魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
いやーノリノリで書いて『こいつはスゴイぜ!!』(宇宙一のジャンク屋)な感じだったのだが。
あっちゅうまに、消えていた。
まぁ今現在、こちらを書きつつ魔法『時間旅行』を使って、何とかあの日の感覚を―――。
と言い訳しつつ新話お送りします。
事情聴取などしたくはないが、それでもしなければならないということで、保健室で白洲裁きのごとく、壬生紗耶香から事情を聴いていく。結論から申せば、言葉のすれ違いであった。
相手を気遣った言動が時に人の心を傷つけることもあるのだ―――。
「私じゃ、アナタの剣技の相手が出来ないことがすごく悔しくて、それで結局の所―――」
反魔法師団体と繋がった原因。それは渡辺摩利とのすれ違いが原因であった。
壬生紗耶香は2科生。
だからこそ、あれだけ見事な剣術が出来る渡辺摩利は相手をしてくれないのだと。そう感じた時には、全てが遅かった。
保健室のベッドにて泣き崩れる壬生紗耶香。摩利としても言い分はあった。だがそれは相手を気遣った言動ではあっても、決して相手が望んだ答えではなかった。
「お前が見た演武でのものは、しょせん魔法含めてのものだ。私では相手にならないと思っていたんだ。お前が求めた純粋技術としての剣技とは違っていたから―――」
「私は、それでも良かった! 今の自分に足りないものを得るためには、一度は上を見なければならなかったんだもの!!」
「壬生……」
結局の所、自分に汎用性ある魔法技術が得られないならば、今ある持ち物を突き詰めることで頂点と渡りあうことを求める。その心だったのだろう。
それを識るためにも格上との戦いは時に必要なのだ。
理屈で納得できても感情で納得できるかは別問題。
(まぁそういうのが分からない人なんだろうな。覚悟と情熱がそのまま『結果』に繋がるわけではないと弁えているだけ。本当の意味で熱意を持つものは無双の強さなんて頂を求めない)
(無辺の海原に漕ぎ出す勇気を持たないから、小さな山で誇っている。……サル山の大将ですよね)
武蔵ちゃん、
(ちょっと違うけどVR新陰流の巴御前さんもかな)
これらは現代にも伝わる剣豪の中の剣豪である。槍使いでいえば宝蔵院もいるけれども、ともあれ―――そんな感じだった。
藤丸立華とアーシュラの念話は聞かれていないが、話を聞いていないことを察したアルトリアのきつい顔が飛んでくる。
ともあれ、話の流れは―――こちらに移ってきた。
「そんな風に、再び―――渡辺先輩じゃなくて下級生の女の子……衛宮さん。アナタの立ち回りを見て、本当に嫉妬した……上級生だけでなく、下級生にまで私は負けるんだなって……」
その言葉を聞いて慰めというほどではないが、アーシュラとしても誤解は解いておかなければならない。
「まぁワタシだって、それなりにこちらのスパルタマザーから鍛えられてきましたからね。そして、ワタシからすれば壬生先輩の方が羨ましいですね」
「な、なんで?」
その言葉に、全員の注目がアーシュラに集まったが、構わずに口を開く。
「だって、先輩は剣が好きで好きでたまらないからこそ剣を振るっていたんでしょ? 『私』は『どちらかといえば』好きかもしれないけど、正直言えば、習わなくていいならば、やめたかったぐらいですよ。
リッカと同じく『天体魔術』や、生来の『妖精術』『精霊術』『魔王術』を極めていきたいなーと、考えていたぐらいですもの」
「―――」
「『私』の家は色々と特殊なんですよ。衛宮の名は色々と―――『人』から怨みも買っているし、名を挙げようと狙う輩も多い。この中には知っている人もいるでしょうから、詳しくは語りません」
