魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
異聞帯―――ロストベルトという現象は一般的には、何処にも知られていない。
だが異星■■■■■から放たれた地球白紙化現象という侵略行為の後に埋められたそれは、確かに世界に刻まれたものであったのだ。
それをカルデアは確かに覚えて、ライブラリーとして刻んでいる。
「九校戦の際に説明した通り、星というものは多くの層を内包している。そして近代においてもそのロストベルトの層は、『消し去った』とはいえ、内包とまでは言いませんが存在していたのです」
例えるならば、地層学で言うところの年代別の変化の中に、内陸地区……海岸から離れた場所でも塩分を含んだ海の砂から『巨大災害』の残滓を見るようなものだ。
中国大陸―――咸陽市……華北と華南の中間とでも言うべき場所。
中華史におけるファーストエンペラー……始皇帝の都にて、それらを『発掘』した連中が、そのような傍迷惑なことをやり始めたというのだ。
「だが、何故……そんなものが出てきたんだ?」
「三年前ぐらいですかね。この日本において
口元を隠しながら言う立華の言葉に我知らず緊張を果たす人間が2人ほどいたが、構わずに話をすすめる。
「公式発表によれば、軍部の『新型レールガン』で大亜の艦隊が全滅したとか何とか、まぁその辺りはどうでもよくて実を言えばカルデアは、この事象を
端末から見せられた様子は―――かなり衝撃的だったが、今はそこが要点ではない。
「結果的に人理版図を打ち付けていた『アンカー』とでも呼ぶべきものが揺らぎ、巨大な『撓み』が発生。そして中華大陸にてロストベルトの残滓を発見した連中は螺旋館など大陸魔術組織を巻き込んで、今回の戦争を引き起こした―――そういうことです」
にわかには信じがたいが、そんな……ある意味、天文学的確率としか言えない偶然による偶然からそんなものを見つけ出すなど……あり得るのだろうか?
魔術師的な感覚を持つエイミィや幹比古ですら、唸らざるを得ないのだが……。
「―――案外、狙ってやったのかもね」
「どういうことだ?」
ぽつりと呟いたアーシュラの言葉は耳ざとく達也に聞かれていたが、とりあえず何となくの所感を伝える。
「言葉通りの意味よ。大亜の軍人共は生贄に供された。あちらが征服の意図を示せば、当たり前のごとく殴り返される。そして、その威力が多大であればあるほど……ぶっちゃけ沖縄に『このチカラ』を発せられる人間がいるって分かっていたんでしょうね」
「お前たちの言う黒幕が、か?」
「そうね。そして、目論見通りに『ソレ』は放たれた。大亜の意思決定には特に変な所はない。というかあの国は内側の失政を誤魔化すために外側へと責任を逃す面がある。
それは推測という割には随分と確信を以て言われていて、達也としては『当事者』である以上困ってしまう。
とりあえず、そこで『原因』に関しての追求は終りとなり、未来への見識が必要になる。
「……対策はあるんですか?」
これ程までに大きすぎる事態でも現・会長として問う中条あずさは、一縷の望みを持って聞いた。
「―――中止にしてリモート方式での各校の発表ならば問題はないだろう。だが、横浜に集まっての発表ならばちとマズイな。防御範囲が広すぎる」
現実は非情である。現実は無常である。
士郎先生の言葉はそんな意味であった。
「サーヴァントは極度の魔力食いの使い魔。
次いでアルトリア先生の言葉にごくりと誰かが息を呑む。
何故、こんな血生臭い事態が次から次へと起こってくるのだ?
