魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~   作:無淵玄白

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第32話『割とヒマな道のり』

八月一日。

 

いよいよ九校戦へ出発する日になった一高のバスだが、いまだに出発出来ないのは偏に親分の到着がまだだったからだ。

 

アーシュラとしては、別に現地集合でも良くないかと思うほどだったが、生徒会長なしでは締まらないということで、炎天下の下、隣にいる鉄面皮と一緒に来ていない奴の最終チェックをせざるをえなかったのだ。

 

要するに風紀委員によるメンバーの乗車チェックというやつだ。一昔前の高速バスでは、当たり前にあったことである。

 

「委員長命令だ♪」

 

という笑顔での言葉で選手すらも立たせる理由は、アーシュラには分からなかった。

 

司波達也だけじゃダメなのかと思いつつ。

 

―――とりあえず『(シルフ)(ヴィヴィアン)(べフィモス)(ユイチリ)』を利用した簡易的なクーラーを展開して、快適空間を作り上げることは忘れずにしておいた。

 

「快適なもんだな」

 

「汗臭い体で隣に座られるのはイヤだし」

 

「失礼な。汗の水分と成分を皮膚と衣服から飛ばすぐらい出来るんだが……それでも臭う可能性はあるか?」

 

「髪や古い角質からも臭う可能性はあるから、ロクに洗濯出来ない日は、それで終わらすこともある」

 

服やシーツを日に干せるような『状況』でないが、それでも清潔な衣類や寝具が欲しい時に、アーシュラはそういうことをすることが多かった。

 

時には包帯やガーゼもそういう風にしなければならなかったのだから……。

 

そんなアーシュラの内心を察していたわけではないだろうが、苦笑する司波達也。そしてようやくやってきた生徒会長の姿に嘆息しておく。

 

(弘一さんも、随分と―――まぁ別にそういうことではないんだろうけど)

 

息子(・・)を気にかけていないわけではないだろうけど、ただ何というか無常なものだ。

 

「アーシュラちゃんもご苦労さま。この炎天下に立たせて本当にごめんね?」

 

「ワタシにお構いなく、存分に司波くんにアピっていてくださいよ。思春期真っ盛りな体を持て余しているんでしょう?」

 

「ちょっ――――」

 

先ほどまで、司波達也にとんでもないアピールをしていた会長は、手合わせの謝罪のポーズのまま絶句した。

 

アーシュラからの迎撃概念武装(心のダメージ)を食らった会長に対して、達也はフォローにならないフォローを入れる。

 

「会長のはただ単にストレス発散のためだけだと思うぞ。別に俺『だけ』に性的なアピールをしたかったわけではないと推測する」

 

()探偵司波達也の推理。つまり真実は―――。

 

「BI○CHってことか」

 

「ああ、『ビーアイティーシーエイチ』だ」

 

真剣な眼で言い合うと同時にシンパシーを覚えつつ、意見を一致させる。

 

「その判断には物申させてもらいたいわね! ちょっと―――せめて達也君はこっちのバスに―――!!」

 

端末を差し出されてアーシュラのチェックを入れると同時に『指定された座席』へと移動を開始。

 

未だに何かを言う会長を後ろに、言われなくてもスタコラサッサだぜという勢いで、『技術スタッフ』が主のバスにアーシュラと達也は乗り込むのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「―――誰がビッチだ! ドチクショウが―――!!!」

 

「七草、俺の座席を後ろから叩くな。そしてNGワードを自分から暴露するな」

 

そして著しいキャラ崩壊も起こすなと付け加えるのは、十文字克人である。

 

しかし、それにしても……。

 

「ああいう風なのが、アーシュラの本性なのか?」

 

窓から見ていたやり取りで少しの疑問を呈するも、隣の藤丸は変わらない様子だ。

 

「私も親友の全てを掴みきれているわけではありませんけどね。まぁ人間の感情なんて簡単に分析出来るものでもないでしょ―――ただ、七草会長のように全力で『女』をアピールする尻が…―――いえ、『足軽』女が嫌いなのは事実でしょう」

 

「いま尻軽って言われた!! 訂正したって無駄よ書記長!!」

 

「いい加減、役員解任してほしいもので、ついうっかり『本音』が」

 

「ホンネー!!!!????」

 

藤丸立華の驚愕の言葉に再度叫ぶ真由美に苦笑してから、克人は隣の少女に問いかける。

 

「藤丸。その格好は何だ? 暑苦しいとまではいわないが、夏用の装いとは言えないから、少し気になるぞ」

 

真由美ほどチャラチャラした服装(偏見)ではないが、この車内では珍しく私服(?)を着込んでいる後輩に何気なく聞くと。

 

「私としては、巨漢の克人さんに潰されそうなこの状況が気になりますが」

 

言いながらも別に座ることに立華は窮していない。ただ単に、何故にこの座席順なのかということをもの申したいのだ。

 

この座席順はなにゆえであるか。

 

責任者に問い質す必要がある。責任者はどこか?

