけるとしたらば、今じゃないよね。ならば今は―――放置するのみ!)
待ちながらも「攻める」姿勢で相手に付け入る隙を与えない。
達也の視線と意識は完全に手を振って招いているエリカに向けられており、その間隙に放たれた術は、紛うことなく発動を果たした。
(……何かをしたな。何であるかは分からないが、どうやら術の類であることは間違いない)
達也としても一瞬の意識の「振り返り」が無ければ、気づけぬものだった。
アーシュラのやったことの詳細は分からないが、強烈な魔力の残滓がある。
アーシュラ及び立華に対する対処として、本家は―――
『アーシュラちゃんの交友関係…特に彼氏がいるかどうかを探りなさい! 特に達也さん。調べる過程で、アーシュラちゃんを好きになってはいけませんよ。
立華さんの方は、いい友人になることをオススメするわ。彼女の祖母である『アニムスフィア大師』は、人理が進むことを良く思っているわ。
ただ…根っこの所はメイガスですから、油断せぬように』
前半の言葉の軽快さ―――というかカルすぎる言動。どちらかといえばかなり昔にいた「お見合いを薦める近所のおばちゃん」的な言動のあとに深刻な言葉。
ニンゲン・
(叔母上は、衛宮家も藤丸家も知っている様子だった。アニムスフィア大師というのが、どんな人物かは分からないが、魔術師というのは千差万別なのか……)
もちろん魔法師とて色々と違うのは存じているが、魔法師という立場からすれば、魔術師というのは隠棲した賢者で、彼らからすれば「もどき」たる魔法師を戯れに殺して回る連中だと思っていたのだが。
当然、それがステロタイプな見方だとしても、魔法師からは見えぬ彼らなりの理屈こそが、魔法師との戦争を起こしたのだった。
(ジンリ……そこにこそ鍵があると思うのだが、素直に教えてはもらえないだろうな)
そんな諦めの納得をしてから、エリカの招きに応じてアーシュラと共に第2小体育館に入るのだった……。
・
・
入った第2小体育館では剣戟伯仲という程ではないが、中々にいい剣の稽古が為されていた。
これが相津郁夫の言うところの剣術部の稽古なのかと思うも、エリカは違うと言ってきた。
「剣術は魔法戦闘術であって、剣道はスポーツ競技という区別がされているのよ。アーシュラがいたUSNAではどうだったかは知らないけど、日本ではそういう区別なのよ」
「ふーん。ここでも「区別」なわけか。ヘンなの」
素気ないアーシュラの感心に、エリカはたじろぎながらも言葉を重ねる。
「ならばアーシュラにとって、『剣』って何が至上だと思えるの?」
「―――「空位」に達することでしょ。全てを絞って磨いて究極にまで、これ以上ないというぐらいにその存在を削り落として、それでもなお残る『何か』。
アーシュラから出てきた言葉に、近くにいたエリカと達也だけでなく何人かの耳目を集めた。
そんなアーシュラは―――
「―――と、時々「南極付近」やリッカの本家で出会う剣士のお姉さんからは言われていたよ。
まだ幼い頃には「あーちゃんってば可愛すぎるわ〜〜! この可愛さだけで私は、うどんが10杯はいける!!」とかいう愉快でペドフィリアかつショタコンな「二刀流の剣士」から、ね」
「誰よ。ソイツ……むぅ……それが事実ならば、ちょっと一手仕合たいわ。そんなシバレン先生の眠狂四郎みたいな剣客、実在しているならばね」
「円月殺法は使わないよ」
「はいはい。『本当』かどうかすら分からないんだから」
そんな言葉でお開きとなる、何というか血潮たぎるガールズトーク。矛盾した表現だが、そうとしか言えないものを最後に剣道部の演武は始まる。
その演武は、エリカいわく『つまらない』ものだったが、アーシュラにとっては少しばかり面白いものであった。
(武神、鬼神の類が憑依されている―――デミ・サーヴァント程ではない『深度』だけど、全てを3手で終えられるところをいい形で打ち放っている。自分が終わらせることを当然としながら、そこに至るまでに相手にも何かを「気づかせている」……)
いい指南役であるとして、対称的な美少女2人に挟まれている達也は苦い顔をしていたのだが、状況に変化が起こる。
剣道部の演武に突っかかるのは、エリカいわくの「似て非なるもの」たる剣術部であった。
どこの世界にも「バカ」はいるもので―――。
「どうするー?」
