魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第31話『九校戦まであと何マイル?』

波瀾ばかりを巻き起こした選手・エンジニア選考会から既に数日、発足式を終えて校内では九校戦に向けた準備が本格化していた。

 

如何に魔法競技が競技種目の大会とはいえ、練習一つでも多くのものが必要になり、それに準じて多くの運動系の部員はアレコレと駆り出される。

 

いわば総力戦となりえるのだ。練習相手としても、一科生だけでなく二科生も駆り出される。

 

必然的に文科系部活は暇になるのが普通なのだが……。今年の準備練習は違っていた。

 

まず一日目は、一年生の殆どが疲労困憊して体育館に集結を果たして、二日目は、二年生の選手全員が大の字になって転がり―――。

 

三日目は、三年生の『殆ど』が動けずじまいとなるのだった。流石に、三巨頭は何とか矜持を保って立ってはいたが………。

 

(どう見てもやせ我慢しているようにしか視えない)

 

特に十文字会頭は、足をぷるぷる震わせて、生まれたての子鹿のようであった。当然、足のサイズは鹿のそれではないのだが。

 

「そりゃそうだよ。ワタシから一本取るまで粘って疲労困憊になるなんて、やめとけばいいのに―――美月ちゃん。疲労しているニンゲン全てに『これ』持っていってあげて」

 

「は、はい!」

 

数少ない文科系部活所属である美月の内心を読んだように、アーシュラは体育館に持ち込んだ調理器具で作り上げた『ホットドッグ』から『ハンバーガー』を持っていけと言うのであった。

 

仕事があるのは、嬉しいのだが……。

 

「モノ食べられるのかな?」

 

「無理矢理にでも『口』に突っ込んで。竜種の肉は体力と魔力を回復させる特効薬だから、食わなきゃ回復出来ない」

 

「そ、そういうものなの?」

 

「食べることもトレーニング! 背中に鬼神を宿らせたいならば、食事で体を建設することも必要!!」

 

真剣な顔で力説するアーシュラだが、三年生の男子の先輩に―――まぁこの娘ならば、巌のような十文字会頭の口に笑顔でホットドッグを突っ込めるのだろうが……。

 

「柴田さん。男子陣は僕らがやるから、女子陣を頼むよ」

 

そんな美月を見かねたのか、それとも最初っからその気だったのかわからないが、同じE組の『吉田幹比古』が、そんなことを言ってフォローしてくれるのだった。

 

そんな風に今日の『暴竜アーシュラ』の犠牲者たち全員を労った後には、何となくそんな暴竜アーシュラの元に美月と幹比古は集まる。

 

この3日間、殆ど全ての魔法競技種目―――男女の別なくでアグレッサー(教導官)としてスパルタ極まる訓練をしたアーシュラに対して、何となく聞きたいことがあるのだった。

 

「アーシュラさんって、精霊魔法とかを使っているのかい?」

 

「古式における『精霊』とやらとは違うかもしれないけど、まぁ似たようなもんかな」

 

「どう違うんですか? 何というか、一度だけですけど、無人の教室で吉田くんが精霊魔法を行使していた時に、随分と荒れ狂うような様子だったんですけど、関係在るんですよね?」

 

ハンバーグを七枚ほど焼き上げているアーシュラは、その言葉に―――。

 

「司波くんが言っていたっけ。吉田君が精霊を使って襲ったあげく、美月ちゃんに掴みかかってしまったとか」

 

「誤解を招く表現! た、確かに色々あってそういう状況だったけど、理由とか思っていることとは、全然違うよ!!」

 

―――そんな圧倒的誤解が存在する言い方をするのだった。イタズラ目的なわけでもなく、至極当然のことのように事実を言うのだった。

 

かなり誤解を招く言い方は、ワザとではないし事実を当てているとはいえ―――咳払いして幹比古は、話を促す。

 

「まぁあの時には、森末君のモノリスの相手をしていたからね」

 

ちなみに言えば今日のモノリスの相手は、十文字克人率いるモノリスチームであったが、アーシュラ曰く、通常のモノリスと違って、アーシュラが常に攻撃側として動くというものらしい。

 

それで練習になるのだろうかと思うも、アーシュラの白兵戦能力及び打撃能力は、この一高では格が違いすぎるということで、そういう形式が取られている。

 

