魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
まぁ元々、買い換えたいなーぐらいには考えていたのでちょうどいいのだが、前回と同じく修理センター呼ぶぐらいならば、新しいのを買おうと思った次第。
旧知である十文字克人の説得すらおジャ魔女ふたりには通じず……誰もが落胆しようとした際に、達也に天啓が走る。
それはもしかしたらば、どこか
―――閃きが、口を衝いた。
「……アーシュラ、立華。何か、魔法師の競技種目にイヤな思い出でもあるのか?」
「―――なんでそう想うのさ?」
達也に険相を向けてくるアーシュラに、こりゃアタリかなと思いながら、言葉を続ける。
「さっきまでの会話から察するに、お前達は何かしらの魔法競技種目の大会……恐らくオープン参加の類に出たと思える。そもそも魔法師が少ないというのに、そんな参加制限を設けることもないんだが、まぁそこは蛇足だな……。ともあれ、お前達は―――1回は、そういう『大会』に出たんだな。そして―――ルールブック側からアヤをつけられ、イヤな思いをした……」
「「………」」『フォーウ』
押し黙る2人に代わって、キャットの使い魔が声を上げる。それだけで正解の道筋は着けられていた。
「推測混じりだが、お前が参加したのはUSNAなど外国の大会。プロテニスを筆頭に、ノーシード、オープンエントリーからのし上がれるのも、外国の特徴だからな……更に言えば、相津が何かとお前に秋波を寄越していたところから察するに、バトルマッチ系の競技だろう」
「相津がいないところで言うのも何だが、衛宮に懸想しているのは、偶然にも着けた衛星放送の番組、マジックフェンシングの米国大会で見たからだって言っていたぜ」
後輩の想いを暴露する(けっこうバレバレではあったが)のはどうかと思うも、剣術部所属の桐原からの裏付けで、推測は確信に変わる。
そして姫騎士の口から語られる真実……結局の所、アーシュラの語る通り、そういった『差別』が行われたというのだ。
アーシュラからすれば、CADは余計な『中継機』程度にしかならず、術式の保存装置としても魅力を感じないとのことだ。
第一、『力』が分散する感覚があるという。繊細な少女なのだろうと思いつつ、話を促す。
「方位や星をめぐる天体運動、地に走る霊脈によって術式の細部なんて違うからね」
現代魔法の『雑さ』が肌に合わないという言葉に、全員が色々な表情だ。
「とはいえ、すでに全員が
むすっとした様子のアーシュラに、誰もが痛ましい顔をする。低い能力値の人間を差別した話が入学初期のものならば、今度は高い能力値の人間を『区別』した話だ。
アーシュラの力は良く分かっている。今日に至るまで、一科、二科ともにそれを頭と肌で実感してきた。だが、その力が『天然自然』であると理解したとき……。
(それをどういう風に扱うか。そういうことになるな……)
異端として差別するか、目指すべき山の頂として扱うか……ある意味、NBAにおけるアキーム・オラジュワンかシャキール・オニールのような女である。
「結果的にリーブル・エペー、ラピッド・サーブル、アルモニー・フルーレの三部門で優勝したってのに……結局の所、インチキしたみたいに言われたんだ。イヤになるよ」
「アーシュラ………」
不貞腐れるように言うが、言っていることはかなりとんでもない。マジックフェンシングの三部門全てで優勝したとか言うのだから……。
傷ましく労るような視線と言葉を送る深雪、少し前の『インチキ』呼ばわりを思い出して落ち込む雫には悪いが、冷静に考えれば……やっぱりとんでもない話だ。
話の結論とするつもりなのか、藤丸立華が眼を閉じながら口を開く。
「―――高すぎる能力、理解が及ばぬ力が、時に人を『未開』という色眼鏡に陥らせる。あなた方現代魔法師は、超常分野の全てを『科学的』に解き明かしたとしておきながら、己たちの『常識』に沿わないものに関しては『理解』を拒む。そのように『二枚舌な連中』の『見世物小屋』に――――私の『剣』を晒せるもんか」
魔法師に対して突き放した言い方に、入学以来あれな感じの七草会長がものすごく落ち込む。結局、彼女の言う差別解消など何の意味も無かったことに対して、色々と考えるのだろう。
