魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第154話『魔船への誘い』

 

 

「きつくないですかアリサ?」

「大丈夫ですアルトリアさん……正直、こんなドレスを着る機会なくて、なんか場違い感が……」

 

着付けというほどではないが、アリサが『船』に赴く際の礼服の調整をしていたアルトリアは、『十文字家の娘になればそんなこと言ってられない』というのを呑み込んで、アルトリアは自分の端末を操り、昔の『デジタルフォト』を表示して不安げな顔をしているアリサに見せてあげることに。

 

「そんなことありませんよ。これ、誰だかわかりますか?」

「マァマ……」

 

アリサの知っているよりも若いダリヤの『写真』。カルデア主催のパーティーだろうか、それとも時計塔なのかは分からないが、着飾ってパーティードレスを着たダリヤの姿。

 

泡が立っているドリンクグラスを手にポーズを決めているダリヤの姿はアリサが見たことはなかった『女』としての『母』の姿であった。

 

正確な年齢は分からないが、恐らく二十代前半だろうダリヤ。

 

この後ぐらいに十文字の当主と知り合ったのだろうか?そんなことを考えながらも、こんな母の姿を見たらば……アリサもこのような素敵なレディを目指そうと思うのだった。

 

「準備できたー?」

「ええ、アナタはどうなんですか?」

 

部屋の外から呼びかけてきた自分の娘に対してアルトリアは、問いかける。

 

「バッチリ!」

「とか言いながら、その頭は……入りなさいアーシュラ。直してあげます!」

 

アルトリアの懸念。アーシュラの御髪に櫛入りが甘いのは色々と忙しかったんだろうとアリサは理解できた。

母子家庭時代のアリサは、忙しいダリヤの手を煩わせないために、そういう風な『身だしなみ』に関することは覚えていくようにしたのだが。

 

(羨ましいよね……)

 

アーシュラ()の御髪を整えるアルトリア(母親)の姿に、どうしても、みなしごであるアリサが羨望を覚えるのは仕方なかったのだ。

 

アルトリアやアーシュラなど『精霊の加護』を得ている騎士たちの髪は勝手に精霊たちによって整えられるはずだが、それでも『そういう風なこと』をやるのは……龍の母娘なりのグルーミングなのかもしれない。

 

などと考えつつも、最後にはアリサの髪を整えてくれるアルトリアさんに甘えておき……遂に『フェムの船宴(カーサ)』への出陣準備は整う―――。

 

 

キャビネットに揺られながら30分ほど、衛宮一家が横浜に停泊している豪華客船に辿り着くと、既に先乗りしていたらしき面子がちらほらと見受けられる。

 

全員が各々の礼服を着ている辺りドレスコードは事前に告知されていたようだ。

 

当たり前の話だが。

 

「面子はそろっているようだな?」

「はい。十文字家からは俺が、七草家からは真由美と弘一どのが」

「そして……クドウ家からと言えばいいのかUSNAからと言えばいいのか、アンジェリーナさんと……コウマくんが」

 

キャビネットから出た青のイブニングスーツ姿の士郎先生の問いかけに生徒二人が応えるのは当然であった。

 

「そして……なぜか(・・・)四葉家からも、四葉真夜氏が来られています……」

 

最後に答えたのは、司波達也である。

 

そんな風に名前を呼ばれた4人は……少し離れたところでまるで『家族』のように一緒なのだった。

 

四葉も七草も『息子』の『新しいカノジョ』が、どんな子なのかが気になるのだろう。

 

「ちなみにケン先生は、百山校長先生と先に船に入られましたよ」

「そうか……というか司波は、先程からそれか……」

「そうですよ士郎先生!!士郎先生の娘は魅力的すぎて危険すぎます!! 私のクールガイなお兄様がこれ以上、変になる前に私の魅力を再度教え込まなければいけないのです!!」

 