魔法師の裏側に精通している人間たちは、その言葉を否定しないし、否定できない。
話は続く。
「結局の所、『私』の剣なんて最終的には、生きるために磨いた血みどろの剣、
その言葉を聞いたあとに、気づいているのか、気づいていないのか、紗耶香の眼から滝のような涙が流れる。
人の心に訴えかける言葉とは、こういうことを言うのかも知れない。保健室にいた七草真由美は胸を掻き毟る。
「己を活かした全てに感謝を込めた上での剣。そして己を越えたもののために剣を振るえる。己の感じたものを他にも伝えられる―――それこそが『活人剣』。私はあなたの剣にそれを感じたんですけどね」
「そんな大きなものが私の中には―――」
アーシュラの言葉に否定をしなければならない心が出てくる。そんなことを言っても、多くの人を混乱に招いた。騒ぎを大きくしてしまった。
これ以上の慰めの言葉は―――私には……。
そう想っていた時に、次いで口を開くのは―――アーシュラの母親。アルトリアという女教師であった。
「けれど、アナタは―――命の危険があっても源頼光の魂を受け入れて、それを以て戦いを挑んだ。まぁその手段の是非、咎の有無はありましょうが、己を燃やしてでも求めた剣は、誰かのために振るった剣です―――それを内心で誇りに思う程度で、私は目くじらを立てたりはしませんよ。がんばりましたね、サヤカ」
その快活な笑みでの『アナタを誇らしく想う』―――そういう『認めてくれた』言葉を聞いた瞬間、全てが崩れた。
壬生紗耶香が纏っていた
「あ、あーーーある、あるとりあ、あるとりあ先生……―――――――」
もはや明朗な言葉も挙げられない嗚咽。しゃっくりにも似た震えを出して、胸を貸したアルトリアの中で泣き腫らす壬生紗耶香の声にならない声が―――保健室どころか学校中に響きそうなのだった。
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「それで、これからどうするんだ?」
「このままやられっぱなしというのは、あまり好ましく無い。だからといって連中のアジトを強襲しても―――蛻の殻というのが一番あり得る」
保健室から出て、部活連の会議室に移動した主な面子。アルトリア先生と数名はそのまま残っていた。
当初はアーシュラと立華も保健室に居残るつもりだったようだが、無理やり引っ張る形で連れてきた。
摩利と克人の会話。なんとも剣呑な限りだが、このままいけば、壬生紗耶香は強盗の共犯ということで色々と厄介なことになる。
それを回避するためにもブランシュの壊滅は不可欠だとする話に、正直ついていけない。
こういう予防検束ばかりやっていたから怨みが募っていくということを、全然学習しないようだ。
メンドクサイから、アーシュラと立華はまだ『加工前』のドラゴンハンバーグをバンズで挟んだドラゴンバーガーを食いながら、議論の様子を見守っていた。
結論としては、警察の介入いやだ。壬生を家裁送致したくない。
真っ当な意見(?)としては、ここまでで。
最後には自分の生活空間を守り、我と妹の危険を排除するなどと、真っ当な倫理観があるとは思えない発言が司波達也から出てきたことで沈黙する。
「―――アルトリア先生の言葉を借りた上で言わせてもらうが、お前のその野良犬・喧嘩犬のような言い分を認めれば、我々は、法の軛などどうとでもなるなどと喧伝することにもなるぞ。それは人の世から外れた獣の理屈だ。認めるわけにはいかん」
ため息まじりに克人がそういうが、司波達也とて一歩も退かない。確かにテロリストがいて、それが襲ってきた。だから報復をする。
結論としてはそういうことだが、頭が痛くなる。
(こいつの法的規範はハンムラビ法典にでも占められているのか?)
