魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
戦いは一進一退というよりも二進二退……という様相を呈していた。
朱色の棒……ファンタジーな表現だが、西遊記における斉天大聖『孫悟空』が持つ如意棒のような武器を手にしてこちらと渡りあう司 甲は、予想以上の強さだった。
如意棒という武器の性質、現代魔法で言えば伸長された長棒が、遠方からも容赦なくこちらを叩いてくるのだ。
そういった魔法で有名なのは、小刀程度の得物に力場を上乗せする『千葉流』の幻影刀だが―――
(そういった理屈じゃない―――)
古代ギリシャの槍衾陣形『ファランクス』のように持ち手が進んでくるわけではない。動かずとも伸びてくる得物が、こちらを痛打してくるのだ。
手打ちではない。達人級。あの槍兵―――クー・フーリンなどに代表されるサーヴァント並とまではいかずとも、決して手打ちではない『功』を加えた技が先程から真由美と摩利を二退させていた。
進んでいるのは、こちらを打ってくる司 甲と―――。
「―――ふっ!!!!」
その長柄の得物を苦にもせず距離を詰めて、黒白の双剣を振るう衛宮士郎のみだ。
しかし士郎も、その如意棒で築かれた距離を踏破するのは中々に難儀するらしい。
「なんたる『概念武装』だ。お前の知り合いには、贋作者でもいるのか?」
「オーランド・リーブ『署長』が呼び出したアレクサンドル・デュマのサーヴァントは、それを可能としたらしいですからね―――ですが、『先生』には劣りましょう」
「戯けが」
魔力でのダッシュ―――。アルトリアやアーシュラに比べれば、遅い限りだが並の魔法師では出せない速度域だ。
甲の真正面に躍り出た衛宮先生の攻撃。如意棒の突きと薙ぎ払い、叩きつけをいなしながらの接近戦。
それを援護するべく真由美はドライミーティアを四方八方から叩きつける。九校戦では魔弾の射手などとも称された魔法が、座標を問わずに放たれたが―――。
それらは、光と共に地面から浮かび上がる『文字』と、虚空に浮かんだ『文字』で封じられた。
(ルーン文字の刻印―――、あれだけの戦いの中でも地面に刻んでいたってのか!?)
虚空に浮かんだのは元々、身体に仕込んでいた防御術式だろうが、真由美が足元や目線よりも低いところから放ったものを迎撃したのは、新しく刻印したものだろう。
これだけ激しい戦いの中でも、それが出来る事実に驚嘆した渡辺摩利だったが、棍の片端―――衛宮先生に向けているのとは逆側―――石突といってもいい部分が、こちらに向けられていた。
銃口を向けられるように気づいた時には、先程―――不意打ちで倒された服部副会長のように、こちらに伸びてきた。
(狙いは―――真由美か!)
決して真由美が運動オンチというわけではない。それは親友である摩利も知っているが。
だからといって達人・玄人の功力極まる一撃に反応出来るかといえば、否だった。
持っていた得物―――短冊型の剣、ワイヤーで繋がれたそれを棍に絡めて動きを止めつつ、他の得物―――衛宮先生がどこからか寄越した日本刀(特大の魔力付与)で地面に押し止める!!
渡辺摩利は、そのプランを実行する。俄仕立ての二刀流。2人の衛宮に比べれば拙いものだろうが、それでも―――。
(それぐらいしか出来ない!!!)
