魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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ピックアップ第二弾。全滅―――沖田ジェットもいなければ、バニトリアもいない。

圧倒的全滅!!

というわけで最新話です。


第13話『前哨戦(上)』挿絵あり

その日、光井ほのかは目撃した。

 

全クラブ総出で新入生を取ろうという思惑を躱して校舎外に出た時に、乱闘―――魔法を使ったものをやっている男子生徒2人を制止するべく駆けつけるほのかの王子様―――司波達也の姿を……。

 

だが、そんな司波達也に対するやっかみで放たれる空気弾。明らかにわざと―――だと分かることを行った……恐らく2年生が逃走を開始した姿。

 

許せない。そしてその生徒2人を追いたいのにちょうど良く邪魔立てした男子2人の姿―――それら全てが、ほのかの怒気を上げたのだが―――。

 

「ゴスロリッシュファイブ―――!!!!」

 

どういう意味であるかは不明。だが、声の主は近くにある木々の太幹に乗っかりながら赤布を飛ばして、逃げ出した2人を拘束して木に吊るした。

 

なんだか昔に見た映画の海賊の処刑のようにも見える。ハンギングロープに吊るされる海賊(パイレーツ)―――中でも勇敢なる騎士ロバート・メイナードによって殺された黒髭の首―――船首に突き出るがごとくである。

 

反応から察するに、壁となっていた2人はぐるだったようで、後ろにいた達也は嘆息しながら『ゴスロリッシュファイブ』を行ったアーシュラを迎える。

 

ここからでは何を喋っているかは分からない。だが、何というか非常に仲良しすぎる様子に、ほのかは気が気でない。

エイミィの『えっみーってばアッツイねー♪♪』という言葉も右から左に流れていく。

 

そして、食虫植物のように壁役の2人も残っていた赤布に拘束されて芋虫になる。

 

『愚かなる卑劣漢の末路』

 

前衛芸術の一部となりて終わるのだった。

感謝はある。卑怯な闇討ちから達也を助けてくれたことに恩義を感じる。

 

だが、『あの距離感』だけは許せない!! 深雪ならば許せる!! なんせ深雪は『実妹』なのだから―――。

 

しかし、衛宮アーシュラだけは違う……!!

だからこそ―――。

 

「私達の手で達也さんを助けよう!!」

 

「けど、えっみーってば、かなりサポートしちゃってるよ。それに士郎先生とアルトリア先生も屋上で張ってるらしいし」

 

その言葉を受けて、ほのかとしても「うっ」と唸らざるを得ない。

SSボード・バイアスロン部付近での強制的な勧誘を受けて、その後に入部したほのかと雫。その際のことを考えるに、よほどのことが無い限り、達也とアーシュラを害することは出来まい。

 

何よりオモチャの矢ではあるが、魔力付与をして強制的に学校内から『退去』させる『魔法』など、明らかに士郎先生も普通ではない。

 

つまりは―――自分たちの活動は意味を成さないということだ。

 

「け、けれど! 何かあるはずだよ!!」

 

達也の力になりたいのに、余計な手出しをすれば、むしろアーシュラの陰から守っている行動を邪魔するかもしれないという事実だとしても、ほのかはめげないのだった。

 

(恋の力ってやつなのかなー……)

 

エイミィとしては、アーシュラこと『えっみー』との友情に波風を断たせたくないのだが、ここで2人との友情を破断させたくもない。

 

そんなわけで―――。

 

「仕方ない。ならばワトソン雫! ハドソンほのか! このシャーロック・エイミィが英国探偵の端くれとしてキミたちを導いてあげよう!!」

 

そうして『美少女探偵団』出動となったのだが……。

 

 

屋上での監視、クラブユニフォームを着込んでの、双眼鏡での達也に対する監視。同時にアーシュラよりも先に不埒者を見つけるべくの行動。

 

今日は「組」(ペア)での捕物ではないことを少しだけ嬉しく思うほのか。

 

いまだに達也を狙う不埒者をとっちめてやろうかと思った矢先に見えたのは、三年生の先輩だろう相手だった。

 

メガネを掛けた制服姿の男子は、実験棟の並木道にて『巡回』をしていた達也と少しの話をしていた。

 

(2科生の三年生か。随分と親しい感じ?)

