魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第130話『封神演技』

 

 

「予想以上の状況だったな……」

 

持ってきた大業物がムダにならなくて良かったと思う一方で、状況は終着へと向かおうとしていた。

そして、覚えのある波動が……巨大な卵型要塞から感じていたのは七草弘一である。

 

「君たちも避難していてよかったんだぞ。ここは既に修羅の巷だ」

 

「いやぁ、ここから逃げても多分あんまり状況は変わりませんよ。それにロンドンは時計塔にも縁を持つ私としてはこれだけの巨大な魔道のイベントには最後まで見ておきたいです」

 

「明智君は時計塔の魔術師だったのか?」

 

「元ですよ。私の魔術回路は線が5本で刻印も殆ど死蔵しているようなものです」

 

イギリスにいる祖母からすればエイミィの産む子(曾孫)の代で芽が出なければ、本格的に時計塔に売り払うことも吝かではないそういう状況だと伝えると―――隻眼の魔法師は……。

 

「魔術師であれ魔法師であれ、自分の次代(あと)に自分の魔道を継いで欲しいという思いは変わらんのだろうな」

 

そんな風に一定の共感を持ちつつも、嘆くような調子を見せてくるのだった。

 

「お子さんに何か不満でも?」

 

「いや無いけどね……ただ……まぁ中年のセンチメンタリズムさ」

 

エイミィは英国にルーツを持つわけで日本の魔法師界のそれの津々浦々を知り尽くしているわけではない。

 

単純に『七草先輩は女の子だもんなー』と思いつつ、男子に『黒刀・夜魔』を継いで貰えないことに不満を覚えているのだろうと結論づけた。

 

そして七草弘一という十師族の当主が『執行者クラス』の腕前を持つと断じつつも状況が変化していく。

 

「阿房宮が止まった……?」

 

アイパッチの下にある偽造魔眼で流れを見ていたらしき弘一の言葉通りにすべての機能が停止―――いや、一点に流れ込んでいき集約される。

 

「士郎さん、アルトリア・ペンドラゴン陛下……!」

 

自分に何かが出来るというのならば頼ってほしい。ここに来るまでに時間がかかりすぎたのだ。

 

未だに空中にてタマゴと対峙し合う空中戦艦に言いたい気分なのである。

 

そんな意外な組み合わせというほどでもないが、物怖じせずに十師族の当主……先輩の父親と気軽に話すエイミィに後ろにいた服部会頭と中条会長はビクつくのであった。

 

夕焼けに染まる世界にて―――最後の竜が生まれる。

 

 

見たくはなかった。信じたくなかった。

 

彼女が、姫騎士が、自分の焦がれた女の子がヒトを殺す瞬間など……。

 

けれど、その剣が1人の老人の命を終焉へと至らせた(おわらせた)時に……すべての戦闘は終わった。

 

「消滅したわけじゃない。霊体化しただけ」

「分かるのか?」

「君もその眼を使えば何となく分かっただろう」

 

自分たちが戦っていたサーヴァント達が、幽霊のように忽然と消え去ったことに呆然としていた達也に対するどこか険のある声にイラつく。

 

とはいえ、それを表に出さずにクドウ・コウマの声に従いながら、アーシュラが殺害した劉道士の元へと向かう。

 

剣を引き抜き少しの返り血を浴びながらもその遺体―――

 

「まだ生きている―――」

 

劉雲徳はおどろく事にまだ生きているのであった。

 

これだけの混乱を起こした人物に対しての慈悲などはないが、それでもアーシュラの『殺人』に対する事実を覆そうとした瞬間。

 

その向けた銃から放たれるべきはずの魔法が止められた。

アーシュラが横から達也の手を握ったのである。

 

「やめて達也。これは―――『私』が背負うべきことよ。そして……劉雲徳老師の最後の魔法を止めないで」

「―――」

 

前半も当然だが、後半の文言の意味が分からない。

それ以上に……彼女と何かを共有出来ないことが凄く辛いのだ。悲しいのだ。

 

