魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第29話『BAD END1』

 

 広い風紀委員会本部。そこに男と女が1人ずつ。

 

 別に色っぽいナニカがあるわけではない。一方は、パネルを軽快に打鍵しながら資料作成を行い。

 一方は、頭を抱えて苦悩のため息を吐いている。

 

 資料作成が男で、ため息が女。

 

 司波達也と渡辺摩利。風紀委員と風紀委員長とが揃っていたのだが―――。

 

「達也君……」

 

「後任委員長への資料作成は順調です。安心してください」

 

「あ、ありがとう……いや、そうじゃない。それも嬉しいんだが……」

 

「―――」

 

「分かってるんだろ? 私『達』の悩みが……」

 

 それは当たり前だった。今日の昼休み。自分を九校戦の技術スタッフにするというプランを思いついた後に、明かされた衝撃の事実。

 生徒会の面子は知っていたが、風紀委員の摩利と達也は知らなかった事実―――。

 

 それを聞いた後と、見せられたファイル。

 九校戦の出欠場の確認(電子ペーパー)の中に『欠場』にサインをしたのは―――。

 

 

「一学年の最優秀生と次席生が出ないなんて前代未聞だぞ……」

 

 ―――衛宮アーシュラと藤丸立華なのだった……

 

「前例は覆す為にあるんじゃないでしたっけ?」

 

 がっくりと頭を落とす姿に、今日の昼の文言に掛けて、そんな事をお道化て言うが、きっ、と睨むように頭を上げる様子を、画面に目線を向けていても何となくわかった。

 

「こんな前例破り! あってたまるか!……とはいえ、『家の事情』があるならば、仕方ないのかな……」

 

 激高するように言うも、最後の方には意気消沈する様子なのは、その『欠場理由』が正当すぎたからだ。

 

 家―――ふと考えるに、衛宮家の人々はいつも見ているから分かるが、藤丸家というのはかなり謎だ。

 本人曰く『魔術家』であることは間違いなく、その来歴は、まぁあまり語られていない。

 

 ただ、叔母が語るところの藤丸立華の祖母『アニムスフィア大師』とやらが、 開祖なのではないかと想う。

 

「……因みに聞きますが、2人をどの競技種目に出す予定だったんですか?」

 

「アーシュラは、氷柱倒しとミラージ―――もしくは運動神経のとんでもなさで、バトルボード。クラウドでもいいかとは想っていた。

 藤丸の方は早撃ち単独か、余裕があればアーシュラが出れないものに出てほしかった」

 

 随分とあの姫騎士に、多大な期待と重責を負わせようとしていたようだ。その一方で藤丸立華はフレキシブルに動かす予定だったことが明かされた。

 

 しかし、その前提が崩れたのだから、どうしようということに今、学内の関係者は悩んでいるのだ。

 

 特に作戦立案を行おうとしていた市原鈴音や三巨頭の1人である十文字克人は、バターンとぶっ倒れたという噂も出ているのだ。

 

 

「―――とにかく明日の放課後に部活連で問い質す。士郎先生やアルトリア先生にも出席してもらうぞ」

 

「それであちらの態度に変化が出ますかね?」

 

「……実を言うと、十文字はこの話が出た後に即座に両先生に仲介を頼んだそうなんだが……」

 

 その苦笑いで、もう結果は分かる。今回の事に関しては、あのラブラブ教師夫婦も『何も言っていない』ということだ。

 

「……九校戦は、若年の魔法師にとって夢のステージなんだがな。あの2人にとっては、そうじゃないんだろうか」

 

「―――案外、そうかもしれませんね。我々だけがジタバタして右往左往しているだけで、あの2人からすれば―――」

 

 

 ―――たかだか『九校』360人程度の争いなんて、何の優劣に繋がるというんだ?―――

 

 そんな『価値観』で動いていてもおかしくはない。

 

 だからこそ家の事情を優先している―――そういうことは『邪推』だとしても、概ね間違いではないのではと想いつつも、ここでは結論は出せない。

 

 そんなこんなで達也は嘆き悩んでいる渡辺摩利を後目に、資料作成に勤しむのだった。

 

 

 そして翌日の放課後……。

 

 部活連の会議室にて行われる九校戦準備会議にて波瀾は起こったのだ。

 

 まず第一の波瀾は達也がエンジニアとして登録されたことに対してだ。好意的な意見は多かった。

 もちろん反対する意見もあるにはあったが……最終的には理屈屋ではないところが理解されていたようだ。

 

 寧ろ、ランサーのサーヴァント『クー・フーリン』を相手に立ち回った際のことも含めれば、選手登録で、モノリスでもいいんじゃないかという声すら上がった。

 

