魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第19話『闘う者達』

土曜日の討論会の会場・入学式にも使われた大講堂に集まった数は、全校生徒の半数という規模であった。

 

そんな中でアーシュラは……極端なアクビをしていた。

 

「職務に忠実になれとまでは言わないが、もう少し緊張感を持ったほうがよくないか?」

 

「君みたいなのに言われるとは思わなかったなぁ。どうせ『生死の境』なんて簡単に決まるものなんだから」

 

意味がよく分からないアーシュラの言葉。

 

「レガリアだかエガリテだか分からん上に、ブラダマンテだかブランシュだか、よく分からん野良犬なんかに引っ掻き回されて右往左往するなんて、アホなことだなー、ということさ」

 

「………被害が出るということか?」

 

「出ないほうがおかしい。小国が大国に勝つためには、あらゆる手段を講じてくるのは普通だもの。だからこそNBC兵器なんてものがあるのよ。子供兵士(チャイルドソルジャー)が消えない理由はそこなの、そして―――侮れば、普通に死人が出る―――」

 

アーシュラの深い言葉の意味を考える達也は、恐ろしい想像をしてしまう……昨日の夜に『寺』で師匠(ハゲ)から言われたとおりならば……。

 

「ゴーストライナーとかいうのの襲撃があるのか?」

 

「何で分かりきっていることを聞くのかな。バカなの?」

 

アーシュラの言葉に何となくムカつきを覚える達也。

母娘そろって、こちらの神経を逆撫でしてきて―――だが八雲(ハゲ)の言うとおりならば、彼女ぐらいしか対抗馬(カウンター)はいないのだ。

 

「―――始まるわよ」

 

そんな達也の思考とは裏腹に、討論会は動き出す。

 

書記役なのか、藤丸も机上の端末を操り、違う仕事に奔走していても、全ては始まるのだった……。

 

 

議論の調子は、一進一退というところだった。どちらかといえば会長に分が悪いものであった。

 

同盟の主な主張は―――。

・2科生への衛宮士郎教諭以外の講師を付ける。

・同時に魔法実習室(2科生専用)のスペースを作る。

 

明朗なものであった。だが、明らかに生徒会長の領分ではないという意見を出したとしても……。

 

恐らく同盟側は首っ引きで数字を精査した上で、この討論大会に挑んだのだろう。更に言えば施設利用に関しても、同盟側が一科生よりも劣る扱いを受けている。

 

それに対して、生徒会側は同等になっていると返すも

 

「私達は授業講師もいないというのに、カリキュラムをこなすことを要求されているんです!! そもそもそれで『同等』であっていいわけがない!!

 

 我々が二科生でありながら同じような習熟を求められているならば、その時間はあなた方よりも多くの時間が必要なはずだ!! 魔法実践が安全安心でないならば、細心の注意もしなければならない。

 

 更に言えば、その施設の利用をするのが次に一科生であるならば、ヤジも飛ぶし、出来ないことを横から詰られる!! 我々に必要なのは最適な教育環境であって、施設利用回数の均衡化・平均化じゃない!!」

 

そこをツッコまれては、七草会長も黙るしか無い。二科の実態を知らなかったわけではないし、授業におけるそういった生臭いことを知らないわけではなかった。

 

だが動画データと共に公表されたもの―――一科生が二科生の魔法実習を野次る様子が、苦しさを生む。単純に言えば、これはマズイことだ。

 

「部活間のただの予算のあれこれ程度ならば良かったんだけど、有志同盟の言う『差別』の内容が、教育制度や授業実態にまで及ぶと弱いわね〜」

 

「アーシュラ……」

 

アーシュラの面白がるような声と言葉に、深雪は少しだけ怒りと悲しみを混ぜて咎めるも、アーシュラには効かない。立てこもり事件があった日の叔母との会話は、達也自身は知らないが、それ相応には言われたようだ。

 

「……壬生……」

 

壇上にて、七草会長に正面切って挑む壬生紗耶香の姿に、苦衷の顔を作る渡辺委員長。

 

「七草会長。あなたが思う学内改革の姿を教えていただけますか? 私の『答え』はその時に決まる―――」

 

 壬生紗耶香が吐き出す言葉が、どことなく『段平』を振りかざす前のやり取りに見えて、緊張感を漂わせる。

 

 だが、これは七草会長にとってチャンスである。論戦において、ここで決めなければ浮沈の境となる。

 

「―――実を言えば、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が、一つ残っています。

 

それは、生徒会長以外の役員の指名に関する制限です。

 

現在の制度では、生徒会長以外の役員は、第一科所属生徒から指名しなければならないことになっています。

 

 この規則は、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ、改定可能です。

 

 私はこの規定を、退任時の総会で撤廃することで、生徒会長としての最後の仕事にするつもりです。

 

