魔法科高校の姫騎士~Alternative Order~ 作:無淵玄白
まぁ原作ではどうなんだろうと思いはしたんですけどね。
十文字と隣り合った藤丸立華の姿は詳細にはこちらからは見えない。だが、何かしらの密談はしているだろう。最前列の最前席に陣取る2人を嘆息気味に見てから何気なく考える。
『ふつうの女子ならドキッと来るとこなんだよね。……きっと』
自嘲するような笑顔で言うアーシュラを思い出すに、何というか色々とアンバランスな子だと思えていた。
(能力だけでは、人は測れない。そういうことなんだよな)
あれだけ可愛くてスタイル抜群ならば、もうちょっと違う生き方もあっただろうに……男を寄せ付けない拒絶した生き方に、羨望の念を渡辺摩利は持つ。
昔の自分も剣の道に入った辺りは、まだそういう男女のアレコレなどどうでも良くて、人間として、魔法師として、武人として栄達することを望んでいた。
もちろん家族からの期待も多分にあったが、それを煩わしく思うことはなかった。
そんな風に過ごしていた多感な中学生の時期に、千葉流という魔法剣術の流派―――日本の軍隊格闘術の地位にあると言っても過言ではないところの『本家』『本道場』に招かれた摩利は―――。
(エリカにさんざっぱらやられたからな。あの頃は鹿取姓で、まさか
油断していたわけではない。しかし、自分と同じく生え抜きであろうということで胸を借りたらば……。
だが、それを切っ掛けに師範代たる千葉修次との距離が近づいた。
最初は『女』が傷ついた『ここぞという時』に手を差し伸べたシュウを、少し胡散臭がったが、それでも親身に、されど時に厳しく教えてくれるシュウに、女としても憧れを持つまで時間は然程いらなかった。
「あれこそが全ての切っ掛けかぁ……」
摩利の体験談と同じくさせるのは、ともかくとして彼女にも、自分を世界さえも変えてしまうような存在と瞬間がやって来るならば……。
(無理かなぁ)
色んな意味でハイスペックすぎるアーシュラに、そういう『出会い』は来ないような気がするのだった。だからこそ、一年の『準エース』である司波深雪に睨まれても、司波達也と一緒の乗車チェックをさせていたのである。
そんな摩利の内心は、隣りにいた千代田花音によって看破されていた。
「……なんか摩利さん。あの子に対して甘いですよね?」
「贔屓したい後輩の1人や2人いてもいいだろ? お前も風紀委員長になるならば、アーシュラと上手くやるようなんだぞ?」
解任したいならば解任してもいいが、彼女自身に明確な失態が無いならば、後任委員長は『私的かつ恣意的な人事異動』を行ったと陰口を叩かれるだろう。
アーシュラは、それでも構わないと言いそうだが……。
「そりゃ、そうですけどぉ……」
「まぁお前が不機嫌になる理由は分かる。五十里のやつがアーシュラに興味津々だったからな」
「あの子自身じゃなくて! あの子の魔法技能に関してですからね!! 私と啓の愛は日本海溝よりも深くて、マッターホルンに穿たれるザイルよりも固いですからね!」
分かっているよと言いつつも、どういう比喩表現だとツッコみたい気分を呑み込んで考える。
刻印魔法を主に専攻する五十里家の人間からすれば、クー・フーリンという槍兵の使い魔との戦いで出した『クレストアーツ』という戦技は、かなり興味深いものとして耳目を惹いたのだ。
「アレは私も衝撃的だったよ。拝見したのは映像だけだが、あんな魔法剣術があるだなんて」
同時に、クー・フーリンも朱槍を時に『ルーン』で強化付与している所も見た。