アーシュラとしては、ここで止めるのも吝かではなかったのだが……。
「まだ部活間のただの諍いだ。事態の推移次第だな」
バカが余計な茶々を入れたことに対しての達也の返答は、かなりドライなものであった。
「左用ですか」
だが、達也の方の判断を尊重しておくことにした。
結局の所、その後、剣道部のアイドル『剣道小町』たる壬生と剣術部のエース桐原との間で、試合が勃発。
「―――……」
その試合自体は、まぁ平凡なものだったが打ち合い打ち込みの気迫は相当なものであり―――。
最後には、壬生紗耶香の突きが決まり、勝負は決した。
しかし壬生の勝鬨勝鬨の宣言―――。
「真剣だったら、アナタの負け」
そういった文言で―――キレてる『演技』をする桐原という2年生は、CADを起動させる。
そして―――高周波の剣が出来上がるのだが……掲げた剣から放たれる
尻すぼみなその現象に一番最初に驚いたのは、やった方の桐原であった。
「―――え? ……」
「…………真剣?」
真剣を見せてやると言われて発動させた魔法だったのだが、相対する壬生ですら何か拍子抜けしてしまう結果が起こり問い返した。
「ああ、うん……もう一回いいか?」
「どうぞ」
桐原と壬生のやり取りに、何でだよ? というツッコミを入れたいのだが、NG出してしまったならば、マイク前(?)に全員集合である。音響監督(?)の指示のもとリテイク。
申し訳ない想いで、今度こそ録りを成功させるのだ杉田。
「だったら―――真剣で勝負してやるよ!!」
セリフすらもリテイク。同時にCADが起動式を解凍。同時に竹刀に魔法の輝きが纏わりつき―――。
「ふぁああああ〜〜」
盛大なアクビをあげる美少女の
しゅん……か細い音を聞いて、その結果に目をつむりながら涙を流す
竹刀を掲げたままの姿勢で、何か世紀末覇者を思わせる。
『我が
そんな無言での言葉を察して、刑事2人は演武場に舞い降りて―――
「―――もう用事は済んだでしょうか?」
はぐれ刑事のシバさんが優しく問いかける。問われた犯人は、その『声音』に長年の親友み(?)を感じて、そっと頭を下げながら拳を重ねて差し出した。
「はい―――お世話になります」
完全に自首をする様子。推理ものにおける『犯人』も同然の桐原に、ワッパならぬ聖骸布が掛けられた。
「午後3時26分―――被疑者確保。場所第2小体育館。被疑者は肩を負傷している模様―――救護班の準備をお願いします。取り調べの際の店屋物は、カツ丼親子丼うな丼―――どれがいっかなー♪」
女刑事の『エミヤ』さんが、そんな言葉を吐いた瞬間、剣術部を筆頭に―――何名かは剣道部も含めて声が上がる。
『『『『なんなんだこの茶番は――――!!!???』』』』
「いや、茶番とかそういうことではないですし、魔法の不適正使用の現場だったので、確保です」
「これといった被害者はいませんが、まぁ本人が犯行を認めてますからね」
「き、桐原くんはそれでいいの……?」
被害者になる予定だった壬生先輩が呼びかけたが、桐原先輩は俯くばかりだった。
「これが……誰かを凶悪な得物で打ちのめそうとした仕打ちならば、受け入れるべきだろ……あんまりそんな―――『誰か』を倒そうとして
その言葉の真意はともかくとして、それで収まらないのは剣術部の人間たちであった……。
「ふざけるな!! 桐原なんぞ剣術部の中では最弱!!」
エースじゃないのかよ。というツッコミも野暮だが……。
「誰だか知らないが何者かに負けるとは剣術部の……―――あれ? 敵は―――『誰』なんだ? ……」
そう。剣術部の人間たちはいきり立つも―――『どこ』にその怒りを向ければいいのかは『分からない』。
確かに壬生と桐原の戦いの発端は、売り言葉に買い言葉の応酬であったが、魔法が『誰か』にキャンセルされた後は……従容と逮捕に応じる桐原の姿しかなかった。
怒りを向けるには、逮捕劇は静かすぎた。相手を這いつくばらせる派手な捕物ではないし、魔法をキャンセルしたのは、『誰』だか分からない。
更に言えば―――キャンセルした技法が『分からなかった』……。
正しく『ハウダニット』『フーダニット』『ホワイダニット』―――3つ揃ったミステリーが出来上がっているのだった。
「いや、えっと―――何が、ど、どうなっているんだ―――」
答えの出ない懊悩に塞ぎ込もうとしていた時に……。
「あの風紀委員! 男子の方は二科生だ!!
