魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第132話『終わりの為への一歩』

 

 

「キレイ……」

「ええ、本当に……」

 

美月のうっとりとした声に応える一色愛梨。阿房宮との距離が1キロメートルあるかどうかの距離だっただけにこの船の甲板上はある意味では特等席であった。

 

「やれやれ、ようやく終わったが……乱痴気騒ぎとしては、規模が大きくなりすぎだろ。結局……孫娘の為に多くの贄が出来すぎではあったか」

 

士郎先生の総評が当たっていたのか、横浜に上陸した残兵は全て降伏をしているようだ。

 

ようやくのことで現代魔法が十全に使える状況が戻ってきたことが響子からの通信で分かる。

 

「大亜の戦略級魔法師である劉師父は……こんな大騒動を起こしたんですか?」

 

「それは恐らく彼が継承した『術』……詳しい専門用語もあるのですが、とりあえず太祖龍テュフォンを継承したことに原因があるのでしょう」

 

真由美の何気なく出した質問に答えるのは、アルトリアでも士郎でもなく……船内にいきなり現れた美貌の白人―――という枠には収まらない人外じみた美貌の存在であった。

 

「太祖龍テュフォンはギリシャ神話上にて暴威を振るいオリュンポス十二神など多くの神々の最大の敵対者(スーパーヴィラン)でした。故にテュフォンには真正面から戦わず『策略』を用いて―――彼に手かせ足かせを着けることにした」

 

「策略?」

 

「彼に―――願いを叶えること出来ぬ無情の果実を食させることにした……とある事件の過程においてそれと関わったカルデアではその果実をギリシャ語で無常、『刹那』を意味する言葉から『エフェメロス』と名付けてました」

 

美貌の白人は、まだ本調子ではないのかアルトリアに気を遣われて寄りかかることになったわけで、真由美の質問に答えたのは立華だったわけだが…。

 

「確かに、ここ(横浜)はワタシの『お兄ちゃん』が同じくエクスカリバーを放った大地だけど、まさかそんな繋がりが……」

 

「いや、アナタの兄君は関係ないわよ」

 

うんうんと深く頷くアーシュラに言葉と手でツッコミを入れる立華……本当にアーシュラに兄貴なんていないはずなのだが、なんだかモヤモヤする達也なのだが……。

 

「そんな食したモノの『本当の願い』を叶えない。反願望器とでもいうものが自分の内側にあるからこそ劉は、その運命を覆すべく聖杯という『奇跡』を得ようとした。テュフォンから『エフェメロス』という果実を取り出すべく」

 

「本心を隠して大根役者を演じていたつもりだったんでしょうが、どうしても無理だったようですね」

 

それは劉雲徳という術者が、あまりにも大きすぎる存在であったことで起こった問題であった。

大亜人民解放軍の上層部もまた劉の意図を予想して何重にも保険を掛けていたが……失敗と成功は半々であった。

 

「そんな『四魂の玉』みたいなものがあるんですね……魔術世界には」

 

何と言っていいかわからないが、そんな感想を抱きつつ……本命の小聖杯、聖杯戦争の願望器はどうなったのか。気になって聞くのだが。

 

「ご安心を。既に私の中から出しておきました。本来ならば『自壊』するはずの肉体をいまでも維持出来ているのはマスターエミヤの手際ゆえです」

 

真由美の疑問に答えたのは微笑みを浮かべる美貌の白人であった。

 

「えっ、どういうことですか?」

 

一つの疑問を解決したと思えば、次の疑問が出てくる……真由美および此処にいる魔法師たちの疑問は尽きない。

 

言葉の意味を違えなければ、この人が『小聖杯』を持っていたということなのだが……。

 

「ファリア・アインツベルンと申します。此度の大中華亜種聖杯戦争において用意された『器』でした」

 

スカートの裾を持っての丁寧な一礼。貴人としての振るまいを見せる彼女に少しだけ気圧される真由美だが……。

 

「士郎さん、アルトリアさんも。そろそろ地上に戻りませんか?黄金樹も終熄しつつあります。何より国防軍としても残兵処理をしたいのにこの場で居座るというのは」

 

真由美の苦境を助けたかったのか、それとも本当にそう考えていたのかは分からないが弘一のもっともな言葉にご夫婦は、了承をしてからエハングウェンの高度を下げつつ横浜港に着岸することになる。

 

センチ単位での操船を可能とするそれの見事さで着水・着岸の衝撃も何もなく久々に地上への帰還が成ったわけだが……。

 

時間は既に午後7時を回って横浜の港は夜闇の中に沈んでいた。

 

当然、投光器や照明器具の類は煌々と照りつけているのだが、街頭など街に備え付けの照明器具の類は戦闘行動で壊されまくったのは間違いないのだ。

 

「小銃を構えた兵隊がいるわ」

 

「それは仕方ないだろ。如何に敵対勢力の退散に協力してくれたとはいえ、既存の船舶とは姿を異にする巨大船がやってきたんだから」

 

アーシュラの不満そうな声に達也としては苦笑して心苦しくなりながらも、先乗りして銃口を下ろしてもらうように風間に頼むべきだったかと思う。

 

『―――』

 

反対に、一部の軍隊……USNAスターズなのか米国の魔法師部隊は、エハングウェンの着港に直立不動の状態で乱れぬ整列のままに敬礼を取っていた。

 

この対応の違いは……如何に日本の魔法師界が閉鎖的なのかを物語っている。

 

(風間が友好的に接するかどうかは賭けだな)

 

九校戦でも神秘の世界の住人達の無法っぷりは、存分に発揮された。彼らにしか解決出来ず、彼らにしか出来ないこととは言え腹立たしさはあるのだろう。

 

