魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
requiem―――当たり前だが近隣に『とら』『めろん』『メイト』が無い私の生活圏では―――アマゾンなどを利用するしかない……!! これが格差! 圧倒的格差!!(福本風独白)
というわけで新話どうぞ。
思うに、それは非常な努力を必要としていた。
すべてが偶然と言い切るには、あまりの決心を必要としていた。
そう、つまりは綱渡りなのだ。人生において破滅するか成功するかの瀬戸際の胸中とは、こういうものを必要とする。
果断な思いを持って踏み切るか、踏み越えるか。ギリギリの境界線を超える…見切りが必要とされる。
私達は誰もが魔人なのだ。超越して、踏み越えた域にある尋常の人類を超越した存在。
だからといって人類社会を蔑ろに出来るほどの胆力もない。むしろ、霞を食う術を見つけて山中に隠棲していたほうが良かったかもしれない。
『罪を犯したものは梁山泊においで〜〜』と宋江大人も呼んでいるほどだ。
そう考えれば、南極にあるカルデアはそれに近かったかもしれない。
英雄・梟雄・奸雄・豪傑……ついでに言えば、
つまりは―――今の私に必要なのは「悟り」を開くことなのだ。この絶体絶命ではないものの、マンドクセな状況を回避するための一手。
起死回生の策! それ即ち―――。
「なんのことだかさっぱり分かりませんね」
―――すっとぼけることであった。
『『『……』』』
アーシュラの言葉を受けて、正面にいた3つの面がそれぞれの顔をとる。
あえて統一した表現を取るならば、それは渋面といえるだろうか。
阿修羅のような三面を見せる三巨頭なる存在との対面の場は―――古代インドの神々の戦いの場。
修羅場というやつだろう。
「事件の経過は、そこに書いてあるとおりです。あとは青葉氏の回復を待つしかないのでは?」
「そう言われればその通りだが、青葉に怨霊を取り憑かせた『下手人』を知らないのか?」
「別に誰かが施術した結果とは限りませんよ。狐憑き、犬神憑き、蛇神憑き……邪霊に祟られる症例は現代魔法でも「ないわけ」ではないでしょう」
「まぁ、言われれば否定はできんな。人為的なものではなく、自然発生的なものでそうなったということか……」
現代魔法において、これらのプシオン活性体が取り付く事例というのは無いわけではない。
だが分野的には古式魔法の側にあって、現代魔法ではある種の精神高揚のエネルギーによる擬似生体という程度の扱いしかされていない。
だからこそ……三巨頭もアーシュラに対して詰問しきれていないのだ。知識の無さゆえに、アーシュラの言を虚言と断じれないのだから仕方のない話。
横で聞いている達也も知識を総動員して、その程度の認識と理解でしか結論を出せないのだ。
「私からの質問なんだけど、木刀と竹刀を「移動魔法」で動かした理由ってのは何なの? 摩利との戦いでも見せた魔術とかじゃダメだったのかしら?」
「
その上でワタシがやったのは、浄霊術の類です」
「それはどういうものなのかしら?」
真由美の無邪気さを装った質問に沈黙をするアーシュラだが、数秒の沈黙と瞑想のあとには口を開く。
「日本古来の思想ですが、
そのために、木刀の持つ「木気」を集めて刃の無い武器で戦に応じることで、御霊の気を鎮めてもらい、その上で、竹及び笹は古来より「霊力」を持ち、あの世とこの世を結ぶものともされていましたから―――。
いい例では『七夕』なんかがそうでしょう。
あれの起源は色々言われていますが、最終的には祖先の霊などを現世に迎えてから、快く天に昇ってもらうお盆にも通じるものですからね」
『『『……』』』
三巨頭は全員が驚きの顔で沈黙をしている。その顔を見ながらも、アーシュラは話を続ける。
「竹取物語における竹の中から生まれたかぐや姫が最終的に月―――月黄泉に上るのは、そういったところからも来ているんですよ。
竹には、あの世とこの世を結ぶ霊力があると信じられてきた―――竹林というのは、外から見るのと中に入るのとでは段違いで怖いものですからね。昔から「異界」に通じるとも思われていたぐらいですよ。
何かの拍子で、ヤクザの跡取りで殺人嗜好の女の子に襲われかけるかもしれませんし」
最後の方の説明は意味不明であったが、そういう事ならば木刀と竹刀を用いた剣舞は全て鎮魂の舞であったということだ。
「と―――長々語りましたが、ワタシも別に対霊戦闘におけるセオリーに関しては、邪霊に憑かれがちな露出狂系の女の子から教えられただけですからね。そんな感じです」
どんな感じだよ。と会頭を除いて誰もが少しの疑問符を持つ。
そんな例外たる十文字会頭は……。
「衛宮、「ウツミ」君はいまでも『あんな感じ』なのか?」
「ええ、カツトさん好みのえっちぃ格好ばかりする、とんだデンジャラスガールですよ♪」
「誤解を招く表現をするな……俺は真剣に彼女の身を案じているんだ」
「彼女なりの『折り合い』は、あの頃から着けていますよ。あまり気を揉まなくていいですよ」
十文字会頭の世話焼きに対して、余計なお世話せんでいいとするアーシュラ。
そして、「えっちぃ格好」という単語に、アーシュラから見て左端にいる十文字は、真ん中、右端の女子2人からジト目まじりの疑惑を向けるのだった。
先輩女子2人の関心は会頭が呟いた「ウツミ」という女子に対して向いていたことで、達也としてはこれ以上の問答にはなんの意味もないのではないかと思えた。
「なんか司波くんが帰りたがっているんで、帰ってもいいですか?」