彼女が知らぬ他人の死に涙を流せるというのに、自分は……泣けない。

その事実に気が狂いそうになる……。

 

「どういうことだ?」

「この阿房宮の全ては劉師父のお孫さん―――、一高を襲撃した劉麗蕾ちゃんへとすべてを受け継がせるべきものだったんですよ」

 

その文言の意味をすべて分かるわけではない。しかし、これは……ここ……横浜での闘争は全てこの老人の計略であったということか。

 

「魔術刻印というものが魔術師にはあるんです。これは現代魔法の刻印魔法というのとは違って歴代の魔術師たちが刻んできた生ける魔導書であり、家の次代の魔術師に受け継がせていく―――呪いであり遺産」

 

「それは俺とて多少は存じている。刻印保持者―――直近の刻印者と親等が近い親族ほど適合率が高い、あまり近すぎて不味い場合もあるとはな」

 

いつの間にか闘技場に降りてきた立華の説明に答えるは、十文字克人であったが、構わずに立華は推理を進める。

 

「そして……ここの機能を利用してあの幼女に『自分の全て』を渡した……我々も利用してね」

 

「その通りだ。カルデアのマスターよ……」

 

「当初はアナタもこんなことをするつもりは無かったんでしょうね。通常通りに聖杯を確保できれば良かった。自分と孫に敵対する『大亜軍』のサーヴァントどもを生贄にした四騎分の魂を焚べた聖杯さえ手に出来ていれば……しかし、状況に介入してきたアラクの横槍、周という男の不協力。そして現地の魔術勢力よりも先にアインツベルンのホムンクルスを確保出来ていれば……」

 

「だが、そうはならなかった……私の思惑を大亜の上層部は多少は理解していたのだろうな……」

 

自分と孫の安寧のためにこれだけの騒動、大勢の死人を作る乱を起こした―――。

その事実に全員が戦慄をする。

 

これが魔術師……人倫を全て排した非人間性の怪物。立華の推理はまだ続く。

 

「しかし、ホワイダニット(動機)がちょっと弱いんですよ。アナタは大亜の戦略級魔法師にして彷徨海の魔術師でもあった御仁……このような粗雑なことをせずとも大亜での地位ぐらい安泰でしょうに」

 

いざとなれば、何処にでも亡命出来たはずだ。それこそ大亜からの分離独立を目指す東南アジアの軍閥に近づくことも出来たはず。

 

「……孫を思う爺の気持ちを察することが出来んわけでもなかろうよ」

 

「だからといって死ぬことがお孫さんに対する最後の情だなんて……」

 

「魔法師には分かるまいよ。我らは死を賭しても星の行く末を見るものたち―――そして、現世に地獄を作り上げると分かっていれば、それを回避する術を欲しがるだろうよ。地獄に我が孫を残したがるものがいるか」

 

光井ほのかの言葉に超然とした言い方。意味は少々不明であったが……その言葉を吐きながら見ていたのは―――司波達也であった。

 

(何故、俺を見る……?)

 

憎々しげに、まるで恩讐極まる敵のように見てくる死に体の老人の眼に……まるで祖父母に悪いことを咎められた気分になる……。

 

そうしていると―――この阿房宮の施設を利用して劉雲徳から全てを吸い取ったらしき存在が現れた。

 

劉麗蕾だ。

 

恭しく抱拳礼をする呼延灼と周瑜の両サーヴァントを引き連れてやってきた彼女は―――。

 

「……祖父様を返してもらいます」

 

力づくでも、という言ってはいない言葉を全員が感じた。そしてそれは恐らく不可能な話では無いだろう。

 

『何か』が満ちた……一高で見た時とは違いすぎる『成長』を遂げているリーレイに対して全員が緊張をする。

 

それを見たアーシュラは……。

 

「失礼、劉師父」

 

「孫のような娘に―――抱き上げられてしまうとは、私も老いたな……」

 

もはや生気も消え失せて、死を待つばかりともいえる老人の身体を抱き上げたアーシュラは、その身体を魔術師リーレイに渡すべく、歩みを進めて―――その途中でルーシャナは従者よろしく、吹き飛ばされた腕を持ち並走する。