「実力が認められてのことですが、こちらにいる司波達也くんは、12Gの高速機動でも操縦桿を手放さずに、デブリだらけのサンダーボルト宙域(?)を大火力と大出力で進み続ける現代の魔法社会が生んだ大豪傑!
遠からんものは音にも聞け。近くば寄って目にも見よ!!」
敵意が向けられそうになった時に、とんでもないヨイショをするアーシュラ。この娘は―――と拳を握りしめて殴りたい想いを達也は押し殺して、エリカを筆頭に盛大な拍手を起こされてどうすりゃいいんだ? という思いの中―――。
「やっぱりお前さんが噂の司波達也だったか。服部から色々と聞いているぜ……アイツを倒したんだってな」
「別に不意打ちの勝利みたいなものですしね。誇れるものじゃないでしょ」
「それでもその一回が引くに引けぬ取らなきゃならない戦いならば、違うだろうが」
男同士の会話を続けていたが、それを聞いたとしても―――なにかに『煽動』されたかのように、剣術部は目を血走らせている。
そしてアーシュラは―――ヨイショをしている最中にも、『達也』を『二科生』として指摘した相手から目を切らずにいた。
「憑依霊体……怨霊か」
アーシュラの呟きに疑問符を浮かべた達也だが、次の瞬間達也とアーシュラに一斉に襲いかかる剣術部員たちの姿が―――。
「ふざけるなよ!! 補欠の分際で!!!」
「一年で女子の風紀委員だなんて生意気なんだよ!!」
完全に一科生のアーシュラも狙った発言に―――。
「司波、衛宮―――逃げ―――」
「壬生先輩、そっちの人頼みますよ!」
「えっ……ええええ――――!?」
一瞬にしてぐるぐる巻の芋虫状態にした桐原武明の身柄を、壬生先輩の方に預けた。
息苦しいのか、それとも道着越しの胸の柔らかさでも感じたのか、息を荒くした桐原の姿を見てから―――。
「ちなみにいえば、マグダラの聖骸布は、口まで覆っても、呼吸を困難にはしません。聖人を包んだ布は、相手を害さず慰撫するものですからね」
「スケベッ!!!」
「ボンバイエイ!!」
頭を叩かれたあとに、恐らく『ごめんなさい』とでも言おうとしたのか、まぁそんな風には聞こえない桐原の声を聞きながらも―――向かってくる相手に『躱し』を入れる。
完全にリンチを行おうとする気概だが……。
そんなものは『2人』の前では何の意味もなかった。
驚異的な体術を披露する2人。
達也が堅実かつ確実な躱しで相手を混乱させていく一方で、アーシュラは制服のスカートを翻すように華麗で繚乱に魅せるように―――羽持ちの妖精のように躱していく。
戦士と妖精という表現が似合う2人。
2人を中心に次から次へと剣術部員たちが襲いかかるも、付かず離れずのダンスステップでも刻むように、2人の姿は害されること無いように動き回る。
全ての部員たちが、ぶつかり合い。体ごと縺れて武場の床に叩きつけられていく。
当然―――2人は手を出していない。明らかな自滅であるが、誘われたことを理解して3度ほどあちこちに痛みを覚えた連中は、ことここに至り理解する。
こいつらに、まともな
狭めていた包囲を少し広げて、魔法を発動させようとする様子に、嘲笑を浮かべながらアーシュラは口を開く。
「ワタシはともかく司波君に対して魔法を使いますか? ウィードだなんだと見下していた連中に、素手で勝てないからと、今度は『飛び道具』を使うとは―――魂の下劣さと同様に考えもあさましいですね」
『っ…………!』
あからさまに侮辱されたことで、行動に遅滞が起こる。それがしかも、金髪の美少女―――学校の有名人からとなると、どうにも男としての矜持が……。
だが――――。
「ならば―――!!! お前からだ!! 衛宮!!」
最後には男としての誇りを投げ捨てて魔法を発動。
移動系統の魔法で吹き飛ばすことを画策。
荷重圧がかかるように企図。全ての魔法式が衛宮アーシュラにかかろうとした瞬間、アーシュラと同クラスの相津郁夫の叫ぶ声と、起こり得る惨劇を予想した誰かの悲鳴が響いたあとには……全ての魔法式が霧散する。
