魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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注意ですが、今回のセリフの一部には有名歴史小説のものが引用されています。

作家 和田竜 氏の『のぼうの城』のものです。まぁ結構、有名なセリフ、こないだ(一月前)もBSTBSで映画を再放送していたのですが、知らない人もいるだろうとして、とりあえず紹介させてもらいました。




第20話『更に闘う者たち』

 どうやら司波兄妹の危機は立華の手によって去ったようだ。それはいいが、アーシュラの敵は未だに粘っている。

 

―――源 頼光の魂が宿っている……。

 

 分かっちゃいたことだが、ここまでの力を持っているとは予想外であった。干将・莫耶の投影品が既に十は砕かれている。そして―――大振りの一撃が、十一を砕いた時に―――

 

「衛宮さん!!!!」

 

心配するような声で魔法―――氷の弾丸を壬生に投射しようとした真由美、四方から同時発射された亜音速の弾丸が、壬生紗耶香を襲おうとした時に……。

 

 剣戟一閃―――。亜音速の弾は、紗耶香の野太刀に絡め取られて、魔力の性質を残したまま、運動量を保持したまま全て真由美に返された。

 

 その早業に対応するには術理が及ばなさすぎる。速さで古式魔法を駆逐したはずの現代魔法師が速さで負けるなど……理解が及ばない頭でも、真由美の傍にいた服部と桐原は庇うように防御壁を張る。

 

((凌ぎきれない……!))

 

『音速』のドライアイス弾は、カタチを保持しながらも増大した魔力を物理的破壊にも利用した攻撃。それを前にして壁は病葉も同然のはずだ。

 

―――ゆえに―――。

 

 

「ちぇああああああ!!!!」

 

 

 それより前に、スカートであることも構わずに、ハイキックで2つを天井に打ち上げて、続く回し蹴りをコンマ数秒単位で遅れてやってきた2つに放ち、無人の壁にめり込ませるアーシュラ。

 その威力は、一部が吹き抜けとなった天井の様子と壁が崩れたことで察した。

 

「―――」

 

 壬生か源頼光の感情であるかは分からないが、アーシュラのやったことに明らかな動揺が顔に走る。

 

 

「―――アッド!!」

『ようやく出番か!! 待ちくたびれたぜ!!』

 

 ぴょ――んとカエルのごとく飛び跳ねてきた喋る匣が、アーシュラの手に収まると同時に―――。

壬生紗耶香は獣性魔術を発動した同盟の連中を引き連れるように、踵を返して大講堂の外に出口などを使わずに出ていくのだった。

 飛び跳ねるような運動能力は、魔法があったとしても驚くほどに心筋の理を無視したものだ。

 

 そして大講堂の惨状は……とんでもなかった。

 

 目を覆いたくなるほどに、あれもこれも破壊された現状―――怪我人は多いが、幸いにも死者(・・)は出ていない。そんなことは慰めにもならないだろうが、安宿先生が息せき切ってやってきた様子から、既にあちこちで戦闘が起こっているのだろう。

 

 

「アーシュラ、追いなさい。此処は私が何とかするから」

 

何とかするという言葉を言いながら、回復役として昏倒している同盟員も、風紀委員やそれとは関係ない生徒も癒やしていく藤丸立華の姿にアーシュラは、マスター不在であることを自覚する。

 

 

「リッカ―――」

 

「カドゥケウスとか、パナケアとか色々とあるならば置いていって。ごめんね―――回復アイテム全てを置いていかせちゃう」

 

「……気にしないで、アナタを信頼するわ。ワタシのマスター」

 

 淋しげな言葉とは裏腹に、『どこに隠し持っていたんだ』という勢いで、スカートの裾から藤丸立華の言う回復アイテムを出していくアーシュラの姿に驚きながらも、そのアーシュラは壬生と同じような運動能力で外に出ていったのだ。

 

 見送ると同時に立華は重傷者に対する回復をこなしつつ、自動の回復式を設置―――『抗生物質』と『栄養剤』の点滴を打つかのようなそれを終えて一息ついた。

 一息つくと同時に、俯いて絶望しているらしき七草会長に近づいていく立華。その姿は怒りを表すようにしていた。

 