もっともアーシュラからすれば、対等の条件であっても『ガレスちゃん』と『ギャラハッド』を出して、戦うことも出来るのだが。

 

それは完全に練習にならないのでやめておいた。そういうことだ。

 

「ワタシも最初は加減が分からなかったからね。とりあえずモノリスを狙うよりも、選手を倒すことを狙ったわけですよ」

 

「それで吉田君が『喚起』していた精霊まで使役したんですか?」

 

「意図したわけじゃないけどね。ワタシの妖精魔術ってのは、多分、古式の言うところSB―――スピリチュアル・ビーイングとは違うからね。勝手にそういう風なものを集めちゃうんだよ」

 

そして集めた力を『光輝の剣』として、空中からドカドカと地上にいる森崎達に投げつけたとのこと。

 

赤、青、碧、紫、金色の―――色とりどりの光剣を見た人間たちは、その光景から『プリズマストライク』と名付けたとか何とか。

 

ちなみに言えば森崎達は、光速の異名を持ち、重力を自在に操る女騎士アーシュラ・ペンドラゴンに、クリーンヒットを出すことも出来ずに滅多打ちにされたとか。

 

そんな新人戦モノリスメンバーの叫びは……。

 

『一思いに殺せぇ―――!!!』(大涙)であったとかなんとか……。

 

倍返しすることも出来ず、寸刻みで森崎達を削っていく結果に人々は恐怖した。

 

いやマジで。

 

「妖精魔術……ですか。何だかメルヘンですね」

 

そんなアーシュラの魔術に対して、美月はそんな感想を漏らすも、アーシュラはそうではない様子だ。

 

「そうでもないかも。美月ちゃんだってお母さんが翻訳家ならば知っていると思うけど、『本物の妖精』ってシャレにならないことするからね」

 

「そうなんですか―――って、もしかして『取り換え児』(チェンジリング)とか、ネバーダンシングとかの?」

 

予想外に知識豊富な柴田美月の言葉に満足したように、アーシュラは説明を続ける。

 

「俗称『フェアリーミスチーフ』には、人間に物忘れをさせるというものもある。 あとは子供を森に引き込んで一週間ほど帰さなかったり、美月ちゃんの言う通り、生まれた赤子を妖精の子と取り替えたり。

家の玄関に兎の死体をばらまいたり、と実にバリエーションに富んでいるんだね」

 

「けれど、アーシュラさんは妖精・精霊を使って術を行使している……と」

 

「ワタシの天性でしかないんだよ。だから妖精とか精霊とか、『星の触覚』とも言えるものが自然とワタシの支配下に置かれる。キミの喚起した擬似的な自然霊も、勝手にこっちに惹かれるわけなのよ」

 

その言葉に幹比古は若干、驚嘆する。何度かアルトリアやアーシュラに眼を向けていたのだが、この2人はどうやら自然と『精霊たちの加護』とでもいうべきものを受けやすいようなのだ。

 

確かに天性といえる。その理由は分からないが、ともあれスゴイ人間であるとは言える。

 

「ワタシが言いたいのは、吉田君の喚起する霊体は見ても大丈夫だけど、ワタシの使役する妖精を詳細に見ちゃいけないということ。あちらに視えていることを気付かれたらば、マズイから」

 

「……拐かされちゃいますかね?」

 

「あいつら『上位神秘』の塊だからね。幻想種としての格まで持っているし、まぁそれだけだよ。ワタシの練習風景よりも他を見た方がいいよ」

 

そんな言葉と同時にハンバーガーを皿に乗せて渡された。美月と幹比古の分ということだろう。

 

だが、食い意地張ったということか、それとも四十名以上の三年生を相手に切った張ったをして疲れているからなのか、アーシュラのドラゴンハンバーガーは、ハンバーグが五枚にレタスとトマトもソースも多めのビッグバーガーであった。

 

大口開けて一昔前の少年漫画の主人公のように食べていくアーシュラは、何というか美少女度が半減であった。

 

そうこうしていると、入れ替わりに練習してきたらしき1年と2年の選手とトレーニングパートナーたちが、死屍累々の体で体育館に入ってきた。

 

「乙〜〜〜何だか皆して死にそうな顔しているね?」

 

「アーシュラじゃオーバーワークになると思って、立華に練習相手になってもらっていたんだが……」

 

一番、疲労が少ない司波達也が代表して答える。技術スタッフだから当然といえば当然だが……。

 