つまりアーシュラの剣は、英雄クー・フーリンに素のままでの戦いを許さないとんでもないものということだ。
ともあれ、そういうのを見た結果、ここぞとばかりに九校戦という機会を狙ってアーシュラとの接触が多くなったのが、この不機嫌の原因ということなのだった。
もっとも、『それは禁則事項です』『なんだぜ!』などと、金色の喋る『匣』と共に言われてしまうのだったが……。
そんな摩利や花音の話を聞いていたわけではないだろうが、一年女子組の中でも話は上がるのだった。
「お兄様は1人でもいいと言った上に、アーシュラもメンドクサそうな顔をしていたというのに無理やりタッグを組ませても、モースト・デンジャラスコンビも同然の噛ませ犬にしかならないというのに」
ぶつくさと文句を言う女子1人。これが然程でもない容姿の女子であれば、無情にも『無視』を決め込むかもしれないが、あいにくながら言っているのが絶世の美少女であるならば、周囲にいる友人たちは何とかしなければならないと想ってしまう。
「―――――だから衛宮さんがいてもいなくても、仕事をこなした達也さんは立派だよ」
「そ、そうね。雫……ありがとう―――」
北山雫のとんでもないヨイショを以て、色々と落ち着いた深雪に誰もがホッとする。
ただそんな一年女子の中でもアーシュラとも付き合いが多い明智英美ことエイミィは、少しだけ思う。
(けれど、司波くんと一緒にいるときのえっみーは、どこかいつもと違うんだよね。相津君とかにはそれなりに外面よく対応するんだけど……)
それが何なのかは知らないが、アーシュラは深雪以上に謎の女子だ。
(しかも『マルミアドワーズ』って言えば特級の聖遺物じゃないかしら? ヘラクレスの武器であると同時に、『アーサー王』の剣じゃない……)
エイミィもアーシュラと同じく純日本人とはいえない人種である。英国にその血のルーツがある人間なだけに、入学初期の『騒動』において、アーシュラが行った大立ち回りを知って、同時に『アッド』なる喋る匣とも何度か会話したのだが―――。
(―――まぁ考えるのは止めよう。お婆様も『アルトリア『陛下』とその『姫』に粗相がないように』とか、ものすごく畏まったことを言ってきたし)
エイミィも『時計塔』のことは『それなり』に知っているし、実家が一時はそちらに在籍していたらしいが、『色々』あって時計塔及び西欧財閥とは距離を置いているらしい。
その伝手で、衛宮家のことを知ったのだろう。だが畏まるなんて真似は出来ない。
だって『えっみー』は、やっぱりエイミィにとって、友達であり―――夢にも見てなりたかった姫騎士なのだから。
などと考えていた時に『異変』が起こった。
静岡方面への高速での下り車線を走っていた自分たち―――特に急ぐ旅路でもないのか第一走行車線側をオートで走っていた時、反対に東京方面へと向かう上り車線を走っていた車に異変が生じる。
「何アレ?」
オート走行をしているがゆえにあり得ぬ『ふらつき運転』を行う車。本来ならば、車体の異常を感じた車側からの
更にスピンアトップスピンスピン!!……など戯けて言うには不謹慎ながらも、そういう行動をとる車。
ドリフト走行なんてカッコいいものではない。タイヤがパンクしたのか、ホイールか車体カバーが道路を引っ掻いて火花を散らす。
その盛大な様子に対岸の火事とするには、少々異常すぎた。まだ公共道路を自動走行車両が走る前の、人の手での『マニュアル走行』の車で、ドライバーの意識不明などで反対車線の車が速度を上げたまま、中央分離帯に乗り上げて、こちら側に―――。
(想像通りになってしまった!!!!)