 

 

普通に後ろにいるのであった―――。 それに聞かれることも織り込み済みということだろうと思いつつ、口を開く。

 

「別にただの『服』ですよ。強いて言えば制服ですね。お構いなく」

 

「カルデアの制服か」

 

「そういうことです。私の代わりに士郎さんとアルトリアさんを名代として実家に行ってもらったので、形だけでも南極にいる職員一同と心を共にしたいのです」

 

そう言われると、少しばかり羨ましい想いもある。魔法師という形で登録したソーサラスアデプトは、海外に行くことは殆ど不可能だ。

 

特に日本はその傾向が顕著であり、鎖国状態などとも揶揄されているほどだ。

 

だが、それでも初の海外で南極というのは、ちょっと……と思っていたが。

 

「アーシュラ曰く『おニューの水着』も持っていたので、終わればハワイ辺りで夫婦水入らずなんじゃないですかね。あの2人は、結婚してから結構経っているのに、アーシュラが呆れるぐらい、いまだに―――『コレ』ですから」

 

『コレ』という表現に両手を使っての『ハート』作りをする立華に、克人は少しばかり『動悸』が上がる。

 

アーシュラや深雪に隠れて目立たないが、藤丸立華も例外なく美少女と言うに相応しいのだから。

 

そんな内心を押し殺しつつ、少しだけ真面目な会話をする。

 

「玲瓏館美沙夜の行方は未だにつかめない……彼女が奪取したというデータが、ある種の『トロイ』や『ブートトラップ』を仕掛けていた結果。ベラルーシの大使館がウイルス塗れになったそうだ」

 

「その他にも取引相手がいた可能性は、なきにしもあらずですけどね。まぁその辺りは追加調査を待ちましょう」

 

対応としては対処療法でしかなかったことが、どうしても克人としては納得がいかない。確かに警察や思想的な治安組織が、犯罪を『行おう』としているものや計画するものを、『ある程度』の違法性があれば、この日本でも『破防法』で取り締まることは出来る。もちろん積極的にやってしまえば、それは確実に治安維持機関の『超越的』権利を助長する。

 

権力の暴走というやつである。

 

そしてイリーガルな手段で手に入れた証拠だけを元に、その組織や個人を取り締まることは、後々の禍根になる。何より……第二次世界大戦での敗戦は、他の意見を全て軍閥が叩き潰したことにも起因するのだから。

 

けれど―――克人としては納得できない。例え、それが戦後に改められた『検束』という違法手段であったとしても―――未然に防げたのではないかと……。

 

「―――敵の狙いが分かっていながら、無駄足をさせたとは思わないのか?」

 

あれだけの犠牲を払った意味はあるのかと、問いかける十文字克人は静かな怒りを憶えている。

 

だが、それに対して立華は平然と返す。

 

「思いませんね。その場合、待っていたのは―――徹底的な殺戮であり、『捕食』ですよ。第一、事が起こる前に突入すれば最悪、魔術師の工房で死ぬのは克人さん達の方でしたよ。ルイが発動した宝具をお忘れか?」

 

後半の言葉に思い出して怖気を覚えておくも、前半は不明瞭だ。

 

「後半はともかく……前半は、どういうことだ?」

 

既に遮音結界を張って、この剣呑な会話は聞こえなくしている。そのうえで、更に言えば別の違う会話をしているように、立華は周りに見せていた。

 

幻影の魔術である。そうしながら克人に返す。

 

「玲瓏館美沙夜という女はネクロマンシーの使い手なんです。彼女が犬狼を使い魔として使役しているのは、その獣達に人間を食わせることで、相手の『薀蓄』を吸い取らせようとするんですよ」

 

「―――」

 

驚愕の事実。そんなことが可能なのかと聞く前に、立華は告げていく。

 