正しく全ての魔法が現象を具現化させなかったの だ。
魔法の不発という異常事態に誰もがざわつく。
一番に不可解な思いをしていたのは、掛けた剣術部員たちだ。
「―――へ?」
「う、ウソだろ!? 俺の魔法はちゃんと、ちゃんと、え、え? ……」
魔法への『信用』を失い『不能』になろうとしている人間が一人いたが、それでも魔法の『無駄撃ち』をして、腰を抜かしている人間が多い。
「言い忘れてましたけど、ワタシ―――そういう現象改変系の魔法が身体に具象化しない体質なんですよ。エイドススキンの厚みが段違いなわけでして」
「な、ならば―――!!」
放出系魔法を放つ剣術部一人。火球5個が――アーシュラに向かうも……。
「だからといって放出系魔法が効くわけではないんですよねー♪ 先天的な
「ウソダドンドコドーン!!」
どちらにせよ、アーシュラを害する魔法などあり得ないのだという事実とこの上ない邪悪な笑顔に、誰もが打ちのめされる。
ガラス片が割れるような音でサイオンの塊に変わる火球や空気弾の全てが、悪女に弄ばれたことで路上で踏みつけられ、打ち捨てられた花束にも見える。
哀れなことに……アーシュラという
その様子を何人かキャスト・ジャミングで黙らせながら見ていた達也は、『やれやれ』と思いながらも死屍累々の惨状にどうしたものかと想う。
―――そうした矢先に、殺気が飛んだ。
あからさまなまでの殺気の持ち主は、剣術部の中でもリンチに加わらなかった人間であった。
「青葉!! 俺たちのカタキを―――!!」
青葉と呼ばれた2年生だろう相手が手に握るは、竹刀ではなく木刀である。
樫作りの硬そうなものを無造作に振るったあとには盛大な衝撃波が発生。倒れ伏していた剣術部の連中全員を勢いよく壁に叩きつけられた。
身を踏ん張ることができた連中ならばともかく、身体すべてが弛緩しきっていた上に、サイオン枯渇をしていた剣術部にそれは防ぎきれなかった。
否、それ以前に……。
(ガタイのいい高校生を吹っ飛ばすほどの圧力など―――)
(ただの樫作りの木刀でできることじゃない。ゴースト系列の『ポルターガイスト現象』―――適当なヤツに乗り移ったってところかな?)
達也の推測以上の結論を出したアーシュラは、自分に目線が向いているのを察した。
察してから呟く―――。
「魔界転生するならば、足利義輝とか連れてきてほしいもんだわ」
『■■■■―――!!!』
つぶやきに答えたかのように、およそ人間の声帯では発せられないだろう音量と音域で叫ぶ青葉という男。
強烈な出足の加速でアーシュラに突っ込む青葉に対して達也はキャスト・ジャミングを仕掛けようとしたが―――それよりも早く、アーシュラの後方にあった剣道部・剣術部の竹刀・木刀が掛け棚から勢いよく飛んでいく。
移動魔法を得意として扱うものでも、これだけのことができるだろうかと思うぐらいに、いきなり何の起動式の展開もなく魔法が発動したのだ。
よく見るとアーシュラは親指、人差し指、中指を揃えて立てていた。
それで虚空をなぞる度に、竹刀と木刀は意志を持つかのように怒涛の剣戟で青葉を穿っていく。
応じる青葉も進撃を終えて、武場の床に留まりて上下左右―――四方八方から突きかかり斬りかかる達人級の剣戟に難儀する。
無人で振るわれる木刀と竹刀を見ていた達也は、それらが『なにか』によって振るわれているのを感じた。
豪風を生むその戦闘の指揮者は―――。
「そろそろか……」
そう冷静にいって
まるで
青葉が選んだのは……前進! 再びの進撃を開始する様子とそのチャージングの勢いに誰かが悲鳴を上げた。
『■■■■■■――――!!!』
武場の床が撓み歪むほどの進撃を前にして、それを阻むべく剣が勢いよく落ちていき、それを迎撃する木剣の群れ―――!!!
