魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
「さて、何故……同じロシア人、あるいはスラブ民族というだけでアリサ君にそれが及んでいるのか疑問はあるものは多いだろうか?」
「それならば俺から言いますよ……アリサさんの母親、伊庭ダリヤさんこと、ダリヤ・アンドレエヴナ・イヴァノヴァさんは……性別こそ違えど、そのべゾラゾフのクローン体であったからでしょう」
「その通りだ。ミスター・ジュウモンジ」
あっさりと肯定されてしまったが、話の要点としてはいまいち分かりにくい。
そう思った深雪は口を挟む。
「あの素人考えなんですけど、アリサちゃんはその魔術刻印とやらを絶対に継承しなけれならないんですか?話の大筋として、死んだはずの新ソ連の戦略級魔法師の1人が吸血鬼となって蘇って、自分のクローンの代わりにアリサちゃんを狙っているというのは何となく理解できましたけど……」
それならば別に蘇ったはずのべゾラゾフを抹殺してしまえばいいだけな気がする深雪の所感に対して、アリサは首を横に振って否定する。
「それじゃダメなんです。私のマァマ……いいえ、そもそも新ソ連が開発したアンドレエヴナという『魔法師』はべゾラゾフの戦略級魔法『トゥマーン・ボンバ』を扱うための生体ユニットであり、同時にべゾラゾフと同じく戦略級魔法師でもあったからなんです」
放たれた言葉に場が少しだけざわつく。克人が知っていた情報よりも踏み込んでいたアリサの告白は、魔法師の大半を混乱させるものであり、同時に何故、そこから彼女の母は逃れられたのかが気になる。
「ゆえに、私はダリヤ・アンドレエヴナの『娘』でありながらも死徒と化したべゾラゾフの『子』でもあるという『定義づけ』が『人理』から判定されているんです」
「原理血戒は、そもそもが一つの特異点、異界常識となりえるほど巨大なものだ。
アリサの深刻な言葉に補足をするヴァン・フェム。
このヒトもそれを持っているからこそ『死徒二十七祖』なんだろうなと思いつつ、それに興味を持ちながらも、話を聞くことにする。
「いずれこのまま逃げ続けていても、私に死徒としての汚染は始まりつつある。べゾラゾフもまた私を本当の意味で『子』とすることで完全なる死徒になろうとしている。それを回避しつつ原理を魔術刻印化するためにも……私は死徒べゾラゾフを抹殺しなければならないんです」
決意の目で『とんでもないこと』を言う小学生に対して克人は、愕然とする。
これが魔術師としての運命を自覚した人間の意識なのか。こんな運命を押し付ける世界に恨みを抱く。
自分と同じ血の者がそのような修羅の巷へと挑むなど……。
「……助けてはくれるんだよな?」
「死徒二十七祖なんてとんでもないものを倒すためには、ワタシが出なきゃならんでしょ。そして
懇願するような克人の視線と言葉を受けてアーシュラはキッパリと言ってのける。
「俺も戦うぞ。アリサちゃんは俺にとっても妹みたいなもんだ。このような危難ある時の為に鍛えてきたんだからな」
「コウマさん――――」
USNAの魔法師の決意を聞いて潜在的な敵であったことが多いスラブ人の血を持つアリサは……。
「そんなアーシュ姉さんにカッコつけたいからって意気込まなくてもいいんじゃないですか?」
存外に冷たかった。もう半眼で呆れるような顔をして兄貴分(自称?)に言うのだった。
「違うよっ!!本心だから!!」
「ホントかー?微塵もそんな気持ちが無いっていいきれるかー?」
攻め立てるような言葉は、アーシュラから出てきて……。
「ちょ、ちょっとは初恋の相手にカッコつけたいという男気を受け入れて欲しい」
紅潮して苦しい顔をしながらそんなことを言った瞬間、アンジェリーナの目がキツくなるのは当然で、同時に四葉真夜と七草弘一が『うんうん』と深く頷くのを見るのだった。
「それとは別に此度の一件は、俺の所属とも無関係では無さそうだ」