立華がそんな風に司波達也に想っていたところに、タイミングよく現れる小野遥という養護教諭。あれこれ言いながらも、連中のアジトの場所を教えるということで介入してくるのだった。
そんな様子を傍目で見ていたのだが、結局の所―――ブランシュを敵と見定めた上で、本拠地にカチコミをかけるようだ。
粗雑な限りだ。そもそも―――。
(無意味よね)
(無意味だよね。結局、ミサヤさんと『シグマ』は任務を達成していったわけだからね)
克人の言う通り既に本拠地は蛻の殻なのだ。そもそも官憲でもないくせに、相手を倒すことを当たり前に考えているのが一番ありえない。
「それじゃ出てくる―――」
十師族の責任云々で、最終的に『車でGO!』するという克人に対して、学内に残る面子は「行ってらっしゃい」とか「気をつけて」とか言いながら見送っていたのだが―――。
その面子に『2人』が含まれていることに足が止まる。
「衛宮、藤丸―――お前達は来ないのか?」
「戦争をしたがってる暇な連中だけで行けばいいのでは? 私はもう少し穏やかに生きていきたいので、勝手にそちらの戦力に含めないでください」
「同じく。どうせサーヴァントどころか人っ子一人いない可能性もありますよ。まぁ殿として『死にたがり』ぐらいは置いているかもしれませんけど」
藤丸の突き放した言い方(手で追い払う仕草付き)と、無駄なんだからやめておけというアーシュラの言葉に、全員が渋面を浮かべる。
確かに、その可能性はあり得る話だ。だが、そこまで断定的に語る以上は、1つの可能性を示唆していた。
「あの玲瓏館美沙夜とかいう魔術師は、既にこちらの情報を全て盗み取ったっていうのか?」
「だろうね。聞く限りでは、君たち(ヤバい)兄妹と桐原氏が来た段階で、そちらに応対したということは、目的は既に果たしていたってことだよ。そもそも魔術師からすれば、魔法師なんてどうとでもなる相手だもの―――あの段階で火事場泥棒が済んでいなければ、4体目のサーヴァント『クー・フーリン(狂)』を解き放っていただろうしね。場合によっては記録媒体を物理的に引っ剥がすことも出来たはず―――」
あまりにも進んだ推理。藤丸立華の話すところは状況を類推すれば、『実に道理に適った結論』だった。
「私がアーシュラを特別閲覧室に送ったのは、その『可能性』をある程度『絞る』ためだよ。あの時点で君たちが何が何でもというのならば、待っていたのはゲイボルクの乱舞乱打での殺劇だよ。割に合わない」
「………つまり、もはや状況の打破に関しては不可能だと?」
「目的が何なのかってことにもよりますけどね。今後も情報窃盗のためにこんなことが起こるという仮定で、召捕り、斬奸を気取るってのならば、そいつは検束でしかないわ。人の心を囚えて、その人の魂を汚辱に塗れさせる行為」
克人の言葉に、『やられたらやり返す』のは結構だが、それで『何が変わるのだろうか?』ということを告げる。
少なくとも、そんな小さなものの為に戦いたくはない。特に立華の親友であるアーシュラの剣は、『憂さ晴らし』の人殺しのためにあるのではないのだから。
「………アーシュラもそれでいいの?……」
「まぁワタシと立華にお構いなく、『御用改である!』『手向かい致せば容赦なく斬り捨てる!』してきてください」
『十文字藩』預かりの愚連隊には入らないというけんもほろろな態度に、ポロロンという軽妙な弦の音が響く。
その音は、どことなくもの悲しげなメロディーに聞こえた。
「……サーヴァントが出たらば、どうするんだ?」
「物理法則の許す限り全速力で逃げてください」
「同じく」
達也からすれば、なんとも辛辣な言葉である。いや、自分たちだけで脅威も排除出来ないのに、赴いて無駄死にを出す……そのことを『分かっているのか?』と詰ってきているのだ。
頭を下げてでも同行を願うならば、それ相応の代償が必要になるだろう。
と想っていた矢先に―――。
「―――まぁこんな事だろうと思って来てみましたが、どうにもあなた方は反骨精神旺盛と言うか、なんというか……」
会議室の扉を開けて入ってきたのは金髪の女教師。此度の戦いで色々と動いていた人。結局の所、この人なくては事態は解決出来なかった。(旦那さん含めて)
「人殺しを『是認』『日常』として動く、人倫著しく無い連中に付き合いたくないだけです」
「それも1つの意見ですが―――事態は魔法師だけで解決できる『線』を越えています。ここにオルガマリー、今はなき『藤丸立香』『マシュ・キリエライト』がいれば、何はなくとも動くはずですよ――――」
「「………」」
ふてくされるように沈黙する美少女2人。
ソレに対して優しげな苦笑をする金髪美人教師。多分だが、達也たちには分からない『何か』があるのだろう。
それがあるから、アルトリア先生も、風紀委員や生徒会就任の時のように無理強いはしていない。
