魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第117話『出戻りして修羅巷』

 

 

 

状況は刻一刻と変化を果たしていた。はっきり言えば―――速すぎる変化である。

 

現代の戦場における戦いというのは、とにかく相手よりも遠間からタコ殴りにするように砲弾をぶつけるということが主流である。

 

極論すれば、相手のいる位置を正確につかめれば、そこに遠くから砲弾を、ミサイルを食らわせればいいだけの話だ。

 

だが……現在、自分たちがいる戦場はそういうマニュアルが通用しない。

 

まるで中世時代の戦場のように次から次へと兵たちが湧き出るかのようだ。当然、それに対して攻撃を加えればいいだけだが……。

 

「報告! 現れたゲリラとソーサルエネミー達は、魔法の類及び通常兵器の大半を無効化しながら、進軍を続けています!!!」

 

「有効手段はないのか?」

 

「……こちらの手持ちの火器では足止めにもなりません」

 

報告を上げてきた士官の悔しがるような声に風間は下がるように言ってから、ため息を一つ突く。

 

場合によっては横浜の街全てが蹂躙されるかもしれない。

 

見えてきた敵軍の内訳から察するに……どうやらカルデアが言ってきたような『戦力の区分』というものは無理のようだ。

 

上がってきた報告によればイエローフェイスこと雀蜂という悪性装備(カルデア命名)を切り裂くことができれば、直接改変型の現代魔法も効かないわけではないらしい。

 

達也お得意の分解を通じさせようとすれば、そのジャケットやヘルメットを切り裂き砕く装備が必要になる。

 

それも、サブマシンガンを持つ相手に肉弾戦を挑める存在……。稀有なところでは、三高のバス付近でそれらを撃退した人間だろう。

 

(三高の一色家の女子、彼女ならば問題ないだろうが……)

 

カルデアは、余計な人死を出すことを嫌う。こちらがそういう意図だと言えば、協力関係は崩れるだろう。

 

ならば、カルデアに全て任せて、自分たちは避難民たちを移送していればいいのか?

 

「……」

 

どうしようもない無力感に唇を噛み締めていた時にさらなる悲報が飛んでくる。

 

「背後に敵軍だと!?」

 

「はい! 横須賀方面及び大和市、綾瀬市方面から一直線にここ保土ヶ谷へと向かってくる一団があります!!!」

 

ドローンを使って撮影した映像には、何かの推進機構で飛んでいるのだろう傀儡兵……機械的な人形が群列を成して飛んでいた。

 

「どこから現れたんだこれは!!!!」

 

「推論ですが、あの羽弾投擲の際に幾つかは横浜方面ではなく内陸部へと放射されていたのです。そしてそれらは恐らく無人の場所……もしくは用意されていた場所()にて増殖・生成を繰り広げて……」

 

指揮官にあるまじき怒りを持った声で問うと、真田は少しだけ怯えながらも、そういう推論を言ってくれた。

 

当然、映像付きではあるが……。

 

「完全に背後を取られたわけか―――我々(保土ヶ谷)を無視して、港湾部に向かうと思うか?」

 

「……むざむざと通すんですか?」

 

「下手に手を出せば火傷ではすまない……だが、かといって……!!!」

 

軍人としての責務と恐怖心の綯い交ぜでいた風間だったが……。

 

「あっ!? 傀儡兵が消失! いえ! 撃墜されました!!!!」

 

「――――」

 

真田の驚きの通りに『赫光の束ね』としか言えぬものが横浜方向から放たれて、飛来しようとしていたものが消え去った。

 

「恐らくサーヴァントによる攻撃だろう……もはや考えるのも億劫になるが、とりあえず包囲されることはないと考えていいだろう」

 

寧ろ、保土ヶ谷に張った陣を引き払い、前に出たほうがいいのではないかと思うほどだ。

 

(随分と用意周到だが……その一方で……)

 

この事態を『楽しんでいる』風なところが感じられる。カルデアではない。

 