話を逸らすかのように、話の転換を図るコウマだが、それはヴァン・フェムにとっても重要であった。
「そうだね。だからこそ君たちも招いた。例のUSNAで行われた実験―――それによって招来させられたものも見過ごせないのでね……とはいえまずは、アリサくんの問題解決の為に尽力したまえ―――そうしなければ彼は現れないからね」
「誰なんですか?」
「かつて死に絶えたはずの彷徨海の魔術師。そちらにいるシロウ君も知らないわけじゃない終末の日に最後の食事として供される『鳥』の名前を持つ存在さ」
その言葉に士郎先生の表情が少しだけ強張るのを見ながらも、最後には息を吐く士郎先生。
「俺自身はそこまであの魔術師と関わりがあったわけじゃないですけどね。単にあの一連の騒動の中でアンタが
「そうだね。だが、君も知らないわけじゃない魔術協会モナコ支部のジュスト・モーガンファルスの係累であることは間違いない。早晩、そちらからも連絡が来ると思うよ」
アストラリティ使いとは相性が悪くてね。などと小声で謝罪するヴァン・フェム。
それにしても、先程から魔法師側としては色々と思うものが多いのが一人いた。
「この場でする質問じゃないかもしれないですけど、なんだか魔術師や死徒の方々は―――随分と魔法師サイドの裏側にまで踏み込んでますよね?どうしてそこまで……」
我々を知っているのか。少しだけ怖い想いをしながら真由美は問いかける。
「そりゃ簡単です。現代魔法師の誕生には我がカルデアのデザインベビー制作の技術が流用されているからです」
「――――」
問いに対する答えは意外なことに藤丸立華からもたらされた。そして告げられたことはあっさりとしているが、巨大すぎた。元々、確かにカルデアが現代魔法師の誕生に絡んでいることは理解していたが、そこまで直接的だったとは―――。
「詳しいことは省きますが、シールダーのサーヴァントであり、カルデア制作のデザインベビーであるマシュ・キリエライトの技術を提供したり、はたまた流出したりして現在のハイブリッドヒューマンとしての魔法師は誕生したんですよ」
「だからなの?アリサさんに関わっていたのは?」
「ダリヤさんは、元々べゾラゾフのクローンであるという以外に新ソ連が時計塔に送り込んだスパイという顔もあったんです。しかし、多くの神秘満ちる学術都市に来たせいか、はたまた何かの因子や『起源』が覚醒したのか、本来の任務を捨て去り、亡命―――そして色々あって現在に至るわけです」
まさかそんな裏事情があったとは……。
「我々はマシュ・キリエライトが未来に残した『因子』である創られた人間たちを見守り、その上で人理の行くすえを見守る。その果ての全てを見届けるのみなんです―――とはいえ人理が腐るのは正しますけどね」
隣でオレンジジュースを飲むルーシャナを見ながら立華が言う。
「話を戻しますが、そうして紆余曲折ありながらもカルデアの職員となったダリヤさんが、日々を過ごす内に何を思ったのか日本に行くことを決めた時に、我々はべゾラゾフの暗示・催眠の類いを疑ったのですが……どうやらそうではなくある種の啓示ともグランドオーダーとも言えるものを受けたようで、同じく元・カルデア職員でありながら日本に帰化していたユーリィ・ガルマエフとその友人でもある遠上良太郎さんなどの手伝いもあり、日本に帰化したんです」
「それは私も知りませんでした……けどよく考えればカルデアなんて優良就職先から出て頼るモノが殆ど無いニホンに来る理由は不明でしたね」
「まぁ人間、色々とあるから。殺伐とした世界から漁師になったり、厳しい特訓がイヤで王子から逸れるも弟のために戻ってきたキン肉星の王子がいたり、統合軍のエリート軍人さんが、『私はリン・ミンメイのような超時空アイドルを育てたい』と軍を退役することもあるから」
妹分に対して人生色々だというアーシュラに『お前は何歳だ?』と同輩先輩が問いたくなるも、ともあれ敵の正体と目的は見えた。
