魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
というわけで新話どうぞ。とはいえ、前作の流用が殆どではあるんですけどね(苦笑)
弓を引き絞る。
心をしずやかなままに集中をするその所作。自分と弓、そして的以外が見えなくなる境地。
人によってはそれを幽玄とも示すそうだ。
夢と現との境―――まるでワタシの『故郷』のようだ。だが、今はそんな蛇足すら
つまり―――。
放たれる―――矢。番えられて
過たず中心部を穿ったのだ。
「皆中!?」
「すごいよ! 衛宮さん!!! しかも矢の全てが中心からあまり外れていないなんて!! これは期待のルーキーだよ!!」
あちこちで拍手喝采が起こるのは当然だ。だが、その空気と『俺やっちゃいましたか?』という孫太郎的な空気の居た堪れなさに、アーシュラは身体を低くせざるをえない。
「ど、どうもです矢場部長……」
四連続での射的の結果を終えて、勢い込んでやってくる鴉の濡羽色とでもいうべき髪をした矢場弓奈の言葉に戸惑うアーシュラ。
3年女子の部長で、最初こそ『なんでこんな有名人が!?』などと驚愕されていたが、アーシュラの熱意表明と『経験者』であることを証明したことで、まぁ入部を許された経緯がある。
ただ一つ難点が……。
「それはそうと、何でワタシが『射』をする時は、みんな隣でやったりしないんですか? 何だかこっちが恐縮するんですけど」
弓道場にいるのは男女合わせて20名はいる。ソレに合わせて弓道場の的も、それなりに揃ってはいる。
大きな弓道場ともなれば、『射場』もかなり広く的も多い。
成人式の行事『三十三間堂の通し矢』ほどではないので、相手との間隔もそれなりに取れる射場だ。
なのに、アーシュラが射をするとなると、みんなして後ろに控えてこちらを見てくるのだ。
疑問を矢場部長―――3年からは『ユーミン』などと呼ばれている先輩は答える。
「なんでなのかと聞かれれば、答えてあげるのが世の情け。まぁ簡単に言えば、みんな衛宮さんの射を見たがっているのだよ。特に男子たちからは熱ある視線で大人気!!
よっ!! 一高のマドンナ―――♪」
「は、はぁ……」
戸惑い気味に後ろに控えている男子諸君を見ると、すかさず赤い顔を勢いよく反らす様子に、どうしたものかと想う。
「そんな衛宮さんに親しい男子って―――E組の司波達也君だよね? 付き合ってるの?」
「そんな事実は一切ございません」
面白がるようなユーミン先輩の言葉に即時の否定をしてから、何やかんやと部活の時間は過ぎていくのだった……。
・
・
・
・
部活を終えてシャワーを浴びてから、帰宅の途に就こうとした時に、少しばかり覚えのある魔力に何となくそちらに足を向ける。
余談程度ではあるが、弓道場がある場所は入学時から何かと曰く付きの『第二小体育館』と近いのだ。
特にどうということではないが、開け放たれた扉から中の様子を見舞うと―――。
―――鬼がいた。―――いや、それは間違いである。
―――鬼のような竜がいた。
まさしく百獣海賊団を率いるに相応しい恐るべき存在を前にアーシュラは!!!