少々気の早い公約になってしまいますが、人の心を力づくで変えることは出来ないし、してはならない以上、それ以外のことで、出来る限りの改善策に取り組んでいくつもりです」

 

その言葉を受けて七草会長が求めていた反応は、何処にもなかった。

 

まばらな拍手があるだけで、首を傾げて、その改革案と、その前の差別云々の御高説を妙な気分で再解読するのだが、どうしても―――何一つ共感出来ないのだ。

 

それが二科生だけならばまだしも、一科生ですら『ナニ言ってるんだコイツ?』となるのだから―――。

 

「サクラでも仕込んでおくべきだったんじゃないの?」

 

「パッションリップでよければ、大きな拍手になったでしょうね」

 

「それな!」

 

アーシュラと藤丸の意味不明の空気を読まない会話。しかし壇上における討論の仕組み上、これ以上は痛み分け―――むしろ、一科生の心象は悪かった。

 

「それが―――アナタの心ですか。七草真由美会長?」

 

椅子から立ち上がり、攻め立てるように壇上の真由美に近づく壬生紗耶香の様子は、明らかにおかしかった。

 

もはや勝負は決まった。これから生徒会長は、有志同盟の要求を呑まざるをえなくなる。呑んだ上で、それに配慮した政策を行わなければならないのだ。

 

だから、そんな剣呑な表情で王を殺す反逆者『ブルータス』のように、迫る様子を見せるな。

 

服部副会長が真由美を下がらせて、どこに隠れていたのか桐原武明も出てくるが、壇上を狙う壬生紗耶香の様子は異常だ。

 

ゆえに―――。

 

 

始まる(・・・)か―――」

 

藤丸が表情を改めて、眼を輝かせている様子に達也が見た瞬間。

 

轟音が鳴り響く。大講堂が鳴動するほどの揺れのあとには、遅れて聞こえる乾いた金属音。

 

いつの間にか舞台袖から飛び出ていたアーシュラが、中華風の拵えの双剣を持って、壬生紗耶香がいつの間にか握っていた大太刀の一撃を抑え込んでいた。

 

だが、振り下ろしの一撃の余波は、大講堂の壇上を病葉に切り裂いていた。

 

舞台袖からは、尻もちを突いている怯えている会長や、立ち上がりながら会長を守ろうとしている服部副会長を見るも、状況は混乱の一途だ。

 

鳴動は際限なく続いているのだ。パニックが生徒たちを襲う。

 

ジリジリと鳴り響く火災通報装置の音が更に混乱を生み、上階にいる生徒が窓を見て火災が起こっていることを告げると、更にパニックが起こり、その中で有志同盟のメンバーが、外に出ようとする動きとは別のことを起こそうとしているのを見た。

 

だが、有志同盟に対するマークを強めていた渡辺摩利の指示があっても、それを拘束することは出来ない。

 

 

逃げ惑う生徒の大半を狙って、まるで『獣人』のように己の身体を変化させて襲いかかろうとする様子が感じられた。

 

 

「獣性魔術―――ルーンによって、北欧神話の魔獣を呼び寄せた召喚術の面もある―――!!!」

 

「全風紀委員、マークしているメンバーを拘束し―――っ!!!」

 

壇上にいた同盟員たちが、同じく獣のオーラを纏って物質的な『破壊』を伴う咆哮を、藤丸の言葉で覚醒した摩利に当ててきた。

 

次は爪が来る―――。

牙が来る―――。

そのオーラで体当たりを行う―――。

 

被せられた『魔法の獣襦袢(じゅばん)』から、幾らでも想像できる攻撃行動が、達也の深雪への防御に向かわせようとする前に―――。

 

講堂の窓を叩き壊して、紡錘形の物体が幾つも飛び込んできた。

 

そして紡錘形の物体―――手榴弾と言うにふさわしいものは、ガスを撒き散らすのではなく、そこから多くの『霊体』を出してきた。

普通の魔法師には見ることすら叶わないプシオンとサイオンの合成体が、次から次へと攻撃魔法も同然に人を襲っていくのであった。

 

(なんて周到な―――)

 

逃げ出そうと背中を見せていた連中に襲いかかるのは、獣人だけではない。

 

それを見て『現代魔法』の投射を誰もが行うも、狙いが着けられないだけでなく、『どこにいるか』も分からない。

 

しかし、あちらはこちらを傷つけるだけの殺傷力を秘めている理不尽に歯噛みする―――そんな中……。

 

「アーシュラ!! アッド(・・・)を!!!」

 

「勝手に食ってろ!! 叔父上(・・・)!!!」

 

『ゲヒィーーー!!! 親族には優しくしようぜアーシュラ―――!!!』

 

いつの間にか『鎧武者』のような姿となった壬生紗耶香と切り結んでいたアーシュラが、剣戟の合間に『四角い立方体』のようなものを霊を吐き出す『ガス弾』の中央に投げると、立方体がそれらを『吸い込んでいる』。否、アーシュラの言葉通りならば、『食っている』のだ。