カルデアが敵対しているものが、だ。

 

そして、それは……今回の大亜軍を指揮しているものだ。

 

「……達也と柳は最前線に出たのだな?」

 

「ええ」

 

「ならば俺たちも出るぞ。もはや後ろにいることに何の意味があるか、最前線で歯を食いしばっている戦友や後輩たちのために戦わんで意味などない」

 

その言葉を受けて独立魔装大隊の面子は、殆どの面子が意気をあげるも……。

 

(果たして何人が自信や五体の一部を喪失せずに帰れるだろうな……)

 

などという冷たい計算を風間はしなければならなかった。そうしていると、前線にいた藤林から連絡が入ったことで、敵が漢王朝成立の立役者である大将軍であることが判明するのであった。

 

それが虚報であり虚偽であると信じたいが港から進出しようとしている勢いの進軍は、かの大将軍を思わせる……。

 

 

一高脱出組……地下ではなく地上を行くはずだった人間たちは状況の変化について行けなくなっていた。

 

最初こそ十師族だか百家としての責務だかで侵攻してくる軍に立ち向かおうとしていたのだが、もはや逃げるしかなくなっていた。

 

「もはやメチャクチャだな……」

 

「侵攻軍の指揮官は、恐らくあらゆる遮蔽物を貫通することで……進軍を容易にしているんだろう」

 

「それだけじゃない。あの虎戦車はビルの壁面を走っているんだぞ!!」

 

「見たぞ」

 

うんざりするような戦場の様子だ。物理法則を無視していく現代兵器の数々。魔法師とてそういう側面はある。というか、魔法師こそがそういう存在のはずなのだが……。

 

「何もかもが揺らぐな……」

 

などと言っていたらば。

 

『GYAAAAAAAA!!!!!』

 

逃げ惑う一団全員の総身を震わせる咆哮が響く。

 

「今度はワイバーンかっ!!!」

「中華軍ならば、千年白蛇でも運用していればいいものをっ!!」

 

節操が為さすぎる『生物兵器』の大量投入。そして狙われたことで、全員が立ち向かわざるを得ないのだが……。

 

「千葉流ならぬアドバンス千葉流の薄刃蜉蝣が通じないほどの鱗の硬さかっ!!」

 

「アーシュラの持つアッドと何が違うってのよ!!!」

 

薄い刃を硬くすることで、鋭利な業物にする千葉道場開発の得物はワイバーンの鱗を切り裂くことすら出来ずに終わる。

 

エリカと同じくあまりに無力を覚えていた戦場に―――。

 

「下がれエリカッ!!!」

 

―――切り裂きバニーが現れるのであった。

 

鞭剣を振るい、離脱しようとしたエリカを襲おうとしていた爪撃を絡め取り、力を込めたことでワイバーンがバランスを崩し、地上に叩き落とした上で―――。

 

「―――」

 

鞭剣は遠くから打擲のような斬撃を何度も行い、何度も切り裂きを敢行して、その四肢を完全に切り裂くのだった。

 

その様子に対して後輩の一人が称賛をしてきた。

 

「すごいです! 摩利さん!! 正義のマジカルバニー剣士誕生ですよ!」

「素直に喜べないな……」

 

千代田の微妙な称賛の言葉に苦笑しながら思う。

このチカラも元を正せば、アーシュラからもたらされた物だ。そしてその使い方もまた……。

 

つまりは借り物でしかないということだ……。

 

 

「立ち往生している暇はないよ。早く保土ヶ谷方面に足を向けよう」

 

千葉修次が、そんな風に言って臍を噛んでいた摩利に気付けをしてくれた。

 

のだが―――。

 

『『『GYAAAA!!!』』』

 

同胞を殺されたことを何らかの方法で察知したのか、はたまたエサがあると思ったのか、ワイバーンが三体上空から現れる。

 

怪獣映画で大怪獣の幼体が街中で無力な市民を捕食するように、それらは現れる。

 

