魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第149話『迫りくるナニカ』

 

 

 

逃げなければならない。

 

その思いに囚われて少女は北の大地から本州へと向かった。

 

夏休みに義兄にあたる人物から『我が家に来てほしい』という懇願をすげなく断ったことから、その時点では彼女がライフフィールドとして北海道から出ることはなかったはずだ。

しかし、彼女は現在、必要に迫られて……家から逃げなければならなかった。遠上の家から出てすでに三日目だ。

 

連絡はあちこちに着けられているだろう。しかし、今は……向かわなければならなかった。亡くなった母と住んでいた群馬県ではなく、首都東京に。

 

「シロウさん、アルトリアさん……立華姉さん……アーシュラ姉さん」

 

いざという時に向かうべき場所は分かっていたのだ。

そして背中に迫りくるものが、分かっていた。恐ろしい想いを今のアリサは抱いている。

 

「ミーナ、ごめんね。アナタでも『原液持ち』には勝てない……」

 

そのことが分かっていたから、遠上家から家出も同然に出たのだ。

 

そして、あのまま家にいたならば自分もまた『子』にされた上で、酸鼻極まる悍ましい所業を行っていたかもしれないのだ。

 

そんなことは絶対にイヤだ!!その強烈な想いが精神波として「支配」を退けたのだ。

 

だからこそ止まらずに向かわなければならない。悲壮な決意を見せながらの逃避は、希望への道だと信じているのだ。

伊庭アリサ、一世一代の決死の逃避行は―――。

 

「はい。司祭、どうやら彼女はカルデアを頼るようです。では手はず通りに」

 

―――既に世界の闇を呑み込むものたちによって『監視』されていたのだ。

 

 

第一高校にやってきた北米のクドウ家の子弟たちは、鮮烈なデビューを飾った。

 

女子、アンジェリーナ・クドウ・シールズ

男子、コウマ・クドウ・シールズ

 

どちらも美男美女の兄妹で片方は既に知っている者たちは多かったりしたが、ともあれその容姿は特に人目を惹く。

 

かつて一高の女王は『双璧』であった。

 

司波深雪 

衛宮アーシュラ

 

この二人の美貌は色んな意味でプラスマイナスの変動が大きかった。

 

後者は食事時の様子やとんでもない大食乙女っぷりで、百年の恋も冷める……そういうものがあった。

前者はそんな後者によって色々と叩きのめされた際の変顔から淑女というイメージを崩されることは多かった。

 

『淑女?ワタシと父さんが知っている淑女は、ワイバーンすらもバックドロップホールドして天秤の皿に投げ飛ばすようなレスラーギャルよ』

 

どんな存在だと嘆きたくなるが、それが別に不真面目に言っているわけでもなく、大真面目に言っているのだということは分かってきたわけで。

 

そんな双璧が崩されて『クイーン・オブ・ドラゴン』を頂点として、その下に双璧が形成されることになっているのだった。

美貌だけでなく魔法能力においても。

 

「それじゃ行くわよアーシュラ!!」

「アーシュラ!!!!今日こそは一本取らせてもらうぅうう!!」

「お手柔らかに、いや!!寧ろ激しくあたってくれ!!」

 

そんなわけで留学生二人と司波深雪が三人がかりでアーシュラに挑むという構図が出来上がっていた。

 

こんな無茶苦茶な魔法実技演習はあり得ないはずなのだが……。

 

「ウチの娘にはそれぐらいの負荷が無ければ意味がありませんよ」

 

という士郎先生の言葉とアルトリア先生の許可がこの実技演習を是としていたのだ。

 

今日(こんにち)にいたるまでアーシュラの演習は評点だけを取るものでしかなかった。深雪も何度か挑もうとしてそれを反故にされていたほどだからな)

 

しかし、馴染みの顔である留学生が来たからか、それとも何かの思惑があるのか衛宮両先生は、アーシュラにそんな無茶苦茶な演習を押し付けたのだ。

そんな訳で、3対1という構図での魔法実技演習が始まろうとしていた。

 

そして、その実技演習は多くの人の耳目を集めて、既に自由登校となったはずの三年生すら見学に向かわせていた。

 

「やれやれ、ウチの孫子(まごこ)たちを当て馬も同然にされるとは、騎士王陛下も錬鉄の英雄殿も容赦がない」

「そんな悪意的な思惑が衛宮先生にありますかね?」

「さて、だがこの状況が無ければアーシュラちゃんは戦わなかっただろうからね。そういう意味では感謝だな」

 

老齢である御仁、達也の近くにて呟くその言葉に噛みつきながらも、深雪が戦いを挑むにこの状況が必要だったということも分かる。

 

「ケン先生は、この勝負はどう考えますか?」

「十中八九、アーシュラちゃんの勝ちだろう。彼女の素質は現代の魔術師及び魔法師をぶっ千切っている」

わかりきっている勝負。しかし、止めるつもりはないらしい。何故か?

