魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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ああ、もうすぐ2023年が終わる……。終わってしまう。

などと嘆きつつ新話お送りします


第123話『決戦準備』

遥か彼方、鳥すらも飛ばぬ高々度の雲の中を、デジタル暗号化された無線波で互いに囁きを交わす声があった。

 

『コントロールよりプリースト01、応答せよ』

「こちらプリースト01、感度良好。順調に現在横浜へと向かっている」

『了解。『任務』に変更はない―――ファイター03もいいな?』

『了解』

 

 

──ヘッドホンから聞こえた言葉に、プリースト01のパイロット仰木一等空尉はやれやれと思う。

 

約一時間ほど前に始まった横浜での戦いは陸戦及び低高度での戦いが主であり、侵攻している連中に空戦兵器……戦闘ヘリコプターの類が無いことから空軍の出番はないと思われていたところに、いきなりお呼びがかかったのが、自分と僚機(ウイング)を組む小林三等空尉であったのだ。

 

『しかし魔法師ってのはロクな戦いをしない。今の横浜はかなりの被害を被っているそうですよ』

「こちらも魔法師を兵隊として使っているんだ。仕方ないだろう」

 

管制官との通信をオフにした状態での小林の嘆き混じりの声には魔法師に対する羨望が混じっている。

 

結局の所、二〇九五年の国家の正規軍において陸海空のどこが一番に予算を持っているのかと言えばかつての旧日本軍のように陸軍であった。

次に海軍というところか……次代のピンポイント攻撃兵器であり、制空権というエリアドミナンスは現代の『魔法』という『最新攻撃兵器』の前では意味を成さないで居たのだ。

 

爆撃機(ボマー)攻撃機(アタッカー)戦闘機(ファイター)も……場合によっては雲海の向こうにいる自分たちを地上から見てくる恐るべき魔法使いたちによって無力化されることもあり得るのだ。

 

(かつての空軍の栄光もいまは夢の跡か)

 

自分たちが夢見た空のエースパイロットというのは既に何の価値もなくなってしまった。

 

現在はホクザングループというか北山財閥で『航空運転手』とでも言うべきもので高給を貰っている伊達のように、下野する人間が出るのも仕方ないのかも知れない。

 

遂に魔法師は人の身で空を自由に飛び回る術を得たのだから―――ライト兄弟、リンドバーグの努力を消し去っていけばさもありなん。

 

空すらも魔法という選民主義的な技術で奪われていくのだ。

自虐的かつ、自嘲的にそう思いつつも管制官から再度の通信。

 

どうやら任務距離に到達したようだ。

 

「小林、準備はいいな?」

『ええ、ではお先に! 誘導ビーコンスタート! 小林 三等空尉! 『脱出』します!!』

「―――誘導ビーコンスタート! 仰木 一等空尉! 『イジェクション』に入ります!!」

 

二人は武器と燃料が殆ど満タンになっている機体から『何のトラブル』も無いのに、そこから脱出をしてパラシュートを展開するのだった。

 

『仰木! 小林!! 上手くこちらに乗れよ!!』

 

人員回収機とでも言うべき『救出航空機』が空を旋回しながら二人を回収しようと上手いことやって来ている。

分厚い装甲とパラシュート脱出を受け止める広い『甲板』(いた)を持った機体への落着というランデブーを意識しつつも考えることが一つあった。

 

(しかし、あんなものを魔法師が必要にするだなんてどういうことだ?)

 

魔法は門外漢の仰木は怪訝さを覚えながらも、当の魔法師たちが聞いたならば、『一緒にしないでくれ!』と嘆きたくなるようなトンデモが横浜上空で繰り広げられることになる。

 

 

4月のブランシュの一件でも見て乗ったことがある面子はそこまで驚かないが初の『乗船』をした面子は、色んな意味で驚く。

 

卵のような巨大構造物が浮きながら更に移動していることにも色んな意味で驚きではあったが……。

 

「内装がちょっと違うのか?」

 

乗船経験者である達也が先導するアーシュラに何気なく尋ねた。特に隠すことでも無いのかアーシュラはあれこれと口を開く。

 

