魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第24話『想いが空回る戦場』

 

 

 

改造された膂力、受け入れた魂が覚えている技、それらがアルトリアを穿ち―――そして……。

 

―――ライコウ……アナタが母親として、その子を守りたい想いが、いまの私には分かる……。

 

……しかし。

 

 

「これ以上、サヤカにアナタが憑いていれば、どうなるか分かっているはず―――それでもその子を守りたいと想う気持ちで、そこにいるならば……」

 

 

―――私は否定しなければならない。

 

光が螺旋を巻く槍を握りながら、衛宮アルトリアは、既に幾重もの再生できない傷を負った壬生紗耶香に飛び込む。雷霆を発生させる剣戟―――雷の剣を受けながらも懐に飛び込んだ時には―――槍は深々と紗耶香の胸を貫いていた。

 

 

―――あの時と同じだ。

 

 

自分の息子(むすめ)をカムランの丘で刺し貫いた感触を思い出す。あの時、あの騎士に王としての資格が無かった。だが、真に自分に王としての資質があったとも言い切れない。

 

けれど、それは否定しなければならないのだ。

 

 

「せんせ……い―――」

 

「今は休んでおきなさい。疲れたでしょうから、今は何も言わないでおきますよ」

 

「はい―――」

 

『五体満足』のままに昏倒した壬生紗耶香。弛緩した身体を受け止めて抱き抱えてから、床に落ちている砕け散った歪な短剣を見て息を吐く。

 

なんとも綱渡りであったが、何とかやれるだけは出来た。だが、まだ終わりは無いようだ。

 

 

魔力の鳴動。自分と似ているものが、特別閲覧室に『突然』あらわれて、そして下手人を追っていくようだ。

 

 

「あとはシロウに任せておきたいのですが」

 

そうもいかないか、それとも―――。

 

 

 

剣戟は絶え間なく続き、されど勝敗の天秤は既に着きつつあった。

 

双剣を握りしめて平然としている教師と、荒い息を吐いている生徒―――その姿と周囲の破壊の惨状を見た生徒たち(ギャラリー)は息を呑んだ。

 

そのタイミングを図って、教師―――衛宮士郎は声を掛ける……。

 

「―――そこまで憎かったのか、一科生の連中が?」

 

同じ所(都合がいい時だけ)では、同胞意識を持ち出しておきながら、違う所(そうでない時)では、徹底的なまでの排他主義。それが学内の校是だからと言って、それに従順でいられる人間ばかりではないでしょう」

 

「そりゃそうだな。だが―――その為にお前が『人柱』になるというのか?」

 

「誰かが声を挙げなければ、行動しなければ何も変わりはしないんですよ……別に、歴史に善にせよ悪にせよ、名を残す英雄になりたいわけじゃないですけどね……」

 

もはや息も絶え絶えな様子の司甲。

 

全身の細かい傷から噴き出る血のりに薄桃色に染め上げられ、如意棒は己から吹き出た脂で濡れ光り、染められている赤色には血もあったのだろう。

 

 

「先生……、司……」

 

「この学校こそが国の、世界の、―――『地球』(ほし)の未来の縮図だ。いらぬ物を淘汰し、他の意見を軽んじて、自分たちの信奉した価値観のみで『世界』を固定化する。

何故―――省みれなかった? 他を圧倒する強者であれば、何でも想うままにしていいのか? 他人がどうであろうと、構わないのか? そこに慈悲の心を持てない限り―――お前達はいつまで経っても『人理』を腐らせる『根』となるだけだ。何も分かち合えるものがないならば、それはいずれ世界の熱的死だ」

 

 

その言葉は何処までも、居並ぶ面子の大半を苦渋の顔に歪ませる。今回の全ての原因は、無駄なまでに人類社会に蔓延した『排外主義』を真似ようとしたわけではない。それでも結果的には『そうなった』。

 

 

この学校の硬直しきったシステムに対する不満と憎悪こそが、ここまでの惨劇を招いたのだ。

 

 

そして、結果論にすぎないが、現・十師族の直系の長男と長女が2人も入学してきたことも、二科に渦巻く怨讐に油を注いだ原因。

 

巌窟王エドモン・ダンテスのように不当に貶められたわけではない。だが、それでもシャトー・ディフの如き『監獄塔』に入れられていた事実こそが、全てを燃やし尽くす憎悪となったのだ。

 

 

「―――………」

 

沈黙し俯き、拳を握りしめることでしか、いまの克人は心を落ち着けられない。

 

全ては―――『遅すぎた』のだ。そう糾弾する無言の声が自分を苛むのだ。

 

 

「―――衛宮先生、あなたともっと早くに会いたかった。例え魔法師として栄達出来なくても、劣等生である俺のような存在を見てくれる人がいたならば―――」

 

