魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
アルトルージュが来るだの何だのと盛り上がっていたが、まぁ本当に来たらどうしたのだろうと思う。
現れた司波深雪は冷却を催そうとエイドス改変を行うが、手を振りかざしただけで黄金の輝きが、波紋のように空間に広がりそれらを崩す。
そうしながらも壬生や摩利に対する対処も忘れていない。
(その瞬間を狙って―――)
瞬間、ドライアイスの弾丸がアーシュラの周囲に幾つも出来上がる。
周囲といったがアーシュラの存在濃度とでもいうべきものが濃すぎて、彼女の半径20mまでは正直言って何も術を構築出来なかったのだ。
ようやく頭上周囲―――それでもアーシュラまで25mの高さがあるところでドライアイスの弾丸を構築出来てそれを放つのだが、ここに来て浮遊の飛翔で『翔んだ』アーシュラはその弾丸を『見てから避ける』
あまりにも常識外の戦闘機動。そして全てを避けきった後には。
「シュガー・フェイルノート」
言葉で背後の礼装が起動。礼装に魔力が充填。同時になにかが装填された。それは針の細さと槍の長さを両立した黄金の矢。
礼装から猛烈なスピードでいくつも飛んできて林の中に潜んでいた真由美を直撃。
『みぎゃああああ!!!』という声のみが響きながらリタイアが確定した瞬間だった。
(読者サービス(?)もなしにリタイアが決まるとは七草らしいオチだな)
どんな霊衣を着込んでいたかも分からぬほどに見せ場なく退場した同輩に感想を述べながらも、このクロス・フィールド競技においては獲得したワッペンの数が少ないままに試合を終えたものは臆病者の烙印を押される。
同時にスナイパーよろしくの戦いも場合によりけりではあるが、あまりリスペクトされるものではないのだ。もっとも七草の資質からしてもそれが普通だったはずだが……。
(まさか全ての射撃を躱してスナイパーの射点を特定してカウンタースナイプをする相手がいるなど予想外だったのだろう)
彼女としても遠距離から自分を視認されない場所から放ったつもりだったのに、そんなことになるとは思っていなかった……エルフィン・スナイパーだの言われても、それに勝る存在がいるとは思わなかったのだろう。
「とはいえ、それはこちらも同じか!!」
「かしこみ、かしこみ、たてまつる」
凄まじい威力―――というほどではないが、中々に難儀するチカラが、克人の体を打ち据える。相対する吉田幹比古の能力は、あの横浜前のことでも理解していたが、こんなことになるとは―――。
トランス状態になっているとしかいえぬ吉田の術が克人の展開した防御壁を超えて顕現する―――いや、これは違うものだ。
(現代魔法よりも現代魔法の極みに近い。『座標』から術式が直接現出しているのだ)
起動式いらずで、『そこにあるもの』として魔法式が「いきなり」顕現する様子を前に、どういうことなのかは分からないが、それでも吉田を打ち倒すべく加速をつけて体当たりをしようとするが。
(速い―――)
まるで「ウサギ」が跳ね回るようなという動きで吉田は克人の体当たりから逃れる。千日手というほどではない。身体強化術である程度は、吉田の術に耐えられるが―――。それでも克人の障壁を『無き物』として術が生まれ出る様子に不可解なものを覚える。
『克人さん。恐らくミッキーの術はこの夜劫の『盤』に接続しているからですよ』
「むぅ。それはどういうことだ?」
いきなり耳元に出た『ミニチュアアーシュラ(モルガンフォーム)』だが驚きはない。いざという時に、自分がアドバイスするとして予め渡されていた礼装が起動した形だ。
『夜劫及び昔からの実戦派法術士の大半は『カミサマ』の欠片を用いて、術を行使するんです』
「だが神軆とやらは継承出来る人間は限られているのでは?」
『ええ、詳しく言えば色々ありますが、とある土地の範囲に限っては『カミサマシェアリング』というものが可能となりその土地に由来ある術者ならば『神代の術式』が行使可能になるんです』
つまり自分は神代の術を行使する相手と戦っていることかと戦慄する。
だが神代の魔術とはいえ、こんなものかとも感じる。確かにこちらの理を超えて『結果』だけを強要する理は脅威だ。術者次第では、もっと強力なものも放つのかもしれないが。
順序の違いはあれど―――。「ごはぁっ!!!」吹っ飛ばされるもすぐさま立ち上がり、敵対者を見定める。
いきなりな攻撃。放ったのは―――。
「一条!!」
偏倚開放の空気圧が自分を襲ったのだ。空気圧そのものはファランクスで封じられたが、その際の揺らぎに生じて吉田もまた空圧で攻撃してきたようだ。
二重の脅威が出来上がった。
「まさか卑怯とはいいますまい?」
「誰が言うか」
少しだけ離れた所、林の中から身を晒して攻撃してきた後輩に返す。だが、これはマズイ。組んでいるわけではないだろうが、2人がかりであることに難儀を示した瞬間。
