魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
ーーー五世紀 ブリテン島
その島は動乱の中にあった。
発端は大陸にあった帝国の崩壊。
帝国……ローマと呼ばれる国の庇護下にあったブリテンの力は衰え、大陸の動乱は、大陸の広大な全土に比べればそこまで大きくないはずの島国に新しい外敵を呼び寄せることになった。
『俗に現代ではアングロ・サクソンと呼ばれる人種の原型とも言える異民族。サクソン人がはるばる海峡を超えて島までやってきたのさ』
難破するかもしれん船でご苦労なことだと皮肉げに言う喋る匣だが、それでも硬質な声は感じ取れる。
要は嫌悪であった。
当然ではあろう。結局のところ、自分たちが必死になって開墾して整備した土地を我が物顔で自分たちのものにしようとする盗人など、ただの野蛮人ではある。
現代日本、その他の国でも難民申請をした異国の人間が我が物顔で自儘なことをすればそれはただのバルバロイであることは間違いないのだ。
とはいえ、当たり前だがそういった脅威に対抗するための「連合」は当たり前にあった。
土地をもとめてやってくる異民族を退けるは、当たり前のごとく地元の豪族である。
ブリテンは多くの土着の部族とその王たちによって収められた島国だ。部族間の諍いは絶えなかったものの、共通の敵として北方に棲むピクト人との戦いは生存権の確保のため、そのときだけは北方の侵略に備えて部族の王たちは協力し合っていた。
『だが、その部族連合という結束に罅を入れたのがいるのさ。それこそが先の異民族サクソン人を利用し、おのが欲望―――ブリテン統一を果たさんと名乗りを上げた卑王ヴォーティガーン。ブリテンの中から生じたブリテンを滅ぼさんと生まれたものさ』
卑王はサクソン人たちを招き入れ、島を混乱の只中に叩き込んだ。ローマ帝国が島を統治していたころに作られたブリテンの要、城塞都市ロンディニウムは滅ぼされた。
もっとも偉大とされた王 ウーサー・ペンドラゴンはヴォーティガーンとの戦いに敗れ、その姿を永遠に隠してしまった。
『かくして多くの王が反抗を繰り広げるも、好転の兆しなくブリテンは暗黒時代に突入したわけだ』
―――匣が語る古代のブリテン島の様子はイメージできるものであった。特にあの聖杯戦争の映像からしても、古代の英雄がどれほどの屍山血河を作り出せるのかも容易く想像できていた。
それは魔法師の戦い、銃砲火器を使ったものよりも原始的だが、それでもその熱は凶悪にすぎるものだ……。
「で、でもその後はアーサー王が、というかアルトリア先生が岩に突き立つ選定の剣……カリバーンを抜くことで王権を証明したんですよね?」
伝説の人物が近くにいる。当人がそこにいるという不可思議さを覚えながらも美月は疑問を口にする。
『伝えられているところだけならばな。だがなお嬢ちゃん。事実は小説よりも奇なりという言葉がある通り現実は違うんだ―――アーサー王は、その剣を抜くべくして作られた『王』なんだよ』
言葉だけならば突き放すようでいる調子だが、その声音には悲しさが深く刻まれていた。
“ウーサー王は後継者を選ばれている。この人物こそ次代の王、赤き龍の化身、新たな王が現れたときこそ円卓の騎士たちは集結し、白き竜は敗れ去る”
『ウーサー王がお隠れになったあとに、マーリンという魔術師の残した予言。だがな、こいつが色んな意味でアレだったんだ。俺は全く違うが多くの騎士たちは『もしや自分が!?』なんて夢物語に興じていたんだが……単純な話。アルトリアはその剣を抜くべく作られた存在』
「ど、どういうことですか!?」
『ウーサーは分かっていたんだ。如何に自分が傑出した王で『人間離れ』していようと『人間以上』の存在ではないとな』
それは魔法師と同じく『時代』が求めた非人道的な所業の末であった…。
ウーサー及びマーリンは考えた。
サクソン人どもはどうとでもなる。彼奴らは所詮は人間でしかない。しかし、どうしてもヴォーティガーンやピクト人たちには普通の王では力が足りない。やつらは神秘満ちる神代の頃の力を有している。
ゆえにウーサー王は考えた。
そして己の頭の中で案としてまとめたそれをマーリンに伝えた。
可能かどうかを尋ねるためにも。
”ブリテンの守護を司る赤き龍と人間の混血。
『人間離れ』ではなく『人間ではない』ものを王とする―――人間と龍の混血を作り出す”