パーティードレス姿の学校の生徒が実兄の腕を恋人のように絡んでいることにどう言ったものかと思うも。

 

(なんも言わんとこ)

 

対処不能ということで、そちら(生徒の倫理観)を無視しつつフェムの船宴というより今も煌々と明かりをいくつも灯しながら横浜港に停泊しているこの巨大豪華客船に関して知っている限りを言うように指示をする。

 

「モナコを主に根城にしている死徒二十七祖が一つ『魔城のヴァン・フェム』が主催しているカジノ船……」

 

「そして、そのカジノではヴァン・フェム氏と直接対決をする『闇のゲーム』……フェムのカーサというものが時々、執り行われる……」

 

「関係あるかどうかは分かりませんが、世界的な兵器メーカー『V&Vインダストリー』のオーナーも氏なんですよね?」

 

十文字、七草、司波の順番に知識を披露してもらったことで士郎は頷いておく。

 

「そうだ。お前たちに死徒……それも二十七祖の脅威なんて語ったところであまり想像は出来んだろうからそこは説明しないでおくが、だがヴァン・フェムは、九校戦で猛威を振るったあのディープ・マンジュリカ以上の存在だと思っておけ」

 

なんとも無情な言葉に生徒一同は、なんというか士郎先生の意外な一面を知った気分になる。

 

「士郎先生も結構ヒドイ」

「カグヤと戦った終盤頃のサスケを思わせる」

「西浦と夏予選で戦って負ける投手みたいだ」

 

やかましいと思いながらも追加の説明は他から入る―――。

 

「つまり、あの船は俗の人々も飲み込む欲望のカジノ船だがそれ以上に死徒の領域」

「スタッフの殆どはフェム氏の子飼いの死徒と見ておきなさいということですよ」

 

この日本のタイトルホルダーである十師族の当主2人からの証言で……そんな所に入り込んで大丈夫なのかと思う。

 

というかまるで衛宮夫婦のような渡りセリフよろしくな言い方に『もやっ』とする面子は多い。

夫婦ではないのに。

子供がいるわけではないのに。

 

などとふてくされ気味の真由美がいたりする。

 

「大丈夫―――などと確約は出来んが、ヴァン・フェムはあまり派手なことはしない。でなければ、あんな豪華客船を運営して普通の人々にも楽しんでもらおうなんて考えんさ。それに中で異変があれば即座に周辺にいる聖堂教会の代行者どもが雪崩込む」

 

気配は感じていたが、そんな連中がやって来ていたとは……。

 

「そして中にいる無神教者たちが『感染』しているかどうかなど、確認せずに虐殺(マサカー)が始まると」

 

立華の言葉に少しだけ寒気を覚えながらも―――。

 

「それでもアリサは向かうんでしょ?」

「はい―――私の『問題』を解決するためには、ヴァン・フェム氏がマァマから預かっていたものを受け取り―――戦って勝たなければならないですから」

 

アーシュラに促されたとはいえ、小学生にしては重すぎる言葉。ビビっていた連中がその言葉に気持ちを入れ直す。

 

こんな幼い子が命を落とすかもしれない局面で重い決意しているというのに、自分たちの矮小さを思い知らされたのだから……。

 

「これ以上は、ここでうだうだ言っても仕方ないでしょう。行きましょう」

 

そしてドレスアップした王様の号令を以て船に入る―――。

 

様々な入船手続きを終えて豪華客船に入ると、その豪奢さや異常性などに一見さん全てが目を奪われるのも十秒程度。

その後には、それらに目を奪われていたことなど消却するほどに、とんでもない美女が現れた。

 

「お待ちしておりました皆様方……」

 

畏まった挨拶をしてくる美女ディーラーの登場。どうやらこの面子の中でも、既知の人間は多いらしく「どうも」「アナタも息災そうで」などと軽口を叩くような挨拶がされていく。

 

「久しぶりですクーポラさん!」

 