 そして七草会長に近づいて立華がやったことは、俯いた会長の髪を引っ張り、顔を上げさせることだった。

 

 誰もが一瞬、気でも狂ったかと、そう言いたくなる行為をしながらも藤丸は声をあげる。

 

「俯いてるんじゃないわよ! これが、アンタが行ったことの、アンタの居丈高な考えが招いた顛末!! 俯く暇があるのならば、『ここ』にあるもの全てを背負うために見続けろ!!!  アンタには絶望する気持ちすら持つ資格は無いわ!!」

 

「―――藤丸!!」

 

 

 あまりにあまりな行いに、怒りで引き離そうとした渡辺摩利だが、どこからか現れた『星』が、摩利を物理的に藤丸から引き離した。

 

 髪を掴まれて惨状全てを見るように強要された七草真由美は泣きそうな面をしていた。だが、ソレ以上に藤丸立華の言葉は強烈であった。

 

 

「ここに至るまでの全てが、アナタだけの責任じゃないかもしれないけど、アナタの行動と言葉が、彼らのささくれ立った心にどれだけ無慈悲なものであったかを、考えたことがあるのか!?」

 

「―――私は、私ならば、変えられると、おもって、おもっていたのに……」

 

「変えられないわよ。変えられるわけがない。アナタの中に可能性を信じる炎はない。打算と計算高さだけが賢しい人間の言葉なんて、何も届きはしない―――!」

 

 

 乱暴に髪を離した藤丸は、それでも倒れた七草真由美を睨みつける。

 

 

「ここは魔法師社会の縮図だ。武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す!!」

 

 

 言葉と同時に周囲に立つ司波達也や司波深雪、その他の人々を眼で『はった』と見据える藤丸立華の姿に気圧される。その姿は『意』を体総てで体現していた……。

 

 

「これが人の世か。『魔術王』から取り戻した果ての世界が、ここまで澱んだ空気、腐った人理を形成するならば、私の祖母も祖父も―――『何のために』戦ったんだ!?  お前達、魔法師の誕生に祖母は喜んだ!! キリエライト―――神は最初に『光あれ』とだけ言ったのよ!!」

 

 

 それは―――どういう意味なのか、明確に分からない。けれど、怒りを持った藤丸の言葉は、真由美から大粒の涙を流させる。

 

 

「―――強き者が強きを呼んで、果てしなく強さを増していく一方で、弱き者は際限なく虐げられ、踏みつけにされ、一片の誇りを持つことさえも許されない!  これが―――お前たちが見てきた人の世か!? お前たちには、『霊長』全てが『獣』にでも見えていたのか!?」

 

藤丸立華という少女の、肚から出した呼気全てを吐き出す強すぎるその言葉は、深雪や達也、摩利を俯かせる。以前のアルトリアの言葉にも通じる。

 

 

「小才のきく者だけが、くるくると回る頭でうまく立ち回り、人がましい顔で幅をきかす。ならば、無能で、人が好く、愚直なだけが取り柄の者は、踏み台となったまま死ねというのか。それが世の習いと言うのならば……。

今―――お前達は、その『代価』を支払わされている。圧倒的な力で、あらゆる人間に、さんざん脅しをかけた挙げ句、和戦いずれかを問うて―――その実、『降る』に決まっていると、たかをくくる。そういう『態度』が全て見透かされたのよ」

 

 

 それは魔法師全ての悪行とも言える……。普通の社会でもそういうことはあり得るが……それでも魔法師は、その能力や求められている性質ゆえに、そういったことを『無意識』で行う。『意識的』にであろうとやることが多いが……。

 

 どちらにせよ、公徳心というものとは無縁なのが魔法師なのだろう。悲しい結論であった。

 

 そしてそれを外部から指摘されたことの恥を覚える。

 

 

「それゆえの―――この惨状よ。御子の血(ワイン)の底にある(おり)のように積み重なった怨念が、いま―――怨讐の刃となりて襲いかかった。それだけよ」

 

 

