魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
叫ぶ妹、その叫びは訴えであった。だが、あまり子供のようなことを言わないで欲しい。
その評価は、この世界では認められていないことなのだ。
だからこその『華無し』の制服を自分は着ているのだ。
何とか妹を宥めることで―――『次席』として『総代答辞』を述べることを決意してくれた。
(深雪が次席か。主席の名前は、衛宮アーシュラ、深雪の下ではあるが三位の藤丸―――『エミヤ』に『フジマル』か……)
その名前を魔法師の『裏側』に詳しいものが知らないわけがない。
間接的にだが、達也の実家『四葉』にとっても恩義ある存在であり、色々な所に知己ある顔の広い存在であった。
一般的な『魔術師』というイメージに全然近くない2家が、どうして魔法師とつるむのか―――詳細は達也は知らない。
最近まで、エミヤはUSNAの九島家の関係者の方にいたとも聞いていたが……。
フジマルの方は―――とりあえずロンドン辺りにいたとも聞く。あくまで噂ではあるのだが。
ともあれ、そんな両者の姿はテストの時にも見ていたわけで―――。
彼女たちが現れたことで、場の空気が変わる。校門から入ってきた彼女たち、特にエミヤが主となり端末で誰かと話していたようだが、最終的には学び舎でのTPOを弁えたのか、端末の画面に手を振って『グッナイ』と言って、通話を終了させた。
その様子から『時差ある国』だろうと当たりをつける。
周囲を見回す彼女たちの姿を再度見る。
見れば見るほどに美しい少女2人だ。
衛宮の方は、豊かなまでに伸びた金色の髪は、砂金を敷き詰めた大河を思わせる優美さ。それらを複雑にまとめた上で後ろでポニーテールにしている。
藤丸の方は短く切ったオレンジ色の髪が主だが、銀色の髪―――染めたのかどうなのかは分からないが、それを一房編み込んで前髪に下げていた。
衛宮の方の瞳の色はエメラルドの如き輝きを持っており、身体のバランスもかなりいい。なにか『武術』でもやっているのか、姿勢の良さが実際の身長よりも高く見せている様子だ。
片や藤丸の方の瞳は、ブラウン色のやはり外国人の血交じりだからなのか、髪と同じく純粋な日本人には見えない。
衛宮とは違い傍から分かるものではないが、何かしら身体の使い方を理解している風だ。
当然―――どちらも深雪より身長は『虚実』高いだろう。
(深雪が女神だとするならば、こちらは『姫』だな)
「―――お兄様?」
先程鎮めたはずの深雪の不機嫌オーラが、最大値に跳ね上がるのを感じて思わず振り返る。内心での感想を察されていたようだ。
「いや、流石にあの子たちを見ないでいるわけにはいかないだろう。お前の言う通り今回の主席と三席なんだからな。藤丸にしたってお前と僅差だぞ」
見ざるを得ない。そう昏々と説得を果たして深雪に納得を求めておく。
「まぁ―――そういうことで納めておきますが……衛宮アーシュラさん、藤丸立華さん……中々の強敵ですね。相手にとって不足なし―――」
勝手にライバル認定されたことを2人がどう想うかは分からないが、ともあれ―――深雪は機嫌を直して大講堂での答辞のリハーサルに向かってくれた。
そこで達也の『任務』は終わってしまった。
深雪とは違い何かの用事があるのか、新入生でありながら校舎に入っていく2人の後ろ姿を何気なく見ておく。
司波達也は―――本当に暇になるのだった。
† † † †
「お変わりないように見えて、その実―――年老いた事実は変わりませんね。百山の翁」
「全くだよ。君の祖母殿のようにもう少し若々しくはありたいが―――まぁ心に情熱さえあれば人間は一生涯青春で居られる。そうありたいものだよ」
「永井荷風の言とは健のじいちゃんもよく使っていたよね。立華」
「親友ですもの。似ちゃうんですよ」
若い娘2人と老人1人との会話。普通ならば弾まないものも、立場や諸々のもので共通項があれば、このようになるものだ。
朗らかに会話をしながらも、少しだけ深刻なことを口にする。
「……山の方の『天文台』の方々には多大な恩義がある。健が何とか米国に渡れたのも感謝する。
だが、魔法師の上位メンバーの中には、君たちが一枚岩であると信じて疑わない奴らも多い。自分たちを棚に上げてね」
苦悩交じりの言葉を聞いて、対面のソファーに座る若い娘2人は茶(玉露)を飲んでから口を開く。
「まぁ『アルビオン』派は、もはや『聖堂教会』と同じくなっちゃっている節もありますからね」
「否定は出来ません」
アルビオンから距離を置いている姫とアルビオンから這い出た姫の言葉に百山東は苦笑する。