 

どういう知り合いかは知らないのだが、少しの話をした後に「がんばれ」とでもいうように笑みを浮かべながら肩を叩いて去っていく。

 

達也の進行方向とは逆に―――。叩かれた達也は少しの苦笑しながらも、巡回に戻った。

 

三年生から完全に眼を離して、達也に目を向けて数分後に変化は愕然と現れた。

 

魔法の発動。地面から浮かび上がる「文字」が現象を具現化する。

 

「「「!?」」」

 

サイオンの先行発動すら見えぬぐらいに突然に始まった魔法現象に、優等生三人、美少女探偵団が瞠目する。

 

地面が隆起を果たして、錐のような形に変じて達也を刺し貫こうとしてくる。何かをやったのか地面の隆起が少しばかり遅くなる。

 

その間に器用な体術で躱す達也の姿。

 

見とれている場合ではなく、誰がやったかを見ようとするも、どこから魔法が放たれたのかが分からない。

 

「ど、どこにいるの!? 達也さんを襲った人間は!?」

 

どこから放たれたのかを見つけようと達也の周囲に眼を向けるも、無人であり何気なく林の向こうに眼を向けた「光井ほのか」は、そこにある「光の塊」に眼を眩ませた。

 

「うん?」

 

なにかに気づいたらしきエイミィの言葉も遠い―――そうしていると、林の向こうにいた光の塊は、俊敏に直線的に動き、林の向こうから「長物」を達也に向かって突き出した。

 

ここにいてもわかる。その威力の程は、達也の驚愕した表情で分かる。

 

「光の塊」はぞろりとしたフード付きのローブに身を包んでいるのだった。男か女かはわからないが、身のこなしは尋常の使い手ではない。

 

素人目にも、達人、玄人などという類のレベルではないことは分かる。

 

並木道にて、達也はローブ姿の『木槍持ちの存在』と戦う。

 

戦うとはいうが、当の達也は汎用型CAD以外の武器を持たず、苦戦を免れない。

 

見ているほのか達には分からないし知らないが、本来の得物があれば幾らかは対抗出来たのだが。

 

やむを得ず、達也は発動に難をしない式を選択して、小刻みに術を用いて対抗していた。

 

(こいつの体術は、一撃一撃が必殺だ。掠っただけでも体が持っていかれるような圧を感じる……!!)

 

これだけの身体強化。たとえ現代魔法でもあり得ざる領域のものだ。

 

実家の「処刑場」、軍部の上官たち、寺の門人……あらゆる戦闘者をピックアップしても、ここまでの人間がいただろうか?

 

知らず汗がにじむ。死への恐怖はない。あるのは、ここで終わることで深雪を守れなくなるという恐怖のみだ。

 

やむを得ずキャストジャミングを用いて、相手の阻害を試みる。

 

これほどまでに極まった強化に対して、意味があるのかどうかは分からない。

 

というより、そもそもどういう術理を以て肉体を駆動させているのか、達也の目を持ってしても分からないのだ。

 

無策の策として放った「逆呪文」は、やはり効果を発揮しない。

 

『中々におもしれぇことを考えるが、そういうモルガンみたいな術ならば、もう少し極めるべきだぜ小僧。手妻使いで収まりてぇならば、余計なお世話だがよ』

 

言いながら木槍の三連射が走る。同一の軌道を刻んだかのように見える高速の打突―――水しぶきにしか見えないものに、大きく躱さざるを得ない。

 

躱したところで持ち手を一回転。木槍の石突が下から翻り達也の喉を潰す。

 

油断していたわけではない。ただ肉体のスペックがあまりにも段違いなのだ。

 

呼吸困難に陥る肉体。如何に現代魔法師が「呪文口決」を言わなくても魔法を発動できるとはいえ、生命にとって不可欠な呼吸機能を潰されたことは痛手だ。

 

そんな冷静な分析の最中にも攻撃は続き、首を刈り飛ばさんとする薙ぎ払いを身を低くして躱す。

圧が髪の毛をいくらか吹き飛ばした。

 

『そらっ!!』

 

次いで連撃。当たり前だが振り下ろしの一撃。堪らず後転するような運動で躱したが、空振られた一撃は並木道の土を叩き、土砂の弾丸が宙を舞う達也の体を強かに穿つのだった。

 

ただの木槍ではないのか。武器を硬化させているにしては硬すぎてあり得ざる物理現象。USNAの分子ディバイダーを思わせる威力のあり方。

 

ここまでの戦いで段々と騒動が知れ渡っていたようで、あちこちでざわつきが広がる。

 

制服はもはやボロボロ。その内側にある切り傷や細かな出血……打ち身、打撲痕は数しれない。

 