 それだけを言うと、立華の肩に乗るフォウ―――キャスパリーグという魔獣は、立華に頬ずりをして慰めている。

 

 

「さてと、言いたいことも言ったしね―――行こうかフォウ、 準備はいい?」

『フォーウ』

 

代わりにフォウの顎の辺りを撫でてから踵を返した藤丸立華。すると―――。

 

 

「―――ウソでしょ。ふわっふわの毛玉が2舐めしただけで全快に……」

 

 安宿先生の呆然とした言葉が、藤丸に注目していた全員から眼を離させた。その瞬間に藤丸立華は消えていた。

 

 

「―――………」

 

 

 残されたものたちは、何も言い返せずに、それでも達也は拳を握りしめて、このままじゃ終わらせないという決意をもって、外へと出るのだった。

 

 たとえ誰に咎められたとしても、それを行うのだと動くのだった。

 

 

†  †  †

 

 

 一足先に大講堂の外に舞い降りたアーシュラは、あまりにあまりな惨状だと気付く。

 

 ただの火器装備にアンティナイトとかいう石っころで、魔法使用を不能にしていればよかったのだが―――。

 

「ごあっ!!!」

 

 

 『獣』の頭突きでふっ飛ばされて、地面を転がる五十嵐とかいった同級生を見て、魔力放出の高速で飛び回るアーシュラは、アッドを弓矢に変えて獣に放つ。

 

 弓弦を引っ張り解き放たれた矢は、獣の脚に深々と突き刺さる。

 

「獣性魔術じゃない。魔狼か!!」

(サイス)になるぜ!!』

 

 見たことでアーシュラの意図を察したアッドが自動で鎌の姿を取って、それを真上から振り下ろして魔狼の体を上下に断った。

 

 

『ウマい魔力だ!   アーシュラ!! 次に行こうぜ!!』

「イエス、サー・ケイ!」

『そこはイエッサーでいいんじゃないかー?』

 

 

 魔狼の魔力を喰らい、腹を満たしていくアッドの不満げな声を聞きながらも、アーシュラは、次から次へと襲いかかる魔狼を切り倒していく。

 

 倒しながら前進をするアーシュラの勢いに、五十嵐 鷹輔は呆然とする。最初は姉の安全を確認するべく、女子のボード部の様子を見に駆け出したところで、こんな眼にあったわけだが……。

 

 ともあれ、鷹輔のことなど眼中にない様子でアーシュラ・ペンドラゴンは前進をしていき、強すぎる波動を持つ相手―――具体的に言えばサーヴァントのような存在を狙うべく動いていく。

 

 その様子は、傍から見ている分にはとんでもないものであった。高速で動く刃に巻き込まれる様子とはこういうものではないかというぐらいに、襲いかかる敵が次から次へと解体されていくのだ。

 

 そうして高速回転する粉砕機であり裁断機も同然のアーシュラがたどり着いたのは、校門前であった。

 

 

「まぁ別に―――どこから入っても同じだけど―――……ここからかぁ」

「衛宮さん?」

 

 

校門前の柵を押し砕きながら入り込んだトレーラー五台。そこから出てくるエネミーの数は、尋常ではない。誰かの呼びかける声を無視しながら凝視をする。

 

 

指揮をしていたのは―――。

 

「よう、嬢ちゃん久しぶりだな!」

 

 

気楽に挨拶をしてくる気のいい青豹のあんちゃんだった。その手には、前回は見せてくれなかった朱槍が握られている。

 

「どうも。数日ぶりながらご壮健みたいで何よりです」

 

「姫君から気遣いの言葉をいただけて、この『セタンタ』光栄の至り―――」

 

「やめなさいよ。そういう言葉、心にもない」

 

 

言いながら警戒は緩めない。今はラフなシャツに青いウォッシュジーンズ姿の青豹だが……。

 

「こっちに壬生って女の子は来なかったかしら?」

 

「サヤカの嬢ちゃんは、こっちじゃねえな。見当違いでワリーな」

 

 別に構わない。小さく謝る青豹に対してそういう想いで魔力を溜め込む。その様子に、エネミーをルーンで吐き出していた青豹は、薄く笑みを浮かべてから着ていた衣類を違うものに変更させる。