「逃げるんだよぉおお!!!」
「母の凛々しい姿を見て目も向けられない気持ちは分かりますが、減点1です。罰として少しばかり相手をしてやりなさい」
「ワタシも柱の冨岡義勇のように『水の呼吸』が出来たならばぁああ!!」
風で拘束された挙げ句、何日ぶりになるか分からぬ第二小体育館に入ったアーシュラは、引き出された相手である壬生紗耶香の前にて立ち上がる。
「ごめんね。衛宮さん、そのアルトリア先生と稽古しちゃってて……」
「お構いなく、ウチの母の剣であれば、どうぞ己の鍛錬に利用しちゃってください」
壬生としては予想外の反応。母親との稽古の時間を奪われて『むくれ顔』ぐらいは予想していただけに、なんだか肩透かしを食らった気分だ。
だが、やることは分かっているらしく、即座に竹刀を手に取り構える姿に少しの悔しさもある。
戦士としての礼儀を弁えた女の子で、自分と比較した時に―――それを覚えた。
「アーシュラ、あなたがやるべきことは『分かっていますね』?」
「念押しとかどんだけー、まぁいいや。ボロボロの身体を痛めつける形ですが、やりましょっかい」
「―――」
色々と見抜きが凄い子だと思いながら壬生は動く。最強の剣士に幼い頃から鍛えられてきた天稟。そんな隔絶した差であっても届くものはあるのだと信じたいのだから―――。
「行きます!!!」
言葉と同時に激突は始まるのだった……。
・
・
・
・
「ブランシュねぇ。魔法師ってのは大変だね」
「隠れ潜まず。結局、尋常の世人からすれば恐るべき力を持っている以上、そういった団体は出来上がるのでしょうね」
「で、そんな連中の活動に『魔術師』も関わっていると?」
「それがどういう経緯でなのかは分かりませんけどね。昨日、アーシュラが熨した壬生という方も、その団体所属らしいですよ」
「―――憑いているよ。けどワタシじゃ『落とせない』―――発現したところで、刈り取るのが妥当じゃないかな?」
その言葉に『そう』とだけ返す立華。放課後、昨日のことと最近になってようやくつかめた情報を擦り合わせたアーシュラと立華である。結局の所、相手がその『正しさ』を崩した時にしか神秘の側は手を出せない。
これが直情径行で『やる前にやれ』な魔法師ならば、カウンターテロよろしく騒動を起こす前に殲滅するとか、ケンカ犬よろしくやるのだろうが。
確かにある種の思想団体に感化されるのは、どうあっても仕方のない話だ。かつての赤軍ゲリラやカルト宗教によるテロの主導となったのは思想洗脳された連中ばかりなのだから。
「まぁ別に魔法師が撒いた種。それに『ちょうどいい肥料』と『粘りのある土』『良い水』を与えられなかったとすれば、そうならざるをえないわよ」
「そして、その代替となるものを与えたのが……」
「
別に因果とかを覚えるわけではないが、それでも何というかあれな限りである。
「どうするの? カルデア最後のマスターであるアナタにワタシは従うわよ」
「サーヴァントの情報は流した。これで何も『出来なければ』、破滅の時は来るわよね」
「風まかせ?」
「いいえ、人まかせ。克人さんも会長も所詮は、平時にしか力を発揮出来ない人だもの」
結局の所、そういうことであった。だが、立華としては、未来視で見えた映像を覆したいという思いはある。
『あれ』は、カルデアにおいて起きたことと同じなのだから。
そんな風に、念話で人に聞かれぬように教室内で他人と会話をしながらやり取りをしていた立華とアーシュラの耳に放送が入る。
それは、変革を求める者たちの悲痛な叫びであった。それに対して、魔法師がどういうジャッジを下すか? それが肝要なのだった。
ふあああ〜〜〜〜。
盛大なあくびをしながら事の推移を見守るアーシュラだが。少しだけ不謹慎さを咎めるように、深雪など数人から視線が向けられる。
「俺は彼らの要求する交渉に応じても良いと考えている―――」
「ではこの場は、このまま待機しておくべき、と」
「それについては決断しかねている―――」
渡辺委員長の性急な解決策と、十文字会頭の交渉の為に出てくるようにする説得工作と―――。
結構どうでもいいことだが、どちらにせよコイツラは、放送室を占拠した連中を捕縛するつもりでいるようだ。
「アーシュラさんと藤丸さんは、何か解決策はありますか?」
いきなりな質問。もしくはこの人もムカついていたのかもしれない市原鈴音の言葉に返しながらも言うのは委員長と会頭である。
「―――とりえず、中にいる奴等を『どちらにせよ』ふん縛ろうという両者の考えには納得できません。それは横暴な領主、何も聞いてくれない領主に反抗して籠城の一揆を起こした民衆を皆殺しにしようという、品性下劣極まる行いですので」
「「――――」」
『本音』を見抜かれたことに対する絶句というわけではないが、まぁとにかく、もうひとりに言っておく。
「それと―――、そういう道徳心ないことばかりやっているとね。アンタの舌に『魔神』が付いて、たちまち舌を腐らせるわよ。『あいつら』は己の理屈を証明せんと、人に取り憑くこともあるんだから」
藤丸の達也に対して指を向けた上での厳しい言葉に色々な想いが渦巻く。だがそれ以上に考えることは……。
「―――俺が『やろうとしていること』を、お前は分かったのか?」
「歴史とはただの積み重ねじゃない。水面の底にある真実を、ことを起こした人々の考えや心を知ることで、本当の対処が出来る。悪行を成したものに対して、『無情で無慈悲な騙し討ち』をして、それで恨みが残らないと思うの?