高速で飛んでくる棍の片端、もはや真由美との距離は5mもないが、何とか凌ぐべく鞭剣を絡めようとしたが……その意を無にするように巻き付こうとした時には、飛んでくる棍は下段に翻り、確実に様々な物理法則を無視した動きの果てに―――そこから急上昇。
棒立ちではなかったが、予想外の動きをしたことで真由美の胸板を正面から強打した。血ではないが、何かの吐瀉物を吐いた親友は先程の服部と同じく大きく吹っ飛ぶ。
人体が破壊される勢いでの攻撃、何とか物理障壁で―――というのは甘い考えだった。そういった『壁』ですら病葉も同然に砕いて真由美を叩いたのだから、その勢いたるや計り知れない。
「――――っ!! 司ァ!!!」
あの一撃で意識を失った真由美を受け止めたあとに、憎しみで同級生を見る。
そりゃ確かに真由美は浅慮だった。浅はかな考えをさも妙案かのように語る人間であった。世事を知らないお嬢さんの言葉だったかもしれない……。
だが、それでもこんな風にされるほど―――。
「―――罪深くは、なかったはずだ!!!!」
支離滅裂な言動だと思われたのかも知れない。それでも叫ぶように言わずにはいられなかった。
――――――――返事は先程と同じ伸長する棍の打撃であった。
「ッ!!!」
逃げの一手。空振った棍の打撃は地面を強かに叩き、大量の火薬でも爆発したかのように、地面を発破するのだった。
すり鉢状に削り取られる学校の敷地。飛び来る土や石―――コンクリートの弾丸が、摩利と真由美を打ち付ける。
現代魔法の理ならば、同じことは容易く出来ただろう。
だが、いざ同じことを出来たからといってここまでの圧を感じただろうか。土砂瓦礫から、せめて頭だけでも守るようにしていなければどうなったか……。
「これで―――『邪魔者』はいなくなりましたよ? 剣製の英雄殿……」
「ああ、だが―――真っ当に打ち合うと思うなよ!!」
「怒りと憎しみ! そして様々なものを抱えてやってきてくださいよ!! 俺が三年間で見てきたここの醜悪さを―――打ち消すほどのものを見せていただきたい!!!」
そうして真由美と摩利を置き去りにして、戦いは2人の男に委ねられるのだった。
敗れ去った2人の周囲に幾本かの杖と剣が、林立して自分たちを癒やしているのだとしても―――心は傷ついたままだった……。
・
・
・
「ふん。こんなものか。これはスポンサー様に渡しておいて」
『承知』
『影』にコピーした記録媒体を渡して、あとは違う資料がないかを探る。
霊子ハッカーとしての技を用いれば、ナノセコンド単位で防壁を突破出来るわけだが―――。
「ミサヤさん。ここに近づいてくる連中がいる」
情報処理に没頭していると敵意というか警戒がおろそかになるわけで、パートナーが必要になるということだ。
情報全てを引き上げてそれらを記録しながら、相手を出迎える。
入ってきたのは3人。その中に―――。
「なんだ。アニムスフィアも姫騎士もいないわ」
「分かっていたはずでは?」
「まぁね。それで―――何か用かしら?」
その言葉を吐いた瞬間、3人全員が顔を顰める。
「アナタが玲瓏館美沙夜―――アルビオン派の魔術師ということでよろしいですか?」
「はい。ご丁寧にどうも、自己紹介が省けて嬉しい限りね」
代表して、一番ガタイがいい男子が聞いてきたのでそれに応える……。こちらを探ろうとする視線だが、こちらは別に作業服も何も特別なものを着ていない。いたって春用の装いに、あちらも拍子抜けしているのだろうか。
だが、達也と深雪が驚いていた理由とは、その姿形と声にひどく聞き覚えがあったからだ。
更に言えば、それがあまりにも無防備だったからだ。
「―――、アナタが首謀者か?」
「さぁ? 私が『依頼』を受けたのは、ここにあるデータを根こそぎ掻っ攫って、更に言えば魔法師に内憂をもたらせ―――まぁ大まかに言えば、そんな所ね。ハジメくんも幾らかはやったけど、紗耶香さんに源氏の大将様の魂を固着させたのは私ね。アナタが言う所の首謀者ってのは、そういう意味かしら?」
なんでもないことのように企みを暴露するミサヤという美女に、誰もが毒気を抜かれる。だが、怒りを奮い立たせて声を荒げるのがいる。
桐原である。
「あ、あんたが壬生を! あんないつ死ぬか分からないことをやったってのか!?」
「そうね。怒るかしら? 彼女が望んだことなのに」
「リスクを話したのかよ!?」
「話そうがなんだろうが、変わりはしないわよ。彼女の望みは、ただ1つ―――自分を認めない連中を、全て圧倒するだけの『チカラ』を得て―――全てを破壊したい。その為に、私は英霊の魂を彼女に宿した……それだけよ」