 

 数日前の一高襲撃において着ていた衣装。青豹が本当の意味で青豹になった瞬間だった。

 

 

「アッド―――制限(リミット)解放(ブレイク)!!」

 

『おうさ!  火の神が鍛えし最強の剣、青銅時代の大英雄(ヘラクレス)も振るいし巨大剣!! ここに解放!!』

 

『「マルミアドワーズ!!」』

 

 

 手に持っていた匣が光の粒子になる。黄金の粒―――数え切れぬものが一つのカタチを取ると、一つの明確な形へと変わる。

 

 それは奇怪な武器であった。匣の宣言どおりに剣であるというのならば―――と付くが……。

まず持ち手―――柄と呼ばれる部分が大剣という分類のものに比べても長すぎる。もちろん使い手が、巨人やそれに相応した人間であるならば分からなくもないが、それに比して刃の部分は短い。

 

 

 精緻な刻印―――魔法師には分からないが、今は失われた精霊文字が刻まれた黄金の刃の途上には、ハサミの取っ手のような流線型の輪があった。スパイクがあることからそこで武器を砕く用途もあるかもしれないが。儀仗剣ならば分かる凝った拵え。

 

 

 刃よりも分からないのは、柄尻にある巨大な魔石を内蔵した黄金の象嵌物。ちょっとした斧刃のように欠けた、半月刃も見事な拵えで、左右両端からは赤い下げ緒が下がっている。

 

 

 槍とも杖とも言えぬ奇怪な武器だ……。しかし―――。

 

 

「ほぅ!  まさか『そいつ』を出すとはね!!  こいつはちょっとどころじゃないぐらい楽しめそうだ!!!」

 

「前回はフラストレーション溜まらせて悪かったからね。今回は全力で相手してあげる」

 

 

 槍の英雄は、魔法師とは違いその武器の格を一瞬で見抜いた。応じるように槍からも漂う赤い蜃気楼のような魔力に魔法師が眼をやられそうになる。

 

 

(いままで隠していたのか!? これだけの魔力を!!)

 

 

 現代魔法では考慮されていない魔力量だが、ここまでの圧を発するとなれば、そういう理屈など屁理屈でしかない。

 

 太陽を直視出来ないような様子で眼を覆う―――校門前の敵勢迎撃を行っていた五十里 啓は、次いで己の多量の魔力を放出する衛宮 アーシュラの姿に瞠目する。

 

 

「啓! 女の子をマジマジと見ない!!」

「ぶっ!!」

 

 五十里は、後ろからやってきた婚約者によって眼を塞がれてしまったが、他の人間たちは見る。その多大な魔力が衛宮アーシュラの衣装を変えたことを―――。

 

 

 白銀のブレストアーマーだけを防具にして、身軽な白と青のローブ、首元にファーが着いたものを纏った姫騎士の姿が……。

 長い金髪は青のバタフライリボンと赤い紐リボンで結えられて、被るは小さな王冠……まるで王様のような後ろ姿―――後ろにいる大勢には見えないが、その額には刻印がなされていた。

 

 

「魔力最大顕現!!」

『マルス・ウルカヌス・カオスと接続を開始、是は人理を守る戦いなり―――』

 

 

言葉で黄金の魔力が『結晶化』した刃を形成。もはや現代魔法の理を無視した道理に誰もが驚きばかりをして、後ろから十文字克人率いる部活連のチームがたどり着いた時に―――。

 

「そんじゃ! おっ始めるか!!  英霊同士の戦いをよ!!」

「おう!!!」

 

 

目にも留まらぬ速さで槍を一回転させるランサーのサーヴァント、『クー・フーリン』に応じて、アーシュラも黄金の巨大剣を強風、轟風、颶風と巻き上げながら振り回す。

 

戦の儀礼―――それが終わると同時に音速の機動を果たす2人の戦士の姿―――。

 

 

人外の理で肉体を動かす魔人2騎と、それが振るう理外の武装とが正面激突、一高での戦いが激しさを増す合図となった。

 

 


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