「似たようなもんだよ」

 

そんな端的な言葉で、ガツガツと早食いよろしくビッグバーガーを食い切ったアーシュラは、再びドラゴンバーガー及びドラゴンホットドッグを作る様子だ。

 

「え、衛宮さん―――ありがたいんだけど、そんな八面六臂に色々動いていて大丈夫なのか?」

 

五十嵐 鷹輔という男子生徒(一年モノリスメンバー)が、アーシュラにおっかなビックリ問いかける。ちょっと離れた所では姉である五十嵐 亜実が、2つ目のハンバーガーに手を着けていた。

 

入学直後に関わりにあって以来、何もなかった人だったなと思いつつ鷹輔に返す。

 

無問題(モーマンタイ)。あんまり疲れなかったし」

 

その言葉に三年生全員が、苦笑いをする。事実、モノリスを筆頭にピラーズ、早撃ち、波乗り、ミラージの全てで、アーシュラは三年生の魔法力を凌駕してきたのだ。

 

ちなみに言えば十文字は、モノリスとピラーズで後塵を拝したのだ。

 

(分かってはいたのだが、ここまでだとはな……)

 

アーシュラの戦い方は強引なまでの力任せなものだ。技法による巧拙というのを論じる域ではない。

 

寧ろ、そういうのを使わせる域に自分たちがいないのだろう。

 

魔力の『質』。純度の高い魔力で練られた術式はそれだけで、通常のランクとは違ってくる。

 

(『今のはメラゾーマではない。メラだ』というところか。司波の言う通り、どこの大魔王だよ)

 

克人との氷柱倒しにおいて、アーシュラは全ての氷柱を『絶対防御』―――克人のイメージでは、古城の『城壁』―――白亜の城を思わせるものが投射された上で、そこから砲撃を食らったようなものだ。

 

あちらは、硬すぎて強すぎるから撃たせ・殴らせ放題。代わりにこちらはそれ()を攻略する為にあらゆる魔法を投射していき疲弊していくばかり……。

 

その上であちらはいつでも攻撃し放題。更に言えば、その攻撃も重すぎて防御しなければ持っていかれるということだ。

 

だが……。

 

(確実な『成果』は出ている。アーシュラの粗雑だが力任せの戦い方―――『重く強い』術を受けて破ろうとするだけで、それに対抗するための技も身につけていってる)

 

練習相手であるアーシュラや立華にとっては、得にならないことこの上ないが……。

 

2日前にはアーシュラの『プリズマストライク』(虹光剣投擲)に対して、躱すことはおろか見ること出来なかったモノリスメンバー達も、落ち着いて対処することが出来ていたのだから。

 

そんな風に克人が満足感に浸っていたのだが……。

 

 

「―――ならば、アーシュラ。同じく疲労ナシ組たる俺が調理の手伝いをしようと思う」

 

「猫の手はいらない。そもそも司波くん、料理するの?」

 

「ドラゴンハンバーグやウインナーの焼き加減は任せるさ。バンズと野菜のアレコレぐらいはやってやるよ。『レギュムの魔術師』としてな」

 

ジャージの上を脱ぎ、腕まくりをしている司波達也の姿と―――。

 

「分かったわよ。エリカとかレオン君、めちゃくちゃ食いそうだし―――その前にちょい『おまじない』かけてあげる。というか、しなきゃ調理場に立たせないよ」

 

言いながらアーシュラは片手は人差し指を立てて、もう一方の片手は―――達也の胸にそっ、と当てられていた。

 

その自然な所作に達也は何も出来なかった。

 

軽い接触ながらも、息と息、肌と肌が触れ合う距離。

 

「―――、あ」

 

ーシュラ、と続く声が弱い。

 

それは、一方にとってはごく当たり前の魔術で、

一方にとっては頭が『真っ白』になるほどの、柔らかな不意打ちだった。

 

眼を瞑りながらなにかを唱える姫騎士。自分の目線より下にある顔。

瞑られたことで長く伸びて生え揃うまつ毛の長さを見て、リップも施されていないのに瑞々しさを保つ桃色の唇に注目してしまう。

 

―――なによりその顔の端正さ、美しさに眼を奪われた。

 

呪文の意味は分からなかった。だが変化は瞭然であった。達也の体全てをクリーン(清潔)にする―――術。先ほどまで外にいて、色々な粉塵や魔力の残滓を浴びていた体が清められたことを感じる。