能力の有無・多寡を元にした制度上の生徒区別から生徒差別。ソレに対して具体的な指針など示せなかった会長は懊悩するばかり。
前回は制度上の低能力での差別であったが、今回は学校の校是において『優秀』すぎる人間を無言で区別しようということなのだから。
現代魔法師という『規格』だけに押し込めば、深雪が代表でも構わない。だが、それが『真なる意味』で優秀な人間を除外したものであるならば、それは確実に『差別』だろう………。
人の最大級の悪性だ。そして、それと同じことが起きようとしていたのだ。
「……それでも、私はあなた達に出てほしい。一高が勝つためとかそういうことじゃない。あなた達も一高の一員だからこそ、その中で優れた存在であるとアピールすることで、いろんな人間の指針や好敵手となってほしい」
その言葉の意味を理解できないわけではなかった。どちらの言い分も理解できる話だ。
だが、それでも七草会長にアーシュラと立華を説得するだけの言葉は出てこない。
「アーシュラの言ったことを忘れたんですか?」
「分かってるわよ!! けれど、それでも……私じゃ―――――」
議論は平行線。誰もが嫌気が差そうとした時に、この場にいた本当の意味での『上役』である、先生2人が動き出した。
「―――そろそろまとめに入ったほうが良さそうだな。先ほどから、聞いていて随分と白熱した議論だったが、解決方法なんて一つじゃないか」
「ですね。そこに思い至らなかったのは、まだまだ『勝利』にだけこだわっていた証拠か、はたまた心情を思いやれなかったのかでしょうね」
立ち上がった教師2人は、三巨頭に対しては、手元にある端末に何かのデータを表示する様子。代わりにアーシュラと立華には何かの手紙を渡す様子。
それが何なのかは全員には分からなかったが、本人たちによって暴露される。
「これは、九校戦運営委員会及び魔法大学のアドレスに電話番号……衛宮先生―――まさか?」
「まさかもなにもあるかよ十文字。ウチの娘と友人の孫が、そういったルールブックに抵触する可能性があるならば、まず問い質す必要があるのは、言質を取るべきなのは―――ここだ。ここに問い質せ。そうすれば、何の後顧の憂いもなくなると思えないか?」
「「「―――――――――」」」
目から鱗が落ちる思い―――と言うほどではないが、確かに2人の気持ちを、心変わりを誘発するならば、そこにアクションを起こすべきだった。
あそこまでアーシュラの過去を掘り起こしておきながら、何故そうしなかったのか。
答えは簡単だ。結局の所、アーシュラや立華を自分たちの言葉だけで説得しようと『無駄なこと』を続けたが故だ。
説得工作というものは、時に相手方の心を『安堵』させることも必要なのだから……。
そしてアーシュラと立華に関しては………。
「―――『アドラメレク』」
古めかしい手紙、封筒タイプのそれに施された封蝋は魔術的なものであったらしく、立華が魔力と共に呪文を唱えるとそれは解かれて、封筒から出てきた便箋数枚を見てから顔を青くする。
特に立華は、『ジーザス』とでもいうべき顔をしてから天を仰いでいる。
そんな立華を見てから苦笑い気味のアーシュラ……。
2人に対して、最後通告を放つ金髪の美人教師は笑顔のままだ。天使のような悪魔とは、このヒトのようなことを言うのかも知れない。
「オルガマリー、そしてアナタの父上と母上からの言伝です。『―――いいからやんなさい』―――以上です」
その言葉に『真っ青』になった立華は、それでも言い募る。
「だ、だとしても、九校戦運営委員会及び闇将軍『レツ・クドウ』の意向次第ではどうなるか、まだ分かりませんよ!」
闇将軍『レツ・クドウ』……九島烈老師の適切な表現なのかもしれないが、日本の魔法師としては何とも言えない気分だ。
「彼も『あの一件』で、恨み辛みというものがどうやって積み上がるかを知ったでしょう。同時に巌窟王『モンテ・クリスト伯爵』に復讐される気持ちというものも、ね」
イタズラっぽい笑みを浮かべて語るアルトリア先生に、幾人かの男どもがドキリとするが、向けられた立華はまだ一家言あるようだ。