「ちなみに聞きますけど、その筆頭が扉の向こうにいる『巌』ですか?」
「ああ、校門で待っていて、君たちが『形絶』のルーンを使って入られたことで、少し怒っているんだろうな」
「だってあからさまな待ち伏せだったんですよ。疾しいことはなくても、いきなり告白されたりするとイヤですよ」
だったらば、普通に入ってこいという無言のメッセージを分厚い校長室の扉越しに放つ『巌』だが……男ならばともかく女に対して、あのやり方は不躾だったかと思う。
少しだけ反省してから出てくるのを待つ。
「それでは、入学式の時間になりますので失礼いたします。翁」
会話が終わったのか藤丸の声が聞こえた。見れば時間としては、結構なものだ。
「またジジイの話相手をしてくれれば嬉しいが―――そんなことは二の次でいいから、友達をたくさん作り給えよ。姫騎士ちゃん。星の姫巫女ちゃん」
「ハーイ それじゃ今度こそ失礼しまーす」
「アーシュラッ」
その気軽な調子を窘める姫巫女『立華』に東が笑みを浮かべているのを見て、最期の一礼を忘れずに校長室から出た女子2人。
少し離れたところにいた克人は、形絶のルーンとやらであっさり見逃した魔術師2人の姿を見る。
制服姿は当然なのだが、女子特有のスカートまで伸びるインナーガウンの柄と色は割と『凝ったもの』であり、ある種の改造制服の類にも見える。
男子にもこの手の遊びは欲しいよなと、三年前からきっちりとネクタイは締めて巌のような恰好をしている『十文字克人』は思う。
「久しぶりだな。衛宮、藤丸」
『
寸分違わず同じタイミングで言葉を発する2人に克人は少しだけ嘆息する。
「同調術で言葉を放つな」
同じようなものを克人はよく知っている。だが彼らの間にはそれなりの『縁』はあれども、双子のような感応ではないことは確認が取れている。
ようは危険なことはやめろと言うも、藤丸は少しばかり聞かない。
「遊び心って必要だと思いませんか? 何事もお硬いままじゃダメですよ。発想力は柔軟性。新しきものは関係ないところからインスピレーションを得るものですし」
「ひとつ訂正させてもらおうか。『まだ』俺は家督を譲られていない。
精々、代理当主といったところだ。称号は正しくしてほしい。それもまた発想力の阻害になるぞ」
その言葉に肩を竦める巫女姫。傍から見れば剣呑なものだが、克人も『覗き見』も衛宮と藤丸がどちらかと言えば魔法師と敵対していない魔術師だということは分かっていた。
―――分かっていただけに、色々と勘ぐってしまうのだ。
「まぁいい。どういう事情であるかは知らないが、お前たちも俺の後輩になったんだ。色々と頼りにしろ」
「カツトさんを頼りにするとか……ねぇ?」
「後で法外な請求が来そうですね。身代を寄越せとか来たらばどうしましょうかね?」
アーシュラが頬に手をやりながら立華に聞く形の会話に再びの嘆息。やり取りとしてはやはり『双子』を思い出させる。
「安心しろ。お前らに男としての欲求は持てそうにない」
「「
一言返せば二言目で斬りつけてくる後輩女子2人にやり返すことは、当分出来そうにない。
「入学式の時間まで、時間はない。はやく大講堂に行け」
よって話を打ち切ることにするのだった。
はーいと同調するように言う2人は、克人の横を抜けて廊下を駆けようとする前に、振り返って克人の方を向いて呟く。
「―――ご当主の『不能』に関してならば治す手段はありますよ。まぁそもそも、あなた方の家に与えられた『命題指定』があまりにも無茶振りなんですけどね」
そんな言葉で、いきなり『痛撃』を与えられた克人は思わず振り返ろうとしたが、もはやそこに件の2人の姿はなかった。
霞のように消え去った2人の姿に、髪を乱雑に掻いてから思う。
(俺に噛み付くとは恐れ知らずの後輩だな……)
だが久々の感覚でもある。
この巌のような体格と厚みのある身体と精緻な魔法力とで、一年時から先輩同輩ともに『番長』などに祭り上げられて『冷めていた』克人の心血に、熱が籠もったような想いだ。
「さて、俺も向かうとするか」
今年の一年は曲者揃い。現・2年生を侮るわけではないが、どうにもノーマルな人間ばかりで面白みが無いと思っていたところに、反動かのように一年生に様々な人間がやってきた。
それが何を齎すかは分からないが、ともあれ残り一年間を楽しみに思うのであった。
† † † †
話に話し込んでしまったわけで、入学式の会場はそれなりに席が埋まってしまっていた。
前の方の席はともかく『後ろ』の席は大変余っており、新入生席と書かれている以上は後ろに陣取ることに2人は何の躊躇いも無かった。
なんか面倒そうな空気も感じた。それを知らぬほど彼女らも馬鹿ではない。
(席は詰めといた方がいいよね?)
