魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
結局の所―――こうなった原因は何だったのか分からなくもないが、ともあれすすめられた椅子に座りながら、淹れられた緑茶―――かなり美味なものをすすりながら、目の前の教師の言葉を聞いておく。
「別に俺の発案じゃあないし、前置いて言うが、俺はお前が『妹』から離れられないことはよく存じている。その上で職員室の教師全てではないが、多くの意見としてお前を『四高』に転校させるべきなんじゃないかという意見が出てきた。ああ、分かっている。だから『前置いて』言ったんだよ。
何でお前を四高に行かせたいのか、別に教師がお前を疎んじて、そんなことを言っているわけじゃない。
四高に行けば、一科生として卒業できるし履修授業もむしろお前向きだ。だからこその薦めだ―――以上を踏まえて、お前の意思はどうなんだ?」
一息に大量の情報を入れてきたジャージ姿の教師、ジャージの下のシャツには『親馬鹿』と途中までプリントされたものが見えていた。
そんな二科の担当教師『衛宮士郎』の言葉に対して、言われた『司波達也』は……。
「ありがたい申し出ですが、言われた通り―――妹を1人にしておきたくないので」
「分かった。戻っていいぞ」
……呆気ないやり取り。それに対して達也としては、何とも言えぬ肩透かしを覚える。
何というか、引き止めもしないのか…というこちらの心情を見透かしたように、未だに残っていた達也を見る士郎先生は、一度だけこちらを見てから言う。
「面倒くさい女みたいな態度を取るなよ。お前みたいな狭い価値観で、我道を行く人間に俺は何も言わないんだ。『矯正』しようがないからな」
それは『教師』としてどうなんだろうと想うも、まぁ正鵠を射た言葉ではある。
「本命は、西城と千葉―――それに追随する次点が光井と北山ってところか……大穴で司波だろうが、あの子は他の人間が怒っていれば、ソレ以上は何も言わないだろうな」
意味不明な言葉だが、それが達也に向けた言葉ではあると理解できた。
だから問い返す。
「お前が職員室から出たあと、友人一同に『四高』行きを薦められた話をした後の反応だよ。お前の周りの面子は、教師だろうが何するものぞと、『善意』での薦めを『地獄への道』か何かのように語るからな。恐らく西城と千葉が『筋違い』な話だと憤り、千葉辺りは、教師の能力を疑う発言にまで行くだろうな。
まぁ2科生で、ナマの授業なんて殆ど受けてないから仕方ないがな」
言いながら、シガレットケースのようなものから揚げられた何かを出して齧る士郎先生。
タバコの代わりなのだろうが、実に美味しそうなスティックタイプのスナック菓子だ。
だが言ってきた言葉は―――中々に先んじたものだ。
「一応言っておくが、指導できないから追い出そうなんて穿った
善悪全てを持つからこそ人なんだよ―――端的に言えば、教える立場からすれば、お前みたいなのはいてくれた方が助かるんだよ。あいつ剣術道場にいるくせに、師範と師範代の関係性すら分かっているとは想えないからな」
すごくエリカに対して『分かっている』発言が出てきた。言葉の続きが聞きたくて、達也は話を促す。
「つまり―――先生方からすれば優秀生がいてくれたほうが助かる、と?」
「お前の中学から送られてきた指導要録を読ませてもらったが、妹よりもお前のほうが、先生方から話されることが多かったみたいだな。たいそう優秀な生徒だと好評だぞ?」
「……今回の期末の通り座学や学科は、俺のほうが得意でしたから……」
「俺たち教師が考えるのは、ついていけない生徒をどうやって指導するか、だ。やれるやつだけ集めて、そいつらだけが上り詰められるならば、『教育』の意味は無いからな」
ふと、その言葉に皮肉げな顔が先生に浮かんだ。思い出しているのは、数ヶ月前のことか、それとも……『別のこと』か……。
「だからこそこの一言で締めくくらせてもらう。いいか、聞き逃すなよ――――」
長々と語ったが、最終的にはこの一言に集約されていると言っても良い。
「―――『あまり大人をナメるな』、以上だ。戻っていいぞ」