わずか数分で達也を追い詰めた槍兵に対して遠くからの魔法式の投射。達也が槍兵から大きく離れたことによる好機を見出した雫の移動魔法。

 

だが―――。

 

あっさり弾かれる魔法。剣道場で見たアーシュラのリプレイかのように、その槍兵には魔法が通じなかったのだ。

 

屋上にいた雫が青褪める。魔法師は現実を改変できることを当たり前としている。その自信がある種の強さにもつながるのだが……。

 

対抗魔法などを仕掛けられて、発動をキャンセル、ディスペルされたならばともかく、相手が何もしていない「不動」だというのに、こうなっては、途端に魔法のキレが不安定になる…!

 

『名乗りも挨拶もない無作法極まる戦いとはいえ、戦士の境界に横槍を入れるとは―――猛犬の槍! 食らっても文句は無かろう!!』

 

達也に目を向けながら切っ先も向けていた槍兵は、槍をくるっと一回転させて、そのまま体も屋上にいる三人に向いた。

 

付き合いは短いが、三人のうちの二人は深雪の友人だ。それに危難が迫る。

 

そして仮に彼女らに害が及べば、深雪は悲しむ。

 

させるわけにはいかない。

飛び掛かり、相手を羽交い締めにしようとした時には、槍兵は瞬発していた。

 

遅れて達也の耳に聞こえる爆音。消えた槍兵の速度は一瞬にして音の壁を破ったのだ。

 

並木道を真っ直ぐに突き進み一定の場所で飛び上がったあとには―――大地を蹴り上げ、そのままに槍を大きく振りかぶり―――放つ。

 

投槍―――槍の使い方としてはあるものだが、心得ないものではふらついたものにしかなりえない。

 

槍兵の放つそれは―――音の壁を超えて強烈な魔力と物理法則の断末魔を加えて、ほのかたちのいる場所に一直線に放たれた。

 

音速を超えるミサイルを■■することは、達也ならば不可能ではない。

 

もちろん着弾までの距離や時間などを考慮しなければいけない。

 

だが……達也が仕掛けた「魔法」は、間欠泉のように湧き出る魔力によって弾かれた。

 

槍から吹き出る……魔力によって―――。

 

秒以下の思考時間の後に訪れる最悪の結末に対して、足掻こうと槍兵に対して魔法を仕掛けてやろうとした瞬間―――。

 

 

「I am the bone of my sword.―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)―――」

 

校舎屋上を音速の勢いのままに直撃しようとした槍とほのかたちの狭間に光り輝く『花弁』が現れた。

 

「えっ!?」

 

花弁は、中心にある花托から幾重にも層状に円周を刻む光のラウンドシールドを展開していき、槍を完全に阻んだのだ。

 

その様子を正面から見ていたほのか達は、身体が竦むような恐怖を和らげて、後ろから聞こえてくる声に反応できた。

 

「―――「本物の朱槍」ならば、こうはいかんだろうが、どうやらアレの主人は、そこまで剛毅ではないようだな」

 

「『彼』のマスターに恵まれないジンクスも極まってますね……」

 

どこか皮肉げな声と悲壮感を漂わせる声とが聞こえてきた。

 

「アルトリア先生!」「士郎先生も」

 

驚いたエイミィの声と、驚きを顔に出しつつも平坦に声を出す雫の声が相手を知らせた。

 

軽く手を上げた美人先生とダンディズムを感じさせる先生。

 

アルトリア先生は、すっかり勢いを無くして光の盾に突き刺さっていただけの木槍を引き抜いた。

 

「ケルトのサウィンに代表されるように、「彼ら」にとって木々、樹木とは、武器であり祭祀の道具である。

狩猟民族からの騎馬民族が、死した己の馬の骨を武器に、毛皮を暖衣として利用してきたように、そこに『魂』が宿ると考えてきた。アニミズムの発露ですね」

 

木槍を手にしながら語るアルトリア先生を見上げるローブ姿の存在。

 

もしかしたらば、士郎先生を見ているのかもしれないが……。

 

『合縁奇縁というのは、こういうのを言うのかね。あの「赤野郎」以来、東洋の格言ってやつを覚えて座に刻んできた甲斐があったぜ……。で、お前らの「どっち」が相手になるんだ?』

 

声は木槍から聞こえてきた。屋上の下……校庭の方では騒ぎが大きくなってきている。

 