(ですね。前の方はいるだけで魂が腐りそうな『汚濁』が見えますから、臓腑の生臭いのは政争の場だけで十分です)
奇異な視線もあったが、幼なじみが日頃、どういう
その奥の列でも丁度真ん中席に陣取る「男子」に声を掛ける。
「ここの席、大丈夫かな? 誰か隣席に着くのを待ってる?」
「―――いや、特に待っていない。どうぞ」
幼なじみに代わり問いただすと、少しだけ驚いたような顔をしている男子から許可を貰い、着席を果たすアーシュラ。
「Thank you♪ いやぁ前の席は人が多すぎて、何か空気が変で、しゃっちょこ張って肩こりそうだったから、助かったよ」
「助かりました。なんだか魂の生臭さを感じますので」
「……知らないだけか―――いやカンはいいようだけどな」
「??」「……」
呟くような声で2人を評した男子にアーシュラは疑問符を浮かべていたが、遠視の魔力で前を見た立華は得心した。
―――やはり魂に付いた贅肉が腐っている―――。と
そうしていると、こちらと交流を持ちたいのか隣の男子は自己紹介をしてくるのだった。どちらかといえば疑問符を浮かべるアーシュラに対しての疑問氷解であった。
「いや、こちらのことだ。俺は司波達也だ。よろしく」
「衛宮アーシュラ。ドッチで呼んでも大いに結構だよ。司波くん」
「藤丸立華です。よろしくおねがいします」
「ならば、俺も『どっち』で呼んでも構わないさ。同じ『一年生』だしな」
「「司波くんと呼ばせていただきます♪」」
ほろ苦い対応。けんもほろろなものだ。もっとも、達也にそういった情動が無いことは『何となく』2人とも察していたのだが―――。
そんな朗らかな応対の裏で何かを『読もう』とする司波達也と違って、『いつもどおり』なアーシュラと立華。
そんなアーシュラは、達也の右隣に座ろうとして声を掛けたメガネっ娘の姿を見て―――。
「ドウゾ―――♪」
「なんで君が了承の意を出すんだ?」
「いやぁ後ろの子もいることだし、早く決済した方がいいと思って♪」
「申し訳ありません。アホっ子な幼なじみで」
「誰がアホっ子よ!?」
「アナタですよ。姫騎士アーシュラ」
達也の疑問から一瞬にして内輪の話をする2人。この2人は昔っからこうなんだろうなと思えるものだ。
ともあれ柴田美月と千葉エリカが座る。そんな2人は、アーシュラと立華に好奇の視線をやってくる。
「2人とも、どったの?」
気付いたアーシュラが、達也越しに美月とエリカに問いかける。
「ええと、アーシュラさん立華さんも一科生なんですよね?」
「そう聞いているけど? なんかマズったかな?」
「柴田さんが疑問に思っているのは、恐らく前の方の席が、何の
立華の理路整然とした説明を受けて、こくこくと頷く柴田美月。
とはいえ、このことに関しては学校側のミスもあるだろう。
「な~るほど。まぁ『気分』が悪くなりそうだからってことで納得しておいて。そもそも別にどこに座ろうと構わないでしょ。新入生席としか書いていないんだし、最初っから一科生席、二科生席とか指定を着けておけばいいのよ」
そうしてアーシュラは学校の不手際でしかないとしておく。
その上で立華も言い分はあるらしい。
「第一、自分が優秀だからと言って前の席にいることが頭がいい『選択』とは言えませんね。
私が破壊的な衝動を持ち、ある『使命』だか『仕事』だかを行うテロリストならば、足元に爆弾を設置して全員を爆殺していますよ」
恐ろしいことを考える藤丸立華だが、聞いたアーシュラはうんうん頷いて更に付け加えてくるのだった。
「運良く生き残ってコフィンで冷凍保存されていたらば、それはそれでロクなことはしないよねー」
「決して『悪行』でないところもアレなんですけどね」
「いや、あんたら何を話してんのよ? というかエミヤにフジマルね……どっかで聞いたような気がするんだけど……」
エリカはその名字に聞き覚えがあることから、『関係者』かと達也と立華は考えたのだが……
「司波に柴田に千葉で、アタシと立華だけ『仲間はずれ』なのを再認識させないでよっ、エリカのいぢわるっ!」
