魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第16話『変化Ⅰ』

朝の鍛錬はいつでも清々しいものだ。

 

だが、今日のアルトリアとの鍛錬は少しばかり様子が違っていた。何が違うというのか明確なものは分からないのだが、とにかく違っていた。

 

「違う剣士とでも戦った?」

 

「そうですね。頼み込まれたので少しばかり稽古を付けはしました。流石に私達と同じようにはいかないでしょうが、身になるものがあればとは思いますよ」

 

清潔なタオルで汗を拭いていた母の言葉に、どんな弟子をとったのやら、と言う気分でいた。

 

「安心しなさい。別にアーシュラを蔑ろにはしませんよ」

 

「いや、そんな心配はしていない。むしろその新弟子みたいなのが、お母さんの手腕(スパルタ)で壊されないのか心配なの」

 

手を振りながら「ちゃうちゃう」ということを伝えるアーシュラ。

しかし、自分の剣が『騎士王』仕込であるなど誰が伝えたのやら……。

 

「ハルカが教えたそうです。アーシュラの剣が私からだと。そしてハルカは、シロウから教えられたそうです」

 

「なるほど。それでお父さんが先に倒れ伏していたんだ……」

 

久々の母との全力の『身体鍛錬』『魔力鍛錬』に付き合わされた父の姿に『南無〜〜』と言っておくのである。

 

「それよりアーシュラ、リッカもそうですが、どうやら魔法師の数名に『機密』を教えたようですね」

 

「お母さんの『姿』は映さないようにはしておいたけど――――――似たような顔が一杯だからなぁ…」

 

「カルデアでは俗称『アルトリア顔』などとも言われていたほどです」

 

リッカの記憶投影に際してアーシュラは極力、アルトリアらしき姿を見せないようにしておいた。

 

その努力たるや、某ボーイズジュニアアイドルの画像はインターネットではグレーに塗りつぶさんばかりのものであった―――最終的には肖像権の法律整備の遅れで、無理難題であることから、事務所側も折れた点はあったのだが。

 

「ワタシとしては、どうせ『日本人』に明確な白人・黒人の違いなんて分かるわけないんだから、神経質になる必要もないと想うんだけどなぁ」

 

「ですが、その努力自体は褒めますよ。エライですね。アーシュラ」

 

頭をぽんぽん軽く叩いてから髪を撫で梳かされる。

笑顔で慰めるようにするアルトリアだが、娘としては今の母の姿は英霊アルトリア・ペンドラゴンというよりも、キャメロットにて『選別』をしていた『獅子王』に似ているのだ。

 

あんな風に酷薄なことをする母の姿を見せたくない思いもあったのだ。

 

(何より水着獅子王って何さ!? お母さんのあんな姿見せられるわけないじゃない!!)

 

そんな娘の陰ながらの努力が称賛されている一方で……。

 

「ど、どうでもいいが、そろそろアーシュラ。お父さんを回復させないと、今日のお昼の弁当に差し支えるぞ……」

 

全然、どうでもよくない事態であった。母もアーシュラも、父からの弁当は生命線であるのだ。

 

急遽、回復術式を展開。同時に魔力の相性が良すぎる

アルトリアの魔力供給(ラブミーキス)で、父を回復させることに成功するのだが……。

 

結局、お昼ごはんに関しては、現地での受け取りにならざるを得なかったのだ。

 

昼休み。それは、ちょっとした転機。『微小特異点』の発生が起きるのだった。

 

 

「では、本日はここまでです。日直、挨拶―――」

 

定形通りの終了の挨拶を終えて、アーシュラは伸びをする。

まだ午前中ではあるが、それでも若干疲れたような気持ちはあるのだ。

 

「アーシュラ、士郎さんところに行かないと、お弁当が食べれないわよ」

 

「む。だれてる暇は無かった。補給の確保は何よりも重大なことね」

 

立華に言われて、ランチの時間にご飯がない危機的状況(クライシス)を認識。となれば向かわざるを得ない。

 

椅子から立ち上がった瞬間に、相津郁夫が声を掛けようと―――したが、結局あきらめた様子を立華は見届けた。

 