「そうね。お母さんが使う際にはもう少しスペースに余剰が生まれるの。ワタシのが短距離のフェリー船ならば、こっちは世界一周出来るだけの豪華客船ってところ」

 

どちらも巨大な船舶ではあるが、それだけで違いは理解できた。理屈は分からんのだが。

 

赤原礼装という衣装を纏ったアーシュラの案内のもとブリッジともいえる場所へと赴く生き残った面子。

 

長い廊下を進んでいくとようやく見えた門扉は、乗船経験者でも見たことがないものだった。

 

「入りまーす」

 

カルすぎる挨拶の後には、扉に手を付けて入室。ある種のセキュリティなのか扉に複雑な刻印のようなものが走って『解錠』された。

 

既に戦闘不能を判定されて後送されたとはいえ、刻印魔法の五十里が見ていれば興味津々だったかもしれない。

 

ここにいるのは船の関係者であるアーシュラを除けば。

司波兄妹、十文字克人、七草真由美、渡辺摩利、千葉エリカ、西城レオンハルト、柴田美月、吉田幹比古、北山雫、光井ほのか―――

 

三高からは一条将輝、吉祥寺真紅郎、一色愛梨、十七夜栞、四十九院沓子という塩梅だ。

 

ちなみに国防軍の千葉修次と藤林響子は地上の状況整理の為に光線牽引(トラクタービーム)による乗船を拒んでいる。

 

「まさか、このような状況になっていたとは正直予想外ですよ」

 

入り込んだ途端に、以前はアーシュラが座っていた艦長席に座っていたバニーガール姿のアルトリア先生は、椅子を回してこちらに向き直ってそんな風に言う。

 

教師として生徒の『やらかし』を嘆くような言葉に少々いたたまれない。

 

「……重ね重ね失態です。自分たちが無力で浅薄であることを知らされるだけの事態ばかりでした」

 

ブリッジはあの時よりも広く、ブリッジクルーとして多くの人間が動いていた。人間ではない可能性もあるが……とりあえずヒトの姿をしたものたちが動いていた。

 

克人が謝罪をする中でもそんな風に観察していた達也だったが、アルトリア・ペンドラゴンによる説明が為される。

 

「戦略級魔法・霹靂塔が放たれたことは痛手ですが彼らは何の目標も『達成』出来ていません。アレが放たれたのはただの自暴自棄(やけっぱち)でしかありませんから」

 

「それでもアルトリア先生は、まだ大亜軍ないし中華の魔術師は諦めたとは思っていない?」

 

「ええ、現在は防御に徹している阿房宮ですが都心に進めば恐らく霊脈の抑えに入るでしょう。そうなればこの日本という国土においてフォーマルな現代魔法の使用は不可能になるでしょうね」

 

その言葉が虚言と言えるほどの知識は魔法師たちにはない。だが九校戦で説明されたレイライン・地脈・霊脈のことを考えるに、それは現実味があることに思えてきた。

 

「もう一回、あの主砲を発射することは出来ないんですか?」

 

素人考えであることは分かっていながらも光井ほのかが遠慮がちに言うが……。

 

「そうなればあちらは、今度こそ最大級の霹靂塔を撃ち込むだろう。その際に撃ち合うだけの防壁を張れたとしても、その先の都心にまで影響が及ぶ……今はこのエハングウェンが最後のディフェンスラインとして存在しているからあちらも迂闊に動いていないんだ」

 

「達也さん……」

 

さながら小牧・長久手の戦いで楽田城と小牧山城で膠着状態になった羽柴軍と徳川軍のようなものだ。

 

お互いに先に仕掛けた方が相手に付け入る隙を与えると分かっているからこそ、この状態で睨み合っている―――という衛宮家を分かっている達也の態度は光井ほのかの心をチクリとさせたのだが、それに気付かない達也に「こいつは……」とアーシュラを呆れさせたのだが。

 

「そしてアーシュラ、アッドを一度私に預けなさい」

 

「―――わ、わかった……」

 

次の瞬間アーシュラは、まるで悪いことをしたように萎縮しながら少しだけ壊れた黄金色の匣を母親に渡した。

 