「いや、そういうことじゃないんだけど……」
「白旗を揚げるラフムになってしまえ」
「どういう意味だー!? ああ、けれど何となくその単語には聞き覚えがあるような気が……」
目眩を覚えたかのように、エリカが眉間に指先を添えている姿が出来る剣呑な女同士のやり取り(?)がありながらも、入学式は、遂に始まるのだった。
達也が両手に花という状態のままに……見られたら『こと』だなと思いつつも……成るようになるしかないのだった。
校長や来賓の挨拶。ある種、若人にとっては退屈極まりないものが続き、遂に新入生総代の答辞となった時点―――登壇した深雪の姿に達也は少しだけ嬉しく思っていると……。
「デミ・エルフか、ホムンクルスっぽいなぁ……」
「エルフィンっぽいところもありますね」
周囲の人間が、その美しさと可憐さに眼を奪われている中、随分と冷めた言動が達也の耳に入るのだった。
ともあれ、それを除けば滞りなく式は全て終わり―――晴れて、講堂にいる新入生全員が魔法科高校の生徒となるのだった。
入学式後のどこのクラスかを教え合う中で、綺麗に分けられたものだ。
「お前たちはどちらもB組か?」
「何か疑問でもあるの司波くん?」
「まぁ一応はな。確かに入学時の成績上位と下位が均等に振り分けられるとは、『建前上』はなっているんだが」
まことしやかに囁かれるちょっとした噂話。校舎外から校舎を見上げながら、達也は立華とアーシュラに語る。
「ふーん。A組が一科でも成績優秀だけを集めたクラス」
「そこにワタシたちがいないことが疑問だと?」
B組と刻印されたIDカードを見ながら語る2人に説明するも。
「「どうでもよくない?」」
「そうだな」
達也の疑問は一瞬で『GUARDBREAK』されてしまうのだった。
とはいえ、その疑問の答えがわからないわけではない。
入学時よりこの2人はちょっとばかり浮世離れしていた。
確かに試験結果はとんでもなかった。
しかし、その試験を行うまでに色々と悶着があったのは覚えている。
一番には……。
『『ホウキいらないです』』
その言葉をよく覚えている。試験で計測するようなCADを起動させることは、とにかくやれたようだが、『地力』を計測する試験においては、彼女に現代魔法師の必須ツールは不要だった。
『必須』なのに『不要』とは、これ如何に―――。
それこそが魔法師と魔術師の違いなのか……。達也の内心の疑問を察したかのように―――。
「あんまり悩んでいると……」
「ハゲるよ!」
ハゲねーよ。と普通の男子のように言ってやりたいが、どうにも口では勝てそうにない雰囲気が2人からは漂うのだった。
そんなふうに雑談に興じていると、出来上がっていた人混みから達也の望んだ人物が出てくるのだった。
「お兄様!!」
アーシュラと立華は先程、名字が同じで、同い年だからイトコの兄妹かと思っていたが、違ったと宣言された司波深雪の登場だった。
「お待たせいたしました―――その方たちは?」
流石に問われることを予期しなかったわけではないので、エリカと美月はクラスメイトだと達也は証言。
残る問題は――――。
「衛宮アーシュラ、もしくはアーシュラ・エミヤ・ペンドラゴン、よろしくーー♪」
「ロンドンから来ました藤丸 立華です。よろしくお願いします司波さん」
「主席でありながら答辞を拒否した衛宮さんと、三席の藤丸さんでしたか。次席の司波深雪です。どうぞよしなに」
順番に握手をする深雪を見てライバル意識を持つのは結構だが、それで出せる能力を変にしなければいいのだがと思う。
ともあれその後は、それぞれでということで解散になった。HRというか教室に行くことをプッチした以上は、そうであるのが普通なのだ。
しかし、生徒会メンバー(?)といえる面子は、深雪を何かに誘いたい様子であったが、こちらの予定を優先してくれたのは僥倖であった。
「衛宮さんも、藤丸さんも、あとでお話したいんですけど、よろしいですか?」
「「前向きに検討させていただきます」」