 

そしてその間に―――劉師父の身体からは命が失われていた。

 

「―――赤龍騎士王姫、私の御爺様は強かったですか?」

 

啜り泣くような調子でいながらも、はっきりとした言葉でそう問いかけたリーレイに対して。

 

「ええ、劉師父を振り切るために少々ズルをせざるを得なかったもの。最後まで武侠として戦えなかったこと申し訳ないわ」

 

悔しがるような調子を見せるアーシュラ。それを見たリーレイに喜色が浮かぶ。

 

「だったら―――御爺様の勝ちですね」

「ええ、『私』の敗けだわ」

 

眼を乱暴に拭って、晴れやかな笑顔でそう言ったリーレイ。

 

そして最後の刻印移植が為されて劉師父の身体からは完全に生命が失われた。

 

同時にその身体が荼毘に伏されたかのように灰―――遺灰のようなものに変わり、それらを『骨壷』なのか大きめのものを持っていた周瑜によって回収された。

 

アーシュラの手に収まらないほどの量を『何かの術』で纏めて、遺灰の全てを収め蓋をした周瑜はアーシュラに宣言をする。

 

「劉の体は誰にも汚させない。そして劉の守りたかったものが、私が今後守るべきものだ」

 

「分かっているわ。黄昏の空を渡って故郷(くに)に還りなさい」

 

周瑜の宣言に対して返すアーシュラ。どうやら劉麗蕾に関しては見逃すようだ。軍属ではない自分たち(学生)ではそこまで強弁を張れないのだが―――。

 

「全力で見逃しなさい。流石にテュフォンを取り込んだ術者をこの場で相手にしたらばどうなるか分からない」

 

「だが彼女は亜種聖杯戦争の参加者なんだろう? いいのか?」

 

「既に士郎先生によってホムンクルスから『聖杯』は取り出している。つまり―――彼女はただのゴーストライナーの使役者でしかない」

 

既に聖杯戦争は終わっているという『宣言』。四騎のサーヴァントの魂だけの不完全な『サカズキ』ではあるが、魔力リソースとしては十分なのだ。

 

何より……。

 

「では意気軒昂、威風堂々で大陸へと凱旋するか!!」

 

言葉が呪文であったかのように、一高とは別の方の壁が爆散する。その向こうは黄昏の空―――そして……。

 

「なんだあの空中に浮かぶ木造船の数々は!?」

 

克人の驚愕も当然である。この阿房宮然り、アルトリア母娘のエハングウェン然り……空中に浮かぶ船というのは何かしらの『鉱物』……要するに特殊な機構を備えているからこそ、浮遊して飛行しているうと思っていたのだが……。

 

「あれも周瑜大提督の宝具ですミスタ・ジュウモンジ。アーチャークラスの特徴として強力な宝具を持ち、それを打ち放つという特徴があります……恐らくレッドクリフの再現でしょうね」

 

「それも英霊の逸話として宝具へと昇華するのか……?」

 

「推論ですが周瑜将軍はどちらかと言えば『ライダークラス』が適当なのかもしれません。有名な英霊ほどその武勇伝に事欠かず時に宛がわれたクラス次第でどんな宝具になるかも決まりますので、その場合は孫呉の将軍たちを船に乗せての水軍船団が出てきたかもしれませんよ」

 

火船を用いての特攻戦術。

 

鎖で繋がれた曹操軍を焼き尽くした孫呉の大将軍周瑜の秘計の再現と言われてしまえばそれまでだが―――。

如何にコウマに説明されたとはいえ、船を矢弾も同然にしたから『アーチャー』というのは、何か不適当な気がする克人なのであった。

 

ともあれその浮遊する木造船にリーレイを乗せて去っていくようだ。

 

「私達も出ましょう。この阿房宮もいつまで浮遊していられるか分かりませんから」

 

心なしか高度が落ちているような気がしている。立華の言葉に特別反発するまでもなく、全員がボーダーに戻る。

 