 

『イッヒッヒ!! 極上ではないが、それなりに質のいい魔力だな。B級グルメってところか!』

 

ガタガタと自動で動く箱が、喋りながら食らっている様子を見ながら、達也は何とか術式解体が通じないかと術を飛ばすも―――。

 

『GRU?』

 

獣人と化した人間には無意味であった。それどころかその攻撃が、獣人にこちらを認識させてしまった。

 

『GRUUUUAAAAAAAAAA!!!!』

 

「無礼な―――その遠吠えを―――」

 

『GAAAA!!!!』

 

瞬発した獣人の姿を追って深雪も魔法のターゲッティングを着けようと画策するも、人ではない動き、獣ではありえない動き―――そして、あまりにも慮外の動きに付随して放たれる―――。

 

『GOAAAA!!!!』

 

遠吠えという圧が、深雪の体に貼られた障壁などを砕いて圧で身体を叩くのだ。

 

その様子に、達也の全身の血管が沸騰する。九重流の体術を用いて、獣人に追いすがろうとするも―――。

 

「下がれ司波!! こいつは僕が!!!」

 

間に割って入った森崎が、その獣人に対して術を仕掛けようとする―――。一科生としての意地なのかも知れないが。

 

(深雪に劣るオマエがどうにか出来るわけがない―――)

 

と、想いきや、踵を返して背中を見せた四脚の獣人の姿。そこに術が入るかと想った瞬間、柔らかい脇腹を叩かれる形で、森崎の右半身が奇妙に歪んだ。

 

その原因は至極簡単。獣人の『尾』が振り回されて森崎の認識外から叩いたのだ。

 

尾は鞭のようなしなやかさと大剣の如き硬度を持っているらしく、360度にヘリコプターのローターのように振り回されて、その高さにあったものを尽く蹂躙する。

 

瞬間の判断で深雪の頭を掴んで身を低くさせなければ、自分たちもどうなっていたか。

 

頭上で繰り広げられる悪夢を前に、深雪の悲鳴と風圧の音だけが過ぎ去るのを待つしか無い。

 

そして森崎はといえば……瓦礫と木材だらけの世界で潰れた右半身。特に歪に捻じくれた右手―――ものを持つことすらままならないを見て、絶叫を上げていた。

 

倒れながらも声をあげたことで――――。

 

『GURUUUU……』

『GYAAA……』

『GOAAAAAA……』

 

悪夢の如き破壊をありったけやった獣たちが勢揃いして、爆撃にさらされたような講堂の床に『よだれ』を垂らしながら血塗れで倒れていた森崎を見ている。

 

まさか。ウソだろ。冗談にしてほしい。やめてくれ。

 

如何に色々と改造された達也とはいえ、その『予想される所業』を前にしてなけなしの人倫、倫理観がアラートを発する。

 

赤い文字で覆われた達也の感情が、最大値になる。

 

それだけはあってほしくない。そんな場面は見たくない。冗談であってほしい。

 

『『『GAAAAAA!!!!』』』

 

大口を、咢を、嘴を一杯に開いた獣人たちが、一斉に瞬発した!

 

 

「駄目だぁああああ―――!!!!!」

 

もう遅いことは分かっていたが、絶望的に叫ぶことで、その瞬間を先送りにしたい想いが達也の中から出てきたのだ。

 

そして―――、森崎の体が生きたまま噛み砕かれ咀嚼されていく―――。柔らかい腸をパスタのように引きずり出して―――。

 

その様子を見て、噛み砕いて、啄んでいた歯ごたえの無さに怪訝さを覚える。

 

そして噛み砕いていたものが―――肉と骨と臓物(はらわた)ではないことにようやく気付く。

 

そこにあったのは、全て木片であった。バカな。その考えに先んじるように―――――――。

 

『スターズ。コスモス。ゴッズ。アニムス。 アントルム。』

 

歌うような『呪文』が聞こえる。かつての魔法使いたちが世界を変革するために行った世界に己を轟かせる術が、獣達の耳朶と肌―――細胞の一つ一つを震わせるようだ……。

 

だが、その歌は長くは続かない。呪文の結尾、終わりの始まりが刻まれる。

 

『 ──アンバース。アニマ、アニムスフィア──オルガマリー!!!』

 

その言葉に意味はあったのか……虚空よりきたる美しい『七色の星槍』が、獣達の体をさんざっぱら痛めつけ、そして獣のオーラが消え去る。

 

そして獣たちがいた場所には哀れすぎるほどに身を萎ませた老人のような姿の二科生たちが……それを一瞥した術者『藤丸立華』は―――。

 

静かに祈りを捧げる。その姿に少しだけ―――尊いものを感じて……それでもまだ講堂外での騒ぎは収まる気配が無いのだった。

 

 

 

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