なんて笑顔での官僚的答弁。検討するだけで話に付き合うと言ってはいない辺りに、何とも無情な……そんな想いだ。
その後はアイネブリーゼなるエリカおすすめの喫茶店に直行して、衛宮アーシュラという少女が大食いの食いしん坊であることを知るのだった。
† † † †
「どう思った?」
「どうもこうも、あからさまなまでに異常の類でしかないでしょう。あれで市井の民であるなどと言う方が変ですよアーシュラ」
「だよねー。じゃああれが『対象』かな?」
「そこはまだ確証はありません。まぁ『テクスチャ』の異常のひとつではありましょうけどね」
収集した情報を2人で突き詰めていくと、最終的にはそういう結論になるのだった。
司波兄妹こそが『オーダー』の『特異点』なのだと……。
「まぁとにかく今は静観しておきましょう。どうせ何かしらのアクションは起こるんですから」
「待ちに徹するなんてリッカらしくないわね」
「アトラス院の錬金術師ほどではありませんが、私たちが『積極的』に動くことで特異点がさらなる異常を発することもありましょう」
それに―――と付け加えて―――星詠みの姫巫女は語る。
「私たち魔術師と魔法師の争いは、ほんの30年前まで聖堂教会も巻き込んだ凄惨なものだったのです。それこそ『手打ち』が起こらなければ、どうなっていたかは分かりません」
その言葉の裏側にあるリッカの『心』を察したアーシュラ。
衛宮家の新居。昔から使っているベッドに腰掛けるリッカを優しく見ておく。
フォウの毛並みを触りながらも不安げな表情をしているのに近づいていく。
「大丈夫。何があっても『私』がアナタを守るから―――リッカ。アナタが『私』のマスターなのよ」
「アーシュラ……ありがとう―――」
その手を握り『ここにいる』と告げることでリッカの気持ちを安定させる。
安定させたのに―――。
「けどこういうことすると、『コウマ』に誤解されちゃうから止めといた方がいいわよ?」
「別に『ワタシ』は、そんなつもりはなかったんだけどね……」
『フォォッフォー…』
アーシュラ及び立華の一番近しい男友達の中でも、 明確にアーシュラを好きだと告白して―――半年ほど付き合ってからアーシュラがフッた相手の顔を思い出して、立華は少しだけ不憫に思うのだった。(フォウくん含めて)
そうこうしている内に、階下より夕飯であることが伝えられる。
「食べていく?」
「士郎さんのご飯は体型維持の敵!! しかし食欲には負けてしまう自分の体が恨めしい!!」
「きっとあれだね。カルデア時代に『弓兵さん』に餌付けされた記憶が連綿と受け継がれてきちゃったんだよ」
時代を超えたとんでもない結論だったが。階下から響く『立華ちゃんも食べていきなさい』という言葉にはまぁ逆らえないのだった。
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「魔術師が一高にやってきたか。名前は? ―――ああ、ならば確実に僕たちが関わるべき案件ではないな。むしろ事後の後始末で煩わせないことが僕らに出来ることだ。
彼ら風に言えば『アルビオン派』―――ロンドンは『時計塔』の連中では緊張せざるをえないだろうがね」
電話口の向こうにて『くすくす』と笑みを浮かべる女の声にいつでも耳を擽られる想いだ。
本当ならば―――もっと近くで聞いていたかった声だったのだが、それでも両家から引き裂かれて一度はその『未来』を諦めていた。
諦めたつもりで諦めきれなかった。そして何度と無く続いた『過ち』の果てに『宝』を得てしまった。
己の愚行だとは思えなかった。そして、こんな女々しい男にあるものなど財と権力だけなのだから。
妻に愛想を尽かされるとも思っていた。例え、世間体がそれを恥だとしても最初の不貞は自分からだったのだから。
「ああ、それではまた……会おう。うん、いい酒を用意しておくさ。下戸の君でも醉わなそうなものをな」
だから―――宝物を守るためにこそ、男は牙を立てるべきものに対する殺意だけは忘れないでおくのだった。