最初に真由美が出した懸念……マッチポンプという考えは、殆ど誰もが一度は思ったことだ。だが……襲撃者の目的をよくよく聞けば―――どいつもこいつも……。
―――
そんな動機が見え隠れするのだ……。
「あの少女が三騎のサーヴァントを運用しているのか? はたまた偽神の書による代行マスターなのか?あるいは我が身に特大の魔力炉でも積んでいるのか……とにかく状況が不確定すぎます……」
「……アーシュラはどうなんだ?」
三人の弁えた意見を聞いてから克人としては、最後の希望に託すのであった。
「寄ってくる中華の鼠賊…軍人たちは皆さんにおまかせします。『私』が受け持つのはサーヴァントやソーサルエネミーだけ―――それでいいならば、どうにかしましょう」
初めての色よい返事を前に、少しだけ喜色が全員から出る。だが、完全ではない。特に風紀委員長である千代田は面白くない限りだ。
学内治安と今回の論文コンペでもそれなりに責任ある立場としているというのに……その指揮下に入らない存在がいるなどあまり容認したくない話である。
だが、現実に現れる敵の大半は、自分たち……現代魔法師では相手できない存在だ。
(全てを呑み込まなければいけないんだけどな)
千代田委員長の苦悩を理解していた摩利は、その苦悩に少しだけ理解をしつつ協調は出来ないのかなとか思うのだが……。
「意外ですね。アーシュラ、アナタがそんな風に言うだなんて」
「そりゃ賢い選択をすれば、そっちの方がいいんでしょうけど、みんなしてあれだけ色々と協力して作ったものが無駄に終わるのもアレだし」
アルトリア先生の言葉に、そう返したあとに『私は饅頭蒸していただけだけど』などと言うアーシュラに皆して感極まっていたのだが……。
「本当のところは?」
母親の胡散臭げな言葉に対してアーシュラは、最後には白状をする。
「青龍偃月刀持ちの
結論、どこまでいってもアーシュラはアーシュラなのだった……。
(もうちょっとこう……何かヒロイックな理由の一つでも欲しいところなんだけど……)
義侠心が無いわけじゃない。協調性は―――まぁ彼女からすれば歩調を合わせる相手ではないと見限られている。
ならばせめて少しは一高を守るために、とか。
みんなを守るために戦う、とか言葉だけでも言ってくれればいいのに……。
「青い魔法使いのおねーさんが言っていたけど、そういう自分すら騙せないウソはつきたくないんですよ。聞いている方も不愉快になるだけですし」
その先読みがすぎる言葉に、ドキリッ! と真由美は心臓を掴まされた気分だ。まさか読心の術でもあるのだろうか? そんな気分だが―――単純にこれまでの真由美の行動・言動・現在の表情を察してそんなことを考えているんだろうなーという当て推量での言葉でしかない。
「にしても今更な疑問だが呼延灼将軍に関羽雲長ーーーなぜどちらも女なんだ?」
話題の切り替え。それとなく『端末』を操り、断言された今夕の襲撃者達の『歴史』を調べていた克人の言葉に、真由美は『ナイス』としておく。
「呼延灼に関してはとある女怪、魔物とも言える存在エンプーサとの複合だからでしょう。そもそも水滸伝というのは、歴史に現実にあったとも言い難い演義小説ですから、英霊としての
「幻想が付く方の水滸伝はめっちゃ有名だけどね」
立華とアーシュラの渡り台詞に関心ともなんとも言い切れぬものを持つ一同。
「そういうもんなのか?」
その質問に対して立華は再び口を開く。
「ええ、例え人類史の
その言葉に我が意を得たり、とまではいかなくても望んだ話へと移行した時に真由美は意を決した。
「では―――ブリテンの王……アーサー・ペンドラゴンという『英霊』『サーヴァント』が女ということもあり得るのですか?」
その言葉に、誰かが息を呑んだ。いや、誰もが息を呑んだのだ。
もはやそういう連想をしてしまっているのだ。
ペンドラゴンという姓だか称号だかを名乗り、娘が呼び出す円卓の騎士らしき『サーヴァント』に敬意を持たれる様子を見せる女性。
その正体は魔法世界に『人倫と道徳』を糺そうとする赤き竜……。
親子竜の姿を見るのだが……。
「そういうのもあるかもしれませんね。カルデアでは一度も『召喚』に成功していませんが」
「―――え!? そ、そうなの!?」
立華から出た予想外の言葉を前に、予想以上に動揺してしまった。攻めようとした矢先に、この展開は拙かった。
「……アーサー王は有名ですからね。そういうのも『どこか』ではあるかもしれませんが、カルデアでは、男のアーサー王しか確認出来ていないんですよ」
言葉の後に、立華は4月の時のように映像で英霊たちの戦いを見せてくれた……。
『
