魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第14話『前哨戦(下)』挿絵あり

アーシュラと謎の槍兵との大立ち回りは、多くのギャラリーの列を作り上げていた。

 

その中でも最前列にいるのは、騒ぎを聞いて勢いよく飛び出してきた三巨頭と、生徒会メンバー。その後ろに十文字の舎弟(他称)と風紀委員たちが展開していた。

 

最初は司波達也が妙なものに襲われているという通報だったのだが、その様子を全員で見たあとには―――感心しかできなかった。あんな使い手を相手によくも動けたものだ。

 

そしてその後を継いだアーシュラの動きは、それに追随するものだ。

 

槍兵相手に「躱し」に徹することしか出来なかった達也とは違い、アーシュラは攻めているのだ。攻撃の余力がこちらにも届く都度、ビリビリと地面が揺れて肌身を魔力の圧が突き刺してくる。

 

「私との戦いは全力では無かったということか……?」

 

問いかけられたことは分かったが、渡辺委員長の悔しげな顔と声に嘆息しつつ立華は口を開く。

 

「アーシュラ・ペンドラゴンの本来のスタイルは、莫大なまでの真エーテルと疑似エーテルを利用した「セイバースタイル」。

しかし、全力で動けば容易く部屋は壊れていましたよ。壁に突き刺さった得物の結果覚えていますよね?」

 

恨むなら私を恨んでください。という付け足しの言葉に、なんとも言えぬ表情をする渡辺摩利。

 

ついでだから戦うとした場合の所感を聞こうとした矢先に、克人の方が先に言葉を紡いだ。

 

「渡辺、千葉―――所感でいいから、千葉道場の剣士として、衛宮と戦った場合の想定を教えてくれ。頼む―――」

 

最後に頼むと付け足したのは、道場の技法・技量を疑われるのではないかという懸念を払拭させるためだ。

 

仮に、ここで「正直」に言ったところでそれで見くびらないという念押しだとは二人も分かっていた。そんな気遣いが余計に剣士としての誇りを傷つけてもいたのだが。

 

「……十文字からの情報ありだった私は既に想定していたからな。三手を交え、四手目を打って―――五手で詰みだと思えていた。

……今では、一手を交えたあとには返す刀で首と胴がおさらばだ」

 

その言葉に、誰もが汗を滲ませる。ある種、日本の軍隊格闘術の地位にいる千葉道場の剣客である三巨頭の一人が、完全に負けるという想像をしたのだ。

 

敗北宣言を聞いたあとには、自然とエリカにも注目が集まる。

 

「アタシは、何も聞いていなかったですし、アーシュラの体の使い方は演武場が初でした。これを見る前ならば、いくらかは―――ですが、今は一手を交える間もなくズンバラリンでしょう」

 

 

その証拠というわけではないが、槍兵の稲妻のごとき一閃を受け太刀するでもなく、懐に低く潜り込んだアーシュラの動きが辛うじて見える。

横に構えた剣が腹を捌こうと動いたが、早すぎるバックステップがそれを不発にする。

 

それと同じことは、エリカにも摩利にも無理なのだ。

 

人外魔境の武技の応酬。相手の攻め手を封じて、己の必殺を叩き込まんとするものは、どうしても「欲しくなってしまう」。

 

―――「羨ましくなってしまう」―――。

 

魔法師の多くが持っている本物の『超人』に対する幻想がそこにあるのだ。

分不相応な賭けに出たくなってしまう……。

 

「……けれど、このまま見ていていいんですか?」

 

「どうせ決着は着きますよ。流れ弾が怖いならば下がっていてください」

 

 

どういった心配なのかは分からないが、中条あずさの言葉に反してから、藤丸立華は準備をする。

 

(ランサークラスのサーヴァント。恐らく姿はクランの猛犬。誰の差し金かは分からないわけじゃないけど―――)

 

『矢避けの加護』が半ば「無敵状態」も同然に作用しているのだ。

 

―――リッカ。

 

声が聞こえた。それだけで意図はわかる。

 

どうやらマスターとしての役目をこなすようだ。

 

(猛犬のローブは、一種の防御礼装の役目も果たしている。アーシュラ。無敵貫通(トライデント)を掛けるわ。タイミングを作って)

 

(ラジャー)

 

明朗な念話というにはたどたどしいが、それでもアーシュラから了承を得たことで、藤丸立華は術種選択。

 

カルデアオリジナル礼装「ブリリアントサマー」から引き出したものをセットアップ。

 

流石に「衣装」そのものを「選択」しては、立華も恥ずかしかった。

 