普通の人間ならば気でも狂ったかと思うかもしれない発想。神代から時代を経た世界。確かにまだまだ未開な分野は多くあっただろうが、それをまだ是として可能とするだけの『神秘』は残されていたのだ。
その考えにマーリンは喜び、かくして…。
ウーサー王の血。
赤き龍の血。
その2つをつなげるために最適な貴い女の血。
それらを合わせて誕生をした……アルトリア・ペンドラゴンという王であった。
「魔術世界ではこのようなことを『概念受胎』と言います。龍を人にするのではなく、人に龍の機能をつける―――かくいうこの辺りの管理者、遠野一族もそれに近いですがね」
立華の追加説明を受けながらも、考えることはそうではない。
現代魔法師である自分たちは、最適な遺伝子系統、ある種のゲノム編集で作られてきた最新の存在、人類の優等種だと思っていたが、それは烏滸がましい驕りであった。
既に……古代から、あるいは神代から、そういうことは続けられていただけなのだ。
だからこそ分かる―――アルトリア先生は怒っていたのだ。
今までの自分たち……力ある魔法師たちが、自儘にやっていたことを、彼女は悲しく思っていたのだ。
1科2科の区分け
そこから生じる差別意識
そして……気持ちも心も力もバラバラでしかない暗黒時代のブリテン諸侯たちのような様相。
魔法師どうしですら何も分かち合えず、分かり合えないそれは、彼女が生きていた時代のそれを思わせたのだ。
『だからこそアーシュラは、母親たるアルトリアに反発しているのさ。聖剣を抜くためだけに、王になるべく作られた……自分の『未来』を決めつけて動くだけの存在になることをな。王様になるべく、『かくあれかし』と作られたからと、その通りになるなんてのはイヤだとな―――それは、君たち現代魔法師という存在が嫌がることじゃないかな?』
「………」
最初にアーシュラに食って掛かった深雪は、匣……アッドの言葉に、この上なく恥を覚える。
自分は四葉という魔法師界の選良の一族。その魔法師として『優秀であれ』『絶対であれ』と育てられてきた。
それが自分の生きる道だと分かっていたから。それしか教えられなかったから……。
けれど、その考え自体がアーシュラにとっては気に食わず、言葉と実体でのケツバットを食らわせてくる動機だったのだ。
「義兄さん。あまり年若い少女をイジメないように。それに私は別にそこまで自分の人生を悲観してはいませんよ」
苦笑しながらアーシュラの髪を弄るようにケアしている母親であるアルトリア。
そして弄られているアーシュラはルーシャナの髪をケアしている。
そしてルーシャナはあの戦いで
落ちてしまう毛は何かの精霊で集められている様子から、お掃除用の使い魔なのだろうと思う。
『俺は悲観したし、親父……エクターも悲観していたんだ。家族ぐらいは……お前に『王』ではなく一人の『少女』として生きていてほしかったという後悔ぐらい持たせろ―――だから……まぁシロウ君が、この景色にアルトリアを誘ってくれたことを嬉しく思う』
匣のいろいろな思いを込めた言葉に対してシロウ先生は。
「俺も、アナタと同じ気持ちを抱きましたから」
―――真っ直ぐな目で答えるのであった。
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「―――そうして、ようやくの思いで『本当の眠り』に就き、星の内海にて揺蕩うように微睡むは、王であった・王として生きてきた女の子。
歩き疲れ果て、それでもまだ進み続けた男の子は出会うために進んでいったのさ」
ロマンチックな語り口……感じ入るものはある。それはとてつもない物語だ。
前田校長の語りを疑うわけではないが、そんな人達が何故……星の裏側から出てきて自分たちに関わるのか……。
「そこは、ブリテンのキングメーカーにして夢魔の魔術師マーリンの策でもある。ことの発端は……まぁ気にするな。何にせよ士郎さんを筆頭に、衛宮家の人々はこの世界というかヒトのテクスチャが張られた星を護るために、妖精郷から出てきたんだからな」
「そうですか……」
「信じきれない・疑わしいのは分かるが吉祥寺、そういうのは呑み込んでおけ。私達、魔法師が万能でないのと同じく、士郎さんも全ての遍く人々を助けられるわけじゃないんだ」
眼の前の生徒が石焼きビビンバを食べながら佐渡ヶ島の一件を思い出していたと気付いた校長は少しだけ窘めておくのだった。
(にしてもさっきから……)
(士郎先生に対するフォローが過剰ですね)
(校長先生の忘れられない男は一条の父上ではなくて、アーシュラの父君であったか!)
