魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「教員である私や士郎が早退するわけにもいきますまい。アーシュラ、アリサを迎えに行きなさい」
「はい」
言葉を受けて駆け出すアーシュラ。その背に追いつくべく―――。
「先生、自分も」
「別に私はアナタの担任教師ではありませんが、この受験シーズンに学校から私用で出るなど外聞よろしくないですよ。十師族だからと合格出来るとも限らないのですから」
「そもそも他の受験生が必死に勉強している中、そんな自儘なこと顰蹙買うと思わんか?」
「む、むぅ……ですが、俺の妹のことなのです」
アルトリア先生のあとを継いで言った士郎先生の一言はおもすぎて克人としても反論は弱くなってしまう。
一高を合格した際にも合格出来なかった人間がいることは理解していた。聞く限りでは、アリサの世話になっている遠上家の長男も魔法科高校を不合格になった人間だと知っている。
それを一概に努力が足りなかったという言葉だけでは片付けられないのは、最近になって身に染みてきた。
多くの屍の上に自分たちは立っている―――それを理解しているからこそ……結局、引き下がるしかなかった。
(何かが起こっている。だが、その修羅の巷に俺は入り込めないのか……)
そんな妬みとも悲しみともいえぬものを抱きながらも、十文字克人は受験勉強に勤しむのであった。
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迎えに行った場所にアリサはいた。護衛として普段着のガレスが近くに、少し遠間から周囲を警戒するランスロットとギャラハッドを確認。
見るものによっては、アリサがなにかのVIPと見るかもしれない。いや、事実彼女は魔法師界においてはVIPなのだが、ともあれ本当の意味で安堵したのか、少しだけ泣きながらアーシュラの胸に飛び込んでくるアリサ。
頭を撫でて安堵させながら、なにか食べるかと思ったが―――。
「いまはお腹いっぱいです……それよりも、『モナコの船』に行きたいです」
「慌てないで、招待状は来ている。そして―――茉莉花たちは大丈夫だからね」
「はい―――お世話になります」
その本当の安堵を見ながら手を繋ぎながら衛宮邸に赴こうとした時に。
「お、お待ちを衛宮アーシュラさん!!伊庭アリサさん」
誰だ?などとは言わない。既に声掛けをした相手の眼前にはギャラハッドが立ちふさがっていたのだ。声かけをする前から存在は理解していたのだ。
「ど、どいてくれませんか?ラウンドナイツ殿」
「ダメだ。僕がどういう存在であるのかを知っており、君からロード・クロスの匂いを感じる以上、どう考えても分かるぞ。君は……アリサ君の親類だな」
姿こそギャラハッドの通せんぼで微妙に見えていないが、ともあれ左右に身体を振ってこちらを見ようとしてくる相手は……中学生のようだ。都内の中学の制服を着ている。校章も間違いない。
「ギャラハッド、通せんぼしなくてもいいわ」
「イエス・マイ・プリンセス」
スッ、と流れるような動きで横に退いたギャラハッドの一礼を以て姿が見える。ギャラハッドの言葉通りならば、克人の係累のようだが……。
「……克人さんとはかなり違いますね」
「コラっ、アリサ」
「ゴメンナサイ」
人の面相や容姿に対する評価を面と向かってするアリサを嗜めるも、言われた方。近づいてきた相手は笑いながら答える。
「確かに俺は克人兄さんや和樹父さんにも似ていませんね―――初めまして。十文字勇人と言います」
挨拶をしてきた相手を全面的に信じるわけではないが、とりあえず自己紹介を額面通りに受け入れておく。しかし、疑われていると思ったのか、さらなることが明かされる。
「関係としては克人兄さんからは従弟、和樹父さんからは甥っ子なのですが、養子なので」
どういう事情かは分からないが、十文字家に引き取られたという彼……「十文字勇人」の素性は……。
『やはり俺も同行するべきだった……』
「いや兄さんが行けないと分かったから俺が派遣されたんですよ」
十文字家の内情は知らないが、克人さんがペンを片手に勉強している様子を端末で見せると、勇人くんはそんな風に返す。
その様子に……。
「で、君は何の用向きでアリサちゃんに会いに来たんですか?」
ガレスというプリンセスガードがしびれを切らしたかのように言う。
言われてみれば用向きの一つも聞いていない。まぁ十中八九……。
(父親が会いたがっているから十文字邸に来てくれとかでしょ)
嘆息気味にそう結論付けた時に同じような文言を勇人は言う。
それに対して。
「どうするアリサ?」
「アーシュラ姉さんも同行して構わないんですか?」
「もちろん。父さんからその旨は聞いています。寧ろ同席してほしいそうですので」