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―――ところ変わって休憩スペースの丸机にて、先刻の話を語ったところである。
「以上が、俺が試験に関する『諸々のこと』を皆に語った後の、皆の反応を当てた士郎先生の見事な推理なわけだ―――」
結局、自分が語り方が悪いのか、それとも変な信頼を寄せられているのかは分からないが、大当たりとなったわけで。
特にエリカは顔を突っ伏して、恥の多い生涯を送ったかのようになって、隣に座る美月を心配させていた。
また明確な言及こそ無かったが、雫もまた『むすっ』とした顔でストローを吸っているのだった。
「しっかし、俺もコイツもそこまで分かりやすかったかね?」
コイツなどと言われても、不機嫌を示さず突っ伏したままのエリカ。重症のようである。
「士郎先生からすれば、かなり分かりやすかったらしいな。まぁ俺もあえて『悪意的』に語った部分が多かったから、みんなが誘導された形になったかもしれんが……」
レオの苦笑しながらの言葉に、同じく苦笑しながら語る達也。話の転換をするべく何気なく試験結果『そのもの』に関して移ると……雫が若干、不機嫌なのは―――。
「にしても深雪さんが『3位』ですか、いまはいませんけど、アーシュラちゃんも、立華さんもスゴすぎますね」
「あれはインチキすぎる……けれど、『魔法使い』としては、2人の方が『正道』だって分かっているから、何か複雑な気分……」
「インチキって―――雫……」
美月の言葉に反応した雫が多弁となって、そんな事を言って、少しだけ嗜めるほのかの構図となっている。
実際、今回の期末においての順位は実技だけでは―――
1位 衛宮アーシュラ
2位 藤丸立華
3位 司波深雪
その下の4位、5位に雫とほのかが続く形となっている。まるでアマゾネスの王国『アナトリア』のような様になっていることに色々と言いたい様子だ。
「理論では若干落としたが、実技の評点に
「深雪に対して殆どダブルスコアの評点とか、アーシュラのポテンシャルはどうなってんのよ……」
達也の言葉に端末を立ち上げつつ、ようやく顔を上げたエリカの嘆くような言葉の通りに、期末試験の結果は貼り出されて、色々と物議を醸している。
だが、達也の理論試験ほど疑義活発ではないのは、常日頃競い合うように、実技訓練を行っている一年一科生の中で、アーシュラに黒星を誰も着けられない現実を思い知っているからだ。
立華の方は、深雪でも3回に1回はなのだが……。それでも驚異的なものだ。
そんなこんなで話題は、期末試験が考慮に入れられる九校戦へと移行する。
(九校戦か……深雪にとっては雫と同じく、お披露目の場だからな)
気合いは当然のごとくある。事実、寺での特訓などを所望していることからしても分かるのだが。
(俺がやきもきすることでも気を回すことでもないが、藤丸とアーシュラがどんな風なのか、だ)
あの2人はローテンションな時はとことんナメた態度だが、トップギアに入ると途端にプレデトリーな立ち回りを見せる。結果としてもたらされるものは最上級なのだから、何ともややこしい限りである。
「―――アーシュラは弓道部、か」
ぽつりとつぶやいた達也の言葉だが、皆の耳目を集めるにはふさわしかったようで―――。
「行ってみます? 場所は分かるでしょうけど、観戦場所は決まっているんですよ」
「美月も行くのか? というか、口ぶりからして何度か行っている風だな」
「アーシュラちゃんの弓―――専門用語で
その言葉に、委員長の言う後任に対する資料作りはすでに終えていることを考えれば―――。
「期末試験1位さんの顔でも見に行くか……」
今日一日は、会う機会が無かった知り合いの顔を拝見しに行くのだった。
「おやおや〜 袴姿の金髪美少女に会いに行きたいの〜〜。達也くんもオトコのコだねー♪」
ここぞとばかりに達也に絡むエリカの言葉に、ほのかが少しだけ哀しそうな顔をしたが……。
「胡乱なことを言うなよ」
軽く返しながら立ち上がり、弓道場へと向かうことになる。別に急ぎというわけではないのだが、それでも向かうとなれば、早めに行くのは吝かではない。