 当然、一科の同学年(同級生にあらず)、突き放して言えば『同い年の人』の男子たちは、あまりいい顔をしていなかった。

 

 ともあれ、今はエンジニアだけで登録ということで、それは一応、桐原の男気あふれる行為、CADの調整を請け負ってもらうことで何とかなった。

 

 そんな桐原だが、ブランシュ事件で失われた腕に関しては、士郎先生とアルトリア先生の伝手で、『腕のいい人形師』に義腕を用意してもらったとのこと。

 

 その義腕の精巧さという一種のイレギュラーは、達也の調整能力の前では想定内の誤差であり、そこも含めて調整すると……。

 

 

「その義腕、『えんずかった』のでは?」

 

「精巧すぎるんだよなぁ。性能が良すぎるというのも難点だ。とはいえ、Thank you。オリジナルよりもこっちの方が通りは良いな」

 

 そんな言葉とCADの読み込みで、司波達也の能力は他人からの太鼓判(中条あずさ、五十里啓)もあって証明されたのだった。

 

 

 そして議題は最大の難関に入ろうとしていた……。

 

 誰もが緊張を果たす。緊張していないのは夫婦一組と一年2人と猫一匹だけである。

 

 この中では唯一の三巨頭など執行役員と対面のカタチとなっている一年2人は、達也のように出場するからという席にはいないのだ。

 

 つまりは例外中の例外は―――。

 

 

「セラエノ断章の第二節よりも、ネクロノミコンの方がいいかな?」

「うぇっへへへ! ルビーの最高位『ピジョンブラッド』のように鮮血を思わせる刀身、これでナニカを斬った時を想像すると―――イーヒッヒッヒッ!」

 

 

 

 完全に魔女のようにとんでもないものを読んでいる美少女2人なのだ。

 この学校における最大級のイレギュラー。この2人に比べれば、達也などちょっと変なヤツ扱いだろう。

 

 

「―――では、次の議題に入ろうと想うのだが……アーシュラ、藤丸。話をしていいか?」

 

「「どうぞ私達にお構いなく」」

 

「お前達に関することなのだが………」

 

 

 十文字克人すら手球にとる、恐るべき『おジャ魔女ふたり』の言いように、この後の展開を何となく予想出来ていた。

 

 だが、気を取り直して―――開口一番は、七草真由美からであった。最初に皆に知らせることを意図した物言いは、少しばかり戒めるような調子で始まる。

 

 

「8月3日から12日までの十日間で行われる九校戦。魔法競技を九つの魔法科高校で競い合う大会に―――」

 

「私達は出ませんので、皆さんで頑張ってきてください」

 

「南極から応援しています♪」

 

 七草会長の言葉を途中でぶった斬る形で、アーシュラも立華も無情にして無常なことを言うのだった。先ほど達也に否定的だった面子も何を言えばいいのか言葉に迷っている様子だ。

 

 あまりにも上級生に対してナメた態度であるが、それに対して『高説』を垂れることは出来ない。何せ、この学校において『最強』なのは紛れもなく、この『2人』なのだから。

 

 4月の大立ち回り―――その際の全てと今回の期末テストの成績とが、何も言わせないでいた。

 

 才能主義と成果主義だけを是としている学校において『情実』に訴えられない相手。それがこの2人なのだ。

 

 

「……私としては今期の学年主席と次席を選手として出場させないのは、他の学校に対して申し訳ない限りなのだけど」

 

「適当に言っておいてください。まぁ理由としては、少し早めの『菩提を弔う行事』に参加しなければならないとでも言っておいてください」

 

「盆には早いけど、そういうことじゃないのね……。ならばアーシュラちゃんも、それに参加するの?」

 

「ワタシがいなければ始まらない話ですから、それに道中の護衛もリッカをマスターとしているワタシの務めだ。これは何よりも優先されることなので」

 

 詳しい事情を話さないが、だからと突っ込ませることを許さない事情(かべ)の前に、七草会長は説得の芽を出せないでいる。

 

「―――一つ聞くが、お前達は九校戦に対してどんな印象を持っている?」

 

「詳しい所は流石に網羅できていませんが、まぁ通り一遍のことは分かっているつもりで言わせてもらいますが……何で態々『学校対抗戦』なんですかね?」

 

「と、言うと?」

 

「個人個人でのトーナメントで『殴り合い』なり競技種目でやりあえばいいでしょうに、それも特に魔法能力による参加制限など設けずに」

 

 その言葉に何とも言えぬ表情をする面子の多いこと多いこと。

 