「姪っ子を守るために無茶しましたね。兄さん」

『へっ、ローマとの最終決戦の後にすぐさまブリテンでモードレッドと決戦やらかす羽目になった誰かさんを逃がす際の苦労に比べりゃな』

 

喋る匣はそんな風に軽口であり悪態を突くようにしてから―――。

 

『まぁいい、アルトリア、アーシュラ。少し俺は休ませてもらうぜ―――』

 

心底疲れたような声を出した後には動かなくなるのだった。

 

「アッドさんは壊れたんですか?」

「いいえ、ちょっとした休眠状態です。エハングウェンで休ませておけば―――ですが、この戦いで動くことはないでしょう」

「アッド……というよりもケイ伯父さんの宝具は水に関わるものだから、多分あの電気地獄を緩和していたんだと思う」

 

美月の疑問に答えたアルトリア、そしてアーシュラによって壊れた原因が察せられた。

 

「水の膜によって直接の感電を避けさせていたというところでしょう。というわけでアーシュラ、アナタは阿房宮に吶喊して血路を切り開きなさい」

 

「「「―――」」」

 

その厳しすぎる言葉に、全員の血の気が引く思いをした。この女は何を言っているのだ。

 

自分の娘が、そのような死地に飛び込むのを良しとするのか?

 

「分かったわ。アッドが守ってくれたお陰でワタシのダメージは少ない。国防軍は動けない。となれば、それしかないわね」

 

だが娘の方は別に近所に『おつかい』頼まれたような感覚で了承をするのだった。

 

「理解が早くて何よりです。我が娘―――では行きなさい。ルーシャナ帝姫もお願いしますね」

 

「了解です。アルトゥールス王!」

 

言葉の途中で立ち上がって髪を撫でたあとには幼女の姿を取るルーシャナの髪も撫でるアルトリア先生

 

「ちなみに言えばルーシャスとの間で既に取り決めは為されています。彼女は我が家で保護することに決まりましたので姉として接しなさい―――というのはいまさら野暮ですね」

 

幼女は衛宮家の『養女』となることが確定するのであった。

怒涛の言葉のあとにはブリッジから出て行こうとするアーシュラとルーシャナ。

 

「あなた達は少し残りなさい。装備も何もなしに立ち向かった所で、何も出来ないことぐらい分かるでしょう? アーシュラの戦場に向かおうとするならばそれからです」

 

思わずついて行こうとした自分たちに掛けられた言葉、バニーガールの教師。

 

「しかし……!」

「今から行うのは空中戦です。籠城戦の如くここから矢玉をあちらに射掛けてもいいですが、通用しませんよ」

 

それは分かる。理屈を抜きにしてもあれに魔法を徹そうとした連中は無駄をやったのだから。

 

「ならばカオ○ガンダムを俺に!」

「カスタム○ラッグかアト○スガンダム(サブレッグ)を用意してください!」

「「「「「そんなもんあるかー!!!」」」」」

 

ブリッジ要員なのか同じ顔をした中学生程度の子どもたち(淡い金髪)が一斉に克人と達也にツッコミを入れるのであった。

 

「本気でまだ戦うつもり―――何かが出来るとお思いか?」

 

その鋭い一言。アルトリア先生の言葉に苦しくなる。常在戦場を生くる場にブリテンの守護者として駆け抜けたアルトリア先生の言葉は重い。

 

だが、それでも……。

 

(このままアーシュラだけに全てを任せるなんてのはイヤだ)

 

彼女は孤独ではないのかもしれない。

彼女に伍するだけの実力者はいるのは分かっている。

だからといって何もしないで見送るだけでいるのは嫌なのだ。

 

「―――アトリエを開いておきました。CADもそこならば何とかなりましょう。そこから先はあなたたち次第です。立華、案内お願いしますよ。」

 

ため息を一つ突いたバニーガール王様は、結局の所、自分達を後押ししてくれたのだ。

 

「分かりました。こっちよ、着いてきて」

 

いつの間にか乗船してブリッジに『しれっ』といた藤丸立華が立ち上がって、こちらに合流してきた。

 