「中華の食などで言われている『医食同源』と同じく、魔術世界にもそれと同じものがあるんですよ。エリクシールとも違いますが、『補完の術』と言いましてね。簡単に言えば眼が衰えれば眼を食し、肌にシワが寄れば皮を食う。自らの物質的存在を補完するために、そういうことが行われていました」

 

数多の細胞組織に対して再生治療を行い、肥満を病理とする時代では、馴染まないものですけどね。そう苦笑気味に告げられるも、克人としては驚愕の事実だ。

 

つまり―――。

 

「あの犬狼達に人間の『薀蓄』を食わせることで、脳髄に在る記憶を全て抜き出す。そういうことも考えていたはずです」

 

「―――まさか、甲が叩きのめしていた人間たちが仮死状態になっていたのは……」

 

「―――いざとなれば、データベースのコピーよりも『こっち』を取ることを選んでいたでしょう」

 

こっちという言葉と同時に己の側頭部を人差し指で叩く藤丸に、十文字は頭を痛める。

 

事実、森崎瞬など講堂内で倒れ伏した魔法師を食らうべく、獣性魔術を発現させていた連中は垂涎していたというのだから、それは事実なのだろう。

 

「西遊記で徳の高い―――と世間一般には知られている『玄奘三蔵法師』を食べることで、妖怪たちは自分たちも聖者の加護を、不老不死ないし、自分たちも救われたいと願ったわけですから」

 

あまりにも未開なものではあるが、そういったことが信じられてきた時代も在る。同時に、世界規模の寒冷化による食糧危機から『食人』ということが行われた国家・地域もある。

 

如何に技術が進歩したとしても『凍らない大地』があってこそ、食糧生産はうまくいくのだから。

 

「だからこそ、敵の眼をデータベースの方に向けさせたのか」

 

 

他に『食えるもの』があれば、そちらを優先するという、ある種の誘引作用のごとくしたことを詰るも、藤丸立華は変わらない。

 

 

「間一髪でしたよ。もしも森崎君の肉体と脳漿をエーテルごと食われていたならば、それが学校中で行われていましたからね」

 

その眼の真剣さに十文字は、それが決して虚言でないことを確信する。信じたくないが、信じなければ―――多大な犠牲が出るのだと気づく。

 

『あの時』のように……。

 

「……ならば、今回の九校戦はどうなると思う?」

 

「まだ私の『レンズ』には、詳細な未来(さき)は見えていませんが、渡辺風紀委員長と小早川先輩の『星のめぐり』が悪いとは言っておきます」

 

「具体的には?」

 

「逆さの破軍星が見えています」

 

専門的なことは知らないが、その単語の不穏さに、後ろにいる七草真由美ともども緊張してしまう。

まさか三連覇を画策している一高の主力メンバーが負けることもあるのか……。

 

そんな2人とは別に、立華はただ単に勝負事に負けるだけならば、まだ御の字だろうと思っている。

問題は、それが生死に関わってきた場合だ。

 

そんな物騒なことを考えながらも秘密会談はこれにて終了ということで、立華は全ての術を外しながら『寝る』かなと想っていた矢先―――後ろから聞こえる寝息に、何なんだこのヒトはと思いつつ―――

 

「―――将棋でも指しますか?」

 

隣に問いかけ、暇つぶしをしましょうかというものに対して―――。

 

「いいだろう。今度こそ一局取る」

 

挑戦的な笑みを持って克人は答えるのだった。

 

部活連会頭の接待のために、バスに備え付けの電子対局板を起動。

 

対面でなくても打てる。正面のスクリーンにお互いが動かす方の盤面が提示されての方式。

これならば駒が飛び散ることもないし、昔よりは広いが、それでもゆったり空間とは言えないスペースで対局することは出来る。

 

そんなわけで対面ではない。オンラインではあるが、それでも隣り合わせでのタイトル名 『魔王戦』とでもいうべきものが展開。

 

ちなみに言えば、立華は既に、飛車角落ちでも五連勝中であり、そろそろ克人としても互先で一勝したいと想っているのだった。

 

その頃の技術スタッフが主のバスにおいては……。

 

「あっ司波君、それツモ7000点」

 

「こんな所で運を使うな。くそっ、何か俺が狙い撃ちされている。五十里先輩と中条先輩がダンチのように見えてくる」

 