はたまた文民統制の中にいる軍人たちは、政府筋からの命令には従うのだが……こと魔法師となると少々、事情が違う上に『十師族』という権力に簡単に迎合しないのが独立魔装であるがゆえに……。

 

魔術師相手にもどう出るか不透明な限りだ。

 

なにはともあれ下船。アルトリア先生を先頭にしての帰還……。

 

一団の中から進み出た風間は……。

 

「長い戦いで御息女ともども先陣を切っていただいて感謝します」

 

「これもまた騎士としての務めゆえ、魔法科高校の教師としては少々出すぎていたでしょうがね」

 

「調書などは取りません……ですが、カルデアから送られてくるのでしょうね?」

 

「エルロン書記官は優秀なスタッフです。半日もしない内にそちらの『参謀本部』宛に届くでしょうね」

 

「……!!」

 

別に独立魔装にやるわけじゃないという立華の言い回しに少しだけ表情を硬くする風間。

 

そんな立華を嗜めるように頭を軽く叩くアルトリア。だが筋で言えば『制服組』よりも『背広組』に提出するのが当たり前であり、風間の反応こそ変なのだ。

 

(まぁ閲覧不可能じゃないだろうしな)

 

そこまで急所を突かれたみたいにならなくても良かろうに……などと上官筋に対し想いながらも……。

 

「自分たちは東京の方の大使館に行かせてもらいます。既に国務省が手配しているみたいなので」

 

次に口を開いたのはUSNAの軍人たちであった。達也は見ていないのだが、響子曰くかなり八面六臂の大活躍であったようだ。

 

別に主攻だけではなく様々なことを達者にこなしていた辺り、さすがは米軍ということか。

 

「装備は一時、そちらにお預けします」

 

コウマ・クドウ・シールズが主な受け答えの相手。どう見てもアジア人の特徴しか無い少年兵士が日本の魔法軍人と会話するおかしさを認識する。

 

「―――よろしいのかな?」

 

「銃刀法が存在している国で軍人とはいえ、火器銃器の類を携帯しているわけにも行きますまい」

 

「ただしアシスタンツの類は勘弁してもらいますよ」

 

その言葉で、全ては決するのであった。

結局の所、政府上位が米軍に手助けを求めた以上、不躾な真似は出来ないのだ。

 

「コウマ、あとで鍋をご馳走してやるから。日程空けておけよ。マイスターケンの帰国に関しても話したいからな」

 

そんな堅苦しいあらゆる書類のサインや端末の確認をしていたUSNAの若き将校に対してなんともプライベートな声掛け。やったのはシロウ先生であり……。

 

「は、はい! 一番いい肉を持参して衛宮邸に向かわせていただきます!!」

 

戸惑いつつも少年らしい顔をして、夕餉の鍋パーティーの誘いに答えるクドウ・コウマであり、関係性が良く分かるシーンであったが……

 

「あとアーシュラには―――肉のほうがいいか? 花束とか要らない?」

 

などと未練がましく元カノにそんなことを言うコウマという男だが……。

 

「A6ランクの牛肉でいいわよ。そういうのは義妹で彼女のアンジェリーナにやりなさい」

 

元カノの方は結構ドライに対応するのであった。

 

これが関係が切れたカレカノらしい対応なのかどうかは、そういうことに経験無く、恋愛系の創作物も知らない達也では判断しきれない。

 

ただ、それでも少しだけ嬉しかったのである。

 

なぜかなど簡単だ。彼女にはコウマに対する未練などないのだと分かったから―――という達也の考えを読んだのか実妹は、達也に引っ付いて離れようとしなかったのだ。

 

 

その後、語ることは多いようで少ない。

 

横浜における残兵処理。あるいは潜伏しているかもしれない大亜の工作員の狩り出しに関しては国防軍に一任された。

 

 

 

神秘関連の間者もいるかもしれないが、それはどこからかやってきた宇津見エリセの『祖母』とやらと……聖堂教会の代行者・騎士団という連中が協力するようだ。

 

そうして一時的に横浜の魔法師協会に集められた面子は、身体の健康状態などを確認してから帰宅させるようだ。それは十師族である克人や真由美も同様であった。

 

因みに言えば、アーシュラと立華、そしてルーシャナなどは炊き出し役として居残りをせざるをえなかったりしたようだが……大半の生徒たちは帰宅を促される―――それには司波兄妹も含まれており戦場からの帰還を余儀なくされるのだった。

 

「お兄様も独立魔装として残ることも出来たのでは……?」

「流石に今日は疲れすぎた。そしてどうやら叔母上が口利きをしたようだ」

 

あの魔法師軍人部隊にいた達也の立場は有り体に言えば嘱託職員の類であり、無理強いは出来ないのだ。

 

「大亜の中途半端な侵攻は頓挫、巨大要塞は完全消滅……残敵・残兵処理に関しては他任せ……」

 

これ以上のことがあるとすれば大亜が艦隊でも派遣してくる可能性だが……。

 

それは無いのではないかと想いつつ、コミューターを利用して帰宅した家にて。

 

『衛宮家の鍋パーティーですが、私も同席しましょう』

『『―――は?』』

 

自分たちの実家の方からの着信でとんでもないことを言われるのだった。

 

どこで知ったんだ。誰から教えられたんだ。そもそも『何が目的』なんだ。

 

などなど……多くの疑問が渦巻きながらも、四葉の当主であり自分たちの叔母が来ることは確定事項として……横浜騒乱は終わりを告げるには少し尻切れトンボなままに進んでしまうのだった……。

 

 

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