「くっ!」

 

いきなり難易度が上がる。先程は一体だけだったからどうにかなったが、その三倍の戦力を相手に強気になれるほど摩利も自信がないのだ。

 

「がんばれ渡辺!! ドラえもん映画で22世紀のバウンティハンターをやった気概を思い出せ!!」

 

「そうよ摩利! キンプリの永瀬君と共演したことを思い出すのよ!!」

 

「何の話だ!? そこまで言うならばお前らどっちでもいいから相手をてんとう虫に変化させるビームを放て!!」

 

同輩2人からいい加減なことを言われつつも、何とか全員を逃がすだけの時間を稼げるかと思った瞬間。

 

「そこの方々、お下がりを!」

「ここは当方ら北欧ラブラブ夫婦が請け負った!」

 

蒼炎が自分たちとワイバーンの間で燃え上がり、その炎は本来的に『炎』に強いはずの『ドラゴン』にすら苦痛を与えるものらしく、たまらず再びの上空へと舞い踊ろうとしたのだが。

 

「粉砕! 玉砕!! 」

 

薄緑色に輝く短剣が有機的な動きを続けてドラゴンの硬い鱗とその先にある筋肉の塊たる肉を切り裂き、それを虚空で掴み取る偉丈夫。

 

「―――大喝采!!!」

 

その短剣とそれを巨大化させたような大剣を手に持ち、振るう一太刀一閃。ムダなきそれが完全にドラゴンの命脈を断ち切るのだった。

 

圧倒的すぎるその戦い方。

現実離れした存在感。

現代戦にふさわしいとは思えない装備。

 

全てが物語る。

 

「あなた方は……」

 

そんな風に圧倒されながらも、真由美は意を決して聞くことにした。

 

「当方らはカルデア所属のサーヴァント。ゆえあって真名は明かせぬが、北欧ラブラブ夫婦の眼鏡セイバーとでも呼んでもらおう」

 

「同じく私のことは仮面の水星社長ランサーとでも呼んで下さい」

 

ふざけた呼称とふざけた変装ではあるが、それでも2人の男女のチカラは感じ取れる。

 

戦士としての勲を眼鏡越しにも見える鋭い眼から分かり、口元しか見えない仮面だが後ろから溢れ出ている蒼銀の神から漏れ出る魔力が神然としたものを感じる。

 

素人考えではあるが、サーヴァントの中でも上位クラスの存在なのではないか?と真由美は考えたのだが―――。

 

「我が愛よ。たとえその仮面があれども当方のそなたへの想いは変わらぬ」

 

「アナタ……ぽっ」

 

―――前言撤回。

 

そういう実力云々ではなく、いろんな意味で何というかアレなご夫婦だった。

 

らぶらぶなやり取りで場の空気がピンク色のパーメットスコア6のデータストーム空間(爆)であったのだが一転してサーヴァント夫婦は真面目な顔(一方は仮面)をして口を開く。

 

「当方たちとしては、君たちを戦場から遠ざけたいのだが、先程見たとおり既に無差別な攻撃が始まっている」

 

「寧ろ、後方に移動したほうが危険であるかもしれません……」

 

「だが、君たちがこの戦場から去りたいというならば、当方らは万難を排してでも安全圏に送り届けよう」

 

その言葉に、少しだけ戸惑う。あの国際会議場では逃げるという点で一応は一致していたのだが、いま考えてみれば……後ろ髪を引かれる思いはあったりした。

 

意思統一を図りたいわけではないが、方針の不徹底だったかもしれない。

 

「私は行きます―――前に、アーシュラさんがいるというのならば……見届けなければいけない」

 

「七草、俺たちはともかく怪我人もいるんだ。いや、俺たちだって……」

 

たかだか2戦しただけで疲労困憊気味である。

そのことを十文字は理解して、回復術を受けても中々本調子ではない桐原を気遣いつつも……。

 