そんな思春期真っ盛りの思考が三高女子の中にあったのだった。
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「俺からも質問をさせてもらいますが、四葉殿は衛宮家と関わりがあるのですか?」
話は衛宮家及びアルトリアの発端ではなくて、それと関わりのある存在に向けられた。
「四葉殿が衛宮家に個人的感謝をするとしても、十師族の
「克人さん。甲相駿三国同盟というのをご存知かしら?」
「は? いや何故に、戦国時代の大大名たちの同盟がここで出てくるのですか?」
克人としてもそんな単語が出てくるのは予想外すぎて虚を突かれたが、それでも四葉真夜は当たり前のことのように口を開く。
「つまり山梨・長野辺りに根を張る
四葉の謎の一族ということを差っ引いても当主である四葉真夜という女性の長ったらしい言動はすっごい嘘くさい。
端で聞いていれば凄く筋が通った理屈に思えたりもするのだが、通常の軍事ドクトリンならば首都を狙うのが筋だと思う。
どれだけ軍事の素人でも、首都に近いところを抑えたのならば普通はそちらを狙うと思う……。
ちょっと歴史を知っている人間ならば、信長が包囲網に掛けられていた頃も本拠である尾張・岐阜よりも絶対に『京』を抑えていたことから、戦いの中で首都の重要性は昔から変わらないのだ。
まぁどれだけ練られた作戦計画であったかは検証の余地はあるのだが……。
何よりもその言動をまるっと信じさせないのは、USNAの若武者の存在にあった。
「更に言えば、
「そ、そうですかぁ……分かりました」
「簡単に納得するな!!」
巌(爆)があっさり引き下がったことで、真由美としてはそれで納得するなと手をつねりたい気分。
だが、それが公然とした理由としては―――納得出来ないわけではないというのが問題であった。
仮にここで、USNAの俊英の出自に対して云々と探ろうものならば、下衆の勘繰りも同然にとらえられかねない。
特に先程、士郎先生に対して不躾な質問をしただけに、今度こそ父親から叱責と同時に殴られかねない。
どうする!? と一人自問をしていた時に……。
「ふーん。まぁ別に十師族のシマ争いに関しては置いとくとしても、アタシとしてはクドウ・コウマさんに関して興味があるんですけどね」
逆ナンか!?と思わんばかりのエリカの発言が場に響く。表情は特にそういう色っぽいものは無いのだが、それでも分からない。
同時に―――。
「
クドウ・コウマにとっては知らない女の子であったので、そんな疑問は当然であった。
「千葉エリカと言います」
ジャギ様のように自分の名前を知られていないことに憤慨するかと思っていたら、普通に自己紹介するエリカにちょっと意外な気持ちを一高関係者は抱く。
「ああ、君が―――」
やはり海を超えて彼女の実家たる千葉家の千葉流の名声は轟いているのだと思ったのもつかの間。
「―――
「そっちの名前で海の向こうに轟いているのかよっ!!」
嘆きたくなるほどに実家の看板を奪われたことを今更ながら認識したエリカの声を境に、話題はアーシュラの元カレのことに関して移っていく……。