そして、この事態は……都内に広がるものだと考えて然るべきである。
「で、ヴァン・フェム―――船に出来上がっていたあの『穴』は何ですか?」
アルトリア先生の言葉にギクリと来たのか、少しだけ焦った顔をして衝撃的なことが話されることになる。
「それこそが、今回のオーディールを『依頼』にした原因である―――実は……」
神妙な顔をして語る死者の輩の言葉の示すところ事態の危険度がかなり上がってしまうのであった。
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「結局、招待状が無ければ乗船することは不可能なんだ」
「いや、招待状がなくても本来ならば、入れたはずだ。ヴァン・フェムの船はそこまで閉じられた遊戯船ではないからな」
入ろうとしたタイミングが悪すぎた。という事を息子に説明するも、どうやら納得出来ていないようだった。
「けども、当主様や達也兄さんが入ったあとに入ろうとしたのが仇となりましたね」
その提案をしたのは言った娘―――亜夜子の弟である文弥である。
双子の落ち込む様子を見ながらも、近隣のホテルに併設してあるカフェから下船するだろう相手を監視させていた。
どうやらここはかなりの『特等席』のようで多くの勢力が陣取っており、如何に黒羽の裏の力を及ぼそうとしてもそうはいかなかった。
ゆえにホテルのカファラウンジで油を売るならぬコーヒーを飲むことで時間を潰すしか無かった。
(ホテルの支配人……一見すれば普通の人間であったが……ネクタイピンとしてあったクロスのアクセサリー)
おそらく『教会』の『信徒』なのだろう。魔術協会及び聖堂教会の神秘の秘匿というのは、この時代においてもかなりの影響力があった。
政治家の生臭な事件に関してはかなりの追求や真実が出ること多いが前世紀から影響力を持つ『放送局』も新興メディアである『ネット』も、
もちろん『人の口に戸は立てられない』の言葉通りに様々なネット掲示板や都市伝説レベルでは、そういった事は流布されている。
ただ神秘そのものに関わることが多いものたちは弁えているのだ。
たとえそれが、事実と違えども、それが隣人の平安を守るのならば――――。
そうして黒羽貢が詮無きことを考えたあとに、魔船に入り込んだ面子が帰ってきた。
それは当たり前だが、自分たちに関わりある四葉の一団を含んだ面子であり、その表情は様々ではあったが、ともあれ恙無く終わったようだ。
『ご当主、どうされます?』
『真夜さんはどこに行く様子だ?』
『―――衛宮邸のようです』
コミューターのハッキングか読唇術をしたらしき部下の通信からどうしたものかと考えていると。
「わっ!!」「あらかわいい。ネコ?かしら」
子供たちのいる方のテーブルにいきなり現れた小動物。驚く文弥と違って亜夜子は、その小動物のキュートさに目を奪われた。
しかし、その小動物は……。
「フォウメール♪」
どういう意味なのかは何となく分かるが、声と同時に噛んでいた口から机に放られた紙切れで明確に意味は分かり、そして……。
「士郎さん。アナタという人は……」
「フォウフォウフォー」
苦い想いで貢が一読した後には小動物は消え去り、おそらく衛宮アーシュラの元へと向かったのだろう。
「転移術!?」
「あんなカワイイ小動物ちゃんが!?」
あの小動物がやったかどうかは分からないが、魔術師の用いる使い魔は魔法師の常識とは一線を画す。あれとてサーヴァントならば、そういうこともあり得るかもしれない。
ともあれ……。
「衛宮家の家長からのお誘いだ。遅めの夕飯を入れる腹はあるな2人とも」
「任務に差し支えるから、あまり食うなと父さんから躾けられていたんだけど」
「腹がぺこちゃんとは言いませんが、風聞に伝わる衛宮士郎さんの食事がどんなものかを楽しみにしときましょう」
そうして……四葉の分家である黒羽家もまた事態に干渉するのであった。