だが明らかにおかしい。一番右の追い越し車線すら越えて、こちらにまで飛んでくる様子は。
後ろとの車間距離の関係、ブレーキ等々を考えた末に―――急停止。追突は無いが、制動するにはマズイ距離で事故車は防壁として正面に座した。
火を上げて更に炎壁と化したそれが、進路を妨害する。車線変更することも不可能なそれに対して―――。
「吹っ飛べ!」
「消えろ!」
「止まって!」
「っ!」
多くの魔法式が乱舞して、明らかに重複された現象改変を前に、適切な力が発動されないのだ。この状況下では、一番の魔法力を持つ連中でも何も出来ない。
言の葉を必要としないCADでの行使でも粗雑な言葉を上げて、術の行使を確実にしようという態度が『魔術師』からすれば失笑を買う光景だ。
だからこそ―――。
「―――『メイオール』―――」
一言で発動した術は、場に吹き荒れる『式』から発するサイオン全てを『砕かれる前』に『統合再編』、愚か者どもから簒奪した術式が全て一つの術式に構築されて、『フィールド』を整地した。
「私が火を!!」
その驚愕の『様子』を見ていた深雪だが、ともあれ炎壁への対処が可能となったことで深雪は炎を消すことにした。
「克人さん。防壁を」
「分かった」
瞬間の判断だが、事故車両と衝突する選手専用バスの前方に壁が出来上がり、そして―――。
『原型』を留めながら、ふっ飛ばされたことで―――全ては終わったのだと誰もが安堵するのだった。
安堵の息を着いた面子が多い中、後ろのスタッフたちの車両から無事かどうかを尋ねるコールが鳴り響く。危機一髪の瞬間を乗り越えたあとだけに、誰もが簡単に出ることは出来ない。
そんな中、ハンズフリーの状態で応答に出る藤丸立華は、どうやらアーシュラからの通話を受けているようだった。
「アーシュラはなんと?」
「エイミィと私は無事か? と聞いてきました」
その言葉に立華の隣に座っていた十文字克人は渋面を作る。
「―――俺のことは心配すらしていないのか……?」
若造らしい嫉妬心を持って立華に言うも、肩を竦める立華。
「いやいや、防壁を張ったのは克人さんでしょ? アーシュラはアナタを信頼しているんですよ。それより現場保全に向かいます」
「―――俺も行くか?」
「親分ってのは、あんまり腰を軽くしてあちこちに行かず、後方でどっしり構えていることも重要だと思いますよ。将棋の指し方も同じなんですよ。
重さ・硬さを信条としているならば、どっしり腰を据えて駒を動かしてくださいよ。時々によって軽打ちしているから隙になるんです」
その言葉に先ほど負けてしまった対局を思い出した克人は苦笑する。
結局、将棋の指し方と同じく自分の在り方に、組織の長としてダメ出しをされてしまった。
だが、なんとなく分かる。しかし、自分が動くことで皆を引っ張ってきたとも想っている克人としては、まだまだ……そういう風にはなれそうになかったのだ。
降車して事故車両に向かう藤丸立華を見送ると、そこに後ろの席から渡辺摩利がやってきた。
「十文字、先ほどのバカモノどもの魔法式の乱舞を『鎮めた』上で『奪った』のは……藤丸か?」
バカモノどもという言葉で、後ろにいる連中の大半が呻くようにしたが、それは置いておき、質問に答える。
「そのようだな。何をやったかは俺に聞かれても分からんぞ。ただ隣にいたからな。呪文詠唱の言葉は分かる」
「なんと言っていたんだ?」
同輩の追求の言葉に対して、素直に答えるべきかどうかを少し考える。なんやかんやと功労者を売るようなことはしたくないのだが―――。
「摩利、他人の魔法を探るのはマナー違反よ。例えそれが詳細なことでなくても、たとえソレが呪文の名前だけだとしても、ね」
「―――まぁそうだな……。すまん、不躾だった」
後ろにいて寝息を立てていたはずの七草真由美が起きて、そんなことを言って渡辺摩利を窘めて、追求は止みになったが再びの運転再開まではまだ掛かりそうだ。
窓の外を見ると、技術スタッフの男子生徒―――司波達也などの姿に混じって、藤丸立華に合流するアーシュラの姿を見る。
現場の保存を率先して行いながら見えてきたご遺体―――『仏さん』に合掌、念仏を唱えてから、降霊術で『仏さん』の声を聞いている様子から、
これを『意図』して全員の魔力と魔法式を統合して、克人の防壁で車体を砕かせないように保護したのだと気付かされるのだった。
「二手、三手と先を見越して手を打つやつだな……」
「そうね。十文字くんの投了は、かなり早かったものね」
後ろから毒を吐かれながらも、次回に向けて何とか勝つべく克人は棋譜並べをしようとした時に……。
「どうせならば、私と一局指しましょうよ。交通警察の人も来たみたいだし、結構掛かると思うわ」
「―――まぁそれもいいか……」
そんな言葉で自分を納得させつつ、同輩にも負けたらちょっとアレであろうと思い、克人はできるだけ最善手を打っていくことを決意するのだった……。
九校戦でも、この判断を見誤らないためにもトップは2人は、勝負勘を養っていく―――。