「―――いざとなれば、私が『槍』を使うことで終わらせます。それでもよろしい?」
「……分かりました。アナタに『槍』を使われては―――ここが『ロストベルト』のような異聞史になりかねないですから、娘さん―――お借りします。その上で事態を全て解決してきます」
「はい。不承不承ながらも良い返事ですね。アーシュラ、エハングウェンを使っていいので、空から強襲しなさい」
「やたっ♪ 久々にリッカとお空をクルーズだ!」
エハングウェンというのが、耳ざとくもあの巨大な飛行船ないし、あの船の装置であることは聞いていたので、アーシュラの言葉でなんとなく達也は推測した。
だが『槍』とはなんだ? ロストベルトとは―――様々な疑問を達也が含みながらも、話はとまらない。
「他の子たちも乗せて上げなさい。特に4,5年前のように、十文字家の車をオシャカにしては色々と申し訳ありませんから」
「その節は色々とありまして、どうも―――というか、オヤジが随分と先生と話していたような気がしますけどね……」
昔話の類は、なんとなく話が長くなるがそれでも、色々と過去が謎な衛宮家のことを知るに―――
「ああ、それは簡単です―――私はカズキから言い寄られていたんですよ」
―――全くふさわしくない言葉が出てくるのだった。
そのあっけらかんとした言葉に、一同(アーシュラ、立華のぞき)吹き出す。
カズキというのは十文字会頭の父親で、十文字家当主『十文字和樹』のことだろう。
最大級にビックリしたのか、咳き込むのは七草真由美だったりもする。
「なんでも『ケイコ』と婚約する前に、金髪のスラブ系美女といい感じだったとか、そんな話をされましてね。まぁ秋波を寄越されるとまではいかずとも、色々と思い出したんでしょう。―――長々と会話しましたよ」
心底迷惑だったわけではないが、夫も娘もいる女に対して覚えるものではないだろうという汗をかきながらの先生の苦笑もレアだったが。
「そ、その節は色々とオヤジがご迷惑をお掛けしました……」
作った笑顔。頬を引くつかせながら会話に応じる会頭のレアな姿にも色々と想う。
十文字家の秘された歴史というわけではないし、醜聞というほどでもない。まぁフライデーにすっぱ抜かれる程度のネタだろう。
―――魔法師を主に扱う芸能雑誌(電子版)があれば、高値で買い取ってくれるネタだろう。ありえない話だが。
だが益体もない感想を出している達也が知らぬところで、この話には『続き』がある。
かつての恋人を思い出させるアルトリアとの面会を経て、十文字家当主和樹は、かつての恋人の行方やどうなったかを、ふと今更ながら調べてみることにしたのだった。
別に『七』のように公然の秘密な『愛人関係』などを求めたわけではない。
いま、誰かほかの良人が出来て親密ならば、それを素直に祝福出来るし、あの頃のことに決着もつけられたのだが―――事態は、和樹が思いもよらぬものを含んでいたのだった……。
調べた結果に、一番苦悩して『将来的な不安』。
己も陥っていることになるのではないかと、不安をもたげながら私的な頼み事として衛宮家に頼らざるを得なかったのだが……そのことは多分に蛇足である。
そんなわけでアーシュラも立華も北海道にいる『キグナス』たちとは知り合いであり、姉貴分として世話を焼いてもいるのだった。
「と、とにかく! 『ここ』に直行で行きたいんだ! アーシュラ船長!! 悪魔の実の能力者でも、覇気も覚えていないが、 俺もこの船に乗せてくれ!」
居たたまれなさを感じたのか焦った様子で、金ひげ海賊団の旗船への乗り込みを願う会頭。
というかアーシュラが
「いいでしょう。乗船を許可します! ようこそ! 七つの海とホシのソラを支配するゴールデン・ハインド号へ!!」
どっから出したのかキャプテンハットを被ったアーシュラが、満面の笑みを浮かべて手を克人に差し伸べていた。
アーシュラの語った船名……大英帝国の基礎を成し得た私掠船の名前である。そして、その船は部活連の会議室の窓の外にあった。要は横付けされているのだ。
そんなわけでカチコミに行く面子が乗り込む中―――。ふとアルトリアの方が、司波兄妹は気になった。
(母親、か……)
達也にとっての母親は、いろいろな異名や能力を持つ人だった。
その伝説を見知っていたが―――、人物としての母、司波深夜という『母親の顔』を鮮明に思い出そうとした時に、兄妹で出てきた顔が一致はしなかった。
「―――アルトリア先生」
「はい、なんでしょうか?」
「―――いつかでいいんで、アナタが見てきたお袋の姿を教えてくれませんか?」
その言葉に――――。
「ならば、まずは生きて帰ってきなさい。話はそれからですよ」
「「―――はい」」
その言葉。言外での『いってらっしゃい』を言われた気分のままに―――戦いは第2局へと移行するのだった。