懸念事項という程ではないが、確認をするアリサ。そこでアリサは彼が自分と同じような境遇であることを意識しつつ、ここで自分が行かないとこの人は立場が無いんじゃなかろうかと深いところを察していたりしつつ……。
「用向きぐらいは聞くようですよね?」
「会いたい?カズキおじさんは克人さん似よ」
「私の半身を担ったヒトに……一度は会っておこうかと思います」
その言葉の深いところをアーシュラは悟った。場合によっては、アリサは今回の一件で己が死ぬことも覚悟している。いや、魔術師とはそもそもそういうものなのだ。
(アナタは死なせない)
その覚悟を持ちながら十文字邸に赴くことになるのであった。
「ところでユウト君、
「仮病で早退しました。別に皆勤賞は無いですし、あの横浜の一件で義勇兵として戦っていたことは先生方も存じているので」
結論
「「「やなガキだ」」」
「「イヤな中学生ですね」」
「なんでーーー!?」
嘆きの叫びが勇人の口から出る。あまり学生としては褒められたことではないことを認識させつつ、和樹が義理の息子を早退させてまでメッセンジャーボーイにした和樹こそが原因なのだとしておくのは忘れないのだった。
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十文字邸に赴き、色々な挨拶をしてから案内された十師族の当主の執務室。そこにおける会話は―――予想通り過ぎた。
「そうか……やはり受け入れてはくれないか」
「ごめんなさい」
「―――私を節操なしと思うかね?」
「それはどうでしょうね。私もこの歳になれば男女の仲もアレコレあるんだろうなとは思えます。ただ、いまさら『十』の魔法師に仕立て上げようという思惑は節操ないと思います」
早熟とまでは言わないが、それでも小学生は小学生なりにいろんな人間関係を見ている。それは自分たちだけでなく、親―――それも同級生や上級生ないし、教職員などもだが……。
その中でそういうことを理解してしまうときもあるのだ。
そしてアリサは、そういう親の情愛の機微はどうでもよくて、家の一員になってほしいという態度は、どうだとしてきたのだ。
結論として和樹の誘いは不発に終わった。
「そもそも、タツキ君とかビミョーな表情していましたけど、大丈夫ですかね?」
「そこも一つか……」
十文字の家がアリサを受け入れてくれるとは思えない。第三者目線の傍目八目……なんとでも言えるが
アーシュラが茶菓子をぱくつきながら放った言葉に和樹も苦しくなる。
「オーバークロックに関しては……どうやら既に解決しているんだな」
「詳細は言えませんがアリサの演算領域は十の魔法師とは違うものになっています―――此度、東京で行われるだろう仕儀の結果如何では……」
「……親としては絶対に承服出来ないことだ。私はダリヤの残した子供にこのようなことが降りかかるなど」
その後悔は分からぬが……。
「ヤバい女に手を出したと思いますか?」
アリサの質問に対して。
「バカを言うな。ダリヤはものすごく柔らかくて『カズキさーん♡』と猫なで声で甘えながら俺の胸に飛び込んでくれる本当にいい女だった―――」
そこまで言ったところでハッ!と気づいたのか目を伏せて情熱的に語っていた和樹の目は対面に座る少女2人の白けた目を見てしまった。
次いで少女2人は残されていた緑茶を煽るように飲み干してから、湯呑みをテーブルの上に置いて……。
「帰ろっか♪」
「帰りましょう♪」
などと姉妹のように笑顔を向け合って言った2人は。
「「それではごちそうさまでした。失礼します」」
一礼をしてから和樹の執務室を後にするのであった。
「まっ、待ってくれアリサちゃん!!我が家の娘になってくれ!!もちろんアーシュラちゃんも克人と一緒になることで義理の娘に!!」
なんか未練がましいことを言っている和樹を後ろにして少女2人は十文字邸を後にするのであった。
そんな執務室の話を隣の部屋から魔法などを用いて盗み聞きしていた十文字和美(10才)は……。
(ごちそうさまでしたって『どっちの意味』なんだろう?)
そんな疑問を覚えながらも、何事もなければ
その日の衛宮家の夕食は大いに盛り上がりながらも、『ズルーイ!!』などと嘆く茉莉花のヴィジホンの声とが聞こえたりする賑やかなものがあった。
そして……。
「ん、ふ、ふ。どうやらいい感じになっているようだねぇイーゴリ」
「……」
「因果というものを感じざるを得ない符牒が示されているが、それはいいさ」
「マスター・ゲノン……」
「んふ。お前さんの『食糧』は用意してある。お前の『娘』たちにもな」
「感謝します……」
その言葉を言うのが精一杯であったが、それでも新ソ連の十三死徒と称されている男は、飢えを満たし、そして感謝せざるをえなかった。
たとえそれが……魔法師にとって悪魔のような存在であったとしても、だ。
闇が深くなる……。