下に向けた指の動きのままに動かずにいたアーシュラに迫る青葉。
「衛宮さん!!!」
相津郁夫の上げる声の一瞬あとには至近にまで迫った青葉なる男の木刀が横薙ぎに振るわれて―――アーシュラの体が上下に断たれた。
凄絶な絶叫が上がる―――。女子の大半が目を背けた後には、巨大な樹木…丸太に木刀を振るっている青葉の姿が……。
「変わり身の術!!!」
正体を見抜いた達也の言葉の後には、その丸太の後ろにいたアーシュラの手から放たれた竹刀が、丸太を突き割りながら青葉の真芯を貫徹した。
くの字に曲がるほどの突きの勢いに威力を誰もが察した。
その時、達也他殆どの魔法師たちには、巨大なプシオンの塊…としか言えないものが、青葉の口中から吐き出されて空中を漂うのを見た。
明らかに吐瀉物ではないものが出てきたことで、誰もが緊張を果たして、これこそが…元凶であると。
「出るものが出たわね―――投影・かい―――!!!」
なにかの呪文を唱えようと力を込めた矢先に―――プシオンの塊は霧散する。
ちょっとした圧を情報次元越しに魔法師は感じたのは、霧散とはいったが事実上の爆発も同然だったからだ。
すべてが終わり、溜息とも残心ともいえるものをしたアーシュラは、振り向きながら言葉を紡ぐ。
「むぅ……『逃げたか』―――ということで……カツトさん。怪我人10人以上が出たので、救護班の手配お願いします」
「ああ、その100万ドルの笑顔を向けられたならば、男は誰でも願いを聞きたくなってしまいそうだな。―――司、面倒をかけた」
誰もが驚いてしまうぐらいの大物が、剣道部の部長と外へと通じる戸で談笑をしていたのだ。
正直、達也ですら気づけないほどに見事な隠形ではある。これだけのオーラを持つ相手が隠れていたとは。
「なんの。結局、僕は何も出来なかったからね。気にせず―――衛宮さんと司波くんだったかの大立ち回りを呆然と見ていただけだ」
「衛宮のあれは御霊会鎮魂にも似ていたからな。気持ちはわかる―――だが、剣術部員の沙汰は厳しくさせてもらおう」
気軽に手を挙げる司先輩とは対象的な十文字会頭の声と圧に、壁に張り付けられていた剣術部員たちは、完全に失神を果たしそうであった……。
「衛宮、司波―――少し話がしたい。コイツラをどうにかしたらば、部活連まで来れるか?」
「アーシュラと二人っきりになりたいならば、自分は退きますが」
「変な気遣いをせんでいい。4,5年前にそんな望みは絶たれている。思い出させるな」
意外な事実。巌の如き十文字会頭の失恋模様に全生徒が泣きそうではあった。そんなこんなで後始末はまだまだ片付きそうにはならないようだ……。
余談ではあるが、騒ぎを聞きつけたアルトリア先生が、駆けつけ一杯ならぬ、駆けつけ一発でゴッチン!と、とんでもない立ち回りをしていたアーシュラをノックアウトしたことは、胸に秘めておくべきこと。
その後に、母娘げんかとして木刀を握り合う2人を諌めた士郎先生の姿に家族の絆を―――少しだけ達也は羨ましく思い、それもまた胸に秘めておくことにしておいた……。