 特に殴り合いという単語が出てきたことで、それならばアーシュラの独壇場であろうという考えが出てくるのだから。

 だが『参加制限』など設けずにという所に、少しだけ分かることもある。

 

「まぁ正直―――甲子園やインターハイ、国立みたいに『ひりついた勝負』とはならないでしょうから、興味が持てません」

 

「確かにそういった意見が外部から無いわけではない。結局、他のスポーツ競技種目のように、地区の予選リーグなどを勝ち抜いての戦いではない以上、ある意味では緊張感がない競技大会であるという意見は、な……」

 

 苦い顔をして、立華の意見に若干の同意する十文字会頭。正直、ここまで冷めた考えをしているとは、達也ですら『少しの自慢屋』根性を持っていたというのに……。

 

「―――アーシュラも同じ意見か?」

 

 会頭に代わり、同輩として、それなりに仲の良い男子だろうという無駄な自負のもと達也が放った言葉だが……。

 

「そうだね。ただワタシの場合はソレ以外にも、ワタシと競い合える相手がいない上に、こういう競技に出ちゃいけない類がワタシだと思い知っているから、出ないという結論。

 ―――場を白けさすほどの『全力』も出せないけど、かといって真剣勝負の場で手加減するなんて、そんなの相手に対する無礼じゃない」

 

 中々に勝負ごとに関するこだわりを見せてくるアーシュラに瞠目してしまった。

 

「ワタシを、魔術戦士アーシュラ・エミヤ・ペンドラゴンを、『お遊び』の競技に出すという『意味』を考えたほうがいいですよ」

 

 次いで放たれた言葉。……ここであえて『お遊び』と形容したのは、恐らくアーシュラなりの『誘い』だ。ここで無闇に激高すれば、もはやそれを契機に、コイツラは九校戦出場辞退の大義名分を得られる。

 

 言うなれば、ある種の外交戦術だ。

 

 誰も怒るな、耐えろ、不満を明確に言葉にするな―――という気持ちでいさせるには、全員が青すぎた。

 

 若すぎたのだ。仕方ない。

 

 自分たちにとって大切なものをこうも馬鹿にされて黙っていられるほど、物分りは良くない。

 

 

「アンタらね!! さっきから聞いていれば、私達、魔法師の若人の戦いの祭典をさも「くだらないもの」と称して!! 何様よ!?」

 

 

 一番、最初に怒ったのは千代田花音であった。婚約者たる五十里啓は、アーシュラの垂らしていた釣り針の意図が分かっていただけに顔を覆うしかなかった。

 

 立ち上がり立華の方まで近づいていこうとする千代田に対して見えぬように、周りにもさとられぬように重心を変えたアーシュラの姿。

 

 座りながらでも、首を刈り飛ばせる運動能力があるかどうか、だ。

 

「そんなに出たくなければ、むぐぐぐぐっぐぐぐぐ!!!!――――」

「――――」

 

 NGワードまで出かかった千代田に対して呼吸困難に陥らせる行為。どうやら何かしらの気圧を利用した魔法が放たれたようだ。そして最後には恐ろしく速い手刀が首に打たれて黙らされる。

 

 魔法を放ったのが七草会長か渡辺委員長だろうが、手刀を放ったのがアーシュラな辺り、何というか変な気分だ。同時に、ここまでしなければならないほど、『コイツラを出さなければならないのか?』そういう想いが蟠る。

 

 そんな中、毛並みの違う意見が出てくる。

 

 

「……場を白けさす、か。そういう意味では、俺のような十師族も同罪なんだろうな……」

 

「まだ克人さんみたいなのは、いいんじゃないですか? だってワタシもリッカも基本性能からして違いますし。第一、本当に白けるのは―――『同じ道具』を使わずに相手を圧倒できるからですよ」

 

「――――――『そこ』、か……」

 

 

 気付いたからか、十文字克人は己の持つ携帯端末型のCAD(ホウキ)を机の上に置いた。全員が理解を果たす……。

 

 

「ええ、『そこ』です。結局の所―――ワタシ達には、CADはいらない訳ですからね。ここまで白ける相手もいないでしょう。

 とどのつまり、ナイフ一本握ったところでワタシは相手を圧倒できるわけですからね」

 

 それもこれも、アーシュラの全てが規格外の常識外だからだ。どこの『天地魔闘の構え』を取る大魔王だと言いたくなるほど……。

 

「―――『武器屋』にとってもここまで白ける人間もいないでしょ? 特に司波君は、自分の技術をひけらかしたい自慢しい、傲慢ちゃんだから、そんな人間がいることが許せないんじゃない?」

 

 そこでこちらに話を向けてくるとは想っていなかった達也だが……。しかも達也の本質を見抜いているし。

 