中でもなんだか幼い感じに挨拶するアーシュラだが、挨拶されたクーポラは笑みを浮かべる。

 

「はい。ミス・アーシュラはいつも通り元気で『怖い』ですね。アナタを見ていると私はモナコで戦った色黒のトリプルフェイス(アムロ・バーボン・レイ)なイメージである転生ドラゴン神様を思い出しますよ」

 

どういう状況!?と誰もが思ったりする感想を述べるクーポラなる女性ディーラー。

懐かしそうにそんなことを言う彼女に毒気を抜かれながらも……。

 

「どうぞ、こちらへ。今回は我々にとっても緊急なので面倒なギャンブルゲームをすっ飛ばして、(オーナー)がみなさんとのディールを用意しておりますのでご招待いたします―――ケン様、アズマ様も既にいらっしゃいますゆえ」

「OH〜」

「すでに打ち合わせ済みとか……」

 

クドウの兄妹にして『彼氏彼女』は祖父の行動に少しだけ嘆きを見せながらも……吸血鬼の城の深部へと一同は案内されていく。

 

 

そんな衛宮家一同とは違い、絶賛夜遊び中の西城レオンハルトは、街に漂う不穏な空気に気づいていた。

 

それは最近、レオンなど2科生が日課としている魔術理論である『魔体合一』の成果ゆえか。

体律……体の調整。

同律……外界との体感一致。

感知……魔力、魔術行使の感知。

 

これを密に行うことで今まで見えてこなかった術式の理解が深まったように思えるのだ。

 

(これなんだろうな。ケン先生が日本から追放された理由ってのは……)

 

元々は魔術師たちがやっていたことらしいが、それを応用したこれは……遺伝子血統における優位性を覆すものだ。

 

『元々、魔法師は魔術師の観点から言えば『魔術使い』ばかりなんだから、修行は絞った方がいいんだよな。昔、俺も師匠である女の子に、よく言われていたから』

 

およそ魔術師らしからぬ、魔術使いとしての発想だった。 魔術を極めるためではなく、実戦でより有用な札を持つための研鑽。

 

士郎先生の言葉。

 

『八百屋に魚を頼んでも意味がなく、呉服屋の娘に洋食を頼むのは愚行なのと同じなんだよな』

 

なんのこっちゃとまでは言わない。あの士郎先生のカコバナの中で出てきた『黒豹』のことだろう。

 

そんなことを思いながら街を散策していたレオは……。

 

「――――――」

「――――――」

 

とんでもないものと出会った。

 

(なんなんだ……あれは?)

 

見てはいけないものだと理解しながら目が離せないそれは―――……。

 

本物の魔性であった。

 

誘い込まれていると分かっていても、レオの歩みは止まらず、そして―――。

 

「レオー!!」

「ユキ?」

 

その歩みを止めたのは―――西城レオンハルトの自称・彼女(カノジョ)である宇佐美夕姫であった。

 

冬の装いの彼女は彼女が演じるVtuberならぬバーチャルアイドルである雪兎ヒメのように白かった。

腕を振って自分を示すそのあとにはうさぎのような駆け足でこちらにやってくる。

腕に抱きついてきた彼女を拒めずに、そして笑顔を見せてきたユキに先程までの女のことを忘却していく……。

 

 

その様子に―――。

 

霊媒(メディウム)としては良かったのだがな……」

 

誘い出そうとした魔法師であろう男……恐らく大学生だろう男を諦めて夜の闇に『娘』とともに消える。

 

聖堂教会の代行者たちが集結しつつある現状―――まだ齢が足りなさすぎる自分では勝てない。

 

(やはりダリアの『娘』……ワタシのオルガンの系譜を取り込まねばならない)

 

でなければあの彷徨海の魔術師の傀儡で終わるのみだ……。

 

その考えが終わりの針を早めるなどとは分からずに、闇は膨れ上がる。

 

 

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