あっけらかんと人間を『改造』したと告白する魔術師の声と姿に、達也ですら怖気を覚える。そして例え糾弾の言葉が出てきたとしても。
―――遺伝子弄って生まれてきた
そんな風に返されると分かっていたので、目の前の魔女には何も言わない。
お互いが、あらゆる人間性を廃した
しかし、だからといって―――理屈で、弁で、言われたからと、それを納得出来る人間だけではない。
そういう人間だって魔法師にはいるのだ……。
「お前がぁあああ!!!」
段平振りかざしてかかった桐原、それに対して椅子に座るミサヤという魔女は一切構わなかった。
―――言葉が、出るまでは―――。
「―――
その言葉で彼女の足元―――資料室の少ない灯りでも出来ていた影から、巨大な『口』
「――――――」
「――――――」
「――――――」
古式に曰くの幻術かと想うほどに驚く達也。
何の『手品』なのだと驚愕と同時に恐怖した深雪。
そして―――いきなりの手応えの無さ、あまりに唐突な喪失感。ついで起こる―――多量の出血。悲鳴1つあげる暇も無く、意識を失う身体。
ああ、痛いなと想うこともなく、資料室の固い床に盛大に倒れ伏した桐原。
現実感の無さに達也ですら呆けた一瞬。いつの間にか椅子から立ち上がっていたミサヤが、達也に剣―――だろうものを振るう。有り体に言えば実用的ではない得物だ。
だが女の身でも振るうに難儀しないそれは、柄尻に宝石が象嵌されている剣だった。
一直線に突き刺そうとする剣を間一髪で躱したあとに、反撃を―――と想う間もなく、部屋にいた少年―――恐らく自分と同じぐらいの歳か下か―――という少年が、2丁拳銃を深雪に殺意と共に向けていた。
深雪も己を狙う存在に気づいたところで、達也も少年に敵意を向けた時には―――。
『GYAAAAAAAAAA!!!!!!』
ミサヤの影から出てきた『魔物』が、完全に身を晒してこちらを威嚇していた。
桐原よりも、自分たちの方が『美味そう』だと想ったのか、生き餌の方がいいのか、主人の下知なのかは知らないが、その遠吠えに注意を逸らされた時には少年とミサヤは資料室から出ていた。
分厚い複合装甲の扉。開けた後に閉めておけば―――とか言うレベルではない。あまりにもあっけない逃走。
「お兄様!!」
桐原も気がかりだが、今はあちらを止める方が先だとして、妹の言葉で『分解』を―――と思ったときには後ろ歩き―――。
何かに乗って移動しているミサヤは、こちらに先程の剣の切っ先を向けていた。その剣の回りに光の円環が出来上がる。
何であるかは分からない。だが、その円環が『壁』となって、達也の分解を先程から弾いている。
そしてそこから―――光波が―――強烈な破壊の光が廊下全てを覆い、上下に波打ちながらこちらに放たれた。
資料室の破壊すら意図したソレに対して、深雪が防壁を貼るも、その光波のサイオンの量と質の前では、嵐の前に叩き折られ吹き飛ばされる木枝も同然。
せめて深雪だけでも―――助けねばという想いで身を呈して庇おうとした瞬間、資料室の前に立ち塞がる影。
どこから現れたのか分からなくなるぐらいに唐突な登場を果たした金色のオーラが、その攻撃を完全にシャットアウトした。
それどころか……防御しながら―――。
『質のいい魔力だぜ! アーシュラ!!! こっちは任せろ!』
「ロック、イーグル・カルンウェナン!!」
桐原の腕を噛み食らった『魔物』に対して緑色に光る『槍』だろうものを背中から解き放ち、頭上から勢いよく突き刺していった。
それと似たものを達也は一度だけ見たことがある。
(あの時の演武場での芸当は、これの『初歩』のようなものか!?)
その威力がどれだけなのかは分からないが、魔物は重々しい咆哮を残しながら絶命を果たしたのか、何かの光の粒子に変化していく。
「アーシュラ……」
呆然としながら深雪が呟く。その後姿だけならばアルトリアを感じさせたが、それでも声の違いから、アーシュラだと断定したのだろう。
しかし―――何故、ここへ……。
その疑問に答えることもなく、どこから出したのだという巨大な剣を手に、アーシュラと魔女は対峙し合う。
―――Interlude―――。
校門前の戦い―――大量に現れた竜種。最下級とはいえ、その力は尋常の魔法師・魔術師を寄せ付けない。
何よりブレスを吐かないとはいえ―――。
(竜種の肉は超美味しい! ワイバーンは竜種の深海魚! 専門的に言えば『未利用魚』と言ってもいい存在!!)
喉の肉はブレッサードラゴンよりは落ちるだろうが、それでも全体的に美味しい!!