「むっ、すまんな司波。事情を聞いたあとも長いこと放っておいて」
本人としては助け舟も同然だったろう。同級生2人、一年時からの友人に向けられる視線が少しだけ霧散したのだ。
「いえ、お構いなく。面白い話を聞けたので残っていた甲斐はありました」
アーシュラのフォローなのか判断はできないが、帰宅を促すような言葉に謝罪をしてから、会頭からアーシュラと共に帰宅を促された。
一礼をしてから、部活連の本部の一室からアーシュラと共に退室を果たす。
一年2人が退室したことで、三年は再び口を開く。
「衛宮と司波が提出したレコーダーの通りならば、たしかに下手人は、剣道場にはいなかった…現代魔法の理屈で言えば、かけられた魔法の持続性・距離というのは、ものによりけりだからな」
それが現代における飛行魔法の難関であったり、エネルギー問題のうんぬんかんぬん……如何に優等生三人とはいえ、そこに話を広げるつもりはなかった。
「剣道場の外に「誰か」がいて青葉を操った……そう考えるべきだろうな」
「根拠は?」
「明確なものはない。ただ……心身を直前まで平常にしておきながら、突如豹変させる―――呪い、祟りの類とは「そういうもの」だが、たちの悪いスピリチュアルビーイングという可能性を除外すれば、「何者か」の手が加わった可能性が高い……何より―――衛宮アーシュラならば、そういう「浮遊する霊体」を取り憑く前に処置できる……」
そういう人間だと克人はいう……その言葉を疑うわけではないが、どうにもあの一年女子に対して甘くないかと思うのだ。
「仕方ないな。色々と知ってしまったんだ……月日こそ優れないが、お前たちよりも濃い付き合いと言えるかもしれない」
「その『えちえち』な格好の女の子とも?」
「胡乱な言い方をするな」
最後には、ニヤつきながら言う七草真由美の言をきっぱりと遮断しつつ、十文字克人は手元にある資料を再読する。
反魔法師団体ブランシュの蠢動と活動の活発化……
それが―――何を意味するかを考えざるを得ないのだった。
† † † †
「じゃーにー」
お前は何時代の人間だ。と言わざるを得ない別れの挨拶を部活連本部から出た玄関で言われた達也は、アーシュラにどこに行くんだ? と問いかける。
「弓道部の弓道場。確かにもう日没間近で、片付けに入っているかもしれないけど、「顔を出しておく」ことに意味はあるでしょ?」
「まぁそうかもしれないが……藤丸は待っていないのか?」
「リッカは、既に帰宅済みなのは端末でお知らせ済み。まぁ後で家に夕飯届けるぐらいはしとかないといけないかも」
入部届と端末を気楽に『指先』だけで抑えて見せてくるアーシュラに、これ以上は「暖簾に腕押し」だろうと思って素直に分かれることにした。
その後ろ姿にどこからか現れたフォウくんが肩に乗っかり、どっから入ったのか知らないが白い犬……アーシュラの「飼い犬」らしく、すぐさまアーシュラの足に擦り寄り甘える様子を見せていた。
「お前は……何者なんだ?」
達也から自然と口を衝いた疑問は春の風―――まだまだ冷気を宿した寒風によって消え去っていき、アーシュラも去っていく……。
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―――少し遅くなったことで、軽食を入れていこうという誘いの下での喫茶店でのちょっとした話し合い。
友人一同に対するオフレコにしてほしい達也のジャミング技術のあとには、ここにはいない少女に話題が移る。
「アーシュラが言っていた先天的なマジック・キャンセラーってのは、本当に実在するものなの?」
「一般的には、先に話していたアンティナイトによるジャミングが魔法を無効化する「チカラ」と言えるが、例外的な人間というのはいるだろうな」
面識こそないが、百家本流の十三束家の男子。達也たちの同級生。
当然、1科にいるという人間は、体にサイオンが引きつけられやすい体質を持つ。
一種の砂鉄を引き寄せる磁石のような人間がいるが、彼はその性質を利用して対人における接触型術式解体を行えるとも聞く。
もっとも彼の場合、その性質ゆえに「放出型の術式」「遠間から放つ改変術式」―――遠隔型の術がとてつもなく苦手らしい。
もちろん、1科だからテスト内容をクリアーする分には出来るらしいが……。
「だがアーシュラは十三束
単純な話、「敵性術式」は「能動・受動」どちらでも全てキャンセルできるような肉体性能の元で、全ての戦闘行動ができるんだろうな。当然、遠隔術式に関しては、エリカも見たとおり達者以上の操作だったわけだが」
十三束に対する説明を言ってから出した結論。まとめてしまえば、魔法が効かない身体で魔法を放てるチート能力者ということだ。
「なんかすっごいズルくねぇか?」
「もちろん、いま言った結論は、あくまで仮説の一つだ。外側からは見えないように、なにかの
レオの薄目での言葉に、所詮は見えぬ仮説だという文言はつけておくのだった。
全員でシェアしながら食べているミルクレープ。フルーツたっぷりの段重ねのものが、切り分けてみなければ層を成しているフルーツの種類がわからないのと同じ。
アーシュラが話してくれない限りは、この話はどうしようもないのだと思うのだった。
「魔法を退ける「加護」を持った剣士ですか。何だかアーサー王物語にある円卓の騎士たちの伝説みたいですね」
そんな美月の夢見がちな言葉に、誰もがやれやれと思いながらも―――それが「正解」であるなど、後に分かることがあっても、いまは分かるわけがなかった……。