当然、行った時にアーシュラの射が始まっているとも限らないのだが―――そんなことを失念してしまうぐらいには、少しだけ『何か』を感じるのだった。
そして赴いた先では美月の言う通りに、観客が長い横列を二段ほど作っていた。
いつぞやの七草真由美の実技観戦の時の如く―――。だが、あの時とは違い、誰もかれもが静寂を保っていた。
確かに弓道は集中を要するもので、必要以上の雑音を嫌うものだ。静粛さが好まれるのはゴルフやテニスと同じくなのだが……。
背丈の高いレオと達也は、どこからでもそれなりに見れるのだが、女子衆は違う場所へと移動。
すると少しだけざわつきが出た。どうやらアーシュラの射が始まるようだ。
一礼をして射場―――詳しい名前は知らないが、立ち位置のところに移動するアーシュラの姿。
女子の弓道スタイルに違わず、白い胴衣に黒袴、そして胸当てをつけている。
髪型はいつもどおりのポニーテールのはずなのだが、この格好のアーシュラは『何か』が違うと想えた。
細められることもないまん丸に象嵌された翡翠のような眼に吸い寄せられる。
しかし、その眼が見据えているものは黒と白の丸的。
けっして他の誰か―――男の姿を灯すことはない真剣なものだ。
半身を向けて作法通りに構える姿は堂に入ったものだ。
―――惚れ惚れとしてしまう。
ちょうどよくというか観客だけではなく、道場にいる部員ですらアーシュラの射を見るべく後ろに下がっている。
その事には感謝だ。アーシュラの様子が具に見える。
弓に番えられる矢。他の部活動の喧騒の音すら、その姿に見入るとかき消される……。
弓弦が引かれる動作。矢と弓と身体が一体となった全て―――。
拙い知識だが達也でも知っている『射法八節』を刻んでいくアーシュラの動作。
放たれる矢。
弓弦が解き放たれ、震える玄妙な音を残して矢は―――的の中心近くに的中する……。
それはもはや見るものが見れば分かるものだった。
30メートルは離れた的。その中心。
矢は真中にある……それだけの確信を以て、放たれているのだ。
手元にあった矢は四本。その全てが外れることなく的に当たったことで皆中となる―――。
残心とも言える所作をしてから、最後の礼の後に後ろ足で下がるアーシュラは満開の笑顔を作る部員たちに迎えられる。
同時に観戦をしていた面子も歓声と共に拍手を送る
渡されるタオルで汗を拭きながらも、アドバイスを求める人間たちに『笑顔』で手解きをしていく。
中には多分、学年が上のものもいるだろうに、なにも拘るものはない様子だ。
(ああいう顔もするんだな……)
いいものを観せてもらった以上に、何だかこう釈然としないものを覚える。
「―――つ―――」
「―――たつ―――」
第一、男子部員なんて下心満載なのに、何の衒いもなく近づいて弓の張り方から色々教えて……。
「おい達也っ」
「――――――どうしたレオ?」
「いや、どうしたはこっちのセリフだぜ。何度呼びかけても反応しなかったからな」
「……そうか、悪かったな」
手を上げて、レオに謝罪をしながらそこまで見惚れていた事実に驚く。
何かの魅了系統の魔術でも掛けられたのではないかと想うも……少しだけそうでなければいいなという感情があるのだった。
アーシュラの射の見事さに感心したようで、女子陣が少し熱を帯びながらやってくる様子。
あんまり見学ばかりしていると他の部員たちの練習の邪魔になるだろうと、『弁えた発言』をして去ることにした。離れる寸前でアーシュラがこちらを見てくれるかと期待したのだが―――それは無く……。
代わりに―――。
『ワタシの『射』の
などというメールが端末に飛んできたのを読んで、やれやれと苦笑気味に思う。
(特に俺がかかずらうことでも、気に病むことでもないが、あの調子ならば九校戦でも大丈夫なんだろうな)
と―――達也が安堵していたのも束の間……。
放課後の生徒会室にて、
聞いた瞬間、深雪は驚愕していたが、ソレ以上に驚いていたのが―――。
「ち…超スーパーすげェどすばい……」
などと、どこの方言だと言いたい発言で驚きを表現する、中条あずさが印象に残ったのは追記しておくべきことだ……。