「アーシュラ」

「ワタシが殿よ。出るまでは気圧の変化を抑えとかなければならないから」

 

言われてみればこの高空で大穴が空いたというのに、自分たちがその穴に吸い出されるような感覚を覚えないのはどうやらアーシュラが何かをやってくれているからだ。

 

そしてそのドレスも『越後の龍』からアチャ子さんスタイルに変わっていた。

 

「いや、これは正確に言えば真田エミ幸の長女、アチャ松殿の衣装。夫に小山田ムラマサを持つ真田魂の具現よ」

 

真田兄弟の姉である村松殿に対して小山田茂誠をモチーフにした……何だか分からないが赤備えな衣装を再び身に纏ったアーシュラは、双剣を構えて油断なく何かを見る。

 

そして、それでも予想されていた変化はなく全員がボーダーで外に出た瞬間に……阿房宮の最終機能が解除されたのだ。

 

「なんだあれは!?」

 

羽根を生やして雷の塊となった卵型要塞を見る。

 

「まさかまだ霹靂塔の脅威は終わっていないということなの!?」

 

信じたくない想いからボーダーの上で崩れながら叫ぶ真由美……全員が同じ想いだ。勝利条件を果たしたというのに、阿房宮自体が未だに稼働をしているなど……。

 

「中で発破しておくべきだったかしら?」

「そうすれば私達は死んでいたでしょうね。あれは纏繞機雷ですよ。アラクの最後の策として『糸』が放出されていたでしょうから」

 

アーシュラと立華の会話、察するにあそこで内部爆破を試みていれば自分たちはあの雷雲の如き様を見せている阿房宮に囚われながら天国へのカウントダウンを刻まれていたというところか。

 

「まぁワタシもアナタもヘブン、エデンにはいけそうになさそうだけどね」

 

心の声に対してツッコミを入れられてしまう。そこまで自分は分かりやすいのだろうかと達也が思い悩むも。

 

「俺を導いてくれマイスイートエンジェル」

「フッざけんな」

 

後ろから抱きついた達也に対する手の甲に対する抓り。最近ではこの痛みもイイものだと感じつつあった。

 

「例えどこぞのヅラが金髪の姫のエロイメージを見せたとしても俺はそれ以上のイメージを持つことが出来そうだ」

 

「阿修羅すら凌駕する存在が、アスラなヅラと戦うとか意味不明だわ」

 

「いい加減離れろ。君はアーシュラの彼氏(Steady)じゃないんだろ。ならば、そういう節操のないことをやるんじゃない」

 

「コウマさんの言うとおりです! お兄様から離れなさいアーシュラ!!」

 

何か微妙にズレたことを言っている2人の男女、この緊急時に緊張感のない―――などと思っている内にボーダーは、エハングウェンに着艦を果たした。

 

甲板上には一高のエミヤ両先生と―――。

 

「お父さん……!!!」

 

七草弘一が、刀を携えていたのだった。驚く真由美に対して。

 

「おかえり」

 

その優しげな言葉を言われるも―――真由美としては、それが自分ではなく、協力者であるUSNAの魔法師に向けられているのではないかと卑屈な思いを浮かべるのだった。

 

「劉は死んだのですね?」

 

代わりに竜の母娘は事務的な会話をするのであった。

 

「はい。ワタシが殺しました」

 

それは違う! と誰もが言いたい気分になりながらも、それでも―――。

 

「分かりました。それこそがかの戦略級魔法師にとっての『決戦の日』だったのでしょう……ならばアナタは必要なことをやったのです。アーシュラ、気に病まないように」

 

「……」

 

「泣きたくても今は泣かせませんよ。最後の大仕事が待っています」

 

本当に厳しい母親である。本人は責められた方が気が楽だったかもしれないが、とはいえどうやらこの事態を収めるため。

 

英霊アルトリア・ペンドラゴンが聖剣をその手に執るときとなったことを、彼ら衛宮家を識るもの達は自覚した……。

 

 

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