「―――
「そうですね。ともあれ―――どうやら決は出たようですね」
目の前で電話にメールにとあらゆる連絡手段で渡りを着けて、録音までしている三巨頭の苦労が実ったのか、それとも幾らかの秘密の暴露まであったからか、ともあれ委員会も魔法大学も、『CAD要らずの選手』や『CAD以外の『呪具』持ち選手』の出場に、何のペナルティも課さないという言質が取れた。
当然ながら、殺傷ランクが高すぎる『魔法』の発動が、制限有りの競技で見られたならば、ペナルティを課すという言葉付きだが……。
「―――やれるだけのことはやれたみたいだな」
「ええ、まぁ……ただ、思っていたよりも反応が淡白というか、『うんざり』しているようなものでしたね」
尋問のプロと周囲から認識されている渡辺摩利が『耳聡く』聞き届けた声音の変化に、衛宮士郎教諭は、『だろうな』という少しだけ苦笑するかのような顔が印象的であった。
何か知っているのだろうが、容易には教えないだろうと予測される態度を前に―――九校戦における準備段階の混乱はとりあえず落ち着きを見せた。
とはいえ、心中穏やかではない面子は多そうだ。
結局の所、三巨頭の説得は何の意味も持たず、最終的には教諭2人のウルトラCならぬウルトラEだけが決め手だったのだから。
「2人を説得する手段があるのならば、もう少し早くに教えてくれていても……」
「お前達が、2人の気持ちの
「………」
真由美の言葉に、士郎から教師として親としての言葉を吐かれて、真由美は自分がくさくさするのを感じた。
自分の親とは違う労るような言葉に羨望の念が出てしまうのだ。
「まぁ職員室の概ねの意見として四高行きを薦めた司波が、アーシュラの心を察したのは、何の皮肉かと思うほどだったがな」
その意見を傍から聞きながら、言われてみれば何かの皮肉だろう。
四高行きを教諭たちに薦められておきながら、それを断った自分が、九校戦参加を拒否した2人に対して言葉を重ねた……結果的には、それが功を奏したわけだが―――。
「別にそんな深い思惑とか、士郎先生に対して意地が悪いことを考えたわけじゃありませんよ」
自分の話題なのに、自分が言わないでいるのもあれだと思えたので、達也はその会話に入り込むことで弁明をしておく。
「そうなの?」
その真由美の疑問の言葉に対して、本当の動機とは何なのかを探る。ソレに対する解答は何気なく出てきた。
「……弓道場で、あそこまで真剣に弓を張り、射抜くべきものに眼を向けるアーシュラが、そんな風になるかなって思えたんですよ。
平凡を装うならば、実技テストだって『適当』に済ませていたでしょうから―――なんていうか『らしくない』って思えましたよ」
であるならば、あそこで見たキレイな射をするアーシュラの姿が急に虚ろになるのだから……そんなことは信じたくなかったのだ。
それを聞いた士郎先生は――――。
「―――やらないぞ」
今にも達也に斬りかかりかねないプレッシャーを感じる。短い言葉だが、意味は分かったわけで―――。
「……そうですか」
ここで何故か達也の口から出てきたのは、『いりません』とか『勘ぐりすぎです』という拒否・否定の言葉ではなかった。
とりあえず『玉虫色の返事』でお茶を濁すというものであった。その『事実』に驚愕していたのだが、当のアーシュラは……。
「アーシュラ、立華……その、だな。北海道にいるというお前達の『妹分』を呼んでくれないか?」
「―――聞いたんですか?」
十文字会頭の言葉にビックリするアーシュラだが、会頭は言葉を続ける。
「アルトリア先生の話を聞いた後に、オヤジを問い詰めたらば、『そんなこと』まで話されて、な……」
「別に『アーシャ』と『マリーカ』には伝えるつもりでしたが、いや言っておきますけど、『あっち』は克人さんのことを知らないんですよ?」
苦笑いをする会頭に対して立華はアーシュラ同様、少々焦ったように口を開く。
だが、それでも会頭は変わらず『頼む』と頭を下げて、後輩女子2人を困惑させるのであった。
そんな様子を見ながら―――今年の九校戦は……深雪がよく見ていた映像とは違う様相が呈されるのだろうと予感している……。