 

「強烈な存在と戦うことで変化を齎すというのは、魔術師世界では珍しくはない。魔法師はどちらかといえば、自分と『同レベル』の相手と戦うことで自分を高めるという結論に拘泥しがちだが、それでは成長は望めない。己の殻を打ち破るにはそれが必要なのだよ」

 

「―――――――そういうものなんですか?」

 

「あれだけ強烈な神秘を纏った存在だからな。影響というか何かしらはある。それらが良かれ悪しかれ変化を齎すと来れば利用をしない手は無いだろう」

 

その言葉に考えると、士郎先生も同じだと感じられた。

彼が第四次聖杯戦争の被害者にして、魔術師殺し衛宮切嗣の息子から錬鉄の英雄へと登ったキッカケは、やはり第五次聖杯戦争で召喚したアルトリア・ペンドラゴンとの契約であろう。

諸説あるかもしれないが、マスターとサーヴァントの結びつきが見えるものも見えないものも決定的に変えてしまう。

 

(となると……俺もアーシュラに変えられたということか)

 

如何にお袋があれこれアーシュラに言っていたとはいえ、最終的にはアーシュラに興味を覚えた達也は、サーヴァントほどの繋がりはなくても、変質させられたのかもしれない。

 

仮に……アーシュラと関わらなかった世界の自分を想定した時に吐き気を覚えた。

 

こんな浅薄で劣悪で、何もかもを小馬鹿にしていくような『変化』も『変動』もなく自分の考えだけを尊いものとして考える男であることに、何一つアーシュラに誇れるものがない自分に嫌悪感を覚えたのだから。

 

そんなわけで―――ケン先生と話している間に階下での戦いは、アーシュラの完勝となるのであった。

 

2本の釣り糸をレール代わりに硬球を走らせ釣り糸の先にある相手ターゲットを倒す演習。

 

クラッシュレーンは、アーシュラに3つのターゲットが存在していたというのに、それを守りきったうえで3人のターゲットを倒し、対応しきったのだから歴然とした差を皆が実感するのであった。

 

そんな様子を同じく自由登校になった三年生であるはずの人間は見ていたのだった。

 

「司波妹御もクドウ兄妹もすごかったが、やはりアーシュラは完全に別格か」

「そうねー」

 

アーシュラを見ていると、3人が凡百の使い手に思えるが、そうではない。

 

自分たち3年生を含めても抜きん出ているはずの3人が赤子同然に捻られたのだ。

 

現に、司波深雪は九校戦後の新旧生徒会役員及び風紀委員との実技演習において、彼らを圧倒したのだ。

 

司波深雪からすればアーシュラではなくなぜ自分に挑むのかは不可解だったかもしれないが、ともあれ―――そういう力量差だったのだ。

 

その根源は既に会話している自分たち(十文字・七草)と『同質』のものだと理解されつつあるのだが……。

 

「先程の戦いで一番アーシュラに迫った戦いを見せたのはコウマ君だったな。見ている限りでは、少し焦らせるものも見せていたか」

「そうねー」

 

一瞬ではあるがブーストアップしたらしきコウマ・クドウの硬球に対して眼を鋭くしたらしきアーシュラによって少しだけ抑え込まれた印象であった。

 

負けたことで兄貴であり恋人に慰められているアンジェリーナ・クドウ。

その様子を見ながら気の抜けた様子だけを見せている七草に―――。

 

「それでお前はクドウ・コウマを昼食に誘うのか?」

 

そんな風な爆弾を投げつけるのであった。

 

「そうねー……じゃないわよ!なんで、そんなことするのよ!?」

「随分とあの少年に対して視線を向けている様子だったからな」

 

少し離れたところにいる服部が身を硬直させたのを認識しながらも、ともあれ……。

 

「暗い顔をするぐらいならば、少しは個人的に話してみたらどうだ。お前が親父さん(弘一殿)から何を聞いたかは分からんがな」

「十文字くんってドSよね」

 

そんな恨み言を言われながらも、十文字克人としては少々、喫緊のことがあってアーシュラと話したいのだ。できることならば衛宮先生とも―――そうして。

 

 

「また幾度なりとも挑むがいいわ、賢しき考えではいたれぬ懊悩の果てにこそ、掴めるものもあるのだから」

 

階下にてそんな王者の余裕たっぷりな事を負けた三人に宣う少女を誘い出せるかどうか十文字克人の挑戦は始まろうとしていた―――。

 

 

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