その方が術の通り(浸透)はいいのだが、ともあれこちら側はアーシュラの意図しているタイミングに合わせるしかない。

 

それを見極めることが、一流のマスターとなりえる。

 

 

豪風爆打の限りの武器の応酬。見ているものは、誰しもどちらに趨勢が傾くかはわからない限りでハラハラしてしまう。

同時に身体が疼くのを隠せないのは魔法師、魔術師限らずの(さが)だろうか。

 

一流どころか超一流の剣客。しかも魔法・魔力などの超常分野のパワーを用いての戦いとなると……。

 

ファイター(軍人志望)であろうとセージ(研究畑)であろうと、何かを掴みたくなるのだ……。たとえそれが、分不相応なものに手を伸ばそうとしていると分かっていても―――。

そして状況に変化が現れる……。

 

激しい戦いは永遠に続くかと思われた。 アーシュラの木剣と槍兵の木槍は、幾百も撃ち合い、魔力の火花をその度ごとに宙に散らした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

技量は五分。

若干の荒々しさはあるがバネにすぐれたアーシュラと、老練の域の技術を若さで放つ槍兵。

 

そして得物に込められた魔力も五分。

ややルーンを装填出来る槍兵が有利かと思うが、そのダムの緊急放水を思わせる魔力の噴射が、術理を力づくで崩す。

 

 

二人の戦士は、お互いの体力と技力、そして精神力の限りを尽くして戦った。

 

それはただの殺し合いではなく、完成された競技を見ているようでもあった。 その場にいた者たちは、息をするのも、瞬きをするのも忘れて二人の対決を見守っていた。

打ち払いあった剣と槍の切っ先、互いに距離を取る。

 

そうして、互いに声を掛ける。

 

「観客たちは十分に満足しただろう。そろそろ、決着をつけるとするか……!」

 

「朱槍を持たぬアナタとの闘争だが、それでも決着の時は来るか……承知」

 

観念した思いで構え直す槍と剣。最上段に構えるアーシュラと低く低く構える槍兵。

 

数分前の再現と少し違うが、どちらも必殺絶命を期したものだ。よろよろと立ち上がりながらも、その様子をしっかりと見ようと決意した達也。

 

瞬間、その太い枝を剣としていたアーシュラを見た時に―――。

 

(黄金の剣……)

 

金色の光をかき集める剣を幻視した時に―――槍兵は駆け出した。疾駆する体躯。同時に突き出される槍の切っ先。

 

迎え撃つ構えでいたアーシュラは、その動きに合わせて剣を振り下ろした。

 

お互いに早くタイミングを合わせた攻撃だが……。

 

勝ったのは、ここが並木道。地肌がある「通り」であったことだ。

 

コンクリートで固められていない路面を思いっきりハンマーでも打ち付けるように叩いたアーシュラによって煙幕が両者の境界に出来上がるのだった。

 

「小賢しいことを!! お前の剣は、敵を倒すためのものか!? それとも客に見せるためのものか!?」

 

「両方!!」

 

煙幕の向こうで槍兵の声に叫ぶアーシュラ。しかし間髪入れず突き出した木槍。寸前で位置変更をしたとしてもいるだろう位置に突き出した槍が肉を貫くことはなかった。

 

がぎゃっ!! 木槍が穂先から折れて砕けた音。何か硬いものに当たったからだ。

 

だが如何な木槍とはいえ、槍兵自ら厳選したイチイの木から削り上げた呪槍、魔槍のたぐいなのだ。

 

簡単に砕けるなど―――。

 

魔力を込めたシャウトで煙を退かすとそこには……。

 

「桜の木!?」

 

誰かの叫びが正体を知らせた。並木道のど真ん中にいきなり現れた巨大な樹木こそが、槍兵―――ランサーから槍を失わせた原因である。

そして木の向こう側にいるはずのアーシュラは天空を舞い、そして落下を果たそうとしていた。

 

様子としては、さながら「とぐろ」を巻いた龍…。

黄金の龍が、大地に神罰の一撃を天上より大地に落とすように落ちてきたのだ。

 

その手には、何かが握られている。何であるかは近くで見ている達也の他、殆どの人間が分からない。

 

だが…両手で握る様子に剣を予想しておく。

 

完全に上を取られたランサーだが、備えておいたルーンの守りを発動。防御結界を発動させて耐え凌ごうとしたのだが。

 

何かの術が遠くからアーシュラに装備される。付与術式の一つであろうと察して、天空より真っ向唐竹割りを行うアーシュラの一撃―――。

 

この上なく重さと速さと硬さを込めた刃の振り下ろしが稲妻のように走り、大地を震撼させた。

 

