魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

125 / 160
まさか元日に、こんなことになるだなんて

早く誰もがいつも通りの日々を過ごせることを願うばかりですよ


第124話『虚空の戦場』

ブリッジから甲板といえる場所に出る。

……今はカバーで遮蔽されているとはいえ、プールなどがある場所に出たアーシュラとルーシャナは考える。

 

「シャナは何か飛行手段ってあるの?」

「ん。7竜たちの翼を利用したり『乗ったり』。だいじょぶ。騎乗スキルはあります」

 

赤い皇帝衣装の朱金の髪をした少女はそんな風に言う。目と鼻の先にもはや見えている巨大な卵……コロンブスの卵のように直立しているわけでもなく、浮遊しているわけでもない。

 

それを割り砕かなければならないのだ。

飛ぶことは特に問題はない。だが―――。

 

(サヤカさん)

 

瞬間、その手に持っていた雷霆の刀(重み)を意識する。

 

(ブリテンの騎士ではなく、ただ1人のサムライとして戦うのもいいか)

 

聖杯戦争ではないが、母も日本陸軍将校のような衣装をした『女侍』(めいくさ)と戦ったとか言っていたことを思い出す。不死者(ゾンビ)のような気配を持っていたとか言っていたが。

 

それはともかくとして―――。

 

「んじゃいこっかい」

「私が先に行きます。お姉ちゃんはあとでお色直ししながら来てください」

 

そう言って、分かっているのかルーシャナはエハングウェンのラム(船首)とも舳先ともいえる場所まで助走を付けて走り出し、そこから飛び上がった。

 

竜の翼らしきものを背中に生やした彼女が飛翔していく。それを見送るばかりではない。

 

「ではお力お借りします!!」

『いいでしょう! このSAKIMORIのチカラ! 存分にお貸しします!!』

 

言葉を聞きながらその身に貸し与えられたチカラを開放。黄金の姫竜は走り翔び立ちながら空に身を投げた。

 

その姿が徐々に変わっていく。霊基・霊衣変更の影響だ。空中でその身を完全に違うものへと変えた。

 

それは、越後の龍と呼ばれし『最強の戦国大名』であった。

 

改造された露出度高めの和服に、各部から炎を吹き上げる背面のユニット。まるで仏像の後ろにある光背のようだ。

あえてそれを評するならば不動明王が背負う激しい迦楼羅炎というよりも、毘沙門天が背負う光背のようだ。

 

巨大な刀。太郎太刀かと言わんばかりのそれは、壬生より賜った童子切安綱なのだろう。

 

ルーシャナとアーシュラが向かってきたことはあちらも理解していたらしく、すぐさま迎撃のためのエネミーが吐き出される。当然、接敵の前にアーシュラもルーシャナも先制砲撃を行う。

 

光背のようなバックパックかフライトユニットのそれの内、長くてドデカイ黄金色の砲らしきものが可動。

 

先端から青い閃光を解き放つ。ごん太レーザーなどとは言わないが、それなりに収束された光の圧がエネミーたちを扇状に焼き払っていく。

 

鼻っ面に受けた攻撃を前に怯むかと思えば、骸を意に介さずエネミーは染み出していく水のように空へと浸透していく。

 

それはアーシュラにとっては特に予想外ではない。

 

「魔術師くずれの魔法師にしちゃ大盤振る舞いだけど、ワタシに対してそんなもの効かないのよ」

 

意を決するや否や、アーシュラはルーラー・上杉謙信のチカラをフルに使いながら突進していく。

 

集団の中に入り込みながら、アーシュラはフルに空中剣戟、撃剣とでもいうべきものを繰り出す。

 

虚空を足場にしながらも、その動きはいっそ華麗というしか無いぐらいだ。

鎧袖一触されていくエネミーの一体一体とて決して雑魚ではない……アーシュラにとっては違うのかも知れないが。

 

それを光背の機能であろうもので屈曲レーザーの雨を降らせたり、巨大なレーザーソードを形成して薙ぎ払う。

 

スケートリンクを自在に滑り廻るスケーターのように、

フィールドを駆け抜ける高速ドリブラーのように、

 

彼女の動きは目で追いきれないほどに速くて凄まじいものだ。

 

「アーシュラが着ているドレス(霊基)は、英霊 上杉謙信のもの。毘沙門天の化身ともいわれた戦の神(イクサガミ)たる彼女のチカラが振るわれているんですよ」

 

アトリエにて外部映像を見ていた人間たちは、それに対して息を呑むしかない。

 

(仮にムーバルスーツが無事だからと、ここまでの空中近接格闘が出来るだろうか?)

 

だが、その疑問を達也は消却する。結局の所、そういった理屈を抜きにして『思うがままに世界を改変する』。

それこそが魔道の本質なのだから。

 

軌道計算も、風力計算も、なにもない。

 

虚空を足場にして『重さ』と『速さ』と『魔力』を乗せた剣戟・光撃・吶激がエネミーを消滅させていく。

 

「上杉謙信ってあんなふうに戦っていたのか?」

「というか、アーシュラのスタイルチェンジは、一部を除けば『龍属性』の存在にしか変身出来なかったはず……」

 

そんな昇りゆく自由(ライジングフリーダム)のような戦闘様子を見ながらも疑問は多い。

 