 

「……アーシュラ、いまのは?」

 

「簡単に言えば、雑菌処理とか抗菌コートみたいな術式。清潔な状況で何かをしたい時に重宝するんだ」

 

そんな生活の知恵的な術を披露されて反応に困る。

以前に同級生であり、現在『呆然』『唖然』としている友人の衣服の汚れを取ったこともある深雪だが、アーシュラのそれは数段上の技法であった。

 

そういう理屈を兄妹ともども感じたあとには―――。

 

「今のは精霊魔法、いや妖精魔術なのか?」

 

「そういうことー。詳しいことは言えないけど、妖精たちに『ヤッチマイナー』と命令した」

 

誰もがえ゛え゛え……と、現実に対して嘆くような様子。アーシュラのとんでも技はともかく、調理作業は滞りなく終えていく。

 

元々、風紀委員でもコンビを組んでいたからなのか、それとも別の理由でもあるのか『阿吽の呼吸』で、運動後の食事を作っていく2人に一部を除いて感心してしまう。

 

「色々と言いたいのに、この竜肉のウインナーの美味しさとそれに負けないパンの味とか、悔しいぐらい美味しい―――!!!」

 

「司波くんからの愛でも籠もっているんじゃない?」

 

不満を申しながら食われては溜まったものではないアーシュラは、そんな言葉でフォローしておくのだった。

 

その言葉に変化は急遽であった。

 

「達也さん!! ありがとうございます!!!」

「お兄様!! ありがとうございます!!!」

 

大したことはしていないのに、ただ単にパンに野菜とと共に挟んでいるだけなのだが……そう言われてはこそばゆいものもある。

 

ただ過大な評価だろうと、最後の作業である味付けのためのトマトベースのミートソースを掛けるアーシュラを見ながら思う。

 

そんな様子に―――藤丸立華はニヤニヤ笑いながら言うことにするのだった。

 

「何だか新婚夫婦の料理店の切り盛りの様子みたいだねー。しかもオソロのエプロンだし」

 

その言葉に深雪と光井の2人が『はっ!』と気付いたが―――。

 

「ただ単に、これしかなかっただけ。そんな色っぽいものはないよ」

 

そんなにべもない言葉で終わるのだった。いつも思うが、どうにも『この手の話題』になると、アーシュラはいつもとは違うのだった。

 

男を寄せ付けないというか、何とも言えぬものを感じる―――。

 

「まぁ『知識』としては分かるよ。ふつうの女子ならドキッと来るとこなんだよね。……きっと」

 

言いながら、最後のハンバーガーを作ったアーシュラは、達也に渡しておくのだった。

 

「―――いただいていいのか?」

 

「どうぞ遠慮なく、手伝ってくれたお礼だから♪」

 

その言葉と向けられた笑顔に、少しだけ罪悪感を覚えながらも、そのハンバーガーの味は―――。

 

「―――濃厚だな」

 

てっきり『しょっぱい』か『苦い』かと思っていたのに。

 

「最後のバーガーだったからミートソース多めなんだよ」

 

そんなオチであったのだ―――。

 

 

 

「いつになく愛梨のヤツ、気合い入っとるの?」

 

「積年のライバルがようやく表舞台に出てきたからね。まだどの競技に出るか分からないけど、それでも何かの機会で『剣』を交えたいって言っていたから」

 

魔法科大学付属第三高校……通称『三高』の1年生、一色愛梨の出る種目は既に決まっている。

 

栞が語るところの積年のライバル―――というには一度一回だけの大会での邂逅だけなのだが、その姿は今でも愛梨の心に焼き付いている姫騎士だった。

 

 

(あの一回の大会でアナタは私の前から、マジックフェンシングの世界から姿を消した。私はリベンジする機会を逃してきた。『気持ち』は分かりますから、約束をすっぽかされたことを恨みには思いません。

けれど―――アナタを目指して磨いてきた剣を―――私は見せたいんですよ)

 

衛宮アーシュラ―――北米フェンシングオープン大会における名前。

 

アーシュラ・E・ペンドラゴン。

 

彼女の姿―――まだ13歳の頃の姿だけを追ってきた。

 

黄金の聖騎士は、記憶の残像の中にある黄金の竜を追ってきたのだから―――。

 

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