木槍から聞こえる声にもそれが紛れ込んでいることから、とんでもない事態だとほのかは震えてくるのだった。

 

「残念ながら、俺達は相手は出来ないんだ」

 

『ああん? ふざけたことを言うんじゃないぜ小僧。いや、もう小僧なんてトシじゃねぇが……まぁ「赤い」のに近いようで違くてオレとしてはいいんだがよ……ならば、ここにいる魔術師モドキどもを殺して回れば、お前らも出てこざるを得ないか?』

 

なんて傲岸不遜な言葉。だが、それが出来ないわけではないことは、遠目の双眼鏡越しでも「ほのか」には分かった。

 

あれは人の形をしただけの、理外の「チカラ」の塊なのだと。

 

それに対して教師である二人は……。

 

「安心しろ。光の御子、光神ルーの息子よ……」

 

「お相手は、私達の自慢の子獅子にして小竜が相手をします」

 

『あ? そりゃどういう―――。ああ、そういうことか……勘所が悪かったなぁ―――姫騎士アーシュラってのは!!!』

 

敷地内に轟音が響き魔力の盛大なまでの圧力が、屋上にまで届く。

 

そして轟音の元は、再び達也を守るように相手に突っかかっていったのだ―――。

 

 

轟音を響かせながら林から飛び出た金色のオーラは、一直線にローブ姿に突きかかる。

 

その手に持つ得物が、再び握られていた木槍とぶつかり合う。

互いの衝突に発生する衝撃波が、並木の左右の枝葉を上下に激しくヘッドシェイクさせて、石粒、砂粒が猛烈な勢いで四方八方に飛んでいく。

 

それだけで激突のパワーを感じて、駆けつけてきた生徒たち全員と至近で見ている達也とが察する。

 

そこから立ち代わり入れ替わりながらの、相手の懐に「撃」を入れんという円舞のような戦舞が刻まれる。

 

その都度、互いの得物の激突で煌めく火花は美しくも、妖しき魔力の光もあって、見とれてしまうものだった。

 

戦いの趨勢は、徐々にだが片方に優勢を刻んでいく―――優勢を採ったのは。

 

「ハァアアアア!!!!」

「―――ッ!!!」

 

大音声の下に放たれた振り下ろしの斬撃。放ったのは金色―――アーシュラであった。

 

斬撃の圧と威は規格外であり、受け止めた木槍は木っ端になりて風に攫われた。

 

余波は達也の肌を震わせるほど。すべてが規格外の剣士は、距離をとった槍兵に応じるように達也を背中にして相対する。

 

「お待たせさせて悪かったわね。ここから先は、『私』が引き受けるわ」

 

「ああ、頼んだ。と言いたいところだが、ここに来るまで何をしていたんだ?」

 

「ありゃバレてるか。まぁ―――「いい得物」が無いか、探していたんだ。それだけだよ。別に、キミがいいようにやられて「愉悦」に浸る心根を持っていたわけじゃないよ」

 

アーシュラの語る「いい得物」というのが、ただの木枝。それなりに太く長いもの―――いまこの辺りにある木から察するに「桜の枝」と察した達也は怪訝な眼をせざるをえない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だが……その桜の枝に込められた、サイオンではない「チカラ」の量は桁違いだ。

それを見た瞬間、思考は霧散する。

 

「何の用だか知らないけれど、こっちの男子は「私」の同級生なんだ。あんまり痛めつけるようならば、それ相応の『対応』をさせてもらうわよ。当然、そちらが『朱槍』を持っていなくてもね?」

 

「はっ! 舐められたものだな! お前程度の戦士なんざ、エリンにはいくらでもいた。影の国には、ごまんとな!! 本命の槍がなくても負けるかよ……」

 

挑発の言葉の応酬。自分の方がお前より上だ。という戦士の魂のぶつけ合い。構え直す得物。

 

アーシュラは両手で枝剣を持ち、正眼で堂々と構える。

 

片やローブ姿は木槍を一直線に構えて、姿勢を低くして狙いをつけるようにしている……。

 

アーシュラはともかく、槍の方の構えに関しては、武道の心得あれば尋常ではないものに見える。

 

しかし先程の動きがあれば、必殺を期した構えと気づく。

どこからでも鋭く最短で穿ち貫く構え……。

 

両者から吹き上がる力が尋常ではなく高まり、殺気と闘気とでもいうべき、遠くから見ているものたちの肌に感じる乾いた空気が充満した時―――。

 