女々しくも、剣術部に誘おうとしたのだが、彼女がやりたいことは剣ではないのだ。剣を極めようと思えば、真なる意味でたどり着くべきところなど決まっているのだから。

 

「アンタほどの男泣かせな女はいないわね……」

 

「まぁコウマの時は、何というか近すぎたかと想うから……気をつけておきたいわ」

 

そうして、2科生の実習室に向かうと、とんでもない人だかりが出来ていた。

 

その人だかりの向こうに父はいるわけで……。

 

「呂布をバーサーカー状態で投入したいわ」

 

ライダーの呂布(せきとば)でもいいけどね」

 

「何をおっかないことを言っているんだお前たちは!!」

 

人だかりの中でも聞こえていたらしく、衛宮士郎の言葉が響いた。

 

人だかりも気付いたらしく、アーシュラと立華の為に道を開けてくれる。

 

「お父さん。お弁当!」

 

「はいはい。まったく色気より食い気な娘になって、俺はお前の将来が心配だよ」

 

いつもどおりに重箱を受け取って喜色満面のアーシュラの姿に、衛宮士郎の嘆きが周囲の―――2科生中心のメンツが、そういった言葉になんとも言えぬ顔をする。

 

「ですが、アルトリア先生もそういうタイプだったのでは?」

「そうなんだけどな。まぁ……人間の関係性なんてどうなるか分からないしな」

「今は、おか―――アルトリア先生の機嫌を取ったほうが得策じゃないですかね」

 

立華と話したあとに警告を放つアーシュラによって、士郎は実習室の戸口辺りで『王様立ち』(ガイナックス)をしている細君の姿を確認。

 

ため息を突きながら、幸せそうな顔をする士郎先生に誰もが諦めるのだった。

 

「それじゃ、今日の実習はここまで。色々と疑問は多いだろうが、結局の所、魔術師側から見れば簡単な突破口を与えられるんだ。

そこからどうやって突き詰めていくかだけなんだから、あんまり自分を卑下するなよ。『一部の人間』は、そういうのとは無縁のようだがな」

 

一部の人間と区切るようにした時、眼で射抜いたのは達也であったが、それは本当にさりげないものであり、射抜かれた達也ぐらいしかわからない絶妙なものであった。

 

「だが、誰しも何かを持って生まれてきている。俺なんてお前たちぐらいの歳のときには、物体の構造強化すらまともに出来ない半人前だったんだからな。

求めるべきは、力の本質を確実に掴むことだ。以上、自主練やってもいいが、やりすぎは体に毒だからな」

 

そんな言葉をいったあとには端末を閉じたことで誰もが授業の終わりだと気付いた―――。

 

『『『『ありがとうございました!! 士郎先生!!!』』』』

 

一講師に対する礼というには大げさすぎるお辞儀の角度と大声。

 

『ご唱和ください、我の名を!』と言う呪文でも掛けられたかのような様に、衛宮士郎は苦笑してから、細君の元に駆けつける衛宮士郎の姿に魔法科高校では見られないような先生であると今更ながら想う。

 

「お前の親父さんって凄い講師だったんだな……」

 

「まぁ真理を探求する魔術師としては半端だけど、魔術使いとしては、結構なレベルだからね」

 

「目に見えぬものを探り当てることが得意な人ですから、知り合いの講師にも似たような人がいますけど」

 

感想を述べる西城レオンハルト(ウルトラマンタイガ)に返してから、食堂に急ごうとした時に、戸口から来たのはA組の女子三人。

 

そんな三人の内の筆頭である司波深雪は、少し驚いたかのようにアーシュラに問いかけてきた。

 

「アーシュラ、あなたの両親っていつも『あんな感じ』なの?」

「サンバガエルのように、家とかワタシの面倒はお父さんが主だったから、必然的にお父さんとお母さんはラブラブなわけだね。他にも、若い頃に『美味しいご飯』で餌付けされたからとも聞いたけど」

 

サンバガエルとは、なんぞや? というメンツが多いが、なんとなく程度に意味は理解できた。

 

「家のことは士郎先生が主なわけか……」

 