そこには厳かでかつ華美ではないが、戦鎧と洋装を組み合わせた戦化粧に金色の髪を持つ美麗の剣士がいた。
その眼は今だ開かれていないが、それでも剣―――恐らく伝説のエクスカリバーであろうものを掲げながら言霊を紡ぐ様子。
映像越しでも分かる確かな存在感。
間違いなくその人物は、英霊にしてサーヴァントである。
全ての議決を終えて開かれる眼。その瞳の色は、アルトリア、アーシュラと同じく『翠緑』
そして『下段』に構えた黄金に輝く剣を『振り上げながら』放った言葉は―――。
『―――
放たれたものは黄金の輝きにして黄金の閃光―――。
そして、その先にいた……ニワトリたちを直撃するのだった……。
・
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・
・
夕焼けに染まる部活連の一室にて、窓の外を見ながら克人は呟く。
「完全に振り出しに戻ったな……」
「そうねー……はぁ、これは最早ヒトのことを探るなということなのかしら?」
「さぁな……ただこちらの持っている神秘側に対する情報が少ないからな。どうしても、示されたことが真実だとされてしまえば、それを突き崩すことは出来ないんだ」
まとめてしまえば、そういうことだ。
だが、今になって少しだけ思考を突き詰めれば、見えてくるものもある……。
自分たちは、アルトリア・ペンドラゴンこそが伝説に知られるアーサー王のサーヴァントだと思って、今まで話を進めてきたが……。
(そこに真正のエクスカリバーの使い手を見せられたとして、『あの青年騎士』だけがアーサーであるという可能性に狭められた感はあるな)
だが、それを信じてしまうぐらいには、とんでもない戦いであり宝具の発動だったのだ……。
倒されたのがコケー!と断末魔を叫ぶニワトリだったことを除けばだが……。
(更に言えばカルデアで召喚出来なかったとだけ藤丸は言っていた。これはつまり『どこか』の召喚の術式では、出てきたかもしれないという可能性を除外していない説明だ)
一番に可能性があるのは、オリジナルである冬木大聖杯での戦争で呼び出されたという説。
(更に言えば何回目かは知らないが、その冬木聖杯戦争における参加者七組の中に『ご夫婦』は参戦していたという可能性だってある―――……)
マスターとサーヴァントという関係で……だが冬木大聖杯は解体されたという話。
「何もかもが不透明だな……」
唯一、克人もそれなりに知っていたアーシュラの特殊能力……円卓に関係する英霊をサーヴァントとして『数体』使役できる能力は、明言されたので、それなりの戦力補充は期待できそうだが……。
「大亜の軍と聖杯戦争を続行したいマスターが「協力関係」―――あるいは、もっと直接的に大亜の軍人…将校がマスターであれば被害は増えそうだな……」
兵卒程度であれば問題はないが、佐官・将官クラスにそんな奴がいれば、どうなるか分かったものではない。
「やっぱりあーちゃんには荷が重すぎるわよ……」
「そうかな?」
これ程までに異常な事態が連続しては、確かに『中条あずさ』一人では収めるのは無理だろう。
だが……机にて項垂れるような真由美とは違って、外の様子を見ている克人は、少しだけコレが…アーシュラが『望んでいた』光景なのではないかと頬を緩めるのであった。
(あとは……俺などにも何かサーヴァントへの対抗策を持てないかということだな)
士郎先生は
「どういう出目があるのか……分からぬ限りだ」
せめてアーシュラの隣で戦うぐらいのチカラは欲しいというのに、不足の
―――その数日後には三年の関本が、ガス散布を行い司波を昏倒させようとして、とっ捕まるという事態が発生したことで、更に思い悩むことになるのであった。
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「では協力者・
「そうだ。呂上校ならば適任と私が判断した」
薄暗い部屋なんて間抜け極まりない場所での会話ではなく、ちゃんと明かりを着けて、『全く以て普通の会社』の体の場所で、そんなことを言う上官と部下―――。
『宜蘭電脳電子公社』という架空の会社名を登記に入れた清潔なオフィスで、それを受けた呂という大柄な男は立ち上がり、上官の言う―――東京の刑務所手前の鑑別所に単独で侵入し、目的を果たす……。
これが、アナーキストな
「それと念の為に『彼女』を連れて行け。かならずや役に立つはずだ」
「―――……是、一皆了解」
上官である『陳』の言葉に少しだけ戸惑いとも抵抗とも言えるものを覚えながらも、それでも呂はそれを了承して任務に向かうことにするのであった。