「けれども、もう退路なんて無いわ! 保土ヶ谷の国防軍も引き払い、何より魔法協会では戦いも続いている……。それを見捨てろっての!?」

 

「―――分かった。分かった……とはいえ何処を目指す? アーシュラか? 魔法協会か?」

 

目的地次第では、どうなるか分かったものではない。

どこに行っても修羅巷だろうが……それでも―――。

 

「アーシュラさんの戦場よ!!!」

 

真由美が言葉を放った瞬間―――自分たちが去った港の方に黄金の螺旋のドームが出来上がった。

 

強烈なまでのパワーと閃光の発露は、離れたこちらからでも感知できて視覚にすら明白に見えた。

 

それだけで、先程放った言葉が挫けそうになったが、それでも勇気を奮い立たせて向かうことにした。

 

「その歩みでは少々、時間がかかりましょう」

 

その際に仮面の水星社長ランサーが虚空に自分たちが知らない文字を描き、それが各個人たちに転写されると、自己加速魔法よりも早く駆けられるだけの『速さ』を得ることになった。

 

さらに言えば疲労もないようだ。

 

(ルーン魔術なのかしら?)

 

門外漢の真由美には分からないが、それでもCADなしの複雑な魔法式も必要とせず飛翔を可能とするその人と……。

 

「駆けるぞグラニ!! 我が娘!! アスラウグのいる戦場へ!!!」

 

サラブレッド種なんぞと比較にならない巨大馬に跨り、現代にあるまじき疾走を果たしている英雄と共に港へととんぼ返りすることに……。

 

近づく度に耳朶を震わせるは、砲声と悲痛な叫びと、甲高い金属音。そして爆発音。

 

サイオンではないエーテルだろうチカラが空気中に霧散する様子。

 

もはや光井ほのかなど眼を瞑って見たくもないものを、見ないようにしている有様だ。

 

それでも前へと進む足だけは止まらない辺り、どういう理由なのかは分からないが、それでも到達した時―――港を視界に収めた上で見えてきた光景は……。

 

「足元がお留守なのよっ!!!!」

 

自分たちが苦労した虎戦車の人型形態の足元に飛び込むように入り込んで両脚を切り落とすアーシュラの姿であった。

 

「なんだアレは……」

 

なんどか見たアッドを介して行われる王鎧武装(勝手に命名)したアーシュラの姿。

 

巨大剣マルミアドワーズはともかくとして、そのマルミアドワーズの柄尻にはもう一つ巨大な武器が接続されていた。

 

槍なのか剣なのか素人目には分からない黄金の光の二重螺旋を明滅させる円錐状の武器。

 

「マルミアドワーズにロンゴミニアドを接続したのね……」

 

その状態。その円錐状の武器を表した名前を呟く響子の言葉が聞こえて、一高組が疑問を呈する。

 

「ロンゴミニアド?」

 

「アーサー王の武器、いえ宝具として有名な槍よ。伝説によれば、当時のブリテンで覇を唱えていた卑王ヴォーティガーンを打倒し、アーサー王の最後の戦……カムランの戦いにてキャメロット崩壊を招いた叛逆の騎士にして自分の『娘』たるモードレッドを貫いたとされる―――そういう逸話の宝具……」

 

響子の呆然とした説明を聞きながらも、 そんなことはどうでも良くて、その圧倒的なる戦いの様子に見とれてしまう。

 

扱いづらいはずの武器―――という括りすら烏滸がましい、もはや兵器としか言いようのないものを振るいながら戦うアーシュラ。

 

それを見つつも、そこに数名の南極帰りたちの姿も見る。

 

「壬生……!?」

 

雷鳴轟く刀を振るいながら、アーシュラと共に戦う彼女の姿を見た後には、彼らもまた戦いに否応なく参戦せざるをえなくなっていく。

 

虎戦車ではなく、本当の人食い虎が迫りつつあったのだ……。

 

 

 

 


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