「むっ!?これは―――」
吉田の術ではなく「ワタシのサポートスキルです」という耳元の言葉でありがたく想いながらも全身が充溢するのを感じる。
『流石にトウコちゃんのバフを受けてるミッキーに対して不公平ですからね』
「つまり吉田と西城が接続している『盤』とやらは彼女の仕込みか」
『ワタシが倒しますから克人さんも踏ん張って』
「おうっ」
言うがはやく壬生との斬りあいを打ち切って四十九院に挑みかかるアーシュラ。
「いつまでも高みの見物決め込めないわよ!!」
「ふはは!先輩2人をフッてわしに挑むとはな!!」
言葉の割にはあまり歓迎していない様子であるが、飛翔戦闘を行うアーシュラに対して難儀する。
「おのれアーシュラああ!! 私と戦いなさい!!」
フラれたのは司波深雪も同じではある。自己加速魔法で向かおうとするのだが。
「おっと行かせないよ!!」
それを邪魔するのは宇津見エリセである。司波深雪、壬生紗耶香、渡辺摩利、千葉エリカと4人を相手取る形だが、負けるつもりはないようだ。
「宇津見さん!?」
「アーシュラと最後に雌雄を決するのは私だからね。邪魔は許さないよ」
黒色の魔弾を幾つも放つエリセの攻撃に司波深雪も難儀する中。
「沓子! 助けに来ましたよ!!」
「愛梨!それに栞まで!!」
「三高一年トリオ!まとめて倒す!!」
「そうはいかせないよ」
三高のアマゾネス軍団に対して姫騎士は一人で挑みかかる。戦いのメインステージは川という流動性溢れる場所へとなった。
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「遂に私も『浩之ちゃん』と呼ぶ幼馴染役を卒業ですか」
「何の話ですか?」
「いまや『ひろゆき』と言えば論破王(?)の方がデフォルトになってますからねぇ。同じ赤毛の水星の魔女子ちゃんになることも時代の流れなのでしょう」
恐らくビジュアルノベルの元祖に対して語ってるだろう妻の言葉に中条は疑問符だらけのようだが、それとは別に画面に映っている戦いの様子は色々な意味で衝撃的すぎた。
自分の娘は、とにかくハイスペックだ。その様はアルトリアを思わせるという感じではなく、どちらかといえば娘を見ていると地元の大地主の娘で魔術においては自分の師匠でもあった女性のことを思い出す。
彼女がどうなったかは色々とあるが、この世界での彼女もまた自分の師匠で、そしてロンドンにて世話になった人物であった。
懐かしい思い出に浸りながらも、生徒の相手をする。
「隙が無い女の子ですよね……」
「唯一の弱点といえば少々、エネルギー補給が多いぐらいか」
ガス欠になる頻度が多い。というのは、弱点というほどの弱点ではないが、まぁそれなりにアーシュラの陥穽ではあろう。
「その弱点を突く間もなく、やられた私としては色々と物申したい気分ですけどね!」
ジャージ姿で、5分前に転送されてきた七草真由美が怒るようにして衛宮夫婦に言う。
「夜劫のお山において、お前さんの戦いは褒められたものじゃなかったからな」
「この山の神は様々な習合を成しているものでもありますからね。その中には軍神の類もいますから」
両先生のあまりにあまりな評価に色々と言いたくなる真由美は言いつのる。
「戦において暗殺も手段の一つとして認められているはず!かの美周瑜とて何度かそれを行っては――――失敗していましたね……」
演義の方ではあるが、あの孫呉の提督は何度か諸葛孔明を暗殺・謀殺しようとしては、失敗に終わっていたことを思い出す真由美。
あの壮絶な阿房宮での戦いにて、かの提督のボイスを聞いていると、『自分の旦那様はこんな感じの声なのでは?』などと変な感想を抱いていたのだ。
それは、ともかくとして……2人の説明は続く。
「あまり言挙げ―――神様の名前を詳らかにするのはよろしくないが、ここの山にいるのは古事記の中でもそれなりに主人公補正がかかっていた神様だからな」
「自分の兄たちに冷遇されてさらに言えば、求婚をしにきた姫神の遣いたるウサギに非道なことをした兄たちを連想させたんだろう」
その言葉から連想出来た神様はよほどモノを知らなければただ
((オオクニヌシノミコト……大黒様))
士郎先生の言葉に従って、胸中でのみ呟く現・前一高会長の二人。
麓のテント場において見上げた山がかなりの霊山であることを理解できた時だ。
「何気にクロス・フィールドの戦場として適切な場所だったんですね……」
「そうだな。正面切っての戦いばかりがイクサの手段じゃないが、それでもある種のフェアマナーは土地に刻まれていたのさ」
神秘の世界においてフェアプレーこそ無けれど、戦いの場においてある種のマナーは存在しているのであった。
「言ってほしかったぁ!」
リタイア組の一人である2年桐原の言葉に応えるも納得出来ない真由美は叫ぶのであった。とはいえ、戦いを行われている山の主であるオオクニヌシノミコトはいい気分なんだろうか?