 

もっと違った道もあったかもしれない。けれど、甘さは捨てる司甲。そんなものは甘ったれの言葉でもあると、武術を学んだものとして、引き締めたのだ。

 

 

「俺も、葛木先生や藤村先生(藤ねぇ)みたいな教師しか、もう思い出せないけどさ―――、その『姿勢』はよく覚えているよ。それを真似ていただけだ」

 

 

苦笑しながら、遠い過去の思い出に心を穏やかにする衛宮士郎。

 

寺の息子や市長の娘。 魔術の才能がなかったがゆえ、自尊心が肥大した色男―――いつでも学内トラブルの中心にいる呉服屋の娘……その他にも多くの未熟者どもが、あの学園にはいた。

 

ある意味で、両名は―――誰よりも『人を見ていた』。

 

そして……もう1人の『教師』の言葉が蘇る。

 

「―――成績表だけを見るな。微に入り細に入り『ヒトを見よ』。人間1人が、いろんな力を発揮するんだ。歴史・伝説に残る英雄も、最初はただの『ヒト』なんだ。そこから、最終的にどうなっていくのかなんて分かりゃしないんだから―――『能力』を見るなんてことよりも、『ヒトを見る』ってのは大切なことだな」

 

小国マケドニアから出て東方世界に進出していった『大王』に憧れた『教師』にして、カルデアの『軍師』のことを思い出した苦笑気味の士郎の言葉。

 

 

その言葉に、感じ入るものがあったのか、涙を滲ませながらも、一礼をした司甲は棍を構えなおす。

 

同時に士郎も双剣を握り直して激突の最後を覚悟する。

 

最後の決別―――。

 

題をつけるならば決着の時。爆発するような気合の声。剣道部の人間でなくとも、その声に竦む。

 

武術で言うところの『意』が飛ぶ。だが、士郎もまた目線だけで『意』を飛ばす。

 

お互いに殺意の偽攻を交えながら一直線に飛んでいく。

 

内蔵し、踵で刻んでいたルーンを全て開放しての爆発的な突破。砲弾の如き勢いは、直線速度だけならばアーシュラに匹敵する。

 

魔力の光を伴いながらの魔槍突進(チャージ)と双剣とが、交錯する。

 

リーチの差は歴然であったはず―――しかし、いつの間にか衛宮先生の黒白の双剣は……黒白の『双大剣』になっていた。

 

柄だけは、そのままに刃が伸びた結果……鳥の羽が寄り集まったような峰とは逆に刃は、どこまでも鋭さを備えていた利器―――それが、司甲の如意棒をいなしながら、懐にまで低く潜り抜けた時には、十字を刻む斬線が刻まれて―――。

 

 

「―――お見事―――」

 

その言葉を最後に、小さな血しぶきを出して崩れ果てる司甲の姿だけだった。

 

勝鬨の声すら上がらない。誰もが体と心に決して抜けぬ棘を打ち込まれたかのようだ。

 

こんな哀しい戦いが、何故起こるのだ……。

 

理由は分かる。動機はどこまでも根深いものだ。

 

しかし―――。

 

 

(俺は何をしていたのだろう……)

 

 

あの夜に己の未熟さは存分に思い知った。

 

自分の技能が通じないならば、もっと多くの人と交わるべきだった。自分に無いものならば、誰かに補ってもらうことを覚えるべきだった。

 

才能主義などというものを校是に掲げるならば―――。

 

(魔法という技能に『到った』ものたちは、全て『才能』があるではないか……。何故、そこで違うものだと分断を『当然』と思えたのだ―――)

 

取り返しのつかないものを覚えた時に、図書館―――その頑丈なガラス窓をダイヤモンドダストにして、三階窓から飛び出てくる存在に注意を向けた。

 

 

見た瞬間に、それがどうしようもなく敵であることは分かったので、克人はCADを操作。壁を打ち出したのだが。

 

「―――おらぁ!!!」

 

―――横合いから走ってきた『槍兵』によって、壁は空中で崩された。

 

強烈なまでの肉体。屈強にすぎる肉体は、背丈も厚みも克人を超えた剛力無双。露出した上半身に走る魔紋はいかなる意味なのかは分からないが、剛力の体躯を更に厚みあるものに見せていた。

 

それだけでも気の弱いものは既に気絶しそうであった。アレは魔法師であるとかないとか、そういうカテゴリーにあるべきものではない。

 

存在感。存在量。………魔法師ならばある程度は感じ取れる情報量が桁違いなのだ。

 

そして―――藤丸の記憶で見たとおりならば、その姿は合衆国の独立年に打ち込まれた『楔』にて猛威を振るった存在。

 

