魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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requiem2巻。ようやく届いたぁ。

何はともあれ新話お送りします


第15話『想いを吐き出しあう』

罪とは結局、学習による想像力の産物にすぎない。

 

彼女は胸中で、その言葉を繰り返した。

 

結局の所、相手が理解できないからと言って起こったことを全て説明するなど、あまりに無意味なのだから。

 

そう。説法を繰り返す宗教家とて、自分の信仰を揺るがしかねないことが起これば、その都度、教義に対する自分自身の解釈を変えていかなければならないのだから。

 

結局は屁理屈なのだ。

合理と道理ばかりが、この世で唯一信じられる価値観ではない以上、人は賢しく生きていかなければならない。

 

つまりは―――。

 

「知ったところでどうにかなるとは思えないので教えません♫」

 

悟りを開いた(間違い)ニッコリ笑顔のもと、全力で情報提供を断るのだった。

 

集められたメンバー全員は苦い顔をしている。先程までとんでもない戦いを演じていた少女の断りを入れた笑顔は色々であった。

 

「藤丸さんも同意見?」

 

「まぁ、そうですね。ただ論点であり問い詰めるべき相手はずれていると思います」

 

「どういう意味?」

 

「確かにあの「亡霊魔人」に立ち向かったのはアーシュラですが、狙われたのはアーシュラではなく、1−Eの司波達也くんですよ。

そこにまずツッコミを入れないでいるのはどうなんでしょうか?」

 

この場にはいない、治療を受けて一応は安静にしている達也に、今は事情聴取を出来ないのは当たり前だが、それでも一番最初に疑いの目を向けるべきなのは、彼のはずでは? そういう言葉が濃いオレンジ色の髪をした少女から飛んでくる。

 

「つまりアーシュラは、被害者を守った立場であり、容疑者に対するような態度を取られる必要はないということです」

 

「……では、今この場で明らかにできることとは何でしょうか?」

 

対面の長机に座る会計の市原鈴音の言葉に、藤丸もアーシュラも答えることは決まっていた。

 

「ミステリーの王道。かつてシャーロック・ホームズのシリーズを生み出したコナン・ドイルにおいて、確立された3つの要素に照らし合わせましょう。

フーダニット、犯人は誰か? これに関しては白昼堂々の犯行だったので明らかです。ゴーストライナーという規格外の使い魔を使役してのこと」

 

知らない単語が出てきたことで、対面のメンバーの大半に動揺が広がるのを見た2人は、その中で克人だけが落ち着いていたことを感心した。

巌のような男は思いの外口が硬かったのだなと、少しだけ見直す。てっきり会長辺りには告げていると思っていたのだから。

 

「ハウダニット、どういう手口を取ったのかは、(せん)に語った通りに、ゴーストライナーを使っての当校の生徒に対する殺傷。これはもはや明々白々ですね」

 

そう。これがもしも数日前までの1科生主導による卑怯な闇討ちであれば、被害者(しばたつや)の宣言及びアーシュラの犬飼現八じみた捕物劇で、なんとかすれば良かったのだ。

 

「問題はホワイダニット―――何故やったのか? つまり動機が見えないんですよ」

 

「動機……?」

 

「まぁ仮にアレが、魔術師によって使役されているならば、戯れに人でも殺そうと思うでしょうが、けれど『あの使い魔』は、そこまで積極的に弱いものを殺そうとは思いませんよ。

その上で考えるべきなのは、なぜ2科の司波達也が狙われたのかを考えるべきです」

 

動機を考えろ。そう言われて、たしかに論点としては考えてこなかったわけではない。

 

だが、いざとなると明朗に、これだ。と言えるものは無かったりする。

 

「考えられる動機及び犯人像はあるか?」

 

「1つ目は、1科生の中に外からヒットマン・用心棒を呼び込んだものがいて、今度こそ2科生でありながらもイレギュラーな司波達也をシメてもらおうという考えを持っていた人間がいたという可能性。

これが一番、あり得ますね。なんせ彼にはあらゆる卑怯・卑劣な行いが通用しなかったどころか、アーシュラという守護月天によって守られていたんですから」

 

容易な相手では、そんなことも出来ない。

ならば、もはや空砲ではなく「実弾」を用いて撃ち抜くのみ。

 

ある意味、子供の喧嘩に親が出るようなものだ。

 

「実に品性下劣にして浅ましい考え―――」

 