言い訳じみた咎めの言葉を言いながらも、麻雀牌をかき回す手は淀みない。

 

ソレに対して、点棒をいくつも積み上げた金髪少女が王者の体で言い返す。

 

「別にオヒキが必要な雀力をしているわけじゃないよ。単純にキミが弱いんだよ―――」

 

「二重の意味で『なかせてやる』……!」

 

そして牌を積み込み、牌を切っていく。その所作―――。

 

五十里も中条も―――麻雀を知らないわけではない。

 

当然、達也も知識としては多くのことを知っていたのだが……。

 

「ごめんなさい。司波くんロンです」

 

「なぜ勝てない……!」

 

中城先輩がすごい役で上がってきた。役満ほどではない、いわゆるトイトイホーなのだが。

結構、不条理な結果が積み上がることに司波達也は頭を抱えたくなる。ツキとか運とかで決まってしまっている現状に、こうなれば精霊の眼で牌を『透かして』見るかと想っていた所に―――。

 

「アンタ―――思惑が透けてるぜぇ」

 

恐るべき哭きの竜(ペンドラゴン)の言葉の間にも牌は切られていき、最終的には司波達也が『ハコ』となった時点で麻雀は終了となるのだった。

 

「何というか司波君、勝負勘はあるんだけど、すごい役で上がりたがるのが眼に見えているからね」

 

「けれど最初の配牌は見えないじゃないですか―――まさか三人ともツバメ返し(積み込み)を」

 

五十里啓の苦笑しながらの言葉に反論するも、そんなわけあるかと三人とも苦笑するのだった。

 

 

「やれやれここまで負け込むと麻雀じゃなくて花札の方が良かったかしら?」

「お前の人種が分からなくなる言動だな……」

 

情けを掛けられたことに色々と考えるが、まぁ暇つぶしの有意義な時間であったことは間違いない。

 

「少し話を変えるが、アーシュラはアイスピラーズに出なくて良かったのか?」

 

「そっちは、あの三人(深雪、雫、エイミィ)でいいんじゃない。わざわざ面子が足りている所に、食い込ませなくてもいいでしょ」

 

そうは言うが、あの三人(深雪、雫、エイミィ)に容易く勝っていたのが、アーシュラなのだ。

少しばかりもったいないような気もするが……。

 

「ワタシじゃ『城』を展開した時点で深雪ちゃんに勝っちゃうわよ。それは―――二重の意味で好ましくない事態でしょ?」

 

「……深雪が聞けば怒るだろうな。けれど―――お前は俺の妹を怖がらないもんな」

 

先ほどの意趣返しをされて、何となくやり返したい気分の言葉だが……。

 

「怖がる理由とかある?」

 

それは深雪に対する親愛ゆえとかではなくて、単純に『お前の妹が凄んだところで全然怖くない』という意味だろうと達也は感じた。

正直言えば、そのうちアーシュラが深雪に対してゲンコツを落とすシーンがあるような気がするのだ。

 

「まぁボードとクラウドで、『それなりの成績』収めればいいでしょ。春日さんと里美さんじゃ他校相手に不安だもの」

 

知らぬものが聞けば、なんたる増上慢で大言壮語かと思うも、実力を知っていれば何でもない話だ。

 

もっともそれなりの成績とやらが、どれだけの辺りなのかは、個々人の尺度によるのだろう。

 

そう想っていた時に、少しだけ一家言あるのか3年の木下という技術スタッフが、前の方で言いづらそうにしているのを『感じた』。

 

次いで、近くに座っていた五十里と中条が何かを切り出す機会が来たとして、口を開こうとしていた。

 

「―――そのことなんだけど、衛宮さんには『もう一つの競技』に参加してほしいんだよ」

 

「いや、ミスター・イソリ、参加選手の競技種目登録は2つが限度なのでは?」

 

なぜいきなりミスター呼ばわり。しかもミスター・ソーリーに聞こえかねないおまけ付きではあるが、達也も知らない話をしようとする五十里に対して耳を立てていると―――。

 

前方を走る選手専用車両―――当然、こちらとは車間距離はバッチリ空いているのだが、それでも異変が起こったことを何人かが認識する。

 

特に妹の感情や危機に『自動反応』する兄と、マスターの危機に『自律反応』する使い魔(サーヴァント)が―――その事態に『救いの手』を伸ばすのだった。

 

 

 

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