もうもうと立ちこめる土煙。その中から一人の『男』が飛び出る。

 

その姿は青豹というあり得ざる動物を思わせるほどに、俊敏な肉食獣を思わせる雰囲気だ。

 

「ちっ―――まさか防御をすり抜けて攻撃を届かせるとはな―――恐れ入るぜ。姫騎士」

 

アーシュラが体重と魔力を込めて振り下ろした必殺の一撃は確かに入った。だが、『防御術』はすり抜けたとしても……。

 

「ローブに仕込まれたルーンにまで通せなかったか」

 

姿を詳細に見せないために着込んでいたローブは役たたずとなっていたが、それを超えて肉体にダメージは与えられなかったことをアーシュラは悟る。

 

「いいや、威力はあったぜ。衝撃だけで霊基が砕け散るんじゃないかと思ったほどだ。が―――ローブのルーンの方が勝っていただけだ」

 

すでにズタボロとなってしまったローブを脱ぎ捨てて、その容姿を全て衆目に晒す槍兵。

 

青い全身タイツに部分的な(アーマー)。見ようによっては軍隊のタクティカルスーツのようにも見えるが……その上に何かの獣毛を鞣した短めのファーマントを首に巻いて胸まで下ろしていた。

 

(見たことがないクー・フーリンの姿……)

 

髪は人種の違いがあったとしても殆どありえぬ青色。そして、姿はかなり卦体なものだ。

 

初見の達也ほか魔法師の大半はわからないだろうが、至近で見ているアーシュラと遠見をしていた立華は、いくらかの違う「霊基」(すがた)の彼を様々な事柄から知っていたが、その姿は未見で未知。

 

「さてと―――嬢ちゃんみたいな剣士がいると知っていれば、威力偵察なんてもんじゃないぐらいに存分にやりたいんだがな」

 

最後の言葉で、今までアーシュラに向けていた視線をボロボロの姿になった司波達也に向けた。

向けられた達也は色々と考えて、一番有り得そうなのが「仇討ち」「名を上げる」……自分の生家に関わることだろうかと考える。

 

だが、そういうことを思わせるには、男にはそういう暗い情念を感じなかった。

 

「逃げるのですか? 光の御子よ」

 

「ああ、逃げるときはさっさと逃げる。いちいち戦いの理由など七面倒なことを誰何されるのも、問答も面倒だからな―――しかし、追ってくるならば決死の覚悟を決めてから来い。

その時、オレの手にあるのは、戦士と戦士の決闘で使うべき、本物の「魔槍」だ……それでもいいならばかかってこい」

 

戦闘が小康状態に至ったことを悟った後ろの魔法師たちが一斉に魔法を放とうとした時に、後ろにまで通る声と殺気が放たれて、魔法式の発動が不可能となる。

 

決して大声であったわけではない。

しかし、完全に呑まれた形でいる魔法師とは違い、魔術師は、隙を見いださんと眼を凝らして―――。

 

最終的には、その逃走を見逃さなければならなかった。

 

アルトリアも士郎も「不動」であったわけではないが、それでもその駿馬や豹よりも高速で動き、アーシュラの育てた木の頂上を足場に学外に出ていった侵入者を誰もが追えない。

 

「……いいのか見逃して?」

 

「アナタには分からないでしょうけど、あの槍兵が、もしも「狂化」(ベルセルク)のルーンや「死」(バロール)のルーンなどを発動してきたならば、『私』ほか数名はともかくとして屍山血河が、一高(ここ)に出来てたわよ」

 

近場にいたからこその達也の疑問に答えながら、汗を拭う。あの場で、それでも戦うと答えたならば、まずは「戦場の掃除」から始まっていたはずだ。

 

あの槍兵は、いざとなれば「城」を叩き壊すことも可能なはず。

決して楽なことではないだろうが、伝承によれば、あの槍兵は「城の押し相撲」などということもやって勝ってきた男なのだ。

 

とはいえ、それを「霊基」(わくない)で再現出来るかどうかはわからない話だ。

 

そんな感想を出しつつ……。

 

(マンドクセー。アーネンエルベでフルーツサンデーでも食べたーい)

 

という内心のままに去ることは出来なさそうなのは、校舎側からやってきた十文字克人を筆頭とする集団が事情を聞きたがっていたからだ。

 

 

「―――4,5年前を思い出す。話してくれるか?」

 

「あの時と同じく話せることと話せないこととが、ありますけどね。まぁそもそもそっちが理解あるかどうかなのは、4,5年前に立華からも聞いているでしょう?」

 

そんなジャブの打ち合いで牽制しながら、戦場跡からの事情聴取は始まる……。

 

 

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