悪を行い悪を根絶したところで、あとに残るのは『この世全ての悪』だけなのよ」
正面切って言われた言葉に達也は、通常ならば何も感じないはずだが、それでも真実を見抜かれたことと、その佇まいに反論が出来なかった。
論で押されたと言うよりも、その気迫に負けた形だ。
そして藤丸はアーシュラに任せると言わんばかりに、肩を叩くと信頼に応えるアーシュラの手には、いつの間にか古めかしい拡声器が握られていた。
―――閉ざされた扉の前に進み出て拡声器越しに『龍の娘』は声を掛けた。
「―――お前たちは完全に包囲されている! 武装を解除して投降しなさい!!」
―――全員がズッコケた瞬間であった。
「俺のやり方と何が違うんだ……?」
『その声、衛宮さん? ―――』
「どうもー、察するに放送室にいる中には壬生先輩もいると見てましたが、はっきり言いましょう。
ワタシ以外の扉の前にいる面子は、あなた方をふん縛って床に叩きつけたくて堪らないみたいです」
その言葉で、全員の視線が険しくアーシュラを見るが―――待て―――。
「な、なんで声が響くんだ? 放送室の前の扉はかなりの分厚さで、防音対策は完璧のはずなのに……!?」
更に言うと、魔法を使えば大仕事で、壊すのもあれだったのだ。だからこそ声を届けるのに、通信機器を使う必要があったのに―――。
まるで薄い壁越しに話をしているように、壬生紗耶香の声が全員に響いた。知己の人間からの声に戸惑い、それでいながらも対応をどうするか戸惑っている様子。
(それはこちらも同じだが、アーシュラは何をやって、あちらとの間に音声通信を繋げたんだ……?)
現代魔法の中には、空気の振動で特定の相手との間に秘匿の会話をすることも出来るものもあるが、アーシュラのそれは達也の眼であっても何も見えないのだ。
全員が気付いた事実であってもアーシュラは変わらずに、壬生にこちらの内情を暴露していく。
バラすんじゃねー! と想いつつも、上役も何も言えないでいた。
『なんなのよ。それ……私達を昭和の青年将校たちも同然に扱って、言葉も意思も決起の理由すらも考えずに、不法行為だからと辱めを受けさせようっての!?』
「まぁ、最期のご奉公をしてから自決をした田中静壱大将みたいな『優しい鬼軍人さん』はいないわけですねぇ。だって1科も2科も、バラバラなんだもの。あなた方の決起に『私』は理解を示しますよ―――」
『………なんで衛宮さんは、私たちに……そこまで―――』
「このままいけば、ロクなことにならないからですよ。警告しますが、おとう―――士郎先生は、既に貴方方がいる部屋を狙撃する位置にいるはずです」
狙撃手が狙っている―――というどっかの大佐と同じ言葉で、『ジョン・ランボー』達は動揺を果たす。
放送室は、その防音の関係上あまり外側と接していないところに建築されているはずだが、放送の関係上、モニターだけでなく目視で何かを言わなければならないこともある。
そうでなくとも、何かしらの手で―――何かを果たすだろう。士郎先生もエミヤなのだから―――。
「父の放つ矢―――
『そ、そんなこと! ―――』
「出来るわけがないなんて言葉は、いまだに解明不可能な『妖精郷の神秘』の前では意味がないんですよ。相手への同意なしでのギアス、意図的な神隠し―――それらを行えるのが、私の父の
『――――』
あれはそういうことだったのかと納得すると、同時に同盟にとって進退窮まるとは、このことか―――。
「私から言えるのはここまでです。今―――『もう一人の人』と代わります」
その言葉で誰のことだか分からなかった生徒全員であったが―――。気配が近づく。圧倒的なまでのオーラを纏ったタイトなスーツに身を包む金髪の美女が……。
「―――サヤカ、私の声が聞こえていますか?」
『………! …!』
――――その一言で決したようなものだが、それでも続く数言の後に有志同盟は、全員が放送室から出てきた。
追記
謎の弓矢を抽出したり、弓から弦が離れていたり、そもそも正式な弓道着ともいえないということはーーーまぁお察しください(苦笑)
追記
ちょっとだけ修正したものをあげました