両者は消えるかのように移動を果たして、中間地点で再びぶつかりあった。

 

そこから先は稲妻と月光の交錯の再開であった。

 

稲妻にも似た突きは戻りがないぐらいの乱射。

 

否、長柄の得物を繰り出すための予備動作が早すぎて見えないのだ。

槍突は間断ない速さで振るわれて、その槍突を受けるアーシュラの枝剣は、その槍突を強引に割り砕くかのように無理やり懐に踏み込んでいく。

 

当然ながらも稲妻の如き槍撃だ。そんなことをすれば、あっという間に串刺しになるのがオチのはずなのに……。

 

直線的な槍の豪雨を捌きながら、剣は颶風を巻きながら豪雨に隙間を描いていく。

 

槍が突きと払いに長けた道具であるならば、剣もまたその機能を持たないわけではない。

 

リーチの差はあれども、アーシュラの剣の切っ先を真っ直ぐにした突きは、槍撃を払い除けながら徐々に踏み込んでいくのだ。

 

言うは易く行うは難し。お互いに最大級の魔力を込めて、合撃(あいうち)剛撃(ひっさつ)に転じて変化させんと繰り出しているのだ。

 

一瞬でもひるめば、首と胴が離れているのではないかという数え切れぬ得物の応酬。

 

周囲の人間たちは離れたところから固唾を呑んで見守るしかない。

 

そうしていると槍兵の槍が―――変化を果たす。ここに来て―――。

 

(薙ぎ払いを入れてきたか。さすがはエリンでも随一の戦士。慣れぬ木槍だろうにやるものだ)

 

虚空に魔力の輝線を刻む槍の薙ぎ払いを躱し受け止めつつ、アーシュラも変化を果たす。

 

先程までの実直な「守備」主体の剣から、「攻撃」に転じるように魔力放出のベクトル操作を増やす。

 

今までが爆撃機の攻撃能力であったならば、戦闘機への変化のようにトリッキーな動きが加わる。

 

体ごと振り回す力任せの一撃一撃が槍兵の体を揺らす。先ほどとは段違いの攻撃性能を前に興が湧くのを抑えられない。

時には体を真横にロールさせながら一撃を繰り出してくるのだ。

 

決して手打ちではない魔力の猛りをそのままにぶつけてくる剛撃に、朱槍でないことが惜しすぎるのだ。

 

(いいね! 戦士の戦いはこうでなければいけない―――悪いが、ここいらで分けにしておきたいんだよ)

 

砲弾の如き勢いで動き回るアーシュラの攻撃で再び軋む木槍。だが―――。

 

途端に接触を嫌って、大きく離れるアーシュラ。

 

素人目には何があったのかはわからないが、それでも離れたアーシュラは、得物である枝剣を見遣る。

 

特に変化が無いように見えるが……それでも何かをされと思ったのだろう。

 

「カンがいいな嬢ちゃん―――いや、姫騎士」

 

「光の御子と言えば、影の国の女王より賜りし、原初十八のルーンも有名だ。擬似的な『紅薔薇』だな?」

 

「御名答。マックールの小僧が私怨で取りこぼした一番槍の得物ほどじゃないが、魔力を打ち消す(ディスペル)エンチャントぐらいはあるものさ―――さて、『本命の得物』を出すならば、待つぜ」

 

「アナタほどの英雄にそれを所望されたならば、それに応じるのも一興だが、その場合のアナタの手にあるは、因果歪曲の槍でなければ釣り合いが取れない―――何より……」

 

既にあちこちに存在している構造物(オブジェクト)が砕け散った並木道。

 

近くに存在している実験棟の窓ガラスに至っては、魔法の直撃・実験失敗の爆発を受けても砕けなかったというのに、今ではフレームはぐしゃぐしゃに歪んで、ガラスに至っては細片となりて砕けていた。

 

そんな中でも更に激しい戦いに繰り出そうとするアーシュラと槍兵に、滝のような汗を流す者は多い。

 

そうだというのに、アーシュラは……。

 

「申し訳ないけど、レディを誘うのだったらば、その野暮ったいローブは取っていただけない? 顔も見せないのは失礼だと思うわ」

 

「―――成程、年若いが、姫としてはいい返事だ。だが答えは一つ。剥ぎ取ってみせろ!!」

 

返しあった言葉にブオン!という風圧ごと振り回し合う槍と剣。

 

それは2度目の激突の予感を想起させる―――。

 

 

 

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