アーシュラのつぶやくような感想の言葉に、対面にいた連中の大半が呻いて俯いてしまう。

 

「2つ目は、本当に気まぐれでの活動である可能性。ルーン魔術の応用で、面白い術式を持った相手を見て、その力を測りたかった。あの使い魔は、本当に戦闘が出来ればいいだけのバトルマニアですからね。

使役者のゴーサインもあって、そうなったのかもしれません」

 

面白い術式。その言葉で数名は、達也が何かを使って魔法を打ち消しているという噂はすでに耳にしている。

 

何であるかは分からないが、CADを応用した術式であろうことは何気なく判明しつつあるのだ。

 

「3つ目は―――使い魔の言葉に出てきた『威力偵察』という話から、近々ここに大規模な攻勢を掛けるつもりがあるのかもしれません。これは本当に不明瞭なものですけどね」

 

「サーヴァント……英霊の分け身が、ここを襲うというのか!?」

 

「その場合、最終的な目的は更に不明になりますけどね」

 

十文字だけが、その言葉に明確な焦りをみせて言葉を上擦らせた。

 

4.5年前の騒動。十文字が中学に上がったばかりから一年が過ぎようとしていた頃の話だ。

 

その頃のことを思い出して、身震いをしてしまいそうな体を必死で抑える。あの連夜の中で、克人の世界は全て転換してしまったのだ。

 

地獄が、再びここに再現されるというのか……。

 

「まぁ何にせよ。「なにか」は後日に起こると考えた方がいいですね。「明確なこと」は分かりませんけどね」

 

「……個人的な見解では、一番にどれがあり得ると思っている?」

 

「1番目じゃないですか? 動機がハッキリしているんですから?」

 

その言葉に打ちひしがれるのは、この場にいる2年の1科生たち、ふん縛られたメンツの大半の層であったから仕方ない話なのだが。

 

だが敏い人間たちは、何かを隠しているなと思えた。

 

「まぁ先入観は見たままを曇らせる原因になりますからね。いま言ったことは、かなり穿った見方ですよ」

 

「だが、サーヴァントを使役ないし、使役できる存在と交渉出来る存在が都内にいるということか……」

 

「あの会頭。先程から出ているゴーストライナーとか、英霊とかサーヴァントとかってのは何なんでしょうか? 不勉強な限りで申し訳ありませんが、教えていただければとは思います」

 

立華と十文字の会話に割り込んできたのは、副会長である服部なんちゃらであった。彼としても二度も年下に敗北感を感じるなど起きたくないし、それ以上に学内の治安に不安を起こしたくないのだろう。

 

責任と自負心の狭間で、揺れ動く心を敏感にアーシュラは感じ取った。

 

「……」

 

「―――」

 

真剣な眼差しを立華に寄越す十文字に対して、目を伏せて無言を貫く立華。

 

その姿に―――。

 

「リッカ、もう被害は出たわ。少しでも情報は共有しておくべきだよ。このままじゃ誰も彼も千切れ飛ぶ。アナタの見た『未来』を少しでも抑えたければ、じゃない?」

 

「……もしくは、私が干渉をすることで未来が確定されてしまうかもしれないのです。それが怖いのよ……」

 

「そうだね。けれど、アナタのおばあちゃんやおじいちゃんが、正しいと思って進んだのは、「未来を変えられる」と思ったからでしょ?

それは大きな力でしか成し遂げられないものなの?」

 

余人には分からない会話。

 

しかし、アーシュラの説得が功を奏したのか、立華は一度だけ息を吐いてから口を開く。

 

「克人さんに代わって私の方から説明させてもらいましょう。服部副会長」

 

「藤丸さん……」

 

「ですが、あまり他言無用でお願いします。何より、こんな事実を受け止めきれずに、あなた方の演算領域に瑕疵が着くことは、我々フィニス・カルデアも望んでいませんので」

 

その言葉の神妙さに―――今から聞くことは、本当に不味いことなのだと気付かされる。

 

そして、聞くだけで自分たちの魔法行使のための領域が崩れ果てるかもしれないなど、あまり聞いていていい話ではない。

 