「そういうこと」

 

どうでもいいことだが、魔法師というのは何故か親子関係が微妙な家庭が多いという話をアーシュラも立華も聞いたことがある。

 

まるで南米の一部にいる蜘蛛のように、親を蔑ろにするだけでなくて、親の体を食らうという習性に似ている。

 

(魔術師というのは、あれこれ言えるけど自分の『全て』を受け継ぐ存在には愛情を注ぐもの。それは一代では「 」にたどり着くことが出来ないから。もちろん世代交代が順序よくいかなければ、当の親から殺されかけることもあるわけだけど……)

 

だが、概ね魔術師というのは、己の次代(つぎ)に愛情を注ぐものだ。そう考えると魔法師というのは『共食い』の習性を持っているように思えるのだ。

 

もちろん、そんなことはおくびにも出さないで、立華は実習室で地べたに座りながらメシを食うという達也の提案に乗っておくのだった。

 

ちなみに言えばアーシュラは不満げだった。

 

キキーモラとブラウニー(家事雑事妖精)(おこ)られそうなことをやりたくない」

 

そんな所だろう。如何に自動清掃が徹底されているとはいえ、彼女にはそういうことが見えているのだった。

 

難儀なハイスペックガール。と立華は思いながら、唐揚げに手を付けるのだった。

 

「魂の本質……『起源』と言ったか。お前達、魔術師というのは、こういうことばかりやっているのか?」

 

「人によりけり、とだけ言っておきましょう。とはいえ、魔導を高めていけば高めていくほど、そういった領域に近づいていく。そして、起源にだけ囚われれば、それは人の形をした現象へと転じてしまう。

士郎さんが言っていたとおり、何事もほどほどに、ということです」

 

達也の質問に明朗に答える立華は、先程の授業の補足とも言えた。

 

今日に至って、ようやく実を結んだ衛宮士郎の実技講座。それは2科の魔法師の大半を標準以上のレベルに上げていた。

 

寧ろ、人によっては1科の中級レベルにまで上がっているのだから、そら恐ろしい限りだ。

 

今までここの教師たちは、無為に多くの生徒達を正しく指導出来なかったのだから……。

 

「アーシュラもそういうことをやっているの? その魂の領域の力を開放するなんてことを」

 

「ううん。やってないよ」

 

深雪の問いかけに首を軽く振りながら答えるアーシュラに、疑わしい眼をする深雪。流石に学年主席を奪われっぱなしのままなのは癪なのだろうか。

 

事実、実習授業でペアなどある種の競い合いになった時には、アーシュラには勝ち星を着けられない。

 

黒星ばかりが深雪に点灯する様子に、なにかのチートを覚えるのだった。

 

(まぁアーシュラの魔術炉心も魔力の質も、この時代にあってはあり得ざる神秘ですからね)

 

そのトリックの前では、魔法師では毛筋一つにすら傷を与えられない。

 

「なんか深雪ってば不機嫌ね。やっぱりアーシュラとはライバル関係なのかしら?」

 

「まぁ『表面上』は模範生の司波さん的には、天真爛漫(アホ)でありながらも闊達に術を行使するアーシュラは、目の上のたんこぶなんでしょう」

 

『アフォーウ』

 

「べ、別にそこまで私、狭量な人間じゃありません! ……というかフォウくんは何に対して声を上げたので?」

 

「ワタシがアホの子であることを指したかったのよね―――フォウ?」

 

『フォノー、フォノー』

 

NO!NO!のつもりなのか、首を振るフォウの懸命な否定に対して、乱暴に捕まえて拘束をするアーシュラ。

 

『フォウフォウ』

 

大して怒っているわけではないアーシュラだったので、フォウくんはその後に軽快な足取りでアーシュラの肩に乗っかるのだった。

 

そんな『イヌヌワン』とでもいえばいい状況に、色々と追求したいことは霧散せざるを得ない――――――。

 

その後には、エリカの実家の事に話が及び、魔術師2人とネコ1匹は『変な教練方法』と思いつつも、それに対する講評をせずに昼休みは終わるのだった。

 

 

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