「―――俺を怒らせて、それで言質を引き出そうだなんて卑怯じゃないか?」

 

「別に君が怒らなくても、君を慕う連中をここで憤激させればいいだけだよ」

 

 その言葉で深雪とほのかを見ると、必死で耐え忍んでいる様子だ。

 

 頼むから耐えてくれと想う……。

 

 

「まだ言わなきゃならないんですか?」

 

 あきれるような立華の言葉に、会頭は説得を試みる。

 

 

「……俺達としては、お前たちに九校戦に出場してもらいたい」

「―――何か『アヤをつけられた』時に矢面に立つのは、あなた達なんですよ?」

 

 それをどうにか出来るのか? そういう意図を含めた立華の言葉に三巨頭も押し黙る。

 

 レギュレーションの関係上、現在では『CAD』に登録されている術式を『制限』することで、ある種のアクシデントや重大インシデントを抑制する方向に向いているが、この前提条件として魔法師―――特に現代魔法・古式魔法にせよ―――。

 

 CADというものがなければ『高速起動発動』が出来ないという前提条件が存在している。

 

 もちろん、簡易術式ならばさほどの苦労は無いのだが、大規模な現象改変を速く齎す際に、これが必須となるのだ。

 

 同時に呪文口決を刻む事自体が廃れたわけではないが、こちら(CAD)がスタンダードになると、すでに呪文そのものを『知らない世代』も多い。

 

 つまりは、アーシュラも立華も、そういう風な制限を受けない異端の『超人』ということだ。

 

 同時に、CADを使わなくともそれと同等のことが生身でも出来る存在がいるというのは、完全にルールの範疇外であり、大会関係者の落ち度でしかない―――だが、それを当たり前として出場させれば、どうなるか分かったものではない。

 

 

 ―――何で同じテクノロジーを使っているのに一科と二科なんて区別が着くの?―――

 

 

 いつぞやの問答を思い出す。あの時は答えられた、説破出来たが、いまでは薄ら寒いものだ。

 

 そもそも古式魔法における『複雑さ』や『儀式工程』を単純化したのが始まり。

 

 端的に言えば、機械工学の基準に沿った形だ。

 

 機械の真髄とは、何も自然の機運を逸脱するものばかりではない。

 そもそもの始まりに置いてメカトロニクス(機械工学)とは、自然を模するところこそが起点だった。

 

 しかし、いまや―――この機械が持つ優位性は崩れた。

 化生体を纏う―――士郎先生曰く『獣性魔術の初歩』とやらですら、何一つ抵抗が出来なかった。

 

 もちろん直接戦闘に長けた魔法師ばかりではないが、それでも惨憺たる結果に、魔法師たちは恐れ慄いたのだ。

 

 優れた魔術師が少しの手解きをするだけで、只者が、低級の魔法技能者が魔法師の脅威となるのだと……。

 

 音速の弾丸を放つことが出来たとしても、術者が音速か亜音速で絶えず動き心の速度ですら優れないならば、CADの存在意義はボロクソになってしまう。

 

 

(三巨頭の目的は何となく見えた。だが、それを通せるかどうか、だ)

 

 議論の調子としては、どちらかといえば役員側の方の旗色が悪い。そしてこの室内に蟠る世論も、別に参加させなくてもいいんじゃないかという空気になりつつある。

 

 この場でもしも多数決による参加の是非を問われれば、恐らく『非参加』で可決する。そうはさせないと、予め『二人』以外には、そういうことを言い含めていた。

 

(そんな情報すらも筒抜けなのではなかろうか?)

 

 だからこそ、こうして不満を撒き散らす方向に出たのだ。

 

 だが―――最終的に、説得工作は何一つ功を奏さず……二人が、九校戦に参加することは無かった。

 

 

 想えば、ここで何が何でも『説得』を通じるようにしておけば良かったのだ。

 

 九校戦最終日。

 

 一高の『最下位』が確定して、若干のテンションダウンを果たしつつも、盛り上がりを見せているその日に―――『災厄』は訪れた。

 

 解き放たれる神話の巨獣たち。数多の僧服の戦闘者。

 

 吸血鬼……死徒と呼ばれるものたちの手で死の街と化した世界で、人間らしい思考をようやくできた食屍鬼の達也。

 

 新鮮な血液の匂いを感じて咆哮する。

 

 言葉にならない言葉。声にならない声をあげながら、金色の大剣を持つ少女に襲いかかり―――呆気なく殺されるのだった……。

 

 

 

 BAD END






というわけでifルート。

説得を諦めるという選択肢を選んだ結果、日本の魔法師は衰退しました。

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