「そ、その前に一つよろしいですか? アナタはアーシュラさんのお母さんであることは分かりましたが……アナタは……」

 

「一高の先生だ。細かな説明はあとにするぞ一色」

 

そう言えば三高生は、風間と藤林がいた場面での暴露には立ち会わなかったよなと気付かされる。

 

一応は十文字の注意で戸惑い気味の疑問を呈そうとした一色愛梨は口を噤むのだが、十七夜 栞と四十九院沓子は。

 

「先生がバニーガール……」

「というより若すぎんか?」

 

などと驚嘆と疑問を呈する二人だったが、それ以上の無駄口は叩けなくなった。

 

ブリッジを出ると同時に立華は口を開く。

 

「あなた達が戦力として動けるならば、ただ一つ。あの阿房宮という神殿に座している大亜の道士どもを叩くだけ」

 

「空中戦は演じなくていいのか?」

 

「そちらはこちらで受け持ちます。劉、陳、周そして劉の孫たる存在。この四人こそが最後の関門です」

 

「私達で倒せるの……?」

 

「七草先輩。ここまで来て尻込みするぐらいだったらば、あなた達はとっとと逃げるべきだった。ですが、此処に来た以上もはや逃げ場は無いんですよ。振り向けば劉 雲徳という道士は容赦なく戦略級魔法を打ち込んでくる」

 

「今さらそんなもの結果論でどうとでも言えるじゃない!!」

 

エリカの抗議だが先導する立華は、特に意に介さず口を開く。

 

「結果論と思うのは勝手ですけどね。ですが、現実に大亜の魔法師たちは『まだ』諦めていない。それどころか、国防軍が召し捕ったはずの捕虜の犠牲も厭わずに戦略級魔法をぶち込むその所業からして、あっちは、もはや引くに引けない状態になっている。どれだけ兵隊どもが犠牲になろうとも、最後に本丸を抑えようとやっきになっている」

 

正常な軍隊や国家の感覚じゃないというのは今更だが、新ソ連の中核たるかつてのロシア連邦、大亜の本丸である中華人民共和国というのは、昔から他国は当然ながら『自国民』の人権も、どれだけ踏みにじっても構わないという意識が根強い……というか伝統である。

屍山血河を築いてそこを橋頭堡にするとまで言われるぐらいだ。

 

「とにかく、現状やるべきことぐらいは分かるでしょう。ああは言っていましたが、アルトリア先生も結構ギリギリなんです……あの阿房宮が横浜に対して行っている人理圧迫を正常値に戻す作業をエハングウェンを通して現在もやっているので」

 

「響子さんから連絡が来ていた。横浜でようやく現代魔法や古式魔法が使えるようになってきたって」

 

「撤退?」

 

「現状使えるCADが無いからな……せっかく作ったムーバルスーツも全てが無駄になった」

 

別にCADが無くても魔法は使えるが、そうなった場合の魔法師の魔法行使の不便さは格段に上がる。

ある程度熟練した魔法師ならば―――と豪語するも、やはりCADがなければ魔法師は殆ど意味を為さない。

 

その事実に打ちひしがれるばかりだ。

 

「とにかく今はアーシュラの手伝いをしたいというあなた方の意気を信じるしかない―――ここ(・・)ならば存分にそのための武器を鍛造出来ることも叶いますね?」

 

案内された場所は現代魔法師ならば御用達の調整機器や古めかしい炉を使っての武器鍛造場まで備えていた。

 

さらに言えば、器材としてなのか、それともどこから手に入れたのかFLTの飛行デバイスまで存在していた。

 

至れり尽くせりの状況。アルトリア先生には感謝の念しか出ない。

 

「時間は有限だ。速やかに動け」

 

十文字に言われるまでもなく、全員が動き出す。自分で調整出来るものは自分で―――と思っていたが。

 

「三〇分で全て片付けます。最前線に行こうとするものは俺にホウキを預けてください」

 

その言葉は信用に足るものだったが―――。

 

一部のものはプライドが少しだけ邪魔したりするのであったが、それでも……最後の決戦の時は近い。

 

 

 

 

 

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