「猶予はそこまで上げられませんが、3分間で「残って」聞くか「去って」聞かなかったことにするか、決めてください。

これは渡辺風紀委員長も七草会長も同様です。

今から話すことはあなた方、魔法師の全てを否定しかねないものです。

ただ事実の一つとして、アーシュラが相対した「槍兵」などのようなサーヴァント、英霊、ゴーストライナーと呼ばれるものは、「とっても強い使い魔」。

頭の悪い表現ですが、そういう納得だけでも構いません。むしろその程度であってもいいはずなんです」

 

居並ぶ面子。殆どというか1科生だけの先輩集団の中にざわつきが生まれる。

 

スリーミニッツが刻まれるまで立華は沈黙を貫く。彼らの判断材料になることを言わない。

 

その態度が、言われたことが脅しではないのだと気づいたメンツが、幾らか室内から出ていく。

 

一分、二分……三分が経過した後には、部活連の会議室に残っていたのは十名程度であった。

 

アーシュラと藤丸は知らないが、その十名は2.3年の優等生であり成績上位者であり、魔法師界でも名士と呼べる家の人物なのだ。

 

「最後の最後で念押ししておきますが、よろしいんですね?」

 

「そこまで脅かされると、決意も揺らぎそうなほどだわ。けれど、私は一高の生徒会長だから…私が保身に走っては誰も着いていかないわ」

 

「―――組織の長としての態度はいいのですが……まぁいいでしょう。どうせ無い物ねだりなんて出来ないんですから」

 

その言葉は、真由美の会長という職責への態度に感心したものではないようで、真由美としては大いに不満だったりしたのだが……。

 

「今から見聞きさせるものは、カルデアが「人理」を守るために、かつて行った戦いの記録―――人類史焼却という危難から時間(つぎ)を取り戻し、世界を「救った」のちに―――世界を「滅ぼした」。

一人のマスターとそのサーヴァントとなった少女の、記録にして愛おしい記憶……」

 

だが、そんな不満は次の瞬間には消え去っていた。

 

藤丸立華の背後に巨大な「式」とでも言えばいいもの、起動式は暗号化されていて読めなくても、投射された魔法式に関しては何気なく分かる1科生でも、こんな巨大で「深すぎる」式に関しては見たことがない。

 

これの前では、現代魔法であろうと古式であろうと、浅薄な手妻(てじな)使い程度に収まってしまう。

 

「―――アントルム、アンバース、アニマ、アニムスフィア―――キリエライト」

 

投射された魔法式。彼ら風に言えば魔術式が呪言に反応して、一つの魔術を部屋に結実させる。

 

それは―――未来を取り戻し、世界を救う物語……人類史に刻まれなかった戦い。

 

それでも確かにそこにあった記録。人々の想いが……部屋に残った人間たちを包む……。

 

 

† † † †

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか? 達也さん」

 

「ああ、確かに怪我は多いが、ここで寝ていても治りが早くなるわけじゃないしな。家に帰ってメディカルポットにでも入ったほうが早いだろ」

 

光井ほのかの焦ったような声に対して気軽に答える達也。ここは怪我をした生徒などを治療する保健室であり、本来ならばもう少し安静でいなければならない怪我だったのだが……。

 

達也には秘蔵の「回復術」があるので、まぁ早めに人目につきたくないところで己の回復を図りたいのだ。

 

「ああ、別に先生の手腕を疑っているわけじゃないですよ」

 

横から向いていた険のある視線に気づいた達也が手を振って、人妻で子持ちなのに媚態を強調した養護教諭にフォローになっていないフォローをする。

 

それを受けた教諭は苦笑をしながら説明をする。

 

「まぁそりゃそうだけどね。けれど君の怪我は本来ならば、動けなくなるはずのものなんだよ?」

 

「超回復ってやつですかね?」

 

「そりゃ半世紀以上も前に否定されたエセ科学。人のテロメアの分裂回数が決まっている以上、怪我をすれば、その分そこの細胞分裂は少なくなるんだから、治りが悪くなるのは当たり前の話。

んでもって女子陣は見なかったとはいえ、君の触診をした限りでは―――いや、止しておくわ。

私にとって大事なのは、家で待っているマイリトルスイートパンプキンだけなんだから♪ ママは今日もがんばっているからね!」

 

息子のことは野菜でたとえない方がいいのではないだろうかと、一同は安宿(あすか)先生に対して思うのだが、まぁ意味は無いだろう。

 

自分抱きをして、妄想の世界に浸っている養護教諭を無視してベッドから身を起こすのだった。

 

「お兄様。お荷物お持ちします」

 