「クー・フーリン・オルタ!? 先生!!」

「4騎目の光の御子だと……」

 

降りてきた2人の男女を守護するように立ち塞がる狂王は、こちらを見据える。

 

校門前では未だに藤丸たちが戦っていることを考えれば、最悪の状況だ。

 

そんな中、女―――怪しすぎる魅力を持った赤目に黒髪の女が口を開く。

 

「―――お分かりですか? マスターエミヤ? これはいうなれば『詰み』というものです」

 

「まだ戦えるがね。俺も妻も娘も―――友人の娘もな」

 

「虚勢を張るのは、お止しなさい。『抱えた荷物』が多すぎては、どうなるか分からない―――そうではないですか?」

 

 

ぎりっ。 何かを噛み締める音が響く。勝ち誇ったように言う魔女に対して、誰もが悔しさを覚える。

 

これ以上の戦いが続けば―――。

 

 

容易く犠牲が増える。

 

認めなければならない。

 

自分たち、魔法師が抗えない力があることに。

 

 

この場での敗北を―――。

 

 

その事実に、魔法師たちが打ちのめされる。

 

 

魔女と少年を追ってきたのか、アーシュラとアルトリアが、図書館棟に近い位置で後ろから睨む。

 

その後ろから―――巨大化した『毛玉』―――フォウくんの背中に乗った司波兄妹と、怪我を負ったのだろう桐原と壬生の寝姿が見えた。

 

 

「それで―――どうしますか?」

 

再度の居丈高な降伏勧告……追い詰めたのはこちらのはずなのに、逆に袋小路に入れられた気分だ。

 

代表をして、少し意味は違うが、詰め腹切る形で衛宮先生が、それを受諾するのだった。

 

「いいだろう……今だけは生かしておいてやる。俺の生徒だけでなく俺の妻や娘に、こんだけの苦労をさせたことの代価は支払わせてやる。

その顔、俺に会うまで残しておけよ。叩き潰してやるからな」

 

「数多の魔術師に恐れられ、代行者にすら「悪魔」と呼ばれたアナタだ。肝に命じながら生きておきましょう」

 

殺意を込めて睨む衛宮士郎を最後まで笑いながら躱した魔女は、その言葉を最後に『空間転移』という現代魔法では無理なものを発動させて、一高校舎内から出ていった。

 

 

同時に校門前の騒動も終わりを刻んだように魔力の地響きが止まり―――、一高襲撃という大騒動は一旦の終わりを見せるのだった―――。

 

 

 

「ひどい有り様ね。四年前の打ち合いにしたって、ここまでのことにならなかったのに……」

 

校舎内の至る所、まるで野戦病院だ……重篤な怪我を負ったものも多数出て、魔法での治療だけでは手が回らない。既に救急車の手配はされている。

 

東京消防庁の役人に反魔法師的な思想がない限りは―――十台以上も大挙してくるはずだ。

 

それまでに、こちらで省略出来るだけのメディカルチェックをしておかなければならない。

 

養護教諭二人が、あちこちで泣き崩れてパニックを起こしそうな生徒たちの中を駆け回る。

 

 

「―――………」

 

「あなたが2年の壬生紗耶香さんに肩入れしていたのは分かるけど、今は治療に集中して。医科高校を出たんでしょ?」

 

「はい―――」

 

年齢としては大差ないはずだが、それでも既婚者ゆえにか厳しい言葉を吐く安宿教諭の言葉に内心で反発しつつも、治療を行っていく。

 

そんな小野 遥の内心を察したのか、子持ちの既婚者は語る。

 

「―――私も、少しは考えるわ。息子がもしも魔法師としての栄達を志して、それでも十分な教育を受けるだけの『才能』がないと判断された時に―――どんなことになるんだろうって……。

母親としては、健康で丈夫に生きていてくれれば、それだけで良いと思っていても―――子供がどうやって生きていくかを決める権利はないんだもの」

 

「安宿先生……」

 

「誰もが望んだものになれるわけではない。

誰もが望んだものを持ちながら生まれてくるわけじゃない。それでも自分の中にある『チカラ』を、何かの、社会や色んな所で役に立てたい。俗物的な言い方をすれば、自分の技能が歴史に名を残す様を見たい。

それすら出来ないからと、弁えた生き方が出来るほど、物分りのいい人間ばかりじゃない……本当、エミヤ先生の言う通り―――『人間』ではなく『才能』『技能』ばかりを見てきたツケよね」

 

 

それは自分にも通じる言葉だ。ただ、同僚の言葉は、母親としての重みを感じる。自分一人で生きてきたわけではないからこそ、その視点は目からウロコであり―――今の壬生紗耶香の心情を少しだけ慮るのだった……。

 

 

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