――――じゅるり。
昼飯がまだだっただけに、ヨダレが出そうになったアーシュラ。その姿と考えを『同類』ゆえに読んだのか、ワイバーンの殆どが青い顔をする。
ワイバーンなのに。緑と赤の鱗持ちなのに。恐怖で青い鱗になりそうなのだった。
「焼く! 煮る! 蒸す!炒める!! 千差万別の食べ方を実践するにいい存在!!」
明確に『食ってやる』と言われたことで、『ギュアッ!?』と驚くワイバーンの群れ。
「……まぁ確かにワイバーンつぅか竜種の肉は旨いんだけどよ。嬢ちゃんだと『共食い』にならねぇか?」
「安心して。ワタシの中のドラゴンは『悪食さん』!!!」
召喚したクー・フーリンが戸惑うぐらいに食欲全開のアーシュラ。その最中で戸惑うのは後ろにいる魔法師達。
ポカーン及び呆然とせざるをえないやり取り。しかし現れた飛竜は明らかに現代魔法が通じるような『情報量』ではないことが、ちょっとした魔法師の知覚でも分かってしまう。
全てはアーシュラに委ねられたのだが……。
そこに――――――――。
「―――アーシュラ!」
「リッカ!!」
後ろから現れたのは生徒会書記にして、姫騎士の親友だった。
彼女をここまで姫抱きで連れてきた茄子色の鎧を纏う美男子はアーシュラに深い一礼をしてから、戦列に加わる。
しかし、藤丸は少し違うことをしてくる。
「アーシュラ、来て早速で悪いんだけど、特別閲覧室に『跳んで』ちょうだい! イヤな予感がするわ!!」
その言葉を象徴するように、図書館棟の方から赤い棒が、ここからでも見えるくらいに高く伸びた。
その様子の前に、一も二もなくマスターの指示に従うと頷くアーシュラ。
とはいえ、ここを2騎でというのは酷だろうと、アーシュラは『宝具』を開帳する。
「その前に一騎付けておくわ。―――サモン・ラウンド・アヴァロン!!!―――『獅子の騎士』! 汝が名は『サー・ユーウェイン』!!」
『よくぞこの俺を呼んでくれました!! アーシュラ姫ぇえええ!!!
強烈な魔力の励起・アーシュラの全身から投射された魔法陣から一高の敷地内に、また1人の超常の騎士が現れる―――。その名は神話や伝説に『疎すぎる』大半の魔法師たちには分からなかった……。
だが『スゴイ存在』であることは、内包する『力』から分かるのだった。
「……『一年以内』に奥さんの元には帰れなかったんじゃないでしたっけ?」
「ギャラハッド! それは言わない約束だ!!」
「卿は相変わらず、暑苦しいな。まるでフランク王国の騎士のようだ。だが―――悪くはない」
声の主は、先ほどの獣人との激突の際に手助けをしてくれた存在。
いつの間にかアーシュラ達の近傍に現れた長い赤毛の騎士。目はほとんど開かれておらず、むしろ閉じているとしか見えない騎士は、『弓』と一応は見える武器を手にしていた。
そんな様子に物申したい女子が2人ほど現れる。
「な、なんかあの子の周りだけが、イケメン☆パラダイスになっている……」
「乙女ゲーの主人公か!? 守護聖さまを独占してんじゃねー!!」
すごくズルいという想いを持つ3年の平河と小早川が、何か言っているが、とりあえず無視して十文字は事の成り行きを見つつ、後ろを気にしていたが―――藤丸が何かをしたことで、今度はアーシュラの姿が消える。
豪奢な衣装と武器を手に何処に向かったかは分からないが、三騎のサーヴァントを置いて、何処かに『飛んだ』様子だ。
「藤丸、衛宮はどこへ?―――」
「特別閲覧室に、それより『ギャラリー』が邪魔です。どうやら会長と風紀委員長がかなりの大怪我を負ったみたいなので、全員で向かってください」
「―――下手人は、司か……」
摩利さんがっ!? という驚きの声を上げる千代田花音の声が聞こえつつも、ここにいてはマズイのかと想う。
「―――いまから始まるのは、神話伝説に生きた者たちのあり得ざる戦いの具現と同時に、ドラゴンステーキを得るための戦い―――今度こそ『流れ弾』で、あなた達が死んでも私は―――何も出来ません」
その真剣さを感じる言葉に、克人は思わず呑まれた。口調が強いわけではない、だがどうしてもその言葉は真実なのだと気付かされて、『あの時』と同じく悔しさを胸にしつつ、校門前に向けていた眼を学舎側に向けた。
「―――信じていいんだな?」
「この事態を解決する上でならば」
そんな言葉を最後に十文字克人は、捕虜を安全圏に引き連れながら、全員を校舎に誘導する。
年下の少女に気遣いをさせての情けない敗走を前にして―――克人は、それでも一高の親分としての務めを果たすことにするのだった……。
Interlude out……。