「我がカルデアでは2種の霊基存在たる『戦国最強』を登録していました。1人は長尾景虎という人間寄りの霊基であるランサーのサーヴァント。

もう1人は上杉謙信という神様(・・)寄りの霊基であるルーラーのサーヴァント。現在、アーシュラがチェンジしているのは後者の方です」

 

言いながらサーヴァントである『軍神』の姿を虚空に投影する。どちらも女の姿をしている―――銀髪と黒髪が混じったハタチほどの美女だ。

 

「ヒトを神にする―――というのは可能なのか?」

 

「不可能ではないじゃろ。これに関してはある種の因習じゃからな。神體(がんたい)という神のカケラをヒトに移植することで『神代の魔術』を成立させることは不可能ではないのじゃ」

 

司波兄妹の疑問に答えた藤丸立華、その藤丸へのさらなる質問は『着替え』をしている四十九院沓子によって為された。

 

「正式名称は神臓鋳體(しんぞういたい)。現代において古き神秘は劣化をする一方なんじゃが、それを『保存』するための方法を、古式魔法の更に深奥……退魔の血族などは継承してきたのじゃ」

 

沓子のさらなる説明。ホワイトボードを使って達筆に書き上げた漢字で全員に理解が及ぶ。

 

「ということは北陸の軍神、越後の龍は神體を受け入れたということなのか?」

 

「記録によれば、彼女の母親たる青岩院は熱心な仏教徒であり幻想主義者でしたからね」

 

「戦の神……毘沙門天をこの世に作ろうとしたのじゃな……」

 

「そのようで、赤子を腹に収めている間に、それと思しき『神體』を飲み込んだのではないかと推測されています」

 

あまりにも強烈すぎる事実。だが、まだ一つの原因究明が為されていない。

 

「で、結局アーシュラが戦国の軍神のチカラを使えるのはどうしてなんですか?」

 

「まぁ長尾景虎(上杉謙信)は『越後の龍』ですからね」

 

それも龍属性に含まれるのか!? 誰もが驚愕する事実。実は上杉謙信はGACKTであったとしても納得してしまいそうだ。

 

「しかし……北陸地方にも関わりが大きい謙信公の姿となると、少々滾るねぇ」

 

炎と雷を纏う太郎太刀を振るって活路を開くアーシュラの姿は三高生たちを色々な感情に震わせる。

 

何より騎士として対抗心を燃やしている一色愛梨などは、拳を握りしめているほどだ。

 

九校戦の時……いや、その前から彼女はアーシュラを意識している。

己が纏うブラダマンテの霊衣。

同時に再現された武器…宝具。

 

何もかもがアーシュラがいてこそ出来た与えたチカラではある。

 

そのことに歯噛みしてしまうのは当然か。

 

(けれど、魔法科高校にいる姫騎士はアーシュラさんだけではありません!!)

 

何もかもがアーシュラの思うがままだとしても。

 

(このワタシの誇りだけは―――アナタからのものでは無い!!!)

 

その決意と同時に全員の準備が整う。

 

「アルトリア百翔長。こちらの準備は完了しました」

 

『最新巻では司令長官(グラハレル)ぐらいにはなっていたはずですが、まぁいいでしょう。ボーダーを出します。ではお願いしますよ』

 

その船内アナウンスの言葉で、何か途中まで送り届けるものが用意されていることが理解できた。

 

「こっちよ。案内するわ」

 

その立華の言葉で準備が出来た連中が、あるき出す。

 

「しかし、アルトリア先生も何というか薄情よね……自分の娘なのに、何ていうかいっつも厳しい態度で」

 

「エリカちゃん。もしかしたらばアレが古代の王様の帝王学かもしれないから、そういうのは」

 

ヨソの教育方針にケチを着けるのはどうなんだという美月の言葉だが、確かにアルトリア先生は厳しい。

 

しかし―――。

 

「本当に王様として教育を施しているならば、生徒会長だろうがなんだろうがやらせていないかな? リーダーシップや儀礼作法なんか、広範な人の上に立つものとして取るべきものを、叩き込んでいるはずだ」

 

帝王学といってもまちまちなものだ。

もっとも英霊アルトリア・ペンドラゴンの考えはそういうことではないのかもしれないが。

 

「で、どうなんだ? 立華」

「どうなんだと言われましてもね。ただ、一つ言えることは……アーシュラは選定の剣(カリバーン)を抜いたアルトリア先生の決断を、あまり歓迎していないということです」

 

その意味は良くは分からない。しかし―――。

 

「無事に帰ってきたらば教えてやる。だからちゃんと帰ってこいよ」

 

赴いた場所、船の甲板とでも言うべき場所には1人の男性が居た。

 

「士郎先生……」

「よろしいんですね?」

 

確認をとったのは立華。どうやらアーシュラが話した以上のトップシークレットがある様子だ。

 

「ああ、もはや隠し事をしているわけにもいかないだろうからな。司波だけは少々違うようだがな」

 

「まぁ九校戦での一件でそれなりには教えてもらいましたよ」

 

抜け駆けというわけではないが、そう言った瞬間十文字克人から少しの敵意が向けられる。

 

「そうか。あの子はある種の可哀想好きだからな。コウマと同じくちょっとお前に甘いんだろうな」

 

「そ、そういうのって私よくないと思います! 男女の交際で不健全すぎます!!」

 

「そうか。お前の個人的な意見は一応、考慮しておく」

 

深雪の必死な訴えは、あまりにも個人的すぎて教師には届かなかった。

 

ともあれ―――アーシュラの戦う戦場に赴く時であった……。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。