そう想いながらも戦いは苛烈を極めていく……。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
切っ先での鍔迫り合い。アーシュラの持つ十束剣とアイリの持つライトレイピアが打つかり合う。
「どうやら贈呈したブラダマンテの霊衣は随分と気に入ったようね。あとでハベにゃんに今のスペックで調整するように言っておくわ」
「お褒めに与り光栄ですわ。騎士王の姫!ブリテンの赤龍の後継!」
お互いにかなり露出激しい格好で戦う一高と三高の姫騎士。
しかし、そこに軽薄なものは殆ど無い。
その様は妖艶さと豪快さ、そして闘志のぶつかり合いの混合で神々に捧げ奉る舞踊のごときものだ。
しかし、やはり地力の差は歴然で軍配は一高に上がるのだが……。
「ハニカム・スフィア・レーザー」
「水神轟竜!!」
他2人のアマゾネスが、
アーシュラの対魔力のランクは文句なしの「A」であるのだが、それでもこの夜劫の山においては少しばかりの減衰が成されている。
どちらかといえば魔法師の術のランクが底上げされているのだが、それ以外でも退気といえるものが徐々に出てきたのだ。
防御せねばならないとして剣で『レーザー』と『水流』を切り裂いた。
その行動に3人は瞠目する。あの九校戦では棒立ちのままでも、こちらの術を全て無効化してきたアーシュラがそのような行動に出たのだ。
効くはずだ。
その確信を以て愛梨を支援するだけに限らずに直接攻撃を続ける。
(ソウソウの実を食べたのは十七夜さんってわけね)
このレーザー攻撃の乱舞は、どちらかといえば妖精騎士特有のエーテルを利用したものにも感じる。
事実、十七夜栞の体にもある種の変化が訪れている。
俗にエルフ耳とも称されるものに変化しつつあるのだから……
(ブリトマートやバーヴァン・シーなどの『妖精』というべきものへの変化)
ソウソウの実にはもう一つの名前がある。それは。
ヒトヒトの実 幻想種 モデル『エルフ』。
食べたものは星の触覚たるべき妖精種族と同じチカラを得られるという―――まぁ話によれば何処ぞの魔女が『海賊王というのもいいものね』などとテレビアニメを見たことから出来たとか何とか。
どういう経緯かは知らんが、どうやら青い魔法使いのお姉さん関連の品ではあるようだ。
そんなことを考えながらも、剣戟は緩まずに、一色愛梨を怯ませる。
(消耗している? もしかして深雪ちゃんとかと戦ってきたのかな?)
しかし、この場には司波深雪は何事もなくやってきている。察するに千日手になったから、『取引』をして、ここまでやってきたというところか。
「ライジング・ガラティーン!!」
「ぎゃあっ!!」
「愛梨!!」
二刀を合わせての超高熱の刀身剣戟。太陽の熱にも似たそれは流石に一色愛梨でも受けきれなかった。
後退するが、光盾が回転をして構える辺り戦意は衰えていないようだ。
そうして再度の激突へと洒落込もうとしたのだが。
「ふんっ!!!」
横合いから一色愛梨を吹っ飛ばす存在がいたのだ。
「―――ッ!! 十文字さん!!!」
驚く愛梨だがすぐさま持ち直した様子。
「女子同士の戦いに介入するのは無粋かもしれんが、今の俺はアーシュラとのコンビなのでな」
ファランクスを利用した体当たり。致命打ではなかったかもしれないが、勢いは削がれた形だ。
「それじゃミッキーと一条君は……」
「当然、倒したさ」
二枚のワッペンを見せつけるようにしてくる克人に『キャーカッコいい!!』などと持ち上げるような発言をしておきながらも、司波達也・宇津見エリセ組の援護はいいのかと思う。
『俺もレオを倒して宇津見さんを支援している状況だ!!』
器用にもこちらに念話を飛ばしてきた達也に察するに、あちらは地獄だなと兄妹対決な状況に介入したくなかった克人の心を察しながら、三高アマゾネスを倒すべく―――。
「克人さんの心意気に応える。エミヤとブリテンの秘術の限りをお見せするとしますか!! モルガンおばちゃん直伝!! 思念体分身術!!」
「「「「そ、そんな技があるんかぁ―――!!??」」」」
思わず味方の克人ですら驚く事実。全身を光り輝かせるアーシュラ。そのあとには、幻影ではない「七人」のアーシュラが顕現する。
怒涛の事実と、再現された現実に誰もが驚く。
「魔術師ならば自分と同等の分身など如何様にも作り出せる!かの冠位指定の術者も同じことを現代でやっていたからね!!いうなればナルティメットストーム!!」
言ってから快活に戦いを演じるアーシュラ『達』。終幕の時は近づく……。
そして―――。
「お兄様が私に銃口を向けるだなんて!! 本当にアナタは変わってしまった!! それもこれも!!」
「アーシュラのせいだなんてみみっちいことを言うなよ深雪!そういう小物な発言をする度にお前の評価は落ちるんだからな」
―――兄妹の争いもヒートアップするのであった。