「いや、そこまでしなくてもいいよ……扉に立っている2人もなにかあるのか?」

 

深雪の手助けを拒否して―――2人の少女を見る。いつの間に入ってきたのか分からないぐらいに達者な隠形ともいえるが……。

 

「出頭要請を言いに来たつもりだったんだけど、どうやら明日、明後日のほうが良さそうだねー」

 

「どうしてもというのならば部活連本部に向かうが?」

 

「いいや、少しばかり「ショック」が大きすぎたみたいだから、今日はそっとしておいてあげたいかな」

 

アーシュラの気楽そうな声と、思い悩んだ立華の声に何があったのやらと思うも、達也と深雪だけは、少し分かっていた。

 

それは十分前に部活連本部から感じた微弱なチカラの発露。大きさを隠そうとしても隠しきれないものを感じたのだ。

 

規模・干渉・深度としては叔母の秘蔵魔法にも似ているかもしれない。

 

「……取り敢えず色々と聞かせてもらえるか?」

 

保健室から出ると同時に、女をぞろぞろ引き連れての下校シーンだと気づき、即座にレオにヘルプを頼みたい気分でもあった。

 

だが、それ以上に喫緊だったのは、あの槍兵に関してであった。

 

「「何を聞きたいのさ?」」

 

「色々だ」

 

2人に同時に言われて、少しだけ苛立たしげに言った時に肩が痛む感覚を覚えて、思わず肩を抑えてしまった。

 

「ふむ。やはり腐っても、いや腐ってはいないが、英霊の武具を間近で受けた影響はあるか。アーシュラ、癒やしてあげて」

 

「かしこまっ♪」

 

何年前のJKだと言わんばかりの応答をするアーシュラが、背後に回り込んで達也の肩に触れた。

 

別にゴルゴ13のように後ろに立たれたくないわけではないが―――。

 

触れられた肩になにかの力が広がる。本来のリジェネレーションとは違う、その癒やしの力に驚かざるを得ない。

 

「あとは「自分」でやりなよ。君に触れてるとそっちの2人からの視線があれだからね」

 

どうにもこの2人がドライなのは、ほのかと深雪だけが原因じゃないように思えるのは達也だけだろうか。

 

少しの不満を覚えながらも……とりあえず帰宅の途に着いた。

 

保健室から少し離れたところ……心理カウンセラーが務めている部屋にて―――。

 

運命を変える会話がされていることも知らずに……。

 

「確かに、アーシュラさんの剣技はスゴイわよねー」

 

「ですよね……正直、自信を失いそうです。あんなキレイなのに暴力的ながらも、それを「殺しの技」としてもいるなんて―――」

 

剣道でなくて剣術であっても、あの太刀筋は再現できない。

 

そして武技を目指すものならば、あそこまでの剣を手に入れたくなる。

 

途端に自分の技が邪道にしか思えなくなれば、立ち返りたくなるのだ。

 

そういう専門的なことを目の前のカウンセラーに言わなくても、言わんとする所は分かってくれたようだ。

 

話すことで楽になることもあるものだ。そう感じて感謝しながら、いつもどおりに部屋をでようとした時に……。

 

「ならば、アルトリア先生に剣の手ほどきを頼んでみたらいいんじゃないかしら? 士郎先生に聞いたんだけど、彼女の剣技はアルトリア先生が仕込んだそうだから」

 

「………私のような劣等生を相手してくれるでしょうか?」

 

「物は試しって言うでしょ。それに護身術の授業自体は特に科を問わないものなのだから―――それと、そういう風に自分を卑下するものではないわ。「ここ」に入れずに涙を流した人もいるのだからね」

 

最後の言葉に少しの悲哀と憤怒を混ぜたが、それでもそういう激励をするカウンセラーである「小野 遥」の言葉を受けて、二年の2科生である「壬生 紗耶香」は――――。

 

 

「剣士に余計な問答など不要。たとえそれが他流の、剣の形に洋の東西の違いがあれども……構えた得物をただひたすらに、一刀一刀を打ち合うのみ」

言いながら剣道場に掛けられていた竹刀をこちらに投げて渡す金髪の剣士。

受け取ると同時に剣士から吹き出るオーラを敏感に感じる壬生 紗耶香。

 

「サヤカ―――構えなさい」

 

神域の剣客が目の前に坐す現実を受け入れる壬生 紗耶香の体は、どこまでも駆動する…―――。

 

 

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